相続人にベトナム人がいる場合の相続手続について
- 2024.12.22
- コラム
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1. 準拠法と基本原則:日本法がベース
被相続人が日本国籍である場合、法定相続人の範囲や各人の相続分、特別受益・寄与分などの判断基準は、日本の民法に基づくことになります(通則法第36条)。
相続人にベトナム国籍の方が含まれていても、この基本原則は変わりません。問題は、「日本法による相続関係確定」を前提としつつ、ベトナムに在住する相続人やベトナム当局を巻き込んだ実務手続きを進めなければならない点にあります。
2. 相続人間の協議を難しくする要因
ベトナム人相続人が含まれるケースでは、以下のような要因が遺産分割協議を複雑化します:
- 言語の壁:日本語とベトナム語の通訳・翻訳が不可欠で、意思疎通が容易ではない。
- 地理的距離:相続人が日越双方で暮らしている場合、オンライン会議や郵送によるコミュニケーションが中心となり、迅速な決定が難しい。
- 法律・文化の相違:相続に関する価値観や判断基準、手続きへの理解度が異なるため、合意形成に時間がかかりやすい。
こうした障壁により、日本国内の相続より手続きが長期化し、合意形成までに相当の時間やストレスを伴う可能性があります。
3. 日本裁判所での遺産分割調停手続きと外国送達の課題
円滑な相続人間の話し合いが難しい場合、日本の家庭裁判所で遺産分割調停を行うことが考えられます。しかし、相手方がベトナムに在住している場合、調停申立書や期日呼出状などの送達が大きなハードルとなります。
•送達手続きの複雑さ:
日本の家事事件手続法や民事訴訟法に基づき、在ベトナム日本領事館やベトナム指定当局を通じて文書を送達します。その際、文書をベトナム語へ正確に翻訳し、公証する手続きが不可欠です。
•期間の長期化:
翻訳・公証作業や領事ルートによる送達には、数か月から1年程度の時間を要することが珍しくありません。住所不明・所在不明の場合や、長期間当局から返信が得られない場合、民事訴訟法上の公示送達に移行することになり、さらなる時間的ロスが生じます。
これらの手続的障壁によって、実質的な遺産分割の話し合い開始までに相当な期間を要する可能性があります。
4. 遺言による事前対策の重要性
こうした複雑な手続きを回避、あるいは大幅に軽減する有効な方策として、被相続人が生前に有効な遺言を残しておくことが挙げられます。
例えば、
- ベトナム国内資産をベトナム人相続人へ帰属させる
- 日本国内資産は日本在住相続人へ配分する
といった内容を明確にすることで、相続時に日越間での協議・調停が必要となる範囲を最小限に抑えることが可能になります。
これにより、相続人間の対立や送達手続きの煩雑さを軽減し、よりスムーズな手続進行が期待できます。
5. 早期準備の重要性
相続人に外国籍者が含まれる場合、必要な手続きは国際法務・翻訳公証・現地実務対応など、多岐にわたります。
ベトナム人相続人がいる場合の相続手続きは、日本法を準拠法としつつ、国際的な調整や翻訳送達手続きに伴う膨大な労力・時間がかかる可能性があります。スムーズな手続処理には、事前の遺言作成と早期の専門家活用が極めて重要です。
これらの準備を通じて、将来のトラブルや長期化リスクを最小限に抑え、相続手続を円滑に進めることが期待できます。