ベトナム受益所有者(BO)規制改正|政令296の三段階基準と罰則強化

2025年7月にベトナムで受益所有者(Beneficial Owner, BO)規制が導入されてから約1年、2026年7月23日付の政令第296/2026/ND-CP号(以下「政令296」という)が公布・即日施行され、政令第168/2025/ND-CP号(以下「政令168」という)のBO関連規定が全面的に書き換えられました。あわせて、政令第288/2026/ND-CP号により制裁金の上限が1億ドンへ引き上げられています。本稿では、昨年の寄稿記事でご紹介した旧規制からの変更点と、日本企業に求められる対応を整理します。

1. 政令296の位置づけ

政令296は政令168の改正政令であり、2026年7月23日から施行されています(政令296第22条第1項)。企業登録手続全般に及ぶ改正ですが、実務上最も影響が大きいのは、BOの認定基準を定める第17条と、その申告義務を定める第18条が丸ごと差し替えられた点です(政令296第3条・第4条)。

旧規定の下では、25%基準を満たす個人が存在しない企業について「該当者なし」として申告が完結し得ましたが、政令296は最終的な個人に到達するまで所有構造を遡ることを求めております。

2. 認定基準 ― 「並列」から「三段階の優先順位」へ

旧政令168第17条第1項は、(a)25%以上の直接・間接所有、(b)重要事項に関する支配権のいずれか一方に該当すればBOと認定される並列型の基準でした。改正後第17条は、(1)所有基準 →(2)支配基準 →(3)最上位経営者、という優先順位で検討することを企業に義務づける段階構造に改められています。

(1) 第一段階:所有基準(改正後第17条第1項)

「直接・間接・その双方の合算により、定款資本の25%以上または議決権付株式総数の25%以上を保有する個人」

  • 旧規定は「直接または間接」の別建てでしたが、合算して判定することが明文化されました。
  • 間接保有の経路として、他の組織に加えて「その他の法的取決め」が追加されました(旧第17条第2項は他の組織を通じた保有のみを想定)。
  • 企業法第4条第22項の家族関係にある個人グループ、または契約に基づき共同で25%以上を保有する場合、グループ内の全員がBOとなります。
  • 合名会社では、出資比率・議決権にかかわらず全ての合名社員がBOとなります。
  • 企業における国家資本の代表者はBOから除外されます(改正後第17条柱書)。
(2) 第二段階:支配基準(改正後第17条第2項)

第一段階に該当する個人がいない場合、または第一段階で特定した個人が実際にはBOではないと認めるべき根拠がある場合に検討します。列挙される支配権のうち、企業の財務・投資・事業方針の決定権が追加され、他方で法定代表者の任免権が削除されました(旧第17条第1項b号との対比)。株主間契約や定款上の予算・投資計画の承認権が、25%基準を満たさない個人をBOに引き上げる可能性がある点に注意が必要です。

(3) 第三段階:最上位経営者(改正後第17条第3項・新設)

第一・第二段階のいずれでも該当者が特定できない場合、企業を代表して行動する最大の権限を有する管理者を1名特定します(国家資本の代表者を除く)。すなわち、「該当者なし」で申告を終えることは原則としてできなくなりました。

3. 申告実務 ― 各層を遡る調査義務

改正後第18条第1項は、所有構造の各階層を順に精査し、最終的な所有権または支配権を有する個人に到達するまで遡ることを企業の義務として明記しました。所有構造にマネーロンダリング防止法上の法的取決めが含まれる場合、当該取決めのBOは同法に従って特定します。申告は改正後第18条第2項a号〜c号の順序に従います。

4. 罰則 ― 上限3,000万ドンから1億ドンへ

2026年7月21日付・同日施行の政令第288/2026/ND-CP号は、政令第122/2021/ND-CP号を改正し、BOに関する違反類型を新設しました。主な制裁金は図表のとおりです。

違反行為 制裁金 根拠(改正後政令122)
設立登記時にBO情報を申告しない 5,000万〜1億ドン 第46条第4項c号・第5項d号
2025年7月1日前設立の企業が直近の変更登記・変更届出時にBO情報を補充しない 7,000万〜1億ドン 第44条第6項
BO情報を不実・不正確に申告 3,000万〜7,000万ドン 第43条
BO情報の変更届出の遅延 1日~10日:警告
11〜30日:1,000万〜2,000万ドン/31〜90日:3,000万〜4,000万ドン/91日以上:5,000万〜6,000万ドン(1〜10日は警告)
第44条第1項〜第4項

いずれもBO情報の補充・届出という是正措置が併せて課されます。特に留意すべきは、2025年7月1日前に設立された既存企業が、直近の変更手続の際にBO情報を補充していなければ制裁の対象となる点です。設立年次を問わず、すでに変更登記を経ている現地法人は提出済み書類の確認が必要です。

5. まとめ ― 日本企業に求められる対応

BO規制は、単なる登記実務ではなく、グループ全体の所有構造の透明性に関するコンプライアンス課題です。実務対応としては、①最終個人まで到達する所有構造図を作成し、三段階の順序で検討した過程を証跡として保存することが重要です。


情報ソース: 政令第296/2026/ND-CP号(2026年7月23日施行)/政令第288/2026/ND-CP号(2026年7月21日施行)/政令第168/2025/ND-CP号/政令第122/2021/ND-CP号

免責事項: 本記事の内容は2026年8月21日時点の情報に基づいています。制度の詳細は今後変更される可能性があります。個別の案件については専門家にご相談ください。

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CastGlobal Law Vietnam Co., Ltd.

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【執筆者】CastGlobal

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