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私たちは、2013年にベトナムに設立した日本人弁護士とベトナム人弁護士の所属する日系の弁護士事務所です。ハノイ市とホーチミン市に拠点を有しています。
ベトナムでは、大きなトラブルにならないように日常的に法務を意識して経営することが重要ですが、実際には何が問題になりうるのかや日本との違いもわからず、法的な事柄によって日々の業務に集中できないことも多く生じています。
お客様に憂いなくビジネスに集中いただくため、"法務面からベトナムビジネスを伴走する身近なパートナー"として貢献していきます。
CASTの特徴FEATURES
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ビジネスの現状・ベトナムのスピード感に合わせたスピーディーかつ柔軟な対応
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タイムチャージに基づかないリーズナブルで相談しやすい顧問契約の設定
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ベトナムのM&A、不動産、企業運営に関わる法務、知財戦略などの専門分野の支援実績
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- 2026.05.22
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ベトナム条件付き事業の追加削減提案|投資法2025に続く政府決議草案のポイント
2026年5月5日、ベトナム政府の電子情報ポータル(Báo Điện tử Chính phủ)において、「条件付き投資事業分野の削減に関する政府決議草案」(Dự thảo Nghị quyết về cắt giảm ngành, nghề đầu tư kinh doanh có điều kiện)の全文が公開されました。財務省(Bộ Tài chính)が提案主体となり、現在、同省ポータルで意見聴取(パブリックコメント)に付されています。
この草案は、2025年12月11日に可決された投資法(Luật Đầu tư số 143/2025/QH15。以下「投資法2025」)の附録IVに定める条件付き投資事業分野から、さらに58分野を削除し、12分野の内容を修正しようとするものです。施行予定期間は2026年7月1日から2027年3月1日までの時限措置とされています。
報道では「カジノ・カラオケがライセンス不要になる」といった見出しも見られますが、これは正確な理解とはいえません。本稿では、草案の一次資料および関連法令に基づいて、何が提案され、なぜ政府決議という形式で投資法上のリストを削減できるのか、そして日系企業にどのような実務上の含意があるのかを整理します。なお、本草案はあくまで意見聴取段階のものであり、正式な発布までに分野数や内容が変動する可能性がある点に、あらかじめご留意ください。
ベトナムの投資法は、原則として投資・事業活動の自由を認めつつ、国防・国家安全保障・社会秩序・社会道徳・公衆衛生といった理由から特定の分野について「条件付き投資事業分野」(ngành, nghề đầu tư kinh doanh có điều kiện)を定め、各分野ごとに事業条件(ライセンス、資本要件、施設要件等)を課しています。この一覧が、投資法2025の附録IV(Phụ lục IV)です。
今回の財務省草案は、この附録IVのリストそのものを縮小しようとするものです。具体的には、58分野を条件付き事業から除外し、12分野について規定内容を修正します。除外対象には、カジノ、ベッティング(賭博)、カラオケ・ナイトクラブ、宿泊サービス、再保険、保険ブローカー、会計サービス、コメ輸出、酒類、自動車の製造・組立・輸入など、日系企業の関心が高い分野が多く含まれています。
草案は6条構成で、本則のほか、削除分野を列挙した付録1(Phụ lục 1)と、修正分野を列挙した付録2(Phụ lục 2)が添付されています。主な内容は次のとおりです。
第1条は適用範囲を定め、投資法2025附録IVの一部分野を削除・修正する旨と、適用対象(投資家、権限ある国家機関、ベトナムでの投資事業活動に関係する組織・個人)を規定しています。
第2条は削減の6原則を定めています。
要約すると、(1)投資法第7条1項の理由(国防・安全保障・社会秩序・社会道徳・公衆衛生)から条件を課す必要がない、または国民・企業の権利を直接保護しない分野、(2)施設・運営品質・学歴経験資格などの要件に紐づき、技術基準・規格・職業基準を策定することで「事前審査」から「事後監督」へ管理を転換できる分野、(3)条件が不明確・定性的で定量化が困難な分野、(4)他分野と類似する、または他の管理によって既に審査されている分野、(5)産出する製品・サービスの品質を市場が決定でき、国防等への危害リスクがない分野、(6)規定以来いまだ事業条件が制定されていない、または既に条件規定がなくなった分野、です。特に第2原則に「事前審査(tiền kiểm)から事後監督(hậu kiểm)への転換」が明文で掲げられている点は、本草案の思想を端的に表しています。
第3条が58分野の削除(付録1)、第4条が12分野の修正(付録2)を定めます。
修正12分野は、削除ではなく規定内容の絞り込みが中心です。たとえば、賞金付きゲーム事業(附録IV No.30)は「電子」「外国人向け」という限定が外れ、食品事業(No.44)は専門管轄から商工省が外れて農業環境省・保健省の管轄へ整理され、水産飼料・肥料(No.125、No.142)は「事業(kinh doanh)」から「製造(sản xuất)」へと対象概念が絞られます。
第5条は効力と施行責任、第6条は実施組織を定めます。第6条2項(b)は、削除対象分野について2026年7月1日より前に技術基準・規格・職業基準を策定し、事前審査から事後監督へ移行する手続を構築すべきことを各省庁に求めています。
なお、削除分野数について、2026年5月初旬の一部報道では「60分野削除・14分野修正」とされていましたが、5月5日に政府ポータルで公開された草案本文は「58分野削除・12分野修正」と明記しています。本稿は草案本文の数値に拠っています。また、削除候補の一部(自発的な薬物依存治療・高齢者ケア等の分野。附録IV No.60)には、保健省と公安省が削減の是非を協議すべき旨の脚注が付されており、最終的な削除分野数は58から変動し得ます。
ここで、法務担当者の方が必ず疑問に思う点を整理しておきます。条件付き事業のリスト(附録IV)は投資法という「法律」で定められた事項です。本来、これを変更するには国会による法律改正の手続が必要なはずです。それを、なぜ「政府決議」というより簡易な形式で削減できるのでしょうか。
