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- 2025.06.12
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ベトナムで労働者が退職する際に会社が回収すべき書類
ベトナムにおいて労働者が退職する際に労働者から回収すべき書類についてまとめてみました。労働者の退職時の手続きについては過去記事をご参照ください。
【ベトナム労務】労働者が退職時に行うべき会社側の手続について
健康保険証、就労許可証(外国人の場合)、ビザ・レジデンスカード(外国人の場合)になります。以下、一つずつ詳しく見ていきます。外国人労働者については、労働許可証やビザ・レジデンスカードの返却手続に時間を要することが予想されるため、早めに準備することが求められます。
健康保険証
社会保険停止手続きのために回収が必要となります。労働者が被用者保険の被保険者でなくなる時点で会社が回収し、社会保険機関へ返納する義務があります。退職日当日にカードを受領して当局に減員申請し、その後カード原本を返送するのが一般的です(ベトナム健康保険法25/2008/QH12 第20条1項b、その他当局ガイドライン)
就労許可証(日本人含む外国人の場合)
会社が労働者から就労許可証を回収し、退職から15日以内に発給元(労働・傷病兵・社会省/DoLISA)へ返納する義務(政令152/2020/ND-CP 21条)があります。その際には、返却理由を明記した文書も添付する必要があります(実務慣行上の記載内容は、企業情報、外国人労働者情報、就労許可証の情報、返却の理由、退職日になります)。回収できなかった場合にも、回収できなかった理由を記載する必要があります。特に最近は就労許可証の返却について厳格に管理されるようになってきていますが、発行官庁が返却の確認書を発行しないことがあるため、返却の際には2通の返却文書を用意し、1通に発行官庁の押印・確認をもらうことが推奨されます。
ビザ、レジデンスカード(日本人含む外国人の場合)
外国人が退職する場合、労働許可証に加えて、ビザ、レジデンスカードを回収し、入国管理局に返却する必要があります(ベトナムにおける外国人の入国・出国・乗継・居住に関する法律第45条2項e)。返却方法については、企業が労働者から回収したあと発行官庁への返却通知書を準備し、出国準備のために一時滞在の延長(約15日間)を申請するという順番で行うことが通常です。
終了合意書
終了合意書の詳細についてはベトナム法で規定されていませんが、以下の内容を明記すべきです。
・契約当事者の基本情報
・契約開始日・終了予定日
・解約理由・責任の所在
・清算項目(報酬・退職金・休暇清算等)
会社資産
ノートPC、携帯電話、USB、社章・社員証など。
秘密保持誓約の再確認書
NDAや労働契約で定めがある場合に、あらためて確認しておくと紛争予防に役立ちます。
業務引継書
必須ではありませんが、後日の業務が円滑になります。
社会保険手帳原本
本人へ返却しなければなりません(労働法45/2019/QH14 48条3項a)
従業員の業務プロセスに関連する文書のコピー(従業員から要請あった場合のみ)
労働法45/2019/QH14 48条3項bに定めがあります。
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- 2025.06.10
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ベトナム建設許可の「特級~4級+戸建」と直近のアップデート
ベトナム建設法は、工事の規模・複雑さ・社会的影響度に応じて 5 段階(特級/1級/2級/3級/4級)に分類しています。これにより、設計審査の深度・許可権限・安全基準が段階的に定められており、建設許可証の対応も変わることになります。
特級
要件:国家的重要施設、超高層(>100 m 目安)、特殊基礎・深掘トンネル等。
実務:建設省レベルでの総合審査+専門家評定が必須。
1級
要件:延べ床20,000 m²超、高さ75 m超など。
特徴:大規模民間開発の多くが該当。環境アセスや交通影響評価が求められる。
2級
要件:延べ床5,000–20,000 m²。
特徴:物流倉庫・工業団地内工場が典型。消防・構造計算書の簡略可。
3級
要件:延べ床500–5,000 m²。
特徴:中小規模店舗・集合住宅。提出図書が比較的軽い。
4級(+戸建住宅)
要件:延べ床<500 m²、階数≤3、スパン≤15 m 等。
特徴:区レベルで許可。住宅改修・内装のみの場合は免許不要ケースも。
項目
旧制度
2024/6/9 以降
申請方法
原則対面提出
電子ポータル完全移行(https://dichvucong.hanoi.gov.vn)
対象工事
一部のみオンライン
特級~4級+戸建: 新規許可/改修許可/変更・延長・再発行・移転許可
手数料
区分ごとに数十万~数百万VND
2025/12/31 まで無料
審査期日
15~30 営業日(実務は延伸傾向)
電子化により進捗トラック機能追加、行政遅延の可視化
オンライン移行対応
設計図書・BIMデータをPDF/A形式で準備。電子署名(CA証明書)必須。
スケジュール短縮を見込む
手数料無料期間中に許可取得を前倒し検討。
専門等級の確認
自社案件がどの級に該当するか事前判定し、必要な構造計算・消防審査を逆算手配。
情報公開リスク
電子ポータル閲覧により設計概要が半公開となるため、機密図書は別添管理ルールを設定。
まとめ: 2024 年のハノイ市のオンライン化と手数料免除は、外資・日系デベロッパーにとって手続きコストとリードタイムを大幅に削減する好機といえるでしょう。開発スケジュールを再チェックし、電子申請体制を整備することで、競争優位を確保できる可能性があります。
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- 2025.06.10
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ベトナム国内物流業界の現状と課題|市場分析・課題・将来性・ビジネスチャンス
ベトナムの物流業界は年平均6.19%という高成長を続けており、市場規模は年間約400〜420億米ドルに達しています。また、物流業はベトナムGDPの約4〜5%を占めるまでに拡大しています。一方で、物流コストは依然としてGDPの16.5〜18%程度と高水準で、世界平均(約10〜14%)を大きく上回ります
政府はこの物流コストを早急に引き下げる目標を掲げており、2025年までにGDP比15%程度まで削減する計画です。
国内貨物輸送は そのシェアは、道路輸送 に極度に依存しており、物量ベースで約77〜80%に達すると報道されています。残りは 内陸水運(河川・沿岸航路) が約17%を担い、鉄道 と 航空 は合わせても数%に過ぎません。つまりベトナムではトラック輸送が物流の主役であり、年間15億トン超の貨物を運ぶ経済の大動脈となっています。一方、鉄道貨物は1〜2%程度とごく僅かで、国内物流での役割は限定的です。航空貨物も高価値・緊急品目に限られ、物量全体に占める割合は極小です。
近年、国内では大規模な物流インフラ投資と施設開設が相次いでいます。
高速道路網 は急ピッチで整備が進み、2024年時点で全長2,000km以上の高速道路が供用されています。政府はさらに2025年までに3,000km、2030年までに5,000kmの高速道路網完成を目指しており、主要経済圏間の陸路輸送時間短縮が期待されています。
港湾も拡充され、現在全国に298か所の港が存在します。2018年にはハイフォン近郊に深水港「ラックフエン港」が開業し、大型コンテナ船の直接寄港が可能となったことで北部の物流効率が向上しました。また南部でもカイメップ・ティバイ港の設備増強が行われ、海上輸送能力が強化されています。
また、物流拠点施設 の整備も進みました。たとえば国営企業ヴィッテルは2024年に北部に約1億3,000万ドルを投じた大規模物流パークを開設し、1日1,500台の車両を処理可能な最新鋭ハブとして注目されています。海外物流大手も進出を拡大しており、デンマークのMaersk社は2024年にハイフォン港近郊の工業団地に初の自社保税倉庫を開設しました。この倉庫は最新のラックシステムや自動バーコード管理など先端技術を備え、輸送ハブとして機能します。さらに2025年にはドンナイ省でアリババ系の菜鳥ネットワークが大規模物流センター(冷蔵施設併設)を稼働予定であり、中国からの越境EC物流を支える見込みです。
加えて、2021年着工のロンタイン新国際空港(ホーチミン市郊外)は2026年に開港予定で、大規模な航空貨物ターミナルを備える計画です。これら新設施設は国内物流のハブ拠点となり、輸送時間短縮と処理能力拡大に寄与していきます。
(1) インフラ未整備によるボトルネック
道路網の不足と接続性の低さが最大の課題です。主要港湾や生産拠点と内陸を結ぶ高速道路・アクセス道路が不十分なため、トラック輸送の渋滞や遅延が頻発しています。例えば南部メコンデルタとホーチミン市を結ぶ高速道路網は未完成で、農産品輸送に時間とコストがかかっています。また港湾や内陸物流センター間の連絡も効率的とは言えず、インフラの「つなぎ目」の弱さが物流の流れを滞らせています。鉄道や内陸水運など他モードとの接続も弱く、マルチモーダル輸送が進んでいません。
(2) 物流コストの高さ
前述のように物流費はGDP比で約16.5-18%に達し、タイ(約13.9%)や日本(約8%)などに比べて著しく高水準です。とりわけ輸送コストの負担が大きく、物流費の中で輸送費が占める割合は約60%にもなると言われます。これは道路偏重による非効率や、小規模業者の分散による積載効率低下などが要因です。実際、ベトナムのトラック輸送は零細事業者が多く、68%の運送業者が5トン以下の小型トラックしか保有していないとの報告があります。
トラック回送料の空荷率が高く、結果として単位当たり輸送費用が嵩んでいます。その影響で、ベトナム産品の物流費負担は価格の20〜25%にも及び、国際競争力を損ねています。
また、2025年の新道交法の対応にもコストがかかっていると言われています。
(3) デジタル化(DX)の遅れ
ロジスティクス業界のデジタルトランスフォーメーションはまだ発展途上です。政府は物流を国家デジタル化計画の重点8分野の一つに位置付け支援していますが、現場の多くは依然として紙や手作業に頼っています。調査によれば、物流企業の大半はDXの重要性を認識しつつも、その多くがまだ初期段階に留まっています。特に中小企業では、DX投資のための資金不足やIT人材不足が障壁となっていると考えられます。
結果として、在庫管理や輸配送計画の最適化が進まず、トラックの回転率向上・積載効率化などDXによるコスト削減効果が十分に得られていません。また、税関手続きなど行政プロセスの電子化も不十分で、書類手続きの遅れが物流全体のボトルネックとなっています。
(4) 環境と都市問題
物流の環境負荷も無視できません。国内輸送の主役であるトラックは老朽車両が多く、燃費効率が悪いことから温室効果ガス排出や大気汚染の要因となっています。加えて都市部の交通渋滞も配送効率を低下させ、ラストマイル物流の課題となっています。政府はこれら課題に対処すべく、物流車両のグリーン化(EVトラック導入等)や都市内配送の規制・最適化にも取り組み始めています。
以上のように、ベトナム物流業は成長著しい一方で、インフラ、コスト、DX、など多方面に課題を抱えています。こうした課題克服が国内物流の国際競争力強化に向け急務となっています。
ベトナムの物流業の特徴を、近隣の新興国タイ、および先進物流国の日本と比較します。以下の表に主要指標をまとめました。
