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【ベトナム労務】2027年1月1日からの最低賃金改定|政令399/2026/NĐ-CPのポイントと企業の実務対応

速報

2026年11月3日 / CastGlobal Law Vietnam

ベトナム政府は2026年11月2日、労働契約に基づき働く労働者の最低賃金を定める政令第399/2026/NĐ-CP号(以下「政令399号」)を公布しました。2027年1月1日から、地域別の月額最低賃金は31万〜39万ドン(平均約7.8%)引き上げられ、第1地域では月額570万ドンとなります。本稿では、新しい最低賃金額、適用地域の判定ルール、社会保険・失業保険への波及、違反時の罰則、そして年内に企業が進めるべき実務対応を、ベトナム現地の日系法律事務所の観点から整理します。

本稿のポイント

  • 2027年1月1日施行。現行の政令293/2025/NĐ-CPは同日で失効します。
  • 月額最低賃金は第1地域570万ドン、第4地域404万ドン。上昇率は第4地域が最も高く約9.2%です。
  • 失業保険料の算定上限(最低賃金の20倍)も連動し、第1地域では月1億1,400万ドンに上がります。
  • ハイフォン・フンイエン・ダナン・ドンナイ・ホーチミン市の一部で地域区分の見直しが行われており、「金額」と「地域」の二重の変更に注意が必要です。
  • 最低賃金を下回る支払いは、組織の場合最大1億5,000万ドンの罰金に加え、不足額と利息の支払いが命じられます。

1. 政令399/2026/NĐ-CPの概要

政令399号は、ファム・ティ・タイン・チャー(Phạm Thị Thanh Trà)副首相が政府を代表して署名し、2026年11月2日に公布されました。2027年1月1日から施行され、2026年1月1日から適用されている政令293/2025/NĐ-CP(以下「政令293号」)に代わるものです。

適用対象は、労働法に基づく労働契約で働く労働者と、これを雇用する使用者(企業、機関、組織、協同組合、世帯、個人)です。外資系企業・日系企業も当然に対象となります。

今回の改定額は、2026年7月16日に国家賃金評議会が全会一致で合意した「平均7.8%引き上げ」の勧告をそのまま採用したものです。なお、労働側(ベトナム労働総同盟)は当初、平均9.8%または8.5%の2案を提示していましたが、最終的に7.8%で労使が歩み寄った形です。前回(政令293号、2026年1月施行)の平均7.2%に続き、2年連続で7%を超える引き上げとなります。

2. 2027年1月1日からの最低賃金額

政令399号第3条1項は、地域別の最低賃金を次のとおり定めています(上昇率は当事務所算出)。

月額最低賃金(単位:VND/月)
地域 現行
(政令293号)
2027年1月1日〜
(政令399号)
増加額 上昇率
第1地域 5,310,000 5,700,000 +390,000 約7.3%
第2地域 4,730,000 5,080,000 +350,000 約7.4%
第3地域 4,140,000 4,450,000 +310,000 約7.5%
第4地域 3,700,000 4,040,000 +340,000 約9.2%
時間額最低賃金(単位:VND/時間)
地域 現行(政令293号) 2027年1月1日〜(政令399号) 増加額
第1地域 25,500 27,400 +1,900
第2地域 22,700 24,400 +1,700
第3地域 20,000 21,400 +1,400
第4地域 17,800 19,400 +1,600

金額の上がり幅は第1地域が最大ですが、上昇「率」では第4地域(約9.2%)が最も高くなっています。地方の工場など第3・第4地域に拠点を持つ企業ほど、人件費への影響を相対的に大きく見積もっておく必要があります。

3. どの地域の最低賃金が適用されるか(地域判定ルール)

適用される最低賃金は、会社の本店所在地ではなく「使用者が活動している場所」で決まります。政令399号の判定ルールは次のとおりです。

  • 原則:使用者が活動する地域の最低賃金を適用します。
  • 支店・事業所:最低賃金の異なる地域に支店等がある場合、各支店等が所在する地域の最低賃金を適用します(本社が第1地域でも、第3地域の工場には第3地域の金額が適用されます)。
  • 工業団地等:工業団地、輸出加工区、ハイテクパーク、集中デジタル技術区、特別経済区、自由貿易区、ハイテク農業区が複数の地域にまたがる場合は、そのうち最も高い最低賃金を適用します。
  • 名称変更・分割:地名の変更や分割があった地域では、新たな規定が出るまで変更・分割前の地域の最低賃金を一時的に適用します。
  • 新設・統合:最低賃金の異なる複数の地域から新設された地域では、新たな規定が出るまで最も高い最低賃金を適用します。
地域区分の見直しにも注意(「金額」と「地域」の二重の変更)