その根拠が、国会決議第206/2025/QH15号(2025年6月24日、第15期国会第9会期で可決。以下「決議206」)です。決議206は、法令の規定が矛盾・重複・不明確であったり、過度なコンプライアンスコストを生じさせて経済・社会の発展を阻害している場合に、これを「困難・障害」と判定し、通常の立法手続によらず特別な方法で処理できる特別メカニズムを定めたものです。
決議206第4条1項は、その処理方法として、(a)法律の解釈・適用指針、(b)簡易手続による法令の制定改廃、(c)法律の改正が間に合わない間、政府決議または国会常務委員会決議によって現行法律の一部規定を一時的に調整すること、の3つを認めています。今回の財務省草案は、このうち(c)を用いています。すなわち、投資法附録IVの本格的な改正を待たず、政府決議によって暫定的にリストを縮小する、という建て付けです。
この点を象徴するのが、草案の決議番号です。先に公開された草案の冒頭には「Số: 66…/2026/NQ-CP」という、一見中途半端に見える番号が記されています。これは記入漏れではありません。決議206第4条2項は、この特別メカニズムに基づき発布される政府決議について、「66.1」から始まる専用の連番で番号を付すと定めています(条文には例として「Nghị quyết số: 66.1/2025/NQ-CP」と示されています)。つまり「66番台」という番号自体が、本決議が通常の政府決議ではなく、法律事項を一時的に調整するための特別決議であることを示す印になっているわけです。
もっとも、この授権は無制限ではありません。決議206は、経済社会・国防・安全保障・外交に大きく影響する内容や未規定事項を扱う場合には事前に党の権限機関の意見を聴くこと(第4条2項b号)、司法省を常設機関とする独立審査評議会(Hội đồng thẩm định độc lập)が各省庁の代表を交えて審査すること(第5条)、政府および国会常務委員会はこの権限を再委任・分権できないこと(第6条8号)など、複数の手続的な歯止めを設けています。
時限措置とされている理由も、ここにあります。決議206第4条2項d号は、この種の政府決議が効力終了時点を「2027年3月1日より前」に明示しなければならないと定めており、決議206自体の効力も2027年2月28日までとされています。本草案の効力期間(2026年7月1日から2027年3月1日まで)は、この枠組みに対応しています。なお、草案第5条1項の文言は「2027年3月1日まで」(同日を含む趣旨)と読めるのに対し、決議206第4条2項d号は「3月1日より前」を求めており、終期の設定に検討の余地があります。正式発布時に調整される可能性があるため、確定版を確認する必要があります。
本草案は単発の動きではなく、ベトナムが進める一連の規制緩和の流れの中に位置づけられます。時系列で整理すると、次のとおりです。
2025年12月11日、投資法2025(143/2025/QH15)が可決され、条件付き事業は237分野から199分野へと整理されました(38分野を削除)。同法は2026年3月1日から施行されていますが、第7条および附録IVの条件付き事業リストに関する部分は2026年7月1日から施行されます。
2026年3月31日には、投資法2025の実施細則である政令第96/2026/NĐ-CP号(Nghị định 96/2026/NĐ-CP)が発布・即日施行され、従来の政令第31/2021/NĐ-CP号を置き換えました。この政令が、市場アクセス条件や事後監督の具体的な枠組みを定めています。
そして2026年5月5日、本決議草案の全文が公開され、意見聴取が開始されました。投資法2025で199分野まで整理された条件付き事業を、本草案がさらに58分野削除するため、削除が実現すれば条件付き事業はおよそ141分野規模となります(修正12分野は分野数自体を減らすものではありません)。
こうした流れの背景には、民間経済の発展を国家の重要課題と位置づけた党中央の決議第68-NQ/TW号(Nghị quyết 68-NQ/TW)があります。「禁止される分野以外は自由に事業を行える」という方向性のもと、ベトナムは事前許可によって参入を絞る制度から、自由参入を認めたうえで事後監督によって規律する制度へと、明確に舵を切りつつあります。
本草案の本質は、削除される分野の一覧そのものよりも、その背後にある制度設計の転換にあります。すなわち、「事前審査(tiền kiểm)」から「事後監督(hậu kiểm)」への移行です。
従来の枠組みでは、条件付き事業を始めるには、企業登録証明書(ERC)の取得、投資登録証明書(IRC)の取得に加えて、各主管省庁が発行する事業ライセンスの取得という三段階の関門を通過してはじめて営業を開始できました。
これに対し、本草案が想定する枠組みでは、ERCとIRCを取得すれば営業を開始でき、当該分野を主管する省庁は営業開始後に随時、監査や実地検査を行い、違反が認められた場合に事後的に制裁を加える、という形になります。前述のとおり、草案第6条2項(b)は、削除対象分野について技術基準・規格・職業基準を策定し、事前審査から事後監督への移行手続を構築するよう各省庁に求めており、政令96/2026/NĐ-CPもこの事後監督の枠組みを定めています。
この転換には両面があります。事業者にとっては参入時の行政コスト・時間的コストが大きく下がる一方、各国の事例に照らせば、コンプライアンス違反が確認された場合の制裁はむしろ厳格化する傾向があります。参入の容易さと、運営段階での規律の厳しさは、いわば表裏の関係にあるといえます。
本草案をめぐって最も誤解されやすいのが、この点です。ある分野が条件付き事業のリストから外れることは、その分野の規制が撤廃されることを意味しません。投資法上の総論的な参入規制が外れるだけであり、各分野を規律する個別の業法(業種別の法令)は引き続き存続します。
カジノを例にとります。カジノ事業(附録IV No.32)が条件付き事業から削除されても、政令第03/2017/NĐ-CP号(カジノ事業政令)に定める要件、すなわち最低投資額20億米ドル、5つ星ホテルの併設、カジノ面積を施設の3%以下とする制限、投資登録証明書(IRC)の取得義務などは、引き続き適用されます。加えて、マネー・ロンダリング防止法(Luật Phòng, chống rửa tiền số 14/2022/QH15)に基づく報告義務、政令第06/2017/NĐ-CP号(ベッティング事業政令)に基づくベッティング個別ルール、土地法・建築法・消防救助法(Luật số 55/2024/QH15。2025年7月1日施行)による個別審査も、従前どおり存続します。
カラオケ・ナイトクラブ(附録IV No.164)も同様です。条件付き事業から削除されても、政令第54/2019/NĐ-CP号(カラオケ・ナイトクラブ事業政令)に基づく防火・営業時間・治安に関する要件は維持されます。
つまり、本草案が変えるのは「投資法という入口の総論的な参入規制」であって、「各業法に定める実体規制」ではありません。この区別を正確に押さえておくことが、実務上きわめて重要です。
業種ごとに、想定される実務上の含意を整理します。
