ベトナム労働法の重要な改正点(2021年施行)(期間限定公開中)
- 2021.01.01
- 労務
- 労務一般
目次
はじめに
ベトナムの国会は、2019年11月20日に労働法の一部を改正する法律(以下「改正法」といいます。)を90.6%の賛成多数で可決しました。改正法は2021年1月1日より施行されます。そこで、最新の重要な改正点について説明したいと思います。
1. 労働契約に関する改正点
(a) 労働契約の定義の拡大
労働契約に関して、旧法では、「労働契約とは賃金が支給される業務、労働条件、労使関係における当事者各々の権利と義務に関する労働者と使用者との間の合意をいう」と定義されていました(旧法15条)。これに対し、改正法では、労働契約の定義が拡大されました。具体的には、労働契約は次のように定義されています(旧法13条1項)。
「労働契約とは賃金が支給される業務、労働条件、労使関係における当事者各々の権利と義務に関する労働者と使用者との間の合意をいう。当事者は他の契約で合意するが、その契約には賃金や報酬が支給される業務、一方の当事者の管理・指導・監督等に関する内容が含まれている場合、その契約は労働契約とみなされる。」
(b) 労働契約の形式の追加
改正法では、書面による労働契約のほか、電子的手段による労働契約が追加されました。電子的手段による労働契約は書面による労働契約と同様の効力を有することとされています。
また、口頭による労働契約の対象について、旧法では、期間が3か月未満の一時的な業務とされていましたが(旧法16条2項)、改正法においては、期間が1か月未満の労働契約とされました(改正法14条2項)。
(c) 労働契約の種類
旧法では、労働契約には、①有期限労働契約、②無期限労働契約、及び③季節的労働又は特定の業務に対する12か月未満の労働契約等、3つの種類があります(旧法22条1項)。これに対し、改正法では、季節的労働又は特定の業務に対する12か月未満の労働契約が撤廃されました。
(d) 労働契約期間の下限の撤廃
旧法においては、有期労働契約については、季節的な業務または特定業務を除く一般的なものでは12か月以上という下限がありました(旧法22条1項)。これに対し、改正法では、この下限が撤廃され、12か月未満の労働契約が可能となります。
2. 試用に関する改正点
(a) 試用契約と労働契約
旧法では、試用契約を締結し、試用期間中の業務内容が満足なものであった場合に、使用者と労働者の間で新たに労働契約を締結することとされており、試用契約と労働契約は別個の契約とされています(旧法29条参照)。
これに対し、改正法では、試用契約と労働契約は別個のものとすることができると定められました。
これまでどおり試用契約を別個に分けることも可能ですが、使用者と労働者の間で試用に関して合意が成立した場合、労働契約書の中で試用についての内容を記載することも可能です。
試用期間を労働契約内に入れ込む場合、試用の結果採用になった場合は、以下①、②のとおり社会保険機関及び政令のWeb上のガイダンスによれば、その試用期間も含んで社会保険に加入しなければならないとされています。
https://baohiemxahoidientu.vn/bhxh/quy-dinh-ve-thoi-gian-va-muc-luong-thu-viec-2017.html
http://baochinhphu.vn/Tra-loi-cong-dan/Hop-dong-thu-viec-co-phai-dong-BHXH/383452.vgp
但し、試用期間を労働契約内に入れ込みますが、試用の結果不採用が決まった際、締結している労働契約を解除することができ、その試用期間について社会保険に加入することも必要となっていません。
(b) 結果の通知
試用期間終了時、使用者が、試用期間の結果を労働者に対して通知しなければなりません。使用者は、試用について合意した条件を満たしたと判断する場合、締結した労働契約を引き続き履行し、又は試用契約を締結した場合、労働者と労働契約を締結しなければなりません。なお、通知の期間について、旧法は3日前までとされていましたが、この3日前という明記がなくなりました。
一方、使用者は、試用について合意した条件を満たさないと判断する場合、事前の通知や損害賠償なく、締結済みの労働契約又は試用契約を解除することができることとされました(改正法27条参照)。
(c) 試用期間
また、試用期間の長さに関して新たなカテゴリーが設けられました。
旧法では、短期大学以上の専門技術程度を要する職位の業務の場合は最大60日、技術労働者等で最大30日、それ以外は最大6日とされています(旧法27条)。これに対し、改正法では、新たに「管理者」というカテゴリーが追加され、試用期間も最大180日とされました。
3. 就業規則に関する改正点
