現金決済上限「2,000万VND → 500万VND」への引下げ案(2025年7月1日施行)

ベトナムでは、2025年7月1日〜、現金決済の上限を2000万VND→500万VNDに引き下げる法令案が検討されています。これが施行される場合、500万VNDを超える現金支払が認められなくなり、現金取引や接待交際費の立替も難しくなる見込みですので、重要な影響がありそうです。

まだ最終案が決定されていませんが、現時点の案について解説します。

1.法令上の根拠

根拠 ポイント 発効日
VAT法2024(法48/2024/QH15)第14条2項b号 入力VATを控除する条件として「非現金決済証憑の保有」を義務化。金額上限を明記せず、政令で詳細を定めると規定 2025/7/1
VAT法施行細則・第3次ドラフト政令(第10条案) 従来20 百万→5 百万VND以上(VAT込み) の請求書は非現金決済が必須。小額(< 5 百万)取引は例外 2025/7/1(予定)
旧ルール(VAT法2008改正・Circular 219/2013) “< 20 百万VND/回” までは現金払いでも入力VAT控除・CIT損金算入可 現行(~2025/6/30)

接点と注意点
企業所得税(CIT)の損金要件 は、これまでもVATルールに連動(Circular 78/2014等)。正式なCIT改正通達は未公布ですが、同じ5 百万基準に統一される可能性が高いとみられます。

 

2.具体的な変更内容

  1. 非現金決済が必須となる金額
    • 商品・サービス購入額 税込5 百万VND以上/回(複数回の同日購入合算含む)
    • 包括される費用:会議費、接待交際費、旅費、設備仕入れ等あらゆる経費
  2. 認められる非現金手段
    • 銀行振込(インターネット・モバイルバンキング含む)
    • 会社クレジット/デビットカード決済
    • 小切手、委任(lệnh chi)
    • 正規電子マネー・eウォレット
  3. 例外(ドラフト政令10条2項)
    • 契約で規定された相殺(bù trừ công nợ)
    • 三者間支払(ủy quyền thanh toán bên thứ ba)
    • 行政執行に伴う国庫口座納付 など

3.企業への影響と実務上の留意点

項目 現状(~2025/6) 2025/7以降のリスク
入力VAT控除 20 百万超のみ非現金必須 5 百万超は非現金必須。現金払いは控除不可
CIT損金算入 20 百万超は非現金必須 改正通達で5 百万超へ連動する見込み
接待交際費 例:8 百万VNDの会食→現金可 同額はカード/振込必須。現金精算は税務否認リスク
社内精算フロー 現金払いが主流 申請額5 百万超=カード決済を新ルールに

4.会社カード導入のすすめ

5.今後のアクションチェックリスト

  • 2025/Q2:社内支払規程改定案を法務・経理でレビュー
  • 銀行/カード発行:利用枠・担当者を確定し発行申込
  • 会計システム:現金/非現金フラグを5 百万基準に自動判定
  • 従業員研修:新ルールとカード精算手順を周知
  • 正式政令公布後:最終条文を反映し、CIT通達動向をモニタリング

2025年7月から非現金決済要件が20 百万→5 百万VNDに大幅強化される見込みです。接待交際費をはじめ、5 百万VND超の支払いは会社カードや振込へ切り替えない限り、入力VAT控除・損金算入が認められなくなる可能性があります。早期の内部規程整備とキャッシュレス決済インフラの導入で、税務・監査リスクを回避しましょう。

 

6.【補足】個人カード立替(出張旅費等)の取扱い

個人での立替がカードや送金であれば問題ないのでしょうか?その場合、会社と個人の間の精算も送金対応であれば、現金決済を挟んでいないため問題ないようにみえます。しかし、この点CITの損金算入に関するCircular 96/2015/TT-BTCの規定が問題になります。

500 万 VND超でも「出張経費」に限り、個人カード→会社銀行精算を “非現金決済” とみなして控除・損金に出来る余地が残ります。
ただし接待・会食など日常交際費については例外扱いされておらず、原則使えません。

したがって、これに代わる新たな規定が出ない限り、個人カード立替等での決済もCITの損金不算入になる可能性は大きく、推奨はできません。上記の会社カードでの精算や会社からの送金対応をできるだけ行うべきと考えています。

区分 要件/根拠 実務ポイント
CIT側(現行) Circular 96/2015/TT-BTC Art.4出張旅費・航空券等を個人カードで決済しても、①正規インボイス②出張命令書③社内規程で個人カード使用を許可――の3条件を満たせば「非現金決済」として損金算入可 ・対象は出張関連費用に限定。交際費は射程外
VAT側(新法) VAT施行政令ドラフト Art.10 b.3/b.9「購入者が第三者へ委任し、その者が非現金で支払い、後に購入者が非現金で精算した場合」控除可と明記 ・委任状+二重振込明細+会社名義eインボイスの4点証憑が必須
非適用領域 接待交際費・備品購入等、業務上不可避の出張に当たらない支出 ・税務当局は「委任払い=出張など限られたケース」を想定しており、交際費で使うとVAT控除もCIT損金も否認リスク高

 

CastGlobal

【執筆者】CastGlobal

ベトナムの法律事務所

ベトナムで主に日系企業を支援する弁護士事務所です。日本人弁護士・ベトナム人弁護士が現地に常駐し、最新の現地情報に基づいて法務面からベトナムビジネスのサポートをしています。

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