ベトナム法人税30%減額(2026・2027年度)|日系子会社は対象?親子合算・注意点を整理
- 2026.10.31
- コラム
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速報
2026年10月31日 / CastGlobal Law Vietnam
ベトナムで、売上100億VND(約38万USD)以下の企業の法人税を、2026・2027年度の2年間に限り30%減額する政府令が、2026年10月29日に施行されました。日系の100%子会社も対象になり得る一方、売上の数え方や見込み違いの際の追納など、実務上の注意点もあります。本稿では、ベトナム現地の日系法律事務所の観点から、制度の背景と要点、グループ会社の扱いを整理します。
本稿のポイント
- 売上100億VND以下の企業・組織は、2026・2027年度の法人税額が30%減額されます。
- 既存の軽減税率(15%・17%)と重ねて使え、実効税率は最も低い場合で10.5%になります。
- 売上の判定は法人単位で、親会社やグループ会社の売上とは合算しません。
- 判定に使う売上には金融収益やその他の収入も含まれ、見込みが外れた場合は追納が必要です。
1. 制度の概要
今回の減税は、2段階で制度が整いました。まず、法人・個人の所得税減税に関する国会決議(国会決議 43/2026/QH16、2026/8/24)で枠組みが決まりました。その細則を定める政府令(政府令 398/2026/NĐ-CP、2026/10/29)が施行されたことで、実際の申告に反映できる状態になりました。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 対象 | ベトナム法に基づき設立された企業、協同組合、公的事業単位、その他の組織 |
| 売上要件 | 各年度の年間売上が100億VND(約38万USD)以下 |
| 減額の内容 | 納付すべき法人税「額」の30%(税率の引下げではありません) |
| 対象年度 | 2026年度・2027年度(2026年度は年度全体に適用) |
| 適用方法 | 四半期の予定納付の段階で、会社が自ら減額を計算 |
なお、同じ国会決議・政府令で、売上100億VND以下の個人事業主の所得税も30%減額されています。本稿では、法人税の部分を中心に解説します。
2. 背景 ― なぜ今、減税なのか
物価高と、続く企業支援策
2026年は、国際的な紛争の影響で燃料価格が高騰しました。政府はガソリン等にかかる税を引き下げるなど、物価対策を重ねてきました。6月には、法人税・付加価値税・個人所得税・土地賃料の納付期限を延長する措置もとられています(政府令 245/2026/NĐ-CP、2026/6/27)。
「納付の先送り」から「税額の削減」へ
納付期限の延長は資金繰りを助けますが、最終的な税負担は変わりません。今回の30%減額は、税額そのものを減らすもので、支援を一段進めた形といえます。財務大臣は国会で、小規模事業者の困難を和らげて生産・事業を安定させるとともに、インフレ抑制とマクロ経済の安定にもつなげると説明しています。
最も苦しいのは零細事業者
政府は、VCCI(ベトナム商工会議所)などが行った調査で、売上規模がごく小さい事業者ほど苦境にあり、耐える力も弱いことが示されたとしています。そこで、対象を売上100億VND以下に絞りました。税収減は、2年間で約6.7兆VND(約2.55億USD)と見込まれています。
臨時国会での前倒し可決
当初は10月の国会会期で審議する予定でしたが、これを前倒しし、8月の臨時会で出席議員481人中480人の賛成により可決されました。国会決議は成立と同時に施行されています。
当事務所の見方
制度の主眼は、個人事業主と零細企業の支援です。日系子会社が対象に入るのは、副次的な効果と思われます。後述のとおり、外資子会社の扱いについて細かな定めがないことも、この制度設計から理解できます。
3. 何が変わったのか ― 既存の軽減税率との関係
ベトナムでは、法人所得税法(Law 67/2025/QH15)により、年間総売上30億VND以下の企業に15%、30億VND超500億VND以下の企業に17%の軽減税率が適用されています(標準税率は20%)。
今回の30%減額は、税率ではなく「税額」を減らす仕組みです。そのため、軽減税率と重ねて使えます。30%減額後の実効税率は、次のとおりです。
| 区分(年間総売上) | 適用税率 | 30%減額後の実効税率 |
|---|---|---|
| 30億VND以下 | 15% | 10.5% |
| 30億VND超〜100億VND以下 | 17% | 11.9% |
| 100億VND以下だが、関連会社要件により標準税率が適用される会社 | 20% | 14% |
