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ベトナムの税金未納者に対する出国禁止措置 – 政令49/2025/ND-CPの概要と留意点

2025年2月28日に公布・即日施行された政令49/2025/ND-CPにより、一定の税金滞納者に対して出国が一時的に禁止される(出国停止)仕組みが明文化されました。

税務管理法や関連政令で従来から存在していた規定を、具体的な金額要件や滞納期間の設定、出国禁止までの手続を含めて整備した点が大きな特徴ですが、外国人には金額要件が明確化されていません。本稿では、主な対象要件や手続き、企業・個人への影響、他国制度との比較を踏まえたうえで、本制度をどのように理解し運用・対応すべきかを解説します。

1. 政令49/2025/ND-CPの主なポイント

以下、政令49/2025/ND-CPの主なポイントを説明します。

1-1. 適用対象と要件

政令49/2025/ND-CPでは、税金を滞納している個人や法人代表者に対し、以下のように滞納額や滞納期間に応じて出国禁止措置を行うと定めています。

実際、従来の運用下で少額滞納者への出国禁止が発動された事例が報じられ社会問題化しました。2024年5月には、ホーチミン市税関当局が未納額約99万ドン(わずか4千円相当)の企業社長に対し出国禁止措置を要請し、大きな議論を呼んでいます​。他にも数十万~数百万ドン程度の滞納で経営者が空港で足止めされたケースが複数確認され、「厳しすぎる措置ではないか」との批判が出ました​。

今回はこれを明確化するという趣旨があります。政令49/2025/NĐ-CPでは、税金滞納者に対する出国禁止措置(一時的な出国の延期。ベトナム語:tạm hoãn xuất cảnh)が適用されるケースを明確に4類型定めています​。それぞれの要件は以下のとおりです。

①個人事業者・営業世帯主
  • 税務当局による強制執行段階にあり
  • 5,000万ドン以上(約2,000米ドル相当)の税金を滞納
  • 法定の納期限を120日超過
②法人(企業、協同組合等)の法定代理人
  • 税務当局による強制執行段階にあり
  • 5億ドン以上(約2万米ドル相当)の税金を滞納
  • 法定の納期限を120日超過
③所在不明の事業者・法人代表者
  • 登記上の所在地で営業実態がなく、納税も滞っている
  • 金額要件の定めはなく、滞納分があるかぎり適用可能
  • 当局の出国禁止通知から30日経過後も未納であれば出国停止が発動
④海外渡航や移住を予定する個人・外国人
  • ベトナムを出国する時点で税金の未納がある
  • 納税義務を果たさない限り、一時的に出国が停止される

上記のとおり、一般的には「個人5,000万ドン以上」「法人代表5億ドン以上」「いずれも滞納120日超」という比較的明確な線引きが設けられました。
一方で、外国人、所在不明や国外移住等のケースについては金額要件がなく、滞納状態であれば広く対象となる点が特徴です。引き続き日本人駐在員には不透明な状態が続くとみられます。

1-2. 手続きと解除

出国禁止措置は、税務当局と公安省入国管理当局が連携して以下の流れで実施されます。

事前通知
  • 税務署が対象者へ電子的に「出国禁止予定」を通知
  • 所在不明の場合はウェブサイト公告などで告知
30日間の猶予
  • 通知から30日以内に完納すれば出国禁止措置は回避可能
正式措置の発動
  • 納税がない場合、税務署が入国管理当局に「出国禁止依頼」を送付
  • 対象者情報が出境審査システムへ登録され、空港等で出国が差し止められる
完納後の解除
  • 滞納額を完納すると税務署が即時に解除通知を発行
  • 入国管理当局は通知受領後24時間以内に出国禁止を解除

30日間の猶予期間が設けられていること、納付完了後の手続きが24時間以内に迅速処理されることは、納税者の権利を一定程度保護しつつ法執行を担保する仕組みといえます。

