米国、ベトナム製品への関税46%を発表—2025年4月9日施行へ
- 2025.04.03
- コラム
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米国のトランプ大統領は現地4月2日(ベトナム3日早朝)、大規模な「トランプ関税」を発表し、ベトナムからの輸入品に対して 46% もの高関税を課す方針を示しました。4月9日からの施行が予定されています。この新関税措置は、世界各国から米国への輸出品に一律10%の最低関税を課す「全方位関税」戦略の一環であり、各国ごとに「相互的」と称する追加関税率が設定されています。例えば中国34%、EU20%、台湾32%、日本24%、インド26%などが公表されており、ベトナムへの46%はカンボジアの49%に次いで2番目に高い税率です。
これは事実上、ベトナム製品の大半が米国市場でほぼ半額以上の関税負担を強いられることを意味し、サプライチェーンや貿易環境に大きな波紋を呼んでいます。
目次
■背景:急増する対米輸出と標的化されたベトナム
ベトナムは近年、米中貿易戦争の「漁夫の利」も得て対米輸出を急拡大させてきました。米政府データによれば、2024年に米国がベトナムから輸入した商品は約1,366億ドルに達し、対米貿易赤字(米国側から見た赤字)は1,235億ドル超と過去最大を更新しました。これは中国、EU、メキシコに次ぐ世界第4位の対米黒字であり、米国に輸出する主要貿易相手国の中でベトナムが最も対米輸出依存度の高い国となっています。実際、ベトナムの輸出の29%(金額ベース)が米国向けであり、その額はベトナムGDPの約30%に相当します。これはメキシコ(約27.6%)をも上回り、他の大国(中国は2.5%、日本は3.7%)と比べても突出しています。
トランプ政権はこうした巨額の対米貿易赤字と他国の高関税を問題視し、「相互関税」(Reciprocal Tariffs)と称して各国が米国製品に課しているとされる関税率の約半分を米国側も課す方針を掲げました。ベトナムは関税・非関税障壁が高く通貨政策も米国の不満対象であり、「ホワイトハウスが設定した関税適用基準を満たす国だ」と指摘されています。このため「最大の対米黒字国の一つで、なおかつ米国への安全保障上の脅威を直接は与えない国」であるベトナムがターゲットになったと報道されています。
実際、ファム・ミン・チン首相は新関税発動に先立つ3月、米国からの輸入拡大に向けて国内関税の引き下げを検討しており、3月31日には自動車・LNG(液化天然ガス)・一部農産品の関税引き下げを発表するなど土壇場の歩み寄りを図りました。
しかしそれでも急増する対米黒字への懸念は拭えず、今回ついにベトナム製品の90%以上を対象に46%もの高関税賦課が公式発表された形になります。
■産業への影響
46%という異例の高関税は、ベトナムが強みを持つほぼ全ての産業に影響を及ぼします。特に以下の主要セクターが打撃を受ける見込みです。成長目標であるGDP成長率8%の目標達成のさらに難しくなるかもしれません。
繊維・衣料品(アパレル)産業
ベトナムは米国向け衣料品輸出で中国に次ぐ地位を占めてきました。ナイキやアディダスといった世界的スポーツブランドは近年生産拠点を中国からベトナムへ大きく移転しており、ナイキは2024年度に自社靴の50%、衣料品の28%をベトナムで生産しています。今回の関税でこれら衣料・履物製品の米国向け価格は大幅上昇が避けられず、メーカー各社はコスト増を吸収するか値上げかの苦渋の選択を迫られます。
モーニングスターのアナリストは「関税拡大が現実になれば、ナイキにとって深刻な問題となる」と指摘しており、実際ナイキやルルレモンなど業界各社は在庫処分セールや値引きで対応せざるを得なくなる可能性があります。また、米国のスニーカー平均価格は近年すでに上昇傾向(2019年比+25%)にあり、さらなる値上げは消費者離れを招きかねません。。頻繁に購入する衣料品の値上がりには人々も敏感で、「衣料コスト増には消費者の抵抗が大きい」との見方もあります。
電子・電機製品
ベトナムはサムスン電子やフォックスコン(鴻海)など海外ハイテク企業の大規模製造拠点となっており、スマートフォンやPC、半導体部品から電気機器まで幅広い電子製品を米国に輸出しています。2024年には米アップルの関連サプライヤーもベトナム生産を拡大しつつありました。こうした電機産業製品にも一律46%の関税が課されれば、米国での販売価格が跳ね上がり需要減少は避けられません。特にスマートフォン・タブレット等は関税転嫁で価格が2~3割以上上昇する恐れが指摘されており、競争力低下は免れないでしょう。
