2025年7月1日施行の新ベトナム労働組合法のポイント
- 2025.04.21
- コラム
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2025年7月1日、ベトナムにおいて改正労働組合法(法令番号50/2024/QH15)が施行されます。
この新しい労働組合法は、約10年ぶりの大幅な見直しであり、企業の労務管理にさまざまな影響を及ぼします。特に外国人労働者の労働組合加入の解禁や、企業による組合設立支援義務の明確化、組合費(組合拠出金)の減免措置の導入などが重要な改正点です。以下では、主に日系企業として注目すべき改正ポイントをわかりやすく解説します。
目次
1.外国人労働者の労組加入が解禁
改正労働組合法では、ベトナム国内で12ヶ月以上の有期労働契約で働く外国人労働者に対し、勤務先の企業内労働組合への加入と組合活動への参加がはじめて認められました。これは、ベトナムの労働組合制度がよりグローバルな労働慣行に沿ったものへ発展していることを示す改正です。
一方で、労働組合の役職に就任できるのはベトナム国籍の者のみと定められており、外国人労働者は組合員として意見表明や活動参加はできても、組合役員へ立候補したり指名を受けることはできません。企業としては、自社の外国人従業員にも労組加入の権利が生じることを踏まえ、希望者がいれば加入手続を妨げず受け入れる体制を整える必要があります。また、現地採用の日本人駐在員等も条件を満たせば組合に参加し労働条件の改善を求めることが可能になる点に留意しましょう。
2.組合設立・活動の支援義務の強化
改正労働組合法は、使用者(企業)に対し、労働者の労働組合結成・加入・活動を妨げないことや、必要な支援を提供することを明確に義務づけています。具体的には、従業員が正当な手続で労働組合を設立・運営しようとする際、企業はこれを認め、尊重し、必要な条件を整える責務があります。
また第10条では、組合活動に関する禁止行為が詳細に規定されました。例えば、組合結成や加入を理由に従業員の契約更新を拒否したり、解雇・配置転換すること、賃金・労働時間など労働条件で不利益を与えること、性別などによる差別を行うこと等が明確に禁じられています。さらに、組合役員の評判を落とす虚偽の情報を流布する行為や、従業員に組合活動を諦めさせるために物質的・非物質的な利益を提供するといった「不当労組対策(アンチユニオン行為)」も禁止事項として列挙されました。企業は管理職や人事担当者に対し、こうした禁止事項を十分周知し、組合結成や加入への妨害や従業員への圧力が発生しないよう内部ルールを整備することが重要です。
3.組合費の減免・猶予措置
企業が拠出する組合費(労働組合拠出金)について、改正法でも現行と同様に「企業は給与支払総額(強制社会保険の算定基礎額)の2%を組合費として納付する義務」が維持されました。
また、組合員(従業員)が支払う組合費も従来通り、月給の1%(労働組合憲章の定めによる)とされています。したがって、新法施行後も企業負担の組合拠出金2%は継続しますが、今回新たに経営状況に応じた組合費負担の緩和策が明文化されました(第30条)。以下に主な減免・猶予条件をまとめます。
- ・組合費の免除: 法律に基づき解散または倒産した企業(および協同組合)について、未納の組合費は免除対象となります。ただし、清算後の資産状況によっては主管当局の判断で組合費を徴収される可能性がある点に注意が必要です。
- ・組合費の減額(納付額の引き下げ): 経済的困難に直面している場合や不可抗力(天災や疫病など)の事由によって事業運営が困難となった企業・組織は、所定の手続きを経て組合費納付額の減額措置を受けられる可能性があります。具体的な減額率や認定基準は、本法に基づき今後政府と労働組合側(VGCL)との合意の上で詳細規定が定められる予定です。
- ・組合費納付の一時停止(猶予): 経営上の困難により事業を一時停止しており、組合費の支払いが一時的に不可能となった場合、企業は最長12ヶ月間、組合費の納付を一時猶予することが認められます。例えば、自然災害や火災、パンデミック等で休業を余儀なくされたケースが該当します。猶予期間満了後は、翌月末までに猶予していた期間分の組合費をまとめて追加納付する義務があります。追加納付額は猶予期間中に本来納めるはずだった額と同額です。
