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ベトナムにおけるM&Aの手続および規制の概略

  • 2021.03.24
  • 投資
  • M&A/出資持分譲渡

1 はじめに ベトナムへ進出する場合、新規にベトナム法人を設立する方法がまず考えられます。この場合、自社で事業設計を一から構築できるメリットもありますが、逆に言えばすべてを自前で用意しなければならない点はデメリットにもなりえます。 このデメリットを回避する方法として、既存の企業を買収する方法、すなわちM&Aが考えられます。既存の企業を買収する場合、その企業が既に有している財産やノウハウを活用して、ベトナムで事業を展開することができます。 ベトナムでM&Aを実施する場合、基本的な流れは他国で行う場合と大きく異なることはありません。M&A手法の検討、デューデリジェンスの実施、株式や持分の譲渡等の契約締結、これが完了しクロージングという流れで行われ...

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ベトナムにおけるM&Aの手続および規制の概略
ベトナムへ進出する場合、新規にベトナム法人を設立する方法がまず考えられます。この場合、自社で事業設計を一から構築できるメリットもありますが、逆に言えばすべてを自前で用意しなければならない点はデメリットにもなりえます。 このデメリットを回避する方法として、既存の企業を買収する方法、すなわちM&Aが考えられます。既存の企業を買収する場合、その企業が既に有している財産やノウハウを活用して、ベトナムで事業を展開することができます。 ベトナムでM&Aを実施する場合、基本的な流れは他国で行う場合と大きく異なることはありません。M&A手法の検討、デューデリジェンスの実施、株式や持分の譲渡等の契約締結、これが完了しクロージングという流れで行われることになります。しかし、行政手続き等においては、いくつかべトナムに特有のものが存在します。そこで、今回はベトナム特有の規制を中心に述べていこうと思います。2021年から新しい投資法、企業法(が施行されていますので、本稿では新法に基づいて記載します。 なお、実際の買収手続き下においては、広範な法令が関連してくるため、状況により様々な規制が関連してくる場合があります。以下は、あくまで概略となります。   ① 2020年6月17日付け企業法59/2020/QH14(以下「企業法」といいます) ② 2019年11月26日付け証券法54/2019/QH14(以下「証券法」といいます) ③ 2020年6月17日付け投資法61/2020/QH14(以下「投資法」といいます) ④ 2019年6月26日付け通達06/2019/TT-NHNN号(以下「通達第06号」といいます) ⑤ 2018年6月12日付け競争法23/2018/QH14(以下「競争法」といいます) ⑥ 2020年3月24日付け政令35/2020/ND-CP号(以下「政令第35号」といいます) ⑦ 2019年9月26日付け政令75/2019/ND-CP号(以下「政令第75号」といいます)   M&Aの具体的な手法としては、㋐株式(買収対象会社(以下単に「対象会社」といいます)が株式会社の場合)または持分(対象会社が有限責任会社の場合)の取得、㋑資産譲渡、㋒合併や会社分割の組織再編行為の三つが主として考えられます。 この点、㋑の資産譲渡と㋒の組織再編行為は実務上あまり用いられていません。㋑の場合は個々の資産の承継となるため、資産の特定や譲渡の手続きが煩雑になる場合があること(もっとも既存の会社のリスクを引き継がないために、㋑を選択するケースも散見されます)、㋒は外資企業による実例が乏しく、施行細則の未整備等があることが原因となっています。 そこで、本稿では以下、㋐の株式または持分の譲渡(以下総称して「株式等譲渡」または「株式等の購入」という場合があります)を行う場合の手続きについて述べていきます。   1)デューデリジェンス結果の株式等譲渡契約への反映 デューデリジェンス(以下「DD」といいます)とは、投資や企業取引、M&Aの実施の際に対象となる企業や資産の価値、問題点を把握するために行う調査のことをいいます。