NEWS

ニュース

【2026年8月施行】ベトナム個人データ保護法の罰金額がついに明確化|政府令330/2026/NĐ-CP を解説

コラム
2026.08.28
CastGlobal

【2026年8月施行】ベトナム個人データ保護法の罰金額がついに明確化|政府令330/2026/NĐ-CP を解説

速報 2026年8月19日、ベトナムでサイバーセキュリティ及び個人データ保護分野の行政違反処罰に関する政府令330/2026/NĐ-CP(2026年8月19日施行)が公布・即日施行されました。これまで上限額しか定められていなかった個人データ保護法の罰則について、違反行為の類型ごとの具体的な罰金額がついに明示されています。本稿では、ベトナム現地の日系法律事務所の観点から、日系企業が押さえるべき罰金額の読み方と特に注意すべき違反類型を整理します。 本稿のポイント 個人データ保護分野の罰金額は「組織」が基準。企業にはそのままの金額が適用される 上限は原則30億VND(約1,700万円超)。ただし、売買は違反収益の10倍、越境移転違反は前年度売上高の5%まで 越境移転・人事労務・監視カメラは日系企業が抵触しやすい領域 2026年1月1日、ベトナムでは個人データ保護法(法律91/2025/QH15)と、その施行政府令(政府令356/2025/NĐ-CP)が施行されました。もっとも、これらの法令では罰則の上限が規定されていたにとどまり、「実際に違反した場合にいくら課されるのか」が不明確な状態が続いていました。詳細は当事務所の過去の寄稿記事「ベトナム個人データ保護法 日系企業が押さえるべきポイント」もあわせてご参照ください。 この空白を埋めたのが、サイバーセキュリティ及び個人データ保護の分野における行政違反処罰に関する政府令(政府令330/2026/NĐ-CP、2026年8月19日施行。以下「政府令330」)です。同令は公布日である2026年8月19日から即日施行されています。個人データ保護に関する罰則は第2章第6節(第39条〜第71条)に集中しており、行為類型ごとに罰金額が明記されました。 政府令330第7条1項は、金額を読み解くうえで極めて重要なルールを置いています。 第2章第1節〜第5節(サイバーセキュリティ分野)の金額は個人が基準。組織はその2倍。 第2章第6節(個人データ保護分野)の金額は「組織」が基準。個人が同じ行為をした場合は2分の1。 つまり、以下で紹介する個人データ保護に関する罰金額は、そのまま企業に適用される金額ということになります。 罰金の上限は政府令330第7条4項が定めています(個人データ保護法第8条と同内容)。 区分 上限 根拠 個人データの売買 違反により得た収益の10倍 第7条4項a号 個人データの越境移転規定違反(組織) 前年度売上高の5% 第7条4項b号 その他の個人データ保護違反 30億VND(約1,700万円超) 第7条4項c号 ※収益・売上高を基準として算出した額が30億VNDを下回る場合や、そもそも収益・売上高がない場合には、30億VNDが適用されます(第7条4項a号・b号但書)。なお、処罰の時効は1年と短く設定されています(第3条1項)。 政府令330のうち、日系企業にとって特に重要と考えられるのは以下の4類型です。 個人データ保護分野における最も重い類型です。原則として、違反により得た収益の2倍から10倍の罰金が課されます(第53条1項)。収益がない場合には、対象となったデータ主体の人数に応じた定額が適用されます(同条3項)。 対象規模 罰金 基本データ1,000名未満/センシティブデータ200名未満 7,000万〜1億VND 基本データ1,000〜2,000名未満/センシティブデータ200〜400名未満 1億〜3億VND 基本データ2,000〜10,000名未満/センシティブデータ400〜2,000名 3億〜5億VND 基本データ10,000名以上/センシティブデータ2,000名以上 5億〜10億VND 国防・安寧・対外関係・マクロ経済、生命・身体・名誉・財産を侵害するもの 10億〜30億VND 形式不備も「売買」に該当しうる 「有償の移転であるのに移転合意書がない」といった形式面の不備も、第53条1項b号〜e号により売買とみなされ、この枠で処罰されうる点に注意が必要です。有償のデータ提供や、業務委託先へのデータ提供の対価が発生している場合は、契約書の記載内容を今一度確認すべきです。 2,000万〜3,000万VND(第55条1項):影響評価書を作成・保管しない、処理開始日から60日以内に専門責任機関へ提出しない、定期更新をしない等。 5,000万〜1億VND(同条2項):処理影響評価報告書において故意にデータを偽造する、虚偽情報を提供する、報告書の訂正・補完の要請を拒否する等。 日系企業が最も高い頻度で抵触しうる領域です。日本本社へのデータ共有、クラウドサービスの利用、グループ共通の人事システムの利用などは、いずれも越境移転に該当し得ます。 3,000万〜5,000万VND(第56条1項):越境移転影響評価書を作成しない、移転開始日から60日以内に専門責任機関へ提出しない、要求から30日以内に補正しない、定期更新をしない等。 5,000万〜1億VND(同条2項):受領者との責任分担契約がない、データ主体への通知・同意がない、移転後の安全確保策がない、停止決定後も移転を継続した等。 売上高比例罰(同条3項):影響評価書を作成せずに移転しデータ漏洩を招いた場合等は、ベトナム市場における前年度売上高の1〜2%(被害者1万〜10万人)、2〜3%(10万〜100万人)、3〜5%(100万人以上、または停止決定後の継続移転により国防・国家安全に損害を与えた場合)。 付加的処罰として6〜12か月の越境移転停止(同条5項b号)。 技術的・工学的手段を用いて違法に個人データを収集した場合、対象者数に応じて1億〜8億VNDの罰金が課されます。基本データ5,000名以上またはセンシティブデータ1,000名以上の場合は5億〜8億VNDとなります。ウェブサイトのトラッキングツールやアプリの権限設定なども、同意取得の設計次第ではこの類型に触れうる点に留意が必要です。 場面 主な違反行為 罰金 根拠 同意 同意なしの処理、同意の記録・ログを保存していない等 3,000万〜5,000万VND 第43条1項 同意 停止要求後も処理を継続、沈黙を同意とみなす等 5,000万〜7,000万VND 第43条2項 権利対応 データ主体からの有効な請求に2営業日以内に応答しない、手続きを周知しない等 1,000万〜2,000万VND 第44条1項 権利対応 同意撤回15日、閲覧・修正10日、削除20日等の期限を徒過 3,000万〜4,000万VND 第44条3項 人事労務 採用目的外のデータ要求等 2,000万〜5,000万VND 第61条1項 人事労務 退職後、法定期間を超えてデータを保持、通知なしの監視カメラ・PC監視ソフト導入 5,000万〜7,000万VND 第61条2項 人事労務 違法に収集した従業員データの利用 7,000万〜1億VND 第61条3項 漏洩対応 発見から72時間を超える通報遅延(国防・安寧・本人の生命身体等に損害のおそれ) 4,000万〜6,000万VND 第54条3項 漏洩対応 阻止措置・結果是正を行わない、専門責任機関に協力しない 6,000万〜8,000万VND 第54条4項 体制 DPO(個人データ保護担当者)の指定文書を発行しない、学歴・実務2年の要件を満たさない者を指定 2,000万〜3,000万VND 第57条2項 監視カメラ 公共空間・顧客対応区域で録音録画の掲示・通知をしない 1,000万〜2,000万VND 第71条1項 監視カメラ 映像を商用利用・行動分析・顔認証プロファイリングに転用 3,000万〜5,000万VND 第71条2項 ※上記は主要な類型の抜粋です。原文には他の類型についても規定が置かれています。 個人データ保護法においては、罰金額の上限は定められていたものの、違反行為ごとの個別具体的な罰金額は定められていませんでした。政府令330の施行により、今後は取締りが強化される可能性があります。特に越境移転については、日系企業の通常の業務フローに組み込まれていることが多く、意図せず違反状態となっているケースが少なくありません。 当事務所では、個人データ保護法対応に関するアドバイス、影響評価書をはじめとする各種書類の作成、当局への提出代行等を行っております。お気軽にお問い合わせください。 情報ソース: サイバーセキュリティ及び個人データ保護の分野における行政違反処罰に関する政府令(政府令330/2026/NĐ-CP、2026年8月19日施行)/個人データ保護法(法律91/2025/QH15、2026年1月1日施行)/個人データ保護法施行政府令(政府令356/2025/NĐ-CP、2026年1月1日施行) 免責事項: 本記事の内容は2026年8月25日時点の情報に基づいています。制度の詳細は今後変更される可能性があります。個別の案件については専門家にご相談ください。 C CastGlobal Law Vietnam Co., Ltd. ベトナム・ホーチミン市拠点の日系法律事務所。日系企業向けの企業法務、M&A、コンプライアンス、労務、知的財産を中心にリーガルサービスを提供。

