ベトナム地方省・直轄市再編の最新情報:決議第60号(60-NQ/TW)

コラム
2025.04.15
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ベトナム地方省・直轄市再編の最新情報:決議第60号(60-NQ/TW)
2025年4月12日、ベトナム共産党中央委員会第13期第11回総会において「決議第60号(60-NQ/TW)」が採択されました。この決議は、地方行政区画の大規模な再編を示すもので、全国の省・市(※ベトナムの最上位地方行政単位)の数を現在の63から34へと削減することなどが盛り込まれています​。決議原文はベトナム語で発表されており、共産党機関紙などで全文が公開されています。詳細を以下にまとめます。 これまでの「省・郡・社」の3層構造から「省・市」と「社」の2層構造に移行します。すなわち、郡(県・区)レベルの行政機関を原則として廃止し、地方政府は省(または中央直轄市)と社(コミューン、市社〔坊〕、町レベル)に再編されます​。 これにより、中間行政層を省いて組織の簡素化・効率化を図ります。党中央委は2025年7月1日をもって郡級行政単位の活動を終了させる方針であり、それに先立ち2013年憲法や関連法の改正を行う必要があると指摘されています。 現在63ある省および中央直轄市を34(28省+6市)に再編します​。統合後もハノイ市、フエ市、クアンニン省、タインホア省など11の省市は従来通り存続しますが、それ以外の地域は隣接する省同士、あるいは省と直轄市を合併し23の新たな行政単位を設置する計画です(詳細は後述)​。 例えば、ホーチミン市はバリア・ブンタウ省およびビンズオン省と合併して拡大し、新「ホーチミン市」となるほか、ダナン市はクアンナム省を吸収して新「ダナン市」となる見込みです​。この再編により、地方政府トップの数(党省委員会書記や人民委員会委員長のポスト数)も大幅に削減され、権限が中央政府により集中する可能性があると指摘されています​。 郡レベルは上記の通り廃止となり、社(コミューン)レベルでは現行から約60~70%の行政単位を削減する方針です。全国で約1万以上あるコミューン(村落級行政区)を3~4割程度まで絞り込む計算で、下位行政単位も思い切った統合・再編が行われます。これに合わせて、各コミューンには「公共サービスセンター」を設置し、住民が身近な窓口で行政サービスを一括して受けられるようにする構想も示されています​。これは行政の末端でサービス低下が起きないようにするための措置です。 政府・党指導部はこの改革の目的を「行政の精簡化(精鋭で簡素で強力かつ効率的・効果的なシステム)」の実現に置いています​。トー・ラム書記長は「今回の再編は前例のない戦略的決定であり、国家の迅速・持続的発展と国民生活の向上を図るもの」と強調しました。国内メディアも「少数精鋭で実効性のある新体制」「新たな国興の時代への飛躍」など肯定的に報じています​。 一方、識者からは「1986年のドイモイ(刷新)以来最大規模の改革」であり、約10万人規模の公務員削減やサービス供給体制の再構築など多くの課題が伴うと分析されています​。特に統合に伴う公務員の配置転換・早期退職、旧行政単位間の調整、住民への周知など実務面で慎重なロードマップが必要と指摘する声もあります​。 総じて、この行政刷新は腐敗の温床となりうる冗長な組織を刈り取り、国家発展の原動力を生み出す「痛みを伴う改革」と位置付けられています。 党中央委は関連法制の整備について2025年6月末までに憲法改正および地方行政組織法(改正法)など必要な法改正を完了し、7月1日から新体制を施行するよう求めました。政府も直ちに動き、4月14日には首相が政府の再編実施計画を承認し、各省庁に対し具体策の検討と課題整理を指示しています​。 