地域ごとの区分は政令399号の付録(Phụ lục)で定められています。2025年7月の地方行政再編(34省・市体制、郡レベルの廃止)以降、区分はコミューン・坊(xã・phường)単位で指定されています。

内務省が2026年9月に公表した政令草案では、ハイフォン市、フンイエン省、ダナン市、ドンナイ市、ホーチミン市の5地方で区分の引き上げが提案されていました。たとえばホーチミン市では、旧バリア・ブンタウ省のBà Rịa、Long Hương、Tam Long、Long Hải、Long Điền、Châu Đức方面のほか、Cần Giờ、Côn Đảo特区などを第2地域から第1地域に引き上げる案が示されていました。該当地域では、金額の改定と地域の格上げが同時に生じるため、実質的な上昇幅が大きくなります。

ご注意

上記の区分見直しは草案段階の情報です。最終的な区分は、公布された政令399号の付録で拠点ごとに必ずご確認ください。特に、統合後の新しい坊・コミューン名と、従来の住所表記(旧区・旧県名)の対応関係を取り違えるケースが見られます。行政再編による地域区分の変化については、最低賃金の区分変更へ|128/2025/NĐ-CPの要点と実務影響もあわせてご参照ください。

4. 最低賃金の「比較対象」となる賃金とは

最低賃金の根拠は労働法(法律第45/2019/QH14号)第91条で、「通常の労働条件の下で最も単純な業務を行う労働者に支払われる最も低い賃金」と定義されています。地域ごとに月額・時間額で定め、政府が国家賃金評議会の勧告に基づいて決定します。

政令399号第4条は、月給制の労働者について、所定労働時間を勤務し合意した労働基準・業務を完了した場合の「業務または職位に応じた賃金(mức lương theo công việc hoặc chức danh)」が月額最低賃金を下回ってはならないと定めています。労働法第90条は賃金を「業務・職位に応じた賃金額」「手当」「その他の補助」で構成されるものとしており、最低賃金と比較されるのは手当を除いた基本給部分であると解されています。手当を含めた総支給額で最低賃金を上回っていても、基本給が下回っていれば違反となる点にご注意ください。

また、週給・日給・出来高給・請負給の労働者については、所定労働時間を基準に月額または時間額に換算したうえで、最低賃金を下回っていないかを判断します。

  • 月額換算:週給×52週÷12か月、日給×月の所定労働日数、または月の所定労働時間内の出来高給・請負給
  • 時間額換算:週給・日給÷週・日の所定労働時間、または出来高給・請負給÷所定労働時間

5. 既存の有利な条件は維持する必要がある

政令399号は、使用者に対し、労働契約、労働協約、社内規程の内容を見直し、必要な調整を行うことを求めています。そのうえで、残業代、深夜労働手当、現物での補給などの法定の賃金制度を廃止・削減してはならないと明記しています。

さらに、労働契約や労働協約などで既に合意している、政令399号より労働者に有利な条件は、当事者間で別段の合意をしない限り引き続き適用されます。政令は例として次のような制度を挙げています。

  • 職業訓練・学習を要する業務・職位について、最低賃金より少なくとも7%高く支払う制度
  • 重労働・有害・危険な業務について、通常条件の同等業務より少なくとも5%(特に重労働・有害・危険な業務は7%)高く支払う制度

これらの「7%・5%上乗せ」は、2022年以降の政令では一律の法的義務とはされていませんが、旧制度に沿って労働契約や賃金規程に組み込んでいる企業は少なくありません。その場合、最低賃金の改定に合わせて上乗せ後の金額も見直す必要があります。上乗せ規定を廃止したい場合は、労働者との合意が必要となり、一方的な廃止は紛争の原因となりますので慎重な対応をお勧めします。

6. 社会保険・失業保険への波及

(1) 失業保険料の算定上限が上がる

雇用法(法律第74/2025/QH15号、2026年1月1日施行)第34条2項により、失業保険料の算定基礎となる賃金の上限は「地域別月額最低賃金の20倍」とされています。そのため、今回の改定により上限額も自動的に上がります。

地域 2026年の上限(VND/月) 2027年1月〜の上限(VND/月)
第1地域 106,200,000 114,000,000
第2地域 94,600,000 101,600,000
第3地域 82,800,000 89,000,000
第4地域 74,000,000 80,800,000

管理職やエンジニアなど、基本給が上限を超える高所得のベトナム人従業員を多く抱える企業では、失業保険料の会社負担・本人負担がともに増える点にご注意ください。

(2) 社会保険・健康保険の上限は別の基準

これに対し、強制社会保険・健康保険の算定上限は、社会保険法(法律第41/2024/QH15号)上、地域別最低賃金ではなく「基準額(mức tham chiếu)」の20倍とされています。現在の基準額は2026年7月1日以降の基礎給と同額の253万ドンで、上限は5,060万ドンです。この上限は今回の政令399号では変わりません。「最低賃金が上がる=すべての保険料の上限が上がる」わけではない点は、給与担当者の方とも共有しておくと安全です。