ベトナム受益所有者(BO)規制改正|政令296の三段階基準と罰則強化

コラム
2026.08.24
CastGlobal

ベトナム受益所有者(BO)規制改正|政令296の三段階基準と罰則強化

2025年7月にベトナムで受益所有者(Beneficial Owner, BO)規制が導入されてから約1年、2026年7月23日付の政令第296/2026/ND-CP号(以下「政令296」という)が公布・即日施行され、政令第168/2025/ND-CP号(以下「政令168」という)のBO関連規定が全面的に書き換えられました。あわせて、政令第288/2026/ND-CP号により制裁金の上限が1億ドンへ引き上げられています。本稿では、昨年の寄稿記事でご紹介した旧規制からの変更点と、日本企業に求められる対応を整理します。 政令296は政令168の改正政令であり、2026年7月23日から施行されています(政令296第22条第1項)。企業登録手続全般に及ぶ改正ですが、実務上最も影響が大きいのは、BOの認定基準を定める第17条と、その申告義務を定める第18条が丸ごと差し替えられた点です(政令296第3条・第4条)。 旧規定の下では、25%基準を満たす個人が存在しない企業について「該当者なし」として申告が完結し得ましたが、政令296は最終的な個人に到達するまで所有構造を遡ることを求めております。 旧政令168第17条第1項は、(a)25%以上の直接・間接所有、(b)重要事項に関する支配権のいずれか一方に該当すればBOと認定される並列型の基準でした。改正後第17条は、(1)所有基準 →(2)支配基準 →(3)最上位経営者、という優先順位で検討することを企業に義務づける段階構造に改められています。 「直接・間接・その双方の合算により、定款資本の25%以上または議決権付株式総数の25%以上を保有する個人」 旧規定は「直接または間接」の別建てでしたが、合算して判定することが明文化されました。 間接保有の経路として、他の組織に加えて「その他の法的取決め」が追加されました(旧第17条第2項は他の組織を通じた保有のみを想定)。 企業法第4条第22項の家族関係にある個人グループ、または契約に基づき共同で25%以上を保有する場合、グループ内の全員がBOとなります。 合名会社では、出資比率・議決権にかかわらず全ての合名社員がBOとなります。 企業における国家資本の代表者はBOから除外されます(改正後第17条柱書)。 第一段階に該当する個人がいない場合、または第一段階で特定した個人が実際にはBOではないと認めるべき根拠がある場合に検討します。列挙される支配権のうち、企業の財務・投資・事業方針の決定権が追加され、他方で法定代表者の任免権が削除されました(旧第17条第1項b号との対比)。株主間契約や定款上の予算・投資計画の承認権が、25%基準を満たさない個人をBOに引き上げる可能性がある点に注意が必要です。 第一・第二段階のいずれでも該当者が特定できない場合、企業を代表して行動する最大の権限を有する管理者を1名特定します(国家資本の代表者を除く)。すなわち、「該当者なし」で申告を終えることは原則としてできなくなりました。 改正後第18条第1項は、所有構造の各階層を順に精査し、最終的な所有権または支配権を有する個人に到達するまで遡ることを企業の義務として明記しました。所有構造にマネーロンダリング防止法上の法的取決めが含まれる場合、当該取決めのBOは同法に従って特定します。申告は改正後第18条第2項a号〜c号の順序に従います。 2026年7月21日付・同日施行の政令第288/2026/ND-CP号は、政令第122/2021/ND-CP号を改正し、BOに関する違反類型を新設しました。主な制裁金は図表のとおりです。 違反行為 制裁金 根拠(改正後政令122) 設立登記時にBO情報を申告しない 5,000万〜1億ドン 第46条第4項c号・第5項d号 2025年7月1日前設立の企業が直近の変更登記・変更届出時にBO情報を補充しない 7,000万〜1億ドン 第44条第6項 BO情報を不実・不正確に申告 3,000万〜7,000万ドン 第43条 BO情報の変更届出の遅延 1日~10日:警告 11〜30日:1,000万〜2,000万ドン/31〜90日:3,000万〜4,000万ドン/91日以上:5,000万〜6,000万ドン(1〜10日は警告) 第44条第1項〜第4項 いずれもBO情報の補充・届出という是正措置が併せて課されます。特に留意すべきは、2025年7月1日前に設立された既存企業が、直近の変更手続の際にBO情報を補充していなければ制裁の対象となる点です。設立年次を問わず、すでに変更登記を経ている現地法人は提出済み書類の確認が必要です。 BO規制は、単なる登記実務ではなく、グループ全体の所有構造の透明性に関するコンプライアンス課題です。実務対応としては、①最終個人まで到達する所有構造図を作成し、三段階の順序で検討した過程を証跡として保存することが重要です。 情報ソース: 政令第296/2026/ND-CP号(2026年7月23日施行)/政令第288/2026/ND-CP号(2026年7月21日施行)/政令第168/2025/ND-CP号/政令第122/2021/ND-CP号 免責事項: 本記事の内容は2026年8月21日時点の情報に基づいています。制度の詳細は今後変更される可能性があります。個別の案件については専門家にご相談ください。 C CastGlobal Law Vietnam Co., Ltd. ベトナム・ホーチミン市拠点の日系法律事務所。日系企業向けの企業法務、M&A、コンプライアンス、労務、知的財産を中心にリーガルサービスを提供。

ベトナムにおけるセクハラ対応 ~日系企業が見直すべき就業規則と初動対応~【寄稿のお知らせ】

コラム
2026.08.21
CastGlobal

ベトナムにおけるセクハラ対応 ~日系企業が見直すべき就業規則と初動対応~【寄稿のお知らせ】

お知らせ ベトナムに進出する日系企業において、セクシャルハラスメント対応の重要性が高まっています。近年は、ベトナム人従業員から日本人駐在員やベトナム人管理職に対する告発も見られます。これは単にトラブルが増えたというより、ベトナム人従業員側の権利意識が高まっている表れといえます。このたび、当事務所代表弁護士 工藤拓人が、ベトナム法上のセクハラの考え方と実務対応について解説した寄稿記事が、専門プラットフォーム「リンオペ」に掲載されました。 セクハラの定義 「職場」の範囲 就業規則への明記の必要性 セクハラに対する懲戒処分 通報を受けた後の初動 行政処罰とレピュテーション棄損等のリスク 日系企業がすぐに確認すべき実務対応 ベトナム法人の人事労務を担当される方 ベトナムの労働法規制を把握したい本社海外事業担当の方   ベトナムでは、セクハラ対応を人事マナーの問題としてではなく、就業規則の整備と手続の設計という労務コンプライアンスの問題として捉える必要があります。当事務所では、就業規則の改定、社内研修、通報窓口の整備をあわせてご支援しています。 掲載媒体: リンオペ(株式会社スタディスト運営)https://lean-operation.com/media/global/castglobal_2608/(公開日:2026年8月21日) 免責事項: 本記事及び寄稿記事の内容は2026年8月21日時点の情報に基づく一般的な情報提供であり、個別の事案に対する法的助言ではありません。制度の詳細は今後変更される可能性があります。個別の案件については個別にご相談ください。 C CastGlobal Law Vietnam Co., Ltd. ベトナム・ホーチミン市拠点の日系法律事務所。日系企業向けの企業法務、M&A、コンプライアンス、労務、知的財産を中心にリーガルサービスを提供。

