【速報】8月7日施行の外国人労働に関する新政令「219/2025/NĐ-CP」解説

ベトナム政府は8月7日、外国人労働者の受入れ手続を全面的に組み替える政令219/2025/NĐ-CPを施行しました。従来の152/2020/NĐ-CP(および改正70/2023/NĐ-CP)に代わる新しい基本政令で、発給権限の所在、審査期間、在留資格区分・要件、免除枠の扱いが実務的に大きく変わります。背景としては、手続きの明確化・迅速化、高度分野の人材確保などがあります。

1.WP発給権限の「所在地」の変更(第4条)

新政令は、労働許可(WP)と「WP不要」確認の発給・再発給・延長・取消の権限を、原則として「当該外国人が就労予定の所在地の省級人民委員会」に置きました(219/2025/NĐ-CP第4条)。これにより、従来MOLISA/省労働局が担ってきた枠組みから、地方政府トップ主導へと制度設計が移ります。なお、複数省で勤務する場合は本社所在地の省級人民委員会になります。

旧政令では、申請先・発給主体は「労働傷病兵社会省(MOLISA)または省労働局」と明記しており(152/2020/NĐ-CP第11条)、70/2023/NĐ-CPもこの基本構造は維持していました。
7/1施行の分権政令128/2025/NĐ-CPは、外国人労働分野の具体任務を省級人民委員会に「分権・分級」する条文(第8条など)を置き、延長手続の宛先を省人民委員会に明確化していました。新政令219はこれを本体法制に取り込み、重複を避けるため128/2025の関連規定を失効させています(219/2025/NĐ-CP第35条3項)。

2. WP審査期間:原則「10営業日」に整理(第22条)

219/2025は、雇用者は予定就労日の60日前から10日前までに申請し、完全な申請受理から「10営業日以内」にWPを審査・発給、却下時は「3営業日以内」に理由書を通知することと定めました(219/2025/NĐ-CP第22条3項)。従来の5営業日(152/2020第11条2項)より長く見えますが、需要説明の審査と発給審査を「一本化」したのがポイントで、二重手続を実務上一体化しています。

70/2023では、外国人受入れの「需要説明」と「WP発給申請」が段階的・別建てで運用される場面が残っていました(70/2023/NĐ-CP第3条3項)同改正の趣旨説明、MOLISA/省労働局が需要を承認)。219/2025は報告・需要説明を発給申請のパッケージ内に組み込み、申請書式(付録様式03)も統合。企業側の提出・審査フローの実務負担を一本化する設計です。

3. 職位定義・要件の見直し(第3条):実務に効く「経験年数」の緩和と厳格化

・専門家(chuyên gia):学士以上+「実務2年」に緩和。さらに金融・科学・技術・イノベーション・国家DXなど優先分野では「学士以上+実務1年」でも可。
・技術者(lao động kỹ thuật):①1年以上の訓練+実務2年、または②訓練要件なしで実務3年のいずれかで可。
(比較)70/2023では専門家「3年」、技術者は「訓練1年以上+3年」等と、総じて経験要件が重めでした。

なお、経営管理者(ディレクター等)については要件が厳格化しました。具体的には次のいずれかと定義され、(b)の形態については、実務経験3年要件が追加されました。
a) 企業の支店、駐在員事務所、営業所の責任者。
b) 機関・組織・企業における一部門の責任者で、その分野で少なくとも3年の実務経験を有し、予定職位に適合する者。

4. WP不要(免除)枠の拡張と明文化(第7条)

中央省庁や省級人民委員会が確認する「優先分野(金融・科学・技術・イノベーション・国家DX・優先的社会経済分野)」の業務に従事する外国人について、WP不要の対象に新たに整理・拡張。既存の免除類型も維持されています(219/2025/NĐ-CP第7条)。

5.有効期間、更新手続きの明確化(第10条、16条、17条)

有効期間は2年(219/2025/NĐ-CP第10条)で、延長は1度に限り2年となりました(同政令第17条)。延長は有効期間満了の10日前から45日前までに申請、5営業日以内に延長受理されることになりました(同政令第16条)。

6.旧政令の失効(第35条)

2025年8月7日同日をもって152/2020/NĐ-CP(70/2023/NĐ-CPで改正)における「外国人労働」部分は失効しました(219/2025/NĐ-CP第35条)。

7.実務インパクト

1. 申請窓口は「就労地の省級人民委員会」軸に再編。多拠点勤務やグループ内異動など、企業は就労地ごとの当局対応計画を再設計する必要があります。
2. 需要説明+発給の一本化で、書類突合せ・往復が減る一方、審査の実質化で「10営業日」運用に。申請時期に注意が必要です。
3. 採用要件の緩和があり、優先分野人材の受入れは機動的に。職位要件の適合性(学位・経験年数)に関する見直しが必要です。

【付録】 新旧対照表

 

項目 219/2025(新政令) 152/2020・70/2023(旧政令)
発給権限の所在 省級人民委員会 労働・傷病兵・社会省(MOLISA)又は省労働局
手続の流れ・処理期間 需要説明(外国人雇用の必要性の申請)と発給審査を一体化。受理後10営業日で発給/不許可は3営業日以内に通知 受理後5営業日で発給だが、手続は需要説明と発給申請が段階的。
職位定義・要件 ・専門家:原則「学士以上+2年」。ただし優先分野(金融・科学技術・イノベーション・国家DX等)は「学士以上+1年」を可。
・技術者:①1年以上の訓練+2年経験、又は②訓練なしで3年経験
・経営管理者の一部形態について実務経験3年要件の追加
・専門家:「学士以上+3年」
・技術者:「訓練1年以上+3年」
WP不要(免除)枠 優先分野(金融・科学・技術・イノベーション・国家DX・優先的社会経済分野)の業務に従事する外国人を追加 該当する規定なし

 

CastGlobal

【執筆者】CastGlobal

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