旧法では、10人以上の労働者を雇用する場合に就業規則の発行が求められています(旧法119条)。これに対し、改正法では、労働者の人数に関係なく就業規則の作成が求められています。当局への就業規則の登録は10人以上の場合に必要となることは変更ありません。
4. 残業時間の上限の改正点
まず、1か月間の残業時間の合計について、旧法では30時間とされています(旧法106条)。この点に関して、改正法では、1か月当たりの上限が40時間とされました。
次に、時間外労働に関して、旧法では、年間200時間の上限を原則とし、政府が規定する特別な場合にのみ年間300時間を上限とすることが認められていました(旧法106条2項)。
これに対し、改正法においては、年間200時間の上限を原則としつつ、①輸出用の繊維・縫製、皮革、履物、電気・電子製品の製造・加工事業、農林水産物・塩の製造事業、②発電・配電、通信、石油精製、給排水、③高度な技術を要するが労働市場で人材が不足している場合、④季節的な要因による緊急の業務、又は天候、自然災害、敵対行為、火災、電力不足、材料不足、技術的故障、火災などの予期せぬ客観的な理由により発生した業務を解決する場合、又は⑤政府が規定するその他の場合等、年間300時間までの残業が認められるケースを明確に規定しました。
5. 使用者による一方的解除・解雇に関する改正点
旧法では、使用者が一方的に労働契約を解除できるのは、①労働者が労働契約で定められた業務を頻繁に遂行しない場合、②労働者が、病気、事故のため、継続して12か月(無期限労働契約の場合)、6か月(有期限労働契約の場合)、契約期間の2分の1以上(12か月未満の季節的業務、または特定業務の労働契約の場合)にわたり治療を受けたが、労働能力を回復できない場合、③天災、火災または政府が規定するその他の不可抗力の理由により、雇用者が全ての克服措置を実行したが、やむを得ず生産規模の縮小及び人員削減を行う場合、④労働者が兵役等による一時休職の事由が終了した後も欠勤する場合に限られていました(旧法38条1項)。
改正法は、前記①に関し、「労働者が、社内規定で定める業務完了評価基準に基づき、労働契約で定められた業務を頻繁に遂行しない」場合として、評価基準を具体的に規定しました。もっとも、改正法で要求される業務完了評価基準の作成は、従来からも要求されていたもので、改正によって大きな変更はありません。
また、改正法では、一方的解除事由として、労働者が正当な理由なく連続5営業日以上欠勤した場合、労働者が労働契約の締結の際に事実と異なる情報を提供して労働雇用の影響を与えた場合なども規定されました。特に前者について、以前は解雇事由とされており懲戒手続を取らなければならなかったものの、今回は一方的解除事由として通知不要で解除できるようになったため、企業にとっては運用しやすい改正となりました。
6. 定年退職の年齢に関する改正点
定年に関して、旧法は、男性は満60歳、女性は満55歳となっています(旧法187条1項)。これに対し、改正法では、通常の労働条件で働く労働者の場合、男性は満62歳、女性は満60歳とした上で、女性は毎年4か月ずつ増加、男性は3か月ずつ増加させる段階的に引き上げることとし、男性は2028年に満62歳、女性は2035年に満60歳に達する設計となっています。
7. 祝日に関する改正点
改正法では、建国記念日(9月2日)の祝日の日数を1日追加して2連休としました。旧法の9月2日に加えて、年によって9月1日または9月3日を祝日にします。これにより、年間休日総数は10日から11日に増加します。
8. 賃金に関する改正点
(a) 賃金の支払に関する規定の追加
改正法においては、労働契約に記載される賃金及び労働者に支払われる賃金はベトナムドンとされ、労働者が外国人である場合においては、外貨によることも可能ということが明記されました(運用は従前と変わらず)。また、賃金を支払う際、使用者は労働者に対して、支払明細書を通知しなければならず、支払明細書の記載項目には、基本給、時間外労働の賃金、深夜労働の賃金、控除項目及び控除額等が含まれることも記載されました(改正法95条)。
(b) 賃金の支払い形式
旧法では、賃金が銀行口座へ支払われる場合、使用者は口座の開設と口座の維持に関する各種手数料について、労働者と合意しなければならないこととされています(旧法94条2項)。これに対し、改正法では、賃金が労働者の個人口座へ支払われる場合、口座の開設と振込に関する各種手数料については、使用者が負担することとされました(改正法96条2項)。
おわりに
労働の改正案は公布されましたが、まだ施行されて間もなく、実際運用が始まってから判明することも多くあるのがベトナム実務です。そのため、最新情報には常にアンテナを立てておくことが望ましいです。
なお、関連の政令についても2021年2月1日に施行されており、以下で重要点について解説しています(Q&A会員限定)。