【ベトナム相続】日本居住の日本人がベトナムで相続不動産を有する場合、どのようにすればスムーズに相続手続できますか。
- 2023.07.24
- コラム
- CastGlobal
1 遺言が存在しない場合
(1)準拠法
日本人がベトナム国内に財産を遺して亡くなった場合、その相続手続きには原則として日本の民法が適用されます(民法第680条1項)が、遺産が不動産の場合には、ベトナムの民法が適用されることとなります(同2項)。
そのため、被相続人との関係で誰が相続人となるのかは、ベトナムの民法を確認の上、被相続人との相続関係にあることを当局に対し証明していく必要が生じます。
ベトナム民法上の法定相続は、以下のようになっています(第651条)。
a) 第一相続順位は,死亡した者の配偶者,実父,実母,養父,養母,実子,養子からな る。
b) 第二相続順位は,死亡した者の父方の祖父母,母方の祖父母,実の兄弟姉妹,父方の 祖父母,母方の祖父母である死亡した者の実孫からなる。
c) 第三相続順位は,死亡した者の曾祖父母,死亡した者の伯父・伯母,叔父・叔母,死亡 した者の実の甥・姪,死亡した者の実の曾孫からなる。
同じ相続順位にある相続人が複数いる場合,各相続人は、均等の割合で遺産を共同相続します(同2項)。次順位の相続人は、死亡等により先相続順位の者がいない時にのみ,相続権を有することができるとされています(同3項)。
(2)遺産分割協議
日本同様、遺産が複数の法定相続人間で共有状態となっている場合、遺産分割を行う必要がありますが、ベトナム法上、特別受益や寄与分といった概念はありません。
不動産のように現物での分割が困難な遺産については、共同売却のほか、価格鑑定実施後に代償分割する方法が定められています(第660条2項)。
もっとも、日本法とは異なり、遺産分割には時効期間が設定されており、不動産の遺産分割の時効は30年となっています(第623条1項)。時効期間経過後は、当該不動産を管理している者が遺産不動産を取得し(同2項)、そのような管理人がいない場合には、国庫に帰属することとされています(同3項)。
(3)相続登記手続
不動産を相続するためには、「土地使用権、住宅および土地に付随する他の資産所有権の証明書」(いわゆるピンクブック)上の所有者名義を書き換えるため、当局に対し、被相続人の死亡と、被相続人との相続関係を証明する書類を提出する必要があります。
また、遺産分割によって相続人のひとりが単独で取得する場合、又は相続人が法的な遺言によって取得する場合には、遺産分割協議書(ベトナム語:Văn Bản Thỏa Thuận Phân Chia Di Sản Thừa Kế)を提出する必要が生じるものと思われます。相続人が複数おり、相続人が相続される不動産の分割を合意せず、その不動産を共同で所有する場合には、遺産開陳書(ベトナム語:Văn Bản Khai Nhận Di Sản Thừa Kế)を提出する必要が生じるものと思われます。遺産開陳書及び遺産分割協議書は、ベトナム公証役場で公証される必要があります。
日本在住の日本人が被相続人の場合、被相続人の死亡や、その相続関係については、上記のいずれも戸籍謄本によって証明可能ですが、当然、戸籍謄本は日本語での記載であるため、これをベトナム語に翻訳した書類を添付して認証を得る必要があります。
手続きとしては公証役場で公証人の認証、公証人が所属する地方法務局で法務局長の公証人押印証明を取得した後、外務省でアポスティーユや公印確認を取得する必要があります。さらに、ベトナムはハーグ条約非加盟国であるため、外務省の公印確認を取得した後、駐日大使館の領事認証を取得する必要があります。
2 遺言が存在する場合
(1)遺言の作成
相続発生後に遺産を誰に渡したいか、予め決まっている場合には、遺言書を作成する必要があります。
遺言の形式については、遺言が作成された地の国の法令に従って確定されるほか、以下の場合にも、ベトナムにおいて公認されるとされています(民法第681条2項)。
①遺言作成をした時点又は死亡した時点で遺言作成が常住していた国
②遺言を作成した時点又は死亡した時点で、遺言作成者が国籍を有していた国
③相続財産が不動産である場合、不動産の所在地
したがって、日本法に従って遺言を作成することも可能ですが、ベトナムでこれを執行するためには、これをベトナム語に翻訳の上、日本の相続法に従った遺言であることの証明(日本法の説明書等)も必要になるものと思われます。
他方、ベトナムにおいて、ベトナム法に則った遺言を作成する場合、以下の方法が規定されています。
①証人のいない文書による遺言(民法第633条)
―自筆で内容を記載し、署名
②証人のいる文書による遺言(民法第634条)
―自筆又はタイプ打ちが可能。遺言者の署名又は指印。証人2人の署名。
③公証された文書による遺言(民法第635条、第636条)
―公証の前で遺言の内容を宣言。公証人が書き取り。遺言者の署名又は指印。公証人の署名
④確証された文書による遺言 (民法第635条、第636条)
―確証権限者の前で遺言の内容を宣言。公証人が書き取り。遺言者の署名又は指印。公証人の署名
もっとも、実務上、ベトナム公証人、確証権限者は、外国人の遺言を公証・確証していません。したがって、証人のいない文書による遺言か、証人のいる文書による遺言を行うしかないのが現状です。場所や時期により状況が変わる可能性もあるため、実務の確認が必要となります。
遺言の内容は、①遺言をした年月日、②遺言者の氏名と居所、③遺産を受領する個人の氏名、機関・組織の名称、④遺産の内容と遺産の所在、で構成されます。その他の内容も記載可能です。遺言が複数頁に渡る場合、各頁に番号を記載し、遺言者が署名又は押印する必要があります。
(2)遺言執行(遺言による相続登記)
遺言者は、遺言において遺産管理人を指定することができ(第626条5項) 、遺産管理人は、以下の権利義務を有するとされています(第617条1項)。なお、遺産管理人の指定がない場合、相続人間の合意により遺産分割者を選任することも可能とされています。
①遺産目録の作成
②他人に占有されている遺産の回収(法律で別段の規定がある場合を除く)
③遺産の保管
④各相続人に対する遺産状況の通知
⑤相続人の要求に従った遺産の引き渡し
また、遺言者は、遺言において遺産分割者を指定することができ(第626条5項) 、遺産分割者は、遺言のとおりに遺産を分割しなければならないとされています(第657条2項)。
なお、遺産分割者の指定がない場合、相続人間の合意により遺産分割者を選任することも可能とされています。
このように、ベトナムでは、遺産を管理する者と、遺産を分割(遺言を執行)する者が別の役職として区別されていますが、同一人を指定することも可能とされています(第657条1項)。
外国人が遺言者である遺言を執行する場合には、遺言者の死亡の証明と、遺産の受取人であることの身分証明が必要になるものと思われます。その場合、やはり戸籍等の翻訳と、公証人による認証、公証人の押印証明を取得した後、外務省で公印確認を取得し、駐日大使館の領事認証を取得する必要があります。
(3)遺留分
なお、ベトナムの相続法においても、日本の遺留分同様の制度が規定されています。
具体的には、法定相続人が、本来の法定相続分の3分の2よりも少ない遺産の分しか享受することができない場合、以下の者は法定相続分の3分の2と同等の遺産分を享受することができます(民法第644条)。
① 未成年の子、父、母、妻、夫
② 成年者となっているが、労働能力がない子
この規定は、遺産受領を拒否(放棄)した者、遺産を享受する権利を有しない者には適用されません。