- カテゴリー
- コラム
- 2024.12.24
- CastGlobal
ベトナムにおけるNetflixのテレビ番組規制の概要と影響
Netflixは2024年12月23日をもってベトナム国内での一部のテレビ番組配信を停止しました。この決定は、同国の放送・映像コンテンツに関する厳格な法規制への対応を目的としたものです。本コラムでは、関連する法的根拠、規制強化の背景、具体的な影響、および将来展望を解説します。
1. ベトナムにおけるNetflix規制の概要
1.1 主要な法的根拠
1.Nghị định 71/2022/NĐ-CP(政令第71号)
ベトナムの放送・ストリーミングサービスを管理するための主要法令です。
ベトナム国内向けにテレビ番組(chương trình truyền hình)を提供する事業者には、サービス提供にあたって「ベトナム法人の設立」や「許可の取得」など厳格な要件が課されています。
2.ベトナムの映画法(Luật Điện ảnh)
元々映画やドラマ等のコンテンツの事前審査・分類(レイティング)を定めていた法律で、改正を経てオンライン配信事業者にも適用範囲を拡大する動きが見られます。•特に「映画(phim điện ảnh)」として分類されない番組については、コンテンツ登録や審査が厳しく行われる傾向があります。
ベトナム当局(Cục Phát thanh, Truyền hình và Thông tin điện tử:放送・テレビ・電子情報局)は、「テレビ番組」という範疇に該当するコンテンツを配信する場合、ベトナム国内で正式な許可を得る必要があるとの見解を示しています。
特にNetflixのような海外プラットフォームは、映画(cinematic content)として配信する作品には比較的柔軟な姿勢が示されている一方で、“番組形式”のリアリティショーやバラエティ番組などを提供する場合は、厳格にライセンス要件を求められます。
2. Netflixが実施した番組削除の現状
2.1 削除対象となった番組
2024年12月24日時点において、Netflixはベトナム国内からアクセス可能なテレビ番組(chương trình truyền hình)を削除したと報じられていますが、まだ削除されたのはテレビ番組の一部のようです。実際に削除対象となった例として、以下のような番組が挙げられます(各種メディア報道より)。
リアリティショー(例:「Love on the Spectrum」「Down For Love」「Longest Third Date」など)
その他、旅行・料理・バラエティなど、ドラマ・映画以外の“番組”として分類されるコンテンツ全般
削除の背景:
Netflixは、ベトナム国内でテレビ番組を提供する許認可を取得していないため、事実上「配信可能なのは映画(映画作品)に限られる」という状況にあります。
2024年末にかけて、当局が一斉調査を強化した結果、無許可のテレビ番組が多数存在したことが判明し、Netflixが自主的に(あるいは当局からの指導のもと)大量削除に踏み切ったとみられています。
2.2 今後の番組削除が拡大する可能性
現状、Netflixのみならず、他の動画配信サービス(iQIYIなど)にも同様の規制が及んでおり、テレビ番組のジャンルに該当するコンテンツは順次削除または配信停止を余儀なくされる可能性が高いとされています。
3. 今後予想される影響と事業者の対応
3.1 海外プラットフォームへの影響
ベトナム市場を継続的に開拓したい配信プラットフォームは、テレビ番組(chương trình truyền hình)を正規に提供するため、現地法人の設立や放送局ライセンスの取得(外資には難しいと考えられる)や事業提携を検討せざるを得ません。これらの実施にはコストがかかり、さらにコンテンツ審査に関するリスク管理(自主検閲や当局承認プロセスなど)も大きな負担となります。
3.2 ベトナムの視聴者・コンテンツ業界への影響
視聴者の選択肢減少
Netflixなど海外プラットフォームで視聴できた多様なリアリティ番組やドキュメンタリー、バラエティ番組が削除され、視聴者の選択肢は一時的に減少する可能性がありそうです。
国内コンテンツの拡大機会
一方で、ベトナム国内の放送局や動画配信サービスにとっては、ライバルとなる海外番組が減少することで国内コンテンツの視聴機会が増える可能性があります。もともとローカルのテレビBoxが強いなかではあるなか、どのようにマーケットが変化するか注目です。
合法的な供給ルート整備への期待
将来的には、海外プラットフォームも法的要件を満たしたうえで番組配信を再開することが考えられます。この際、ローカルプロダクションとの連携や合法的な供給ルートの整備が進むことで、ベトナムのコンテンツ業界全体の発展につながる可能性もあります。
4. 法的リスクと企業の留意点
4.1 違反時の制裁
