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日本人がベトナム不動産を所有したまま亡くなった場合の相続手続き(遺言がない場合)

以下は、ベトナムに不動産を有する日本人が遺言のないまま亡くなった場合の相続手続きについて、より専門的かつ分かりやすい形で整理したものです。実際には、両国の法規制や運用上の特徴を踏まえた慎重な対応が求められるため、専門家への相談を強く推奨します。

1. 準拠法と手続全体の枠組み

(1)日本法が準拠法となる点

被相続人が日本国籍の場合、相続に関する法律関係(法定相続人の範囲、相続分、特別受益、寄与分等)は、日本法(民法)が準拠法となります(通則法第36条)。これにより、相続人の確定や遺産分割協議の有効性といった基本的な判断は原則として日本法に従って行われます。

(2)ベトナム側手続への影響

一方で、ベトナム国内に所在する不動産の権利移転(名義変更)手続は、ベトナムの土地法や不動産関連の行政手続法令に則って行う必要があります。すなわち、「相続関係」の準拠法が日本法である一方で、「不動産名義変更」という実体・手続はベトナム法に基づくため、二国間法制の整合的な適用が求められます。

2. ベトナムでの不動産名義変更手続きのハードル

(1)遺産分割協議の有効性の立証

日本で有効に成立した遺産分割協議書があっても、そのままベトナム当局が名義変更を認めるとは限りません。ベトナム当局は「当該協議書が日本法上有効である」こと、および「相続手続きが適正に完了している」ことを十分な法的証拠とともに要求する場合が多く、単なる印鑑証明や公証書では不十分と判断されるケースもあります。

(2)裁判所関与の可能性

そのため、現地当局が求める法的確実性を担保するためには、日本の裁判所を通じた手続(遺産分割調停、審判手続など)で、確定的な「調停調書」または「審判書」を取得する方法が検討されます。これらの裁判所書面を「公印確認(アポスティーユ)」「翻訳公証」を経た上でベトナム当局に提出することにより、ベトナム側での名義変更手続を円滑化できる可能性が高まります。ただし、こうした司法手続きは相応の時間・コスト負担を伴います。

3. 相続人間での意見対立と対応策

(1)代償金による単独取得

相続人間で不動産の帰属先や評価額に合意できる場合、特定の相続人が単独で不動産を承継し、他の相続人に対し代償金を支払う方法が考えられます。しかし、ベトナムでは日本のような公的評価制度(固定資産評価額や路線価)が確立されておらず、不動産の適正評価が難しいため、代償金額の算定を巡って意見対立が生じるリスクがあります。

(2)売却・代金分配の困難性

不動産を第三者へ売却し、得られた代金を相続人間で分配する方法も理論上可能です。しかし、ベトナム当局は外国人相続人を含む共有名義化に慎重であり、前例不足や法解釈上の問題から、共有名義設定や売却手続そのものを拒否される可能性があります。その結果、売却方針が決まらず、相続手続が膠着する懸念もあります。

4. 手続き長期化のリスクと事前対策

(1)手続の長期化要因

ベトナム当局の慎重な審査、裁判所関与の必要性、不動産評価の困難性、共有名義設定拒否のリスクなど、様々な要因が重なり、ベトナム不動産の相続手続は日本国内相続よりも長期化、複雑化しやすいといえます。

(2)遺言作成によるリスク軽減

こうしたリスクを事前に回避するためには、被相続人が生前に法的に有効な遺言を作成しておくことが最善策といえます。遺言により特定の相続人に不動産を帰属させることを明確化すれば、相続人間での意見対立や裁判所手続の必要性を大幅に減らすことが可能です。ベトナム不動産を含む複数国の資産がある場合、各国法制に精通した専門家への相談が不可欠です。

5. まとめ

  • 日本国籍被相続人の相続は基本的に日本法が準拠法となるが、不動産が所在するベトナムでの名義変更にはベトナム法が絡み、日越両国法の整合的対応が必要。
  • 日本で合意した遺産分割協議書がベトナムでそのまま通用しない可能性があり、裁判所での確定的書面の取得や証明手続が求められる場合がある。
  • 相続人間での意見対立がある場合、代償金や売却案を検討できるが、不動産評価や共有名義の問題、当局の慎重姿勢が実務上の障壁となり得る。
  • 手続き長期化のリスクを軽減するため、あらかじめ有効な遺言を準備することが効果的。

こうした複雑な手続きを回避・円滑化するためには、早期段階から専門家へもご相談のうえ、両国での法的要件や行政実務を踏まえた戦略的な対応が不可欠です。

CastGlobal

【執筆者】CastGlobal

ベトナムの法律事務所

ベトナムで主に日系企業を支援する弁護士事務所です。日本人弁護士・ベトナム人弁護士が現地に常駐し、最新の現地情報に基づいて法務面からベトナムビジネスのサポートをしています。

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