他の優遇税制を受けている会社は、優遇分を控除した後の税額に30%減額をかけます。また、減額の対象となる税額は、キャピタルゲインなど法人所得税法第18条3項の所得を含む、その年度の全所得にかかる税額です(政府令 398/2026/NĐ-CP 第3条2項)。
4. 日系子会社・グループ会社の扱い
日系100%子会社も対象
対象は「ベトナム法に基づき設立された企業・組織」です。ベトナムで設立した日系の100%子会社も、これに当たります。一方、駐在員事務所や、外国契約者税(FCT)で課税される外国法人は、ベトナム法に基づき設立された組織ではないため、対象外と考えられます。
判定は「法人単位」、親子合算なし
売上100億VND以下かどうかは、法人ごとに判定します。同じ法人の支店・事業所の売上は、年次の合算財務諸表に基づき合算します(政府令 398/2026/NĐ-CP 第3条3項b)。しかし、親会社や兄弟会社など、別法人であるグループ会社の売上と合算する規定はありません。
したがって、日本の親会社の売上が大きくても、ベトナム子会社が単独で100億VND以下であれば、条文上は対象になります。ベトナム国内に複数の子会社がある場合も、それぞれ単独で判定します。
軽減税率との「ねじれ」
15%・17%の軽減税率には、「ベトナム法人である子会社・関連会社で、関連する企業が要件を満たさない場合は適用しない」という除外規定があります(法人所得税法施行政府令(政府令 320/2025/NĐ-CP、2025/12/15)第11条4項c)。税務当局も、この除外規定は関連会社が要件を満たさない場合に限られると回答しています。
一方、30%減額には同様の除外規定がありません。そのため、大手グループの小規模なベトナム子会社では、次のような状態が生じます。
- 軽減税率(15%・17%)は、関連会社の除外規定により使えず、税率は20%のまま
- ただし30%減額は受けられるため、実効税率は14%
唯一の合算ルール:分割・分離
例外として、2026年8月24日(国会決議の施行日)より後に、会社の分割(chia)・分離(tách)によってできた会社は、分割・分離後の全社の売上を合計して判定します。合計が100億VNDを超えれば、どの会社も減額を受けられません(政府令 398/2026/NĐ-CP 第3条1項・3項c)。
売上を分散させる再編は推奨しません
条文上は、「分割・分離」ではなく別会社を新たに設立して事業を分けた場合を直接とらえる規定はありません。しかし、国会審議の段階で、売上の分割・付け替えを防ぐ手立てを政府に求める意見が出ています。また、関連会社間の取引には移転価格規制がかかり、売上を付け替えれば移転価格の調査リスクが生じます。100億VNDは約38万USDにすぎず、節税額に対して再編の手間とリスクが見合わないと考えます。
5. 見落としやすい注意点
「売上」の範囲が広い
判定に使う売上には、本業の売上(売上控除後)に加えて、金融収益とその他の収入が含まれます(政府令 398/2026/NĐ-CP 第3条3項)。本業が小さくても、為替差益、預金利息、固定資産の売却益などで100億VNDを超えることがあります。清算前の資産売却や不動産の処分を予定している会社は、特に注意が必要です。
3月決算など、暦年でない事業年度
日系子会社に多い4月〜3月の事業年度で、どの期間が「2026年度」「2027年度」に当たるかは、政府令に明記がありません。現時点では不明確なため、所轄の税務当局に事前に確認されることをお勧めします。
見込みが外れた場合の追納と延滞金
実際の売上が100億VNDを超えた場合は、減額分を含む不足額を納付します。個人事業主については、一定期限までは延滞金を課さないと明記されています。一方、法人にはその明文がなく、延滞金の扱いは税務管理法の施行政府令(政府令 252/2026/NĐ-CP)第24条3項に委ねられています。見込み違いのリスクは、法人の方が重いといえます。
反映のタイミング
政府令の施行は10月29日で、第3四半期の予定納付期限(10月30日)の前日でした。実務上は、第4四半期の予定納付か、年次の確定申告(12月決算の場合は2027年3月末まで)で反映するのが現実的です。
大手グループの子会社とグローバル・ミニマム課税
実効税率14%は15%を下回ります。グローバル・ミニマム課税の対象となる大規模グループ(連結売上7.5億ユーロ以上)は、ベトナムの国内ミニマム課税(国会決議 107/2023/QH15、2023/11/29)との関係も確認しておくとよいでしょう。ベトナム国内のグループ全体の売上・利益が小さければ、少額除外が使える可能性が高く、多くの場合は実害はないと思われます。
6. 実務上の推奨対応
- 各子会社の2026・2027年度の売上見込みを、金融収益・その他の収入も含めて確認する
- 売上100億VND前後の会社は、予定納付の段階では減額せず、確定申告で反映する
- 暦年でない事業年度の会社は、どの期間が対象年度に当たるかを税務当局に事前確認する
- 減額だけを目的としたグループ再編は避ける