これらの減免・猶予措置を受けるには、企業側から申請し承認を得る必要があります。具体的な手続きや必要書類、審査機関などの詳細は政令で定められる見込みです。したがって、上記の措置を受けることを検討する場合は、今後公布される政令の内容を確認した上で、早めに所管当局や労働組合と相談して手続きを進めることが推奨されます。また、減免措置を受けない通常の場合でも、組合費2%の納付義務違反(未払い・滞納)は新法で明確に禁止行為とされており 、従来以上に厳格な履行が求められる点に注意してください。
4.組合活動に関する企業の義務
新労働組合法は、企業が労働組合活動を円滑に行えるよう必要な措置を講じる義務を詳細に規定しています。企業に求められる主な支援内容は次のとおりです。
・組合活動のための施設・備品の提供
企業は、自社の労働組合の活動に必要な事務所スペースや設備等を整える責任があります。例えば、労働組合の事務所や会議室の無償提供、パソコンや机など備品の貸与といった支援が求められます。これらは労組の基本インフラとなるものであり、企業側の協力義務として明文化されました。
・勤務時間内における組合活動の保障
組合役員を務める従業員については、勤務時間の一部を組合活動に充てることが法律で保障されます。具体的には、企業内労組の会長(委員長)や副会長など主要な非常勤組合役員は月24時間まで、その他の執行委員や組合班長クラスの役員は月12時間まで労働組合の業務に使用でき、その間の賃金は企業が通常どおり支払わなければなりません。これらの時間数はあくまで目安で、企業の規模や業種に応じて労組と企業が協議の上で追加の時間枠を設定することも可能です。さらに、上記とは別に、上部団体(上級労組)が招集する大会や会議、研修等に組合役員が出席する場合は、その出席時間中も有給(賃金保障)扱いとすることが定められました。これらの規定により、組合役員は業務と両立しながら組合活動に従事でき、企業はその妨げをしてはならないことになります。実務的には、組合役員の労働時間管理において所定の組合活動時間枠を考慮し、必要に応じて人員配置の調整や業務分担を見直すことが求められます。
・組合役員の身分保護(解雇・不利益取扱いの制限)
改正法は、企業による組合役員への不当な解雇や人事異動を強く制限しています。まず、在任中の組合役員について、その者との労働契約期間が満了した場合でも、組合役員の任期が終わるまでは契約を延長しなければなりません(任期中に契約切れとならないよう保護)。また、企業が組合役員を解雇・懲戒処分したり、他の職務へ一方的に配置転換したりするには、上級労組(直上の主管労組)による事前の同意が必要です。上級労組が不同意の場合、企業は直ちに解雇等を実行することはできず、まずは所管の権限機関へ報告する義務があります。万一、企業が同意なく組合役員を解雇・異動させた場合、労働組合は監督当局に介入を要請したり、組合員の代理人として裁判に訴えることが可能となります。実際に不当解雇が認定されれば、企業には法的責任や原職復帰・補償等のリスクが生じます。以上から、企業は組合役員に対する人事上の扱いに細心の注意を払い, 何らかの処分を検討する際には事前に上級労組と協議するとともに、手続きを厳格に守る必要があります。
5.内部従業員組織(IEO)のVGCLへの加入手続きとその影響
近年のベトナムでは、EVFTAやCPTPPなど自由貿易協定の締結を受けて、企業内における従業員による独立した代表組織(内部従業員組織: IEO=Internal Employee Organization)の結成が法的に可能となっていました。改正労働組合法では、これら企業内従業員組織が希望する場合にベトナム全国労働連盟(VGCL)へ加盟(編入)できる手続きが定められています(第6条) 。IEOがVGCLに加入すると企業内労働組合の一種として位置付けられ、統一的な労組組織体系に組み込まれることになります。
