ベトナム暗号資産市場、2026年Q3正式始動へ ― 制度整備・初期適格5社・韓国2案件と外資の現実解

コラム
2026.05.14
CastGlobal

ベトナム暗号資産市場、2026年Q3正式始動へ ― 制度整備・初期適格5社・韓国2案件と外資の現実解
特集 2026年5月13日 / CastGlobal Law Vietnam ベトナム財務副大臣Nguyen Duc Chi氏が、暗号資産市場を2026年第3四半期(Q3)に正式始動する方針を表明しました。デジタル技術産業法(Law 71/2025/QH15)の施行(2026年1月1日)から半年あまりで、ライセンス申請の受付開始、税制ガイダンスの公布、初期適格5社の選定、韓国大手取引所2社との提携公表まで、制度と事業者の準備が同時に進んでいます。本稿では、2025年から2026年5月までの時系列、初期適格5社の最新動向、注目される韓国2案件、そして外資の現実的な参入ルートを日系法律事務所の観点から解説します。 本稿の位置づけ 当事務所では、これまで「ベトナムの暗号資産規制と決済の最新動向【2025年】」で、デジタル技術産業法の成立とIFC構想を中心に、規制整備の「入口」を整理しました。本稿はその続編にあたり、2026年に入って急速に進んだ実装フェーズの動きをまとめます。 ベトナムは、Chainalysisが公表する2025年グローバル暗号資産採用指数で世界3-4位、アジア太平洋では3位という、世界有数の暗号資産普及国です。推計約1,700万人のホルダー、年間取引額は2024年7月から2025年6月にかけて2,200億USD超(前年比+55%)に達し、デジタル経済全体の規模も2026年末までに500億USDに達する見通しです。 これまでベトナムは、暗号資産の保有・取引自体は黙認しつつも、決済への利用は違法、法的な「資産」としての位置づけも不明確という、いわゆるグレーゾーンの状態が続いていました。この状況を抜本的に変えたのが、2025年6月14日に国会で可決され、2026年1月1日に施行されたデジタル技術産業法(Law 71/2025/QH15)です。同法により、ベトナムは世界46か国目の暗号資産合法化国となりました。 ベトナムの暗号資産市場を規律する法令は、上位法から実施規則まで4階層で整理されています。 階層 規範 包括法 デジタル技術産業法(Law 71/2025/QH15、2026年1月1日施行) パイロット枠組み 政府決議05/2025/NQ-CP(2025年9月9日署名、5年間パイロット) ライセンス手続 財務省決定96/QĐ-BTC(2026年1月20日公布) 会計・税制・申告 財務省省令15・32・41/2026/TT-BTC(2026年3-4月公布) 重要なのは、政府決議05/2025/NQ-CPが5年間のパイロットプログラムを規定している点です。完成形の制度ではなく、5年かけて運用データを蓄積し、必要に応じて規制を調整する「制御された実験」として設計されています。日系企業にとっては、現行ルールが今後変更される可能性を前提に、柔軟な対応体制を取ることが求められます。 2025年6月14日、国会はデジタル技術産業法(Law 71/2025/QH15)を可決(賛成441/445)しました。同法第3条で暗号資産を「資産」として法的に承認し、ベトナム法制で初めて包括的な定義を導入しました。 2025年9月9日には、Phó Thủ tướng Hồ Đức Phớc副首相が政府決議05/2025/NQ-CPに署名し、5年間の暗号資産市場パイロットプログラムが承認されました。最低資本金10兆VND、外資比率49%上限、機関株主65%以上といった主要要件は、この決議で初めて明文化されています。 2026年に入り、制度整備と事業者選定が急速に進みました。主要なマイルストーンは以下のとおりです。 日付 主要動向 1月1日 デジタル技術産業法 施行 1月20日 財務省決定96/QĐ-BTC公布 ─ ライセンス申請受付開始 3月2日 SSI Digital(SSID)と韓国BithumbがMOU署名(公表は5月7日) 3月4日 会計基準ガイダンス公布(財務省省令 15/2026/TT-BTC) 3月12日 7社申請のうち5社が初期適格審査を通過(財務省内部文書) 3月27日 税制ガイダンス公布(財務省省令 32/2026/TT-BTC) 4月6日 税務申告ガイダンス公布(財務省省令 41/2026/TT-BTC) 4月9日 首相Lê Minh Hưng、Q3 2026までの仕組み完成を国会報告 4月10日 OKX Ventures・HashKey CapitalがCAEXに戦略出資 5月7日 Bithumb × SSID のMOU公表 2026年3月12日時点で、暗号資産取引所ライセンスを申請していた7社のうち5社が初期適格審査を通過したと、ロイターが財務省内部文書を引用して報じています。5社の構成は、銀行・証券系列が4社、コングロマリットが1社という顔ぶれで、ベトナムの大手金融グループが軒並み参入を表明している構図です。 ベトナム大手民間銀行Techcombank傘下の証券会社TCBSの系列会社。資本金1,010億VND(約384万USD)で設立され、会長はNguyen Xuan Minh氏、CEOはDoan Mai Hanh氏。同社は約6か月にわたり技術インフラ整備とKYCパートナーとの体制構築を進め、2026年1月15日以前にライセンス申請を提出した先行組です。 ベトナム大手民間銀行VPBankの系列会社。当初資本金は250億VND(約95万USD)と小規模で設立され、創業株主はVPBank Securities(VPBankS、11%)、LynkiD(50%)、Future Land Investment(39%)という構成です。 注目すべきは、2026年4月10日にOKX VenturesおよびHashKey Capitalが戦略出資を発表したことです。OKXは世界有数の暗号資産取引所、HashKeyは香港拠点のアジア大手暗号資産投資ファンドで、両社の出資により最低資本金要件の10兆VND達成の道筋が見えた格好です。グローバル暗号資産大手のベトナム本格参入の第1弾と位置づけられます。 旧正月直前に資本金を68億VNDから3,600億VND(約1,370万USD)へと50倍以上増資し、市場の注目を集めました。創業株主はDuong Van Quyet氏(40%)、Nguyen Thi Bich Ngoc氏(30%)、Vu Phat Dat氏(30%)で、5社のなかで唯一、銀行・証券系列ではない民間投資家主導の構成です。 証券大手VIX Securities系列のデジタル資産部門。資本金1兆VND(約3,800万USD)で、CEOはNguyen Thanh Que氏。技術インフラ整備でFPT Corp.と提携しており、ベトナム最大手ITグループの技術力を取り込んだ体制を構築しています。 詳細情報は限定的ですが、不動産・観光・インフラを擁する大手コングロマリットSun Group関連と複数のメディアが報じています。金融以外の業界から唯一の通過企業として注目されます。 初期適格5社以外で特に重要なのが、韓国を代表する暗号資産取引所2社が揃ってベトナム市場に進出している点です。 ベトナム最大手証券SSI傘下のSSI Digital(SSID)は、韓国大手取引所Bithumbと2026年3月2日に取引所共同設立のMOUを署名し、5月7日に公表しました。協業範囲は、技術アーキテクチャ、ウォレット・カストディ、コンプライアンス、機関投資家向け業務まで全方位に及び、Bithumbは規制認可後のSSID指定法人への戦略的株式取得の可能性も示唆しています。 SSIDの資本金は当初2,000億VNDでしたが、すでに1兆VNDへの増資を完了しており、最低資本金10兆VND要件達成に向けた追加調達を進めています。 ベトナム軍隊銀行MBは、韓国最大手暗号資産取引所Upbitの運営企業Dunamuと技術提携しています。協業内容は、規制枠組み・運用プロセス・投資家保護メカニズムの共同構築で、韓国Top2の取引所が揃ってベトナム入りした構図となっています。 なぜ韓国系の動きが目立つのか 韓国は2026年2月時点でベトナム最大の対内投資国(累計約952億USD・全FDIの約18%)で、両国経済の連携が強い背景があります。また、韓国は暗号資産取引所の規制・運用ノウハウが世界的にも先行しており、ベトナム側からすれば技術・コンプライアンスの両面で実績ある協業先となります。日系金融機関にとっても、韓国系の動きは参入スキーム設計上の有益なリファレンスとなり得ます。 政府決議05/2025/NQ-CPおよび財務省決定96/QĐ-BTCに基づくライセンス取得要件は、世界的にも極めて厳格な部類に入ります。 要件項目 内容 最低資本金 10兆VND(約3.8億USD) 法人形態 ベトナム法人(LLCまたはJSC)に限定 機関株主 65%以上(うち35%以上は2社以上の金融機関またはテック企業から) 外資比率 最大49% 取引通貨 VND建てのみ(USDTなどステーブルコイン取引不可) 発行可能資産 実物資産バックのみ(法定通貨・有価証券バック不可) 発行先 外国人投資家に限定、発行15日前までに目論見書公表 経営者要件 CEO:金融・経営経験2年以上、CTO:IT/Fintech経験5年以上 専門人員 ITセキュリティ専門家10名以上、証券ライセンス保有者10名以上 セキュリティ 情報セキュリティLevel 4(国家最高水準)、コールドストレージ必須 これらの要件は、参考までにタイ(最低資本金約13.7M USD)やシンガポール(最高ティアでも約50M USD)と比較しても、10倍から28倍程度の水準にあります。ベトナム政府は、初期段階で「資本力と長期的なコミットメントを備えた事業者だけが市場を運営する」という設計思想を取っており、市場の安定性と投資家保護を最優先しています。 財務省省令32/2026/TT-BTC(2026年3月27日公布)では、暗号資産取引に係る主要税目の取扱いが整理されています。 税目 税率 対象 法人税(CIT) 20% ベトナム法人が暗号資産取引で得た所得 付加価値税(VAT) 非課税 暗号資産の譲渡・取引 個人所得税(PIT) 0.1%(案) 取引総額に対する課税 申告手続については、財務省省令41/2026/TT-BTC(2026年4月6日公布)が、税務申告・源泉徴収・納付・確定申告の枠組みを整備しています。 留意点:PIT 0.1%案には議論あり PITについては、取引総額の0.1%という案が「実質的に取引コストを引き下げ、投機を誘発する」との批判が一部で示されています。最終的な税率や課税方式は施行に向けて調整される可能性があり、2026年5月時点では確定していません。実務上は、暫定的に0.1%案を前提に試算しつつ、施行令で確定された段階で再計算する体制を取ることを推奨します。 ライセンス制度の運用と並行して、ベトナム財務省はオフショア取引所(Binance、Bybit、OKX国際版など海外プラットフォーム)を利用するベトナム居住者に対する罰則導入を起草中です。報道ベースでは、以下のような枠組みが議論されています。 最初のライセンス取得業者が運用開始してから6か月後、オフショア取引所の国内居住者向けサービス提供が違法化される見込み 個人利用者:最大1億VNDの行政罰 法人利用者:最大2億VNDの行政罰 既存保有資産は、国内ライセンス取引所への移管期間として6か月の猶予が想定 ベトナムの方針は、韓国が先行して取り組んだオフショア規制を参考にしていますが、ベトナムは個人投資家まで罰則対象に含める点でより厳格な設計です。これは、ベトナム居住者がBinance等で取引している規模が極めて大きく、これを国内のライセンス取引所に誘導しなければ制度の実効性が確保できないという背景があります。 ここまで整理してきたとおり、外国取引所のベトナム直接参入は事実上不可能です。申請主体はベトナム法人に限定され、最低資本金10兆VND(約3.8億USD)、機関株主65%以上、外資比率最大49%という三重の参入障壁が設定されています。 現実的な参入ルートは、ライセンス取得済み(または取得見込み)のベトナム企業との合弁・技術提携です。すでに以下のような提携が成立しています。 CAEX × OKX Ventures / HashKey Capital(2026年4月10日戦略出資) SSI Digital × Bithumb(2026年3月2日MOU、5月7日公表) Military Bank × Dunamu(Upbit運営)(技術提携) VIXEX × FPT Corp.(技術インフラ提携) 5社+SSID+MB+Vimexchangeで枠が固まりつつあるなか、外資にとっては「ライセンスを直接取りに行く」フェーズではなく、「誰と組むか」のフェーズに既に入っています。日系企業・日系金融機関がこの市場に関与する場合も、ベトナム側の事業者との提携設計が出発点となります。提携形態としては、技術ライセンス、JV設立、戦略出資(49%上限内)、業務委託(カストディ、KYC/AMLシステム、コンプライアンス・コンサルティング)などが想定されます。 ベトナム暗号資産市場は、2025年6月のデジタル技術産業法可決から1年弱で、立法・パイロット設計・ライセンス手続整備・税制ガイダンス公布・初期適格5社選定・グローバル大手との提携公表まで、極めて速いペースで実装が進んでいます。2026年Q3の正式始動は、こうした準備の集大成と位置づけられます。 結論 ベトナム暗号資産市場は、2026年Q3に正式始動する見通しです。立法から実装まで1年弱で整備された制度は、最低資本金10兆VND・外資49%上限・機関株主65%以上という高い参入障壁を備え、初期段階の市場は5社の独占体制でスタートする構図となります。外資の現実的な選択肢は、ベトナム企業との合弁・技術提携であり、すでにCAEX×OKX/HashKey、SSID×Bithumb、MB×Dunamu、VIXEX×FPTといった枠組みが先行しています。日系企業がこの市場と関与する際は、提携先選定、業務範囲設定、規制動向のモニタリング体制を早期に整えることが、機会獲得とリスク管理の両面で重要となります。 今後の注目点としては、(1)正式立ち上げのタイミング、(2)5社のうち実際に運用開始する企業の確定と運用実績、(3)オフショア取引所への規制強化措置の具体化、(4)PIT 0.1%案の確定、(5)既存ライセンス取得済み事業者への追加出資・株式取得の動向、などが挙げられます。当事務所では引き続き、これらの動向を継続的にフォローし、随時アップデートをお届けします。 ベトナムの暗号資産規制と決済の最新動向【2025年】(本稿の前提となる前回記事) ベトナム法務コラム一覧 CastGlobal Law Vietnam のサービス案内 ご相談はこちらから

