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ベトナム暗号資産市場、2026年Q3正式始動へ ― 制度整備・初期適格5社・韓国2案件と外資の現実解

特集

2026年5月13日 / CastGlobal Law Vietnam

ベトナム財務副大臣Nguyen Duc Chi氏が、暗号資産市場を2026年第3四半期(Q3)に正式始動する方針を表明しました。デジタル技術産業法(Law 71/2025/QH15)の施行(2026年1月1日)から半年あまりで、ライセンス申請の受付開始、税制ガイダンスの公布、初期適格5社の選定、韓国大手取引所2社との提携公表まで、制度と事業者の準備が同時に進んでいます。本稿では、2025年から2026年5月までの時系列、初期適格5社の最新動向、注目される韓国2案件、そして外資の現実的な参入ルートを日系法律事務所の観点から解説します。

本稿の位置づけ

当事務所では、これまで「ベトナムの暗号資産規制と決済の最新動向【2025年】」で、デジタル技術産業法の成立とIFC構想を中心に、規制整備の「入口」を整理しました。本稿はその続編にあたり、2026年に入って急速に進んだ実装フェーズの動きをまとめます。


なぜ今、ベトナム暗号資産市場が注目されるのか

ベトナムは、Chainalysisが公表する2025年グローバル暗号資産採用指数で世界3-4位、アジア太平洋では3位という、世界有数の暗号資産普及国です。推計約1,700万人のホルダー、年間取引額は2024年7月から2025年6月にかけて2,200億USD超(前年比+55%)に達し、デジタル経済全体の規模も2026年末までに500億USDに達する見通しです。

これまでベトナムは、暗号資産の保有・取引自体は黙認しつつも、決済への利用は違法、法的な「資産」としての位置づけも不明確という、いわゆるグレーゾーンの状態が続いていました。この状況を抜本的に変えたのが、2025年6月14日に国会で可決され、2026年1月1日に施行されたデジタル技術産業法(Law 71/2025/QH15)です。同法により、ベトナムは世界46か国目の暗号資産合法化国となりました。

1. 法的枠組みの全体像 ─ 多層構造の規制

ベトナムの暗号資産市場を規律する法令は、上位法から実施規則まで4階層で整理されています。

階層 規範
包括法 デジタル技術産業法(Law 71/2025/QH15、2026年1月1日施行)
パイロット枠組み 政府決議05/2025/NQ-CP(2025年9月9日署名、5年間パイロット)
ライセンス手続 財務省決定96/QĐ-BTC(2026年1月20日公布)
会計・税制・申告 財務省省令15・32・41/2026/TT-BTC(2026年3-4月公布)

重要なのは、政府決議05/2025/NQ-CPが5年間のパイロットプログラムを規定している点です。完成形の制度ではなく、5年かけて運用データを蓄積し、必要に応じて規制を調整する「制御された実験」として設計されています。日系企業にとっては、現行ルールが今後変更される可能性を前提に、柔軟な対応体制を取ることが求められます。

2. これまでの時系列 ─ 2025年6月から2026年5月までの主要動向

2025年 ─ 立法と試行制度の設計

2025年6月14日、国会はデジタル技術産業法(Law 71/2025/QH15)を可決(賛成441/445)しました。同法第3条で暗号資産を「資産」として法的に承認し、ベトナム法制で初めて包括的な定義を導入しました。

2025年9月9日には、Phó Thủ tướng Hồ Đức Phớc副首相が政府決議05/2025/NQ-CPに署名し、5年間の暗号資産市場パイロットプログラムが承認されました。最低資本金10兆VND、外資比率49%上限、機関株主65%以上といった主要要件は、この決議で初めて明文化されています。

