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ベトナム条件付き事業の追加削減提案|投資法2025に続く政府決議草案のポイント

速報

2026年5月26日 / CastGlobal Law Vietnam

2026年5月5日、ベトナム財務省が、投資法(法律第143/2025/QH15号、2026年3月1日施行)の条件付き投資事業分野から58分野を削除する政府決議草案を公表し、意見聴取が始まりました。カジノ・カラオケ等が削除候補に挙がりますが、これは規制の撤廃を意味しません。ベトナム現地の日系法律事務所が、草案の原典と関連法令を踏まえ、その内容と日系企業への実務的な影響を解説します。

本稿のポイント

  • 財務省が、投資法の条件付き事業から58分野の削除・12分野の修正を提案(意見聴取段階の草案)。
  • 核心は「事前審査(tiền kiểm)」から「事後監督(hậu kiểm)」への転換。
  • リストから外れても、カジノ・カラオケ等の個別業法は存続。規制撤廃ではない。
  • 国会決議第206/2025/QH15号の特別メカニズムにより、法改正でなく政府決議で削減する建て付け。
  • M&A・進出実務では「ライセンス保有」より「コンプライアンス体制」の比重が上昇。

1. はじめに:何が提案されたのか

ベトナムの投資法は、原則として投資・事業活動の自由を認めつつ、国防・国家安全保障・社会秩序・社会道徳・公衆衛生といった理由から特定の分野について「条件付き投資事業分野」(ngành, nghề đầu tư kinh doanh có điều kiện)を定め、各分野ごとに事業条件(ライセンス、資本要件、施設要件等)を課しています。この一覧が、投資法の附録IV(Phụ lục IV)です。

今回の財務省草案は、この附録IVのリストそのものを縮小しようとするものです。除外対象には、日系企業の関心が高い分野が多く含まれています。

  • カジノ、ベッティング(賭博)
  • カラオケ・ナイトクラブ、宿泊サービス
  • 再保険、保険ブローカー、保険代理店
  • 会計サービス
  • コメ輸出、酒類、自動車の製造・組立・輸入 など

2. 財務省決議草案の概要

草案は6条構成で、本則のほか、削除分野を列挙した付録1と、修正分野を列挙した付録2が添付されています。各条の概要は次のとおりです。

  • 第1条(適用範囲):投資法附録IVの一部分野を削除・修正する旨と、適用対象(投資家、権限ある国家機関、関係する組織・個人)を規定。
  • 第2条:削減の6原則(下記に整理)。
  • 第3条:58分野を削除(付録1)。
  • 第4条:12分野を修正(付録2)。
  • 第5条:効力と施行責任。
  • 第6条:実施組織。第6条2項(b)は、削除対象分野について2026年7月1日より前に技術基準・規格・職業基準を策定し、事前審査から事後監督へ移行する手続を構築するよう各省庁に求める。
削減の6原則(第2条・要約)
  1. 投資法第7条1項の理由(国防・安全保障・社会秩序・社会道徳・公衆衛生)から条件を課す必要がない、または国民・企業の権利を直接保護しない分野
  2. 施設・運営品質・学歴経験資格などの要件に紐づき、技術基準・規格・職業基準の策定により「事前審査」から「事後監督」へ転換できる分野
  3. 条件が不明確・定性的で、定量化が困難な分野
  4. 他分野と類似する、または他の管理によって既に審査されている分野
  5. 産出する製品・サービスの品質を市場が決定でき、国防等への危害リスクがない分野
  6. 規定以来いまだ事業条件が制定されていない、または既に条件規定がなくなった分野

特に第2原則に「事前審査(tiền kiểm)から事後監督(hậu kiểm)への転換」が明文で掲げられている点は、本草案の思想を端的に表しています。

修正12分野の例

修正は、削除ではなく規定内容の絞り込みが中心です。

  • 賞金付きゲーム事業(No.30):「電子」「外国人向け」という限定が外れる
  • 食品事業(No.44):専門管轄から商工省が外れ、農業環境省・保健省の管轄へ整理
  • 水産飼料・肥料(No.125、No.142):「事業(kinh doanh)」から「製造(sản xuất)」へ対象概念を限定

数字についての注記

2026年5月初旬の一部報道では「60分野削除・14分野修正」とされていましたが、5月5日に政府ポータルで公開された草案本文は「58分野削除・12分野修正」と明記しています。本稿は草案本文の数値に拠っています。また、削除候補の一部(自発的な薬物依存治療・高齢者ケア等。附録IV No.60)には、保健省と公安省が削減の是非を協議すべき旨の脚注が付されており、最終的な削除分野数は58から変動し得ます。

3. 法的構造:なぜ「政府決議」で投資法の事業リストを削減できるのか

条件付き事業のリスト(附録IV)は投資法という「法律」で定められた事項であり、本来その変更には国会による法律改正の手続が必要なはずです。それを、なぜ「政府決議」というより簡易な形式で削減できるのでしょうか。