ベトナム半導体政策、2026年の質的転換期 ― 中所得国の罠脱却・2045年高所得国入りに向けた法務目線の整理

コラム
2026.05.13
CastGlobal

ベトナム半導体政策、2026年の質的転換期 ― 中所得国の罠脱却・2045年高所得国入りに向けた法務目線の整理...
特集 2026年5月13日 / CastGlobal Law Vietnam 一人当たりGDP 5,026ドル(2025年・ベトナム統計総局)のベトナムが、2045年の建国100年に高所得国入りを国家目標として掲げる中、その「最短ルート」の中核に置かれているのが半導体産業です。本稿では、2024-2026年に集中的に整備された法的基盤、税制優遇、人材政策、地方制度を整理し、日系企業が押さえるべき法務上のポイントを在ベトナム10年の弁護士の視点から解説します。 ベトナムの一人当たりGDPは2024年の4,700ドルから2025年に5,026ドルへと上昇し、世界銀行が定める上位中所得国の閾値に肉薄しています。しかし、ここから先が「中所得国の罠」と呼ばれる難関であり、過去半世紀でこれを抜けて高所得国に到達できたのは日本・韓国・台湾・シンガポール等、世界でも数えるほどしかありません。 ベトナム共産党政治局が2024年12月に発出した党中央決議57号(Resolution 57-NQ/TW)は、この国家目標達成の「最短ルート」として科学技術・イノベーション・デジタル転換を位置づけました。そしてその中核装置として明示的に指定されているのが半導体産業です。 本稿のポイント ベトナムの半導体政策は、単なる産業政策ではなく「2045年高所得国入り」という国家命題のための戦略インフラとして動いています。2024-2026年の立法ラッシュは、この命題を支える制度設計です。日系企業にとっては、この国家命題に組み込まれる形で参入することが、最も政策リスクが低く、リターンが大きい構図と言えます。 ベトナム政府は、半導体産業発展戦略(首相決定1018/QĐ-TTg、2024年9月21日)において、2050年までの3段階ロードマップを策定しています。 段階 期間 主な目標 第1段階 2024-2030 設計・OSAT(後工程)中心の基盤形成。FDI選別誘致と人材5万人育成。 第2段階 2030-2040 設計企業200社・ファブ2基・OSAT15基の整備。自立とFDIの併存。 第3段階 2040-2050 電子・半導体産業強国としての地位を確立。 注目すべきは、第1段階で「最先端ファウンドリー」ではなく、設計・OSATを中心に据えていることです。これはベトナム政府が、いきなり大規模前工程投資を狙うのではなく、まず人材育成と後工程・特定用途チップで競争力を積み上げる現実的なアプローチを選んでいることを意味します。日系企業にとっては、この方針こそが参入機会の所在を示すシグナルと言えます。 2024-2026年にかけて、半導体産業を支える法令が4つの階層で集中的に整備されました。それぞれが連動して、ベトナムの半導体エコシステムの制度的土台を形成しています。 投資支援基金政令(政府令182/2024/NĐ-CP、2024年12月31日)により、半導体・AI案件への設備投資・R&D・人材・研究インフラに対する現金支援が制度化されました。これは従来の税制優遇中心のアプローチから、現金交付による直接支援への大きな転換点です。 さらに科学技術ブレークスルー特別決議(国会決議193/2025/QH15、2025年2月19日)では、国費R&Dで国家損害が生じても、所定手続を遵守すれば民事責任が免除される「リスク許容原則」が導入されました。これはベトナム法制で従来なかった画期的な条項で、研究開発活動への萎縮効果を取り除く意図があります。 最も重要な立法が、デジタル技術産業法(Law 71/2025/QH15、2025年6月公布・2026年1月1日施行)です。これは半導体を含むデジタル技術産業を対象とした、世界初の包括的な産業法とされています。法人税優遇、コスト補助、通関簡素化、人材育成までを法律レベルで一体的に規律する内容です。 実務上の最重要ポイント:中央戦略×地方執行の協調連邦制 デジタル技術産業法は、半導体案件所在地の省人民評議会が、地方予算からの補助基準・条件・手続・範囲・水準を独自に定めうると明文化しました。これは、中央政府が枠組みを提供し、地方政府が具体的な金額・条件を競って実装するという「協調連邦制」モデルを法的に裏付けたものです。日系企業にとっては、進出先選定が単なる立地比較ではなく、地方ごとの「補助メニュー比較」になることを意味します。 また同時期に成立した科学技術・イノベーション法(Law 93/2025/QH15、2025年6月公布・2025年10月1日施行)は、1992年の旧科学技術法以来のフルモデルチェンジとして、R&D活動と科学技術人材に対する包括的な優遇枠組みを規律しています。 2026年4月30日に署名され、7月1日に施行される10戦略技術群決定(首相決定21/2026/QĐ-TTg)では、半導体チップ技術が戦略技術として正式指定され、30の戦略製品リストも公布されました。これにより、半導体関連投資が国家戦略上の最上位カテゴリーに位置づけられたことになります。 ベトナムの半導体関連法人税優遇として最も注目されるのが、CIT 10%×15年、4年免税+9年50%減税という最厚遇措置です。ただし、この優遇は半導体事業を行えば自動的に適用されるものではなく、特定の法的資格を取得することが前提となります。 資格取得ルート 根拠規範 科学技術企業認定 科学技術・イノベーション法(Law 93/2025/QH15) ハイテク企業認定 ハイテク法(Law 133/2025/QH15) 特別投資優遇 首相決定29/2021/QĐ-TTg 指定セクター 法人所得税法(Law 67/2025/QH15)第13条による半導体・AI・デジタル技術 さらに、データセンター8,000万USD超または半導体施設1.6億USD超の大型案件は、追加優遇の対象となります。これらの優遇の入口は複数あり、案件のストラクチャーで取れる組合せが変わるため、進出前のストラクチャー設計が決定的に重要です。後付けで優遇取得を試みる場合、要件未充足により大幅な機会損失を招くことが少なくありません。 ベトナム政府自身が、半導体政策の最大のボトルネックは人材であると認識しています。これに対応するため、2024-2026年にかけて人材関連の制度整備が集中的に進められました。実は、日系企業の駐在員派遣コスト構造を根本的に変える可能性のある変化が、この領域で起きています。 半導体人材育成プログラム(首相決定1017/QĐ-TTg、2024年9月21日)では、2030年までに5万人の半導体人材を育成する目標が立てられています。内訳は以下のとおりです。 区分 目標人数 エンジニア・学士 42,000人 修士 7,500人 博士 500人 うち設計分野 15,000人 うち製造・OSAT等 35,000人 AI専門 5,000人 講師 1,300人 2024-2025年度の実績として、半導体関連専攻に約19,000人が入学しており、これはSTEM学生全体の10%に相当します。国家ラボ4か所・公立大学ラボ8か所の整備も進められています。 改正個人所得税法(Law 79/2025/QH15)および科学技術・イノベーション法(Law 93/2025/QH15)等により、「高品質デジタル技術人材」と認定された者は、個人所得税(PIT)が5年間免除されます。対象は次のとおりです。 集中デジタル技術区(DTP)のプロジェクト勤務者 半導体・AI・戦略技術R&D・主要デジタル技術製品の研究開発・製造プロジェクト勤務者 デジタル技術人材育成活動の従事者 科学技術・イノベーション任務遂行による給与所得(2025年10月1日施行) 重要なのは、この優遇がベトナム人・外国人を問わず適用される点です。日系企業が現地に派遣する技術系駐在員も対象となり得るため、適用要件を充足できるよう人事制度を設計することで、駐在員のネット手取りを大幅に改善できる可能性があります。 デジタル技術産業法(Law 71/2025/QH15)第49条および外国人入国管理令(政府令221/2025/NĐ-CP、2025年8月15日施行)により、外国人専門家の入国・就労に関する画期的な優遇措置が導入されました。 項目 内容 就労許可(Work Permit) 不要。確認書(Confirmation Letter)で代替。処理5営業日、犯歴提出不要。 ビザ 最大5年間免除。1回あたり90日まで滞在可能。通常労働者(LD1/LD2)の入国可能期間の2.5倍。 留意点:認定基準は施行令待ち 「高品質デジタル技術専門家」の認定基準は、2026年5月時点で施行令(Decree)による詳細化を待っている段階です。当面は確認書取得手続を社内で標準化し、要件が明確化された時点で速やかに申請できる体制を整えておくことを推奨します。 中央政府が枠組みを提供し、地方政府が具体的な金額を競う構図の中で、すでに4つの主要地方が独自の半導体支援制度を打ち出しています。中央優遇よりも地方補助の方が、案件収支に直接効くことを示しています。 高度専門家採用費:50%補助、上限6,000万VND/月/人、最長24か月 R&D・チップ設計費:70%補助、上限200億VND/案件 新規設備投資:10%補助、上限300億VND/案件 AIインフラ・データセンター案件:最大2,000億VND/案件 半導体・UAV(無人航空機)向けに1,000ヘクタールの用地構想を打ち出しています。うち500ヘクタールは即応可能とされ、Samsung Vietnamの主要拠点に近接する立地が強みです。 ダナン特別決議により、R&D費の150%スーパー控除(支出した費用の1.5倍を損金算入できる仕組み)、土地賃料支援、行政手続簡素化などが認められています。中部の設計拠点として独自のポジショニングを志向しています。 Samsung関連の先端電子基板案件を後押ししており、ロボット・自動運転・スマート電子機器向けの部材供給拠点として整備が進められています。 