罰金やサービス停止
ベトナム当局は、許可を得ずにテレビ番組を提供する事業者に対し、罰金やサービス停止命令などの行政制裁を科す可能性があります。
ブランド・レピュテーションリスク
法規制違反によってメディア報道やSNSで批判的に取り上げられれば、ユーザーからのイメージ低下につながる懸念も拭えません。
4.2 企業が取るべき対応
サービス内容の事前調査・法的チェック
ベトナム向けの事業展開を計画する企業は、自社コンテンツが映画に該当するか、番組(chương trình truyền hình)に該当するかを厳格に区別し、必要な許認可を取得すべきです。
現地法人設立やライセンス取得の検討
テレビ番組を含む包括的なコンテンツを配信したい場合、ベトナム国内で法人を設立し、当局からライセンスを得るなどの手続きが避けられません。実際には外資企業の取得が難しいため、ローカル企業との協力体制となる可能性が高そうです。
コンテンツの自主検閲・当局との連携
当局が問題視する可能性のあるシーン・テーマを事前にチェックし、必要に応じて修正・削除を行うことが求められます。また、当局との連携や相談体制を整えておくこともリスク管理上重要です。
5. まとめ
ベトナム当局は、国内の放送・通信インフラを保護するとともに、コンテンツの適正管理を徹底するため、海外プラットフォームへ厳格な規制を敷いています。Netflixが番組(chương trình truyền hình)を大規模に削除したのは、この規制強化の流れを受けた対応の一環といえます。
今後のポイント:
1)Netflix等の海外企業がテレビ番組配信を再開するかどうか
事業継続に向けたライセンス取得や法人設立、コンテンツ審査など、追加コストを負担してまで参入を続けるかが注目点となります。
2)ベトナム国内企業との提携や共同制作の増加
法規制をクリアするには、現地パートナーとの提携が効率的であり、海外企業のローカル化が進むことで、新たなコンテンツ制作の機会が生まれる可能性があります。
3)ユーザーによる代替プラットフォームの模索
Netflixの番組削除を受け、視聴者は他の合法的な動画配信サービスやVPN利用など、さまざまな代替手段を模索する動きが出てくると予想されます。
総じて、ベトナムのコンテンツ配信事業は今後さらに規制の明確化と厳格化が進むとみられ、海外プラットフォームや関連企業にとってはコンプライアンス・コストの増大が避けられません。一方、適切なライセンス取得やコンテンツ管理体制を整備すれば、依然としてベトナムは魅力的な市場であり、多くの視聴者を獲得する可能性も残されています。今後も法改正や当局の方針を注視し、ベトナム市場の特徴を踏まえた事業戦略を立案・実行していくことが重要です。
- コラム
- 2024.12.22
- CastGlobal
相続人にベトナム人がいる場合の相続手続について
1. 準拠法と基本原則:日本法がベース
被相続人が日本国籍である場合、法定相続人の範囲や各人の相続分、特別受益・寄与分などの判断基準は、日本の民法に基づくことになります(通則法第36条)。
相続人にベトナム国籍の方が含まれていても、この基本原則は変わりません。問題は、「日本法による相続関係確定」を前提としつつ、ベトナムに在住する相続人やベトナム当局を巻き込んだ実務手続きを進めなければならない点にあります。
2. 相続人間の協議を難しくする要因
ベトナム人相続人が含まれるケースでは、以下のような要因が遺産分割協議を複雑化します:
言語の壁:日本語とベトナム語の通訳・翻訳が不可欠で、意思疎通が容易ではない。
地理的距離:相続人が日越双方で暮らしている場合、オンライン会議や郵送によるコミュニケーションが中心となり、迅速な決定が難しい。
法律・文化の相違:相続に関する価値観や判断基準、手続きへの理解度が異なるため、合意形成に時間がかかりやすい。
こうした障壁により、日本国内の相続より手続きが長期化し、合意形成までに相当の時間やストレスを伴う可能性があります。
3. 日本裁判所での遺産分割調停手続きと外国送達の課題
円滑な相続人間の話し合いが難しい場合、日本の家庭裁判所で遺産分割調停を行うことが考えられます。しかし、相手方がベトナムに在住している場合、調停申立書や期日呼出状などの送達が大きなハードルとなります。
•送達手続きの複雑さ:
日本の家事事件手続法や民事訴訟法に基づき、在ベトナム日本領事館やベトナム指定当局を通じて文書を送達します。その際、文書をベトナム語へ正確に翻訳し、公証する手続きが不可欠です。
•期間の長期化:
翻訳・公証作業や領事ルートによる送達には、数か月から1年程度の時間を要することが珍しくありません。住所不明・所在不明の場合や、長期間当局から返信が得られない場合、民事訴訟法上の公示送達に移行することになり、さらなる時間的ロスが生じます。
これらの手続的障壁によって、実質的な遺産分割の話し合い開始までに相当な期間を要する可能性があります。