指標
ベトナム (2023年)
タイ (2022年)
日本 (近年)
世界銀行LPIランク(2023年)
43位(スコア3.3)
34位(スコア3.5前後)
13位(スコア約3.9)
物流コスト(GDP比)
約16.5〜18%
約13.9%
約8.0%
国内貨物の道路輸送シェア
約77〜80%
約98%(圧倒的依存)
約50〜60%(トンキロ)
国内貨物の鉄道輸送シェア
1〜2%程度
約2%
約5%
国内貨物の水運・海運シェア
約17%
数%(限定的)
約40%前後
物流インフラ水準
高速道約2,000km、鉄道老朽化
高速道4,500km超、鉄道近代化中
高速道網・鉄道網が発達
DX・デジタル化の進捗
初期段階(大半が未導入)
徐々に浸透(税関電子化など推進)
先進的(自動化・IT活用が進展)
政府の物流政策・支援
コスト削減・インフラ整備・DXを最重点
鉄道投資拡大、EV物流促進
グリーン物流・先端技術開発を支援
※日本の数値は参考値(LPIスコアや物流コストは先進国水準)。
上記の通り、道路偏重 はベトナム・タイに共通する課題です。タイも国内貨物の約98%をトラックに依存し、鉄道のシェアはわずか2%未満に留まっています。これはベトナムと同様に鉄道網の能力不足や運行の非効率が原因です。
一方、日本は国内物流で道路輸送が約5割と主要手段ですが、残りの約4割を内航海運(フェリーや沿岸貨物船)が担い、鉄道も5%程度を占めています。日本では地理特性を活かした海運・鉄道へのモーダルシフトが進んでおり、道路への過度な負担を分散しています。こうしたマルチモーダル輸送により、日本の物流は大量輸送時の燃料効率を高め、コスト低減と環境負荷軽減に繋げています。対照的にベトナム・タイではモーダルシフトが進んでおらず、道路に頼らざるを得ない構造がコスト高の一因となっています。
(1) インフラ水準
日本は高速道路網や鉄道網が全国に張り巡らされ、港湾も世界トップクラスの設備を有するなど、物流インフラが高度に発達しています。例えば高速道路延長は1万km近くに及び(ベトナムの5倍以上)、主要港ではコンテナ自動クレーンやITV(無人搬送車)が活躍しています。タイも高速道路は充実しており、バンコク首都圏から各地への幹線道が整備済みです。ただし鉄道インフラは旧態依然で、現在タイ政府は中国の協力で幹線鉄道の複線化や高速鉄道建設を進め、鉄道貨物比率を高める計画です。一方ベトナムは高速道路こそ整備途上なものの、近年急速に延伸しています(2025年までに3000km目標)。鉄道はフランス統治期の単線が主体で老朽化が激しく、政府は将来的な高速鉄道計画を検討中ですが、実現はまだ先です。つまり、インフラ面では日本>タイ>ベトナムの順で整備度に差が見られます。
(2) DX化・デジタル活用
日本の物流業界はIT活用が進んでおり、倉庫管理システム(WMS)や輸配送管理システム(TMS)、EDIによる受発注、さらにはAIを用いた需要予測やロボティクスによる仕分けなどが普及しています。政府も電子商取引促進や物流データ標準化を推進し、企業間連携を支援しています。シンガポールなども電子通関やトラッキングで先行しています。タイも国家単一窓口(National Single Window)を導入し貿易・物流書類の電子化を図るなど、DXに注力し始めています。
これに対しベトナムはデジタル化の遅れが課題です。前述のように物流企業の大半はまだDX初期段階であり、紙の書類手続きや電話・メールによる調整が残っています。ただし政府は物流を含む分野でのデジタル政府・電子商取引推進策を進めており、例えば電子通関システム(VNACCS)の普及や輸送管理のオンライン化支援などを行っています。また大手企業の中には独自に輸配送最適化システムを導入したり、Eコマース物流でリアルタイム追跡を提供したりする例も出てきました。今後はタイやマレーシア同様に、業界全体でのデジタル化率向上が課題となるでしょう。
ベトナムの物流コスト(GDP比18%)はタイ(約14%)やマレーシア(13%)、中国(約15%)に比べても高く、先進国日本(8%)や米国(9%)の2倍前後に達しています。これは前述した道路偏重や非効率の影響ですが、各国政府の支援策の違いも反映されています。
(1) タイ
政府は物流コスト削減を重要政策に掲げ、インフラ開発と物流近代化に注力しています。第13次国家経済社会開発計画(2023-2027年)では物流コストGDP比を11%未満に抑える目標を設定。具体策として、鉄道網拡充(タイ中国鉄道や東部経済回廊の物流網整備)、港湾能力増強、物流拠点(DC)の地方展開支援などを推進中です。またEVトラックや環境対応車の導入にも補助を検討し、長期的なコスト低減と持続可能性向上を図っています。政府主導でモーダルシフトやグリーン物流を促し、将来的な競争力強化につなげる方針です。
(2) 日本
国土交通省が中心となり、物流効率化と人手不足対策の政策パッケージを講じています。具体的には、トラック輸送の「ホワイト物流」推進(積載効率向上や待機時間削減の取組)、共同配送の促進、中継輸送による長距離ドライバー負担軽減などです。また物流分野の研究開発にも力を入れ、自動運転トラックの実証実験やAI在庫管理の開発支援を行っています。物流施設に対する税制優遇(高機能倉庫の減税)や、中小物流企業向けIT導入補助も実施し、業界全体の効率化を後押ししています。これらにより、日本の物流コストはGDPの一桁台に収まっています。
(3) ベトナム
政府は近年になり物流コスト削減に本腰を入れ始めました。2024年末の「ベトナム物流フォーラム」では、ファム・ミン・チン首相が物流費のGDP比を現在の18%から翌年には15%へ下げるという大胆な目標を表明し、物流産業がGDPに占める比率を現状の10%から将来的に15〜20%に高める方針を示しました。実現のため、高速道路・港湾・空港などインフラ整備の加速、行政手続の簡素化(ワンストップサービスの徹底)、及び物流DXの支援(企業のIT化補助など)を含む7つの重点施策を打ち出しています。また物流企業向けに融資環境の改善や、外国企業との提携促進によるノウハウ移転も図っています。これら政府のコミットメントは他国に比べて後発ではあるものの、今後の物流競争力向上の鍵となるでしょう。
総じて、ベトナムはタイなど地域内新興国と比べても物流構造上のハンデを抱えており、日本のような先進事例から学べる点が多い状況です。他国ではインフラ投資・モーダルシフト・DX・政策支援が物流効率化に一定の成果を上げており、ベトナムもそれらを踏まえた戦略実行が求められています。
ベトナムはWTO加盟に伴い物流サービス市場を段階的に開放してきましたが、現在も分野ごとに外資出資比率の上限や合弁条件が定められています。主な規制を整理すると以下の通りです。
道路貨物運送業
外資は現地企業との合弁会社設立が必要で、外資出資比率は51%が上限とされています。また、その会社で雇用できるドライバーはベトナム人のみという制限もあります。つまり外国企業が単独でトラック運送業を営むことはできません(WTOコミットメント)。ただしASEAN域内企業については、ASEANサービス枠組み協定(AFAS)によりこの上限が70%まで緩和されています。
鉄道貨物・内陸水運
こちらも外資出資比率は49%に制限されています(ASEAN企業は合弁で最大70%まで可能)。国内鉄道・水路の運送事業は国家安全保障上の観点から外資に一定の歯止めをかけています。
海上輸送(国内船舶運航)
外資は49%までの出資に限られ、さらに船員の2/3以上はベトナム人、船長または一等航海士はベトナム人であることが義務付けられます。いわゆるカボタージュ規制で、ベトナム籍船舶による国内海運への外資参入を抑えています。ただしEU加盟国の企業はEVFTAにより海運会社への出資を70%まで認められる優遇があります。
港湾コンテナターミナル業
外資出資比率は50%までに制限されています。港湾運営は戦略的インフラとみなされ、外資の完全支配を避ける設計です。
航空貨物・航空会社
航空輸送サービス会社は外資比率34%が上限で、筆頭株主は必ずベトナム側でなければなりません。加えて会社役員の3分の1超を外国人が占めることも禁止されています。
倉庫業・貨物代理店・通関業
これらは比較的開放度が高く、外資100%出資も可能とされています。ただし例えば通関代行業は外国企業が行う場合、形式上ベトナム企業とのジョイントベンチャーでなければならないという条件があります(出資比率の上限はなし)。倉庫・保管サービス自体には明確な外資比率規制は設けられていません。
以上のように、運送(陸海空鉄道)の分野で外資比率制限が厳しく、物流周辺サービス(倉庫・フォワーディング等)は比較的緩やかという構図です。これは国内輸送インフラの主権や国防上の配慮から来る政策です。
これら外資規制は、国内物流市場に以下のような影響を及ぼしています。
(1) 外資物流企業の参入形態
規制により、FedExやDHL、Maerskといった大手外資系企業はベトナムで事業展開する際、現地企業との合弁設立やパートナー契約が不可欠となっています。例えば、日本のヤマトホールディングスはベトナム進出にあたり地場企業との提携を模索中と報じられています。また陸上輸送については外資単独で自社トラック車隊を保有できないため、外資系3PLは現地の運送会社と協業したり、輸送部分をアウトソーシングするケースが一般的です。このため外資は主に倉庫運営や国際フォワーディング、付加価値サービスに注力し、ラストマイル配送など国内輸送は地場業者ネットワークに委ねる傾向があります。結果として、外資による最新ノウハウや技術が国内輸送の末端まで浸透しづらい面があります。
(2) 国内企業の市場保護
外資規制のおかげで、国内の中小運送業者や物流企業はある程度市場を保護されています。例えばトラック輸送市場は事実上ベトナム企業が握っており、外資との直接競争は限定的です。この保護により国内企業はシェアを維持できますが、その反面、外資からの競争圧力が低いためにサービス向上や効率化へのインセンティブが弱まり、業界全体の競争力向上が遅れる可能性も指摘されています。実際、ベトナムの物流企業は国際的に見て規模も小さく競争力が課題とされています
。
(3) 倉庫・物流施設分野
倉庫業は外資規制が緩いため、シンガポールや日本の物流不動産会社が大型倉庫を多数開発する動きが活発です。GLPやMapletree、ロゴスなどが先進的な物流センターを各地で建設し、国内にも最新設備(自動ラックやWMS)がもたらされています。これは国内物流インフラの底上げにつながる一方、地場倉庫業者との競争を激化させています。ただし規制が緩い分野では外資の資本・技術が流入しやすく、結果としてベトナム市場全体の水準向上に寄与する側面もあります。
(4) 物流システム開発
ITサービス分野自体には外資規制がないため、海外の物流システム企業がベトナムに進出すること自体は可能です。しかし物流現場にシステムを売り込む際、現地パートナーとのコラボが重要になるなど、市場参入ハードルは存在します。逆に言えば、国内のIT企業にとっては海外先進企業と組んで物流向けソリューションを開発・提供するチャンスがあります。
(5) 投資意欲への影響
一部の外資企業にとって、出資比率上限ゆえに経営主導権を握れないことが参入抑制要因となりえます。例えば自前ネットワークを構築したい外資物流企業は、過半を持てない合弁では思うように動けない可能性があります。そのため、市場参入を見送り別国へ投資するといった判断も考えられます。これはベトナムが潜在的な外資投資を逃すリスクでもあります。
上記の状況下で、物流業界の各企業(国内・国外問わず)は以下のような戦略で対応することが望まれます。
(1) 現地企業とのパートナーシップ強化(外資企業向け)