エンタメ・観光業界(カジノ、カラオケ・ナイトクラブ、宿泊、電子ゲーム等)では、参入手続の迅速化が見込まれます。M&Aの局面では、デューデリジェンス(DD)における「ライセンス保有状況」の確認の比重が相対的に下がり、代わって「コンプライアンス体制が整っているか」の比重が上がることが予想されます。
輸出入・流通(コメ輸出、酒類、自動車、ガス、鉱物、危険物輸送、各種運輸等)では、従来はライセンスを取得済みの企業しか参入できなかった分野で、新規参入や事業拡張がしやすくなる可能性があります。一方で、参入障壁が下がることにより、無資格に近い事業者が流入し、価格競争が激化するリスクも考えられます。
金融・保険(再保険、保険ブローカー、保険代理店、免税品販売、非信用機関による外国為替業務等)では、注意が必要です。今回の草案では、再保険(No.25)・保険ブローカー(No.26)・保険代理店(No.27)の保険3業態が揃って削除候補に挙がっています。ただし、条件付き事業から外れても、保険事業法(Luật Kinh doanh bảo hiểm số 08/2022/QH15)等の業法に基づく個別規制は別途存続します。ベトナム国家銀行(SBV)や財務省(MOF)の個別ガイダンスを併せて確認する必要があります。
M&A・コーポレート全般では、取引実務の重心が移ります。これまで「ライセンスの有無」を起点に行われていたDDや契約交渉が、「事後監督リスクをどう評価するか」へと比重を移すことになります。これに伴い、株式譲渡契約等における表明保証(representations and warranties)条項や、コンプライアンス遵守に関する誓約条項の重要性が、一段と高まると考えられます。
事後監督モデルのもとでは、参入そのものは容易になっても、日々の運営における証跡の管理、内部監査、是正対応こそが事業継続の鍵になります。許認可という「お墨付き」が事業を守る盾になりにくくなるぶん、平時のコンプライアンス体制の巧拙が、そのまま事業リスクに直結する構造です。
この点で、もともとコンプライアンス意識の高い日系企業は、相対的に有利な立場に立ち得ると考えられます。逆に、参入障壁の低下を機に簡易に進出してくる競合が増える分野では、コンプライアンス体制の整備そのものが差別化の要素になり得ます。
最後に、改めて確認しておきます。本決議は現時点で意見聴取段階の草案であり、削除分野の数・内容、効力期間の終期などは、正式発布までに変動する可能性があります。弊所では、本決議の今後の動向について、(1)正式発布の有無と確定内容、(2)業種別の具体的な影響、(3)施行後の事後監督の運用実態、という観点から、続報を順次お届けする予定です。引き続き注視してまいります。
- コラム
- 2026.05.21
- CastGlobal
電子労働契約プラットフォーム本格運用へ ― 2026年5月15日公布の通達の要点と実務対応
2025年12月24日、ベトナム政府は電子労働契約に関する初の包括的な政令である政令第337/2025/NĐ-CP号(以下「政令337」)を公布しました。政令337は、電子労働契約の締結・履行(第II章)に加え、内務省が構築・運営する「電子労働契約プラットフォーム」(第3条第2項)の構築・管理・利活用(第III章)について定めています。施行日は2026年1月1日ですが、プラットフォーム自体は遅くとも2026年7月1日までに本格稼働させることとされ、同日以降に締結される電子労働契約は政令337に従って取り扱われます(同第28条第1項)。
もっとも、政令337はID付与の手順、アカウント運用、eContract事業者の接続手続、データ保存といった技術的・運用的詳細までは規定していません。そこで内務大臣は、2026年5月15日、政令337を詳細化・施行指針化する通達第08/2026/TT-BNV号(以下「通達08」)を公布しました。施行日はプラットフォーム本格稼働に合わせた2026年7月1日です(同第23条第1項)。
電子労働契約がプラットフォームに送信されると、唯一無二のIDが付与されます(同第4条第1項)。このIDは契約の改訂・補足・一時停止・終了があっても変わらず、付録や各種通知も同じIDに紐付けられます(同第4条第2項)。ID構造は「英字1文字+数字12桁」(同第5条)で、英字部分は契約の種類を識別します(A=2026年7月1日以降に政令337第6条準拠のeContractで締結された契約、B=紙契約を電子化したもの、C=2026年7月1日前に締結された電子労働契約)。
ID付与の流れは、eContractサービス提供者(以下「eContract事業者」)が政令337第14条第1項所定のデータとともに契約をプラットフォームに送信し、プラットフォームが受信から24時間以内にIDを自動付与してeContract事業者に返送するというものです(同第6条第2項)。不備があるとIDは付与されず、その旨が通知されます(同第6条第5項)。
労働者・使用者は、原則として国家電子認証システム(VNeID)が発行する電子認証アカウントでログインします(同第7条第1項a号)。法人が法人電子認証アカウントを取得できない場合に限り、内務省が直接アカウントを発行します。アカウントは、①本人申請の場合、②VNeIDアカウント自体のロックの場合、③緊急の情報セキュリティ事象が起こった場合、④管轄機関の決定による場合、⑤その他法令上の事由でロックされ(同第8条第1項)、これらの事由が消滅した場合または管轄機関の決定により解除されます(同第8条第2項)。
eContract事業者は、政令337第6条第3項の条件を満たしたうえで、内務省に接続申請書類を提出し(第9条第1項)、内務省は受理から20営業日以内に書類審査・技術テストを行い、合格した事業者に接続アカウントを発行します(同第9条第2項)。
接続の一時停止事由(同第10条第1項)は、事業者からの申請の場合、登録した技術方案の不遵守の場合、報告義務の不履行の場合、政令337第6条第3項の条件喪失の場合に加え、「直近1か月で累計5%以上の電子労働契約がID付与を拒否された場合」(同項đ号)が定められています。接続終了事由(同第10条第3項)としては、廃業の場合、接続アカウント発行後1年以内に未稼働の場合、書類偽造の場合、電子取引法2023年第6条所定の禁止行為を行った場合、一時停止期間内の不備未是正の場合等があります。原則として3営業日前に内務省からの事前通知がありますが、緊急時は即時停止+24時間以内の事後通知が認められ(通達08第11条第1項)、事業者には弁明・異議申立権が保障されています(同第11条第3項)。なお、すでに適法に締結された電子労働契約の効力には影響しません(同第10条第5項)。
電子労働契約・付録等の保存期間は、労働契約の終了日から10年間とされ、同一の労使間で複数契約が連続する場合は最終契約の終了日が起算点となります(同第18条第3項)。
使用者の労働使用状況報告(政令145/2020/NĐ-CP第4条第2項)はプラットフォーム経由となるため(通達08第19条第2項)、社内業務フローの見直しが必要です。
