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ベトナム条件付き事業の追加削減提案|投資法2025に続く政府決議草案のポイント

2026年5月5日、ベトナム政府の電子情報ポータル(Báo Điện tử Chính phủ)において、「条件付き投資事業分野の削減に関する政府決議草案」(Dự thảo Nghị quyết về cắt giảm ngành, nghề đầu tư kinh doanh có điều kiện)の全文が公開されました。財務省(Bộ Tài chính)が提案主体となり、現在、同省ポータルで意見聴取(パブリックコメント)に付されています。

この草案は、2025年12月11日に可決された投資法(Luật Đầu tư số 143/2025/QH15。以下「投資法2025」)の附録IVに定める条件付き投資事業分野から、さらに58分野を削除し、12分野の内容を修正しようとするものです。施行予定期間は2026年7月1日から2027年3月1日までの時限措置とされています。

報道では「カジノ・カラオケがライセンス不要になる」といった見出しも見られますが、これは正確な理解とはいえません。本稿では、草案の一次資料および関連法令に基づいて、何が提案され、なぜ政府決議という形式で投資法上のリストを削減できるのか、そして日系企業にどのような実務上の含意があるのかを整理します。なお、本草案はあくまで意見聴取段階のものであり、正式な発布までに分野数や内容が変動する可能性がある点に、あらかじめご留意ください。

 1. はじめに:何が提案されたのか

ベトナムの投資法は、原則として投資・事業活動の自由を認めつつ、国防・国家安全保障・社会秩序・社会道徳・公衆衛生といった理由から特定の分野について「条件付き投資事業分野」(ngành, nghề đầu tư kinh doanh có điều kiện)を定め、各分野ごとに事業条件(ライセンス、資本要件、施設要件等)を課しています。この一覧が、投資法2025の附録IV(Phụ lục IV)です。

今回の財務省草案は、この附録IVのリストそのものを縮小しようとするものです。具体的には、58分野を条件付き事業から除外し、12分野について規定内容を修正します。除外対象には、カジノ、ベッティング(賭博)、カラオケ・ナイトクラブ、宿泊サービス、再保険、保険ブローカー、会計サービス、コメ輸出、酒類、自動車の製造・組立・輸入など、日系企業の関心が高い分野が多く含まれています。

2. 財務省決議草案の概要

草案は6条構成で、本則のほか、削除分野を列挙した付録1(Phụ lục 1)と、修正分野を列挙した付録2(Phụ lục 2)が添付されています。主な内容は次のとおりです。

第1条は適用範囲を定め、投資法2025附録IVの一部分野を削除・修正する旨と、適用対象(投資家、権限ある国家機関、ベトナムでの投資事業活動に関係する組織・個人)を規定しています。

第2条は削減の6原則を定めています。
要約すると、(1)投資法第7条1項の理由(国防・安全保障・社会秩序・社会道徳・公衆衛生)から条件を課す必要がない、または国民・企業の権利を直接保護しない分野、(2)施設・運営品質・学歴経験資格などの要件に紐づき、技術基準・規格・職業基準を策定することで「事前審査」から「事後監督」へ管理を転換できる分野、(3)条件が不明確・定性的で定量化が困難な分野、(4)他分野と類似する、または他の管理によって既に審査されている分野、(5)産出する製品・サービスの品質を市場が決定でき、国防等への危害リスクがない分野、(6)規定以来いまだ事業条件が制定されていない、または既に条件規定がなくなった分野、です。特に第2原則に「事前審査(tiền kiểm)から事後監督(hậu kiểm)への転換」が明文で掲げられている点は、本草案の思想を端的に表しています。

第3条が58分野の削除(付録1)、第4条が12分野の修正(付録2)を定めます。
修正12分野は、削除ではなく規定内容の絞り込みが中心です。たとえば、賞金付きゲーム事業(附録IV No.30)は「電子」「外国人向け」という限定が外れ、食品事業(No.44)は専門管轄から商工省が外れて農業環境省・保健省の管轄へ整理され、水産飼料・肥料(No.125、No.142)は「事業(kinh doanh)」から「製造(sản xuất)」へと対象概念が絞られます。

第5条は効力と施行責任、第6条は実施組織を定めます。第6条2項(b)は、削除対象分野について2026年7月1日より前に技術基準・規格・職業基準を策定し、事前審査から事後監督へ移行する手続を構築すべきことを各省庁に求めています。

なお、削除分野数について、2026年5月初旬の一部報道では「60分野削除・14分野修正」とされていましたが、5月5日に政府ポータルで公開された草案本文は「58分野削除・12分野修正」と明記しています。本稿は草案本文の数値に拠っています。また、削除候補の一部(自発的な薬物依存治療・高齢者ケア等の分野。附録IV No.60)には、保健省と公安省が削減の是非を協議すべき旨の脚注が付されており、最終的な削除分野数は58から変動し得ます。

 3. 法的構造:なぜ「政府決議」で投資法の事業リストを削減できるのか

ここで、法務担当者の方が必ず疑問に思う点を整理しておきます。条件付き事業のリスト(附録IV)は投資法という「法律」で定められた事項です。本来、これを変更するには国会による法律改正の手続が必要なはずです。それを、なぜ「政府決議」というより簡易な形式で削減できるのでしょうか。