外資にとっては合弁や提携が不可欠である以上、信頼できるベトナムのパートナー企業を選定し、win-winの関係を築くことが最重要です。単に資本参加するだけでなく、現地パートナーに対して自社のオペレーションノウハウやITシステムを提供し、サービス品質を一体的に向上させる取り組みが必要です。例えば外資は倉庫運営や国際輸送の強みを、地場企業は国内配送網や行政対応力の強みを出し合い、補完関係を築くことが理想です。また、合弁会社において将来的に出資比率引き上げ余地が生まれた場合に備え、契約面でオプションを確保しておくのも一策です。
(2) FTA・特別枠の活用
EU企業やASEAN企業には出資規制緩和の特例があります(前述のようにEVFTAやAFASでの上限緩和)。該当する外資企業はこれら枠組みを最大限活用し、一般枠より有利な条件での投資を検討すべきです。例えばASEAN系の物流企業であれば、道路輸送会社への出資を51%でなく70%まで引き上げて合弁設立するといったことが可能です。こうした国際協定上の優遇を戦略的に利用することで、規制のハードルを下げられます。
(3) ローカル人材の登用と育成
外資系企業は規制順守のため、たとえばドライバーや現場管理者を現地採用する必要があります。優秀なベトナム人スタッフを登用し、自社の企業文化やオペレーション手法を共有して戦力化することが肝心です。将来的に外資規制が緩和された場合でも、現地人材が育っていればスムーズに事業拡大できます。また駐在員を減らし人件費圧縮にもつながります。
(4) 事業構造の工夫
外資物流企業は、自社が100%所有できる領域(倉庫業やITサービスなど)と、制限のある領域(運送業)を分社化・分離して運営する戦略も取られています。例えば倉庫運営会社は外資100%で設立し、運送部門は地場企業とのJVにする、といった形です。こうすることで、自社資本でコントロール可能な部分にリソースを集中し、他はパートナーに任せる明確な役割分担ができます。このモデルにより外資は規制の範囲内で最大限の経営効率を追求できます。
(5) 法令遵守とリスク管理
規制環境が頻繁に変化する可能性もあるため、企業は常に最新の法令をチェックし、コンプライアンスを確保する必要があります。特に外資企業は許認可やライセンス取得に時間がかかる場合もあり、専門の法務チームやコンサルタントを活用してリスクを低減すべきです。これは外資だけでなく、合弁先の国内企業にとっても重要な課題です。
以上のような対応策によって、規制による制約を最小化しつつ事業拡大・効率化を図ることが可能です。ベトナム政府も経済発展に応じ規制を見直す姿勢を見せており、企業側としては将来の完全開放も視野に入れつつ、目下は賢く規制と付き合う経営戦略が求められます。
ベトナムの物流業界は今後10〜15年で飛躍的な変化を遂げると予想されます。その方向性は政府の長期戦略や経済成長見通しから次のようにまとめられます。
(1) 市場規模の大幅拡大
年率12〜15%の成長が持続すれば、物流市場規模は2035年までに現在の数倍に拡大すると考えられます。政府の目標では2035年に物流業がGDPの5〜7%を占める見通しで、金額にすると数百億ドル規模の増加が見込まれます。とりわけEC(電子商取引)の普及や製造業の発展が物流需要を押し上げ、国内配送から国際輸送まであらゆる分野で取扱貨物量が増加するでしょう。
(2) インフラ整備の進展
2030年前後までに南北高速道路が全通し、主要港湾・経済圏を結ぶ幹線高速道ネットワークが完成する計画です。またロンタイン国際空港の本格稼働や、ハノイ・ホーチミン等の都市近郊での大型物流センター開設が相次ぐでしょう。鉄道では現在計画中のハノイ〜海防間新貨物鉄道や、中越国境(ラオカイ)〜ハノイ〜ハイフォン港を結ぶ貨物ルートの整備が期待されます。さらに長期的には南北高速鉄道(旅客主体だが貨物にも活用可能)の建設が検討されています。内陸水運も環境対応が進み、フランス企業が電動バージ(電気駆動の艀船)を導入する計画が出るなど、新技術による水運活性化も起こりつつあります。2035年頃までには、これらインフラ投資の成果が現れ、物流の物的ボトルネックは大幅に緩和されているでしょう。
(3) 技術革新とDXの本格化
政府目標では「2035年までに国内物流企業の80%がデジタル技術を活用」するとされています。AI・IoTによる在庫・輸送管理の最適化、ブロックチェーンによるトレーサビリティ確保、クラウド型物流プラットフォームの普及などが進むでしょう。トラック隊列走行や一部自動運転の実用化、ドローンや配達ロボットによるラストマイル配送の実証もこの期間に期待できます。特にEC物流では、自動倉庫やロボット仕分けが標準となり、人手不足を補う展開が予想されます。こうした物流のスマート化により、リアルタイムで需給マッチングを行い無駄な空輸送が削減されるなど、生産性は飛躍的に向上するでしょう。
(4) 政策・制度の進化
ベトナム政府は「2035年までにLPI世界40位以内に入る」という明確なビジョンを掲げています。その達成に向け法制度も整備され、物流に関する規制緩和や標準化が進む見込みです。たとえば現在の外資規制も、ASEAN経済共同体やさらなるFTA拡大に伴い一層緩和されていく可能性があります。また環境対策としてCO2排出規制や欧州のCBAM(炭素国境調整)対応が求められ、グリーン物流関連の新たな基準が導入されるでしょう。加えて、通関・検疫などの行政手続きの電子化・ワンストップサービスがほぼ完成し、紙書類不要のデジタル物流チェーンが構築されていることが期待されます。
(5) 競争環境の変化
グローバル企業のさらなる参入や業界再編も起きるでしょう。中国やASEAN周辺国からベトナム市場への関心は高く、2030年頃までに地域の物流ハブとしての地位を巡り熾烈な競争が予想されます。隣国中国の大手(JD物流やアリババ系菜鳥など)は既に進出しており、将来ベトナム企業との競合が一段と激しくなる可能性があります。一方で国内でも有望な物流スタートアップが台頭し、業界再編が進むかもしれません。M&Aによる物流企業の大型化・系列化も進展し、現在は中小乱立の市場が、より統合された構造に変化している可能性があります。
以上のように、2035年頃までにベトナムの物流業はインフラ・技術・制度面で大きな進歩を遂げ、市場規模も拡大すると考えられます。それに伴い競争も激化しますが、全体としては効率化が進み、物流コストはGDP比12〜15%程度まで低下すると政府は見込んでいます。
この将来像に備え、政府および企業は以下のような戦略的対応を取る必要があります。
(1) インフラ投資の着実な実行
政府は高速道路や港湾、新空港など計画中のインフラ案件を遅延なく完成させることが肝要です。資金調達には官民連携(PPP)やODAの活用も検討し、ボトルネックの解消に集中投資すべきです。またインフラの「繋ぎ」を意識し、道路-港湾-鉄道-物流センター間の接続改善やインターチェンジ整備にも注力する必要があります。企業側も、新設インフラを活用した物流ネットワーク再構築を図り、幹線輸送の最適ルート選択や拠点配置の見直しなどを進めるべきです。
(2) マルチモーダル物流・モーダルシフト推進
政策的に鉄道・水運への貨物シフトを促す施策が有効です。具体的には、鉄道コンテナ輸送の運賃補助やインセンティブ制度、内陸コンテナデポの整備などで鉄道・水運の利用を促進します。企業も幹線部分は鉄道・船舶を活用し、ラストマイルをトラックに担わせるなどモーダルミックスを計画すべきです。これにより大量輸送のコスト効率を享受しつつ、道路輸送の負荷を減らせます。既に欧州系企業からは「道路依存から脱却し、陸海鉄を統合した輸送を採用すべき」との提言もなされています。
(3) デジタル技術の導入(DX推進)
物流企業は競争力強化のため、積極的なDX投資が不可欠です。政府は中小企業向けに物流IT導入補助金や低利融資を拡充し、業界全体のデジタル底上げを図るべきです。具体的には、輸送管理システム(TMS)、倉庫管理システム(WMS)、顧客向けトラッキングシステムの導入を促進します。また、トラックの経路最適化や配車計画にAIを導入し、空車走行の削減や燃費改善を実現します。ブロックチェーンによる電子契約・電子伝票も導入すれば、紛失リスクや不正を低減できます。政府はこれら技術の標準化と教育にも注力し、2025年までに物流企業のDXロードマップを策定・周知しています。企業側は自社のDX戦略を明確にし、人材育成と組織改革を伴う包括的なデジタル化を進める必要があります。
(4) 人材育成と組織力強化
物流高度化には専門人材が不可欠です。産学連携でロジスティクス分野の教育課程を充実させ、サプライチェーン・マネジメントやデータ分析に通じた人材を育てることが重要です。企業も社員研修や資格取得支援を拡大し、DXを推進できる人材や国際物流の知見を持つ人材を社内に増やす努力が必要です。加えて、労働環境改善(ドライバーの待遇改善や女性・高齢者の活用)も進め、人手不足リスクに備えます。
(5) コスト削減とサービス最適化
物流企業は引き続きコスト意識を高める必要があります。燃料費削減のため車両の省エネ化・EV化を進め、車両維持費の低減を図ります。輸配送ネットワークの再設計によりムダな往復を減らし、共同配送や地域内集約配送で規模の経済を追求します。さらに、在庫戦略を見直し需要地近くに前倒し在庫することで輸送距離を短縮するなど、サプライチェーン全体で最適化を検討します。これらはDXと並行して進めることで相乗効果が生まれます。またサービス面では、顧客企業との情報共有を密にし、需要変動に柔軟に対応できる3PLサービスを提供することで、ムダな緊急輸送や在庫過剰を削減できます。
(6) グリーン物流への転換
環境規制強化を見据え、企業は脱炭素物流への投資を戦略に組み込むべきです。EVトラックやCNG車への更新、エコドライブ教育の徹底、倉庫への太陽光発電導入などでカーボンフットプリントを削減します。政府もグリーン物流認証制度を創設し、先進企業には税優遇や表彰を与えるといった奨励策が考えられます。環境対応は長期的に見ればエネルギー効率改善によるコスト削減にもつながりますし、欧米輸出市場での評価向上にも寄与します。
以上の戦略を総合的に実行することで、ベトナム物流業界は急成長期の波を乗りこなし、効率的かつ持続可能なシステムへ移行できるでしょう。政府のリーダーシップと民間のイノベーションの双方が求められます。
変革期にあるベトナム物流市場には、新たなビジネスチャンスも数多く存在します。
(1) Eコマース物流・ラストマイル配送
ベトナムのEC市場は急拡大しており、それを支える配送サービスの需要が爆発的に増えています。今後もオンライン購買層の拡大に伴い、宅配・ラストマイル専業のビジネスが有望です。すでに地場スタートアップのGHTKやGHN、GrabExpressなどが台頭していますが、さらなる効率化ニーズに応える新規参入の余地があります。例えば、宅配専用ボックス網やドローン配送サービスなど先端的モデルも将来的に検討可能です。特に地方農村部へのEC配送ネットワーク構築は未開拓市場であり、地方物流インフラと組み合わせた新ビジネスが期待されます。
(2) コールドチェーン(低温物流)
水産物・青果物の輸出国であるベトナムでは、コールドチェーンの需要が高まっています。国内消費向けでも冷凍食品や医薬品流通で低温物流への投資が進みつつありますが、まだ十分ではありません。今後、食品の安全志向や医薬品輸送の高度化により、温度管理型倉庫、冷蔵トラック、コールドラストマイル配送の市場が拡大するでしょう。外資・国内問わず、最新の冷凍技術やモニタリングシステムを持ち込める企業には大きなチャンスです。
(3) 物流不動産・物流施設開発