4. 遺言による事前対策の重要性
こうした複雑な手続きを回避、あるいは大幅に軽減する有効な方策として、被相続人が生前に有効な遺言を残しておくことが挙げられます。
例えば、
ベトナム国内資産をベトナム人相続人へ帰属させる
日本国内資産は日本在住相続人へ配分する
といった内容を明確にすることで、相続時に日越間での協議・調停が必要となる範囲を最小限に抑えることが可能になります。
これにより、相続人間の対立や送達手続きの煩雑さを軽減し、よりスムーズな手続進行が期待できます。
5. 早期準備の重要性
相続人に外国籍者が含まれる場合、必要な手続きは国際法務・翻訳公証・現地実務対応など、多岐にわたります。
ベトナム人相続人がいる場合の相続手続きは、日本法を準拠法としつつ、国際的な調整や翻訳送達手続きに伴う膨大な労力・時間がかかる可能性があります。スムーズな手続処理には、事前の遺言作成と早期の専門家活用が極めて重要です。
これらの準備を通じて、将来のトラブルや長期化リスクを最小限に抑え、相続手続を円滑に進めることが期待できます。
- コラム
- 2024.12.18
- CastGlobal
ベトナムの半導体産業:政策、進展、および最新の議論についての整理
ベトナムは、世界の技術および半導体供給チェーンにおける主要プレイヤーとしての地位を確立するため、半導体産業の発展に積極的に取り組んでいます。NVIDIAが投資の決定を発表したほか、2030年・2050年までのロードマップを発表し、高付加価値の半導体産業に集中的に取り組むことを明示しており、今後の動きに注目です。
1. 国家政策と戦略目標
国家半導体戦略
ベトナム政府は、2050年までに自立した半導体エコシステムを構築するための野心的なロードマップを発表しました。主な目標は以下です。
2030年まで
少なくとも1つの半導体製造工場(ファブ)の設立
20のパッケージング・テスト施設の運営
300の集積回路(IC)設計会社の育成
半導体分野に特化した技術者50,000人の養成
2050年まで
ファブを3カ所に拡大
20のバックエンド施設の整備
高度な半導体製造および設計を支える強固な研究開発(R&D)エコシステムの構築
国内成長の促進と外国投資の誘致を目指し、以下のようなインセンティブが導入されています:
研究開発(R&D)費用の150%までの税控除
簡略化された投資手続きおよび最大10年間の無償土地リース
「国家半導体開発指導委員会」の設立による業界成長の監督と調整
人材開発への注力
ベトナム政府は、半導体分野における熟練労働力の重要性を認識しており、大学や国際企業と連携して以下の取り組みを行っています。
STEM(科学、技術、工学、数学)教育プログラムの拡充
NVIDIAやQualcommといったグローバル技術リーダーとの協力による、2030年までの半導体技術者50,000人の養成
2. 産業の進展と投資
外国直接投資(FDI)
戦略的な地理的位置、競争力のある労働コスト、政府の支援により、ベトナムは世界の半導体企業にとって魅力的な投資先となっています。主な進展は以下の通りです。
NVIDIA
米国拠点の半導体・AIの大手企業であるNVIDIAは、AIと半導体技術を中心としたR&Dセンターをベトナムに設立する計画を発表しました。このセンターは、地元のスタートアップや大学、企業を支援し、AIアプリケーションや半導体ソリューションを開発します。
Amkor Technology
バクニン省に2023年に16億ドル規模の半導体パッケージング・テスト施設を設立し、ベトナムの半導体産業における最大級の投資案件となりました。
Intel
ホーチミン市で運営している世界最大級の組立・テスト施設をさらに拡大しています。
その他、サムスン、ハナマイクロン、オランダのBE Semiconductor Industriesなどの大手企業が投資を進めています。
国内企業の貢献
FPT Corporation
ベトナム最大のITサービス企業で、半導体設計やAIアプリケーションに投資しており、国内設計のチップの商業化を目指しています。
Viettel
国営通信企業で、国家の安全保障と技術的独立性を支援するため、半導体製造およびR&Dプロジェクトを模索しています。
3. NVIDIAの戦略的役割
NVIDIAは、ベトナムの半導体およびAIの発展における重要なパートナーとなっています。同社の主な取り組みは以下の通りです。
R&Dセンター
ベトナムに設立予定のR&Dセンターは、AIと半導体技術に焦点を当て、ベトナムのSTEM人材の成長を活用します。この施設は、地元のスタートアップや研究者に技術訓練と支援を提供します。
AIエコシステムの開発
NVIDIAはベトナムの大学やスタートアップと連携し、医療、教育、金融といった業界でAIアプリケーションの革新を促進しています。既に100以上のAIスタートアップと65の大学と提携しています。
