【7月1日施行】ベトナム改正社会保険法の主要ポイント解説
- 2025.07.01
- コラム
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2025年7月1日に全面施行された改正社会保険法(41/2024/QH15)は、加入対象の拡大、年金受給条件の緩和、脱退一時金制度の厳格化に加え、社会保険料の算定基礎を抜本的に見直した点が大きな特徴です。本稿では条文番号を明示しながら主要改正点を解説し、最後にわかりやすく表にまとめました。
目次
1.加入対象の拡大(第2条)
1か月以上の有期労働契約労働者も、名目を問わず労働者とみなされた場合には社会保険強制加入の対象となりました(第2条1項a)。また、パートタイム労働者でも、月給が最低拠出基準以上なら強制加入(第2条1項l)になりました。
また、外国人労働者は労働許可証の有無を問わず、12か月以上の契約があれば原則として加入義務があることが規定されました(同2項)。社内異動者は例外になります(同2項(a))が、例外は限定的な扱いとなったため、採用時点での確認が欠かせません。
2.年金受給要件の緩和(第64条)
退職年金の最低加入期間が20年から15年に短縮されました(第64条1項)。中途入社の中高年社員や転職回数の多い労働者も年金受給要件を満たしやすくなります。
3.社会保険料算定基礎の見直し(第31条)~給与総額主義への転換~
第31条は、社会保険料算定の基礎となる賃金を明確化しました。
使用者決定賃金制の対象者については、役職給、基本給与に加え給与期に支払われる各種手当も含めた額が算定の基礎となりました(同条1項b)。従来除外されがちだった携帯手当や住宅手当も原則算入対象となり、実務上の負担が増える可能性があります。
実務的は、給与テーブルと支給項目を見直し、各手当が算定基礎に含まれるかを精査する必要があります。
4.脱退一時金の請求制限(第70条)
制度離脱目的の一時金請求は原則禁止となり、(1)定年到達かつ加入15年未満、(2)海外永住、(3)末期疾患、(4)労働能力喪失81%以上、などの限定事由のみ一時金の支給が認められます(第70条1項a〜e)。一時金の給付要件が変わったことについて、社内説明が不可欠です。
5.滞納制裁の強化(第40条・第41条)
保険料を遅延・未納した場合、日率0.03%の延滞利息が発生することに加え、行政処分がなされたり刑事責任が追及される可能性があることについて明記されました(第40条・第41条)。
6.任意加入者への給付拡充(第4条3項、第94条)
自営業者等の任意加入でも出産手当給付が新設されます(第4条3項a,)。任意社会保険の納付期間を有する者、または強制社会保険の納付期間と任意社会保険の納付期間の双方を合わせ、出産前12か月のうち6か月以上納付している者は、出産手当を受給できるようになりました(第94条)。加入促進策として期待されます。
7.支払い時期の変更(第34条4項)
改正前は、月払いの社会保険料については対象月の末日までに納付ということになっていました(595/QĐ-BHXH第7条)が、改正後は、翌月末日までに支払えばよいことになりました(第34条4項)。
8.日系企業に求められる実務対応
以下のような対応が求められます。
(1)対象者棚卸し:パート・役員・外国人を含め、加入区分を再分類。
(2)賃金規程・給与システム改訂:算定基礎範囲の変更に対応。
(3)一時金制度周知:退職者含め従業員への説明。
(4)内部統制強化:支払期日の確認と滞納防止フローを整備。
(5)支払い時期の変更に対応:支払い時期を変更する場合は納付プロセスを整備
【付録】改正内容まとめ
分野 | 主な改正内容 | 関連条文 | 実務上の留意点 |
加入対象 | パート、有期労働者、外国人など強制加入対象拡大 | 第2条1項/同2項 | 雇用形態ではなく実態で判定 |
年金要件 | 最低加入15年で受給可に(元は20年) | 第64条 | 中高年採用者の退職設計を再検討 |
算定の基礎 | 給与総額主義 | 第31条 | 賃金項目精査 |
脱退一時金 | 原則禁止、限定事由のみ受給可 | 第70条 | 従業員への説明 |
任意加入者の保護強化 | 産休・労災給付追加 | 第4条3項、第94条 | 自営業者・退職者への加入促進 |
納付期限の変更 | 翌月末までに変更 | 第34条4項 | 納付プロセスの見直し |
制裁の強化 | 0.03%/日延滞利息+刑事罰・行政処分 | 第38条、40条、41条 | 未納リスクの検討 |