M&Aの際に行われるDDは株式譲渡等の契約締結前に実施され、DDの結果明らかとなった問題点を前提に契約条件を決定することになります。ここでいう契約条件の具体例としては、対象会社の一定時点における一定の事項が真実かつ正確であることを表明しその内容を保証する表明保証条項や、売主側に問題点の是正義務を課す条項等があります。 2)二重帳簿 ベトナムのローカル企業を対象とするDDでは、当局に提出するようの財務諸表と内部管理用の財務諸表の双方が存在することが多くあります。そのため、対象会社の正確な財務状況を把握するためには、この点に留意する必要があります。 1)有限責任会社 ① 2名以上有限責任会社 2名以上有限責任会社については社員に持分の先買権【[1]】が認められています(企業法第52条第1項)。そのため、すべての社員と合意して持分を取得する予定でない場合は、他の株主との調整が必要となるため、当該先買権についての注意が必要となります。 持分の譲渡の効力は、譲渡人と譲受人の間で合意しただけでは生じず、譲受人に関する一定の情報が社員登録簿に記載されることによってその効力が生じます(企業法第52条第2項)。 なお、買収により2名以上有限責任会社から1名有限責任会社に変更となる場合は、持分の譲渡の日から15日以内に企業登記の変更が必要となります(企業法第52条第3項)。 ② 1名有限責任会社 対象会社が1名有限責任会社の場合は、相手方の合意により持分の取得をできるのが原則です。しかし、対象会社の所有者が組織で、複数の委任代理人【[2]】が選任されている場合は社員総会の特別決議による承認が必要となります(企業法第80条第6項)。 持分の全部ではなく一部を取得することにより、対象会社が1名有限責任会社から2名以上有限責任会社に変更となる場合にも、持分の譲渡の日から10日以内に、企業登記の変更が必要となります(企業法第78条第1項)。 2)株式会社 株式の譲渡制限については、とりわけ対象会社が公開会社に当たる場合は多岐に及びますので、本稿では一部概略を記載するに留めます。 ① 一般的な譲渡制限 株式を自由に譲渡できるのが原則です(企業法第115条第1項第d号)が、㋐発起株主の株式譲渡(企業法第120条第3項)【[3]】、㋑定款に譲渡制限の定めがある場合(企業法第127条第1項)、㋒議決権優先株式の譲渡(企業法第116条第3項)【[4]】が規定されており、これらの場合には株式の譲渡が制限されます。 ② 公開会社固有の譲渡制限 公開会社の株式の取得に当たっては証券法の適用を受けます。そのため、一定の要件に該当する株式の取得については公開買い付けの方法により株式を取得する必要があります【[5]】。   1)M&A承認が必要な場合 外国投資家が、株式や持分の購入を行う場合には、対象会社の株主や社員の変更を行う前に、当該株式等の購入を登録しなければならない場合があります。 投資法第26条第2項によれば、㋐対象会社が条件付投資分野【[6]】を事業登録しており、当該株式等の購入により、対象会社における外資の出資割合が増加する場合、㋑対象会社における外資の出資割合が50%を超える場合で、かつ外資の出資割合が増大する場合、㋒対象会社がベトナムの国防上重要な土地の使用権証明書を有する場合には登録が必要とされています。㋐や㋑に該当するケースが実務上は多く、M&A承認を行っている事例は多くあります。 2)M&A承認の法定処理期間 M&A承認の法定処理期間は15日以内と旧投資法(法律67/2014/QH13第26条第3項第b号)で定められていました(条件に合致している場合、登録申請書類を受領した日から15日以内に、投資家の変更手続きが可能となる旨の通知が行われます。実際には当該期間が守られず長期に渡る場合もあります)が、現行投資法には同様の規定がありません。そのため、当該15日以内との規定は現行法でも有効なものと解されます。ただし、新投資法第26条第4項には、M&A承認の手続きについて詳細を規定するとされていますので、新政令等の制定により上記の法定処理期間は変更される可能性があります。   1)企業登録証明書の変更 ① 対象会社が株式会社の場合  企業登録証明書の変更は不要ですが、経営登記機関に通知する必要があります。 ② 対象会社が有限責任会社の場合 社員の名称が企業登録書記載事項となっているので(企業法第28条第3項)、企業登録証明書の変更が必要となります。 