ベトナム政府は2025年11月10日、政令 293/2025/NĐ-CP を公布し、2026年1月1日から地域別最低賃金(月額・時間給)を改定しました。
本稿では、最低賃金の新水準、適用ルール(工業団地・輸出加工区・ハイテク/デジタル集中区を含む)、暫定運用、そして実務対応の優先順位を整理します。

目次
1. 地域別最低賃金(2026/01/01以降)
各地域の最低賃金は以下のとおりです。地域の区分けは政令付録で確認できます。
| 地域 | 最低賃金(月) | 最低賃金(時間) |
|---|---|---|
| 地域 I | 5,310,000 VND | 25,500 VND |
| 地域 II | 4,730,000 VND | 22,700 VND |
| 地域 III | 4,140,000 VND | 20,000 VND |
| 地域 IV | 3,700,000 VND | 17,800 VND |
※ 平均上昇率は約7.2%(月額 +250,000〜+350,000 VND)。最低賃金は「労働契約に基づく労働者」に適用されます。
2. 適用ルール
最低賃金の適用に関する詳細のルールは以下のとおりです。
- 適用基準:原則、雇用主(使用者)が活動する所在地の地域区分に応じた水準を適用します。
- 支店・事業所:雇用主に複数の単位(支店・事業所)がある場合、各単位の所在地ごとに該当地域の水準を適用します。
- KCN/EZ/ハイテク・デジタル集中区:複数地域にまたがる場合は最も高い地域水準を適用します。
- 区域の名称変更・分割:政府の新規定まで従前区分を暫定適用します。
- 新設区域:複数区域から新設された場合は最高水準を暫定適用(政府の新規定まで)。
- 減額回避の経過措置:区域見直しにより付表の地域水準が2025/12/31時点より下がる場合、同日以前に採用済みの労働者は従前水準を継続(新規定まで)。
- 時間給・日給・週給・出来高:月額/時間額に換算しても最低賃金を下回らないこと(週給→月換算は
×52/12など)。 - 賃金構成:職務/職位に対する基本給自体が最低賃金以上となるよう設計し、食事・携帯・交通等の諸手当での「かさ上げ」に依存しないことが無難です。
地域区分(都省・区郡・坊社の具体一覧)は政令の付表PDFで公表されています。所在地の再確認を推奨します(リンクは「6.参考資料」参照)。
3. 2025→2026 改定幅(参考比較)
今年末までの最低賃金と、来年からの最低賃金の差異は以下のとおり。
| 地域 | 2025(政令74/2024) | 2026(政令293/2025) | 差額 |
|---|---|---|---|
| 地域 I | 4,960,000 / 23,800 | 5,310,000 / 25,500 | +350,000 / +1,700 |
| 地域 II | 4,410,000 / 21,200 | 4,730,000 / 22,700 | +320,000 / +1,500 |
| 地域 III | 3,860,000 / 18,600 | 4,140,000 / 20,000 | +280,000 / +1,400 |
| 地域 IV | 3,450,000 / 16,600 | 3,700,000 / 17,800 | +250,000 / +1,200 |
単位:左が月額(VND/月)、右が時間額(VND/時)。
4. クイックアクション(実務対応)
各社、必要に応じて以下の対応をご検討ください。
- 地域コードの再点検:各拠点・支店の付表の地域区分を再確認。
- 賃金テーブル改定:職務/職位の基本給下限、残業・深夜・有害業務の割増計算の算定基礎を更新。
- 契約・規程:労働契約・賃金規程・就業規則を2026/01/01発効で改定。派遣・請負は契約上の遵守条項を見直し。
- システム切替:給与計算SaaS/ERPの地域マスタと手当テーブルを更新。未達者の是正支給計画を準備。
- 経過措置の洗い出し:区域再編で下限が下がるケースでは、既存社員の従前水準維持の要否を判定。
- 広報・トレーニング:管理職・人事・会計への周知、派遣先・請負先との整合を確保。
5. 実務FAQ(論点と推奨対応)
Q1. リモート勤務者の地域判定はどこで行いますか?
政令は「雇用主の活動地」と「単位(支店等)の所在地」を基準にしています。
労働契約上の所属単位・勤務場所の記載に整合させ、所属単位の所在地の区分で運用するのが実務的です。
実際の就労地が別地域にまたがる場合は、監督当局との摩擦回避の観点から、実働地の水準に合わせる運用を検討します(社内規程・契約文言で根拠付け)。
Q2. 基本給が下限に満たないが、手当で総額は下限超えています。許容されますか?
最低賃金は「職務/職位に対する賃金」自体の下限です。食事・通信・交通等の一般手当での「かさ上げ」は紛争リスクが高く、基本給そのもので下限を満たす設計を推奨します。
Q3. 工業団地・輸出加工区・ハイテク/デジタル集中区が複数地域にまたがる場合の水準は?
最も高い地域水準の適用が明記されています。運用開始前に、団地の境界と各区分を付表で再確認してください。
Q4. 区域の名称変更・分割・新設があった場合は?
従前区分の暫定適用、または最高水準の暫定適用(新設の場合)が規定されています。区域再編のトランジションは給与システムで事前にシナリオ化しておくと安全です。
Q5. 以前の「技能者+7%」「有害業務+5%/+7%」の取り扱いは?
政令上は、労使で既に合意済みで労働者に有利な条件は継続可能とされています(別段の合意がない限り)。自社の就業規則・労使協定の文言を点検してください。
6. 参考資料・原典リンク
- 政府公表:2026/01/01から最低賃金はどれだけ上がるか
- 原典PDF:政令 293/2025/NĐ-CP(本文)
- 付表PDF:地域区分(都省・区郡・坊社の一覧)
- 前回水準:政令 74/2024/NĐ-CP
※ 本稿は公表原典に基づき作成していますが、個別案件では契約・就業規則・配置(所属単位)等により結論が変わる可能性があります。実務適用時は個別にご相談ください。
関連記事(草案時点):
https://cast-vietnam.com/news/vietnam-minimum-wage-2026-increase/