ダナン自由貿易区(FTZ)2025始動:税制優遇その他詳細解説

ダナン自由貿易区(FTZ)は、2025年 6 月 16 日付の首相決定 1142/QĐ-TTg で設立が決定されました。

面積やゾーン区分、優遇税制など“枠組み”はすでに法令で固まりましたが、運営細則・労務通達・税関手順の多くはこれから 2026 年にかけて策定される予定で、実務運用はまだ“白地図”の箇所も少なくありません。
本コラムでは、確定した事実と未確定の論点を切り分けながら、外資企業・日系企業が検討段階で押さえるべきポイントを整理します。

1. 設立の背景と法的位置づけ

  • 確定:首相決定 1142/QĐ-TTg(2025/06/16)および国会決議 136/2024/QH15 で「パイロット型 FTZ」として承認。
  • 未確定:実務を規定する政令 19/2025/ND-CP の下位通達(関税評価・労務許認可)は 2025 年 Q4~2026 年 Q2 に順次公布予定。

ダナン市は中部の深水港・国際空港・東西経済回廊の“結節点”として、製造・物流ハブを狙います。長期的には国際金融センター計画とも連携し、バンコク・シンガポールと競合するリージョナル HQ 機能の取り込みを視野に入れています。

2. ゾーン構成と立地優位

ゾーン 面積 主機能 行政区 コメント
1・2 177 ha 港湾背後物流・製造 Liên Chiểu リエンチュウ港からゲート直結。自動車部品・冷蔵倉庫に初期需要。
3 500 ha 港湾〜郊外製造回廊 Liên Chiểu〜Hoà Vang 国道1号・東西経済回廊 IC 至近。大型工業団地化を想定。
4 559 ha スマート製造・R&D Hoà Vang 高地で洪水リスク低。研究・試験ライン用地として人気。
5 90 ha 観光・商業 Hoà Ninh Sun Group が高級リゾート開発を表明。
6 154 ha 商業・観光複合 Hoà Nhơn/Hoà Ninh リゾート+アウトレットモール構想。
7 401 ha デジタルヘルス・IT Hoà Nhơn/Hoà Phú 国際金融センター用地と隣接。

確定部分は面積と用途区分。用地取得の進捗や用途変更可否は未確定要素が残ります。

3. 投資優遇と規制の骨格

確定しているインセンティブ(政令で明記)

項目 内容 標準との比較
CIT 税率 10%(15 年間) 国内標準 20%
CIT 免除 4 年全額免除 + 9 年 50% 減免 EZ と同等、期間長め
関税・輸入 VAT FTZ 内で免税 一般 EPZ と同等
用地賃料 2~15 年免除(ゾーン別) EZ を上回る場合あり
投資登録証 (IRC) 取得・変更原則不要 ベトナム初の運用

未確定/通達待ち

  • 域外(=国内本土)への搬出時の関税計算式
  • 移転価格文書の形式簡素化範囲
  • 労働許可(WP)・在留レジメの「ワンストップ」詳細手順

4. スケジュールとフェーズ区分

2025–26 2027–28 2029 2030 以降
主な動き 運営規則策定・戦略投資家選定 用地取得・基幹インフラ建設 フェーズ1 稼働(物流+一部製造) フェーズ2 拡張(金融センター・R&D 完工)
留意点 通達整備前で手続き不透明 立退き遅延リスク インフラ接続費の調整 税制優遇延長の可否

5. 参入予定企業・投資家

  • Sun Group(VN):リゾート・商業コンプレックス(ゾーン 5–6)
  • Terne Holdings(SG):港湾背後型先端物流センター
  • Amata Vietnam(TH):産業インフラ FS(ゾーン 3)
  • IPPG(VN):免税店・リテールハブ
  • 欧州・台湾系エレクトロニクス企業が R&D ラボ検討中(確度は未公表)

投資コミットメント総額は速報値で 15 億 USD。実際の資金拠出タイミングと条件は今後の政令細則で大きく変動し得ます。

6. 外資・日系企業が検討すべき実務論点

  • 法人設立コストとスピード
    IRC 免除は大幅な短縮要因ですが、ライセンス付随産業(食品・医療・教育)は別途主管省庁の許可が不可欠です。
  • 原産地規則・FTA 活用
    FTZ 内製造品を CPTPP・EVFTA 原産品として認定できるかは今後の税関ガイドライン次第。
  • 労務・人材確保
    労働許可の簡素化は発表済みですが、社会保険適用区分が未定。HQ 機能誘致には外国人専門職の在留安定が鍵。
  • 用地取得リスク
    フェーズ 1 は 2027 年末取得完了予定。大型設備投資は土地引渡し時期の実行確約条項を契約に盛り込む必要があります。

 

7. まとめ──「先行メリット」を享受する条件

ダナン FTZ は 「税制+立地+手続簡素化」の三拍子がそろうベトナム初の試みです。ハイフォン、ドンナイに計画中の後続 FTZ を 2~3 年リードすることから、“China+1/Thailand+1”の拠点シフトを検討する企業には先行者優位が望めます。
ただし、通達未整備=制度が流動的である点を忘れてはなりません。

今後の流れについて、詳細の内容とともに要注目です。

 

CastGlobal

【執筆者】CastGlobal

ベトナムの法律事務所

ベトナムで主に日系企業を支援する弁護士事務所です。日本人弁護士・ベトナム人弁護士が現地に常駐し、最新の現地情報に基づいて法務面からベトナムビジネスのサポートをしています。

  • Facebook
  • Website