半導体製造
NVIDIAのベトナムでの主な焦点はR&DとAIですが、チップ製造の可能性にも関心を示しており、ベトナムを半導体製造の地域ハブにすることを検討しています。
4. 課題と機会
課題
熟練労働力の不足
現在の労働力は、先進的な半導体設計および製造に十分な専門知識を欠いています。2030年までに50,000人の技術者を育成することは大きな課題です。
インフラの不備
半導体産業には、信頼性の高い電力供給、高度な物流、高度な施設が必要ですが、これらの分野でベトナムにはまだ改善の余地があります。
技術的依存
チップ設計や製造のような高付加価値分野では、外国の技術と専門知識に大きく依存しています。
機会
地政学的変化
米中貿易摩擦により、世界の企業がサプライチェーンを多様化しており、ベトナムは半導体投資の魅力的な代替地となっています。
地域的リーダーシップ
ベトナムの積極的な政策とグローバル技術リーダーとのパートナーシップにより、東南アジアの半導体産業におけるリーダーになる可能性があります。
5. 将来展望
ベトナムの半導体産業は、政府の強力な支援、増加する外国投資、NVIDIAのようなグローバルリーダーとの戦略的パートナーシップにより、著しい成長が期待されています。ベトナムが中所得国の罠を脱するのに非常に重要な政策の一つとなるでしょう。
ベトナムは2050年までに世界の半導体供給チェーンの主要プレイヤーとなることを目指しており、特にAIとR&DにおけるNVIDIAや多くの外資企業の関与も、ベトナムのハイテク未来を形作る上で重要な役割を果たしていくことになりそうです。
- コラム
- 2024.12.14
- CastGlobal
日本人がベトナム不動産を所有したまま亡くなった場合の相続手続き(遺言がない場合)
以下は、ベトナムに不動産を有する日本人が遺言のないまま亡くなった場合の相続手続きについて、より専門的かつ分かりやすい形で整理したものです。実際には、両国の法規制や運用上の特徴を踏まえた慎重な対応が求められるため、専門家への相談を強く推奨します。
1. 準拠法と手続全体の枠組み
(1)日本法が準拠法となる点
被相続人が日本国籍の場合、相続に関する法律関係(法定相続人の範囲、相続分、特別受益、寄与分等)は、日本法(民法)が準拠法となります(通則法第36条)。これにより、相続人の確定や遺産分割協議の有効性といった基本的な判断は原則として日本法に従って行われます。
(2)ベトナム側手続への影響
一方で、ベトナム国内に所在する不動産の権利移転(名義変更)手続は、ベトナムの土地法や不動産関連の行政手続法令に則って行う必要があります。すなわち、「相続関係」の準拠法が日本法である一方で、「不動産名義変更」という実体・手続はベトナム法に基づくため、二国間法制の整合的な適用が求められます。
2. ベトナムでの不動産名義変更手続きのハードル
(1)遺産分割協議の有効性の立証
日本で有効に成立した遺産分割協議書があっても、そのままベトナム当局が名義変更を認めるとは限りません。ベトナム当局は「当該協議書が日本法上有効である」こと、および「相続手続きが適正に完了している」ことを十分な法的証拠とともに要求する場合が多く、単なる印鑑証明や公証書では不十分と判断されるケースもあります。
(2)裁判所関与の可能性
そのため、現地当局が求める法的確実性を担保するためには、日本の裁判所を通じた手続(遺産分割調停、審判手続など)で、確定的な「調停調書」または「審判書」を取得する方法が検討されます。これらの裁判所書面を「公印確認(アポスティーユ)」「翻訳公証」を経た上でベトナム当局に提出することにより、ベトナム側での名義変更手続を円滑化できる可能性が高まります。ただし、こうした司法手続きは相応の時間・コスト負担を伴います。
3. 相続人間での意見対立と対応策
(1)代償金による単独取得
相続人間で不動産の帰属先や評価額に合意できる場合、特定の相続人が単独で不動産を承継し、他の相続人に対し代償金を支払う方法が考えられます。しかし、ベトナムでは日本のような公的評価制度(固定資産評価額や路線価)が確立されておらず、不動産の適正評価が難しいため、代償金額の算定を巡って意見対立が生じるリスクがあります。
(2)売却・代金分配の困難性
不動産を第三者へ売却し、得られた代金を相続人間で分配する方法も理論上可能です。しかし、ベトナム当局は外国人相続人を含む共有名義化に慎重であり、前例不足や法解釈上の問題から、共有名義設定や売却手続そのものを拒否される可能性があります。その結果、売却方針が決まらず、相続手続が膠着する懸念もあります。
4. 手続き長期化のリスクと事前対策
(1)手続の長期化要因
ベトナム当局の慎重な審査、裁判所関与の必要性、不動産評価の困難性、共有名義設定拒否のリスクなど、様々な要因が重なり、ベトナム不動産の相続手続は日本国内相続よりも長期化、複雑化しやすいといえます。