2026年1月から5月にかけて、ベトナム半導体産業は「設計→試作→製造→OSAT」が短期間で接続する重要な動きを見せました。主なイベントは以下のとおりです。 日付 主要イベント 1月7日 国家MPW(マルチプロジェクトウェハ)センター設立 1月15日 ASMLとの人材育成・ファブ形成支援で合意 1月16日 Viettel、国内初ファブ着工(Hòa Lạc、27ヘクタール、2026-2030) 1月28日 FPT、国内資本OSAT工場公表(28-32nm Edge AI SoC) 2月19日 政府がIntelに対し生産拡大・R&D設置を要請 3月10日 半導体FDI累計141億USD超・241案件と政府発表 3月20日 ホーチミン市が補助パッケージを正式公表 4月14日 Samsung Innovation Campusに半導体教育を追加 4月30日 10戦略技術群決定(首相決定21/2026/QĐ-TTg)署名 5月11日頃 Bắc Ninh 1,000ヘクタール用地構想を公表 法人税優遇・地方補助・個人所得税免除・ビザ免除は、それぞれ別ルートでの認定・申請が必要です。後付けで複数の優遇を取りに行こうとすると、要件未充足により大幅な取り逃しが生じます。進出スキーム設計の最初の段階で、どの優遇を取るかを決定し、それに合わせた会社形態・事業内容・人員配置を組む必要があります。 「高品質デジタル技術専門家」の認定基準は、施行令による詳細化を待っている段階です。当面は確認書(Confirmation Letter)取得手続を社内で標準化し、要件が明確化された時点で速やかに申請できる体制を整えておくべきです。 ベトナム政府自身が、電力・水・廃水処理・R&Dラボの不足を制度文書で認めています。半導体製造には極めて安定した電力供給と純水・廃水処理能力が必要であるため、土地取得や工場建設より先に、工業団地運営者・電力会社との間でユーティリティ供給のサービスレベル契約(SLA)を契約化することが必須です。停電・断水時のバックアップ、純水水質基準、廃水処理キャパシティなどを契約書レベルで合意しておく必要があります。 戦略製品関連の半導体投資は、輸出管理・原産地規則・対中関係・日米韓技術協力と密接に連動します。日本の外為法に基づく輸出管理、米国のECCN分類、ベトナムの外資規制、第三国由来部材の取扱いなどを案件設計段階で精査する経済安全保障DDが必須となります。 投資支援基金等から受け取る補助金については、減価償却特例の議論が進行中です。補助金収入の認識タイミング、設備の取得価額からの控除、税務上の取扱いなどを、会計監査人・税理士と早期に協議して一体設計する必要があります。 ベトナムにとって半導体は、産業政策である以前に「中所得国の罠脱却・2045年高所得国入り」のための国家プロジェクトです。日系企業にとっては、この国家命題に組み込まれる形で参入することが、最も政策リスクが低く、リターンが大きい構図と言えます。 最先端ファウンドリーで競うフェーズではなく、不足工程を埋める段階投資が現実的です。具体的には以下の分野に商機があります。 OSAT・試験評価(後工程、信頼性試験、品質保証) 特定用途チップ(AIカメラ、UAV、6G、IoT、自動車向け) 材料・装置・保守(高純度材料、検査装置、メンテナンス) 教育・人材・ラボ(企業内研修、共同研究、技術移転) 用地・ユーティリティ(工業団地開発、純水・廃水処理) 段階投資+JV(合弁)/技術ライセンス/受託評価から始めるのが、政策リスクをコントロールしやすい王道です。特に2025-2026年に整備された人材優遇(PIT 5年免除・就労許可不要・5年ビザ免除)は、日系企業にとって駐在員派遣コストを大きく下げる構造変化です。設計拠点・R&Dセンター・教育拠点の早期立上げに有利な追い風と言えます。 結論 ベトナム半導体政策は、2024-2026年に法的基盤・税制優遇・人材政策・地方制度の4階層で集中的に整備され、質的転換期を迎えました。日系企業にとっては、不足工程を埋める段階投資+JV/ライセンスが王道です。優遇取得の入口設計を進出前に確定させ、ユーティリティSLAの契約化と経済安全保障DDを並行して進めることが、成功確率を高める鍵となります。 ベトナム法務コラム一覧 CastGlobal Law Vietnam のサービス案内 ベトナム進出・投資に関するご相談

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ERC先行可能に ― 新投資法で変わるベトナム新規進出のタイムライン
ベトナムへの新規進出を検討する外国投資家にとって、「操業開始までどれくらいの期間がかかるのか」は最重要論点の一つです。2026年3月1日施行の新投資法(法律第143/2025/QH15号)は、第19条第2項で「ERC(企業登録証明書)先行設立」を原則として容認し、従来の「IRC取得→ERC取得」の順序を見直しました。本コラムでは、この制度変更が新規進出の実務タイムラインに及ぼす影響を、条文・当局運用・他社実務報告を踏まえて整理します。 旧法下では、外国投資家はIRC(投資登録証明書)を取得した上で、ERC(企業登録証明書)を申請する順序が原則でした(2020年投資法第22条第1項c号)。新投資法第19条第2項は、市場参入条件を満たすことを条件に、ERCを先行取得する形での会社設立を認めました。 なお、2020年投資法の2025年改正(法律第90/2025/QH15号、2025年7月1日施行)により、革新的スタートアップ等の限定的な場合には既にIRC前ERC申請が認められていました。新投資法は、この特例を業種を限定せず原則化した点が前進です。 新投資法第19条第2項は「外国投資家は、投資登録証明書の発給または変更手続を行う前に、投資プロジェクトを実施するための経済組織を設立することができる。ただし、経済組織設立手続を行う際に、本法第8条に規定する外国投資家の市場参入条件を満たさなければならない」と規定しています(筆者仮訳)。 第8条の市場参入条件とは、外資出資比率、投資形態、投資活動の範囲、投資家の能力等です。 実務上の論点として、旧ルート(IRC先行→ERC)が引き続き選択可能かは条文上明確ではありません。施行細則草案(2026年2月2日付第2版)でも判然としない状況です。ただし、当局担当者により判断が分かれる可能性があるため、申請先となる管轄当局への事前確認が安全です。 中規模サービス業(都市部オフィス設立)を想定した場合の比較は以下のとおりです。   単純比較で、操業開始まで1〜3か月程度の前倒しが現実的です。 銀行口座・リース・雇用契約といった「会社でしかできない行為」をIRC取得前から並行処理できる点が最大のメリットです。 ERC取得後にできる行為: 印章・税コード取得 会社名義での通常口座開設 オフィス賃貸借契約 雇用契約 定款資本の払込準備 社内体制整備 IRC取得までできない/リスクがある行為: 投資プロジェクトの本格実施 FDI資本金の払込(直接投資資本口座=DICAの開設にはIRC提示を求める銀行運用が一般的) 条件付業種のサブライセンス取得、工業団地への入居本契約。 なお、外資規制対象分野や条件付業種では、結局ERC設立時点で第8条の要件を充足する必要があり、その手続に時間を要するため、時間短縮にならないケースもある点に留意が必要です(。 製造業では、第19条のERC先行よりも第28条の特別投資手続の対象拡大が実務的メリットとなります。 2020年投資法下では、特別投資手続の対象は特定区域(工業団地、輸出加工区、ハイテクパーク、集中デジタル技術区、自由貿易区、国際金融センター、経済特区内)のプロジェクトのうち、イノベーションセンター、R&D、半導体、優先ハイテク、デジタルインフラ整備等の特定業種に限定されていました。 新投資法では業種限定が撤廃され、特定区域内なら業種を問わず対象となります(第28条)。 特別投資手続が適用されると、投資方針承認・技術審査・環境影響評価・詳細計画・建築許可・防火防災承認が免除され、原則として申請から15日以内にIRCが発行されます(下位政令で発行期限は最終確定待ち)。 免除の代替として、基準遵守のコミット書面と環境影響の評価・緩和策を記載した投資提案書の提出が必要です。ERC先行と第28条特別投資手続を組み合わせた設計も視野に入ります。 施行細則は2026年2月2日付の第2版草案が公表された段階で、正式公布には至っていません。 施行直後の2026年3月2日、ハイフォン市財政局は投資登録関連手続書類の受理を一時停止する公文書(No.1623/STC-KTDN)を発出しました。 これを受けて3月4日、財政省が「新法の規定に適合する範囲で旧法下の下位法令に従い受理・処理を継続する」旨の調整公文書(No.2519/BTC-PC)を発出し、一応の収束を見ました。ただし「適合する範囲」の解釈は不明確で、担当者レベルでの受理拒否リスクは残りますので、申請前の管轄当局への事前確認を強く推奨します。 また、条件付事業分野は旧法下の234事業分野(施行後2分野廃止で232分野)から198分野に削減され、税務手続代行、税関手続、中古品の一時輸入・再輸出、職業紹介等の計38事業が除外されます(2026年7月1日施行)。 同時にVSIC(首相決定第36/2025/QĐ-TTg号、2025年12月23日)が改訂されたため、ERC上の業種コード登録と付録IVとの対応関係の精査が必要です。 ERC先行設立(第19条第2項)と特別投資手続の対象拡大(第28条)は、新規進出の時間設計を再考させる重要な制度変更です。 サービス業・IT系ではERC先行による1〜3か月の前倒しが現実的であり、製造業では業種限定が撤廃された第28条特別投資手続の活用が大きく浮上します。業種・規模・立地に応じて最適ルートが異なるため、「どのルートを選ぶか」「どのタイミングで何を並行させるか」を事前に設計することが、新法下の新規進出を成功させる鍵となります。 施行細則の正式公布と当局運用の安定化には引き続き注視が必要です。