【2026年9月28日施行】ベトナムVNeID改正|外国人の「在留カード要件」が撤廃されます

コラム
2026.08.21
CastGlobal

【2026年9月28日施行】ベトナムVNeID改正|外国人の「在留カード要件」が撤廃されます

速報 2026年8月13日、ベトナム政府は電子的識別及び電子的認証に関する政府令を改正する政令(政令320/2026/NĐ-CP、2026年9月28日施行)を公布しました。外国人のVNeID(電子的識別アカウント)取得要件から在留カードの保有が外れ、レベル1・レベル2の区分も撤廃されます。あわせて、統合済み書類の再提出要求の禁止と、電子取引アカウントの連携義務化という、日系企業の実務に直結する改正が入りました。ベトナム現地の日系法律事務所の観点から、変更点と施行に向けた確認事項を整理します。 本稿のポイント 外国人のアカウント取得要件から一時在留カード(TRC)・永住カード(PRC)の保有が外れ、レベル区分も撤廃(改正後 第7条第2項) 国家識別アプリに統合済みの書類について、原本・写しの提出や提示を求めることが禁止(改正後 第4条第4項) 銀行・電子商取引・運送・旅行・医薬品など11分野の電子取引アカウントは、電子的識別アカウントとの連携・認証が義務化(改正後 第40条第9項) 既存アカウントの連携期限は2026年12月31日(銀行分野は2027年6月30日) 本記事は、2025年公開の「【ベトナム】外国人・外資系企業におけるVNeID登録の最新情報」のアップデート版です。以下では、改正法令を「政令320号」、改正対象法令である電子的識別及び電子的認証に関する政府令(政令69/2024/NĐ-CP、2024年6月25日公布)を「政令69号」と表記します。条番号は、特に断りのない限り改正後の政令69号のものです。 政令320号は、政令69号の一部条項を改正・補充するもので、施行日は2026年9月28日です(政令320号第20条第3項)。日系企業の観点から重要なのは、次の3点です。 外国人の取得要件の緩和(改正後 第7条) 統合済み書類の再提出要求の禁止(改正後 第4条第4項) 電子取引アカウントの連携義務化(改正後 第40条第9項・第10項) 項目 改正前(第7条第2項) 改正後(第7条第2項) 対象者 満6歳以上で、永住カード(PRC)又は一時在留カード(TRC)の交付を受けた外国人 ベトナムに合法的に入国した外国人、又はベトナムに合法的に在留する外国人 レベル区分 レベル1・レベル2の2区分(6歳未満はレベル1のみ) 区分なし 年齢要件 満6歳以上/6歳未満で区別あり 条文上、下限の定めなし 最大の変更点は、在留カードの保有が取得要件から外れたことです。従来は在留カードの取得を待たなければアカウントを作れませんでしたが、改正後は「合法的な入国」又は「合法的な在留」で足りることになります。 なお、レベル区分の廃止は外国人についてのものです。ベトナム国民については改正後 第7条第1項でレベル1・レベル2の区分が維持されています。機関・組織については、改正前後を通じてレベルの区別はありません(改正後 第7条第3項)。 外国人アカウントの機能面については、改正後 第9条第3項が「国家データベース・専門データベースから共有・統合・更新された情報と、システムの全機能・全ユーティリティ」にアクセスできると定めており、従来のレベル2に相当する扱いと読めます。 改正前は、外国人がレベル2アカウントを取得するには有効なTRC又はPRCが必要でした(改正前 第7条第2項)。他方、法人アカウントの取得には、法定代表者(又はその受任者)がレベル2アカウントを保有していることが前提とされています(政令69号第12条第1項。同条は今回改正されていません)。 そのため、設立直後でTRC未取得の日本人法定代表者は本人アカウントを取得できず、結果として法人アカウントも作成できないという問題が生じていました。改正後は在留カード要件が外れるため、この問題は条文上解消されます。 条文上は解消、ただし運用は要確認 第12条第1項は「自己のレベル2電子的識別アカウントを用いてログインし」という文言のままであり、外国人の「レベルなし」アカウントがこれに該当するかは条文上明示されていません。第9条第3項の趣旨からは該当すると解すべきですが、システム実装と窓口実務が追随するかは施行後の確認が必要です。 また、条文上は「合法的に入国した外国人」も対象となり得ますが、短期商用ビザでの入国者による申請が実際に受理されるかは、出入国管理当局の受付実務によります。 省級入国管理機関に出向き、旅券又は国際旅行に有効な書類を提示する(第1項) 様式TK01を提出する。携帯電話番号、メールアドレス(ある場合)、アプリケーションへの統合を希望する情報を記載する(第2項) 担当官が情報を入力し、顔写真・指紋を採取して出入国国家データベースと照合する。あわせて国家識別アプリのインストール・申告方法が案内される(第3項) 出入国管理機関がシステム管理運営機関に交付を要請する(第4項) 結果は国家識別アプリ、携帯番号又はメールで通知される(第5項) 14歳未満・被後見人・被代理人は代理人又は後見人と同伴で出頭する。申告には代理人・後見人本人名義の携帯番号を使用する(第6項) 改正前の第11条第1項にあった、アプリ上で完結する非対面ルート(レベル1)は条文上なくなりました。したがって、全ての外国人について窓口出頭と生体情報の採取が必要となります。委任状による代理申請を認める規定は、改正後も置かれていません。 申請先についても変更があります。改正前 第11条第2項aは「公安省出入国管理局又は省級公安」を掲げていましたが、改正後 第11条第1項は「省級出入国管理機関」のみとなりました。ホーチミン市・ハノイ市の受付体制については、施行後に管轄機関へ確認することをお勧めします。 区分 改正前 改正後 外国人・顔写真及び指紋が出入国国家データベースにある場合 レベル1:1営業日/レベル2:3営業日 2営業日(第3項a) 外国人・当該情報がない場合 レベル2:7営業日 5営業日(第3項b) 組織・照合情報が国家データベース等にある場合 3営業日 3営業日(第4項a・改正なし) 組織・照合情報がない場合 15日(暦日) 10営業日(第4項b) 改正後 第4条第4項は、行政手続・公共サービス・民事取引その他の場面において、国家識別アプリに統合済みの情報・書類につき、原本又は写しの提出・提示を求めてはならないと定めました。あわせて、同アプリ経由のオンライン行政手続については手数料・料金の免除・軽減が規定されています(具体的な範囲は改正後 第36条第4項に基づき別途規定)。 統合の対象となる書類は、政令320号第20条第2項により付表としてリスト化されました。 リスト1(個人向け・66種類):一般旅券、査証、外国人の永住カード・一時在留カード、居住情報確認証明書、運転免許証 など リスト2(機関・組織向け・140種類):企業登録証明書(ERC)、条件付事業許可証 など 駐在員の在留・行政手続と、法人側の許認可書類が、段階的に電子的識別アカウントへ集約されていく方向です。「紙の写し+公証」を前提とした社内フローや、契約書上の提出書類条項は中期的な見直しの対象となります。 ただし、統合はデータベース連携が完了した書類から順次進むため(改正後 第8条第1項・第2項)、施行日から一斉に全種類が使えるわけではありません。 事業への影響という点では、政令320号第19条により追加された第40条第9項・第10項が最も重要です。 第9項は、ベトナム国内の以下の分野に関するデジタルプラットフォーム上の電子取引アカウントについて、電子的識別アカウントとの連携及び認証を行わなければならないと定めています。 連携・認証が義務付けられる分野 教育・デジタルリテラシー/証券/通信/銀行/電子商取引(電子商取引法に定める販売者、ライブコマース実施者、アフィリエイトマーケター)/電子インボイス/運送事業/旅行事業/医薬品事業/診療・治療/ソーシャルネットワーク 第10項は、上記以外の分野について、各大臣・省庁級機関の長が、利用前に連携・認証が義務付けられるオンライン取引の具体的リストを公布すると定めています。今後、所管省庁ごとに対象範囲が拡張されていく可能性があります。 対象 期限 国家デジタルプラットフォーム(認証・ログイン・取引実施への電子的識別アカウントの統合) 2026年12月31日 第40条第9項の電子取引アカウントのうち、施行日前に作成済みのもの(銀行分野を除く) 2026年12月31日 同上のうち銀行分野 2027年6月30日 既に交付済みのレベル1・レベル2アカウントが施行後にどう扱われるか(自動的に区分が解消されるのか、経過措置が置かれるのか)は、公布された条文からは明らかではありません。政令320号第20条に関連する経過規定は置かれていないため、当局のガイダンスを確認する必要があります。 また、改正後 第7条第2項も「必要がある場合に」と定めており、条文上は一律の取得義務ではありません。もっとも、改正後 第40条第9項の連携義務や行政手続の電子化が進むほど、事実上の必要性は高まっていくと考えられます。 ベトナムの携帯電話番号を保有しているか確認する(様式TK01で記載が必要) TRC未取得の法定代表者について、施行後の申請可否を管轄公安に確認する 窓口出頭と生体情報採取が必要となるため、出張・帰任スケジュールに余裕を持たせる 自社の事業が改正後 第40条第9項の列挙分野に該当するかを整理する 該当する場合、2026年12月31日(銀行分野は2027年6月30日)までの連携計画を策定する 「紙の写し+公証」を前提とする社内フロー、及び契約書上の提出書類条項を棚卸しする 法人アカウント取得の前提となる法定代表者個人のアカウント保有状況を確認する 当事務所では、駐在員の在留手続及び現地法人の許認可管理の観点から、施行後の運用を注視してまいります。 参照法令: 電子的識別及び電子的認証に関する政府令を改正する政令(政令320/2026/NĐ-CP、2026年8月13日公布・2026年9月28日施行)/電子的識別及び電子的認証に関する政府令(政令69/2024/NĐ-CP、2024年6月25日公布) 免責事項: 本記事の内容は2026年8月21日時点で公布されている法令に基づく一般的な情報提供であり、個別の事案に対する法的助言ではありません。施行後の当局運用により取扱いが異なる可能性がありますので、実務対応の前に最新情報をご確認ください。 C CastGlobal Law Vietnam Co., Ltd. ベトナム・ホーチミン市拠点の日系法律事務所。日系企業向けの企業法務、M&A、コンプライアンス、労務、知的財産を中心にリーガルサービスを提供。

