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ベトナム・ホーチミン市、マンション民泊を禁止―2025年開始の規制内容について

ホーチミン市において、2025年2月27日に26/2025/QĐ-UBNDが公布され、これまで明確になっていなかったAirbnbなどの民泊を明文で規制し、具体的な条件などが規定されました。不動産所有者にとっては大きい影響があるため、本コラムではこれまでの規制の背景や規制の具体的内容などについての詳細をまとめます。今後はその他の市や省への影響も懸念されます。

1. 規制の背景

(1)マンション短期宿泊の急増と住民トラブル

ホーチミン市ではここ数年、Airbnbなどの短期宿泊賃貸サービスが拡大し、マンション(集合住宅)での民泊利用が急増してきました。報道によれば、あるマンションでは居住戸数の60%が短期賃貸に転用されていたとの報告もあります。4区の「Masteri Millennium」では1か月の宿泊客が約1300人に達し、その約8割が外国人旅行者だったというデータも示されています。

このように「事実上のホテル」としてマンションを活用する動きは、エレベーターや共有設備の混雑、騒音や治安リスクなど、常住住民との摩擦を生みました。例えば人気マンションではエレベーター待ち時間が3〜5分から10〜15分に延びたケースもあり、住民が生活に支障を来す事態が発生。さらに、薬物使用など違法行為への懸念も高まり、マンション管理組合や地元当局へ「規制強化」を求める声が続出しました。

(2)社会的・経済的背景

社会的には住居としてのマンションの安全・秩序維持が重要視され、経済面ではホテル業界との公平性や課税逃れ問題が指摘されてきました。実際に不動産業界団体などからは「民泊を行うなら事業登録と納税を義務付けるべきだ」という声があり、これらが重なった結果、ホーチミン市当局の規制強化に至ったとみられます。2025年3月には同市人民委員会がマンション使用規定を改正し、住宅用マンションでの短期宿泊営業を明確に禁止する旨を公布しました。

2. 法令の具体的な内容

(1)住宅法(2014年、2023年改正)の規定

ベトナムではもともと2014年住宅法第6条第11項に「集合住宅を居住目的以外に使用する行為」が明確に禁止されており、マンションをオフィスやホテルのように転用することは原則違法とされていました。ただし長らく有名無実化し、民泊に対する明確なガイダンスがなかったため、Airbnbなどは事実上容認されていた状況です。

しかし2023年に国会で可決された新住宅法(法律番号27/2023/QH15)において、2024年8月1日から施行される改正規定でも「居住目的以外での集合住宅の使用」や「関連法令に反する宿泊賃貸」が禁止行為として再確認されました。短期宿泊向けにマンションを転用することは「非居住目的の使用」とみなされる可能性が高く、違法性を問われる余地があります。

もっとも、「民泊」を名指しで禁止する条項は現時点で存在せず、「数日貸し」が即違法と断定できるかは解釈の争いが残っています。住宅法や関連法令に抵触しない範囲での住宅賃貸は認められるとの見方もある一方、「短期貸しは実質的にホテル業」として無許可営業を問題視する意見も強い状況です。
現時点では政令や通達レベルでの公式解釈が未整備で、ベトナム国内でも見解が分かれているのが実情といえます。

(2)ホーチミン市独自の規定(2025年3月)

ホーチミン市では2025年3月、マンション管理・使用規定を改正し、「住宅用途のマンションで短期宿泊サービス営業を行うこと」を明文で禁止しました。もし宿泊サービスを行う場合は商業用途を含む複合型マンションであること、正式な観光宿泊の認可を受けることなど条件が課されるため、いわゆる一般的な分譲マンションでのAirbnb営業は認められない方針を明確化しています。これは市として独自に強力な取り締まり根拠を得たともいえます。

3. 違反の場合の罰則

(1)政令16/2022/NĐ-CPによる罰金

集合住宅を本来の居住目的以外で使用した場合、2000万~4000万ドン(約11万〜22万円)の罰金が科され、短期賃貸をやめて居住用途に戻すよう命じられます。実際にバリア・ブンタウ省では、2023年住宅法施行後に短期賃貸禁止の通達をもとに1000万~2000万ドンの罰金を課した事例が報告されています。

(2)無許可営業・外国人宿泊登録違反

無許可で宿泊サービスを行えば、観光や営業許可の不備として別途制裁される可能性があります。また、外国人客の一時滞在登録を怠った場合も公安当局より罰金を科されることがあるため、オーナー側には複合的なリスクが生じます。ホーチミン市警察は2023年に5645人の外国人の滞在登録違反を摘発しており、取り締まりが強化される傾向にあります。

4. 生じうる影響

(1)不動産市場・投資家への影響

ビジネスモデルの転換
これまでマンションをAirbnb用に購入・運用してきた投資家は、短期賃貸禁止によって長期賃貸への切り替えや物件売却を余儀なくされ、投資回収計画に大きな影響が及びます。

収益性の低下
Airbnb運用で順調に稼働していた場合、1部屋あたり月に500万〜600万ドン(約2.9万〜3.5万円)の利益を得ていたとの報告があります。長期賃貸へ切り替えると利回りは一般的に下がるため、ローン返済に影響が出るオーナーも増加するとみられます。

(2)短期賃貸ビジネス(Airbnb等)への影響

掲載物件の激減
管理組合が「短期賃貸禁止」と明示して警備員が出入りを厳格にチェックする結果、マンション物件のAirbnb掲載数は70〜80%減少との報告があります。

営業エリアの移動
規制の厳しい4区などから、取り締まりの手薄な地区(7区やビンタイン区など)へ移動するホストもおり、市全域で一斉に取り締まりが行われなければ“いたちごっこ”が続く懸念があります。