【2026年5月更新】タンソンニャット空港「プレアライバル申告」制度の最新運用状況|APECレーン活用・根拠法令・義務vs推奨を整理

コラム
2026.04.16
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【2026年5月更新】タンソンニャット空港「プレアライバル申告」制度の最新運用状況|APECレーン活用・根拠法令・義務vs推奨を整理...
速報 2026年5月9日 更新 初版公開:2026年4月16日 / 最終更新:2026年5月9日 / CastGlobal Law Vietnam 📝 2026年5月9日更新内容 ・根拠法令(Công văn số 1474/CACK TSN)を特定 ・「義務」vs「推奨」のソース別整理を追加 ・事前登録者のAPECレーン(ファストトラック)利用の実態を追加 ・航空会社(Vietjet、Korean Air等)の対応状況を追加 ・国際移民法事務所(Fragomen)の分析を追加 ・各国比較表にシンガポール・インドネシアを追記 2026年4月15日より、ホーチミン市タンソンニャット国際空港において、外国人の入国に係る事前申告登録制度(Pre-Arrival Information)が開始されました。制度開始から約1ヶ月が経過し、実際の運用状況が明らかになってきましたので、最新情報に基づきアップデートします。 ホーチミン市出入国管理局(Công an cửa khẩu Sân bay Quốc tế Tân Sơn Nhất)は、入国審査の効率化・迅速化およびデジタルトランスフォーメーション推進の一環として、外国人およびベトナム系外国籍者(越僑)を対象に、入国前にオンラインで個人情報を事前申告する制度を2026年4月15日から正式に開始しました。 根拠文書はCông văn số 1474/CACK TSN(タンソンニャット空港出入国管理局公文書第1474号)です。 ▍ ポイント整理 制度名称 Pre-Arrival Information(事前入国情報申告) 根拠法令 Công văn số 1474/CACK TSN 開始日 2026年4月15日 対象空港 タンソンニャット国際空港(ホーチミン市)のみ ※ノイバイ(ハノイ)等は現時点で対象外 対象者 外国人およびベトナム系外国籍者(越僑) ※ベトナム国籍者(ベトナムパスポート使用)・トランジット客は対象外 義務 or 推奨 下記「義務vs推奨」セクション参照 費用 無料(クレジットカード情報の入力も不要) 登録可能時期 入国の3日前(72時間前)から 対応言語 日本語を含む複数言語対応 所要時間 パスポート・フライト情報等を手元に用意すれば約3〜5分 1 公式サイトにアクセス https://prearrival.immigration.gov.vn/ から申告画面に入る。公式QRコードからのアクセスも可能。 2 個人情報・渡航情報を入力 国籍、到着日、パスポート情報、ビザ情報、出発国、渡航目的、フライト番号、ベトナムでの宿泊先(ホテル名・住所)、出国予定日等を入力。日本語での案内に対応。パスポート写真をアップロードすると一部自動入力される機能もあります。 3 QRコードを受領・保存 登録完了後にQRコードが発行され、登録メールアドレスにも送信されます。携帯でスクリーンショットを撮るか、印刷して持参してください。機内で携帯の電池切れや着陸時の電波不良に備え、複数の方法で保存しておくことを推奨します。 4 入国審査時にQRコードを提示 タンソンニャット空港の入国審査窓口でQRコードを提示。従来の手動入力による処理が、QRスキャンにより大幅に短縮されます。 本制度について「義務なのか推奨なのか」という点は、情報ソースによって表現が異なっており、混乱が生じています。以下、主要ソースごとに整理します。 情報ソース 表現 備考 ベトナム主要メディア (Thanh Niên, Người Lao Động, CafeF等) bắt buộc(義務) Công văn 1474/CACK TSNに基づき報道 米国大使館 must(義務) 「all foreign passport holders must complete」と明記 Fragomen (国際移民法大手事務所) must(義務) ただし「パイロットプログラム」と位置づけ。4月末までは過渡期として遅延を予想 在ホーチミン日本国総領事館 (制度開始初期の案内) 推奨 出入国管理局への確認として「義務ではない」と案内。根拠法令が十分に出ていなかった制度初期の情報 当事務所の見解 公式通知(Công văn 1474/CACK TSN)自体は「bắt buộc(義務)」のトーンであり、ベトナムの主要メディアおよび米国大使館もこれに準じた表現を使用しています。在ホーチミン日本国総領事館が「推奨」と案内したのは、根拠法令が十分に共有されていなかった制度開始初期の情報に基づくものです。 一方で、実運用上は、未登録であっても入国拒否にはならず、手続きに時間がかかるだけというのが現時点での実態です。 「義務だが罰則なし」という状態は、ベトナムの行政運用においてはしばしば見られるパターンです。ただし、今後運用が定着するにつれ、未登録者への対応が厳格化される可能性は十分にあります。事実上の義務として対応しておくことを強く推奨します。 制度開始当初(4月中旬)は運用が固まっておらず、QRコードを提示してもどの窓口で見せるのか現場レベルで混乱が見られました。 しかし、2026年5月上旬時点では、以下のような運用が確認されています。 ✅ 実際の運用(2026年5月時点・当事務所確認) 事前登録済みのQRコードをAPECレーン(ファストトラックレーン)の担当者に提示すると、APEC/ABTCカード保持者用のレーンに並ばせてもらえる運用が行われています。 この場合、ファストトラックサービスを別途購入していなくても同様の扱いとなります。 ※ まだ運用が完全に固まっていない段階であり、今後変更される可能性があります。ただし、出入国管理局が事前登録者にメリットを出そうとしている方向性は明確です。今後運用が変わる可能性もあるのでご注意ください。 タンソンニャット空港は設計容量を大幅に超過しており、ピーク時(特に夕方以降の国際線集中時間帯)には入国審査の待ち時間が40分〜90分に達することがあります。事前登録によりAPECレーンを利用できれば、大幅な時間短縮が可能です。 各航空会社もこの制度への対応を進めており、チェックイン時や予約確認メールで旅客への通知を開始しています。 Vietjetはいち早く対応し、オンラインチェックイン時に通知を発信。Korean AirやSingapore Airlines等の国際航空会社も予約確認メール等を通じて旅客に事前登録を案内しています。出入国管理局も、航空会社および旅行会社に対して旅客への事前周知を正式に要請しています。 公式ポータル(prearrival.immigration.gov.vn)での入力項目は以下の通りです。 入力カテゴリ 入力項目 基本情報 国籍、到着予定日、パスポート写真(任意・自動入力用) パスポート情報 氏名、生年月日、性別、パスポート番号(パスポート記載と完全一致が必須) ビザ情報 ビザ種別(e-Visa、VOA、免除等) 渡航情報 出発国、渡航目的、移動手段、フライト番号、入国地点(タンソンニャット) 滞在先情報 宿泊先名、市、区、住所。就労目的の場合は勤務先情報も 出国予定 ベトナム出国予定日 入力後、確認画面で情報を精査した上で送信すると、システムがファイル番号を付与し、QRコードを生成します。QRコードは登録メールアドレスにも送信されます。 なお、到着日が変更になった場合は、新しい日程が72時間以内に入った時点で再度フォームを送信し直す必要があります。子供を含む全ての旅客に個別の申告が必要ですが、保護者が代理で入力可能です。 国 制度名 導入時期 義務/推奨 ベトナム Pre-Arrival Information 2026年4月 義務(実態は柔軟運用) タイ TDAC(TM6 e-form) 2025年5月 義務 韓国 e-Arrival Card 2025年2月 推奨(K-ETA保持者免除) シンガポール SG Arrival Card 2024年 義務 インドネシア 電子税関申告 2024年 義務 日本 Visit Japan Web 2022年11月 推奨 テンポラリーレジデンスカード(TRC / thẻ tạm trú)を保持し、Autogateに登録済みの外国人(日本人駐在員等)がPre-Arrival申告の対象に含まれるかどうかは、公式には明確にされていません。 Autogateは生体認証(顔認証・指紋)とパスポートスキャンにより本人確認を行う別系統のシステムであり、Pre-Arrival申告とは独立して機能すると考えられます。Autogateでの通過は通常30秒〜1分程度で完了します。 ただし、現時点では「Autogate登録者は申告不要」という公式見解がないため、念のため事前登録しておくことを推奨します。登録自体は無料で3〜5分程度で完了し、デメリットはありません。 当事務所からの推奨事項(2026年5月更新) 日系企業の駐在員およびベトナムへ渡航する全てのビジネスパーソンに、次回入国時からの事前登録を強く推奨します。 ① 登録は無料で、日本語対応のため手続きが容易(約3〜5分) ② APECレーン利用による大幅な時間短縮が期待できる(実際に運用確認済み) ③ 米国大使館・ベトナム主要メディアは「義務」と明記しており、未登録の場合は処理時間が延長される ④ 将来的な義務化の厳格化(罰則追加等)に備え、早期に登録プロセスに慣れておくことが望ましい ⑤ タンソンニャット空港の1日の到着者数はピーク時に4万8,000人を超え、設計容量を大幅に超過 企業の管理部門・総務部門向けの推奨:出張者の事前チェックリストにPre-Arrival登録を追加してください。e-Visa・航空券・宿泊確認書と同様の必須準備項目として取り扱うことを推奨します。 国際移民法大手事務所のFragomenは、本制度を「パイロットプログラム」と位置づけ、他の入国地点への拡大が予定されていると分析しています。 実際、登録ポータルには空路だけでなく陸路・海路の選択肢が既に含まれており、入国地点のフィールドもタンソンニャットに限定されていません。これは、ノイバイ(ハノイ)やダナン等の国際空港、さらには陸上国境への拡大が技術的に準備されていることを示しています。 ベトナム政府はデジタルトランスフォーメーションを国家戦略として推進しており、タンソンニャットでのパイロット運用を経て全国展開に移行する流れは確実視されます。 ⚠ 詐欺サイトへの注意喚起 本登録は完全無料であり、クレジットカード情報の入力は一切不要です。 既に、手数料を徴収する「代行サイト」が複数確認されています。必ず公式URL(prearrival.immigration.gov.vn)からアクセスしてください。ドメインが .gov.vn であることを確認してください。 万が一、登録の過程でクレジットカード情報や金銭の支払いを求められた場合は、詐欺サイトの可能性が高いため、直ちに手続きを中止してください。