2026年ベトナム「建国記念日(独立記念日・国慶節)」休暇について

コラム
2026.08.12
CastGlobal

2026年ベトナム「建国記念日(独立記念日・国慶節)」休暇について

2026年のベトナムの建国記念日(国慶節)は2026年9月2日(水)です。本コラムでは建国記念日前後の休暇についてまとめます。 今年は、昨年までと異なり「振替(hoán đổi)」が導入されています。公的機関は8月31日(月)を休みにして5連休とし、その代わりに8月22日(土)が出勤日となります。この振替は民間企業には適用されないため、自社の休暇日程をどう設定するかで対応が分かれます。 なお、2025年は建国80周年としてハノイで大規模な軍事パレードとそのリハーサルが行われましたが、2026年は81周年であり、本コラム作成時点で同種の国家級パレードは公表されていません。あわせて、2026年から法定の有給休日が年間12日に増えています。これらの点を含め、ベトナム現地の日系法律事務所の観点から整理します。 2026年の国慶節は、9月2日(水)です。公務員等の公式な休暇は、8月29日(土)〜9月2日(水)の連続5日間(週休日2日+振替休日1日+国慶節2日)と通知されています。 8/22(土):出勤日(8/31の振替として勤務) 8/28(金):連休前の最終開庁日 8/29(土):週休日 8/30(日):週休日 8/31(月):振替休日(8/22に出勤する代わりの休日) 9/1(火):国慶節に付随する休日(前日) 9/2(水):建国(独立)記念日 当日 9/3(木):業務再開 (上記は「9441/TB-BNV」による公式スケジュールです。) 対象は、行政機関、事業体、政治組織および政治社会組織の幹部・公務員・職員です。土日固定の休日制をとっていない機関は、各機関の業務計画に応じて休暇を配置することとされています。また内務省は、連休中も国民・企業向けの行政サービスが途切れないよう、当直体制を整備するよう求めています。 実務上、注意していただきたい変更点があります。2025年の国慶節休暇は労働傷病兵社会省(Bộ LĐ-TB&XH)の通知6150/TB-BLĐTBXH号によるものでしたが、2025年の省庁再編で同省が内務省(Bộ Nội vụ)に統合されました。 さらに、内務分野の国家管理における権限分配に関する政府令(政令第128/2025/ND-CP号、2025年7月1日施行)第7条2項により、労働法第112条3項に基づく祝日日程の具体的通知は内務大臣が行うこととされました。従来「首相が決定する」と説明されていた部分が変わっていますので、社内規程や年間カレンダーに根拠を記載している企業は、更新をご検討ください。今後は「TB-BNV」の番号で通知を確認することになります。 労働法(法律第45/2019/QH14号、2021年1月1日施行)第112条1項(d)上、国慶節は2日間(9月2日+その前日または翌日のいずれか1日)の有給休暇です。どちらを選ぶかは、前記1.1のとおり、毎年の実情に応じて内務大臣が決定・通知します。 また、週休日が祝日と重なった場合は、翌営業日に振替休日を与える必要があります(労働法第111条3項)。もっとも、2026年は9月1日(火)・2日(水)がいずれも平日ですので、この規定に基づく代休は発生しません。この点は昨年より判断がシンプルです。 企業(民間)は、2026年の国慶節の2日間として A案:9/1(火)+9/2(水)、または B案:9/2(水)+9/3(木) のいずれかを選択できます。実施の少なくとも30日前までに従業員へ通知してください(同通知9441号)。通知9441号も、公務員スケジュールに準拠すること、および労使間でより労働者に有利な休暇案を協議することを推奨しています。 実務上は、学校が公的機関の日程に従うことも踏まえると、A案(9/1+9/2)を採用し、8/31(月)をどう扱うかを別途決めるという整理が現実的です(後記3.)。 30日前通知の期限は既に経過しています A案(9月1日開始)であれば8月2日、B案(9月2日開始)であれば8月3日が30日前にあたります。本コラム公開時点では、いずれの期限も経過しています。まだ社内通知を出していない場合は、直ちに書面またはメールで通知を行い、記録を保存しておくことをお勧めします。 なお、この30日前通知の懈怠それ自体に対する明示的な罰則規定は、現行法令上、必ずしも明確ではありません。もっとも、通知の遅れによって従業員が休暇を取得できなかった場合には、後記4.の祝日休暇に関する制裁の対象となり得ます。形式面の不備を残さないことが安全です。 日付 公的機関 区分(A案) 区分(B案) 8/22(土) 出勤日 週休日 週休日 8/28(金) 最終開庁日 平日(通常勤務) 平日(通常勤務) 8/29(土) 週休日 週休日 週休日 8/30(日) 週休日 週休日 週休日 8/31(月) 振替休日 平日(※後記3.参照) 平日(通常勤務) 9/1(火) 国慶節の付随休日 国慶節の付随休日(推奨) 平日(通常勤務) 9/2(水) 国慶節当日 国慶節当日 国慶節当日 9/3(木) 業務再開 平日 国慶節の付随休日 ※2026年は週休日と祝日が重ならないため、労働法111条3項に基づく代休は発生しません。 ※公的機関の8/22(土)出勤・8/31(月)休日は、民間企業には自動的に適用されません(後記3.)。 「政府が8/22(土)出勤・8/31(月)休みにするなら、当社も同じにすればよい」という発想は、民間企業では法的リスクを伴います。通知9441号の振替措置は、あくまで公的機関等の職員を対象とするものであり、民間企業の労働時間・休日は労働法の一般規定に従うためです。 労働法第111条2項は、使用者が週休日を日曜日または週の他の特定日に配置する権限を有するとしつつ、これを就業規則(Nội quy lao động)に記載しなければならないと定めています。したがって、土曜日の位置づけは各社の就業規則によって異なり、割増率も変わります。 就業規則上、土曜日も週休日とされている場合 → 8/22の労働は200%以上 週休日は日曜のみで、土曜は週40時間制の枠内の非労働日とされている場合 → 所定労働時間を超える部分は150%以上 いずれの場合も、時間外労働には労働者本人の同意が必要です(労働法第107条2項a号)。また、月40時間・年200時間(一部業種は年300時間)という時間外労働の上限規制も適用されます。「振替出勤日だから通常賃金でよい」という運用は、法的根拠を欠くおそれがあります。 8/31(月)は民間企業にとって通常の労働日です。これを休みにして5連休を実現する場合、次の3つの整理が考えられます。 