首相は「職務の重複や空白を招かないようにしつつ、適材適所で責任体制を明確にせよ」と述べ、再編準備を迅速かつ円滑に進めるよう強調しました。2025年後半より順次統合作業が進められ、遅くとも2026年の次期国会議員選挙・人民評議会選挙までに新しい行政区画での体制が整う見通しです。なお再編に伴う官公庁施設や資産については、統合後に不要となる庁舎を医療・教育・文化施設など公益用途へ転用する方針も示されています​。 決議60号には、再編後の34省・市の名称と新行政中心地の一覧が添付されています。以下に、統合されない11の省・市および統合によって新設(または拡大)される23の省・市の案をまとめます(新名称と行政中心地は基本的に現行のいずれかの名称・都市を継承) ハノイ市、フエ市、ライチャウ省、ディエンビエン省、ソンラ省、ラングソン省、クアンニン省、タインホア省、ゲアン省、ハティン省、カオバン省 新設後の省・市 (種別) 統合される旧行政単位 新省都(行政中心地) トゥエンクアン省(省) トゥエンクアン省 + ハザン省 トゥエンクアン市(現トゥエンクアン省) ラオカイ省(省) ラオカイ省 + イエンバイ省 イエンバイ市(現イエンバイ省) タイグエン省(省) バクカン省 + タイグエン省 タイグエン市(現タイグエン省) フート省(省) ヴィンフック省 + フート省 + ホアビン省 ヴィエットチー市(現フート省) ※注1 バクニン省(省) バクニン省 + バクザン省 バクザン市(現バクザン省) フンイエン省(省) フンイエン省 + タイビン省 フンイエン市(現フンイエン省) ハイフォン市(中央直轄市) ハイズオン省 + ハイフォン市 ハイフォン市(現ハイフォン市) ニンビン省(省) ハナム省 + ニンビン省 + ナムディン省 ニンビン市(現ニンビン省) クアントリ省(省) クアンビン省 + クアントリ省 ドンホイ市(現クアンビン省) ※注2 ダナン市(中央直轄市) クアンナム省 + ダナン市 ダナン市(現ダナン市) クアンガイ省(省) コンツム省 + クアンガイ省 クアンガイ市(現クアンガイ省) ザライ省(省) ザライ省 + ビンディン省 クイニョン市(現ビンディン省) ※注3 カインホア省(省) ニントゥアン省 + カインホア省 ニャチャン市(現カインホア省) ※注4 ラムドン省(省) ラムドン省 + ダクノン省 + ビントゥアン省 ダラット市(現ラムドン省) ダクラク省(省) ダクラク省 + フーイエン省 ブオンマトート市(現ダクラク省) ホーチミン市(中央直轄市) バリア=ブンタウ省 + ビンズオン省 + ホーチミン市 ホーチミン市(現ホーチミン市) ドンナイ省(省) ドンナイ省 + ビンフオック省 ビエンホア市(現ドンナイ省) タイニン省(省) タイニン省 + ロンアン省 タンアン市(現ロンアン省) カントー市(中央直轄市) カントー市 + ソクチャン省 + ハウザン省 カントー市(現カントー市) ヴィンロン省(省) ベンチェ省 + ヴィンロン省 + チャヴィン省 ヴィンロン市(現ヴィンロン省) ドンタップ省(省) ティエンザン省 + ドンタップ省 ミトー市(現ティエンザン省) ※注5 カマウ省(省) バクリエウ省 + カマウ省 カマウ市(現カマウ省) アンザン省(省) アンザン省 + キエンザン省 ラッギア市(現キエンザン省) ※注6 注1:新フート省の省都は現フート省のヴィエットチー市と推定。 注2:新クアントリ省は名称に反し省都を現クアンビン省のドンホイ市に置く計画 。 注3:新ザライ省は省都を現ビンディン省(クイニョン市)に置く)。 注4:新カインホア省は実質的にカインホア省がニントゥアン省を編入(名称・省都ともカインホア)。 注5:新ドンタップ省は省都を現ティエンザン省(ミトー市)に置く。 注6:新アンザン省は省都を現キエンザン省(ラッギア市)に置く。 