(2)遺言作成によるリスク軽減
こうしたリスクを事前に回避するためには、被相続人が生前に法的に有効な遺言を作成しておくことが最善策といえます。遺言により特定の相続人に不動産を帰属させることを明確化すれば、相続人間での意見対立や裁判所手続の必要性を大幅に減らすことが可能です。ベトナム不動産を含む複数国の資産がある場合、各国法制に精通した専門家への相談が不可欠です。
5. まとめ
日本国籍被相続人の相続は基本的に日本法が準拠法となるが、不動産が所在するベトナムでの名義変更にはベトナム法が絡み、日越両国法の整合的対応が必要。
日本で合意した遺産分割協議書がベトナムでそのまま通用しない可能性があり、裁判所での確定的書面の取得や証明手続が求められる場合がある。
相続人間での意見対立がある場合、代償金や売却案を検討できるが、不動産評価や共有名義の問題、当局の慎重姿勢が実務上の障壁となり得る。
手続き長期化のリスクを軽減するため、あらかじめ有効な遺言を準備することが効果的。
こうした複雑な手続きを回避・円滑化するためには、早期段階から専門家へもご相談のうえ、両国での法的要件や行政実務を踏まえた戦略的な対応が不可欠です。
- コラム
- 2024.12.11
- CastGlobal
ベトナム・ホーチミン市における不動産登記問題の現状と対策
ホーチミン市では、不動産登記(通称「Sổ hồng」/レッドブック/LURC)が長年の課題となっており、特に商業住宅プロジェクトにおける未登記物件が市場全体に影響を及ぼしています。外国人所有物件だけでなく、ベトナム人所有物件についてもLURCが発行されていない物件が多くあり、課題となっています。
以下に、最新の状況、政府の取り組み、課題、そして今後の展望を整理します。
1.現状:未登記物件問題の深刻さ
未登記物件の規模
2023年末時点: 約81,000戸の未登記物件が存在。
2024年3月時点: 政府の取り組みにより59,000戸まで減少。
未登記の主な原因
1. 開発業者の遅延:
登記に必要な書類提出の遅れ。
財務義務(税金や関連費用)の未履行。
2. 新しい不動産形態に関する法的課題:
オフィステル(オフィス兼居住空間)やショップハウスに関する未整備の法制度。
3. プロジェクトの法的・財務的問題:
銀行担保に設定されたままの物件。
建築規制違反の発覚。
4. 調査・監査による進行停止:
プロジェクトが不正疑惑やその他の監査対象となる場合。
2.政府の取り組み:2024年末までの3段階計画
ホーチミン市人民委員会(UBND)は、未登記物件問題の解消に向けて以下の3段階計画を実施しています。
第1段階(2024年10月まで)
専門チームの設立: 未登記プロジェクトを調査するタスクフォースを編成。
データの収集と分類: プロジェクトを以下のカテゴリに分類:
1.登記完了済み物件
2.建設中で未登記の物件
3.使用中だが未登記の物件
第2段階(2024年11月まで)
課題の分析と解決策の立案: 各プロジェクトの問題点を特定し、法的・行政的な解決策を提示。
第3段階(2024年12月まで)
実行と進捗管理: 解決策を具体化し、未登記問題を解消するための進捗を管理。
3.成果と今後の展望
2024年6月時点の成果
22,147戸が新たに登記完了。しかし、未解決の物件が依然として多数残っています
新しい法制度への対応
2024年に施行される新土地法(Luật Đất đai)に基づき、以下が期待されます:
政策のさらなる調整
新形態の不動産に対応した法制度の整備
透明性向上の試み
市政府は、不動産プロジェクト情報を電子プラットフォームで公開し、市場の透明性向上を図る計画です。
4.まとめ
ホーチミン市では、不動産登記問題の解消に向けた具体的な取り組みが進行中であり、2025 年までに、天然資源環境省の機能と課題に基づく 6 つの問題グループに基づいて、81,085 戸の住宅の問題の除去が完了する予定としています。しかし、法制度の改善や開発業者の協力など、多くの課題が依然として残されています。登記状態により、購入者は物件の所有権を正式に証明できず、長期的な未登記問題が、不動産市場全体の停滞を招いているともいえます。今後、政府や関連機関の連携がさらに重要となり、透明性の高い市場運営が鍵となるでしょう。
- コラム
- 2024.12.04
- CastGlobal
ベトナムにおけるeコマースとデジタルプラットフォームの税務改革
2025年4月1日より、ベトナムではeコマースおよびデジタルプラットフォームが出品者に代わって税金を申告・納付することが義務付けられます。
この新しい規定は、国内外のeコマースプラットフォームに適用され、公平な税務管理と税収増加を目的とした重要な取り組みです。本記事では、規制の詳細、現行制度との違い、期待される効果、そして実務上の影響について解説します。
新しい税務規定の概要