工業団地の拡大や小売流通網の高度化に伴い、各地で大型物流センターやハブ拠点への需要が増えています。グローバル投資家にとって、ベトナムの物流不動産は有望な投資先となっており、今後も土地取得や施設開発のビジネスが盛況でしょう。特にホーチミン・ハノイ近郊だけでなく第二都市圏(ダナンやカントー周辺)で近代的物流施設が不足しているため、そこに着目した開発は利益機会があります。また都市近郊のマイクロフルフィルメントセンター(小型自動倉庫)など、新コンセプト施設も求められるでしょう。
(4) デジタル物流サービス・プラットフォーム
ベトナムでも物流版Uberとも言える輸送マッチングプラットフォームや、SaaS型物流管理ソフトの需要が高まっています。実際にトラック輸送マッチングのLogivanや、AI最適化ソフトのAbivinなどスタートアップが登場しています。今後さらに多くのプレイヤーが参入し、市場が形成される見込みです。輸送・倉庫の可視化や在庫一元管理クラウドなど、DX需要に応えるサービスは引き続き有望です。海外の物流テック企業にとっても、ベトナムは成長市場として進出検討の価値があります。現地企業との協業による新サービス開発も盛んになるでしょう。
(5) 国際物流・越境EC支援
米中貿易摩擦や「チャイナプラスワン」により、生産拠点としてのベトナムの存在感が増しています。それに伴い、原材料や部品の輸入、製品の輸出を円滑に行う国際物流サービスの重要性が増大します。特にASEAN域内貿易や中国との往来で迅速なクロスボーダー物流が求められており、陸上国境物流や鉄道ユーラシア横断輸送など新たなルート開拓に商機があります。さらに欧米向け越境EC(例: AmazonやTemu経由の販売)の支援サービス、例えば海外向けフルフィルメントや返品物流代行なども需要が期待できます。ベトナム企業が海外市場に直接販売するケースが増えれば、それを支援するロジスティクスプロバイダーへのニーズが高まります。
(6) 環境対応・グリーン物流ビジネス
グリーン分野では、EVトラックの充電インフラ整備や、水素燃料電池トラックの実証、カーボンオフセットサービスなど新しいビジネスが考えられます。例えばヨーロッパの物流企業との連携で、CO2排出量を可視化し排出権取引に繋げるコンサルティング、あるいは輸送ルートの環境最適化提案サービスなどは今後重要になるでしょう。また中古トラックの電動化改造やグリーン認証取得支援もニッチながら需要が見込まれます。政府の脱炭素目標(2050年カーボンニュートラル)に沿って、グリーン物流市場は拡大するはずです。
(7) 業界再編・統合による投資チャンス
物流業界内でM&Aが活発化すれば、外資にとっても有望企業への出資や買収の機会が生まれます。例えば有力な国内物流企業を外資が戦略パートナーとして取り込む動きや、逆に複数の中小企業を束ねて統合することでスケールメリットを出す投資などが考えられます。将来的に規制が緩和されれば、海外物流大手によるベトナム企業の買収が解禁される可能性もあります。その際には非常に大きな市場争奪戦となり、投資ファンド等にもチャンスが訪れるでしょう。
このように、成長期のベトナム物流市場は多面的なビジネスチャンスに満ちています。スタートアップから大手まで、それぞれの強みを活かせる領域が存在し、新規参入者にも開かれたマーケットと言えます。ただし競争も年々激化するため、単に市場成長に乗るだけでなく、明確な差別化戦略や付加価値サービスを提供できる企業が成功すると考えられます。
ベトナム国内物流業界は、直近5年で急成長を遂げつつも高コストやインフラ制約など多くの課題を抱えていました。本報告で見てきたように、道路輸送偏重による非効率やDXの遅れ、人材不足といった問題に対し、政府と企業は改革に乗り出しています。諸外国との比較では、タイや日本の事例から学べる点も浮き彫りになりました。外資規制という特色ある環境下で、各企業はパートナー戦略や技術導入によって対応を模索しています。
今後10〜15年、ベトナム物流はインフラ近代化とデジタル革命によって劇的に進化するでしょう。それに伴い、市場規模拡大と競争激化が同時に進行します。この変化をチャンスと捉え、持続可能で効率的な物流網を構築できるかどうかが、ベトナム経済全体の競争力に直結します。政府の掲げる「2035年までにLPI世界40位以内」という目標は決して容易ではありませんが、適切な戦略実行により達成可能な射程にあります。
物流は「経済の血脈」とも呼ばれる基幹産業であり、その健全な発展は製造業・商業など他産業の繁栄を支える不可欠の要素です。ベトナム物流業界は数々の課題を克服しつつ、今まさに飛躍の時を迎えています。各主体が協調して現代化・効率化に取り組むことで、ベトナムは将来、東南アジアの物流ハブとしてさらなる地位向上を果たす可能性を秘めています。
- コラム
- 2025.06.05
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【速報】外国人のワークパーミット要件緩和の可能性について
最近、ベトナムの外国人ワークパーミット(就労許可)について、要件緩和が検討されています。まだ正式施行前のドラフト段階ですが、内務省(MoHA)が主体となって政令改正案を提出しており、現在パブリックコメントや他省庁の審査が行われています。
本稿では、改正案のドラフトについて重要ポイントに絞って解説します。あくまでドラフト段階であり、今後変更の可能性があることには注意が必要です。
既存の政令 152/2020/ND-CP と 70/2023/ND-CP を一本化・全面改正する内容であり、具体的には、以下の通りの改正が予定されています。
現在、ワークパーミットの申請手続きは、(ア)外国人雇用需要の事前報告、(イ)ワークパーミット申請(となっているところ、(ア)(イ)が一括申請に統合され、申請書の提出から10 営業日以内に許可されることになる予定であり、期間の大幅短縮が見込まれています(ドラフト22.2条)
ワークパーミットの付与に関する権限も明確化され、内務省か管轄の省の委員会のいずれかに申請することになります(ドラフト4条)。
オンライン申請についても導入予定となっており、全国どこからでも申請可能になることが期待されます。
いままでは、「大学卒業+3 年の実務経験」「実務経験5年間」などの実務要件や、専攻と職務の関連性が必須でしたが、改正案では、 特定重点分野(金融・AI・DX など)について実務経験要件が撤廃され大学卒業要件のみになることとなっています(ドラフト18.9条(b))。
これらの分野については人ニーズが多いのにも関わらず、実務経験が足りない人材が多く、改革が望まれていました。今回改正が実現すれば、これらのニーズにこたえる形となります。
最短だと 2025 年 の第3四半期での施行が見込まれます。施行までは政令Decree 152/2020(70/2023による改正内容を含む)が有効であり、特定重点分野の労働者であっても無許可就労の際の罰金や強制退去リスクは引き続き残っています。
内容については、手続統合・経験要件免除などは賛否が分かれており、国会法制局・労働総連盟が追加条件を付す可能性があります。
特定重点分野(金融・AI・DX など)に関するハイテク人材をベトナムに招聘する予定の企業は、改正発効後に申請すれば手続きが大幅に簡素化される可能性があるため、スケジュールを再調整するとコスト削減が期待できます。また、施行までに電子申請システムの準備をしておくことが望ましいです。
もっとも、施行の遅延や内容の修正の可能性があるため、現行の手続きと改正後の手続きに分けて期間・費用を試算し、招聘時期について対応を検討することが必要です。いずれにせよ、最新の情報をアップデートしていくことが必要になります。
- コラム
- 2025.06.04
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日本人医師がベトナムで診療を行うための条件
日本人医師がベトナムで診療を行うためには様々なハードルがあります。本稿では日本人医師がベトナムで診療行為を行うための条件について全体像を概説します。
①ベトナム管轄機関から発行された有効な診療許可証を有すること
日本の医師免許の承認手続き(診療法第29条)を行ったあと、ベトナムでの診療許可証の新規申請手続き(診療法の第30条)の順番に行います。
診療許可証は全国で有効で、5年更新制(診療法27条1項、2項)です。再訪する場合に再度の取得は不要ですが、勤務地が変わる場合には所在地保健局への通知が必要です。
②診療を登録したこと
診療法の第36条、第37条に定められた登録が必要です。
③診療法の第21条における診療用の言語条件を満たしていること。
④医療省の省長が定めた規定に従って、診療実行に健康状態を十分に有していること。
⑤診療法の第20条における診療実行の禁止に該当しないこと。
診療法の第19条3項により、外国人が以下の事由に該当する場合、上述の条件の①および②が免除されます。
a. 一時的な入国で人道的診療を実行するとき
b. 診療実習を含む医療教育協力を実施するとき
c. 専門的な診療技術を移転するとき
免除事由は以上のように、極めて例外的な場合に限られます。免除事由に該当しない場合、ベトナムで診療を実行するため、外国人は①~⑤の全ての条件を満たさないといけません。
(1)新法においては、原則として、診療の際に、流暢なベトナム語能力について試験を受け、合格承認を得る必要があります。
ただし、2031 年までは経過期間が設けられていて、その間は登録済みの医療通訳者を伴えば診療可とされています。
また、②の段階で日本語での診療を登録している場合であって、日本語を用いて日本語を使用できる患者にのみ診療を実施する場合には、医療通訳者も不要になります(外国語試験も不要)。
(2)②の段階で、英語での診療を含めて、登録している場合には、教育機関による流暢な英語能力の試験および合格承認が原則として必要になります。
(1) 提出書類:必要書類は、政令の37条、14条に規定があります。また、申請書や経歴書の様式は同政令の付録に記載があります。
(2) 提出先:勤務地を管轄する省保健局(Sở Y tế)又は保健省(MOH)の窓口へ提出することになります。
(3)処理期間:法律上は日本の免許承認とベトナムの免許申請の手続きはそれぞれ30日以内とされていますが、実際にはより長期間かかるとされています。
可能な手術は病院のライセンスの範囲内のみとなっており、特定技術リストに属する技術の移転の場合は病院が個別審査に通らないと施術できないことなどのハードルがあります。
以上のように、日本人医師がベトナムで手術等の医療行為を行うためには様々なハードルが存在します。手続きが複雑なため、実際に手続きを行う際は専門家に相談することが推奨されます。
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- 2025.05.19
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新民事判決執行法|2025年10月国会で可決予定の改正のポイント
ベトナムでは、民事裁判の判決や決定を実現するための民事執行制度が整備されています。もっとも、強制執行の実効性の低さや手続きの遅延、外国企業の場合に特有の問題点など課題が山積みになっています。
前回のコラム記事では現行民事判決執行法を概観しつつ、現行システムの問題点について述べました。
今回は、2025年10月に国会で可決される予定の新民事判決執行法の注目ポイントについて解説します。