上記のように、統合後の新名称は基本的に統合前のいずれかの省名・市名を継承し、行政中心地(省都)についても統合前から引き続き使用するケースがほとんどです。例えばハイズオン省はハイフォン市に編入され姿を消しますが、新行政単位は「ハイフォン市」として存続し、省都も引き続きハイフォン市に置かれます。 一方で省都を別の旧省側に置く例もあり(上表の注2, 注3, 注5, 注6など参照)、統合後の名称と中心都市の組み合わせは一部現在の地理感覚と異なるものとなります 。これは統合される各地方のバランスや歴史的経緯を考慮した結果とみられ、今後ベトナム国会の具体的な決議を経て正式決定される予定です。 以上が、2025年4月の党中央委決議第60号に基づく地方省・市の再編計画の概要です。決議60号は、行政効率の向上と統治機構の近代化を目指す大規模改革であり、今後数年をかけて段階的に実施される見通しです。改革の成否は、人員削減に伴う行政サービス維持や新体制への円滑な移行にかかっており、政府は慎重に実行計画を進めるとしています。

米国、ベトナム製品への関税46%を発表—2025年4月9日施行へ

コラム
2025.04.03
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米国、ベトナム製品への関税46%を発表—2025年4月9日施行へ
米国のトランプ大統領は現地4月2日(ベトナム3日早朝)、大規模な「トランプ関税」を発表し、ベトナムからの輸入品に対して 46% もの高関税を課す方針を示しました​。4月9日からの施行が予定されています。この新関税措置は、世界各国から米国への輸出品に一律10%の最低関税を課す「全方位関税」戦略の一環であり、各国ごとに「相互的」と称する追加関税率が設定されています。例えば中国34%、EU20%、台湾32%、日本24%、インド26%などが公表されており、ベトナムへの46%はカンボジアの49%に次いで2番目に高い税率です​。 これは事実上、ベトナム製品の大半が米国市場でほぼ半額以上の関税負担を強いられることを意味し、サプライチェーンや貿易環境に大きな波紋を呼んでいます。 ベトナムは近年、米中貿易戦争の「漁夫の利」も得て対米輸出を急拡大させてきました。米政府データによれば、2024年に米国がベトナムから輸入した商品は約1,366億ドルに達し、対米貿易赤字(米国側から見た赤字)は1,235億ドル超と過去最大を更新しました​。これは中国、EU、メキシコに次ぐ世界第4位の対米黒字であり​、米国に輸出する主要貿易相手国の中でベトナムが最も対米輸出依存度の高い国となっています​。実際、ベトナムの輸出の29%(金額ベース)が米国向けであり、その額はベトナムGDPの約30%に相当します​。これはメキシコ(約27.6%)をも上回り、他の大国(中国は2.5%、日本は3.7%)と比べても突出しています​。 トランプ政権はこうした巨額の対米貿易赤字と他国の高関税を問題視し、「相互関税」(Reciprocal Tariffs)と称して各国が米国製品に課しているとされる関税率の約半分を米国側も課す方針を掲げました​。ベトナムは関税・非関税障壁が高く通貨政策も米国の不満対象であり、「ホワイトハウスが設定した関税適用基準を満たす国だ」と指摘されています​。このため「最大の対米黒字国の一つで、なおかつ米国への安全保障上の脅威を直接は与えない国」であるベトナムがターゲットになったと報道されています。 実際、ファム・ミン・チン首相は新関税発動に先立つ3月、米国からの輸入拡大に向けて国内関税の引き下げを検討しており、3月31日には自動車・LNG(液化天然ガス)・一部農産品の関税引き下げを発表するなど土壇場の歩み寄りを図りました​。 