【2026年度最新】ベトナム産休手続きガイド

コラム
2026.04.16
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【2026年度最新】ベトナム産休手続きガイド
ベトナムにおいて、女性社員から出産の報告を受けた際、会社担当者は産休取得に必要な書類の確認から社会保険機関への申請手続きまで、一連の流れを正確に把握しておく必要があります。本コラムでは、2025年7月施行の2024年社会保険法(41/2024/QH15)や、2026年7月改正予定の人口法の内容に基づき、産休取得の前提条件・期間・必要書類・手続きの流れ・支給額の目安を整理して解説します。 産休給付を受けるには、原則として出産前の12か月間に6か月以上の社会保険加入が必要です(社会保険法41/2024/QH15 第50条第2項)。 なお、以下の例外があります。 12か月以上加入済みで、医師の指示により養胎のため休職した場合:直近12か月のうち3か月以上の加入で可(第50条第3項) 不妊治療のために休職した場合:出産前24か月間に6か月以上の加入で可(第50条第5項) まずは対象の社員様がこれらの条件を満たしているかをご確認ください。 女性社員が出産する場合、産休期間は6か月間です(社会保険法第53条第1項、労働法第139条第1項)。このうち、出産前に最大2か月を前倒しで取得できます。双子以上の場合は、2人目から1人につき1か月が追加されます。 ※2026年7月から、第2子を出産する場合、7か月間取得できる形で人口法改正により改正される予定です。 なお、女性労働者は、出産前に、最大10日(2日×5回)、出産前検診のための休暇(「検診休暇」といいます)を取ることができます(社会保険法第51条)。 また、①労働者と会社の合意、②医師からの診断書取得、を条件として、最短4か月で職場復帰することができます(労働法第157条第4項。以下、この職場復帰を「早期復帰」といいます)。 基本書類として、子の出生証明書の写しが必要です(実務上は公証コピー「Giấy Chứng Sinh」がもとめられることが多いです)。 加えて、以下に該当する場合は追加書類が必要です。 養胎のため休職した場合:医療機関の休職指示書(第61条第1項d号) 不妊治療を受けた場合:治療過程を証明する書類(第61条第1項a号) 出産後に母親が死亡した場合:死亡証明書の写し(第61条第1項b号) 出産後に母親が健康状態でない場合:医療機関の文書の写し(第61条第1項c号) 出産後に胎児が死亡した場合:死亡証明書の写し等(第61条第2項) 休暇日数は原則5営業日になります。必要書類は以下のとおりです。 子の出生証明書等の写し 帝王切開または32週未満の出産の場合:その旨を記載した医療機関の確認書 別途、会社と労働組合(ある場合)の決定に基づきます(社会保険法第60条第2項)。5~10日が上限です。 社会保険法2024 第62条に基づき、以下のとおりです。 産休中、会社は労働者に対して給与を支給する必要はありません(労働法第186条第2項)が、労働者が社会保険料の給付を受ける手続きについては、会社が労働者に代わってその申請手続きを行う必要があります。 ① 社員 → 会社へ書類提出 産休期間終了後45日以内に、上記の書類を会社に提出します(第62条第1項)。 ※実務上は、出産後に出生証明書等が取得でき次第、速やかに提出いただくのが望ましいです。 ② 会社 → 社会保険機関へ提出 会社は、書類の受領から7営業日以内に、産休取得者のリストを作成し、書類とあわせて社会保険機関に提出します(第62条第1項)。 ※通常、社会保険ソフトを通じて電子申請を行ったあと、文書での提出も求められます。 ③ 社会保険機関による審査・支給 社会保険機関は、完全な書類受領から7営業日以内に審査・支給を行います(第62条第3項)。不支給の場合は、書面で理由が通知されます。 ※修正依頼が数回入ることも多いため、実際には10営業日以上かかることがほとんどです。仮に会社が社会保険料の納付を怠たることにより労働者が社会保険給付を受けられなかった場合、会社は従業員に対して本来給付を受けることができたはずの金銭を給付する義務を負います。 主な支給内容は以下のとおりです。 産休手当(第59条第1項):直近6か月の社会保険料算定対象給与の平均 × 100%(※)× 6か月(双子以上でない場合) 出産一時金(第58条第4項):参照額× 2/子 検診休暇手当(第58条第2項):給付月額に相当する金額を24で割った金額 リハビリ休暇手当(第60条第3項):参照額の30% × 日数(最大5~10日) 産休期間中は社会保険の加入期間としてカウントされ、労働者・使用者ともに社会保険料の納付は不要です(第53条第8項)。 (※)なお、ここでいう「給与」は実際の給与額ではなく、社会保険料の算定基礎となる給与なので、上限があります。現行の上限は参照額(mức tham chiếu)の20倍です(2024年社会保険法第31条)。参照額は現時点では基礎給与が廃止されるまでは基礎給与と同義となっており、2024年7月1日以降の基礎給与は月額234万VNDなので、社会保険料の算定対象給与の上限は月額4,680万VND(約28万円)となります。 つまり、仮に社員の実際の給与が月額6,000万VNDであっても、産休手当の計算基礎は4,680万VNDが上限になります。実際の給与との差額分は社会保険からの補填対象にはなりません。   産休制度は、会社の手続き不備によって労働者が本来受け取るべき給付を受けられなかった場合、会社が当該金銭の支払義務を負うリスクもあるため、書類の受領と社会保険機関への提出は期限管理を徹底する必要があります。また、2026年7月からの改正予定(第2子出産時の産休7か月化)にも留意が必要です。

2026年4月の大型連休について(フン王記念日・南部解放記念日・メーデー)

