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コラム

ベトナムでの外国企業のM&Aの現状や注意点 (主に2023年データ・報道に基づく)

1.ベトナムでのM&Aの現状

 ベトナムの外国投資局の発表(2023年)

2023年のM&Aについて、外国投資局の発表はどうだったでしょうか。
ベトナムでは外資企業がベトナム国内企業に投資する場合、計画投資省の認可が必要であり、この際に認可された金額ベースの直接投資金額、間接投資金額が発表されています。

計画投資省外国投資局(FIA)が発表したデータによると、2023年のFDI認可額は前年比32%増の365億9000万USD。これには、M&Aのみではなく、新規投資・追加投資の認可額が含まれています。
国別認可額では、シンガポールが約68億USD、続いて、日本、香港、中国、韓国、台湾となっています。これら 6 つのパートナー国だけで、2023 年の外国投資資本の 81.4% 以上を占めています。

M&Aによる出資・株式取得額をみると、シンガポールが22億USD、日本が29億USDとなっており、日本からの投資金額が全体のトップとなっています。

No. 国・地域 M&A件数 投資額
1 シンガポール 349 22.0億USD
2 日本 230 29.4億USD
3 香港 91 1.3億USD
4 中国 412 1.6億USD
5 韓国 961 4.0億USD
6 台湾 234 2.8億USD

M&Aの投資金額順に産業分野を並べると、以下のとおりです。新規投資件数の場合、製造業がトップですが、不動産と金融が非常に大きいということがわかります。
1件あたりの金額が大きいうえ、外資の規制も大きい分野ということもありM&Aの参入が多くなったと考えられます。

No. 産業 M&A件数 投資額
1 不動産 102 31.5億USD
2 金融 22 15.5億USD
3 加工・製造 529 15.4億USD
4 テクニカル・プロフェッショナルサービス 531 7.7億USD
5 卸売・小売 1433 6.0億USD
6 医療・社会支援 11 3.4億USD
7 IT 265 1.8億USD
8 運輸・倉庫 138 1.5億USD
9 電気・ガス・水道 9 1.0億USD

出典:
投資計画省・外国投資局Website
https://fia.mpi.gov.vn/Detail/CatID/f3cb5873-74b1-4a47-a57c-a491e0be4051/NewsID/00689952-458e-417a-bf12-896d853e1276

 現地報道

Vn economyによれば、ベトナムのM&A市場は2023年で44億USD以上に達する見込みです。「2023 年最初の 10 か月間で、M&A 市場は前年同期と比較して 23% 減少したが、この市場は政治的安定と高い基準のおかげで依然として海外投資家から魅力的であると考えられており、国内での利用は急速に増加し続けている。」と述べられています(*1)。
平均取引額は5,450万米ドルに達し、投資家が戦略的投資に移行し、より大きな財務的可能性を必要としていることを示しており、また、政策支援や需要の増加により、グリーンエネルギー、テクノロジー、不動産、ヘルスケアなどの主要分野でM&A取引が増加する可能性があると予測されています。

さらに投資分野について、Nhan Danでは、現在、多くの投資家は経済の基本基盤である食料生産と流通をはじめ、農業や食料といった主要セクターへの回帰を優先していると言われており、次に病院、医薬品、医療機器などの医療分野であると述べてられています(*2)。このようにベトナムのM&Aは市場規模が増大しているだけではなく、幅広い分野で取り扱われていることが分かります。

更に、ベトナムのM&Aにおける日本の立ち位置は向上しています。1996年から2022年末までにベトナムでは約6,550件の合併・買収(M&A)取引があり、2022年までは主にタイと韓国の競争だったのに対し、2023年から現在は日本の投資家による新たなM&Aの波が形成されています。円の価値が下がっていることもあり、そのため日本企業は「資金を持ってきて海外(ベトナムなど)に投資する」ことが求められているとされています(*3)。

(*1) Vn economy Thị trường M&A Việt Nam đạt giá trị hơn 4,4 tỷ USD năm 2023
https://vneconomy.vn/thi-truong-ma-viet-nam-dat-gia-tri-hon-4-4-ty-usd-nam-2023.htm

(*2) “Phá băng” thị trường M&A Việt Nam
https://nhandan.vn/pha-bang-thi-truong-ma-viet-nam-post785442.html

(*3) DN Nhật Bản đẩy mạnh M&A tại thị trường Việt Nam
https://tphcm.chinhphu.vn/dn-nhat-ban-day-manh-ma-tai-thi-truong-viet-nam-101240312184155633.htm