2025年10月にベトナム国会で可決が予定されている新しい「民事判決執行法案」は、現行法を抜本的に見直すものであり、民事・経済判決の執行実効性を大幅に高める内容が盛り込まれています。新設条文は50条、改正条文は93条(現行条文の52%にあたります)にも及び、大幅な改正が予定されています。今回の法案は、ベトナム国内の執行実務における長年の課題(執行不能案件の多発、債務者による財産の隠匿、不透明な執行手続といった点)に対処するものであり、外国企業の間でも注目を集めています。
*あくまで草案段階であり、可決時期や内容は今後変更される可能性があります。
なお、もともと5月の第9回国会会議で意見聴取したうえで10月の第10回国会会議で採択される予定でしたが、10月に意見聴取・採択が同時に行われることとなりました。
改正の直接的な契機となったのは、司法省・最高人民法院がまとめた2023年の報告書で明らかにされた執行率の地域格差と執行不能案件の増加傾向です。とくに、紛争の増加に伴い、判決が確定しても実際に執行されず、債権者が経済的な救済を受けられないケースが目立っていました。
また、デジタル化社会への対応や国際仲裁判断の承認・執行に関する条項の不足など、法制度自体の近代化の遅れが目立っていました。このような状況を受けて、司法省は法全体の構造見直しを計画しており、単なる部分改正ではなく全面的な刷新として、2025年10月の国会可決に向けて新法案の策定が進められています。
新法案の大きな特徴の一つが、民事執行手続における「執行合意制度」の導入です。これは、債権者と債務者が執行方法や支払条件などについて事前に合意し、その合意内容が法や社会倫理に反していない場合には、執行機関がその合意に基づいて執行することを認める制度です。
たとえば、分割払いや延納、物納などによる履行方法を合意で定めたとき、従来であれば裁判所や執行局の裁量に委ねられていたところが、新法では法的拘束力を持つ合意として正式に執行の根拠となります。これにより、債権者側は迅速な回収の可能性が高まり、債務者側にとっても支払い条件を柔軟に設定することが可能となります。
この改正が実現すれば、当事者自治の尊重と債権の実効性確保の両立が可能となります。
現行法では、債務者が自身の財産状況を執行機関に対してどこまで開示すべきか明文化されておらず、実務上は任意の情報提供にとどまっていました。これが、財産隠匿や名義財産の乱用を誘発し、執行不能の大きな要因となっていました。
新法案では、債務者に対して明確な開示義務が課され、財産、収入、債権、口座、動産・不動産等について、執行機関の要求に応じて正確な情報を提出しなければならないことが定められます。債務者が執行官や執行機関の職務を妨害したり、資産を隠匿または破壊したり、執行を妨害する行為を行った場合、損害賠償責任を負い、行政罰や刑事罰の対象となります。
資産の保全を命じられた債務者は、執行の過程において執行官の指示にしたがい、協力し、適切に対応することを約束しなければなりません。判決に従わない場合、債務者は、執行確保措置、行政制裁、または刑事責任追及の対象となる可能性があります。
これらは、企業間債権回収における交渉力の非対称性を是正する強力なツールとなると見込まれています。
新法では、債権者が債務者の資産状況に関して、自ら積極的に情報を収集することができるようになります。これには、国家機関への情報開示請求や、司法省登録の民間執行補助者(バイリフ)を通じた調査依頼の権限が含まれます。
特に、税務署や銀行、不動産登記所などからの情報取得が法的に保証されることにより、債権者側が持つ情報の非対称性が軽減され、的確かつ迅速な差押・売却手続きが可能となることが期待されています。
このように、執行機関に全面的に依存せずとも債権を回収できる可能性が高まります。
また、債権者については、すでに法的効力を有する判決や決定に対して、破棄または再審手続を求めて裁判所に異議申立てを請求する権利が新設されます。判決執行機関に対して、資産の商業評価または現場鑑定を求めたり、執行費用に充当する形で資産の受け取りを申し出たり、執行費用の立替を行うことも可能です。
新法案では、民事執行官および執行局の違法行為や過失による損害についても明確に責任が規定されます。これまで問題となっていた行政裁量の濫用について、行政監督の手続や懲戒規定が強化されます。
たとえば、執行命令の不実行や、差押対象財産の評価ミス、売却遅延などによって債権者に損害が発生した場合、執行官個人または所属組織に対して責任を問う制度が導入される見通しです。
また、執行機関が債務者と共謀して不当な手続を行った場合、関係職員は刑事責任を問われ、司法省の登録から抹消される可能性もあります。このような厳格な監督体制により、執行制度全体の信頼性を担保するねらいがありそうです。
現行法でも、執行不能と認定された案件については、6か月ごとに執行可能性の再調査が義務付けられていますが、その実効性には限界があります。新法では、執行不能の判定基準がより客観的に定められ、再調査の実施頻度や方法についても厳格な手続きが設けられる予定です。
さらに、執行不能とされた事案に関しては、執行局がその理由、回収不能額、再調査の進捗状況などをオンライン上で公開する制度が導入される予定(詳細は施行細則で定められる見込み)であり、債権者が執行状況をタイムリーに把握することが可能となります。
2025年新法案は、民事執行の制度設計において①債権者保護の強化、②情報非対称性の是正、③執行の柔軟性と透明性の向上という三つの軸を明確にした点で画期的です。
本法案は、ベトナムの民事執行制度を、これまでの「遅い」「実効性がない」というイメージから脱却させるための第一歩として評価されています。
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- 2025.05.09
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首相公電56号|ベトナム行政手続の大幅改革
2025年5月4日、ファム・ミン・チン首相が行政手続(TTHC)の抜本改革を加速する首相公電第56号(56/CĐ-TTg)を発令しました。本公電(電報)は、政府決議66号(2025年3月)の具体化として、2025~2026年にかけて投資・事業に関する行政手続や参入条件を大幅に簡素化・迅速化することを各省庁・地方政府に指示する内容です。
改革の原動力となったのは、依然として煩雑な行政手続や不透明な許認可制度が、外国企業の参入障壁になっていることです。FDI(海外直接投資・外国直接投資)のさらなる拡大には、手続の明確化・迅速化が不可欠と判断され、数値目標と期限を明示した改革が決定されました。
掲げられた目標としては、①投資・事業許認可条件を30%削減すること、②手続処理時間を30%短縮すること、③6月末までに行政手続を100%オンライン化することです。
今回の中心施策は、各省庁が所管する事業条件(許認可や資格要件など)を少なくとも30%削減するというものです。条件付き投資リストに該当しない分野では、不要な手続は原則撤廃される見込みで、地方で慣行的に要求されてきた不必要な許認可も対象になります。業種横断的な不要な重複許可も排除され、実務負担の軽減が期待されます。
改革の象徴的な施策の一つが、外国企業の設立に必須となる投資登録証明書(IRC)および企業登録証明書(ERC)の発給期間の短縮です。現在、IRCは最大15営業日、ERCは3営業日と定められていますが、今後はそれぞれ5営業日・1営業日以内に短縮することが目標とされています。法改正ではなく、運用改善やデジタル化により実現を図るとのことです。
政府は、2025年6月末までに全行政手続を国家公共サービス・ポータルで100%オンライン化することを掲げています。申請、進捗確認、フィードバックまで一貫してオンラインで完結できる体制を整え、行政手続の統一・透明化を図ります。これにより、外国企業にとっての地理的・言語的な障壁が大幅に緩和され、利便性が向上します。
「首相公電」は法令ではなく行政文書であって、法規範ではありません。しかし、行政組織内部では強い拘束力を持ち、各省庁・地方政府は基本的にこれに従う必要があります。とくに今回のように、数値目標と期限を明示した公電は、法令と同等の実効力を持つとされており、各機関には関連法令の改正や通達の整備が求められることになります。
今回の改革は、外資系企業にとって新規参入の法的障壁を大幅に下げる「追い風」となります。また、手続の簡素化・短縮化により、事業立ち上げのスピードが加速します。さらに、オンライン化により、国外にいながらの申請・管理も可能となり、法律事務所・コンサル各社等の支援ビジネスにとっても複数案件の同時処理が可能になるなど業務効率が向上します。
今回の首相公電の全体的なスケジュール感は以下のようになります。
5/8まで: 遅延している8中央省庁・11地方に是正報告を厳命
6/30まで: オンライン化完了・条件削減案の具体化
2025年末: 省境越えオンライン手続『1省1ポータル』を全国展開
2026年末: 不要な投資・事業条件を撤廃
首相公電56号は、ベトナムが「投資しやすい国」へと舵を切った明確なシグナルです。日本企業にとっても、今後の事業戦略や進出判断において、この改革の動向を適切に把握し、制度変更に対応することが重要になりそうです。
- コラム
- 2025.05.06
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ベトナム未成年司法法を解説|2026施行・少年事件の新制度
ベトナムでは2024年11月、未成年者の刑事司法に関する初の包括的な基本法となる「未成年司法法2024(Luật Tư pháp người chưa thành niên 2024)」(法律番号59/2024/QH15)が国会で可決・成立しました。
本法は未成年者(18歳未満)の権利と最善の利益を保護し、その年齢・発達に応じた適切な手続を確保することを目的としています。犯罪を犯した少年に対しては、処罰よりも教育と更生を重視し、社会復帰を支援する人道的・人権尊重の姿勢が貫かれています。
以下では、本法の施行時期、主要な内容、従来の関連法令からの変更点、そして実務および家庭・社会への影響について解説します。
「未成年司法法2024」は2024年11月30日の第15期国会第8会期において96%以上の賛成多数で可決されました。施行日は2026年1月1日と定められており、それまでに関係機関は本法の実施準備を進めることになります。
ただし、本法の一部規定については施行日が段階的に設定されています。
例えば、第139条および第162条第1・2項の規定は2028年1月1日から施行される予定です。一方で、本法公布日に直ちに適用される経過規定も存在します。第179条2項により、未成年者に有利な新しい減免措置(警告、罰金、執行猶予付き刑など、本法第VI章の規定)は公布日(2024年12月2日)から適用できるとされており、現在進行中の事件にも直ちに反映されることとなります。これにより、施行前であっても未成年被告に有利な扱いが先行して実現されています。
本法の対象となる「未成年者」とは18歳未満の者を指します(「未成年」(người chưa thành niên)はベトナム民法等で18歳未満と定義) 。
本法は、未成年者が関与するあらゆる刑事手続の段階(捜査・起訴から裁判、刑の執行、社会復帰まで)を網羅し、また未成年者が被疑者・被告人だけでなく被害者や証人である場合の手続も含めて包括的に規定しています。
さらに、未成年者に関わる司法活動に携わる機関・組織・個人・家庭の任務・責任についても定めており、家庭や地域社会も含めた包括的な枠組みを構築しています。手続全般を通じて、簡潔で親しみやすい言葉遣いで未成年当事者に権利義務や手続内容を説明し、未成年者のプライバシーを保護することが求められるなど、未成年者の心理や発達段階に配慮した手続原則が貫かれています。