その根拠が、困難・障害処理に関する特別メカニズム決議(国会決議第206/2025/QH15号、2025年6月24日可決。以下「決議206」)です。決議206は、法令の規定が矛盾・重複・不明確であったり、過度なコンプライアンスコストを生じさせて経済・社会の発展を阻害している場合に、これを「困難・障害」と判定し、通常の立法手続によらず処理できる特別メカニズムを定めたものです。決議206第4条1項が認める処理方法は、次の3つです。

  • (a) 法律の解釈・適用指針
  • (b) 簡易手続による法令の制定改廃
  • (c) 法律改正までの間、政府決議または国会常務委員会決議で現行法律の一部規定を一時的に調整すること

今回の財務省草案は、このうち(c)を用いています。投資法附録IVの本格的な改正を待たず、政府決議によって暫定的にリストを縮小する、という建て付けです。

「66番台」という決議番号の意味

草案冒頭の「Số: 66…/2026/NQ-CP」という一見中途半端な番号は、記入漏れではありません。決議206第4条2項は、この特別メカニズムに基づき発布される政府決議について、「66.1」から始まる専用の連番で付番すると定めています(条文の例:Nghị quyết số: 66.1/2025/NQ-CP)。つまり「66番台」という番号自体が、通常の政府決議ではなく、法律事項を一時的に調整するための特別決議であることを示す印になっています。

無制限ではない授権

この授権には、複数の手続的な歯止めが設けられています。

  • 経済社会・国防・安全保障・外交に大きく影響する内容や未規定事項を扱う場合は、事前に党の権限機関の意見を聴くこと(第4条2項b号)
  • 司法省を常設機関とする独立審査評議会が、各省庁の代表を交えて審査すること(第5条)
  • 政府および国会常務委員会は、この権限を再委任・分権できないこと(第6条8号)

効力期間に関する論点

決議206第4条2項d号は、この種の政府決議が効力終了時点を「2027年3月1日より前」に明示すべきと定め、決議206自体の効力も2027年2月28日までとされています。本草案の効力期間(2026年7月1日〜2027年3月1日)はこの枠組みに対応しますが、草案第5条1項の「2027年3月1日まで」(同日を含む趣旨)は「3月1日より前」と1日ずれており、正式発布時に調整される可能性があります。確定版の確認が必要です。

4. 規制緩和の大きな流れの中での位置づけ

本草案は単発の動きではなく、ベトナムが進める一連の規制緩和の流れの中に位置づけられます。時系列で整理すると、次のとおりです。

  • 2025年12月11日:投資法(法律第143/2025/QH15号)可決。条件付き事業を237分野から199分野へ整理(38分野削除)。2026年3月1日施行(第7条・附録IVの条件付き事業リスト部分は2026年7月1日施行)。
  • 2026年3月31日:投資法施行政府令(政府令第96/2026/NĐ-CP号、2026年3月31日施行)が発布・即日施行。従来の政府令第31/2021/NĐ-CP号を置き換え、市場アクセス条件や事後監督の枠組みを規定。
  • 2026年5月5日:本決議草案の全文公開、意見聴取開始。199分野からさらに58分野削除(実現すれば、条件付き事業はおよそ141分野規模に)。

こうした流れの背景には、民間経済の発展を国家の重要課題と位置づけた党中央の決議(決議第68-NQ/TW号)があります。「禁止される分野以外は自由に事業を行える」という方向性のもと、ベトナムは事前許可によって参入を絞る制度から、自由参入を認めたうえで事後監督によって規律する制度へと、明確に舵を切りつつあります。ベトナムの産業・投資分野の政策動向については、ベトナム半導体政策2026もあわせてご参照ください。

5. 制度設計の核心:事前審査から事後監督へ

本草案の本質は、削除される分野の一覧そのものよりも、その背後にある制度設計の転換にあります。すなわち、「事前審査(tiền kiểm)」から「事後監督(hậu kiểm)」への移行です。両者の違いを整理すると、次のとおりです。

観点 従来(事前審査 / tiền kiểm) 提案後(事後監督 / hậu kiểm)
手続フロー 企業登録(ERC)→ 投資登録(IRC)→ 各省庁の事業ライセンス取得 → 営業開始 企業登録(ERC)→ 投資登録(IRC)→ 営業開始
行政・参入コスト 高い(三段階の関門) 低い(事前のライセンス取得が不要に)
行政の関与 参入前に審査 営業中に随時、監査・実地検査。違反があれば事後制裁

草案第6条2項(b)は、削除対象分野について技術基準・規格・職業基準を策定し、事前審査から事後監督への移行手続を構築するよう各省庁に求めており、投資法施行政府令(政府令第96/2026/NĐ-CP号)もこの事後監督の枠組みを定めています。この転換には両面があります。事業者にとっては参入時の行政コスト・時間的コストが大きく下がる一方、各国の事例に照らせば、コンプライアンス違反が確認された場合の制裁はむしろ厳格化する傾向があります。参入の容易さと、運営段階での規律の厳しさは、いわば表裏の関係にあるといえます。