2.なぜベトナム進出(M&A)は増加傾向にあるのか

①豊富な人材

ベトナムの人口はおよそ1億人で、国民の平均年齢は31歳です。
労働年齢人口は69%を占める黄金の人口構造により高い優位性を持っています。労働人口は約20年間上昇していくことが想定されています。

また、IT人材の豊富さも強みです。ベトナムの全労働者に占める情報技術人材の割合は、総労働者5,100万人のうち1.1%と推定されていてインドの1.78%、韓国の2.5%、アメリカの4%には劣るもののこの割合が2%まで上昇すると予想されています。
実際には、都市部のIT人材の質・量は非常に高いと評価されており、特にこれまでのIT業界への優遇税制、外国企業誘致、ITエンジニア教育の継続などにより、ITエンジニアのエコシステムもできあがっています。

②市場の拡大

2022年10月発表 「2050年を見据えた2021~30年の国家マスタープランによれば、ベトナムは2050年までに高所得国入りを達成する目標を掲げました。
マスタープランによると、2021~30年におけるGDP成長率目標を年平均7.0%、 2031~50年までは6.5~7.5%に設定。
一人当たりGDPを、2030年までに7,500ドル、 2050年までに27,000~32,000ドルへと引き上げることを目指しています。

コロナ禍や今後のそれ以外の要因でこの通りの計画が難しいとしても、各種調査においてベトナムの経済成長のポテンシャルは非常に高く評価されています。
たとえば、ベトナムの2023年のGDPは東南アジア5位・世界35位でしたが、英国経済ビジネスリサーチセンター(CEBR)によると、ベトナムのGDPは2038年までに1兆5590億USD(約230兆円)に達し、東南アジアで2位(1位はインドネシア)、世界では21位に上昇すると予想されています(*4)(*5)

(*4) 23年GDP、ベトナムは東南アジア5位・世界35位 IMF報告(VIETJO)
https://www.viet-jo.com/news/economy/240313175657.html

(*5) ベトナム、今後10年間で資産2.3倍に増加 繁栄スピードは世界一
https://www.viet-jo.com/news/economy/240222193358.html

また、ITの力強さも牽引しており、2025年までにベトナムのデジタル経済がGDPの約20%を占め、2030年までに、デジタル経済はベトナムのGDPを7〜16%押し上げ、約280億〜620億米ドルに相当すると予測されています。

③各国との良好な関係

「包括的戦略的パートナーシップ」はベトナム外交上で最高位の2国間関係を表していますが、中国、ロシア、インド、韓国に加え、2023年にアメリカと日本も加わりました。中国や欧米との関係性のバランスがこれだけ取れている国は東南アジアでは非常に珍しいです。

アメリカにとっては、米中摩擦からのベトナムの位置づけの重要性(国防、経済など多方面)もあり、地政学的に重要になっているため、2023年9月10日に米国とベトナムにおける関係性を「包括的戦略的パートナーシップ(Comprehensive Strategic Partnership)に格上げする旨を公表しました。2013年に締結された包括的パートナーシップから2段階格上げと過去にない関係強化となりました。
2023年12月27日には日本も「アジアにおける平和と繁栄のための広範な戦略的パートナーシップ」から「アジアと世界における平和と繁栄のための包括的戦略的パートナーシップ」に格上げしました。

政治的なつながりだけでなく、各国への輸出などを通じて経済的なつながりも強く、バランスのよい各国との経済関係に更に期待が高まってきています。

④日本とのさらなる関係強化

日本からベトナムへの投資意欲はこの10年高いままですが、近年更に高い注目を維持しています。
2023年度のJETROのアンケート、JBICのアンケートにおいても東南アジアでトップクラスの投資対象国として事業拡大の回答が多くなされています。
JETROのアンケートにおけるベトナムへの進出メリットとして挙げられている上位は、①市場規模・成長性、②安定した社会情勢、③人件費のやすさ、④駐在員の生活環境が優れている、⑤ワーカー等の雇やすさです。

JETRO:2023年度 海外進出日系企業実態調査|アジア・オセアニア編
https://www.jetro.go.jp/ext_images/_Reports/01/a261e38b2e86c8d5/20230023rev1.pdf

JBICの「中期的な有望国・地域」アンケートにおいても、2022年の4位から2023年はインドに次ぐ2位にランクアップしています。中国への投資意欲が減っている一方で、ベトナムは安定的に上位の結果を獲得しており、今年はアメリカ・中国を抑えて2位となりました。
なお、上位の有望理由は①現地マーケットの今後の成長性、②安価な労働力、③優秀な人材、④他国のリスク分散の受け皿として、⑤第三国の輸出拠点として、が挙げられています。逆に課題としては、①労働コストの上昇、②法制の運用が不透明、③他社との厳しい競争、④管理職人材の確保が困難、⑤技術系人材の確保が困難、などが挙げられています。