コラム
2026.04.03
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2026年4月の大型連休について(フン王記念日・南部解放記念日・メーデー)
2026年4月は、雄王(フンヴォン)記念日(4月26日)、南部解放(戦勝)記念日(4月30日)、国際メーデー(5月1日)の3つの祝日が集中し、カレンダーの並びから大型連休を取りやすい構成となっています。 とくに2026年は、4月28日(火)・29日(水)の2日間だけ有給休暇を取得すれば、最大で9連休となる可能性があり、従業員の休暇申請、工場の操業、物流、送金スケジュールなど、企業実務への影響も小さくありません。本コラムでは、2026年4月末から5月初旬にかけての祝日配置と、民間企業として押さえておきたい実務上のポイントを整理します。     1.2026年4月〜5月初旬の祝日カレンダー 2026年4月末から5月初旬にかけては、以下のようなカレンダーとなります。 日付 曜日 区分 備考 4月25日 土 週末   4月26日 日 祝日 雄王記念日(旧暦3月10日) 4月27日 月 振替休日 雄王記念日が日曜のため翌月曜に振替 4月28日 火 平日   4月29日 水 平日   4月30日 木 祝日 南部解放(戦勝)記念日 5月1日 金 祝日 国際メーデー 5月2日 土 週末   5月3日 日 週末   ポイント: 4月28日(火)・29日(水)の2営業日を挟んで、前半3連休(4月25日〜27日)と後半4連休(4月30日〜5月3日)が並ぶ形です。 2.雄王(フンヴォン)記念日(4月26日) 雄王記念日(Ngày Giỗ Tổ Hùng Vương)は、ベトナム建国の祖とされる雄王を祀る日であり、旧暦3月10日に定められている祝日です。旧暦基準のため、毎年西暦上の日付が変動する点が特徴です。 2026年はこの日が4月26日(日曜日)に当たるため、祝日が週休日と重なる場合の取り扱いにより、翌4月27日(月曜日)が振替休日となります。そのため、土日を含めると4月25日(土)〜27日(月)の3連休になります。 この時期は、北部フート省のフン王祠を中心に祭典が行われるほか、国内旅行・帰省需要も高まりやすく、交通機関の混雑が見込まれます。 3.南部解放記念日・メーデー(4月30日・5月1日) 続いて、ベトナムでは4月30日が南部解放(戦勝)記念日、5月1日が国際メーデーとして法定祝日となっています。 4月30日:南部解放(戦勝)記念日 1975年のベトナム戦争終結と南北統一を記念する日です。 5月1日:国際メーデー 国際的な労働者の日として位置づけられています。 2026年は、4月30日が木曜日、5月1日が金曜日に当たるため、その後の週末である5月2日(土)・3日(日)と連続し、自然に4連休となります。 2025年との違い: 2025年は祝日の並びの関係で特別な振替措置が取られましたが、2026年は木曜・金曜の配置となるため、特段の追加措置がなくても4連休が成立しやすい点が特徴です。 4.「2日休めば9連休」―大型連休の設計 2026年の最大のポイントは、4月28日(火)と29日(水)の2日間に有給休暇を取得するだけで、4月25日(土)〜5月3日(日)まで最大9連休にできることです。 4/25(土) 4/26(日) 4/27(月) 4/28(火) 4/29(水) 4/30(木) 5/1(金) 5/2(土) 5/3(日) 週末 祝日 振替休日 有給取得で連休化 有給取得で連休化 祝日 祝日 週末 週末 このような日並びは、従業員側にとっては魅力的である一方、会社にとっては休暇申請の集中や、操業・納期・物流の調整が必要となる場面でもあります。特に観光地や航空券の予約が早期に埋まりやすくなるため、従業員の申請も通常より早いタイミングで集中する可能性があります。 5.民間企業の実務対応 法定祝日として扱われるのは、雄王記念日、南部解放記念日、メーデーの計3日です。さらに、2026年は雄王記念日が日曜日に当たるため、4月27日(月)が振替休日となります。 一方で、4月28日(火)・29日(水)は法定休日ではありません。 そのため、この2日を休業日にするかどうかは、各企業の方針や就業規則、勤務カレンダーの設計によって対応が分かれます。 パターン 4/28・29の扱い メリット 注意点 A.通常営業 平日として営業 生産・納期への影響を最小限に抑えやすい 有給申請が集中する可能性があり、人員調整が必要 B.有給取得推奨 有給休暇の取得を推奨 従業員満足度の向上、取引先休業時の実務負担軽減 実質的な強制取得と受け取られないよう配慮が必要 C.振替出勤+全休 別日の土曜出勤等を設定し、4/28・29を振替休日化 連休を明確化し、社内運用を一本化しやすい 就業規則・勤務カレンダー・事前通知の整備が重要 連休の運用方法を会社として決める場合、少なくとも早めの段階で社内周知を行い、工場・倉庫・物流・管理部門を含めた勤務体制を固めておくことが重要です。特にシフト制の職場では、代替要員の確保や休日出勤者の把握も前倒しで進めておく必要があります。 6.日系企業が注意すべきポイント 4月下旬から5月初旬にかけて、ベトナム側のサプライヤーや委託先が一斉に休業する可能性があります。 日本のゴールデンウィークとも時期が近いため、日越双方で確認・承認が止まりやすく、通常よりも意思決定が遅れやすくなります。 発注、検品、出荷、承認スケジュールは、できるだけ前倒しで組んでおくのが安全です。 連休前後は港湾やコンテナヤードの混雑が発生しやすく、通常より早いカット日が設定されることがあります。 税関システムが動いていても、現場対応人数が限られるケースがあるため、搬入・書類差替え・ゲート締切などは各オペレーターの案内を事前に確認すべきです。 最終出荷日から逆算した生産・在庫調整が重要になります。 銀行休業により、外貨送金やL/C決済のタイミングに影響が出るおそれがあります。 月末月初に支払いや決済が集中する企業では、連休前の前倒し手配を検討する必要があります。 祝日に労働させる場合は、割増賃金の計算が必要になります。 祝日が週休日と重なる場合には、振替休日の付与が必要です。 連休明けの欠勤・遅刻・有給の集中申請なども見越して、就業規則や運用ルールを確認しておくと安心です。 ホーチミン市中心部では、南部解放記念日前後に式典やイベントに伴う交通規制が行われる可能性があります。 空港、長距離バスターミナル、高速道路などは、帰省ラッシュにより混雑しやすくなります。 2026年4月末〜5月初旬の休暇方針を早めに社内で決定する 4月28日・29日の扱い(通常営業、有給推奨、振替休日化)を明確にする 取引先・サプライヤー・物流会社の休業予定を事前確認する 出荷、通関、送金、承認フローを前倒しで準備する 祝日勤務者がいる場合は割増賃金計算を事前確認する 日本本社や関係会社との緊急連絡体制を整えておく ※本記事は2026年4月3日時点で整理した内容に基づいています。運用にあたっては、最新の当局案内、各企業の就業規則・社内運用をご確認ください。

【2026年2月施行】ベトナム新規制4政令を実務目線で整理:金・外為罰則/著作権/税務申告/オンライン広告

コラム
2026.02.22
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【2026年2月施行】ベトナム新規制4政令を実務目線で整理:金・外為罰則/著作権/税務申告/オンライン広告...
2026年2月、ベトナムで日系企業の実務に直結する4つの政令が相次いで施行されました。内容は「新しい禁止を増やす」というより、違反時の罰則・当局対応・手続運用を具体化して執行しやすくする方向です。これらの政令の概要をまとめます。 対象政令(施行日) ・政令340/2025/NĐ-CP(2026年2月9日) ・政令373/2025/NĐ-CP(2026年2月14日) ・政令341/2025/NĐ-CP(2026年2月15日) ・政令342/2025/NĐ-CP(2026年2月15日) 政令340/2025は、通貨・銀行分野の行政罰則を全面改訂する政令です。旧・政令88/2019(および改正政令143/2021)を置き換え、2026年2月9日から適用されます。 実務で最も多いのは、①無許可両替(許可のない両替店・金店等)での外貨売買、②ベトナム国内取引での外貨(USD/JPY等)建て表示・契約、③外貨による支払です。政令340は、これらを金額レンジに応じて段階的に罰則化しています。 典型類型 取引金額(USD相当) 罰則(個人の目安) 補足 無許可両替/個人間売買/外貨での支払(違法) 1,000未満 警告(原則) 再犯・反復で罰金へ 同上 1,000〜10,000未満 1,000万〜2,000万VND 出張者の“ちょい両替”がここに入り得ます 同上 10,000〜100,000未満 2,000万〜3,000万VND まとまった送金・決済で問題化しやすい帯 同上 100,000以上 8,000万〜1億VND 高額取引は執行対象になりやすい 外貨建て表示(契約・広告・値札等) 金額に関係なく成立 3,000万〜5,000万VND 「USD建て+VND支払」でも表現次第でリスク 実務コメント(重要) 外為違反は「会社が指示していない従業員の行為」でも、経費精算・取引書類・社内チャット等の痕跡から、会社側の管理不備として発展するケースがあります。少なくとも、(i) 出張・駐在者向けの外為ルール、(ii) 契約テンプレ(通貨条項・表示条項)、(iii) 例外があり得る取引(特区・専門法の例外等)の整理、は優先度が高いです。 金地金(いわゆる“金塊・ゴールドバー”)については、無許可での製造・売買等は3億〜4億VND(=300〜400 million VND)という大きなレンジの罰則が想定されています。一方、個人が陥りやすいのは「無許可業者との売買」「金を決済手段にする」などの行為で、まずは警告、再犯・反復で1,000万〜2,000万VNDに上がり得ます。 無許可業者(許可のない銀行・企業等)との金地金売買、金を支払手段として使う:まず警告→反復で罰金の可能性 同一顧客が1日あたり2,000万VND以上の金売買は、顧客口座と金業者口座での口座決済が原則(現金運用はリスク) 実務上、金店・小規模店舗が混在するため、「相手が許可業者か」の確認が重要 出張者・駐在員向け:両替は「銀行・正規両替所のみ」、領収書要件、違反時の社内対応(経費精算不可/報告義務)を明文化 契約書・見積書・請求書:ベトナム国内取引の通貨表示(USD/JPY)が残っていないか棚卸し(賃料・サービス料・ロイヤルティで頻出) 経理・財務:海外送金・外貨取引のエビデンス(契約・請求書・支払指図)を整備し、銀行からの照会に耐える形へ   政令341/2025は、著作権・関連権の侵害について35の侵害行為類型を明確にし、罰則を整理・強化しました。罰金上限は個人2億5,000万VND、法人5億VNDで、同一行為について法人は個人の2倍という整理です。 ソフトウェア:ライセンス数超過、無断インストール、在宅端末への転用 マーケ素材:画像・動画・フォント・BGMの権利処理不足(制作会社任せで証憑がない) 社内利用:研修資料・翻訳物・SNS投稿での転載/二次利用 実務の勘所 「制作会社が作った=自社が自由に使える」ではありません。①権利帰属(著作権が誰に帰属するか)、②利用範囲(媒体・期間・地域・改変可否)、③再委託の有無を契約と証憑で残すことが、最もコスパの良いリスク低減策です。   政令373/2025は、税務管理法の施行細則である政令126/2020を改正し、申告・決算の運用を調整しました。日系企業の実務で影響が出やすいのは、四半期申告の要件不充足時の扱いと、複数給与(複数社)を得る個人のPIT確定申告の提出先です。 納税者が自ら(または税務当局から指摘されて)要件不充足を認識した場合、次の四半期の初月から月次申告へ切替 過去の四半期分について、月次申告書を再提出し、延滞金(tiền chậm nộp)は計算 ただし、切替に伴って再提出する月次申告書については「遅延提出の行政罰は課さない」という整理(手続リカバリーの明確化) 複数の支払者から給与所得がある場合、年間で最も大きい所得を支払った組織を管轄する税務当局に提出する整理です。提出先を誤った場合も、税務当局側で転送支援を行う旨が示されています。 経理・給与:自社が月次/四半期のどちらで申告しているか、要件を満たしているかの再点検 駐在員・兼業:複数社から所得が出るスキーム(兼職、役員報酬、プロジェクト手当等)がある場合、PIT確定申告の導線を整理¥   政令342/2025は、改正広告法の下で、オンライン広告を中心に運用要件を具体化しました。日系企業にとって重要なのは、(A)ユーザー保護UI要件、(B)違法広告の遮断・削除(24時間)、(C)事業者側の届出・保存・報告義務です。 広告を閉じるアイコン/機能は、1回の操作で広告が閉じられること 静止画広告:待機時間なし 動画・アニメ等:待機(スキップ不可)時間は最大5秒 広告主、広告サービス事業者、媒体(掲載者)等は、当局からの要請を受けた場合、原則24時間以内に違法広告の遮断・削除を実施(または協力)することが求められます。体制がないと、代理店任せの企業ほど対応が遅れがちです。 連絡先情報の事前通知:ベトナムで広告サービスを開始する前に、文化スポーツ観光省へ連絡先情報を通知(変更時は再通知) 記録の保存:広告活動に関する情報・契約・素材等を保存(保存期間:最終表示日から3年間) 年次報告:ベトナムでのオンライン広告サービス事業について、毎年11月25日までに年次報告(臨時報告もあり得ます) オンライン広告の実務では、次のような健康・環境に影響する11カテゴリが特に注意領域です(表示要件・専門法令・許認可とセットで点検が必要)。 化粧品/食品/乳幼児向け栄養製品(一定類型) 家庭・医療用の殺虫・消毒製品、化学物質 医療機器/医療サービス(診療等)/医薬品 農薬、動物用医薬品、飼料、水産養殖関連、種苗等 肥料/種子・苗 アルコール飲料(ビール、度数15度未満の酒等を含む) 代理店契約:違法広告の指摘が来た場合の「24時間対応の主体」「素材差し替え権限」「ログ・素材の保管責任」を明文化 クリエイティブ設計:動画広告は5秒以内で主張が伝わる構造に(スキップ前提) エビデンス保管:健康・食品・化粧品等は、専門法令上の根拠(表示・許認可・届出)をセットで保管 より詳しい内容は以下をご確認ください。 【2026年2月15日施行】広告法・新政令(342/2025/NĐ-CP)の概要と実務対応~UX規制の導入と管理体制の変更点~