例えば、本法第6条では手続が未成年者の年齢・心理にふさわしく簡易で親しみやすいものでなければならないことが明記されており、第7条では少数民族出身者や弱い立場に置かれた未成年者への配慮も規定されています。
本法の目玉となるのが、未成年者に対する「処分の転換(ダイバージョン)制度」の創設です。
ダイバージョンとは、犯罪を犯した少年に対し正式な刑事裁判・処罰を行わずに、更生のための代替措置を講じて早期に社会へ再統合させる手法です。本法は未成年者の更生に「第二の機会」を与える人道的アプローチとしてダイバージョンを位置付けており、第36条に具体的な12種類の転換措置を規定しています。それらは以下の通りです。
1. 訓戒(戒告) – 口頭または書面による厳重注意
2. 被害者への謝罪 – 被害者に対し直接謝罪を行う
3. 損害賠償 – 被害者の被害に対する賠償を行う
4. 地域社会での教育指導 – 居住地のコミューン(村・町)等において一定期間、行動観察下で教育指導を受ける
5. 家庭内での監督(家庭矯正) – 保護者等による監督下で生活させ、矯正する
6. 外出時間の制限 – 夜間など特定の時間帯の外出・行動を制限する
7. 有害な人物との接触禁止 – 再犯を誘発するおそれのある人物との接触を禁じる
8. 有害な場所への立入禁止 – 再犯を誘発するおそれのある場所への出入りを禁じる
9. 教育・職業訓練プログラムへの参加 – 更生のための教育プログラムや職業訓練を受講させる
10. 心理治療・カウンセリングの受講 – 必要に応じカウンセリングや治療プログラムを受けさせる
11. 社会奉仕活動 – 一定時間のボランティア活動や地域奉仕を課す
12. 矯正施設での教育 – 「教育センター」(矯正学校)と呼ばれる未成年者更生施設において必要な教育を行う
以上の措置はいずれも刑罰ではなく教育的・保護的措置であり、未成年者が「犯罪者」としての烙印を押されずに自らの過ちを修復できるよう配慮されたものです。
適用にあたっては違反行為の悪質性や未成年者の年齢・環境に応じて個別に選択され、処遇が過度に甘くなりすぎないよう要件や手続も厳格に定められています。
たとえば、適用対象となるケースは法律上限定されており、16~17歳で犯した比較的軽微または重くない犯罪や、14~15歳で犯した重大だが極めて悪質ではない犯罪(刑法第123条の特定の重罪を除く)など、一定の条件を満たす場合に限られます。
また共犯事件で従属的な役割しか果たしていない少年なども転換措置の対象となり得ます。転換措置を適用する際には、所定の手続機関(司法当局)の判断と承認が必要であり、未成年者が課された義務に違反した場合の責任も規定されるなど、制度の乱用防止と教育的効果の両立が図られています。
ダイバージョン(転換措置)の適用によって フォーマルな刑事手続を回避できない場合、すなわち悪質性が高く教育措置のみでは再犯防止が困難な場合には、通常の刑罰を科すこともあり得ます。もっとも、本法は未成年者に対する刑罰について、成人とは異なる特別の枠組みを設けています。
まず、未成年者に科しうる刑罰の種類は4種類に限定されました。すなわち、①警告(Cảnh cáo)、②罰金、③拘禁しない更生措置(Cải tạo không giam giữ:社会内更生、いわゆる保護観察付きの更生指導)、および④有期懲役刑のみです。
未成年者には終身刑および死刑は科すことができないことが明文化されており、これは従来の刑法の規定を引き継いだものです(ベトナム刑法でも18歳未満への死刑適用は禁止されています)。
本法はさらに、未成年者への刑罰はできる限り軽いものにとどめるべきとする原則を打ち出しています。
裁判所はまず警告や罰金、社会内更生などの軽い措置を優先し、それでは不十分な場合に限って懲役刑を検討することとされています。仮に懲役刑が必要と判断される場合でも、執行猶予付きとすることが優先されるほか、量刑にあたっては同種の犯罪を犯した成人よりも大幅に軽い刑期に抑えなければならないと定められました。このように、本法は未成年者に対する刑罰の適用を最後の手段と位置づけ、教育的措置で十分対応できる限りは刑罰を避ける方針を明確化しています。刑罰を科す場合にも将来の更生に配慮した制限が加えられており、これは未成年者の改善更生を最優先する理念に基づくものです。
本法は、未成年者が被疑者・被告人である場合はもちろん、被害者や証人である場合についても、それぞれ特別の手続保障を設けています。
まず、未成年者が被疑者・被告人として刑事手続に関与する場合には、従来の刑事訴訟法2015年の権利(黙秘権や弁護人依頼権など)に加えて、以下のような追加的権利が明文化されました。
法定代理人等の付添い:親権者や後見人など法定代理人が手続に立ち会い、未成年者の利益を代表する権利。
専門家の支援を受ける権利:必要に応じて医療・心理・教育・社会福祉の専門家(ソーシャルワーカー等)から支援を受けられる権利。
やさしい言葉による情報提供:手続の進行や権利義務について、簡潔で平易な言葉により速やかに説明を受ける権利。
プライバシーの保護:事件処理の全過程を通じて未成年者の個人情報・プライバシーが保護される権利。報道や記録公開の制限も含まれます。
法律扶助を受ける権利:経済的事情に応じて国選弁護人の選任や無料の法律相談を受けられる権利。
さらに未成年の被疑者・被告人には、ダイバージョンの適用を申請する権利、手続中に社会福祉担当者の支援を受ける権利、そしてダイバージョン措置の決定に不服申立てをする権利も付与されています。これらは本法で新たに追加された権利であり、未成年者が自ら教育的措置への切替えを求めたり、福祉的サポートを活用したりできるようにすることで、手続の中で最大限にその更生の機会を保障するものです。
一方、未成年者が被害者または証人となる場合にも、本法は別個の配慮を定めています。具体的には、被害に遭った未成年者や事件の証人となった未少年が二次被害を受けないよう、プライバシー保護や心理的ケアの提供、優しい言葉での事情聴取、証人保護プログラムの活用などが規定されていると考えられます(※詳細条文は本法該当箇所に規定)。これにより、手続に関与する未成年者のあらゆる立場において、その心身に配慮した司法上の保護が図られています。
また、本法は「未成年者に優しい裁判手続(phiên tòa thân thiện)」の概念を導入しています。たとえば、公判においては裁判官が通常の法服ではなく行政用の平服を着用し、検察官も検察の制服着用を避けた穏やかな服装で臨むこととされています。これは法廷の厳粛さを和らげ、未成年の被告人・証人が萎縮しない雰囲気を作るための配慮です。このほか、法廷内のレイアウトや呼称の工夫、休憩時間や非公開審理の柔軟な実施など、未成年者の心理的負担を軽減しつつ権利保護と真相解明を両立させる工夫が盛り込まれていると考えられます。実際、本法は未成年者の公判は公開法廷ではなく「親しみやすい審理手続」で行うと規定しており(第15条などに規定がある模様)、傍聴人の制限や法廷環境の調整が行われることになります。これも国際的に提唱される「少年に優しい司法(child-friendly justice)」の理念を体現したものです。
本法制定以前、ベトナムにおける未成年者の刑事手続は2015年刑事訴訟法(Bộ luật Tố tụng Hình sự 2015)に一定の特則章が設けられている程度で、包括的な単独法は存在しませんでした。
刑法や刑事訴訟法、刑の執行に関する法律、児童保護法(2016年児童法)などに点在する規定で少年事件への対応がなされていましたが、それらは断片的で実務上の不備も指摘されていました。今回制定された未成年司法法2024は、未成年者の刑事手続全般を網羅する初の統一法規として位置付けられます。本法の成立は、国連子どもの権利条約で求められる「少年司法の確立」に応えるものであり、ベトナム司法の近代化・人道化の一環と言えます。以下に、本法による主な変更点とその法体系上の意義をまとめます。
本法は10章179条からなり、未成年者の捜査・起訴・裁判・矯正・再社会化まで一貫した規定を設けました。
従来は刑事訴訟法や関連法に散在していた少年規定を一元化し、体系的・詳細なルールを整備した点で画期的です。これに伴い、本法附則(第177条)で刑法、刑事訴訟法、刑事判決執行法、法律扶助法、民事執行法、児童法、住居法といった関連法の該当条項が改正・削除されています。つまり本法は**未成年者分野の特別法(ルールの特則)**として、関連法体系を書き換える役割を果たしています。
前述のとおり、教育的措置への転換制度(12種類)が初めて法律上明文化されました。
2015年刑事訴訟法にはこうした正式な転換制度はなく、限られたケースで不起訴処分に付して保護観察を行う程度でした。本法により、一定の要件下で起訴や有罪判決を経ずに更生プログラムへ繋げることが可能となり、非行少年の社会復帰が柔軟に図れるようになります。これは日本の少年法における保護処分に類似する制度であり、未成年者の将来を考慮した寛大かつ機能的な仕組みです。
未成年者に対する逮捕・勾留などの身体拘束や強制処分について、本法は厳格な運用制限を設けました。
具体的には、刑事訴訟法上の身体拘束措置(緊急逮捕、通常逮捕、留置、勾留)や監督措置(電子監視、保護者等による監督、保釈、保証金提出、居住地からの外出禁止、出国禁止)について未成年者へ適用できる場合を絞り込み、原則として身体拘束は最後の手段としています。
代替手段として、電子タグ等による在宅監視や保護者による身元引受を積極的に活用し、勾留期間も必要最小限に抑えるよう規定されています。これにより、従来は成人とほぼ同様に適用されていた未成年者の身柄拘束が、より慎重に運用されることになります。
未成年者事件の処理は迅速に行うべきとする観点から、捜査・起訴・裁判の各段階の期間が原則として成人の場合の半分に短縮されました。
例えば捜査段階の勾留期間や起訴までの準備期間、公判の準備期間などが成人事件の法定期間の2分の1を上限とされています(ただし事件が複雑な場合は例外あり)。従来、未成年者事件でも明確な期間短縮規定はなく手続の長期化が問題となることもありましたが、本法により迅速な手続進行が法的に義務付けられました。これにより、少年の矯正が長引かず適時になされることが期待されます。
本法は、未成年被告人と成人被告人が同一事件にいる場合には、事件を分割し未成年者部分を独立処理することを明示しました(第143条1項)。
従来の実務でも必要に応じ分離公判は行われてきましたが、本法で義務化されたことで、未成年者は成人と切り離した環境で審理を受けられるようになります。また、未成年被疑者・被告人用の手続と未成年被害者・証人用の手続を分けて規定し、それぞれに適した配慮を講じた点も新しい特徴です。
さらに先述の「フレンドリー裁判」の導入や匿名報道の徹底など、少年事件審理の専門化が進みました。これは司法当局内における少年専門部門の強化とも連動し、少年審判を扱う裁判官・検察官・調査官の専門教育の必要性も高まっています。
本法は、刑務所で刑に服することになった未成年受刑者についても特別の処遇規定を設けました。
未成年受刑者は原則として成人受刑者と分離して収容され、①少年専用の刑務所、②一般刑務所内の少年専用区画、③一般刑務所内の少年専用監房のいずれかの形態で隔離して管理されます。そして施設内では教育の継続や職業訓練の機会、医療やカウンセリングの提供、文化・娯楽活動の保証、家族との面会交流など、健全な更生に必要な環境を整えるよう義務付けています。
従来も省令等で少年受刑者の分離収容は行われていましたが、本法で法定化されたことで一層の充実が見込まれます。また、刑の早期執行猶予や仮釈放、前科の消滅(赦免)について未成年者に有利な特則を設けており、これらは前述のとおり一部は既に施行済みです。これらの規定により、刑事司法の最終段階においても未成年者の更生と早期の社会復帰が制度的に支援されることになります。