2026年 ─ 実装フェーズへの加速

2026年に入り、制度整備と事業者選定が急速に進みました。主要なマイルストーンは以下のとおりです。

日付 主要動向
1月1日 デジタル技術産業法 施行
1月20日 財務省決定96/QĐ-BTC公布 ─ ライセンス申請受付開始
3月2日 SSI Digital(SSID)と韓国BithumbがMOU署名(公表は5月7日)
3月4日 会計基準ガイダンス公布(財務省省令 15/2026/TT-BTC)
3月12日 7社申請のうち5社が初期適格審査を通過(財務省内部文書)
3月27日 税制ガイダンス公布(財務省省令 32/2026/TT-BTC)
4月6日 税務申告ガイダンス公布(財務省省令 41/2026/TT-BTC)
4月9日 首相Lê Minh Hưng、Q3 2026までの仕組み完成を国会報告
4月10日 OKX Ventures・HashKey CapitalがCAEXに戦略出資
5月7日 Bithumb × SSID のMOU公表

3. 初期適格5社の最新動向 ─ 2026年3月12日付け財務省内部文書

2026年3月12日時点で、暗号資産取引所ライセンスを申請していた7社のうち5社が初期適格審査を通過したと、ロイターが財務省内部文書を引用して報じています。5社の構成は、銀行・証券系列が4社、コングロマリットが1社という顔ぶれで、ベトナムの大手金融グループが軒並み参入を表明している構図です。

① TCEX(Techcom Digital Asset Exchange JSC)

ベトナム大手民間銀行Techcombank傘下の証券会社TCBSの系列会社。資本金1,010億VND(約384万USD)で設立され、会長はNguyen Xuan Minh氏、CEOはDoan Mai Hanh氏。同社は約6か月にわたり技術インフラ整備とKYCパートナーとの体制構築を進め、2026年1月15日以前にライセンス申請を提出した先行組です。

② CAEX(Vietnam Prosperity Crypto Asset Exchange JSC)

ベトナム大手民間銀行VPBankの系列会社。当初資本金は250億VND(約95万USD)と小規模で設立され、創業株主はVPBank Securities(VPBankS、11%)、LynkiD(50%)、Future Land Investment(39%)という構成です。

注目すべきは、2026年4月10日にOKX VenturesおよびHashKey Capitalが戦略出資を発表したことです。OKXは世界有数の暗号資産取引所、HashKeyは香港拠点のアジア大手暗号資産投資ファンドで、両社の出資により最低資本金要件の10兆VND達成の道筋が見えた格好です。グローバル暗号資産大手のベトナム本格参入の第1弾と位置づけられます。

③ LPEX(Loc Phat Vietnam Crypto Asset Exchange JSC)

旧正月直前に資本金を68億VNDから3,600億VND(約1,370万USD)へと50倍以上増資し、市場の注目を集めました。創業株主はDuong Van Quyet氏(40%)、Nguyen Thi Bich Ngoc氏(30%)、Vu Phat Dat氏(30%)で、5社のなかで唯一、銀行・証券系列ではない民間投資家主導の構成です。

④ VIXEX(VIX Digital Asset Exchange JSC)

証券大手VIX Securities系列のデジタル資産部門。資本金1兆VND(約3,800万USD)で、CEOはNguyen Thanh Que氏。技術インフラ整備でFPT Corp.と提携しており、ベトナム最大手ITグループの技術力を取り込んだ体制を構築しています。

⑤ Vietnam Digital Assets JSC

詳細情報は限定的ですが、不動産・観光・インフラを擁する大手コングロマリットSun Group関連と複数のメディアが報じています。金融以外の業界から唯一の通過企業として注目されます。

4. 韓国大手2案件 ─ Bithumb × SSID、Upbit × MB

初期適格5社以外で特に重要なのが、韓国を代表する暗号資産取引所2社が揃ってベトナム市場に進出している点です。

SSI Digital(SSID)× 韓国Bithumb

ベトナム最大手証券SSI傘下のSSI Digital(SSID)は、韓国大手取引所Bithumbと2026年3月2日に取引所共同設立のMOUを署名し、5月7日に公表しました。協業範囲は、技術アーキテクチャ、ウォレット・カストディ、コンプライアンス、機関投資家向け業務まで全方位に及び、Bithumbは規制認可後のSSID指定法人への戦略的株式取得の可能性も示唆しています。