新しい税務規定では、以下が義務付けられます:
コマースプラットフォームは、個人事業者や法人の出品者に代わって税金を申告・納付。
プラットフォームは、税金を控除した上で、取引額の報告を税務当局に行う必要があります。
この規定は、国内外のプラットフォームに適用され、国際企業にも登録または代表者の任命を要求します。
また、ベトナムの財務省は技術的な支援が可能であり、プラットフォームが円滑に税務義務を履行できる体制を整備中です。
現行制度との違い
現在の制度では、eコマースプラットフォームが税務当局に報告する義務は限定的であり、個々の出品者が自己申告・納税を行っています。
しかし、新制度ではプラットフォームが税務手続きを包括的に管理することで、効率化と透明性の向上が期待されています。
変更点
現行:出品者が納税責任を負う。
改正後:プラットフォームが納税手続きを代行。
期待される効果と現状データ
1. 税収の増加
ベトナムでは、2022年3月の電子情報ポータル導入以降、102の外国サプライヤーが登録し、これまでに約7,340億円の税金を納付しています。
2024年の最初の10ヶ月間だけで、eコマース関連の税収は前年同期比で17%増加しました。
2. 公平な税務管理
国内外のプラットフォームが同等の税務負担を負うことで、市場の公平性が確保されます。
3. 行政コストの削減
税務手続きの簡素化により、出品者および税務当局の負担が軽減されると期待されています。
課題と専門家の見解
専門家によると、新制度はベトナムのデジタル経済における重要な一歩とされていますが、以下の課題が指摘されています:
プラットフォーム企業の負担増加:税務管理のコストが増加し、手数料引き上げに繋がる可能性。
小規模出品者への影響:新しい規定が中小規模の出品者にとって負担となり、市場参入の障壁となる可能性。
国際企業との協力体制:特に海外企業との連携や執行の確保が課題とされています[3][5]。
政府の対応策
ベトナムの財務省は、税務改革の円滑な導入を支援するため、税務当局内に専門タスクフォースを設置し、プラットフォーム企業に対する技術支援や指導を行う予定です。
今後移行期間の対応なども下位の法令で明確化される可能性もあります。
まとめ
2025年4月から施行されるeコマースおよびデジタルプラットフォームの新しい税務規定は、税収増加と公平な市場競争の確保を目的とした画期的な取り組みです。一方で、プラットフォーム企業や出品者への影響も慎重に考慮する必要があります。eコマース事業者は今後の動向を注視し、対応策を講じることが求められます。
- コラム
- 2024.12.03
- CastGlobal
2025年からのベトナム電子タバコ規制の概要
ベトナム国会は2024年11月30日、2025年から電子タバコ(加熱式タバコを含む)の製造・販売・輸入・保管・輸送・使用を全面的に禁止する決議を可決しました(173/2024/QH15)。これは、若者を中心に急増する電子タバコ使用者を背景に、国民の健康保護および社会秩序の維持を目指した対応となっています。本コラムでは規制の概要、動向について整理します(最終アップデート:2025年1月20日)。
禁止対象: 電子タバコおよび加熱式タバコ
禁止される行為:
製造
販売
輸入
所持(保管)
輸送
使用
旅行客の持ち込みにも適用されると考えられますので、ベトナムに旅行される方々は電子タバコの持ち込みを控えるよう注意してください。
2024年12月31日時点で、すでに多くの販売店が閉店しているという報道も出ています。
173/2024/QH15の該当箇所(2.2)
“Quốc hội thống nhất cấm sản xuất, kinh doanh, nhập khẩu, chứa chấp, vận chuyển, sử dụng thuốc lá điện tử, thuốc lá nung nóng, các loại khí, chất gây nghiện, gây tác hại cho sức khỏe con người từ năm 2025, bảo đảm sức khỏe cộng đồng, trật tự, an toàn xã hội; giao Chính phủ tổ chức thực hiện cụ thể. Đẩy mạnh công tác tuyên truyền, nâng cao nhận thức của người dân, đặc biệt là đối với thanh niên, thiếu niên về tác hại của rượu, bia, thuốc lá, thuốc lá điện tử, thuốc lá nung nóng, các loại khí, chất gây nghiện, gây tác hại cho sức khỏe con người.”
