【ベトナム】プラットフォーム事業者からの源泉徴収に関するDecree 117/2025/NĐ‑CP(2025年7月1日〜)
- 2025.06.12
- コラム
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2025年6月9日、新Decree 117/2025/NĐ‑CPが成立しました。プラットフォーム型電子商取引・デジタルプラットフォーム上で事業を行う個人・世帯の税務管理に関する規定であり、プラットフォーム側が個人事業主等への支払いの際に税金を源泉徴収しなければならないとされています。実務上はプラットフォームに大きい改正のため、本コラムでまとめます。
目次
1.これまでの経緯
近年の「プラットフォーム課税」をめぐる流れを時系列で整理すると次のとおりです。
年月 | 施策・法令 | 法令レベル | 主な内容 |
---|---|---|---|
2021/06 | Circular 40/2021/TT‑BTC | 省令 | 個人・世帯の税率表を新設。第8条で「ECプラットフォームが将来ロードマップに沿って源泉徴収」と示唆 |
2021/11 | Circular 100/2021/TT‑BTC | 省令改正 | 40号通達を改正し、「プラットフォーム源泉徴収は 任意(委任制)」に変更、義務化を事実上延期 |
2022‑2024 | 電子インボイス全国義務化 | 政令123/2020→全国実施 | 2022/7/1に紙→電子へ完全移行。年商100 百万VND以下の個人は免除と明記 |
2024/11 | 改正税務管理法(法56/2024/QH15) | 国法 | 「プラットフォームの源泉徴収義務」を法律レベルで明文化(施行期日を最遅2025/7/1と規定) |
2025/06/09 | Decree 117/2025/NĐ‑CP | 政令 | 施行細則を定め、義務化を確定。施行日は 2025/7/1 |
ポイント
- 2021年に一度“義務化”がうたわれたものの、実務面の反発で頓挫。
- 2024年改正法で国会レベルの根拠が整い、今回の政令でいよいよ 強制施行 となります。
2. Decree 117/2025 の具体的内容
政令は6章構成ですが、実務に直結する主な規定を表にまとめます。
項目 | 内容 | 根拠条文(抜粋) |
---|---|---|
施行日 | 2025/7/1 | Art. 29 |
対象プラットフォーム | ①決済機能付き EC モール/スーパーアプリ②ライブコマース等の決済仲介型プラットフォーム | Art. 3.1 |
源泉徴収義務 | 取引成立時に自動計算し VAT+PIT を控除 | Art. 5.1 |
税率 (%/売上) | VAT:商品1 %/サービス5 %/運輸3 %PIT(居住者):商品0.5 %/サービス2 %/運輸1.5 %PIT(非居住者):商品1 %/サービス5 %/運輸2 % | Art. 5.2 |
売上判定タイミング | 暦年ベース(1/1〜12/31)の累計 | Art. 4 |
申告方式 | 月次または四半期 e‑Tax 申告(様式01/NĐ 117) | Art. 7 |
情報連携 | 2025年内:CSV一括可2026/1/1〜:リアルタイムAPI接続必須 | Art. 15 |
罰則 | 源泉漏れ 2,000万〜5,000万 VND/回・再犯で売上1 %まで | Art. 17 |
還付制度 | 年間総売上が最終的に1億VND以下に確定した場合、個人は還付請求可 | Art. 12 |
3. 「年間1億VND(2026年から2億VND)」基準と区分別課税
3‑1. 基準額の根拠
法令 | 年間売上基準 | 有効期間 |
---|---|---|
VAT法2008 Art. 5(25) | 100 百万 VND 以下は非課税 | 〜2025/12/31 |
新VAT法2024 Art. 5(25) | 200 百万 VND 以下は非課税 | 2026/1/1〜 |
3‑2. 区分別の課税方法
区分 | 年間売上 | 決済機能 | 納税方法 | VAT | PIT | 典型例 |
---|---|---|---|---|---|---|
① 居住者・決済PF | >1億VND | あり | PFが源泉 | 1/5/3 % | 0.5/2/1.5 % | ECモール(Tiki) |
② 居住者・非決済PF | >1億VND | なし | 本人が自己申告 | 同上 | 同上 | 掲示板型C2C |
③ 非居住者 | >1億VND | あり | PFが源泉 | 1/5/3 % | 1/5/2 % | 越境ドロップシップ |
④ 小規模セラー | ≤1億VND※ | いずれも | VAT・PIT免除(情報提供義務のみ) | ― | ― | ハンドメイド少額販売 |
※2026年からは「≤2億VND」。
留意点
- 売上はプラットフォーム横断で合算。複数PF利用者は総額で判定。
- PFは売上モニタリング義務を負い、閾値超過月から即時源泉徴収。
4. 実務への影響と対応チェックリスト
最後に、プラットフォーム運営側・利用企業側の双方が 7 月 1 日までに取るべきアクションを一覧化します。
項目 | プラットフォーム事業者 |
---|---|
① eTaxアカウント | 「源泉徴収者」区分で事前登録 |
② KYC強化 | 税コード/ID100 %収集・未登録は出荷停止 |
③ 決済システム改修 | VAT/PIT自動控除+分別保管 |
④ データ連携 | 2025内:CSV→2026〜:API v2.0本番 |
⑤ 社内監査 | 月次で源泉漏れチェック、罰則回避 |
⑥ 契約条項 | 利用規約に「源泉徴収義務」明記 |
⑦ 教育・周知 | 出店者向け FAQ/セミナー開催 |
罰則リスク の最小化には、7月施行時点で 「人・システム・書面」 の3点セットがそろっているかがカギです。
プラットフォーム利用者について、日系企業はすでに法人で取引されている会社が多いと思いますが、個人が関与しているケースでは注意が必要です。
まとめ
Decree 117/2025 は、2024 年改正法で義務化された「プラットフォーム代理納税」を具現化する政令です。2021 年に一度見送られた仕組みが 2025/7/1 から本格稼働。VAT1 %/PIT0.5 % などの税率は当面据え置きですが、リアルタイムAPI対応など運用負荷は大幅に増します。年間売上閾値は現行 1 億 VND、2026 年から 2 億 VND に拡大予定。しきい値を跨ぐ瞬間に課税義務が発生するため、売上モニタリング体制の構築が必須です。
今後実務がどの程度厳しく管理されるかは不明ですので、実務上の動向も注目です。