方法 内容と法的根拠 留意点 ① 年次有給休暇の計画付与 使用者は労働者の意見を聴取したうえで年次有給休暇の日程を定め、事前に通知できる(労働法第113条4項) 意見聴取と事前通知のプロセスを記録に残すこと。年休残日数が不足する従業員への配慮が必要 ② 会社付与の有給特別休暇 法定を上回る有利な取扱いとして、賃金を支給したうえで休業とする 最も安全でトラブルが少ない。1日分の人件費が追加コストとなる ③ 8/22出勤との振替 公的機関と同様に土曜出勤と組み合わせる 前記3.1のとおり割増賃金の対象となり得る。就業規則・労働協約との整合確認と労働者の同意取得が不可欠 当事務所の観点からは、コストと法的安定性のバランスを踏まえ、②の会社付与による有給特別休暇、または①の年次有給休暇の計画付与を基本とし、③を採用する場合は事前に就業規則を確認したうえで書面による同意取得と割増賃金の計上を行うことをお勧めします。なお、何の整理もせずに会社都合で休業とした場合、労働法第99条3項の「休業(ngừng việc)」として賃金支払義務が生じる可能性がありますので、「とりあえず休みにする」という運用は避けるべきです。 やむを得ず国慶節に出勤させる場合、最低でも300%(日給制は当日の賃金とは別に300%)の支払いが必要です。週休日は200%、通常日の時間外は150%が最低水準です(労働法第98条、および労働法の一部条項の詳細規定に関する政府令〔政令第145/2020/ND-CP号、2021年2月1日施行〕のガイダンス)。 夜勤加算:夜間労働には30%以上の加算(労働法第98条2項)、夜間の時間外労働にはさらに20%の加算(同条3項) 同意:時間外労働には労働者の同意が必要(労働法第107条2項a号)。一斉の強制はできません 制裁:祝日休暇に関する規定に違反した場合、個人の使用者で1,000万〜2,000万ドン、法人の場合はその2倍の2,000万〜4,000万ドンの過料(労働・社会保険等の分野における行政違反処罰に関する政府令〔政令第12/2022/ND-CP号、2022年1月17日施行〕第18条2項および第6条1項) 見落とされがちですが、労働法第112条2項は、ベトナムで就労する外国人労働者について、同条1項の祝日に加えて自国の伝統的正月1日および自国の建国記念日1日の有給休暇を付与すると定めています。 日本人駐在員の場合、日本の正月(1月1日)と建国記念の日(2月11日)が該当し得ます。ベトナム法人と直接雇用契約を締結している駐在員については、この2日間の取扱いを就業規則や個別契約で明確にしておくことをお勧めします。実務上は日本本社の年末年始休暇との調整のなかで既に消化されているケースが多いものの、規程上の根拠が整理されていない企業も見受けられます。 年間の労務カレンダーに関わる重要な改正がありましたので、あわせてお伝えします。 第16期国会第1回会期で可決されたベトナム文化発展に関する国会決議(決議第28/2026/QH16号、2026年7月1日施行)により、毎年11月24日が「ベトナム文化の日(Ngày Văn hóa Việt Nam)」と定められ、労働者は有給で休業できることとなりました。 これにより、ベトナムの有給法定休日は従来の11日から12日に増えました。2026年の11月24日は火曜日です。年間の稼働日数、人件費予算、工場の生産計画、納期設定などに影響しますので、下期の計画を確定する前に社内カレンダーを更新しておくことをお勧めします。 休暇方式(A案 or B案)を決定し、未通知であれば直ちに全従業員へ通知(社内掲示・メール・勤怠システム)し、記録を保存。 8/31(月)を休業とする場合、年休の計画付与か会社付与の有給休暇かを明確にする。 8/22(土)出勤を検討する場合、就業規則の週休日の定めを確認し、同意取得と割増賃金の計上を行う。 シフト・生産計画・顧客対応を5連休(A案想定)で設計。取引先の休暇日程がA案・B案でずれる可能性を前提に相互確認する。 祝日出勤の賃金設定(150%・200%・300%の適用)を給与ロジックに反映。 行政機関は8/28(金)が最終開庁日、再開は9/3(木)。投資登録証明書(IRC)・企業登録証明書(ERC)の変更、労働許可証、ビザ・一時滞在許可、各種届出は8/28までに完了させる。 8/22(土)は行政機関が開庁。窓口対応が可能な1日として活用の余地がある。 商業銀行の休業日程は各行の判断による。取引銀行の告知を個別に確認し、給与振込・海外送金・決済を前倒しする。 連休は国内旅行の繁忙期。航空券・ホテルの手配は早めに行う(空港での手続についてはタンソンニャット国際空港のプレアライバル申告制度もご確認ください)。 2026年は建国81周年にあたります。2025年(建国80周年)にハノイ・バディン広場で実施されたような国家級の軍事パレードおよびリハーサルは、本コラム作成時点で公表されていません。ハノイ市では、文化体育局傘下の芸術団体による記念公演が各坊・社で実施される予定とされており、2025年のような大規模かつ広域の交通規制は現時点では想定されていません。 もっとも、9月2日当日は各地で国旗掲揚式や記念行事が行われ、局地的な交通規制や混雑が生じる可能性があります。ハノイ・ホーチミン市を中心に、当日の外出・移動を予定されている場合は、直前に在ベトナム日本国大使館・総領事館および各地方当局の最新情報をご確認ください。急遽の変更が行われる可能性もありますので、時間に余裕をもった行動をお願いします。 なお、建国記念日(独立記念日・国慶節)の制度概要については、用語解説ページもあわせてご参照ください。 情報ソース: 内務省「2026年国慶節休暇に関する通知」(9441/TB-BNV)/ベトナム政府電子情報ポータル(xaydungchinhsach.chinhphu.vn、2026年8月10日・8月11日付記事)/労働法(法律第45/2019/QH14号)/内務分野の国家管理における権限分配に関する政府令(政令第128/2025/ND-CP号)/労働法の一部条項の詳細規定に関する政府令(政令第145/2020/ND-CP号)/労働・社会保険等の分野における行政違反処罰に関する政府令(政令第12/2022/ND-CP号)/ベトナム文化発展に関する国会決議(決議第28/2026/QH16号)/ハノイ市文化体育局公表資料/当事務所独自調査 免責事項: 本記事の内容は2026年8月12日時点の情報に基づいています。制度の詳細は今後変更される可能性があります。個別の案件については専門家にご相談ください。 C CastGlobal Law Vietnam Co., Ltd. ベトナム・ホーチミン市拠点の日系法律事務所。日系企業向けの企業法務、M&A、コンプライアンス、労務、知的財産を中心にリーガルサービスを提供。日本国弁護士と現地ベトナム人弁護士の協働により、現地の実務と日本企業の視点の双方を踏まえたサービスをご提供します。