生産企業は他国への生産移転を模索するとみられますが、「カンボジアやインドネシアなど他の東南アジア諸国も同様に関税対象になる可能性があり、生産コストも上昇し始めている」(香港MGFソーシングCEO)とされ、簡単には迂回できません
。結果として、一部高付加価値な製品は米国内生産や近隣国(例:メキシコ)での生産へのシフトも検討されるでしょう。
家具(木製品)産業
家具はベトナムが米国市場で近年躍進した分野です。2020年以降、ベトナムは米国向け木製家具の最大供給国となり、市場シェア35~40%を占めています。対中関税の影響で多くの家具メーカーがベトナムに生産を移した結果、2023年の木製品輸出額は約131.8億ドルに達しました。
46%関税の適用により、米国の家具小売業者は価格転嫁を迫られるか、他国調達への切り替えを検討するでしょう。競合のタイやマレーシアからの輸入にも関税(それぞれ36%、24%)が課されますが、それでもベトナム製に比べ負担は軽いため、ベトナム産家具の受注減少は避けられない見通しです。日本企業では、ニトリなどがベトナムに自社工場を構えるなど生産を行っていますが、米国向け輸出には逆風となりそうです。
農林水産品(食品)
ベトナム産のコーヒーや胡椒、カシューナッツといった農産物、エビ・魚介類など水産物も米国市場で存在感があります。特にエビはベトナムが世界有数の輸出国であり、米国の食卓にも広く浸透しています。46%の関税が課されれば、ベトナム産エビやパンガシウス(ナマズ)の米国向け価格競争力は大幅に損なわれ、代替調達先(インドやエクアドル等)へのシフトが進むでしょう。実際、米国向け水産物加工工場では冷凍エビ製品が主力ですが、関税コスト増によって現地輸出企業の収益圧迫は避けられません。ベトナム国内の農漁業者にも波及し、水産加工業の雇用や生産にも影響が及ぶ懸念があります。
その他の工業製品
上記以外にも、ベトナムは履物・カバン、家具以外の木材製品、ゴム製品、機械部品、自転車など多彩な製品を米国に輸出しています。例えば新興の電気自動車メーカーVinFast(ベトナム)は米国市場進出を図っていましたが、46%関税下では価格競争力を確保するのは困難でしょう。
また、自動車部品や電子部品などサプライチェーン中間財の輸出も関税コスト増で減速が予想され、ベトナムを生産拠点とする多国籍企業の輸出戦略全般に見直しが迫られる可能性があります。
■企業と消費者の反応
企業レベルでは、Nike(履物の25%をベトナムで製造)やDeckers Brands(68のサプライヤーがベトナムに所在)などの企業が株価下落(それぞれ6%以上、9%以上)を経験しました (Nike Impact, Deckers Brands)。WayfairやAmerican Eagleも株価が下落し、製造拠点を他国に移転する可能性を検討しています。消費者は価格上昇(特に履物、家具、玩具)に直面する可能性があります。現状欧米の英語ニュースが多く、ベトナム現地報道が増えるとさらに様々な企業の反応が出てくるでしょう。
■ベトナムの対応と戦略の詳細
ベトナム政府は、関税リスクを軽減するために事前に対策を講じていました。2025年3月31日から、米国製品(自動車、エタノール、LNG)の輸入関税を削減し、SpaceXのStarlinkサービスを承認するなど、貿易バランスを改善しようとしています (Vietnam Tariff Cuts)。また、17のFTAを活用して市場を多様化し、FDI(外国直接投資)の吸引を強化する戦略も進めています。
企業レベルでは、製造業の他国への移転(カンボジア、フィリピン、メキシコなど)や、コストを消費者へ転嫁する動きも見られます(しかし、カンボジアは今回ベトナムより高い関税率)。特に国内の繊維や家具企業は、代替市場を見つけるのが難しく、注文減少やキャッシュフローの悪化が予想されます。
■まとめ
今回のベトナム製品への46%関税発動は、単なる二国間問題に留まらずグローバル供給網への広範な影響を及ぼす重大事です。
日本のビジネス関係者にとっても他人事ではなく、リスク管理と戦略的対応が不可欠です。一方で、ピンチをチャンスに変える発想も重要です。地政学リスクに強い経営体質を構築しつつ、ベトナムや他のASEAN諸国との連携を深め、新たなビジネス機会を模索することが、日本企業にとっての次の一手となるでしょう。