首相公電56号|ベトナム行政手続の大幅改革
- 2025.05.09
- コラム
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2025年5月4日、ファム・ミン・チン首相が行政手続(TTHC)の抜本改革を加速する首相公電第56号(56/CĐ-TTg)を発令しました。本公電(電報)は、政府決議66号(2025年3月)の具体化として、2025~2026年にかけて投資・事業に関する行政手続や参入条件を大幅に簡素化・迅速化することを各省庁・地方政府に指示する内容です。
1. 改革の目的と背景
改革の原動力となったのは、依然として煩雑な行政手続や不透明な許認可制度が、外国企業の参入障壁になっていることです。FDI(海外直接投資・外国直接投資)のさらなる拡大には、手続の明確化・迅速化が不可欠と判断され、数値目標と期限を明示した改革が決定されました。
2. 主要措置
掲げられた目標としては、①投資・事業許認可条件を30%削減すること、②手続処理時間を30%短縮すること、③6月末までに行政手続を100%オンライン化することです。
①投資・事業条件の30%削減
今回の中心施策は、各省庁が所管する事業条件(許認可や資格要件など)を少なくとも30%削減するというものです。条件付き投資リストに該当しない分野では、不要な手続は原則撤廃される見込みで、地方で慣行的に要求されてきた不必要な許認可も対象になります。業種横断的な不要な重複許可も排除され、実務負担の軽減が期待されます。
②手続処理時間の30%短縮
改革の象徴的な施策の一つが、外国企業の設立に必須となる投資登録証明書(IRC)および企業登録証明書(ERC)の発給期間の短縮です。現在、IRCは最大15営業日、ERCは3営業日と定められていますが、今後はそれぞれ5営業日・1営業日以内に短縮することが目標とされています。法改正ではなく、運用改善やデジタル化により実現を図るとのことです。
③行政手続の100%オンライン化
政府は、2025年6月末までに全行政手続を国家公共サービス・ポータルで100%オンライン化することを掲げています。申請、進捗確認、フィードバックまで一貫してオンラインで完結できる体制を整え、行政手続の統一・透明化を図ります。これにより、外国企業にとっての地理的・言語的な障壁が大幅に緩和され、利便性が向上します。
3. 法的性質と実務への影響
「首相公電」は法令ではなく行政文書であって、法規範ではありません。しかし、行政組織内部では強い拘束力を持ち、各省庁・地方政府は基本的にこれに従う必要があります。とくに今回のように、数値目標と期限を明示した公電は、法令と同等の実効力を持つとされており、各機関には関連法令の改正や通達の整備が求められることになります。
今回の改革は、外資系企業にとって新規参入の法的障壁を大幅に下げる「追い風」となります。また、手続の簡素化・短縮化により、事業立ち上げのスピードが加速します。さらに、オンライン化により、国外にいながらの申請・管理も可能となり、法律事務所・コンサル各社等の支援ビジネスにとっても複数案件の同時処理が可能になるなど業務効率が向上します。
4. スケジュール
今回の首相公電の全体的なスケジュール感は以下のようになります。
5/8まで: 遅延している8中央省庁・11地方に是正報告を厳命
6/30まで: オンライン化完了・条件削減案の具体化
2025年末: 省境越えオンライン手続『1省1ポータル』を全国展開
2026年末: 不要な投資・事業条件を撤廃
5. まとめ
首相公電56号は、ベトナムが「投資しやすい国」へと舵を切った明確なシグナルです。日本企業にとっても、今後の事業戦略や進出判断において、この改革の動向を適切に把握し、制度変更に対応することが重要になりそうです。