その根拠が、国会決議第206/2025/QH15号(2025年6月24日、第15期国会第9会期で可決。以下「決議206」)です。決議206は、法令の規定が矛盾・重複・不明確であったり、過度なコンプライアンスコストを生じさせて経済・社会の発展を阻害している場合に、これを「困難・障害」と判定し、通常の立法手続によらず特別な方法で処理できる特別メカニズムを定めたものです。

決議206第4条1項は、その処理方法として、(a)法律の解釈・適用指針、(b)簡易手続による法令の制定改廃、(c)法律の改正が間に合わない間、政府決議または国会常務委員会決議によって現行法律の一部規定を一時的に調整すること、の3つを認めています。今回の財務省草案は、このうち(c)を用いています。すなわち、投資法附録IVの本格的な改正を待たず、政府決議によって暫定的にリストを縮小する、という建て付けです。

この点を象徴するのが、草案の決議番号です。先に公開された草案の冒頭には「Số: 66…/2026/NQ-CP」という、一見中途半端に見える番号が記されています。これは記入漏れではありません。決議206第4条2項は、この特別メカニズムに基づき発布される政府決議について、「66.1」から始まる専用の連番で番号を付すと定めています(条文には例として「Nghị quyết số: 66.1/2025/NQ-CP」と示されています)。つまり「66番台」という番号自体が、本決議が通常の政府決議ではなく、法律事項を一時的に調整するための特別決議であることを示す印になっているわけです。

もっとも、この授権は無制限ではありません。決議206は、経済社会・国防・安全保障・外交に大きく影響する内容や未規定事項を扱う場合には事前に党の権限機関の意見を聴くこと(第4条2項b号)、司法省を常設機関とする独立審査評議会(Hội đồng thẩm định độc lập)が各省庁の代表を交えて審査すること(第5条)、政府および国会常務委員会はこの権限を再委任・分権できないこと(第6条8号)など、複数の手続的な歯止めを設けています。

時限措置とされている理由も、ここにあります。決議206第4条2項d号は、この種の政府決議が効力終了時点を「2027年3月1日より前」に明示しなければならないと定めており、決議206自体の効力も2027年2月28日までとされています。本草案の効力期間(2026年7月1日から2027年3月1日まで)は、この枠組みに対応しています。なお、草案第5条1項の文言は「2027年3月1日まで」(同日を含む趣旨)と読めるのに対し、決議206第4条2項d号は「3月1日より前」を求めており、終期の設定に検討の余地があります。正式発布時に調整される可能性があるため、確定版を確認する必要があります。

4. 規制緩和の大きな流れの中での位置づけ

本草案は単発の動きではなく、ベトナムが進める一連の規制緩和の流れの中に位置づけられます。時系列で整理すると、次のとおりです。

2025年12月11日、投資法2025(143/2025/QH15)が可決され、条件付き事業は237分野から199分野へと整理されました(38分野を削除)。同法は2026年3月1日から施行されていますが、第7条および附録IVの条件付き事業リストに関する部分は2026年7月1日から施行されます。

2026年3月31日には、投資法2025の実施細則である政令第96/2026/NĐ-CP号(Nghị định 96/2026/NĐ-CP)が発布・即日施行され、従来の政令第31/2021/NĐ-CP号を置き換えました。この政令が、市場アクセス条件や事後監督の具体的な枠組みを定めています。

そして2026年5月5日、本決議草案の全文が公開され、意見聴取が開始されました。投資法2025で199分野まで整理された条件付き事業を、本草案がさらに58分野削除するため、削除が実現すれば条件付き事業はおよそ141分野規模となります(修正12分野は分野数自体を減らすものではありません)。

こうした流れの背景には、民間経済の発展を国家の重要課題と位置づけた党中央の決議第68-NQ/TW号(Nghị quyết 68-NQ/TW)があります。「禁止される分野以外は自由に事業を行える」という方向性のもと、ベトナムは事前許可によって参入を絞る制度から、自由参入を認めたうえで事後監督によって規律する制度へと、明確に舵を切りつつあります。

5. 制度設計の核心:事前審査から事後監督へ

本草案の本質は、削除される分野の一覧そのものよりも、その背後にある制度設計の転換にあります。すなわち、「事前審査(tiền kiểm)」から「事後監督(hậu kiểm)」への移行です。

従来の枠組みでは、条件付き事業を始めるには、企業登録証明書(ERC)の取得、投資登録証明書(IRC)の取得に加えて、各主管省庁が発行する事業ライセンスの取得という三段階の関門を通過してはじめて営業を開始できました。

これに対し、本草案が想定する枠組みでは、ERCとIRCを取得すれば営業を開始でき、当該分野を主管する省庁は営業開始後に随時、監査や実地検査を行い、違反が認められた場合に事後的に制裁を加える、という形になります。前述のとおり、草案第6条2項(b)は、削除対象分野について技術基準・規格・職業基準を策定し、事前審査から事後監督への移行手続を構築するよう各省庁に求めており、政令96/2026/NĐ-CPもこの事後監督の枠組みを定めています。

