【2026年3月1日施行】ベトナムAI法(134/2025/QH15)の概要と実務ポイント

1) 法律の全体像

この法律は、AIの研究・開発、提供、運用、利用と、それに関わる組織・個人の権利義務・国家管理を対象にしています(例:提供者、導入者、利用者などの役割を分けて規律)。政令で具体化される部分が大きいものの、AI規制の方向性は示されたといえます。
※国防・治安・暗号専用のAI活動は適用除外とされています。

 

2) 規制主体

AI法は、プレイヤーを明確に分けています。

典型的に日系企業で問題になるのは次の整理です。

  • 開発者(Nhà phát trin:設計・学習・テスト・微調整などに関与し、技術手段や学習データ等を直接コントロールする組織・個人
  • 提供者(Nhà cung cp:自社名義で市場に出す・利用に供する組織・個人(自社開発か第三者開発かは問わない)
  • 導入者(Bên trin khai:業務・商用としてAIを使ってサービス提供や業務運用をする組織・個人(個人の私的利用は除外)
  • 利用者(Người s dng:直接操作・対話する者、出力を使う組織・個人
  • 影響を受ける者(Người b nh hưởng:AIにより権利利益等に直接・間接の影響を受ける組織・個人

 

3) リスク分類(高・中・低)

AI法の中核はリスクベース規制です。

  • 高リスク:生命、健康、組織・個人の権利および合法的利益、国家の利益、公共の利益、国家安全保障に重大な損害を与え得るもの
  • 中リスク:相互作用の主体が人工知能システムであること、又は生成された内容であることを認識できないことにより、使用者を混乱させ、影響を与え又は操作する可能性を有する
  • 低リスク:上記以外

 

4) 分類・通知義務

提供者は利用に供する前に自己分類し、中・高リスクは分類資料(「分類ファイル」)を備える必要があります。

さらに重要なのが、中・高リスクは、利用開始前に科学技術省へ通知しなければならない点です。通知は後述の「AIワンストップポータル」を通じて行う設計です。

 

5) 透明性責任

提供者には、以下のような透明性責任が課されます。

  • 人がAIと直接対話する場合:利用者がAIと認識できる設計・運用
  • 音声・画像・動画など生成物:機械可読形式での表示
  • 公共向けにAI生成・編集コンテンツを出す場合:真実性に誤認を与え得るなら明確に通知
  • 実在人物の外見・声の模倣・実際の出来事の再現:識別しやすいラベル付け

 

6) 重大インシデント対応

「重大インシデント」時の責任分担が明文化されています。

  • 開発者・提供者:技術的措置で是正、停止・回収、当局へ通知
  • 導入者・利用者:記録し、速やかに通知・協力
  • 報告・処理は原則としてAIワンストップポータル経由

 

7) 高リスクの適合性評価

高リスクAIは、原則として利用に供する前(または重要変更時)に適合性評価が必要です。

  • 指定リストに入る高リスクAIは、登録/承認された適合性評価機関による評価
  • それ以外は、提供者の自己評価または外部機関の評価
  • どのAIが「高リスク」か、さらに「認証必須」かのリストは首相が定める

 

8) 高リスクに課される運用義務

高リスクAIでは、提供者側にかなり具体的な義務が置かれています。たとえば:

  • リスク管理措置の整備・継続的見直し
  • 学習・検証・運用データのガバナンス
  • 技術文書・運用ログ等の作成・更新・保存
  • 人による監視・介入可能性
  • 透明性義務・事故対応義務の履行
  • 説明責任(ただしソースコードや詳細パラメータ等の開示は原則不要

導入者側にも、目的外運用の禁止、データ安全、基準遵守などが課されます。

 

9) 海外提供者(外国企業)への追加要求

高リスクAIをベトナムで提供する外国提供者は、原則としてベトナム国内の適法な連絡窓口を置く必要があります(第14条6項)。また、認証必須の類型なら商業拠点または授権代理人が必要、とされています。

 

10) 中・低リスクの管理

  • 中リスク:透明性責任に加え、当局から求められた場合の説明責任など
  • 低リスク:違反や権利侵害の疑いがある場合などに説明責任
  • 任意で技術標準の採用を奨励

 

11) 施行日・経過措置

  • 施行:2026年3月1日
  • 施行前から稼働しているAIは、分野により12か月・18か月の経過措置があります。医療・教育・金融は18か月、それ以外は12か月が原則です。

 

付録:日系企業向け:今からやるべきチェックリスト

  • 自社が「提供者/導入者/開発者」のどれに当たるかを案件ごとに確定
  •  対象AIを棚卸しし、高・中・低リスク仮分類
  • 中・高リスクは、分類資料の整備→科学技術省への事前通知が必要になる前提で準備
  • 表示・ラベル設計を作る
  • 高リスクは、適合性評価、インシデント体制をパッケージで整備
  • 日本本社が提供するモデルをベトナムで高リスク提供する可能性がある場合、ベトナム国内の連絡窓口(代理人/拠点)の要否を検討
  • 学習データ・生成物まわりは、AI法だけでなく、知財・個人情報・データ法制との整合を契約と運用に落とす

 

CastGlobal

【執筆者】CastGlobal

ベトナムの法律事務所

ベトナムで主に日系企業を支援する弁護士事務所です。日本人弁護士・ベトナム人弁護士が現地に常駐し、最新の現地情報に基づいて法務面からベトナムビジネスのサポートをしています。

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