【2026年2月15日施行】広告法・新政令(342/2025/NĐ-CP)の概要と実務対応~UX規制の導入と管理体制の変更点~

コラム
2026.02.11
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【2026年2月15日施行】広告法・新政令(342/2025/NĐ-CP)の概要と実務対応~UX規制の導入と管理体制の変更点~...
ベトナム政府は2025年12月26日、広告法の詳細規定を定める新政令 342/2025/NĐ-CP(以下、新政令)を公布しました。本政令は2026年2月15日より施行され、従来の政令(181/2013/NĐ-CPおよび70/2021/NĐ-CP)は同日をもって失効します。 今回の改正では、インターネット広告における「ユーザー体験(UX)」に関する具体的な技術要件や、違反広告への対処フロー、行政報告の期限などが変更されています。 本稿では、新政令の条文に基づき、日系企業が留意すべき変更点と実務上の対応事項を整理します。 新政令では、インターネット上の広告表示について、利用者の利便性を確保するための技術的な要件が明文化されました。特にアプリ内広告やポップアップ広告などの仕様において、以下の基準を満たす必要があります。 「固定領域外広告」の定義とスキップ時間:画面上の位置が固定されず、コンテンツの一部または全部を覆う広告(固定領域外広告)について、以下の仕様が義務付けられました。 静止画広告:待機時間なしで即時に閉じることができなければなりません。 動画・動画像広告:広告を閉じるまでの待機時間は最大5秒と規定されました。 「閉じる」ボタンの仕様:広告を閉じるためのアイコンは、1回の操作(ワンタップ)で機能する必要があります。また、偽の閉じるボタンや、識別が困難なボタンの配置は禁止されています。 違反報告機能の実装:利用者が違反広告を通報したり、表示を拒否したりするための導線(アイコンや手順)を配置し、通報に対して適時に処理・通知を行う仕組みが求められます。 自社でアプリやWebサービスを運営している場合、あるいは広告配信を行う場合、広告の表示仕様がこれらの要件に合致しているか、開発・技術部門と連携して確認する必要があります。 広告サービスを提供する企業(広告代理店や媒体社、自社で広告枠を運用する企業等)に対し、以下の行政手続や管理義務が規定されています。 連絡先の事前通知(Form 03):ベトナムでネット広告サービスを提供する組織・企業は、営業開始前に文化・スポーツ・観光省へ連絡先情報(Form 03)を通知する必要があります。通知受理後、4営業日以内に確認書が交付されます。 年次報告期限の変更(11月25日):広告サービス事業者の活動に関する年次報告(Form 04)の提出期限が、従来の「年末」等の慣例から、毎年11月25日に設定されました。 広告記録の3年間保存:広告サービス提供者は、契約書、広告サンプル、掲載期間、位置情報などの記録を、広告表示終了日から3年間保存し、当局による確認が可能な状態にしておく義務があります。 コンプライアンスカレンダーの更新(報告期限の変更)およびデータの保存体制(サーバー容量や保存フロー)の見直しが推奨されます。 特定の製品・サービス(「特別な製品」)に関する広告要件が整理されています。特に以下のカテゴリーでは、必須表示項目に変更や具体化が見られます。 健康補助食品(Thực phẩm bảo vệ sức khỏe)等:製品カテゴリーに応じた定型文言(”Thực phẩm bảo vệ sức khỏe”等)の表示に加え、「本品は薬ではなく、治療薬の代替にはならない」といった推奨文言の表示が必要です。音声・映像広告において、15秒未満の場合は読み上げが免除されますが、画面上での文字表示は必須となります。 化粧品:製品名、機能・効能、公表責任者の名称・住所に加え、国際協定に基づく警告等の表示が必要です。 使用中のバナーや動画広告内の文言が、新政令の要件(文字サイズや表示時間含む)を満たしているか、マーケティング部門での再点検が必要です。 違法広告(法令違反やセキュリティ侵害など)への対処について、対応期限と措置が具体的に規定されました。 24時間以内の削除・遮断義務:広告主、広告サービス提供者、配信者等は、文化・スポーツ・観光省や所管当局から違法広告の通知を受けた場合、24時間以内に当該コンテンツを処理(削除・遮断)する必要があります。 不履行時の技術的措置:上記の要求に応じない場合、文化・スポーツ・観光省および公安省は、通信事業者等を通じて 広告やサービスへのアクセスを技術的に遮断する措置を講じるとされています。この措置は、違法状態が解消されるまで解除されません。 万が一、当局から削除要請があった場合に、担当者不在等で対応が遅れないよう、緊急時の連絡体制や対応フローを整備しておくことがリスク管理上重要です。 新政令 342/2025/NĐ-CP は、デジタル広告のUX規制や管理手続において、より具体的かつ厳格なルールを設けています。 2026年2月15日の施行までに猶予期間はありますが、システムの改修や社内規定(報告期限や記録保存)の更新には時間を要する場合があります。現行の運用と新規定とのギャップを確認し、計画的に準備を進めることをお勧めします。 また、広告法の法改正については、2026年1月1日施行のベトナム広告法改正|インフルエンサー義務化とオンライン広告ラベル等についても、合わせてご確認ください。

「外貨両替は“正規ルートのみ”」を改めて徹底へ―政令340/2025/NĐ-CP(2026年2月9日施行)が実務に与える影響

コラム
2026.02.06
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「外貨両替は“正規ルートのみ”」を改めて徹底へ―政令340/2025/NĐ-CP(2026年2月9日施行)が実務に与える影響...
2026年2月9日施行の政令340/2025/NĐ-CP(通貨・銀行分野の行政違反行為と制裁に関する政令)を背景に、ベトナムでは外貨両替について「正規ルートの徹底」が改めて強く意識される局面に入っています。 本稿では、報道と法令(政府法令ポータル等の一次情報)に基づき、一般論としてのポイントと実務上の注意点を整理します。 政令340/2025/NĐ-CPは、通貨・銀行分野(外為・金取引を含む)における行政違反行為と制裁(罰金、没収等)を体系的に定めるものです。政府の法令ポータル等で、公布日(2025年12月25日)・施行日(2026年2月9日)・署名者(副首相 Hồ Đức Phớc)といった基本情報が確認できます。 重要なのは、これが「外貨両替を新たに禁止する」政令というより、従来からある外為規制(許可された場所での取引等)に違反した場合の処分を、より具体的に・厳格に運用しやすくする性質のものだという点です。     報道で繰り返し注意喚起されているのは、次の2類型です。実務的には、「どこで」「誰と」両替したかが最初のリスク分岐になります。 個人同士で外貨を売買する(友人・知人間の両替等) 外貨両替の許可・登録がない組織で外貨を売買する(自由市場、“chợ đen”と呼ばれる闇市場を含む) 大手紙でも、政令340/2025に基づき、こうした行為が取引金額に応じて処分対象となり得る旨が明確に報じられています。     「地域によって両替の“体感難易度”が違う」背景を理解するうえで、具体的な摘発事例は重要です。 2025年10月、ダナン市公安(Công an TP Đà Nẵng)の経済安全部門が、市中心部の金店(宝石店)での外貨売買について、店舗側(私企業の金店)と顧客双方に行政処分を行い、違反に係るVND・外貨を没収した旨を公表・報道しています。規模として「20億VND超相当」と報じられています。 この種の事例がある地域では、店舗側が「リスクに見合わない」と判断して取扱停止(事実上の撤退)に振れやすく、結果として「街の店舗では両替が難しい」という状況が生まれやすくなります。本事例は新政令ができる前の処分ですが、このような実例によってダナンはより厳しく取り締まられる状況にありますので、新政令の運用にも注視が必要です。     今回の局面で影響を受けるのは観光客だけではありません。 在住外国人・出張者:現金ニーズがあっても、安易に非正規ルートに流れると、罰金・没収リスクが現実化します。 宝石店・両替店:許可・登録の有無が死活問題となり、取扱継続には手続・帳票等のコンプラ強化が不可欠です。 銀行・金融機関:行政処分リスクを踏まえ、支店レベルでのKYC/AML、取引目的・証憑確認がより厳格化しやすい環境になります。   政令340/2025は外貨だけでなく、金地金・金製品(vàng)についても行政処分を規定しています。そのため施行前後は「没収されるらしい」といった不安が出やすく、VOVなどが“どういう場合に没収が問題になるのか”を解説しています。 実務上の教訓はシンプルです。“一般人の通常の保有”の話と、“無許可営業・無登録取引”の話を混同しないこと。そして当局が問題視しているのは、許可・登録・正規手続を外した取引である点です。     報道と法令から導ける、現実的な注意点を4つに絞って整理します。 両替は「銀行」または「正規の外貨両替代理店」に限定 許可・登録が確認できない金店、個人間両替は避けるのが安全です。 “店も客も”処分され得る ダナン市公安の事例が示すとおり、顧客側も処分対象になり得ます。 没収があり得る以上、レートが良くても割に合わない 金額が大きいほどリスクは増え、都市によっては「店がやらない」判断が合理的になり得ます。 現金依存を下げる(カード・送金・ATMの併用) 制度・運用の方向性として「正規金融チャネルに寄せる」圧力が高まる局面です。   政令340/2025/NĐ-CP(2026年2月9日施行)は、外貨両替を「突然禁止」する類のものではありません。一方で、個人間両替や無許可店での両替に対して、罰金だけでなく没収まで含めて執行しやすい法体系となり、既にダナン市公安のように具体的な摘発事例も存在します。 したがって実務的には、「両替は正規ルートだけ」「証憑・正規手続を外さない」「現金依存を下げる」の3点を徹底することが、最も合理的で安全な対応です。

2025年以降のベトナム電子たばこ規制の最新動向 ―使用者への罰金とたばこ法改正案(2026年2月時点)