(仮訳)「国会は、2025年から電子タバコ、加熱式タバコ、健康に害を及ぼす各種ガスや薬物の製造、販売、輸入、保管、輸送、使用を禁止することで一致しました。これにより、公衆の健康を確保し、社会の秩序と安全を維持することを目指します。具体的な実施については政府に委ねられています。また、特に若者や未成年に対し、アルコール、ビール、タバコ、電子タバコ、加熱式タバコ、健康に害を及ぼす各種ガスや薬物の有害性に関する認識を向上させるため、啓発活動の強化を求めています。」
2025年1月20日追記:
ベトナム保健省からの具体的な提案も出てきました。現状、「使用」については市中での規制はあまり行われていないようですので、こちらの具体的な罰則の施行を待って取締を強化する方向と考えられます。
ベトナム保健省は、電子タバコおよび加熱式タバコの使用に対し、100万~200万ドン(約40~80米ドル)の罰金を科すことを提案しています。
再犯の場合、罰金は倍増される見込みです。この提案は、医療分野における行政処分に関する政令117の改正案に含まれており、3月初旬まで一般からの意見を募集しています。違反者の情報は関連当局や学校に報告され、押収された製品は破棄される予定です。
これまでもあった法令に基づき、これらの製品の製造、取引、保管、輸送、および広告に対しては、罰金として1億ドンから10億ドン(約4000~4万米ドル)が科されるほか、1年から5年の懲役刑が科される可能性があります。「使用」および「助長」に関しては具体的な罰則が存在しないことから、保健省は追加の規制を提案するに至りました。
参考:在ベトナム日本大使館からの通知 2024年12月25日時点
https://www.vn.emb-japan.go.jp/itpr_ja/11_000001_02157.html
●ベトナムでは2025年1月1日から、ベトナム国内で電子たばこ及び加熱式たばこを使用する場合、罰金の対象となる可能性がありますのでご注意ください。
●また、海外からベトナムに電子たばこ及び加熱式たばこを持ち込む場合、使用よりも重い罰金の対象となる可能性がありますのでご注意ください。
先のベトナム国会において、2025年1月1日から電子たばこと加熱式たばこの生産、取引、輸入、保管、輸送、使用を禁止する決議が承認されたとの当地報道が出ております。
2025年1月1日以降、電子たばこ等を使用・製造・輸送・保管等する者は、その状況に応じて、罰金・行政処分・刑事責任に問われる可能性があり、電子たばこ等を使用した場合、警告又は100万~200万ドンの罰金対象となる可能性があるほか、輸送・保管・製造の場合は更に重い罰金・刑事処罰が課せられる可能性がありますので、ご注意ください。
規制強化の最大の背景は、若年層での電子タバコ使用率増加です。13~17歳の学生使用率は2019年の2.6%から2023年には8.1%へと急増し、特に13~15歳では1年で3.5%から8%へと倍増する深刻な伸びを示しています。これらの数字は、従来のタバコよりも「手軽」と誤解される電子タバコが、若者の間で急速に広まっている現実を浮き彫りにしています。
電子タバコは多様なフレーバーやスタイリッシュなデザインが売り物であり、SNSでの拡散やインフルエンサーの影響も相まって、「新しいもの好き」な若い世代を強く引きつけています。しかし、その背後には高濃度ニコチンによる依存症リスクや、心血管・呼吸器への悪影響、発達途上の脳に対する悪影響など、深刻な健康被害が潜んでいます。こうした公衆衛生上の懸念は、ベトナム政府が取締りを強化する強い動機となっています。
電子タバコ製品が若者に浸透した一因は、オンラインを通じた容易な入手経路です。FacebookやZaloなどのソーシャルメディア経由で匿名性を盾にした販売が横行し、中には原産地不明、あるいは有害化学物質や合成麻薬を含む可能性のある製品が流通しています。この状況は既存の法規制や捜査の手の届きにくい領域であり、規制当局にとって大きな課題となっています。
2023年5月、ファム・ミン・チン首相は、電子タバコや加熱式タバコ、シーシャなどの新型タバコ製品の使用防止に向けた規制の策定を各機関に指示しました。 これにより、15歳以下の男性の喫煙率を39%未満、女性を1.4%未満に抑えること、また職場や飲食店での受動喫煙の減少を目指す「2030年までのタバコ害の予防と制御に関する国家戦略」が承認されていました。
さらに、2024年5月には、チン首相が保健省に対し、電子タバコや加熱式タバコの管理策の研究と提案を指示しました。 これに伴い、財務省や国防省、公安省にも密輸や違法取引の監視と取り締まりの強化が求められています。今回はさらに進んで販売や使用の規制まで入ったことになります。
- コラム
- 2024.11.25
- CastGlobal
6歳未満の子供向けの乳製品および栄養補助食品に関する通達33/2024/TT-BYT