2026年7月1日以降に締結する電子労働契約は、プラットフォームに送信してIDを取得することが義務付けられます(同第24条第1項)。ただし、政令337第6条第3項の条件を満たしているeContract事業者で同日までに接続未完了の場合でも、同日以降のサービス提供は継続でき、2026年7月20日までに接続を完了すれば足ります。接続前に締結された契約も法的効力を有し、接続完了後に速やかにID付与の対象となります(同第24条第2項)。
これらの政令・通達は、電子労働契約の締結を強制しているわけではございません(政令337第4条第3項)。ただ、「紙の書面による労働契約に代えて電子労働契約を使用することを奨励する」と記載があり、今後は電子労働契約への切り替えを政府が推奨する方向性には間違いありません。少なくとも労働使用状況報告はプラットフォーム経由で行う必要があるため、対応が必要となります。
- コラム
- 2026.05.14
- CastGlobal
ベトナム暗号資産市場、2026年Q3正式始動へ ― 制度整備・初期適格5社・韓国2案件と外資の現実解
特集
2026年5月13日 / CastGlobal Law Vietnam
ベトナム財務副大臣Nguyen Duc Chi氏が、暗号資産市場を2026年第3四半期(Q3)に正式始動する方針を表明しました。デジタル技術産業法(Law 71/2025/QH15)の施行(2026年1月1日)から半年あまりで、ライセンス申請の受付開始、税制ガイダンスの公布、初期適格5社の選定、韓国大手取引所2社との提携公表まで、制度と事業者の準備が同時に進んでいます。本稿では、2025年から2026年5月までの時系列、初期適格5社の最新動向、注目される韓国2案件、そして外資の現実的な参入ルートを日系法律事務所の観点から解説します。
本稿の位置づけ
当事務所では、これまで「ベトナムの暗号資産規制と決済の最新動向【2025年】」で、デジタル技術産業法の成立とIFC構想を中心に、規制整備の「入口」を整理しました。本稿はその続編にあたり、2026年に入って急速に進んだ実装フェーズの動きをまとめます。
ベトナムは、Chainalysisが公表する2025年グローバル暗号資産採用指数で世界3-4位、アジア太平洋では3位という、世界有数の暗号資産普及国です。推計約1,700万人のホルダー、年間取引額は2024年7月から2025年6月にかけて2,200億USD超(前年比+55%)に達し、デジタル経済全体の規模も2026年末までに500億USDに達する見通しです。
これまでベトナムは、暗号資産の保有・取引自体は黙認しつつも、決済への利用は違法、法的な「資産」としての位置づけも不明確という、いわゆるグレーゾーンの状態が続いていました。この状況を抜本的に変えたのが、2025年6月14日に国会で可決され、2026年1月1日に施行されたデジタル技術産業法(Law 71/2025/QH15)です。同法により、ベトナムは世界46か国目の暗号資産合法化国となりました。
ベトナムの暗号資産市場を規律する法令は、上位法から実施規則まで4階層で整理されています。
階層
規範
包括法
デジタル技術産業法(Law 71/2025/QH15、2026年1月1日施行)
パイロット枠組み
政府決議05/2025/NQ-CP(2025年9月9日署名、5年間パイロット)
ライセンス手続
財務省決定96/QĐ-BTC(2026年1月20日公布)
会計・税制・申告
財務省省令15・32・41/2026/TT-BTC(2026年3-4月公布)
重要なのは、政府決議05/2025/NQ-CPが5年間のパイロットプログラムを規定している点です。完成形の制度ではなく、5年かけて運用データを蓄積し、必要に応じて規制を調整する「制御された実験」として設計されています。日系企業にとっては、現行ルールが今後変更される可能性を前提に、柔軟な対応体制を取ることが求められます。
2025年6月14日、国会はデジタル技術産業法(Law 71/2025/QH15)を可決(賛成441/445)しました。同法第3条で暗号資産を「資産」として法的に承認し、ベトナム法制で初めて包括的な定義を導入しました。
2025年9月9日には、Phó Thủ tướng Hồ Đức Phớc副首相が政府決議05/2025/NQ-CPに署名し、5年間の暗号資産市場パイロットプログラムが承認されました。最低資本金10兆VND、外資比率49%上限、機関株主65%以上といった主要要件は、この決議で初めて明文化されています。
2026年に入り、制度整備と事業者選定が急速に進みました。主要なマイルストーンは以下のとおりです。
日付
主要動向
1月1日
デジタル技術産業法 施行
1月20日
財務省決定96/QĐ-BTC公布 ─ ライセンス申請受付開始
3月2日
SSI Digital(SSID)と韓国BithumbがMOU署名(公表は5月7日)
3月4日
会計基準ガイダンス公布(財務省省令 15/2026/TT-BTC)
3月12日
7社申請のうち5社が初期適格審査を通過(財務省内部文書)
3月27日
税制ガイダンス公布(財務省省令 32/2026/TT-BTC)
4月6日
税務申告ガイダンス公布(財務省省令 41/2026/TT-BTC)
4月9日
首相Lê Minh Hưng、Q3 2026までの仕組み完成を国会報告
4月10日
OKX Ventures・HashKey CapitalがCAEXに戦略出資
5月7日
Bithumb × SSID のMOU公表
2026年3月12日時点で、暗号資産取引所ライセンスを申請していた7社のうち5社が初期適格審査を通過したと、ロイターが財務省内部文書を引用して報じています。5社の構成は、銀行・証券系列が4社、コングロマリットが1社という顔ぶれで、ベトナムの大手金融グループが軒並み参入を表明している構図です。
ベトナム大手民間銀行Techcombank傘下の証券会社TCBSの系列会社。資本金1,010億VND(約384万USD)で設立され、会長はNguyen Xuan Minh氏、CEOはDoan Mai Hanh氏。同社は約6か月にわたり技術インフラ整備とKYCパートナーとの体制構築を進め、2026年1月15日以前にライセンス申請を提出した先行組です。
ベトナム大手民間銀行VPBankの系列会社。当初資本金は250億VND(約95万USD)と小規模で設立され、創業株主はVPBank Securities(VPBankS、11%)、LynkiD(50%)、Future Land Investment(39%)という構成です。
注目すべきは、2026年4月10日にOKX VenturesおよびHashKey Capitalが戦略出資を発表したことです。OKXは世界有数の暗号資産取引所、HashKeyは香港拠点のアジア大手暗号資産投資ファンドで、両社の出資により最低資本金要件の10兆VND達成の道筋が見えた格好です。グローバル暗号資産大手のベトナム本格参入の第1弾と位置づけられます。