日本アニメ・映画の海賊版サイト運営者を初の刑事立件—「Phim Nè」事件と刑法225条

コラム
2026.08.07
CastGlobal

日本アニメ・映画の海賊版サイト運営者を初の刑事立件—「Phim Nè」事件と刑法225条

速報 ハノイ市公安経済警察部は2026年8月1日、日本のアニメ・映画・ドラマ等を無断配信していた海賊版サービス「Phim Nè」について、ウェブサイト運営者1名とアプリ運営者2名の計3名を、刑法225条2項の著作権・著作隣接権侵害罪で刑事立件したことを発表しました。日本コンテンツを侵害する海賊版サイトがベトナムで刑事摘発された初のケースです。制度としての刑事罰が「実際に動く」段階に入ったことの意味を、ベトナム現地の日系法律事務所の観点から整理します。 本稿のポイント 日本コンテンツの海賊版サイトに対するベトナム初の刑事立件。サイト側1名・アプリ側2名の計3名が対象。 適用条文は刑法225条2項(加重類型)。不正利益3億ドン以上・損害5億ドン以上という金額基準が構成要件に組み込まれている。 背景には2026年5月5日付の首相公電38/CĐ-TTgによる全国一斉取締りと、USTRによる「優先外国(PFC)」指定・セクション301調査開始という国内外の圧力がある。 ハノイ市公安経済警察部は2026年8月1日、海賊版サイト「Phim Nè(phimne.live)」の運営者1名と、海賊版アプリ「Phim Nè(phimne.app)」の運営者2名について、著作権・著作隣接権侵害の罪で刑事立件したと発表しました。 一般社団法人コンテンツ海外流通促進機構(CODA)の調査によれば、日本コンテンツを侵害する海賊版サイトについてベトナムで刑事摘発が行われたのは、今回が初めてです。ベトナムではこれまでも海賊版サイト自体を対象とする刑事事件は存在しましたが、日本の権利者が被害者となる事案で刑事手続が動いた点が新しい要素です。 同じ「Phim Nè」の名称ながら、ウェブサイトとアプリはそれぞれ異なる運営者によって運営されており、捜査上も別事件として扱われています。 項目 phimne.live(ウェブサイト) phimne.app(アプリ) 運営者 23歳男性1名(ソフトウェア工学専攻) 29歳男性2名(情報技術専攻) 運営期間 2025年6月〜 2025年初頭〜2026年4月 形態 他サイトから映画データを自動取得する仕組みを構築。管理者情報を隠す技術的措置も実施 Android TV向けアプリ。15分間の無料視聴後に会員料金を課金 規模 登録会員1,090人超/アクセス9万回超 課金件数6,451件 侵害対象 日本・米国・ベトナムの映画作品等(CODA、米国映画協会(MPA)関係作品を含む) 日本コンテンツ等 金額 著作権者が損害額を約30億ベトナムドンと見積もっている作品あり。 不正利益 約4億1,500万ドン/株式会社トムス・エンタテインメントに90億8,000万ドン超の損害 なお、ハノイ市公安が同時期に立件した著作権侵害事件はPhim Nè関連だけではありません。2026年8月3日付のベトナム紙「Đại Đoàn Kết」によれば、Phim Nèの2事件に加え、音楽作品を無断利用したカラオケ機器事業者の事件も立件されており、合計で3事件・4名が被疑者となっています。オンライン上の著作権侵害を行政処分や民事請求にとどめず、刑事事件として処理する運用が具体化していることがうかがえます。 今回適用されたのは、刑法第225条第2項です。同条は、ベトナムで保護される著作権・著作隣接権を、権利者の許諾なく故意に侵害する行為(複製、公衆への複製物の頒布)を処罰する規定です。 重要なのは、同条が金額基準を構成要件そのものに組み込んでいる点です。単に「侵害した」だけでは足りず、商業的規模での実施か、一定額以上の不正利益・損害・侵害物価額が必要となります。 項 要件(概要) 法定刑 1項(基本類型) 商業的規模での実施、または不正利益5,000万〜3億ドン未満、または権利者の損害1億〜5億ドン未満、または侵害物の価額1億〜5億ドン未満 罰金5,000万〜3億ドン、または3年以下の非拘禁矯正 2項(加重類型) ※本件で適用 1項の行為を行い、かつa) 組織的犯行/b) 2回以上の犯行/c) 不正利益3億ドン以上/d) 権利者の損害5億ドン以上/đ) 侵害物の価額5億ドン以上の場合 罰金3億〜10億ドン、または懲役6か月〜3年 3項(付加刑) 1項・2項に加えて科しうる 罰金2,000万〜2億ドン、1〜5年の職務就任禁止・業務従事禁止 4項(法人) 商業法人が本条の罪を犯した場合(2項該当時) 罰金10億〜30億ドン、または6か月〜2年の業務停止(さらに1〜3年の事業禁止等の付加刑あり) アプリ側の事案では、運営者2名の不正利益が約4億1,500万ドンとされており、2項c号の「不正利益3億ドン以上」を上回ります。また、トムス・エンタテインメントに生じたとされる損害90億8,000万ドン超は、2項d号の「損害5億ドン以上」を大幅に超過します。さらに2名による共同での開発・運営は、2項a号の「組織的犯行」に該当し得る事情です。加重類型の要件を複数満たす構造になっていたことが分かります。 今回の摘発は、単発の事件ではなく、2026年に入ってからのベトナム政府による知的財産権取締り強化の流れの中に位置づけられます。 2026年5月5日、ホー・クオック・ズン副首相は、知的財産権侵害の防止・摘発・処理に関する首相公電に署名しました。同公電は、公安省・国防省・最高人民検察院・最高人民裁判所に対し、典型的な事件の捜査・起訴・裁判に注力するよう指示しています。今回のPhim Nè事件も、この取締り強化を契機として進展したものです。 ベトナムのオンライン海賊版問題は、通商上の論点にもなっています。 2026年4月30日に米国通商代表部(USTR)が公表した「2026年特別301条報告書」において、ベトナムは「優先外国(Priority Foreign Country:PFC)」に指定されました。同報告書では、ベトナムについて、ステークホルダーから「アジア太平洋地域でオンライン海賊版の発生率が最も高い」と報告されていることが指摘されています。ベトナム政府が2026年に入って知財執行を急速に強化している背景には、こうした通商上の要請も存在します。 今回の事件の意義は、海賊版サイトが1つ閉鎖されたことではありません。日本のコンテンツを侵害する海賊版サービスについて、ベトナムの捜査機関が実際に刑事事件として立件したという点にあります。 従来、刑事罰の規定は2018年1月1日施行の現行刑法に存在していたものの、日本の権利者が関与する事案での運用実績は乏しく、「制度はあるが動かない」という評価が一般的でした。今回、その評価を更新すべき事例が出たことになります。 今後、日本の映画、アニメ、ドラマ、音楽、マンガ等を対象とするベトナム発の海賊版について、刑事手続を含む権利行使が現実的な選択肢となる可能性があります。同時に、選択肢が増えたということは、どの手段を選ぶかという判断が必要になるということでもあります。 現在もPhim Nè事件の刑事手続は継続しており、今後は公訴提起に向けた捜査が進められる見込みです。ベトナムにおける権利行使の実務は、この1〜2年で大きく変わる可能性があります。ベトナムでの知的財産権の保護についてお困りの際は、お問い合わせください。 免責事項: 本記事の内容は2026年8月7日時点の情報に基づいています。刑事手続は継続中であり、被疑者はいずれも有罪判決を受けたものではありません。制度の詳細および運用は今後変更される可能性があります。 C CastGlobal Law Vietnam Co., Ltd. ベトナム・ホーチミン市拠点の日系法律事務所。日本国弁護士と現地ベトナム人弁護士の協働により、日系企業向けの企業法務、M&A、コンプライアンス、労務、知的財産を中心にリーガルサービスを提供。  