本法は未成年者の健全育成には家庭や地域社会の連携が不可欠との立場から、家庭・コミュニティの責務を条文上明確にしました。例えば、保護者や家族には日常的に子どもの教育・監督を行い、非行を防止する義務が課され、地域の各種団体(ベトナム祖国戦線や婦人連合会、青年団等)も少年の立ち直り支援や啓発活動に協力する責務が規定されています。これは従来の法律には明確でなかった点で、少年犯罪の防止と再犯抑止に向けた社会総がかりの取組みを促進するものです。
以上のように、未成年司法法2024は従来の刑事訴訟法2015等を土台としつつ、その上に未成年者特有の手続・処遇規定を大幅に付加した特別法と言えます。
本法第2条の規定により、未成年者の事件処理においては本法の定めが優先適用され、本法に定めのない事項のみ刑事訴訟法や刑法等の一般法規を準用する建付けになっています。これにより、法体系上は一般法と特別法の関係が整理され、実務家は本法をまず参照した上で不足する部分を従来法で補う形で運用することになります。
ベトナムは1990年に国連子どもの権利条約を批准していますが、本法制定はその条約上の義務履行および国内少年司法制度の改革という観点でも大きな前進であり、法体系の整合性と充実度が飛躍的に高まりました。
新法の制定・施行は、ベトナムの刑事司法実務にさまざまな変化をもたらすことが予想されます。また、未成年者を育てる家庭や社会にも一定の影響を及ぼすでしょう。
警察・検察をはじめ捜査機関は、本法に対応して新たな運用手順を整備する必要があります。
まず、未成年者と成人が関与する事件では捜査段階から事件ファイルを分離し、少年専用の手続に乗せることが義務化されたため、事案の分割送致や証拠の共有に関する内部手続の変更が求められます。
さらに、身柄拘束を最小限に抑える運用への転換も実務上重要です。本法では未成年者について逮捕・勾留よりも保護者引受や電子監視などの代替措置を優先するよう定めているため、捜査当局は積極的に保釈や在宅観護を検討し、少年を拘禁しないまま調査を進めるケースが増えるとみられます。
これに伴い、捜査段階から社会福祉担当者(ソーシャルワーカー)や児童心理の専門家と連携し、未成年者の状況を評価・支援する体制構築も求められるでしょう。本法は手続の各場面でソーシャルワーカーの関与を想定しており、警察にとっても福祉機関との協働が不可欠になります。
検察官にも変化が及びます。起訴・不起訴の判断において、本法の転換措置の制度を念頭に置いた処理が必要となります。
すなわち、証拠が揃ったから直ちに起訴という従来の画一的対応ではなく、未成年者の立ち直り可能性や犯罪の性質を勘案して敢えて不起訴とし、適切な更生プログラムへ委ねるといった選択肢も考慮することになります。
これは検察官にとって新たな裁量判断事項となり、各地で運用基準の整備や教育が必要となるでしょう。
また、手続期間の短縮規定に対応して迅速な捜査・起訴処理が求められるため、捜査機関・検察はいわば少年事件を最優先で処理する体制を作る必要があります。実務上、証拠収集や起訴状作成のタイムラインを成人事件以上にタイトに管理しなければならず、組織として効率化策が検討されるでしょう。一方で、未成年事件の処理が迅速化すれば、長期化による証拠散逸や少年の更生遅延を防ぐ効果が期待され、捜査機関にとってもメリットとなり得ます。
裁判所にも本法施行によって運用面での準備が求められます。
まず、未成年者事件は成人事件と別個の審理手続となるため、裁判所は少年事件専門の部門や担当者を明確に指定する必要があります。すでにベトナムでは一部で「家庭・未成年法廷」のモデルが試行されていますが、本法のもとで全国的に少年事件を扱う専任裁判官や調査官の配置が進む可能性があります。裁判官・職員には児童心理や教育、更生プログラムに関する研修が施され、専門知識をもって審理に当たる体制が強化されるでしょう。
公判の進行方法も変化します。本法の理念に従い、裁判所は未成年者に配慮した親しみやすい法廷環境を整える義務を負います。
具体的には、従来フォーマルだった法廷での呼称・服装を柔軟にし、可能な限り非公開やビデオリンク出廷など少年の負担軽減策を講じることが考えられます。証言や被告人質問の際には専門家の助言を得て優しい言葉で語りかける、必要に応じて休憩を入れる、傍聴を制限する、といった運用が増えるでしょう。
判決においても、本法に基づき成人より軽い量刑が義務付けられているため、裁判官は量刑理由で未成年者の将来や更生環境について言及し、執行猶予や保護観察付き判決を積極的に活用すると思われます。これは量刑実務の大きな変化であり、裁判官は再犯防止と更生可能性のバランスをより慎重に判断することになります。
矯正当局(公安省刑執行機関)も、本法施行までに未成年受刑者の処遇改善を進める必要があります。
本法は少年受刑者の分離収容と教育的処遇を義務付けました。そのため、現行の刑務所システム内で未成年者専用の区域や施設を整備し、教育プログラムや職業訓練の実施、人員配置などハード・ソフト両面の準備が求められます。特に学校教育の継続や技能訓練の提供は重要で、教育省など他機関との連携も視野に入るでしょう。
また、家族との面会交流を促進し社会復帰を支える方策も強調されています。これにより、単に刑を執行するだけでなく、出所後を見据えた矯正が行われることになります。未成年受刑者の早期仮釈放や執行猶予付与も拡大する可能性があり(実際、本法の有利規定は既に適用開始)、恩赦制度の運用にも影響するでしょう。
本法は家庭や地域コミュニティにも一定の責任と役割を期待しています。
保護者や家族は少年の第一の教育者と位置付けられ、日頃からのしつけや見守りが再確認されました。仮に子が非行に走った場合でも、保護者は手続きを通じて子の更生に主体的に関与することが求められます。例えば、調べや裁判への付添いは法的義務となり、転換措置として課された家庭内監督や被害者への謝罪にも保護者の協力が欠かせません。
これにより、家庭は自らの責任として少年の更生を支える役割を果たすことになります。家庭環境が問題の一因であれば、当局は必要に応じて家庭訪問や福祉介入を行い、改善を促すでしょう。このように本法の運用を通じて、各家庭でのしつけや教育の重要性が改めて認識され、ひいては家庭環境の改善につながる政策的効果も期待されます。
地域社会や民間団体の関与も強調されています。婦人連合会や青年団などの社会団体は、本法上その構成員(婦人や青年)に対し少年の更生支援や非行防止の啓発を行う責務があります。例えば、地域のボランティア活動への参加やカウンセリング提供、被害者支援など、民間のリソースを活用した支援策が広がる可能性があります。また学校や地域の青少年団体が警察と協力して非行の早期発見・介入を行う仕組みも考えられます。
これはベトナム社会における「全社会で子どもを守り育てる」意識の醸成につながり、長期的には青少年犯罪の予防に寄与するでしょう。
総じて、未成年司法法2024の施行により、ベトナムの少年司法は制度面・運用面で大きく前進することになります。
司法関係者にとっては新たな法律知識と運用対応が求められますが、それによって未成年者の更生可能性が最大限引き出される制度が整う意義は大きいと言えます。家庭や社会も巻き込んだ包括的なアプローチにより、少年事件への向き合い方が改革されるでしょう。本法は日本の少年法制とも共通する理念を持ちつつベトナムの実情に即した独自制度を設けています。
ベトナムの日系企業関係者にとってはあまり身近に感じることは少ない法領域ではあると思いますが、本法の動向はベトナムでのコンプライアンスや社会貢献活動を考える上で参考になる部分もあるかと思います。少年の健全育成と犯罪防止は国境を超えた共通課題であり、ベトナムにおける本法の施行と運用の成果が注目されます。
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- 2025.05.05
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ベトナム労働法過去記事まとめ
ベトナム労働法に関する過去の記事を項目ごとに整理しまとめ直しました。
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・2024.03.17 【Q&A記事】ベトナム労働法の重要点整理
・2021.02.13 【Q&A記事】ベトナム新労働法(2021年)の細目を規定する新政令について(セクハラ、懲戒手続、試用期間)
*今後公開予定
・2022.08.25 【コラム記事】労働契約の締結権者
・2022.06.30 【コラム記事】労働変更状況の報告に関わる規定の補充
・2021.05.17 【Q&A記事】労働契約の締結にあたって労働契約書の締結が必要か、労働契約において規定しなければならないことは何か
*今後公開予定
・2024.08.22 【コラム記事】有期労働契約の期間満了での終了について
・2024.08.22 【Q&A記事】有期労働契約の期間満了での終了の手続・支払うべき手当
・2021.05.17 【Q&A記事】有期労働契約の法定期間と締結の際の注意点
・2021.10.25 【Q&A記事】ベトナムでもパートタイム労働者を使用することは可能か
・2021.01.28 【Q&A記事】ベトナムにおけるパートタイム労働者について
・2021.05.14 【Q&A記事】試用期間の終了時にしなければならないこと、労働契約を締結しない場合にどうすべきか
・2021.05.14 【Q&A記事】試用期間中の契約をどうするか
・2021.05.14 【Q&A記事】試用期間まとめ
・2021.02.02 【Q&A記事】試用期間の内容
・2017.09.11 【Q&A記事】試用期間中の退職手当の取り扱い
・2016.04.25 【Q&A記事】試用期間中の有給休暇
・2023.05.08 【コラム記事】就業規則の登録手続
・2021.11.15 【Q&A記事】ベトナムの就業規則について
*今後公開予定。
・2023.02.13 【Q&A記事】シフト制勤務について
・2023.01.04 【コラム記事】2022年の時間外労働時間の上限引き上げ措置終了について
・2022.10.25 【Q&A記事】ベトナム法令上の労働時間について
・2022.05.24 【コラム記事】残業時間の引き上げについて
・2021.06.26 【Q&A記事】労働時間に含む休憩時間の規定
・2021.05.10 【Q&A記事】時間外労働について
・2023.01.11 【コラム記事】試用期間中の有給休暇について
・2021.05.10 【Q&A記事】慶弔休暇について
・2021.05.10 【Q&A記事】年次有給休暇について
・2021.05.10 【Q&A記事】ベトナムの法定休日について
・2024.07. 03 【コラム記事】2024年7月1日からの最低賃金の変更について
・2023.06.06 【Q&A記事】停電で工場が休業した場合の賃金
・2023.05.16 【コラム記事】公務員の基礎賃金(最低賃金)の増額を定める2023施行の政令
・2021.11.08 【Q&A記事】賞与に関する規制
・2021.11.01 【Q&A記事】給与の天引きが可能か
・2021.11.01 【Q&A記事】労働者が休業する場合の給与
・2016.08.25 【Q&A記事】最低賃金の基礎となる「賃金」とは
・2021.10.25 【Q&A記事】労働者の異動に法令上の制限があるか
(1)自動終了事由
*今後公開予定
(2)労働者による一方的解除
*今後公開予定
(3)使用者による一方的解除
・2021.11.08 【Q&A記事】無断欠勤する従業員の労働契約の解除