SSIDの資本金は当初2,000億VNDでしたが、すでに1兆VNDへの増資を完了しており、最低資本金10兆VND要件達成に向けた追加調達を進めています。

Military Bank(MB)× 韓国Dunamu(Upbit運営)

ベトナム軍隊銀行MBは、韓国最大手暗号資産取引所Upbitの運営企業Dunamuと技術提携しています。協業内容は、規制枠組み・運用プロセス・投資家保護メカニズムの共同構築で、韓国Top2の取引所が揃ってベトナム入りした構図となっています。

なぜ韓国系の動きが目立つのか

韓国は2026年2月時点でベトナム最大の対内投資国(累計約952億USD・全FDIの約18%)で、両国経済の連携が強い背景があります。また、韓国は暗号資産取引所の規制・運用ノウハウが世界的にも先行しており、ベトナム側からすれば技術・コンプライアンスの両面で実績ある協業先となります。日系金融機関にとっても、韓国系の動きは参入スキーム設計上の有益なリファレンスとなり得ます。

5. ライセンス取得要件 ─ 高い参入障壁

政府決議05/2025/NQ-CPおよび財務省決定96/QĐ-BTCに基づくライセンス取得要件は、世界的にも極めて厳格な部類に入ります。

要件項目 内容
最低資本金 10兆VND(約3.8億USD)
法人形態 ベトナム法人(LLCまたはJSC)に限定
機関株主 65%以上(うち35%以上は2社以上の金融機関またはテック企業から)
外資比率 最大49%
取引通貨 VND建てのみ(USDTなどステーブルコイン取引不可)
発行可能資産 実物資産バックのみ(法定通貨・有価証券バック不可)
発行先 外国人投資家に限定、発行15日前までに目論見書公表
経営者要件 CEO:金融・経営経験2年以上、CTO:IT/Fintech経験5年以上
専門人員 ITセキュリティ専門家10名以上、証券ライセンス保有者10名以上
セキュリティ 情報セキュリティLevel 4(国家最高水準)、コールドストレージ必須

これらの要件は、参考までにタイ(最低資本金約13.7M USD)やシンガポール(最高ティアでも約50M USD)と比較しても、10倍から28倍程度の水準にあります。ベトナム政府は、初期段階で「資本力と長期的なコミットメントを備えた事業者だけが市場を運営する」という設計思想を取っており、市場の安定性と投資家保護を最優先しています。

6. 税制ガイダンス ─ CIT 20%・VAT非課税・PIT 0.1%案

財務省省令32/2026/TT-BTC(2026年3月27日公布)では、暗号資産取引に係る主要税目の取扱いが整理されています。

税目 税率 対象
法人税(CIT) 20% ベトナム法人が暗号資産取引で得た所得
付加価値税(VAT) 非課税 暗号資産の譲渡・取引
個人所得税(PIT) 0.1%(案) 取引総額に対する課税

申告手続については、財務省省令41/2026/TT-BTC(2026年4月6日公布)が、税務申告・源泉徴収・納付・確定申告の枠組みを整備しています。

留意点:PIT 0.1%案には議論あり

PITについては、取引総額の0.1%という案が「実質的に取引コストを引き下げ、投機を誘発する」との批判が一部で示されています。最終的な税率や課税方式は施行に向けて調整される可能性があり、2026年5月時点では確定していません。実務上は、暫定的に0.1%案を前提に試算しつつ、施行令で確定された段階で再計算する体制を取ることを推奨します。

7. オフショア取引所の規制強化 ─ 重要論点

ライセンス制度の運用と並行して、ベトナム財務省はオフショア取引所(Binance、Bybit、OKX国際版など海外プラットフォーム)を利用するベトナム居住者に対する罰則導入を起草中です。報道ベースでは、以下のような枠組みが議論されています。

