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コラム

【ベトナム】企業の法定代表者の権限

1. 日本法上の代表者の権限

1)委員会設置会社でない株式会社の代表者

日本法上、法人の代表権は原則として取締役に帰属します(会社法第349条第1項本文他)が、代表取締役など株式会社を代表する者を定めた場合には、当該代表取締役などが会社を代表することになります(同項但書)。

2)代表権限の制限と外部的効果

代表取締役の権限につき、定款等により内部上の制限を加えることは可能ですが、これを善意の第三者に対抗することはできません(同条第5項)。
また、代表取締役以外の取締役に対して、社長等、一般的に会社を代表する権限があると認められる名称を付した場合(名称のみであり実際には契約締結権などがない)、当該取締役に権限がなかったことを知らない第三者に対して、会社は責任を負うことになります(会社法第354条)。

2. ベトナム法上の代表者の権限

1)企業の代表者

ベトナム法上、企業法(法律第59/2020/QH14号。以下「企業法といいます」)第12条第1項により、法定代表者が企業を代表する旨規定されています。

有限責任会社においては、社員総会の会長、社長又は総社長の職名を持つ法定代表者を最低一人決めますが、定款に異なる定めがない限り、社員総会議長または会社の会長が法定代表者となります(企業法第54条第3項・第79条第3項)。

株式会社においては、法定代表者が一人の場合、定款別段の規定がない場合、取締役会会長が法定代表者となります。二人以上の法定代表者がいる場合には、取締役会の会長および社長もしくは総社長は当然に会社の法定代表者になります(企業法第137条第2項)。

2)代表権の範囲

具体的な代表権の範囲に対する法律上の規定は民法(法律第91/2015/QH15号。以下「民法」といいます)を確認する必要があります。民法第137条第2項の規定により、法定代表者の権限は同法第140条・第141条に従うとの規定があります。そして、第141条第1項は代理の範囲は、定款等により決せられるとしています。
したがって、ベトナム法上においても、法定代表者である社長等の権限が定款等により内部的に制限されている場合があります。

3)代表権の範囲外の行為に対する第三者保護

定款等は会社の内部書面のため取引時点において当然に確認できる資料ではありません。定款等により代表者の権限に制限が加えられており、代表権限の範囲を逸脱する取引を行った相手方はどうなるのでしょうか。

この場合、民法第143条第1項により表見代理が成立することにより当該第三者が保護される可能性があります。表見代理は、会社に当該取引が行われたことにつき故意または過失が認められること、取引相手が契約者に代表権限がないこと(権限外のこと)を知らなかった場合(または知ることができなかった場合)等が成立の要件となっています。表見代理の成立が認められる場合、当該取引の効力は無効とならず会社に帰属することになります。

そのため法適用上の結論は日本におけるのと概ね同様になる可能性が高いです。
もっとも、ベトナムは裁判の公開が不十分な状況にあるため、実際に紛争になった場合、どういった評価根拠事実を基にして、相手方の帰責性が認められるかは判然としません。そのため、ベトナム企業と取引を行う際には、少なくとも国家企業登録ポータルサイト(URL:https://dangkykinhdoanh.gov.vn/vn/Pages/Trangchu.aspx)等を利用して契約締結者に代表権限があるか、同サイト上代表権限が確認できない場合には契約締結権限を裏付ける委任状の提出を求めるなどの対処が必要になると考えます。

CastGlobal

【執筆者】CastGlobal

ベトナムの法律事務所

ベトナムで主に日系企業を支援する弁護士事務所です。日本人弁護士・ベトナム人弁護士が現地に常駐し、最新の現地情報に基づいて法務面からベトナムビジネスのサポートをしています。

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