6. 「条件付き事業から外れる」は「規制撤廃」ではない

最も誤解されやすいポイント

ある分野が条件付き事業のリストから外れても、その分野の規制が撤廃されるわけではありません。外れるのは投資法上の総論的な参入規制だけであり、各分野を規律する個別の業法(業種別の法令)は引き続き存続します。

例1:カジノ事業(附録IV No.32)が削除されても存続する規制
  • カジノ事業政府令(政府令第03/2017/NĐ-CP号):最低投資額20億米ドル、5つ星ホテルの併設、カジノ面積を施設の3%以下とする制限、投資登録証明書(IRC)の取得義務
  • マネー・ロンダリング防止法(法律第14/2022/QH15号、2023年3月1日施行):報告義務
  • ベッティング事業政府令(政府令第06/2017/NĐ-CP号):ベッティング個別ルール
  • 土地法・建築法・消防・救助法(法律第55/2024/QH15号、2025年7月1日施行):個別審査
例2:カラオケ・ナイトクラブ(附録IV No.164)が削除されても存続する規制
  • カラオケ・ナイトクラブ事業政府令(政府令第54/2019/NĐ-CP号):防火・営業時間・治安に関する要件

つまり、本草案が変えるのは「投資法という入口の総論的な参入規制」であって、「各業法に定める実体規制」ではありません。この区別を正確に押さえておくことが、実務上きわめて重要です。

7. 実務上の推奨対応

業種ごとに想定される影響を整理したうえで、日系企業に推奨される対応をまとめます。

業種別の影響
  • エンタメ・観光(カジノ、カラオケ・ナイトクラブ、宿泊、電子ゲーム等):参入手続の迅速化が見込まれる。M&AのDDでは「ライセンス保有状況」より「コンプライアンス体制」の比重が上がる。
  • 輸出入・流通(コメ輸出、酒類、自動車、ガス、鉱物、危険物輸送、各種運輸等):新規参入・事業拡張がしやすくなる可能性。一方、無資格に近い事業者の流入で価格競争が激化するリスクも。
  • 金融・保険(再保険、保険ブローカー、保険代理店、免税品販売、非信用機関による外国為替業務等):保険3業態が揃って削除候補に。ただし保険事業法(法律第08/2022/QH15号)等の業法規制は別途存続。ベトナム国家銀行(SBV)・財務省(MOF)の個別ガイダンス要確認。
  • M&A・コーポレート全般:DD・契約交渉の重心が「ライセンスの有無」から「事後監督リスクの評価」へ移行。表明保証条項やコンプライアンス誓約条項の重要性が一段と上昇。

推奨アクション

  • 自社の事業が、削除・修正の候補分野に含まれるかを附録IVの番号で確認する。
  • 仮に削除されても存続する個別業法(業種別の政府令等)を洗い出し、遵守状況を点検する。
  • 事後監督に備え、社内のコンプライアンス体制・証跡管理・内部監査の仕組みを整備する。
  • M&A・出資では、表明保証・コンプライアンス誓約条項を厚くするなど、事後監督リスクを織り込んだ契約設計を検討する。

8. 今後の見通し

事後監督モデルのもとでは、参入そのものは容易になっても、日々の運営における証跡の管理、内部監査、是正対応こそが事業継続の鍵になります。許認可という「お墨付き」が事業を守る盾になりにくくなるぶん、平時のコンプライアンス体制の巧拙が、そのまま事業リスクに直結する構造です。もともとコンプライアンス意識の高い日系企業は、相対的に有利な立場に立ち得ると考えられます。

本決議は現時点で意見聴取段階の草案であり、削除分野の数・内容、効力期間の終期などは、正式発布までに変動する可能性があります。当事務所では、本決議の今後の動向について、次の観点から続報を順次お届けする予定です。

  • 正式発布の有無と確定内容
  • 業種別の具体的な影響
  • 施行後の事後監督の運用実態

情報ソース: ベトナム政府電子情報ポータル「条件付き投資事業分野の削減に関する政府決議草案」全文(xaydungchinhsach.chinhphu.vn)、投資法(法律第143/2025/QH15号)、投資法施行政府令(政府令第96/2026/NĐ-CP号)、困難・障害処理に関する特別メカニズム決議(国会決議第206/2025/QH15号)。当事務所による草案原典の確認に基づく。

免責事項: 本記事の内容は2026年5月26日時点の情報に基づいています。本決議は意見聴取段階の草案であり、制度の詳細は今後変更される可能性があります。個別の案件については専門家にご相談ください。

CastGlobal

【執筆者】CastGlobal

ベトナムの法律事務所

ベトナムで主に日系企業を支援する弁護士事務所です。日本人弁護士・ベトナム人弁護士が現地に常駐し、最新の現地情報に基づいて法務面からベトナムビジネスのサポートをしています。

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