ベトナム人労働者の人身損害と逸失利益―日本の賠償実務で問題となる「基礎収入」をどう考えるか

コラム
2026.07.24
CastGlobal

ベトナム人労働者の人身損害と逸失利益―日本の賠償実務で問題となる「基礎収入」をどう考えるか

日本国内で就労するベトナム人労働者(技能実習生・特定技能外国人等)が労災事故や交通事故の被害に遭い、損害賠償請求における逸失利益の算定が争点となる事案が増えています。被害者がすでにベトナムへ帰国している場合、基礎収入はどう考えるべきか。ベトナム現地の日系法律事務所の観点から、ベトナム法における人身損害賠償の考え方と、基礎収入の立証・反証に使い得る公的統計を整理します。 本稿のポイント ベトナム法には、生涯収入ベースで将来利益を一括賠償させる「逸失利益」という損害項目自体が存在しない 日本の賃金センサスのような年齢階級別の賃金統計も公表されていない 基礎収入の立証・反証には、統計局「労働雇用調査」(2026年上半期:平均月収900万ドン≒約5.3万円)が最も客観性の高い資料となる 日本の損害賠償実務では、被害者側が日本の賃金センサス(全年齢平均で年収570万円程度)を基礎収入として逸失利益を請求するのが一般的です。これに対し、被害者がすでにベトナムへ帰国している事案では、帰国後の期間についてまで日本の賃金水準で収入を得られる蓋然性があるのか、という反論が考えられます。 そこで「ベトナムの賃金統計を使えばよいのではないか」という発想になりますが、ここには実務上いくつかの落とし穴があります。以下、順に整理します。 まず前提として、ベトナム法には、日本の実務のように生涯収入をベースに将来の得べかりし利益を一括賠償させる「逸失利益」という損害項目自体が存在しません。 生命侵害の場合の賠償項目は、民法(法律第91/2015/QH13号、2017年1月1日施行。以下「ベトナム民法」といいます)第591条が限定列挙しており、次の4項目に限られます。 死亡までの治療費等(第590条第1項の健康侵害による損害) 合理的な葬儀費用 死者が生前扶養義務を負っていた者への扶養料(定期金方式。未成年の子は18歳に達するまで等の期間制限あり。第593条第2項) 近親者(第一順位相続人等)への精神的損害に対する慰謝料 このうち慰謝料は、当事者間で合意できない場合、国が定める基礎給与の100か月分が上限とされています(ベトナム民法第591条第2項)。基礎給与は2026年7月1日以降、月253万ドンです(政府令第161/2026/NĐ-CP号、2026年7月1日施行)。したがって慰謝料の上限は2億5,300万ドン、日本円で約150万円(1円≒170ドンの概算換算。以下同じ)にとどまります。運用の細則は、最高人民裁判所裁判官評議会決議第02/2022/NQ-HĐTP号(2022年9月6日付)が定めています。 後遺障害の場合も同様で、賠償されるのは事故前の実収入を基準とした現実の収入喪失・減少分であり、収入が不安定で確定できない場合には同種労働の平均収入が基準とされます(ベトナム民法第590条第1項b号)。年齢別の賃金統計を用いて将来収入を一括算定するという手法は採られていません。 このような法定構造のため、ベトナムでは死亡事案であっても賠償総額が日本円で百数十万円から二百万円程度にとどまる例が多いのが実情です。「ベトナムにおける逸失利益(基礎収入)の算定基準」と呼べる公的な資料は存在しない、というのが結論になります。 もっとも、日本の訴訟において帰国後の期間の基礎収入を主張・反証する場面では、ベトナムの賃金水準を示す客観資料が必要になります。実務上利用し得るものとして、以下の3つが挙げられます。 資料 直近の数値 留意点 統計局「労働雇用調査」 2026年上半期:労働者平均月収900万ドン(約5.3万円)、賃金雇用労働者1,000万ドン(約5.9万円) 最も客観性が高い。年齢階級別の区分はなし 家計生活水準調査(VHLSS) 世帯員一人当たり月間所得560万ドン程度(2024年) 非就労者を含む世帯員一人当たり所得。賃金統計ではなく基礎収入の資料には不適切 地域別最低賃金 第1地域531万ドン(約3.1万円)〜第4地域370万ドン(約2.2万円)/月 出身地域に応じた賃金の下限値の参考 ベトナム統計局(Cục Thống kê。組織再編により現在は財政省の傘下)が四半期・年次で公表する公的統計で、就労者の平均月収を示す資料としては最も客観性の高いものです。直近の公表値では、2025年通年の労働者の平均月収は840万ドン(約4.9万円)、2026年上半期は900万ドン、賃金雇用労働者(給与所得者)に限ると1,000万ドンです。年収換算でおおむね60万〜70万円程度となります。性別・都市/農村・地域・産業別の内訳は公表されていますが、日本の賃金センサスのような年齢階級別の区分はありません。 「ベトナムの月間平均所得は3万円超」といった報道の出典は、多くの場合この統計です。ただし、この数値は児童・高齢者等の非就労者を含む「世帯員一人当たり」の所得であり、就労者の賃金統計ではありません。基礎収入の資料としては不適切であり、相手方がこの種の数値を援用してきた場合には、むしろ反論の材料となり得ます。 政府令第293/2025/NĐ-CP号(2026年1月1日施行)により、月額最低賃金は第1地域(ハノイ・ホーチミン等の都市部)531万ドンから第4地域(地方部)370万ドンと定められています。被害者の出身地域に応じた賃金の下限値を示す資料として参考になります。 上記の統計を利用する際には、次の点に注意が必要です。 第一に、ベトナムは賃金格差が非常に大きい国です。都市部のホワイトカラーで月収30万〜40万円という例が珍しくない一方、地方では世帯月収が数万円という地域も多く、全国平均値が個別の被害者の収入実態を適切に反映するとは限りません。 第二に、被害者側からの再反論も想定されます。具体的には、特定技能等の在留資格による再来日の蓋然性や、ベトナムの賃金上昇率を理由とする増額主張です。実際、労働雇用調査でも2026年上半期の平均月収は前年同期比8.7%増となっており、名目賃金の上昇傾向は顕著です。 第三に、これらの統計はベトナム語でのみ公表されており、日本の裁判所に証拠として提出する場合には該当箇所の特定と翻訳が必要となります。 ベトナム人被害者の逸失利益の算定は、日越両国の法制度と労働市場の実態が交錯する論点であり、日本の賃金センサスをそのまま用いることにも、ベトナムの平均賃金をそのまま用いることにも、それぞれ反論の余地が残ります。重要なのは、各統計の性質(就労者の賃金か、世帯員一人当たり所得か)を正確に把握した上で、事案に即した主張・立証を組み立てることです。 当事務所では、ベトナムの法令・公的統計の調査、原典の特定・翻訳を含め、日本の訴訟実務でご利用いただくためのサポートを提供しております。ベトナムの労務・労働法制の概要は当事務所のコラム一覧もあわせてご参照ください。お気軽にお問い合わせください。

