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ベトナムにおける新競争法(2019年7月施行)について旧競争法との相違点を教えてください。

  • 2019.10.22
  • 不正競争・独占禁止法関連
  • 独占禁止関連

2004年競争法と比較した新競争法の重要な改正点の概要


2018年、競争法(以下「新競争法」といいます。)がベトナム国会で可決され、2019年7月1日から施行されました。新競争法は2004年の競争法(以下「2004年競争法」といいます。)と比較して抜本的に改正されており、特に合併や買収に関して知っておくべき新しい規制があります。

以下、2004年競争法と比較した新競争法の重要な改正点の概要をご紹介します。

 

1. 適用範囲の拡大


新競争法は規制の範囲を拡大しました。具体的には、新競争法第2条第3項において、「関連のある外国及び国内の個人、組織、機関」が新たに適用対象となりました。

これにより、ベトナムの内外を含め、ベトナム市場の競争に大きな影響を与える可能性があるM&A取引、合意、または行為について、新競争法の対象となりました。

 

2.競争制限的協定類型の増加と判断基準の変更


新競争法では、競争制限的協定の8類型のみがある2004年競争法と比較して下記⑨から⑪までの競争制限的協定を追加しました。

以下、新競争法第11条(競争制限的協定)を引用します。

① 物品またはサービスの価額を直接若しくは間接的に固定する合意。
② 顧客を分配する合意、または消費者市場または物品若しくはサービスの供給源を分配する合意。
③ 生産、購入または販売される物品並びに提供されるサービスの数量または量を制限または拘束する合意。
④ 物品及びサービスの供給のための入社の参加に際し、合意当事者の一または複数が落札することの合意。
⑤ 他者の市場参入または事業展開を妨げ、妨害し、または認めない合意。
⑥ 合意の当事者以外の他者を市場から排除する合意。
⑦ 技術若しくは技術開発を制限し、または投資を制限する合意。
⑧ 物品の購入及び販売またはサービスの供給に係る契約の締結について他者に条件を課し、または契約の主題に直接関係のない義務を他者が負うことを強制する契約。
⑨ 合意の当事者以外との取引を禁止する合意。
⑩ 合意の非参加者の商品販売市場または物品若しくはサービスの供給源を制限する合意。
⑪ その他競争制限的影響を及ぼすまたはその可能性のある合意。

上記のように競争制限的協定が追加されることによって、競争制限的協定の禁止規定が拡大されました。
具体的には以下のとおりです(新競争法第12条参照)。

– ①から③までは同じ関連市場の参加者によって合意される場合(いわゆる水平的協定)は禁止
– ④から⑥までは、無条件に禁止
– ⑦から⑪までは、同じ関連市場の参加者によって合意される場合においても、そのような合意がベトナム市場に著しい競争制限的効果を与えるか、またはそのおそれのある場合は禁止
– ①から③まで及び⑦から⑪までは、サプライチェーンの異なる段階でビジネスを行う参加者によって合意される場合(いわゆる垂直的協定)においても、そのような合意がベトナム市場に著しい競争制限的効果を与えるか、またはそのおそれのある場合は禁止

2004年競争法では、価格、販売市場、数量、技術開発等を拘束・制限する5類型については、「合計市場占有率が30%以上」という形式的な判断基準を設けていました。新競争法は、これに代えて「著しい競争制限的効果を与えるか、またはそのおそれ」という実質的な判断基準を設けました。

「著しい競争制限的効果を与えるか、またはそのおそれ」の判断は、(新競争法によって発足された)国家競争委員会によって判断されます。その判断要素は、市場占有率、市場への新規参入や市場拡大への障壁となるか、研究・開発・技術革新等を制限するかなどです(新競争法13条)。また、この判断基準については政府がガイドラインを定めることとされています。

 

3.経済集中のマーケットシェア限界規定の削除


新競争法は、2004年競争法が規定していた、経済集中(合併、買収、合弁等)についてのマーケットシェア限界に関する制限を削除しました。2004年競争法においては、市場占有率の合計が50%を超える経済集中は禁止されていました。新競争法第30条においては、企業がベトナム市場に著しい競争制限的効果を与えるか、またはそのおそれのある経済集中を禁止するという実質的な判断基準を設けました。 その判断は、国家競争委員会が、関連市場における企業の市場占有率や経済集中前後の関連市場への集中度などの諸要素を検討して判断することとされています。

 

4.経済集中の事前届出の基準の変更


2004年競争法では、関連市場で30%以上50%以下のマーケットシェアを有することとなる経済集中は、事前に競争管理当局に届け出なければならないとされていました。

新競争法では、30%以上50%以下という基準は廃止され、以下の4つの基準の1つに該当する場合に事前に競争管理当局に届け出なければならないこととされました。基準の詳細は、その時々の社会経済状況に合わせて政府が定めることとされています。
– 経済集中に参加している企業のベトナム市場の総資産。
– 経済集中に参加している企業のベトナム市場における総収入。
– 経済集中の取引価値。
– 経済集中に参加している企業の関連市場におけるマーケットシェアの合計。

 

5.リニエンシー制度の新設


新競争法第112条において、競争規制に違反する企業に対するリニエンシー制度(課徴金減免制度)が新設されました(2004年競争法ではリニエンシー制度は規定されていませんでした。)。

新競争法施行後は、国家競争委員会による競争制限的協定の検出、調査、及び処理の前に自発的に違反行為の申告をした企業は、競争制限的行為に関するすべての情報・証拠を出すなどの一定の条件を満たせば、罰則の適用を免除または減免されることとなります。

リニエンシー制度は、国家競争委員会にリニエンシーを申請する最初の3社のみに適用され、それぞれ100%、60%、40%まで減免を受けることができます。

 

6. 競争違反行為の罰金の改正


2004年競争法は、違反行為の罰則について、競争制限的協定、市場支配的地位の濫用、独占的地位の濫用行為、または経済集中に該当する違反の場合には、違反行為の直近事業年度の総売上高の10%以下の罰金とされていましたが、それ以外の違反行為の場合には法令に基づいて罰金を課すことができるとされているのみでした(2004年競争法第118条)。

新競争法は、違反行為に対する罰金を以下のとおり改めました(新競争第111条参照)。

– 競争制限的協定、支配的地位の濫用、独占的地位の濫用に関する違反行為:当該違反行為の直近事業年度の関連市場における総売上高の10%以下の罰金(ただし、刑法で規定された最低罰金よりも低い額)。
– 経済集中に関する違反行為:違反行為の直近事業年度の関連市場における企業の総売上高の最大5%の罰金
– 不公正競争に関する違反行為:最大20億ドンの罰金
– その他の規制への違反:最大2億ドンの罰金

上記は組織の違反の場合ですが、 個人の場合、罰金は上記の罰金の1/2となります。

 

7. 競争違反に対処するための制限時間の変更


2004年競争法においては、競争違反のケースを解決して処理するためには、予備審査と正式審査の過程を経過する必要がありました。そして、その期間は、予備審査が30日間、 正式審査を行うことが決定された場合には、不公正な競争行為について90日間、競争制限的協定、市場支配的地位の濫用及び独占的地位の濫用、経済集中に関しては180日間でした(2004年競争法第87条及び第90条参照)。

新競争法は、上記2つの審査過程の経過が必要であることを規定していません。新競争法においては、競争制限の場合の審査期間は審査決定の日から9か月、経済集中の場合は90日間、不公正な競争の場合は60日間とされています(新競争法第81条参照)。

 

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