ERC先行可能に ― 新投資法で変わるベトナム新規進出のタイムライン
- 2026.04.27
- コラム
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ベトナムへの新規進出を検討する外国投資家にとって、「操業開始までどれくらいの期間がかかるのか」は最重要論点の一つです。2026年3月1日施行の新投資法(法律第143/2025/QH15号)は、第19条第2項で「ERC(企業登録証明書)先行設立」を原則として容認し、従来の「IRC取得→ERC取得」の順序を見直しました。本コラムでは、この制度変更が新規進出の実務タイムラインに及ぼす影響を、条文・当局運用・他社実務報告を踏まえて整理します。
目次
1.旧ルートと新ルートの違い
旧法下では、外国投資家はIRC(投資登録証明書)を取得した上で、ERC(企業登録証明書)を申請する順序が原則でした(2020年投資法第22条第1項c号)。新投資法第19条第2項は、市場参入条件を満たすことを条件に、ERCを先行取得する形での会社設立を認めました。
なお、2020年投資法の2025年改正(法律第90/2025/QH15号、2025年7月1日施行)により、革新的スタートアップ等の限定的な場合には既にIRC前ERC申請が認められていました。新投資法は、この特例を業種を限定せず原則化した点が前進です。
2.新ルートの根拠と解釈論点
新投資法第19条第2項は「外国投資家は、投資登録証明書の発給または変更手続を行う前に、投資プロジェクトを実施するための経済組織を設立することができる。ただし、経済組織設立手続を行う際に、本法第8条に規定する外国投資家の市場参入条件を満たさなければならない」と規定しています(筆者仮訳)。
第8条の市場参入条件とは、外資出資比率、投資形態、投資活動の範囲、投資家の能力等です。
実務上の論点として、旧ルート(IRC先行→ERC)が引き続き選択可能かは条文上明確ではありません。施行細則草案(2026年2月2日付第2版)でも判然としない状況です。ただし、当局担当者により判断が分かれる可能性があるため、申請先となる管轄当局への事前確認が安全です。
3.タイムライン比較
中規模サービス業(都市部オフィス設立)を想定した場合の比較は以下のとおりです。

単純比較で、操業開始まで1〜3か月程度の前倒しが現実的です。
銀行口座・リース・雇用契約といった「会社でしかできない行為」をIRC取得前から並行処理できる点が最大のメリットです。
4.ERC先行で「できる行為」「できない行為」
ERC取得後にできる行為:
- 印章・税コード取得
- 会社名義での通常口座開設
- オフィス賃貸借契約
- 雇用契約
- 定款資本の払込準備
- 社内体制整備
IRC取得までできない/リスクがある行為:
- 投資プロジェクトの本格実施
- FDI資本金の払込(直接投資資本口座=DICAの開設にはIRC提示を求める銀行運用が一般的)
- 条件付業種のサブライセンス取得、工業団地への入居本契約。
なお、外資規制対象分野や条件付業種では、結局ERC設立時点で第8条の要件を充足する必要があり、その手続に時間を要するため、時間短縮にならないケースもある点に留意が必要です(。
5.製造業の追加選択肢 ― 第28条特別投資手続
製造業では、第19条のERC先行よりも第28条の特別投資手続の対象拡大が実務的メリットとなります。
2020年投資法下では、特別投資手続の対象は特定区域(工業団地、輸出加工区、ハイテクパーク、集中デジタル技術区、自由貿易区、国際金融センター、経済特区内)のプロジェクトのうち、イノベーションセンター、R&D、半導体、優先ハイテク、デジタルインフラ整備等の特定業種に限定されていました。
新投資法では業種限定が撤廃され、特定区域内なら業種を問わず対象となります(第28条)。
特別投資手続が適用されると、投資方針承認・技術審査・環境影響評価・詳細計画・建築許可・防火防災承認が免除され、原則として申請から15日以内にIRCが発行されます(下位政令で発行期限は最終確定待ち)。
免除の代替として、基準遵守のコミット書面と環境影響の評価・緩和策を記載した投資提案書の提出が必要です。ERC先行と第28条特別投資手続を組み合わせた設計も視野に入ります。
6.施行後の当局対応と実務上の留意点
施行細則は2026年2月2日付の第2版草案が公表された段階で、正式公布には至っていません。
施行直後の2026年3月2日、ハイフォン市財政局は投資登録関連手続書類の受理を一時停止する公文書(No.1623/STC-KTDN)を発出しました。
これを受けて3月4日、財政省が「新法の規定に適合する範囲で旧法下の下位法令に従い受理・処理を継続する」旨の調整公文書(No.2519/BTC-PC)を発出し、一応の収束を見ました。ただし「適合する範囲」の解釈は不明確で、担当者レベルでの受理拒否リスクは残りますので、申請前の管轄当局への事前確認を強く推奨します。
また、条件付事業分野は旧法下の234事業分野(施行後2分野廃止で232分野)から198分野に削減され、税務手続代行、税関手続、中古品の一時輸入・再輸出、職業紹介等の計38事業が除外されます(2026年7月1日施行)。
同時にVSIC(首相決定第36/2025/QĐ-TTg号、2025年12月23日)が改訂されたため、ERC上の業種コード登録と付録IVとの対応関係の精査が必要です。
7.おわりに
ERC先行設立(第19条第2項)と特別投資手続の対象拡大(第28条)は、新規進出の時間設計を再考させる重要な制度変更です。
サービス業・IT系ではERC先行による1〜3か月の前倒しが現実的であり、製造業では業種限定が撤廃された第28条特別投資手続の活用が大きく浮上します。業種・規模・立地に応じて最適ルートが異なるため、「どのルートを選ぶか」「どのタイミングで何を並行させるか」を事前に設計することが、新法下の新規進出を成功させる鍵となります。
施行細則の正式公布と当局運用の安定化には引き続き注視が必要です。