(4)整理解雇
・2021.10.01 【Q&A記事】ベトナムで経済的理由や組織再編によるリストラ(整理解雇)は可能か
(5)懲戒及び損害賠償
・2023.05.04 【Q&A記事】従業員が会社に与えた損害賠償の手続
・2021.11.15 【Q&A記事】懲戒処分の具体的な手続き
・2021.11.15 【Q&A記事】懲戒処分について概論
(6)会社側の手続きに関して
・2023.02.02 【コラム記事】労働者が退職時に行うべき会社側の手続き
・2025.06.12 【コラム記事】労働者の退職時に会社が回収すべき書類
(7)定年
*今後公開予定
・2025.02.04 【コラム記事】ベトナム社会保険の年金制度:外国人労働者の受給条件と一時給付金
・2024.06.12 【コラム記事】日本人従業員のベトナム入国から労働契約締結までの法的手続の概要
・2024.03.29 【Q&A記事】労働許可証(WP)未取得の罰則
・2023.10.14 【コラム記事】2023年施行の政令の改正内容
・2022.06.03 【Q&A記事】30日以内、3回以内の出張の場合の労働許可証の扱い
・2022.02.16 【コラム記事】外国人労働者の強制社会保険料の引き上げについて
・2021.11.15 【Q&A記事】外国人労働者の社会保険料の負担
・2021.11.15 【Q&A記事】ベトナムで就労する外国人労働者の条件
・2021.09.27 【コラム記事】労働許可証の取得要件
・2016.10.03 【Q&A記事】現地法人代表者のワークパーミット取得の際、ERC上の代表者は修正済みである必要があるか
・2022.11.03 【Q&A記事】産休についてまとめ
・2022.11.04 【コラム記事】女性労働者・未成年労働者・高齢労働者の特別規定について
・2021.05.20 【Q&A記事】妊娠中、育児中の女性労働者の保護
・2021.05.20 【Q&A記事】ベトナムの産休・育休制度
・2022.07.20 【Q&A記事】労働者が2社以上で働く場合の基礎控除・扶養控除・社会保険の取り扱い
・2021.05.24 【Q&A記事】ベトナムにおける傷病手当制度
・2021.05.24 【Q&A記事】ベトナムにおける労災制度
・2021.04.09 【Q&A記事】ベトナムの傷病休暇と労働災害の概要
・2021.11.08 【Q&A記事】健康診断を受けさせる義務について
*今後公開予定
・2025.04.23 【Q&A記事】雇用代行制度の位置づけ、法的問題点
・2025.04.21 【コラム記事】2025年7月1日施行の新ベトナム労働組合法のポイント
・2021.11.08 【Q&A記事】社内に労働組合なくても労働組合費の支払いが必要か
・2021.01.06 【Q&A記事】ベトナムにおける「使用者」と、労働組合に加入が禁止される労働者
*今後公開予定
*今後公開予定
・2019.10.01 【Q&A記事】労働関連で企業が作成しなければならない書類
*今後公開予定
*今後公開予定
*今後公開予定
・2019.09.03 【Q&A記事】本店と支店の労務管理の相違
・2023.01.31 【Q&A記事】職場での労働安全衛生教育について
*今後公開予定
・2020.12.08 【Q&A記事】ベトナムにおける兵役、兵役中の労働者の取り扱い
・2024.12.14 【Q&A記事】 ベトナムでのインターン受け入れ:労働契約かインターンシップ合意書か
*今後公開予定
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ベトナム「データ法」解説|2025 年7月施行と企業対応
ベトナムでは、急速なデジタル化に対応するため、2024年11月に「データ法(Law No. 60/2024/QH15)」が国会で可決されました。本法は2025年7月1日に施行予定であり、デジタルデータに関わる広範な事項について初めて包括的に規律するものです。
本稿では、データ法の制定背景、内容、企業に与える影響、今後の見通しについて整理し、最後に日本企業が取るべき実務対応を提案します。
本法制定の背景には、ベトナム政府の「デジタル経済・社会」構想があります。国家の基本方針として、「データは資源であり、国家はあらゆる資源を動員してデータを資産に発展させる」ことが謳われており、国家の競争力を高めるために、データの収集、管理、利用を国家戦略の一環としました。
また、近年のサイバー脅威増加や個人情報漏洩問題を受け、安全保障・プライバシー保護とデジタル経済推進の両立が強く求められるようになっています。このため、データに関する包括的な法制度の整備が不可欠と判断され、データ法の制定に至りました。
本法は、国内外を問わず、ベトナム領域内でデータ関連活動を行うすべての組織・個人に適用されます。日本に拠点を置く企業であっても、ベトナムに関連するデータを収集・処理する場合は本法の規制を念頭に置く必要があります。
対象となるデジタルデータは、「物体、現象、出来事に関する情報で、デジタル形式で表現されたもの」と広範に定義されています。個人データ、業務データ、IoTデータなどあらゆる形式のデータが含まれます。
また、海外からベトナムへのデータの持ち込み(越境インバウンド)に関しては原則自由になっていますが、ベトナムから海外へのデータ移転等(越境アウトバウンド)に関しては条件が付されています。
なお、個人データの詳細な保護規定は、個人データ保護政令(Decree No. 13/2023/ND-CP)に委ねられており、本法はデータ全般に関する基本的な枠組みを提供するという位置づけになっています。
本法は、データを重要度に応じて次の三つに分類します。
重要データ(Important Data):国家の防衛・安全保障、外交、マクロ経済、社会の安定、国民の健康・安全に影響を及ぼし得るデータであり、首相が定めるリストに掲載されたもの。
コアデータ(Core Data):重要データのうち特にそれらに「直接的な影響を及ぼすデータ」で、同じく首相のリストに掲載されたもの。
その他のデータ:それ以外の一般的なデータ
企業は、自社が保有するデータを上記の3区分に分類し、それぞれに応じた管理措置を講じることが義務付けられます。コアデータおよび重要データについては、アクセス制限、暗号化、バックアップ体制など高度な保護策が求められます。特にコアデータについては最も厳重な管理義務が課せられます。
どのデータがコアデータまたは重要データに該当するかは、今後首相がリスト化し発表する予定であり、企業はこれを踏まえた対応が必要です。
データの越境移転について、本法は次のとおり規制します。
海外からベトナムへのデータ持ち込み(インバウンド移転):原則自由
ベトナムから海外へのデータ持ち出し(アウトバウンド移転):規制対象
特にコアデータや重要データを国外に移転する場合には、国家安全保障や公共利益を害さないことの保証が求められ、場合によっては事前届出・許可が必要になります。
クラウドサーバー等を利用して海外にベトナム関連データを保存している場合は、今後規制対象となるリスクがあり、ローカル保存対応などの検討が必要です。
データ法では、国家データセンター(National Data Center)の整備も規定されています。
国家データセンターは、政府各機関が保有するデータを集約し、安全かつ効率的に管理するための中枢インフラとして、国際基準を満たす設計・運営が求められます。政府は2025年以内(現計画では8月)にセンターを稼働させる計画です。
また、データ取引所(Data Exchange)の設立も本法で規定されています。データ流通市場を形成するためのものですが、運営は基本的に公的機関または国有企業に限定され、民間企業の参入は原則認められていません。
本法のもとでは、公安省(Ministry of Public Security/ Bộ Công an)がデータガバナンスの中心的な監督機関となります。国家全体で統一的にデータ管理を行う責任を負うとともに、企業から報告を受けたり、立入検査をしたり、制裁を実施する権限を担います。
また、情報通信省(Ministry of Information and Communications/Bộ Thông tin và Truyền thông)も、技術標準の策定やインフラ整備に関与します。国防省(Ministry of National Defence/Bộ Quốc phòng)も国防・暗号関連データについて関与します。
本法により、企業は次のような義務を負います。
データを3区分(コア・重要・その他)に分類する
分類に応じた管理措置の策定・運用をする
定期的なデータ処理リスクの評価・低減措置を実施する
リスク事象発生の際に是正・報告をする
データ主体からの削除請求等へ対応する
緊急時に当局からのデータ提供要請に協力する
データ仲介・分析サービス提供時登録する
特に重要データ・コアデータに関しては、公安省へのリスク評価報告義務が課されるなど、厳格な運用が求められます。
データ法第4条では、本法と他の法令の適用関係が定められています。2025年7月1日の本法施行より前に公布された他の法律にデータの構築・管理・利用等に関する規定がある場合、それが本法の原則に反しない限り従前の法律の規定が優先して適用されると明記されています。
また、本法施行後に新たに制定される法律については、本法と異なる規定を設ける場合にどちらを適用除外とするかを明確に定めるよう求められています。この規定により、既存の個人データ保護政令13号や2018年サイバーセキュリティ法等の規定は原則維持され、本法がそれらを直接改廃するものではないことが確認されています。
データ法は個人データに固有の規定こそありませんが、重要データの越境移転規制(第23条)などは個人データ分野にも影響し得るため、将来的に両制度の調整・統合が図られる可能性があります。例えば大量の個人データが「重要データ」に該当すると位置付けられた場合、政令13号に基づく評価・報告義務と本法に基づく許可制等の双方が適用されることになり、企業の負担増も懸念されます。政府は本法と個人データ保護法制との整合性についても十分考慮するとみられますが、企業としては両方の規制動向を注視し、矛盾が生じた場合には専門家の助言を仰ぐことが重要です。
サイバーセキュリティ法制に関しても同様に注意が必要です。サイバーセキュリティ法制はデータ法と異なり、特定のサービス分野・データ種別にフォーカスした規制です。そのため、特定分野の企業についてはサイバーセキュリティ法に基づくデータの国内保管義務をまず遵守しつつ、その保管するデータが「重要データ」に当たる場合にはデータ法に基づく追加義務(リスク評価や移転制限等)も負う、といった多層的な規制となります
データ法は基本法的な性格を持つため、多くの詳細規定が政令や通達に委ねられています。
現在、重要データリスト、越境移転手続、リスク報告様式、違反時制裁内容などに関する細則が準備中です。特に越境移転に関する制限や制裁規定については、厳格な内容となる可能性も指摘されています。
施行後も状況は流動的であり、企業としては最新の動向を注視する必要があります。
□自社保有データを「コア・重要・その他」に分類
□重要データ候補の洗い出しと優先管理体制の構築
□情報管理規程・委託契約・データ共有契約の見直し
□海外保存データのローカライズ検討(国内保存体制構築)
□緊急時対応マニュアル(当局提出対応手順等)の策定
□定期リスクアセスメント実施と公安省への報告体制整備
□データ主体からの削除・消去要求対応窓口の設置
□従業員向けデータ管理・法令遵守トレーニングの実施
□ベトナム政府から発表される重要データリスト等の継続ウォッチ
□必要に応じて現地法律事務所・専門家と連携