2. 企業・個人にもたらす影響

では、このような改正が企業や個人にどのような影響をもたらすでしょうか。

2-1. 税務コンプライアンス向上の効果

大口かつ長期の税金滞納者に対して出国を禁止する措置は、納税を促す強力な圧力となります。専門家の見解によれば、こうした制度により税収確保と公平な税負担が図られ、国家予算にも寄与すると期待されています。

2-2. 経営・個人自由への懸念

一方で、経営者が海外出張や国際交渉のタイミングで出国停止となった場合、事業活動に支障が出る可能性は否めません。過去には大手企業のCEOが未納税を理由に出国禁止処分を受け、企業再建や資金調達に悪影響が及んだ例もありました。また少額の滞納であっても通知が届かず、出国審査時に突然足止めを受けるケースが報告されているため、定期的な納税状況チェックが大切です。

3. 他国制度との比較

アメリカでは連邦税の深刻な滞納(概ね5万米ドル超)に対し、国税庁(IRS)が国務省に通報することでパスポート発給や更新が拒否され、実質的に海外渡航ができなくなる制度が運用されています。ただし滞納通知後に分割納付などの合意を結べば制裁回避できるなど、一定の手続保障が組み込まれています。

中国には法執行上の「出境禁止」制度があり、税務・債務問題や公共利益関連の事案でも広範に出国を制限する仕組みがあります。日本や欧州諸国では出国禁止制度そのものは一般的ではなく、財産差押えや訴追など他の手段による滞納処分が主流です。

ベトナムの制度は、比較的少額の滞納(個人5,000万ドン、法人5億ドン)でも出国が直ちに差し止められる可能性がある点が特徴的といえます。
一方、過去には少額滞納者にも厳格適用され、社会的議論を呼んだ経緯があるため、今回の政令で明確な金額基準と猶予期間を示したことは法的安定性の向上につながると評価されています。

4. 今後の留意点

今後の在ベトナム企業の留意点としては以下のような点が挙げられます。

4-1. 関連法令と実務運用

本措置は税務管理法(2019年改正)や政令126/2020/NĐ-CPにも根拠があり、政令49/2025/NĐ-CPはその具体的運用を定める位置づけです。電子システムによる当局間連携により、納付完了時の速やかな出国禁止解除が期待されていますが、実際の現場では人的ミスやデータ伝達の遅延が完全に排除されるわけではありません。出国前に納税証明書等を取得しておくなど、納税者側の自己防衛も有効です。

4-2. 企業・個人への推奨対応

  • 日頃からの税務管理強化
    期日内納付と納税履歴の定期チェックを徹底する
  • 通知システムの確認
    税務当局からの電子連絡を確実に受け取れる体制を整備する
  • 完納証明書の取得
    滞納が解消された場合、税務署に納税証明書(tax clearance)を求め、出国時のトラブルに備える
  • 経営トップの渡航予定把握
    経営層に滞納があると海外出張に支障が出る可能性があるため、法人内で早めに対応を検討する

5. まとめ

政令49/2025/ND-CPが定める税金未納者の出国禁止措置は、ベトナム政府の税務コンプライアンス強化策の一環として施行されました。
金額要件と滞納期間が具体化されたことで、従来のあいまいな基準による混乱が緩和され、公平かつ予見可能性の高い運用が期待されます。一方で、企業経営や外国人の海外渡航への影響は大きく、通知が届いてから30日以内に納税が完了しない場合には実際に出国できなくなる点に十分注意が必要です。

今後は、税務当局と入国管理局の電子連携が円滑に機能するか、あるいは実務レベルで誤計上や手続き遅延がどの程度抑えられるかが重要な論点になります。いずれにせよ、ベトナムでビジネスや在住を行う企業・個人としては、出国直前に予期せぬ制限を受けることのないよう実務上の動向も引き続き留意が必要です。

CastGlobal

【執筆者】CastGlobal

ベトナムの法律事務所

ベトナムで主に日系企業を支援する弁護士事務所です。日本人弁護士・ベトナム人弁護士が現地に常駐し、最新の現地情報に基づいて法務面からベトナムビジネスのサポートをしています。

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