IEOがVGCLに加入することで、当該企業内には公式な労働組合組織が発足または再編成されることになります。これにより、その労組はVGCLの指導や支援を受ける立場となり、労組活動や交渉はベトナム労働組合憲章およびVGCLの方針に則って行われます。企業にとっては、従来IEOが存在していた場合は労使協議の相手がVGCL系列の労組へ変わる点が大きな変化です。VGCL加盟労組は上部組織からの研修や情報共有により交渉力や組織運営力が高まる可能性があり、労使交渉がより本格化・制度化することも予想されます。例えば、労働協約の締結や労使対話のプロセスにおいて、VGCLの定めるガイドラインに沿った対応が求められるでしょう。
6.違反時の罰則と政府・労組による監督拡充
新労働組合法は、労働組合関連の権利保護を実効性あるものとするため、違反行為に対する罰則と監督体制の強化についても定めています。企業が遵守すべきポイントを以下にまとめます。
・違反行為に対する罰則
本法に違反した企業・組織・個人は、その違反の性質と重大さに応じて懲戒処分、行政処分(罰金など)、または刑事処分の対象となります 。例えば、組合活動への不当干渉や組合費未納といった行為は行政罰(金銭罰)の対象となり得ますし、悪質な妨害や報復があれば刑事訴追も排除されません。現時点で具体的な罰金額等は法律の本文中には規定されていませんが、今後関連政令や通達で細則が公布される見込みです。いずれにせよ、従来以上にコンプライアンスを徹底する必要があります。
・政府による監督強化
改正法では、国家機関の責務として労働組合法や労働法令の履行状況の監督・違反取締りが明記されました。今後は、労働監督官(労働局の監査部門)による定期・不定期の調査において、組合費の適正納付や労組活動保障の状況が重点的にチェックされる可能性が高まります。今後は労働安全衛生や労働時間の監査と同様、労働組合関連の遵法状況も監督当局の重要な査察項目となることを念頭に置いておきましょう。
・労働組合による監督権限の強化
新法第16条では、労働組合組織自体にも職場における監督活動に関する権限が追加されました。労働組合は、規定された方法で使用者や関係機関に対する監督を行うことができます。
以上のように、新労働組合法の下では国の監督当局と労働組合の双方から労使関係の適正化に向けたチェックが強まることになります。違反を指摘された場合の罰則は厳しいため、企業は違反を指摘されないように努める必要があります。具体的には、社内規程の見直しや管理職研修を通じて労組法の新ルールを周知徹底し、組合費の確実な納付や労組活動保障の履行状況を定期的に自己点検することが有効です。
7.まとめ
2025年7月施行の改正ベトナム労働組合法は、労働者の団結権拡大と労使関係の健全化を図るため、企業に対して新たな対応を求めています。特に外国人従業員の組合参加、組合費負担のルール、企業の組合支援義務については実務的な影響が大きいため、日系企業としてもしっかりと内容を把握し準備を進めましょう。
以下、参考までに、日系企業向けの実務対応チェックリストになります。
【付録】2025年改正ベトナム労働組合法企業対応チェックリスト
□ 外国人従業員(12か月以上の契約者)に対して労組加入の権利があることを社内で共有したか
□ 組合設立・加入・活動に対して妨害や不利益取扱いが発生しないよう、社内規程・運用を見直したか
□ 組合役員への活動時間の付与(12〜24時間/月)および有給扱いの周知と運用ができているか
□ 組合費(企業拠出分2%)の納付が適正に行われているか、未納・遅延がないか
□ 経営状況に応じて、組合費の減額・免除・猶予の申請が必要かどうかを検討したか
□ 内部従業員組織(IEO)の存在と、VGCL(全国労働連盟)への加入の意向を把握しているか
□ 組合役員の契約更新・異動・解雇等を検討する際、上部労組の同意手続を確認しているか
□ 労働監督や労組からの情報提供要請・対話に対応する体制が整備されているか
□ 管理職や人事担当者に対して、改正法の主要ポイントと禁止行為を周知したか
□ 労組との協議や対話の場を定期的に持つ体制が構築されているか