ベトナムの「一時滞在申告」を再点検 ― 2025年12月施行の新政令282/2025/NĐ-CPで罰則規定が刷新【駐在員・日系企業向け】

コラム
2026.07.16
CastGlobal

ベトナムの「一時滞在申告」を再点検 ― 2025年12月施行の新政令282/2025/NĐ-CPで罰則規定が刷新【駐在員・日系企業向け】

2026年7月15日 / CastGlobal Law Vietnamベトナムに滞在する外国人には、宿泊の都度、「一時滞在申告」が必要です。旅行者に限らず、駐在員やその家族、短期出張者も対象です。2025年12月15日には出入国・在留等の行政処罰を定める新政令282/2025/NĐ-CP(2025年12月15日施行。旧政令144/2021/NĐ-CPを代替)が施行され、罰則規定が刷新されました。足元では一部のレジデンス等で運用が厳格化しており、出張・一時帰国が多い方ほど申告が抜け落ちがちです。本稿では、ベトナム現地の日系法律事務所の観点から、制度と罰則を改めて整理します。 本稿のポイント 申告義務の主体は原則として宿泊施設側(到着から12時間以内、僻地・遠隔地では24時間以内) 新政令282/2025/NĐ-CPにより、未申告人数に応じて最大2,000万VND(法人は2倍)の罰金 社宅・会社借り上げ物件を持つ日系企業は、自社が「宿泊施設側」として申告義務を負い得る 宿泊施設の活動を直接管理・運営する者は、外国人が宿泊施設に到着した時から12時間以内(僻地・遠隔地の地域では24時間以内)に、申告用紙に情報を十分に記載し、宿泊施設の所在地の公安又は公安の駐在所・分署に送付する責任を負います。 根拠は、外国人のベトナムにおける入国、出国、通過、居住に関する法律(法律47/2014/QH13、2015年1月1日施行。法律51/2019/QH14(2020年7月1日施行)及び法律23/2023/QH15(2023年8月15日施行)により改正)の第33条です。改正後の同条の和訳(抜粋)は次のとおりです。 <第33条 一時滞在申告(和訳・抜粋)> 1.ベトナムに一時滞在する外国人は、宿泊施設の活動を直接管理・運営する者を通じて、宿泊施設の所在地を管轄する公安又は公安の駐在所・分署に一時滞在申告をしなければならない。宿泊施設は、外国人の一時滞在に同意する前に、一時滞在申告を実施するため、旅券又は国際渡航に有効な書類、ベトナムでの居住に関連する書類を提示するよう外国人に求める責任を負う。 2.外国人の一時滞在申告は、電子申告又は一時滞在申告用紙を通じて実施する。申告用紙により申告する場合、宿泊施設の活動を直接管理・運営する者は、外国人が宿泊施設に到着した時から12時間以内(僻地・遠隔地の地域では24時間以内)に、申告用紙に情報を十分に記載し、宿泊施設の所在地の公安又は公安の駐在所・分署に送付する責任を負う。 3.外国人は、一時滞在場所を変更した場合、または、常住カードに記載された住所以外の場所に一時滞在する場合、又は旅券の情報に変更があった場合、本条第1項の規定に従い一時滞在申告をしなければならない。 このとおり、申告義務の主体は原則として宿泊施設側です(ホテル・サービスアパートは運営者、賃貸物件・個人宅はオーナーや管理者等)。もっとも、外国人本人にも、一時滞在申告の実施のため宿泊施設に旅券等を提示する義務があります(同法第44条2項đ号。法律23/2023/QH15により追加)。 宿泊施設が法定の一時滞在申告を行わない場合、未申告の外国人の人数に応じ、以下の罰金が科され得ます(政令282/2025/NĐ-CP第21条)。 未申告の外国人の人数 罰金額(個人) 根拠条項 1~3名 300万~500万VND 第21条3項e号 4~8名 1,000万~1,500万VND 同条5項c号 9名以上 1,500万~2,000万VND 同条6項đ号 上記は個人の場合の金額で、組織(法人)が違反した場合は2倍となります(同政令第5条2項)。また、外国人本人が申告のための旅券等の提示を怠った場合や、虚偽情報でオンライン申告用アカウントを作成した場合も、300万~500万VNDの罰金対象です(第21条3項e号)。 金額自体は極端に高額ではありませんが、「申告されていない状態」が続くこと自体が、各種行政手続やトラブル対応、公安とのやり取りの場面で不利に働くおそれがあります。 法律23/2023/QH15第2条9項による改正で第45a条が新設され、機関・組織・個人は、外国人がベトナムに合法的に居住している場合に限り、当該外国人の雇用、観光ツアーの催行、一時滞在の受入れができることが明記されました。合法的に居住していない外国人を雇用・滞在させた場合や、出入国・在留に関する違反の兆候を発見しながら当局に通報しない場合、2,000万~2,500万VND(法人は2倍)の罰金があり得ます(政令282/2025/NĐ-CP第21条7項đ号)。 ポイント 社宅や会社借り上げ物件に駐在員を住まわせている日系企業は、自社が「宿泊施設側」の立場に立ち、申告義務を負い得る点に留意が必要です。総務・人事部門において、駐在員・帯同家族・出張者の入居時の申告フローを定めておくことをお勧めします。 ホテルや管理体制の整ったサービスアパートでは運営側が申告済みのことが多いものの、パスポートコピーの提出=申告完了とは限りません。フロントや管理事務所に確認するのが確実です。 個人賃貸・友人知人宅・民泊等は「誰も申告していない」状態が生じやすい典型例です。オーナー・管理者と申告主体を明確にし、未了であればオンライン申告又は管轄公安で速やかに対応してください。 転居時や旅券更新時にも再申告が必要です(第33条3項)。一時帰国後の再入国時も、都度の申告を前提に運用されている点にご注意ください。 申告漏れに気づいた場合、過去日付で取り繕うことは避け、気づいた時点で正直に補完・相談する方が結果的に安全です。 一時滞在申告を含む管理体制の整備についてご不明な点があれば、当事務所までお気軽にご相談ください。   免責事項: 本記事の内容は2026年7月15日時点の情報に基づいています。制度の詳細は今後変更される可能性があります。 C CastGlobal Law Vietnam Co., Ltd. ベトナム・ホーチミン市拠点の日系法律事務所。日系企業向けの企業法務、M&A、コンプライアンス、労務、知的財産を中心にリーガルサービスを提供。日本国弁護士と現地ベトナム人弁護士の協働により、日本語で完結するリーガルサービスをワンストップで提供しています。

ベトナム日系企業に迫る「ハラスメント告発」リスク

コラム
2026.07.12
CastGlobal

ベトナム日系企業に迫る「ハラスメント告発」リスク

「ベトナムはまだハラスメント規制が緩い」――こうした認識は危険です。2021年1月施行の現行労働法(No.45/2019/QH14)により、ベトナムのハラスメント規制は高水準となっておいます。また、労働者の権利意識の高まりから、労働者によるハラスメント告発事案が近年大幅に増加しています。 労働法第3条第9項はセクシャルハラスメントを「職場における他者に対する性的な性質を有する行為であって、その他者が望まず又は承認しないもの」と定義し、政令145/2020/ND-CP第84条で身体的・言語的・非言語的セクハラを具体化しています。なお「職場」には出張先、会食、通勤車両などまで幅広く含まれています。 また、使用者には以下の義務が課されます。 セクハラ防止措置の実施(労働法第6条第2項d号) 就業規則へのセクハラ対策規定の整備(労働法第118条第2項d号、政令145号第85条) また、労働法第35条第2項により、ハラスメントや侮辱的言動を受けた労働者は事前通知なく労働契約を即時解約でき、損害賠償請求に発展するリスクもあります。またSNSでの書き込みなど、レピュテーションリスクが発生する場合もあります。 SNSによる告発の増加、若い世代の権利意識の高まり、労働市場の流動化により、現地従業員は「嫌なら辞める」「公にする」という選択を躊躇しません。当事務所にも、駐在員に対する告発、退職者からの法的請求、不正経費の内部告発、SNSへの書き込みなどのご相談が急増しています。 他方、社内通報窓口は「身内に話しにくい」「報復が怖い」という理由で機能しないケースが大半です。 問題が表面化してからの対応は、和解金・訴訟費用・レピュテーション低下という大きな代償を伴います。そのため、予防的対策が重要になります。具体的には、 ハラスメント研修による認識共有 外部通報窓口による安心できる相談ルートの確保 定期ヒアリングによる兆候の早期検知と抑止効果 の3つを組み合わせることで、ハラスメント・内部告発リスクを大幅に低減できます。 当事務所は、ベトナム現地に拠点を構える日系法律事務所として、以下の3サービスを単体およびパッケージにてご提供しています。 ① 外部通報窓口の設置・運用 日本語・ベトナム語の専用メールアドレスで通報を受付。駐在員に関する告発は日本本社へ、ベトナム人従業員に関する告発は現地法人へ報告します。 ② ハラスメント研修 駐在員向け(日本語)・現地従業員向け(ベトナム語)に分けて、ベトナム労働法の規制、NG言動、文化的配慮、ケーススタディを解説。対面・オンライン両対応。 ③ 定期オンラインヒアリング 当事務所担当者が駐在員・現地従業員に1対1のオンラインヒアリングを定期実施。通報を待つのではなく能動的にアプローチし、兆候を早期検知。結果は匿名化レポートとして経営層へご報告します。   料金は貴社の規模・現状の体制等を踏まえてお見積もりいたします。まずはお気軽にお問い合わせください。

ベトナム労働法と日本労働法の違い【寄稿のお知らせ】

コラム
2026.07.09
CastGlobal

ベトナム労働法と日本労働法の違い【寄稿のお知らせ】

ベトナムと日本では労働法の規制が大きく異なり、人事担当者にとって実務上の違いを把握することが重要な課題になっています。弊社弁護士が、ベトナムと日本の労働法の違いを整理した寄稿記事を公開しました(公開日:2026年4月27日)。 ベトナム労働法と日本労働法の違い | リンオペベトナムへの進出にあたっては、現地の労働法制を十分に理解し、日本の労働法との相違点を把握することが重要です。日本とベトナムはいずれもアジア圏に位置していますが、 寄稿の主な論点 日本とベトナムの労働法の違い 雇用契約の締結に関する違い 労働契約の種類と期間 試用期間(試用契約)の取り扱い 労働契約の言語と就業規則の登録 労働条件に関する違い 法定労働時間と休日 時間外労働の上限規制と割増賃金 年次有給休暇と法定祝日 賃金体系と最低賃金制度 社会保険制度と福利厚生 労務管理と契約終了に関する違い 解雇 解雇予告期間と退職時の補償 労働組合の役割 労働紛争の解決   ベトナム法人の人事労務を担当される方 ベトナムの労働法規制を把握したい本社海外事業担当の方