旧正月直前に資本金を68億VNDから3,600億VND(約1,370万USD)へと50倍以上増資し、市場の注目を集めました。創業株主はDuong Van Quyet氏(40%)、Nguyen Thi Bich Ngoc氏(30%)、Vu Phat Dat氏(30%)で、5社のなかで唯一、銀行・証券系列ではない民間投資家主導の構成です。
証券大手VIX Securities系列のデジタル資産部門。資本金1兆VND(約3,800万USD)で、CEOはNguyen Thanh Que氏。技術インフラ整備でFPT Corp.と提携しており、ベトナム最大手ITグループの技術力を取り込んだ体制を構築しています。
詳細情報は限定的ですが、不動産・観光・インフラを擁する大手コングロマリットSun Group関連と複数のメディアが報じています。金融以外の業界から唯一の通過企業として注目されます。
初期適格5社以外で特に重要なのが、韓国を代表する暗号資産取引所2社が揃ってベトナム市場に進出している点です。
ベトナム最大手証券SSI傘下のSSI Digital(SSID)は、韓国大手取引所Bithumbと2026年3月2日に取引所共同設立のMOUを署名し、5月7日に公表しました。協業範囲は、技術アーキテクチャ、ウォレット・カストディ、コンプライアンス、機関投資家向け業務まで全方位に及び、Bithumbは規制認可後のSSID指定法人への戦略的株式取得の可能性も示唆しています。
SSIDの資本金は当初2,000億VNDでしたが、すでに1兆VNDへの増資を完了しており、最低資本金10兆VND要件達成に向けた追加調達を進めています。
ベトナム軍隊銀行MBは、韓国最大手暗号資産取引所Upbitの運営企業Dunamuと技術提携しています。協業内容は、規制枠組み・運用プロセス・投資家保護メカニズムの共同構築で、韓国Top2の取引所が揃ってベトナム入りした構図となっています。
なぜ韓国系の動きが目立つのか
韓国は2026年2月時点でベトナム最大の対内投資国(累計約952億USD・全FDIの約18%)で、両国経済の連携が強い背景があります。また、韓国は暗号資産取引所の規制・運用ノウハウが世界的にも先行しており、ベトナム側からすれば技術・コンプライアンスの両面で実績ある協業先となります。日系金融機関にとっても、韓国系の動きは参入スキーム設計上の有益なリファレンスとなり得ます。
政府決議05/2025/NQ-CPおよび財務省決定96/QĐ-BTCに基づくライセンス取得要件は、世界的にも極めて厳格な部類に入ります。
要件項目
内容
最低資本金
10兆VND(約3.8億USD)
法人形態
ベトナム法人(LLCまたはJSC)に限定
機関株主
65%以上(うち35%以上は2社以上の金融機関またはテック企業から)
外資比率
最大49%
取引通貨
VND建てのみ(USDTなどステーブルコイン取引不可)
発行可能資産
実物資産バックのみ(法定通貨・有価証券バック不可)
発行先
外国人投資家に限定、発行15日前までに目論見書公表
経営者要件
CEO:金融・経営経験2年以上、CTO:IT/Fintech経験5年以上
専門人員
ITセキュリティ専門家10名以上、証券ライセンス保有者10名以上
セキュリティ
情報セキュリティLevel 4(国家最高水準)、コールドストレージ必須
これらの要件は、参考までにタイ(最低資本金約13.7M USD)やシンガポール(最高ティアでも約50M USD)と比較しても、10倍から28倍程度の水準にあります。ベトナム政府は、初期段階で「資本力と長期的なコミットメントを備えた事業者だけが市場を運営する」という設計思想を取っており、市場の安定性と投資家保護を最優先しています。
財務省省令32/2026/TT-BTC(2026年3月27日公布)では、暗号資産取引に係る主要税目の取扱いが整理されています。
税目
税率
対象
法人税(CIT)
20%
ベトナム法人が暗号資産取引で得た所得
付加価値税(VAT)
非課税
暗号資産の譲渡・取引
個人所得税(PIT)
0.1%(案)
取引総額に対する課税
申告手続については、財務省省令41/2026/TT-BTC(2026年4月6日公布)が、税務申告・源泉徴収・納付・確定申告の枠組みを整備しています。
留意点:PIT 0.1%案には議論あり
PITについては、取引総額の0.1%という案が「実質的に取引コストを引き下げ、投機を誘発する」との批判が一部で示されています。最終的な税率や課税方式は施行に向けて調整される可能性があり、2026年5月時点では確定していません。実務上は、暫定的に0.1%案を前提に試算しつつ、施行令で確定された段階で再計算する体制を取ることを推奨します。
ライセンス制度の運用と並行して、ベトナム財務省はオフショア取引所(Binance、Bybit、OKX国際版など海外プラットフォーム)を利用するベトナム居住者に対する罰則導入を起草中です。報道ベースでは、以下のような枠組みが議論されています。
最初のライセンス取得業者が運用開始してから6か月後、オフショア取引所の国内居住者向けサービス提供が違法化される見込み
個人利用者:最大1億VNDの行政罰
法人利用者:最大2億VNDの行政罰
既存保有資産は、国内ライセンス取引所への移管期間として6か月の猶予が想定
ベトナムの方針は、韓国が先行して取り組んだオフショア規制を参考にしていますが、ベトナムは個人投資家まで罰則対象に含める点でより厳格な設計です。これは、ベトナム居住者がBinance等で取引している規模が極めて大きく、これを国内のライセンス取引所に誘導しなければ制度の実効性が確保できないという背景があります。
ここまで整理してきたとおり、外国取引所のベトナム直接参入は事実上不可能です。申請主体はベトナム法人に限定され、最低資本金10兆VND(約3.8億USD)、機関株主65%以上、外資比率最大49%という三重の参入障壁が設定されています。
現実的な参入ルートは、ライセンス取得済み(または取得見込み)のベトナム企業との合弁・技術提携です。すでに以下のような提携が成立しています。
CAEX × OKX Ventures / HashKey Capital(2026年4月10日戦略出資)
SSI Digital × Bithumb(2026年3月2日MOU、5月7日公表)
Military Bank × Dunamu(Upbit運営)(技術提携)
VIXEX × FPT Corp.(技術インフラ提携)
5社+SSID+MB+Vimexchangeで枠が固まりつつあるなか、外資にとっては「ライセンスを直接取りに行く」フェーズではなく、「誰と組むか」のフェーズに既に入っています。日系企業・日系金融機関がこの市場に関与する場合も、ベトナム側の事業者との提携設計が出発点となります。提携形態としては、技術ライセンス、JV設立、戦略出資(49%上限内)、業務委託(カストディ、KYC/AMLシステム、コンプライアンス・コンサルティング)などが想定されます。
ベトナム暗号資産市場は、2025年6月のデジタル技術産業法可決から1年弱で、立法・パイロット設計・ライセンス手続整備・税制ガイダンス公布・初期適格5社選定・グローバル大手との提携公表まで、極めて速いペースで実装が進んでいます。2026年Q3の正式始動は、こうした準備の集大成と位置づけられます。