コラム
2026.02.02
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2025年以降のベトナム電子たばこ規制の最新動向 ―使用者への罰金とたばこ法改正案(2026年2月時点)...
本コラムは、2024年12月3日付「2025年からのベトナム電子たばこ規制の概要」の続編として、2026年2月時点での最新状況をアップデートするものです。 2024年11月の国会決議第173/2024/QH15号により、ベトナムでは2025年から電子たばこ(ベイプを含む)および加熱式たばこについて、製造・販売・輸入・保管・輸送・使用を全面的に禁止する方針が示されました。その後、投資法、行政罰政令、そして「たばこ被害防止法」(以下「たばこ法」)の改正案が相次いで公表され、規制は「グレーゾーン」から「全面禁止・厳格取締り」へと明確にシフトしています。 以下では、前回コラムからの主なアップデートとして、 ① 電子たばこ使用者そのものを直接処罰する政令第371/2025/ND-CP号の内容 ② 電子たばこ・加熱式たばこ等を法律レベルで組み込むたばこ法改正案の骨子 を中心に整理します。 まず、ベトナムにおける電子たばこ規制の「土台」となる枠組みを簡単におさらいします。 2024年11月30日に採択された国会決議第173/2024/QH15号において、 「電子たばこ・加熱式たばこ・その他健康に有害なガス・成分」について、 2025年から製造・取引(販売)・輸入・保管・輸送・使用を全面禁止する方針が明記されました。 これにより、電子たばこ等はベトナム法上、いわゆる「禁止商品(hàng cấm)」として位置付けられています。 投資法の改正により、電子たばこ・加熱式たばこに関する投資・事業活動は、投資禁止分野として明示されました。 これにより、電子たばこ関連ビジネスは、ライセンス実務上も「そもそも登録・許可できない分野」という扱いになります。 電子たばこ等は、政令第98/2020/ND-CP号の規定する「国家が生産・経営・使用を禁止する商品」に該当すると解されており、 その製造・販売・輸入・輸送・保管については、 行政罰:高額の罰金、商品・違法利得の没収など(政令第98/2020/ND-CP号) 刑事罰:一定額以上の取引・組織的違反等の場合、刑法第190条「禁止商品の製造・取引罪」により懲役刑・多額の罰金 といった二重の法的リスクが存在します。 この段階で、メーカー・輸入業者・卸売・小売・物流などの事業者側が電子たばこを扱うことは、既に行政・刑事両面で極めてハイリスクな行為になっている点が重要です。   前回コラムでは、電子たばこの「使用」については、保健省が政令第117/2020/ND-CP号(医療分野の行政違反処理)改正案の中で、使用者に対する罰金(案)を検討している段階であるとご紹介しました。 その後、政府は2025年12月31日付で政令第371/2025/ND-CP号を公布し、同日から施行しました。本政令は、電子たばこ・加熱式たばこに関する行政罰規定を本格的に導入するものであり、特に「使用者本人」を直接処罰する点が従前と大きく異なります。 電子たばこ・加熱式たばこを使用した個人は、 3,000,000〜5,000,000VND(約114〜190米ドル)の罰金の対象となります。 併せて、使用に供した電子たばこ機器・カートリッジ等は没収・破棄されます。 自己の管理する場所(飲食店、ホテル、カラオケ、オフィス、商業施設等)で、電子たばこ・加熱式たばこの使用を許容・黙認した場合、 個人管理者:5,000,000〜10,000,000VNDの罰金 組織(法人等):上記の2倍の罰金 という制裁が規定されています。 これにより、従来のように「禁止商品をビジネスとして扱うとアウト」という事業者側中心の枠組みに加えて、「ベトナム国内で電子たばこを吸った人」も行政罰の対象になることが明確化されました。在留邦人や出張者・旅行者についても、「日本から少量を持ち込んで自分だけで吸うなら問題ない」という感覚は、現行制度の下では明確にリスクが高いと言わざるを得ません。   2026年1月、保健省は「たばこ被害防止法」(2012年法)改正案について、関係省庁・専門家からの意見聴取(パブリック・コンサルテーション)を開始しました。報道ベースで判明している主なポイントは以下のとおりです。 電子たばこ 加熱式たばこ 電子機器(電子たばこ・加熱式たばこ用デバイス) 加熱式たばこ用の特別加工たばこ その他の新型たばこ製品 などの概念を、たばこ法の定義条文に新たに追加する方向です。従来のたばこ法は紙巻きたばこ中心の設計であり、電子たばこ・加熱式たばこに関する定義や禁止行為が明確ではありませんでしたが、これを実態に合わせてアップデートする狙いがあります。 改正案は、既に国会決議第173/2024/QH15号および投資法、政令第371/2025/ND-CP号等で示された方針を踏まえ、以下の行為を法律レベルの禁止行為として明記する方向です。 電子たばこ・加熱式たばこおよびその他新型たばこ製品の所持(保管)・輸送・使用の禁止 これら製品の製造用部品・機器の製造・売買の禁止 これにより、「完成品」だけでなく、組み立て用デバイスやリキッド、部品等も含めて規制対象であることが、法律上明確化される見込みです。 改正案では、紙巻きたばこを含む全てのたばこ製品について、 広告・スポンサー・販売促進・マーケティング活動の全面禁止 小売店・コンビニ・スーパー等でのたばこ製品・パッケージ・ブランドの店頭での陳列禁止(顧客から見えない形での保管) などの措置が盛り込まれています。特にコンビニや免税店等にとっては、レジ周りやショーケースの見せ方を根本的に見直す必要が出る可能性があります。 医療機関・教育機関・子ども向け施設・高火災リスク区域に加え、 法律で特別に認められる一部のケースを除き、全ての屋内施設・公共交通機関を全面禁煙とする方向が示されています。 併せて、施設管理者・組織の責任者に対し、禁煙ルールの掲示・周知・違反者への指導等を行う法的責任をより明確に課す方向性も示されています。 たばこパッケージの主要面に占める健康警告表示の面積を、現行の50%から前面・背面それぞれ85%以上に拡大する案が提示されています。 加えて、2027年1月1日からは特別消費税法の改正により、たばこに対する絶対額課税(1箱あたりの固定額)+従価税のミックス課税が導入される予定であり、価格面からも喫煙抑制を図る方向です。 世界保健機関(WHO)の勧告に沿い、「たばこ対策政策を商業的利益から保護する」趣旨の規定を法文に盛り込む案が検討されています。 禁煙外来や相談窓口などの禁煙支援サービスの対象に、電子たばこ・加熱式たばこ使用者も明示的に含めることが提案されています。 報道によれば、この改正たばこ法は、2026年の国会で審議され、2027年1月1日施行を念頭に置いた長期的な枠組みと位置付けられています。 電子たばこ規制の流れを簡潔にまとめると、以下のようになります。 〜2024年:たばこ法は紙巻きたばこ中心で、電子たばこは定義や禁止行為が不明確。 → 他の法令(禁止商品規制等)を通じて部分的に対応。 2024年11月:国会決議第173/2024/QH15号により、2025年からの製造・販売・輸入・保管・輸送・使用の全面禁止を政治的に宣言。 2024〜2025年:投資法改正により電子たばこ関連事業を投資禁止分野に分類。行政罰政令の改正作業が進行。 2025年12月31日:政令第371/2025/ND-CP号が公布・施行され、 電子たばこ・加熱式たばこの使用者に対する3,000,000〜5,000,000VNDの罰金+機器没収、 使用を容認した施設管理者への5,000,000〜10,000,000VND(組織は2倍)の罰金が明文化。 2026年1月以降:たばこ法改正案により、電子たばこ等の定義、所持・輸送・使用の禁止、広告・展示禁止、禁煙区域拡大、パッケージ警告85%等を法律本文に取り込むプロセスが進行中。 これらを総合すると、ベトナムは電子たばこ・加熱式たばこについて、 国会決議(基本方針) 投資法(投資禁止分野) 行政罰政令(政令第98号・第371号等) たばこ法本体(改正案) という四層構造で、「全面禁止・ゼロトレランス」のスタンスを固めつつあると評価できます。 電子たばこ本体、リキッド、加熱式たばこ用デバイスや部品等を扱う事業は、投資法上禁止事業であり、 同時に「禁止商品」の製造・販売・輸入・保管・輸送として、行政罰および刑事罰の対象となり得ます。 今後、たばこ法改正により部品・設備の製造・売買も法律レベルで禁止行為として位置付けられる見込みであり、「デバイスだけ」「リキッドだけ」といったモデルも含め、実務上は撤退・中止が前提と考えるべきです。 飲食店、ホテル、カラオケ、コワーキングスペース、オフィス等の管理者が電子たばこ使用を黙認した場合、政令第371/2025/ND-CP号に基づき罰金の対象となります。 就業規則、ハウスルール、利用規約、館内掲示等の中で、紙巻きたばこだけでなく電子たばこ・加熱式たばこも含めて全面禁煙とする旨を明記し、従業員・利用者に周知することが重要です。 たばこ法改正により、店頭でのたばこ製品の陳列禁止が導入されると、小売店舗のレイアウトにも影響が出る可能性があります。 2025年12月31日以降、ベトナム国内で電子たばこ・加熱式たばこを使用した場合、個人として3,000,000〜5,000,000VNDの罰金+機器没収のリスクがあります。 また、税関実務上も電子たばこは輸入禁止品として扱われており、入国時に発見された場合には没収等のリスクがあります。 実務的には、「ベトナムには電子たばこを持ち込まない・吸わない」ことを前提としたコンプライアンスが、安全なラインと考えられます。 ベトナムにおける電子たばこ・加熱式たばこ規制は、 国会決議による全面禁止方針の明確化 投資法上の禁止事業化 政令第371/2025/ND-CP号による使用者・施設管理者への罰金の導入 たばこ法改正案による定義・禁止行為・広告規制・禁煙区域・警告表示等の恒久ルール化 という形で、段階的に強化されてきました。今後、国会審議の中で細部の文言が修正される可能性はあるものの、全体としては「規制が緩む」よりも「さらに厳格になる」方向性が高いと考えられます。 日本企業としては、電子たばこ関連ビジネスへの関与を避けるとともに、自社オフィス・店舗における禁煙ルールの整備・運用、在越日本人社員や出張者・旅行者への周知を早めに徹底することが重要です。 本コラムは2026年2月時点の情報に基づいており、今後新たな法令・政令が公布された場合には、随時アップデートしていく予定です。   関連記事: 2025年からのベトナム電子タバコ規制の概要