この転換には両面があります。事業者にとっては参入時の行政コスト・時間的コストが大きく下がる一方、各国の事例に照らせば、コンプライアンス違反が確認された場合の制裁はむしろ厳格化する傾向があります。参入の容易さと、運営段階での規律の厳しさは、いわば表裏の関係にあるといえます。

 6. 「条件付き事業から外れる」は「規制撤廃」ではない

本草案をめぐって最も誤解されやすいのが、この点です。ある分野が条件付き事業のリストから外れることは、その分野の規制が撤廃されることを意味しません。投資法上の総論的な参入規制が外れるだけであり、各分野を規律する個別の業法(業種別の法令)は引き続き存続します。

カジノを例にとります。カジノ事業(附録IV No.32)が条件付き事業から削除されても、政令第03/2017/NĐ-CP号(カジノ事業政令)に定める要件、すなわち最低投資額20億米ドル、5つ星ホテルの併設、カジノ面積を施設の3%以下とする制限、投資登録証明書(IRC)の取得義務などは、引き続き適用されます。加えて、マネー・ロンダリング防止法(Luật Phòng, chống rửa tiền số 14/2022/QH15)に基づく報告義務、政令第06/2017/NĐ-CP号(ベッティング事業政令)に基づくベッティング個別ルール、土地法・建築法・消防救助法(Luật số 55/2024/QH15。2025年7月1日施行)による個別審査も、従前どおり存続します。

カラオケ・ナイトクラブ(附録IV No.164)も同様です。条件付き事業から削除されても、政令第54/2019/NĐ-CP号(カラオケ・ナイトクラブ事業政令)に基づく防火・営業時間・治安に関する要件は維持されます。

つまり、本草案が変えるのは「投資法という入口の総論的な参入規制」であって、「各業法に定める実体規制」ではありません。この区別を正確に押さえておくことが、実務上きわめて重要です。

7. 日系企業への含意

業種ごとに、想定される実務上の含意を整理します。

エンタメ・観光業界(カジノ、カラオケ・ナイトクラブ、宿泊、電子ゲーム等)では、参入手続の迅速化が見込まれます。M&Aの局面では、デューデリジェンス(DD)における「ライセンス保有状況」の確認の比重が相対的に下がり、代わって「コンプライアンス体制が整っているか」の比重が上がることが予想されます。

輸出入・流通(コメ輸出、酒類、自動車、ガス、鉱物、危険物輸送、各種運輸等)では、従来はライセンスを取得済みの企業しか参入できなかった分野で、新規参入や事業拡張がしやすくなる可能性があります。一方で、参入障壁が下がることにより、無資格に近い事業者が流入し、価格競争が激化するリスクも考えられます。

金融・保険(再保険、保険ブローカー、保険代理店、免税品販売、非信用機関による外国為替業務等)では、注意が必要です。今回の草案では、再保険(No.25)・保険ブローカー(No.26)・保険代理店(No.27)の保険3業態が揃って削除候補に挙がっています。ただし、条件付き事業から外れても、保険事業法(Luật Kinh doanh bảo hiểm số 08/2022/QH15)等の業法に基づく個別規制は別途存続します。ベトナム国家銀行(SBV)や財務省(MOF)の個別ガイダンスを併せて確認する必要があります。

M&A・コーポレート全般では、取引実務の重心が移ります。これまで「ライセンスの有無」を起点に行われていたDDや契約交渉が、「事後監督リスクをどう評価するか」へと比重を移すことになります。これに伴い、株式譲渡契約等における表明保証(representations and warranties)条項や、コンプライアンス遵守に関する誓約条項の重要性が、一段と高まると考えられます。

 8. 今後の注視ポイント

事後監督モデルのもとでは、参入そのものは容易になっても、日々の運営における証跡の管理、内部監査、是正対応こそが事業継続の鍵になります。許認可という「お墨付き」が事業を守る盾になりにくくなるぶん、平時のコンプライアンス体制の巧拙が、そのまま事業リスクに直結する構造です。

この点で、もともとコンプライアンス意識の高い日系企業は、相対的に有利な立場に立ち得ると考えられます。逆に、参入障壁の低下を機に簡易に進出してくる競合が増える分野では、コンプライアンス体制の整備そのものが差別化の要素になり得ます。

最後に、改めて確認しておきます。本決議は現時点で意見聴取段階の草案であり、削除分野の数・内容、効力期間の終期などは、正式発布までに変動する可能性があります。弊所では、本決議の今後の動向について、(1)正式発布の有無と確定内容、(2)業種別の具体的な影響、(3)施行後の事後監督の運用実態、という観点から、続報を順次お届けする予定です。引き続き注視してまいります。

CastGlobal

【執筆者】CastGlobal

ベトナムの法律事務所

ベトナムで主に日系企業を支援する弁護士事務所です。日本人弁護士・ベトナム人弁護士が現地に常駐し、最新の現地情報に基づいて法務面からベトナムビジネスのサポートをしています。

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