【ベトナム労務】労働者が退職時に行うべき会社側の手続について
- 2023.02.02
- コラム
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目次
1. 主な労働契約の終了事由
ベトナムにおける労働契約の終了事由については、法律第45/2019/QH14号(以下「労働法」といいます。2021年1月1日施行。)第34条に規定されています。このうち主な終了事由としては以下のものを挙げることができます。
- 労働契約期間の満了
- 両当事者の合意
- 懲戒解雇処分
- 片方当事者からの一方的解除
(その他の終了事由については、労働法第34条をご確認下さい。)
2. 労働者への通知
1)契約期間満了と合意解除の場合
原則として、会社は労働契約の終了に当たって、労働契約の終了を通知する必要があります(労働法第45条第1項)。労働契約期間満了や合意による終了の場合は、特に通知についての期限は規定されていません。そのため、契約終了日までに通知すれば足りると解します。
2)会社による一方的解除の場合
法律上定められる一方的な解除事由(後述)がある場合、労働契約の一方的な解除が可能となります。
会社による一方的解除の場合、事前の通知が必要になる場合があります。
事前の通知が必要な場合は、労働契約の期間に応じて、以下の法定通知期間が設定されています(労働法第36条第2項)。
- 無期労働契約:45日以上前
12か月以上36ヶ月以下の有期労働契約:30日以上前 - 12か月未満の有期労働契約:3営業日以上前
なお、以下に記載する解除事由が無断欠勤の連続等の場合には、そもそも連絡を取ることが難しい状況になってしまっているので事前の通知は不要です。
また、懲戒解雇の場合は特殊な手続となるため、4を参照ください。
3. 一方的解除事由
理由なく5営業日以上連続して無断欠勤があった場合や、労働者が定年に達した場合(契約により定年後も雇用する内容となっている場合は解除事由となりません)などには会社は当該労働者との契約を一方的に解除できます。
他にも会社が定めた業務評価基準に達しない場合や、長期の治療によっても疾病等から回復しない場合も会社からの一方的解除事由となります。もっとも、この場合事前に詳細な業務評価基準を定めておくことや、疾病等から回復しないことについて医師などの専門家による書面が必要と考えます。
その他の一方的解除事由については、労働法の第36条をご確認ください。
4. 懲戒による解雇の場合の聴聞手続等
1)懲戒事由
職場において窃盗や横領、暴力行為によって他人に傷害を負わせる、その他会社に重大な損害をもたらす行為をした場合など(詳しくは労働法第125条をご確認下さい)は、一定の手続きを踏むことにより当該労働者を懲戒解雇することができます。
2)聴聞手続
懲戒手続きを行なうためには、当該従業員の弁明等を聞くため、聴聞に相当するような手続(便宜上以下「聴聞会」といいます)を実施する必要があります。大まかな手続きは以下のとおりです(政令第145/2020/ND-CP号(以下「政令第145号」といいます)第145号第70条)。
① 会社は、聴聞会が開催される少なくとも5営業日前までに、懲戒の対象となる従業員(以下、「対象従業員」という)およびその弁護人(いる場合)に対して、聴聞会の時間と場所、対象従業員の氏名(フルネーム)、違反の内容を通知しなければなりません。会社は、聴聞会の実施前に対象従業員およびその弁護人(以下、これらの人物を総称して「参加者」といいます)が当該通知を受け取ったことを確認します。
② 参加者は、①の通知を受け取った場合、聴聞会への出席について会社に連絡しなければなりません。もし参加者のいずれが聴聞会に参加できない場合、会社と対象従業員は、聴聞会の日時または(および)場所の変更について合意します。当該変更についての合意ができない場合は、会社は当該場所と日時について最終決定を下すことができます。
③ 会社は、参加者への上記の通知または変更についての合意に従い、聴聞会を開催します。聴聞会当日に、参加者の出席が確認できない場合であっても会社は聴聞会を開催し、実施することができます。
④ 聴聞会の議事録は、聴聞会が終了する前に作成され承認されなければなりません。当該議事録には、参加者の署名がなされなければならない。参加者が署名を拒否する場合には、当該拒否者の氏名(フルネーム)と拒否の理由を議事録に記載します。
⑤ 懲罰について権限を有する者は、法定の期間内に懲罰についての決定を下し、当該決定について参加者に通知しなければなりません。
上記の手続きを踏まない等、懲戒処分の手続に違反があった場合、懲戒処分が無効となり、違法な労働契約の解除として扱われる可能性があるので注意が必要です。
3)懲戒手続の原則
懲戒事由については以下の原則が適用されます。
- 使用者は、懲戒事由についての従業員の故意・過失を立証しなければなりません(労働法第122第1項a号)。
- 懲戒処分の対象となる従業員(以下「対象者」といいます)が労働組合の構成員である場合、当該所属する労働組合には、懲戒処分(聴聞会)への参加権限があります(労働法第122第1項b号)。
- 対象者は弁護士または労働組合に弁護を依頼する権利があります(労働法第122第1項c号) 。
- 懲戒処分の対象となる行為が一つの場合、複数の懲戒処分を行う(たとえば、譴責と降格を同時に行う)ことは認められていません(労働法第122第2項)
- 1人の労働者が一時に複数の懲戒処分の対象となる行為を行った場合、もっとも重大な違反となる行為に対して最も重い形式のみが適用されます(労働法第122第3項)。
- したがって、懲戒処分を行うに当たっては、会社は十分な証拠集めを行っておく必要があります。
5. 賃金・退職手当等の金銭の支給
原則として契約終了から14営業日以内に、会社はすべての金銭等を労働者に支給する必要があります(労働法第48条第1項柱書)。通常想定されるのは以下のものとなります。
1)給与
未払いの給与があれば、これを支給する必要があります。
2)未消化の有給
退職する労働者に未消化の有給がある場合、会社はこれを買い取れなければなりません(労働法第113条第3項)。
未消化の有給については、退職時の前月の給与を基準として1日あたりの給与額を算定し、これに未消化の有給の日数を乗じた金額を支給する必要があります(政令第145号第67条第3項)。
3)退職手当
労働者が12か月以上の勤務実績がある場合には、懲戒解雇による退職の場合を除いて、1年につき半月分の賃金に相当する退職手当を支給しなければなりません(労働法第46条第1項)。前記の半月分の給与とは退職前の6ヶ月分の給与の平均額を基準として算定されます(労働法第46条第1項)。
この点、失業保険の加入(納付)期間は、退職手当を算定するための期間から控除されます(会社法第46条第2項)。そのため、会社が適切に社会保険に関わる手続きを行なっている場合は、高額の退職金を会社が負担する必要はありません。
試用期間について社会保険の加入手続きを行なっていなかった場合、女性の労働者について産休を取得した場合現行法上では社会保険の納付ができないので、これらの期間がないか労働者の社会保険の加入状況を確認する必要があります。
また、退職者が外国人労働者である場合(かつ12か月以上の勤務実績がある場合)、外国人はベトナムの失業保険の加入対象でないため、法令上は退職金の全額を会社が負担する必要がありこの点注意が必要です。