結論
ベトナム暗号資産市場は、2026年Q3に正式始動する見通しです。立法から実装まで1年弱で整備された制度は、最低資本金10兆VND・外資49%上限・機関株主65%以上という高い参入障壁を備え、初期段階の市場は5社の独占体制でスタートする構図となります。外資の現実的な選択肢は、ベトナム企業との合弁・技術提携であり、すでにCAEX×OKX/HashKey、SSID×Bithumb、MB×Dunamu、VIXEX×FPTといった枠組みが先行しています。日系企業がこの市場と関与する際は、提携先選定、業務範囲設定、規制動向のモニタリング体制を早期に整えることが、機会獲得とリスク管理の両面で重要となります。
今後の注目点としては、(1)正式立ち上げのタイミング、(2)5社のうち実際に運用開始する企業の確定と運用実績、(3)オフショア取引所への規制強化措置の具体化、(4)PIT 0.1%案の確定、(5)既存ライセンス取得済み事業者への追加出資・株式取得の動向、などが挙げられます。当事務所では引き続き、これらの動向を継続的にフォローし、随時アップデートをお届けします。
ベトナムの暗号資産規制と決済の最新動向【2025年】(本稿の前提となる前回記事)
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ベトナム半導体政策、2026年の質的転換期 ― 中所得国の罠脱却・2045年高所得国入りに向けた法務目線の整理
特集
2026年5月13日 / CastGlobal Law Vietnam
一人当たりGDP 5,026ドル(2025年・ベトナム統計総局)のベトナムが、2045年の建国100年に高所得国入りを国家目標として掲げる中、その「最短ルート」の中核に置かれているのが半導体産業です。本稿では、2024-2026年に集中的に整備された法的基盤、税制優遇、人材政策、地方制度を整理し、日系企業が押さえるべき法務上のポイントを在ベトナム10年の弁護士の視点から解説します。
ベトナムの一人当たりGDPは2024年の4,700ドルから2025年に5,026ドルへと上昇し、世界銀行が定める上位中所得国の閾値に肉薄しています。しかし、ここから先が「中所得国の罠」と呼ばれる難関であり、過去半世紀でこれを抜けて高所得国に到達できたのは日本・韓国・台湾・シンガポール等、世界でも数えるほどしかありません。
ベトナム共産党政治局が2024年12月に発出した党中央決議57号(Resolution 57-NQ/TW)は、この国家目標達成の「最短ルート」として科学技術・イノベーション・デジタル転換を位置づけました。そしてその中核装置として明示的に指定されているのが半導体産業です。
本稿のポイント
ベトナムの半導体政策は、単なる産業政策ではなく「2045年高所得国入り」という国家命題のための戦略インフラとして動いています。2024-2026年の立法ラッシュは、この命題を支える制度設計です。日系企業にとっては、この国家命題に組み込まれる形で参入することが、最も政策リスクが低く、リターンが大きい構図と言えます。
ベトナム政府は、半導体産業発展戦略(首相決定1018/QĐ-TTg、2024年9月21日)において、2050年までの3段階ロードマップを策定しています。
段階
期間
主な目標
第1段階
2024-2030
設計・OSAT(後工程)中心の基盤形成。FDI選別誘致と人材5万人育成。
第2段階
2030-2040
設計企業200社・ファブ2基・OSAT15基の整備。自立とFDIの併存。
第3段階
2040-2050
電子・半導体産業強国としての地位を確立。
注目すべきは、第1段階で「最先端ファウンドリー」ではなく、設計・OSATを中心に据えていることです。これはベトナム政府が、いきなり大規模前工程投資を狙うのではなく、まず人材育成と後工程・特定用途チップで競争力を積み上げる現実的なアプローチを選んでいることを意味します。日系企業にとっては、この方針こそが参入機会の所在を示すシグナルと言えます。
2024-2026年にかけて、半導体産業を支える法令が4つの階層で集中的に整備されました。それぞれが連動して、ベトナムの半導体エコシステムの制度的土台を形成しています。
投資支援基金政令(政府令182/2024/NĐ-CP、2024年12月31日)により、半導体・AI案件への設備投資・R&D・人材・研究インフラに対する現金支援が制度化されました。これは従来の税制優遇中心のアプローチから、現金交付による直接支援への大きな転換点です。
さらに科学技術ブレークスルー特別決議(国会決議193/2025/QH15、2025年2月19日)では、国費R&Dで国家損害が生じても、所定手続を遵守すれば民事責任が免除される「リスク許容原則」が導入されました。これはベトナム法制で従来なかった画期的な条項で、研究開発活動への萎縮効果を取り除く意図があります。
最も重要な立法が、デジタル技術産業法(Law 71/2025/QH15、2025年6月公布・2026年1月1日施行)です。これは半導体を含むデジタル技術産業を対象とした、世界初の包括的な産業法とされています。法人税優遇、コスト補助、通関簡素化、人材育成までを法律レベルで一体的に規律する内容です。
実務上の最重要ポイント:中央戦略×地方執行の協調連邦制
デジタル技術産業法は、半導体案件所在地の省人民評議会が、地方予算からの補助基準・条件・手続・範囲・水準を独自に定めうると明文化しました。これは、中央政府が枠組みを提供し、地方政府が具体的な金額・条件を競って実装するという「協調連邦制」モデルを法的に裏付けたものです。日系企業にとっては、進出先選定が単なる立地比較ではなく、地方ごとの「補助メニュー比較」になることを意味します。
また同時期に成立した科学技術・イノベーション法(Law 93/2025/QH15、2025年6月公布・2025年10月1日施行)は、1992年の旧科学技術法以来のフルモデルチェンジとして、R&D活動と科学技術人材に対する包括的な優遇枠組みを規律しています。
2026年4月30日に署名され、7月1日に施行される10戦略技術群決定(首相決定21/2026/QĐ-TTg)では、半導体チップ技術が戦略技術として正式指定され、30の戦略製品リストも公布されました。これにより、半導体関連投資が国家戦略上の最上位カテゴリーに位置づけられたことになります。
ベトナムの半導体関連法人税優遇として最も注目されるのが、CIT 10%×15年、4年免税+9年50%減税という最厚遇措置です。ただし、この優遇は半導体事業を行えば自動的に適用されるものではなく、特定の法的資格を取得することが前提となります。
資格取得ルート
根拠規範
科学技術企業認定
科学技術・イノベーション法(Law 93/2025/QH15)
ハイテク企業認定
ハイテク法(Law 133/2025/QH15)
特別投資優遇
首相決定29/2021/QĐ-TTg
指定セクター
法人所得税法(Law 67/2025/QH15)第13条による半導体・AI・デジタル技術