JBIC 2023年度海外直接投資アンケート調査結果(第35)

また、日本に中長期滞在しているベトナム人は、中国についで2位となっています(2023年発表、出入国管理庁)。

(1) 中国 788,495人 (+26,932人)
(2) ベトナム 520,154人 (+30,842人)
(3) 韓国 411,748人 (+   436人)
(4) フィリピン 309,943人 (+11,203人)
(5) ブラジル 210,563人 (+ 1,133人)
(6) ネパール 156,333人 (+16,940人)
(7) インドネシア 122,028人 (+23,163人)
(8) ミャンマー 69,613人 (+13,374人)
(9) 米国  62,425人 (+ 1,621人)
(10) 台湾 60,220人 (+ 2,926人)

特定技能在留外国人数に限ると、ベトナムが約11万人で全体の53.1%を占めており、最多となっています(2023年12月末データ)。
このような日本への人材移動、その人材のベトナムへの還流などにより、さらに日本との関係性が強まり、またM&Aでの進出も様々な業種で増えていくことが予想されます。

各種報道、実務に基づきCastGlobal作成

 

3.ベトナムのM&Aにおける近時の注意点

本コラムでは詳細の説明は省略しますが、ベトナムのM&Aでは一般的なM&Aに比べて注意したほうがよい点も多くあります。

①業種拡大・金額の多様性に基づくリスク検討の不備

ベトナムの注目度があがり、様々な業種で中小企業、スタートアップのM&Aが増えています。特にベトナム向けのサービス(医療・教育・エンタメ・IT等)の分野では数年前に比べて大幅に増加しています。

これらの投資では、投資金額が大きくないことも多く、コストの削減のためにデューデリジェンスその他の調査を省略するという事例も見られます。

もっとも、ベトナムのローカル企業では会計・法務ともに法律に沿っていない運用をしている会社が多数あり、買収後のPMIにおいて大きいリスクが出てくる事例があり、その時点で相談を受けることもあります。
解決可能なものであればよいのですが、ビジネスにおける根本的なライセンスの問題や会計上大きいインパクトのある問題であることもあります。このような事態を避けるため、できる限り重要点の事前の調査は行うようにしてください。

現地企業の買収についてリスクが高い場合、新しい企業の設立+事業譲渡を行ってリスクを分断することもできないか、検討することもあります。

②一部投資による合弁企業運営のトラブル

特にベトナムマーケット向けの事業では、ローカルのパートナーが重要となります。

そのため、多くの分野でベトナム人パートナーへの追加出資などが行われており、その場合Joint Venture(合弁会社)となって共同の投資家となります。
マイノリティ投資で特に運営に関与しないと決めているのではなく、こちらも経営に関わっていく場合、中長期的に意思決定の齟齬が生じ、経営を続けるのが難しくなるケースもあります。

契約において、両者での株主間契約をきっちり締結する、将来的なさらなる株式購入のステップを決めておく、意思決定できなくなった場合の処理を決めておく、などは日本企業にとって非常に重要になります。

③スケジュールコントロール

ベトナムのM&Aでは、ベトナム当局の投資認可(M&A承認)、出資者変更の手続などで時間がかかるケースが多くあります。
これらの行政手続きの準備・実行に3−6ヶ月程度かかることもあります。

また、その前にデューデリジェンスや、契約交渉で更に3−6ヶ月の時間がかかることも多くあります。デューデリジェンスで見つかった事象によっては、その改善を待つために更に多くの時間をかけるケースもあります。

このように時間がかかるのは当然の前提として進めないと、交渉で不利になったり、リスクが潜在化したまま契約締結してしまい、将来の大きなリスクになることもあります。
日本の投資側の事情で急ぎたい場合や、ベトナムの投資先から急かされる場合もあるとは思いますが、大きな責任を伴うM&Aを行う場合、金額の多寡にかかわらずしっかりした検討をする必要があります。

一方、中国企業・韓国企業などの意思決定は早いので、手続を急いで行いつつも、意思決定はスピーディーに行っていく、ということも重要になります。ケースバイケースですが、経営陣がバランスよく判断していくことがとても重要です。

その他、M&Aの手続や規制に関しては、下記のQ&A記事(会員限定)もご覧ください。

ベトナムにおけるM&Aの手続および規制の概略

 

CastGlobal

【執筆者】CastGlobal

ベトナムの法律事務所

ベトナムで主に日系企業を支援する弁護士事務所です。日本人弁護士・ベトナム人弁護士が現地に常駐し、最新の現地情報に基づいて法務面からベトナムビジネスのサポートをしています。

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