(3)観光業や地域経済への影響

宿泊オプションの減少
ホテルより安価で複数人利用や自炊が可能な民泊は、中程度の収入層やバックパッカーに人気でした。民泊を失うことで旅行費用が増加すれば、観光需要の減少や他都市・他国への流出が懸念されます。

地域経済の波及効果
民泊利用者が住宅街の飲食店などで消費することで地域経済が潤う側面がありました。ホテル集中により、こうした“地元消費”が失われるとの指摘もあります。

ホテル業界へのプラス効果
一方で、無許可の民泊が減ることで正規ホテルの稼働率や売上が向上し、価格設定やサービスも改善される可能性があります。また、Airbnb物件が長期賃貸市場へ流れれば、地元居住者にとって賃料の選択肢が広がるメリットもあるかもしれません。

(4)住民の反応

常住住民・管理組合の支持
「マンション本来の住環境を取り戻せる」と歓迎する声が強い一方、短期賃貸を続けたいオーナーとの対立も一部で起きています。管理組合によるロビーやエレベーターでの掲示、警備員による出入り監視が強化される傾向です。

投資オーナーの反発
副収入が絶たれる懸念や「所有権の制限だ」という不満も高まっており、SNS等で管理組合と衝突する事例も報告されています。

(5)一般市民・観光客の意見

観光客の戸惑い
ホーチミン市マンションでのチェックインを警備員に拒否される事例が相次ぎ、突然の予約キャンセルなど旅行者が混乱する場面が出ています。

治安維持への支持
一般市民からは「違法民泊が犯罪温床になるより良い」「適正な課税が必要」という声もあり、治安維持や公平性の観点では一定の支持があるようです。

5. 実務上の留意点

(1)所有者・投資家のリスク管理

住宅法やホーチミン市の独自規定に照らし、自ら保有するマンションが「居住目的以外の利用」にあたるかをまず精査する必要があります。
万一短期賃貸を行う場合は商業用ライセンス取得や複合用途マンションの区画であることなど、要件を満たしているか必ず確認してください。
外国人向け短期賃貸の手続き

外国人に貸す際は、一時滞在登録が義務付けられており、怠ると公安当局から罰金を科されるリスクがあります。
そもそも住宅法上、外国人に貸す場合は貸主・借主双方が法定条件を満たす必要があるため、形式上の契約や手続をきちんと行うことが求められます。

(2)マンション管理規約・管理組合との調整

管理規約で独自に短期賃貸を禁止しているマンションが増えています。オーナーであっても管理規約に違反すればペナルティや実質的な営業不能状態に陥る可能性が高いです。
管理組合と事前に十分協議し、物件用途・利用ルールの合意形成を図ることが重要です。

(3)観光法や税務面への対応

民泊を事業として行う場合、観光業ライセンスの取得や旅客宿泊業としての届出、売上把握に基づく課税が求められる可能性があります。
Airbnb等のプラットフォームを通じた収益を当局に把握される流れが強まることが想定されるため、脱税とみなされないよう適切な会計処理が必要です。

6. 今後の展望

(1)中央政府レベルの解釈指針の動向

建設省は「居住用住宅を賃貸すること自体は住宅法で認められる」との見解を示しつつ、住宅法第160条・161条等を遵守するよう促しています。ただし、ホーチミン市のような大都市では、独自の管理規定や強い取締りが先行しており、今後さらに詳しい通達や政令が定められる可能性があります。

(2)観光振興とのバランス調整

観光客誘致において民泊は安価で多様なニーズに対応する重要な選択肢です。一方でマンション住民の平穏な居住環境も守らなければなりません。今後は一律禁止を続けるのか、あるいは許認可制・日数制限・課税強化など、海外事例を参考にした折衷案が検討される余地があります。

(3)違反摘発や罰則強化の可能性

2023年の住宅法改正に加え、ホーチミン市の姿勢は「強い取り締まり」に傾いています。短期的には罰則強化や管理委員会との連携で違反行為を厳しく抑制する流れが加速するでしょう。抜け道として“親戚訪問”を装うケース等もあるため、さらなる実効性のある仕組みが整備されるか注視が必要です。

7. まとめ

ホーチミン市マンションでの観光宿泊賃貸禁止措置は、2014年・2023年住宅法の規定を背景に、さらに2025年3月の市独自規定で強化された形となっています。実質的には「一般的な住宅用マンションを短期賃貸(民泊)に転用する行為が違法」と判断されやすい状態です。違反時には2000万~4000万ドンの罰金や営業停止が科されるなどペナルティも明確化されており、市当局や管理組合が積極的に取り締まりを進めています。

投資家や民泊ホストにとっては大きな経済的打撃となる一方、住民側からは騒音・治安リスクの軽減を歓迎する声が強く、不動産市場や観光業にも賛否両論の影響が広がっています。将来的には観光振興とのバランスを考慮した管理策の整備が課題となりますが、当面はホーチミン市におけるマンション短期賃貸は禁止が基本スタンスであり、違反リスクへの注意が欠かせません。

実務上はまだ民泊が各プラットフォームで公開されており、どの程度厳しく取り締まられるかはわからない状況です。今後の動向を注視しつつ、正規の許認可手続きや長期賃貸の活用など、適法かつ持続可能な運用を図ることが肝要です。

CastGlobal

【執筆者】CastGlobal

ベトナムの法律事務所

ベトナムで主に日系企業を支援する弁護士事務所です。日本人弁護士・ベトナム人弁護士が現地に常駐し、最新の現地情報に基づいて法務面からベトナムビジネスのサポートをしています。

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