さらに、データセンター8,000万USD超または半導体施設1.6億USD超の大型案件は、追加優遇の対象となります。これらの優遇の入口は複数あり、案件のストラクチャーで取れる組合せが変わるため、進出前のストラクチャー設計が決定的に重要です。後付けで優遇取得を試みる場合、要件未充足により大幅な機会損失を招くことが少なくありません。
ベトナム政府自身が、半導体政策の最大のボトルネックは人材であると認識しています。これに対応するため、2024-2026年にかけて人材関連の制度整備が集中的に進められました。実は、日系企業の駐在員派遣コスト構造を根本的に変える可能性のある変化が、この領域で起きています。
半導体人材育成プログラム(首相決定1017/QĐ-TTg、2024年9月21日)では、2030年までに5万人の半導体人材を育成する目標が立てられています。内訳は以下のとおりです。
区分
目標人数
エンジニア・学士
42,000人
修士
7,500人
博士
500人
うち設計分野
15,000人
うち製造・OSAT等
35,000人
AI専門
5,000人
講師
1,300人
2024-2025年度の実績として、半導体関連専攻に約19,000人が入学しており、これはSTEM学生全体の10%に相当します。国家ラボ4か所・公立大学ラボ8か所の整備も進められています。
改正個人所得税法(Law 79/2025/QH15)および科学技術・イノベーション法(Law 93/2025/QH15)等により、「高品質デジタル技術人材」と認定された者は、個人所得税(PIT)が5年間免除されます。対象は次のとおりです。
集中デジタル技術区(DTP)のプロジェクト勤務者
半導体・AI・戦略技術R&D・主要デジタル技術製品の研究開発・製造プロジェクト勤務者
デジタル技術人材育成活動の従事者
科学技術・イノベーション任務遂行による給与所得(2025年10月1日施行)
重要なのは、この優遇がベトナム人・外国人を問わず適用される点です。日系企業が現地に派遣する技術系駐在員も対象となり得るため、適用要件を充足できるよう人事制度を設計することで、駐在員のネット手取りを大幅に改善できる可能性があります。
デジタル技術産業法(Law 71/2025/QH15)第49条および外国人入国管理令(政府令221/2025/NĐ-CP、2025年8月15日施行)により、外国人専門家の入国・就労に関する画期的な優遇措置が導入されました。
項目
内容
就労許可(Work Permit)
不要。確認書(Confirmation Letter)で代替。処理5営業日、犯歴提出不要。
ビザ
最大5年間免除。1回あたり90日まで滞在可能。通常労働者(LD1/LD2)の入国可能期間の2.5倍。
留意点:認定基準は施行令待ち
「高品質デジタル技術専門家」の認定基準は、2026年5月時点で施行令(Decree)による詳細化を待っている段階です。当面は確認書取得手続を社内で標準化し、要件が明確化された時点で速やかに申請できる体制を整えておくことを推奨します。
中央政府が枠組みを提供し、地方政府が具体的な金額を競う構図の中で、すでに4つの主要地方が独自の半導体支援制度を打ち出しています。中央優遇よりも地方補助の方が、案件収支に直接効くことを示しています。
高度専門家採用費:50%補助、上限6,000万VND/月/人、最長24か月
R&D・チップ設計費:70%補助、上限200億VND/案件
新規設備投資:10%補助、上限300億VND/案件
AIインフラ・データセンター案件:最大2,000億VND/案件
半導体・UAV(無人航空機)向けに1,000ヘクタールの用地構想を打ち出しています。うち500ヘクタールは即応可能とされ、Samsung Vietnamの主要拠点に近接する立地が強みです。
ダナン特別決議により、R&D費の150%スーパー控除(支出した費用の1.5倍を損金算入できる仕組み)、土地賃料支援、行政手続簡素化などが認められています。中部の設計拠点として独自のポジショニングを志向しています。
Samsung関連の先端電子基板案件を後押ししており、ロボット・自動運転・スマート電子機器向けの部材供給拠点として整備が進められています。
2026年1月から5月にかけて、ベトナム半導体産業は「設計→試作→製造→OSAT」が短期間で接続する重要な動きを見せました。主なイベントは以下のとおりです。
日付
主要イベント
1月7日
国家MPW(マルチプロジェクトウェハ)センター設立
1月15日
ASMLとの人材育成・ファブ形成支援で合意
1月16日
Viettel、国内初ファブ着工(Hòa Lạc、27ヘクタール、2026-2030)
1月28日
FPT、国内資本OSAT工場公表(28-32nm Edge AI SoC)
2月19日
政府がIntelに対し生産拡大・R&D設置を要請
3月10日
半導体FDI累計141億USD超・241案件と政府発表
3月20日
ホーチミン市が補助パッケージを正式公表
4月14日
Samsung Innovation Campusに半導体教育を追加
4月30日
10戦略技術群決定(首相決定21/2026/QĐ-TTg)署名
5月11日頃
Bắc Ninh 1,000ヘクタール用地構想を公表
法人税優遇・地方補助・個人所得税免除・ビザ免除は、それぞれ別ルートでの認定・申請が必要です。後付けで複数の優遇を取りに行こうとすると、要件未充足により大幅な取り逃しが生じます。進出スキーム設計の最初の段階で、どの優遇を取るかを決定し、それに合わせた会社形態・事業内容・人員配置を組む必要があります。
「高品質デジタル技術専門家」の認定基準は、施行令による詳細化を待っている段階です。当面は確認書(Confirmation Letter)取得手続を社内で標準化し、要件が明確化された時点で速やかに申請できる体制を整えておくべきです。
ベトナム政府自身が、電力・水・廃水処理・R&Dラボの不足を制度文書で認めています。半導体製造には極めて安定した電力供給と純水・廃水処理能力が必要であるため、土地取得や工場建設より先に、工業団地運営者・電力会社との間でユーティリティ供給のサービスレベル契約(SLA)を契約化することが必須です。停電・断水時のバックアップ、純水水質基準、廃水処理キャパシティなどを契約書レベルで合意しておく必要があります。
戦略製品関連の半導体投資は、輸出管理・原産地規則・対中関係・日米韓技術協力と密接に連動します。日本の外為法に基づく輸出管理、米国のECCN分類、ベトナムの外資規制、第三国由来部材の取扱いなどを案件設計段階で精査する経済安全保障DDが必須となります。
投資支援基金等から受け取る補助金については、減価償却特例の議論が進行中です。補助金収入の認識タイミング、設備の取得価額からの控除、税務上の取扱いなどを、会計監査人・税理士と早期に協議して一体設計する必要があります。
ベトナムにとって半導体は、産業政策である以前に「中所得国の罠脱却・2045年高所得国入り」のための国家プロジェクトです。日系企業にとっては、この国家命題に組み込まれる形で参入することが、最も政策リスクが低く、リターンが大きい構図と言えます。