(3) 下限側の影響

基本給を最低賃金ぎりぎりに設定している従業員については、基本給の引き上げに伴い、社会保険・健康保険・失業保険の算定基礎、および労働組合費(社会保険算定賃金総額の2%)も連動して増加します。

7. 違反した場合の罰則

労働分野の行政違反処罰を定める政令283/2026/NĐ-CP(2026年9月10日施行、旧政令12/2022/NĐ-CPに代わるもの)第23条は、最低賃金を下回る賃金の支払いに対し、違反した労働者数に応じて次の罰金を定めています。

違反対象の労働者数 個人の場合(VND) 組織(会社)の場合(VND)
1〜10人 2,000万〜3,000万 4,000万〜6,000万
11〜50人 3,000万〜5,000万 6,000万〜1億
51人以上 5,000万〜7,500万 1億〜1億5,000万

組織に対する罰金は個人の2倍とされています。罰金に加え、不足していた賃金の全額と、国営商業銀行が公表する要求払預金の最高金利で計算した利息の支払いが是正措置として命じられます。罰金額そのものよりも、従業員全員分の差額と利息を遡って支払うことになる点が、実務上の大きなリスクです。

8. 年内に進めるべき実務対応チェックリスト

施行まで約2か月です。2027年1月分の給与計算に間に合うよう、次の順で準備を進めることをお勧めします。

  • 拠点ごとの地域判定:本社・支店・工場・倉庫など、すべての事業所について政令399号の付録で地域区分を確認します。区分見直しの対象となった5地方に拠点がある場合は特に入念に確認してください。
  • 基本給の点検:手当を除いた基本給が新しい最低賃金(および上乗せ規定がある場合はその金額)を下回っていないか、従業員ごとに確認します。
  • 賃金テーブル全体の調整:下位等級だけを引き上げると、上位等級との差が縮まり、不公平感や離職の原因になります。等級間の差をどう維持するかを含めて検討します。
  • 書面の見直し:労働契約(付録の締結を含む)、賃金規程、労働協約、就業規則など、最低賃金に言及する社内文書を整合させます。賃金テーブルを改定した場合は、職場に公示する必要があります。
  • 保険料の再計算とシステム設定:社会保険・健康保険・失業保険・労働組合費の算定額を再計算し、失業保険の新上限を給与システムに反映します。
  • 取引契約の価格改定条項の確認:警備・清掃・社員食堂・人材派遣・構内請負など、人件費が中心の外注契約では、最低賃金の改定を理由とする値上げ要請が想定されます。逆に、自社がサービスを提供する側であれば、価格改定条項の有無を確認し、顧客との交渉を早めに始めることをお勧めします。
  • 2027年度予算への反映と社内周知:日本本社への予算説明では、最低賃金そのものの上昇だけでなく、賃金テーブル全体の調整や保険料の増加を含めた総額で示すと、承認が得やすくなります。

9. まとめ

2026年1月の平均7.2%に続き、2027年1月にも平均約7.8%の引き上げが実施されます。ベトナムでは最低賃金が毎年のように7%前後のペースで上がっていく前提で、中長期の人件費計画を立てることが現実的です。

今回は金額の改定に加え、一部地方で地域区分の見直しも行われています。「自社の拠点はどの地域か」「基本給だけで最低賃金を満たしているか」「上乗せ規定や外注契約への波及はないか」という3点を年内に確認しておくことで、施行後のトラブルを防ぐことができます。賃金規程や労働契約の見直し、地域判定でご不明な点があれば、お気軽に当事務所までご相談ください。


情報ソース:政令399/2026/NĐ-CP全文および付録(ベトナム政府電子情報ポータル xaydungchinhsach.chinhphu.vn、2026年11月3日掲載)/国家賃金評議会第2回会合の結果(同ポータル、2026年7月20日掲載)/内務省「2027年1月1日からの最低賃金適用地域リスト(草案)」(同ポータル、2026年9月29日掲載)/労働法(法律第45/2019/QH14号)/雇用法(法律第74/2025/QH15号)/社会保険法(法律第41/2024/QH15号)/政令283/2026/NĐ-CP/当事務所独自調査。上昇率・保険料上限額は当事務所の算出によります。

免責事項:本記事の内容は2026年11月3日時点の情報に基づいています。制度の詳細や運用は今後変更される可能性があります。個別の案件については専門家にご相談ください。

CastGlobal

【執筆者】CastGlobal

ベトナムの法律事務所

ベトナムで主に日系企業を支援する弁護士事務所です。日本人弁護士・ベトナム人弁護士が現地に常駐し、最新の現地情報に基づいて法務面からベトナムビジネスのサポートをしています。

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