変更は、変更事由が生じた日から10日以内に申請を行う必要があり(企業法第30条第2項)、法定処理期間は書類を提出してから3営業日以内とされています(同条第3項)。 2)投資登録証明書の取得 対象会社がローカル企業の場合、投資登録証明書の取得は条文上不要となっていますが(投資法第37条第2項第3号)、対象会社が外資企業の場合で、その会社が既に投資登録証明書を取得している場合はその変更が必要となります。   買収対価の支払いについてベトナム特有の規制が存在します。 1)直接投資資本口座 以下の要件に該当する企業については、直接投資資本口座(以下「DICA」といいます)の開設が必要とされています【[8]】。そのため、対象会社が以下の要件に該当する場合、対象会社への出資、既発行株式の取得については、原則としてDICAを経由して実行する必要があります(通達第06号第3条第2項)。 ① 外国投資家を出資者または株主として設立された企業で、投資法に基づき投資登録証明書の取得が必要な企業 ② ①には該当しないが、以下の行為により、外国投資家が51%以上の定款資本を保有することになる場合【[9]】  ⅰ)持分または株式の取得 ⅱ)企業再編 ⅲ)特別法による企業の新設 ③ 投資法に基づくPPPプロジェクト実施のため外国投資家によりプロジェクト会社の設立 2)間接投資資本口座 上記の①~③に該当しない場合、ベトナム国内送金のために買収する側が開設する間接投資資本口座(以下「IICA」といいます)を通じて出資金、譲渡代金の送金を行う必要があります。 ベトナム国外の出資者間での売買の場合、現在はベトナム国内の口座を介する必要はなくなっています。   大型のM&A案件についてはベトナムの競争法の適用を受けないか留意する必要があります。 1)禁止される経済集中 競争法により、ベトナム市場において相当程度の経済制限効果を及ぼす、またはその可能性のある行為が禁止されています(競争法第30条)。そして、当該経済集中の類型には事業買収も含まれているため、当該M&Aが禁止されているものに当たらないか検討が必要となります。 2)届出が必要な事業の買収 下記のいずれかの要件に該当する場合には、国家競争委員会に対して、事前の届出が必要となります(政令第35号第13条)。 ① 事業買収の直前の事業年度において、対象会社または対象会社が属するグループのベトナム市場における総資産が、3兆ドン【[10]】以上である場合 ② 事業買収の直前の事業年度において、対象会社または対象会社が属するグループのベトナム市場における総売上額が、3兆ドン以上である場合 ③ 当該事業買収の取引価値が1兆ドン以上の場合 ④ 事業買収の直前の事業年度において、対象会社の関連市場における市場占有率の合計が20%以上の場合 当該届出を怠った場合、違反行為の前年度の関連市場における総売上高の1~5%の範囲で罰金が課される可能性があります(政令第75号第14条)。   【1】持分を第三者に売却しようとする場合に、その売却条件と同等の条件で買い取る権利を指します。 【2】組織を代表して、当該組織の持分を権利行使する個人をいいます。 【3】当該株式取得から3年間は他の発起株主に譲渡する場合を除き、譲渡について株主総会の承認が必要となります。 【4】議決権優先株式は法律上譲渡が禁止されているため、普通株式に変更したうえでの譲渡が必要となります。 【5】例として、自らまたはその関係者と併せて公開会社の発行済み総数の25%以上を取得する場合があります。詳細は、証券法の第35条をご確認下さい。 【[6]】ベトナムにおいて事業を行うにあたって、何らかの条件を充足する必要がある事業分野をいいます。例として保険業があげられます。詳しくは投資法の別表4をご参照ください。 【7】管轄当局や個別の案件により異なる取扱いがなされる可能性があります。 【8】当該口座は現地法人名義で作成されることになります。 【9】逆に外国投資家がベトナム投資家に資本譲渡し外国資本が51%未満になった場合には、DICAを閉鎖しなければならない(通達06号第13条第3項第a号)。 【10】ベトナムの法定通貨であるベトナムドンを指します。 ベトナムでの外国企業のM&Aの現状や注意点 (主に2023年データ・報道に基づく)