最先端ファウンドリーで競うフェーズではなく、不足工程を埋める段階投資が現実的です。具体的には以下の分野に商機があります。
OSAT・試験評価(後工程、信頼性試験、品質保証)
特定用途チップ(AIカメラ、UAV、6G、IoT、自動車向け)
材料・装置・保守(高純度材料、検査装置、メンテナンス)
教育・人材・ラボ(企業内研修、共同研究、技術移転)
用地・ユーティリティ(工業団地開発、純水・廃水処理)
段階投資+JV(合弁)/技術ライセンス/受託評価から始めるのが、政策リスクをコントロールしやすい王道です。特に2025-2026年に整備された人材優遇(PIT 5年免除・就労許可不要・5年ビザ免除)は、日系企業にとって駐在員派遣コストを大きく下げる構造変化です。設計拠点・R&Dセンター・教育拠点の早期立上げに有利な追い風と言えます。
結論
ベトナム半導体政策は、2024-2026年に法的基盤・税制優遇・人材政策・地方制度の4階層で集中的に整備され、質的転換期を迎えました。日系企業にとっては、不足工程を埋める段階投資+JV/ライセンスが王道です。優遇取得の入口設計を進出前に確定させ、ユーティリティSLAの契約化と経済安全保障DDを並行して進めることが、成功確率を高める鍵となります。
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- 2026.04.27
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ERC先行可能に ― 新投資法で変わるベトナム新規進出のタイムライン
ベトナムへの新規進出を検討する外国投資家にとって、「操業開始までどれくらいの期間がかかるのか」は最重要論点の一つです。2026年3月1日施行の新投資法(法律第143/2025/QH15号)は、第19条第2項で「ERC(企業登録証明書)先行設立」を原則として容認し、従来の「IRC取得→ERC取得」の順序を見直しました。本コラムでは、この制度変更が新規進出の実務タイムラインに及ぼす影響を、条文・当局運用・他社実務報告を踏まえて整理します。
旧法下では、外国投資家はIRC(投資登録証明書)を取得した上で、ERC(企業登録証明書)を申請する順序が原則でした(2020年投資法第22条第1項c号)。新投資法第19条第2項は、市場参入条件を満たすことを条件に、ERCを先行取得する形での会社設立を認めました。
なお、2020年投資法の2025年改正(法律第90/2025/QH15号、2025年7月1日施行)により、革新的スタートアップ等の限定的な場合には既にIRC前ERC申請が認められていました。新投資法は、この特例を業種を限定せず原則化した点が前進です。
新投資法第19条第2項は「外国投資家は、投資登録証明書の発給または変更手続を行う前に、投資プロジェクトを実施するための経済組織を設立することができる。ただし、経済組織設立手続を行う際に、本法第8条に規定する外国投資家の市場参入条件を満たさなければならない」と規定しています(筆者仮訳)。
第8条の市場参入条件とは、外資出資比率、投資形態、投資活動の範囲、投資家の能力等です。
実務上の論点として、旧ルート(IRC先行→ERC)が引き続き選択可能かは条文上明確ではありません。施行細則草案(2026年2月2日付第2版)でも判然としない状況です。ただし、当局担当者により判断が分かれる可能性があるため、申請先となる管轄当局への事前確認が安全です。
中規模サービス業(都市部オフィス設立)を想定した場合の比較は以下のとおりです。
単純比較で、操業開始まで1〜3か月程度の前倒しが現実的です。
銀行口座・リース・雇用契約といった「会社でしかできない行為」をIRC取得前から並行処理できる点が最大のメリットです。
ERC取得後にできる行為:
印章・税コード取得
会社名義での通常口座開設
オフィス賃貸借契約
雇用契約
定款資本の払込準備
社内体制整備
IRC取得までできない/リスクがある行為:
投資プロジェクトの本格実施
FDI資本金の払込(直接投資資本口座=DICAの開設にはIRC提示を求める銀行運用が一般的)
条件付業種のサブライセンス取得、工業団地への入居本契約。
なお、外資規制対象分野や条件付業種では、結局ERC設立時点で第8条の要件を充足する必要があり、その手続に時間を要するため、時間短縮にならないケースもある点に留意が必要です(。
製造業では、第19条のERC先行よりも第28条の特別投資手続の対象拡大が実務的メリットとなります。
2020年投資法下では、特別投資手続の対象は特定区域(工業団地、輸出加工区、ハイテクパーク、集中デジタル技術区、自由貿易区、国際金融センター、経済特区内)のプロジェクトのうち、イノベーションセンター、R&D、半導体、優先ハイテク、デジタルインフラ整備等の特定業種に限定されていました。
新投資法では業種限定が撤廃され、特定区域内なら業種を問わず対象となります(第28条)。
特別投資手続が適用されると、投資方針承認・技術審査・環境影響評価・詳細計画・建築許可・防火防災承認が免除され、原則として申請から15日以内にIRCが発行されます(下位政令で発行期限は最終確定待ち)。
免除の代替として、基準遵守のコミット書面と環境影響の評価・緩和策を記載した投資提案書の提出が必要です。ERC先行と第28条特別投資手続を組み合わせた設計も視野に入ります。
施行細則は2026年2月2日付の第2版草案が公表された段階で、正式公布には至っていません。
施行直後の2026年3月2日、ハイフォン市財政局は投資登録関連手続書類の受理を一時停止する公文書(No.1623/STC-KTDN)を発出しました。
これを受けて3月4日、財政省が「新法の規定に適合する範囲で旧法下の下位法令に従い受理・処理を継続する」旨の調整公文書(No.2519/BTC-PC)を発出し、一応の収束を見ました。ただし「適合する範囲」の解釈は不明確で、担当者レベルでの受理拒否リスクは残りますので、申請前の管轄当局への事前確認を強く推奨します。
また、条件付事業分野は旧法下の234事業分野(施行後2分野廃止で232分野)から198分野に削減され、税務手続代行、税関手続、中古品の一時輸入・再輸出、職業紹介等の計38事業が除外されます(2026年7月1日施行)。
同時にVSIC(首相決定第36/2025/QĐ-TTg号、2025年12月23日)が改訂されたため、ERC上の業種コード登録と付録IVとの対応関係の精査が必要です。
ERC先行設立(第19条第2項)と特別投資手続の対象拡大(第28条)は、新規進出の時間設計を再考させる重要な制度変更です。
サービス業・IT系ではERC先行による1〜3か月の前倒しが現実的であり、製造業では業種限定が撤廃された第28条特別投資手続の活用が大きく浮上します。業種・規模・立地に応じて最適ルートが異なるため、「どのルートを選ぶか」「どのタイミングで何を並行させるか」を事前に設計することが、新法下の新規進出を成功させる鍵となります。
施行細則の正式公布と当局運用の安定化には引き続き注視が必要です。