  • 最初のライセンス取得業者が運用開始してから6か月後、オフショア取引所の国内居住者向けサービス提供が違法化される見込み
  • 個人利用者:最大1億VNDの行政罰
  • 法人利用者:最大2億VNDの行政罰
  • 既存保有資産は、国内ライセンス取引所への移管期間として6か月の猶予が想定

ベトナムの方針は、韓国が先行して取り組んだオフショア規制を参考にしていますが、ベトナムは個人投資家まで罰則対象に含める点でより厳格な設計です。これは、ベトナム居住者がBinance等で取引している規模が極めて大きく、これを国内のライセンス取引所に誘導しなければ制度の実効性が確保できないという背景があります。

8. 外資の現実的な参入ルート ─ 「誰と組むか」のフェーズ

ここまで整理してきたとおり、外国取引所のベトナム直接参入は事実上不可能です。申請主体はベトナム法人に限定され、最低資本金10兆VND(約3.8億USD)、機関株主65%以上、外資比率最大49%という三重の参入障壁が設定されています。

現実的な参入ルートは、ライセンス取得済み(または取得見込み)のベトナム企業との合弁・技術提携です。すでに以下のような提携が成立しています。

  • CAEX × OKX Ventures / HashKey Capital(2026年4月10日戦略出資)
  • SSI Digital × Bithumb(2026年3月2日MOU、5月7日公表)
  • Military Bank × Dunamu(Upbit運営)(技術提携)
  • VIXEX × FPT Corp.(技術インフラ提携)

5社+SSID+MB+Vimexchangeで枠が固まりつつあるなか、外資にとっては「ライセンスを直接取りに行く」フェーズではなく、「誰と組むか」のフェーズに既に入っています。日系企業・日系金融機関がこの市場に関与する場合も、ベトナム側の事業者との提携設計が出発点となります。提携形態としては、技術ライセンス、JV設立、戦略出資(49%上限内)、業務委託(カストディ、KYC/AMLシステム、コンプライアンス・コンサルティング)などが想定されます。

9. まとめと今後の展望

ベトナム暗号資産市場は、2025年6月のデジタル技術産業法可決から1年弱で、立法・パイロット設計・ライセンス手続整備・税制ガイダンス公布・初期適格5社選定・グローバル大手との提携公表まで、極めて速いペースで実装が進んでいます。2026年Q3の正式始動は、こうした準備の集大成と位置づけられます。

結論

ベトナム暗号資産市場は、2026年Q3に正式始動する見通しです。立法から実装まで1年弱で整備された制度は、最低資本金10兆VND・外資49%上限・機関株主65%以上という高い参入障壁を備え、初期段階の市場は5社の独占体制でスタートする構図となります。外資の現実的な選択肢は、ベトナム企業との合弁・技術提携であり、すでにCAEX×OKX/HashKey、SSID×Bithumb、MB×Dunamu、VIXEX×FPTといった枠組みが先行しています。日系企業がこの市場と関与する際は、提携先選定、業務範囲設定、規制動向のモニタリング体制を早期に整えることが、機会獲得とリスク管理の両面で重要となります。

今後の注目点としては、(1)正式立ち上げのタイミング、(2)5社のうち実際に運用開始する企業の確定と運用実績、(3)オフショア取引所への規制強化措置の具体化、(4)PIT 0.1%案の確定、(5)既存ライセンス取得済み事業者への追加出資・株式取得の動向、などが挙げられます。当事務所では引き続き、これらの動向を継続的にフォローし、随時アップデートをお届けします。

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CastGlobal

【執筆者】CastGlobal

ベトナムの法律事務所

ベトナムで主に日系企業を支援する弁護士事務所です。日本人弁護士・ベトナム人弁護士が現地に常駐し、最新の現地情報に基づいて法務面からベトナムビジネスのサポートをしています。

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