2024年11月15日、ベトナム保健省は通達33/2024/TT-BYTを発行しました。
この通達は、2025年1月1日から施行され、6歳未満の子供向けの乳製品および栄養補助食品に関する経済技術的特性(価格安定化と価格申告など)を規定しています。
■6歳未満の子供向け乳製品:
保健省が定める国家技術基準に基づく36ヶ月齢までの乳児用調製乳
6歳未満の子供向けとして公表されている粉末または液体の動物性乳を含む栄養製品
■6歳未満の子供向け機能性食品:
健康補助食品
医療用栄養食品
栄養補助食品
特別食事用食品(乳製品を含まないもの)
価格安定化と価格申告の要件
対象製品は以下の経済・技術的特徴を含む必要があります。
製品名(詳細名)
製品分類 ・製品形態(剤形/使用形態)
製品公表登録受理書番号または自己公表番号
本規定は2025年1月1日から施行されます
省級人民委員会は価格申告の受理を組織し、円滑な実施を確保
保健省食品安全局は本規定の実施を主導し、関連部門と協力して指導
企業や個人は6歳未満の子供向け製品を公表する際、省級人民委員会が指定する機関に価格申告書を提出する責任があります
実施中に問題が発生した場合、関係者は保健省食品安全局に報告して解決を求めることができます
- コラム
- 2024.11.25
- CastGlobal
2025年のベトナムの祝祭日について
2025年の一般的な祝日のパターンは以下のとおりです。民間企業においては土曜日や日曜日の業務がある場合は変わる場合があること、政府が正式に発表するまでは変わる可能性のある祝日もあるためあくまで参考としてご確認ください。テトについては公務員の9連休の日程は政府が確定しました。
【ベトナム】2025年のテト休暇(Tet Holidays)について
休暇
日付
曜日
日数
年末年始休暇(西暦)
2025年1月1日
水曜日
祝日
1
旧正月(テト)休暇
2025年1月25日
土曜日
週末
9
2025年1月26日
日曜日
週末
2025年1月27日
月曜日
祝日
2025年1月28日
火曜日
祝日
2025年1月29日
水曜日
祝日
2025年1月30日
木曜日
祝日
2025年1月31日
金曜日
祝日
2025年2月1日
土曜日
週末
2025年2月1日
日曜日
週末
フン王記念日
2025年4月7日
月曜日
祝日
1
戦勝記念日・国際労働者の日
2025年4月30日
水曜日
祝日
5
2025年5月1日
木曜日
祝日
2025年5月2日
金曜日
祝日
2025年5月3日
土曜日
週末
2025年5月4日
日曜日
週末
建国記念日/国慶節
2025年8月30日
土曜日
週末
4
2025年8月31日
日曜日
週末
2025年9月1日
月曜日
祝日
2025年9月2日
火曜日
祝日
- コラム
- 2024.11.24
- CastGlobal
2025年1月1日から2025年6月30日までのVAT減税の継続について(10%→8%)
ベトナム財務省は現在2%減税して10%→8%になっているVAT(付加価値税)について、経済回復効果への実績をもとにさらに2025年上半期も継続を提案し、その後11月30日、国会で174/2024/QH15により可決されました。これに基づいて、2024年12月31日には、継続についての内容を規定する政令180/2024/ND-CPも発行されました。
2025年7月1日以降については未定であり、特になにも法令変更がなければ通常どおり10%に戻ることになります。
ベトナム財務省が2025年前半のVAT減税継続を提案→国会決議→政令180号
減税率は2%で、10%の税率が適用される商品・サービスに対して8%に引き下げ
適用期間は2025年1月1日から2025年6月30日までの6ヶ月間
10%の税率が適用される多くの商品・サービスが対象となる
以下の分野は減税対象から除外される:
通信、情報技術
金融、銀行、証券、保険
不動産
金属、鉱業製品(石炭採掘を除く)
コークス、精製石油
化学製品
特別消費税の対象となる商品・サービス
各減税の目的と期待される効果
消費を刺激し、経済回復を促進することが主な目的
企業の生産コスト削減、利益増加、需要喚起につながると期待されている
2025年の経済成長目標(6.5-7%)達成を支援する狙いも
6ヶ月間の減税により、約25兆ドン(約1,250億円)の税収減が見込まれている
月平均で約4.175兆ドンの税収減となる見通し
2022年から2024年にかけて同様の減税措置が実施されてきた
3年間で合計約123.8兆ドンの減税効果があった
2022年には小売売上高とサービス収入が前年比19.8%増加
2023年は下半期のみの減税だが、全体として、2023 年の商品小売総売上高と消費者サービス収益は、2022 年と比較して 9.6% 増加すると予想
関連記事:
ベトナムのVAT税率減少(VAT8%の軽減税率の継続)とVietnam Airlinesの支援策について