しかしそれでも急増する対米黒字への懸念は拭えず、今回ついにベトナム製品の90%以上を対象に46%もの高関税賦課が公式発表された形になります。   46%という異例の高関税は、ベトナムが強みを持つほぼ全ての産業に影響を及ぼします。特に以下の主要セクターが打撃を受ける見込みです。成長目標であるGDP成長率8%の目標達成のさらに難しくなるかもしれません。 ベトナムは米国向け衣料品輸出で中国に次ぐ地位を占めてきました。ナイキやアディダスといった世界的スポーツブランドは近年生産拠点を中国からベトナムへ大きく移転しており、ナイキは2024年度に自社靴の50%、衣料品の28%をベトナムで生産しています​。今回の関税でこれら衣料・履物製品の米国向け価格は大幅上昇が避けられず、メーカー各社はコスト増を吸収するか値上げかの苦渋の選択を迫られます​。 モーニングスターのアナリストは「関税拡大が現実になれば、ナイキにとって深刻な問題となる」と指摘しており​、実際ナイキやルルレモンなど業界各社は在庫処分セールや値引きで対応せざるを得なくなる可能性があります。また、米国のスニーカー平均価格は近年すでに上昇傾向(2019年比+25%)にあり、さらなる値上げは消費者離れを招きかねません​。。頻繁に購入する衣料品の値上がりには人々も敏感で、「衣料コスト増には消費者の抵抗が大きい」との見方もあります​。 ベトナムはサムスン電子やフォックスコン(鴻海)など海外ハイテク企業の大規模製造拠点となっており、スマートフォンやPC、半導体部品から電気機器まで幅広い電子製品を米国に輸出しています​。2024年には米アップルの関連サプライヤーもベトナム生産を拡大しつつありました​。こうした電機産業製品にも一律46%の関税が課されれば、米国での販売価格が跳ね上がり需要減少は避けられません。特にスマートフォン・タブレット等は関税転嫁で価格が2~3割以上上昇する恐れが指摘されており​、競争力低下は免れないでしょう。 生産企業は他国への生産移転を模索するとみられますが、「カンボジアやインドネシアなど他の東南アジア諸国も同様に関税対象になる可能性があり、生産コストも上昇し始めている」(香港MGFソーシングCEO)とされ、簡単には迂回できません​ 。結果として、一部高付加価値な製品は米国内生産や近隣国(例:メキシコ)での生産へのシフトも検討されるでしょう。 家具はベトナムが米国市場で近年躍進した分野です。2020年以降、ベトナムは米国向け木製家具の最大供給国となり、市場シェア35~40%を占めています​。対中関税の影響で多くの家具メーカーがベトナムに生産を移した結果、2023年の木製品輸出額は約131.8億ドルに達しました​。 46%関税の適用により、米国の家具小売業者は価格転嫁を迫られるか、他国調達への切り替えを検討するでしょう。競合のタイやマレーシアからの輸入にも関税(それぞれ36%、24%)が課されますが​、それでもベトナム製に比べ負担は軽いため、ベトナム産家具の受注減少は避けられない見通しです。日本企業では、ニトリなどがベトナムに自社工場を構えるなど生産を行っていますが、米国向け輸出には逆風となりそうです。 ベトナム産のコーヒーや胡椒、カシューナッツといった農産物、エビ・魚介類など水産物も米国市場で存在感があります。特にエビはベトナムが世界有数の輸出国であり、米国の食卓にも広く浸透しています。46%の関税が課されれば、ベトナム産エビやパンガシウス(ナマズ)の米国向け価格競争力は大幅に損なわれ、代替調達先(インドやエクアドル等)へのシフトが進むでしょう。実際、米国向け水産物加工工場では冷凍エビ製品が主力ですが​、関税コスト増によって現地輸出企業の収益圧迫は避けられません。ベトナム国内の農漁業者にも波及し、水産加工業の雇用や生産にも影響が及ぶ懸念があります。 上記以外にも、ベトナムは履物・カバン、家具以外の木材製品、ゴム製品、機械部品、自転車など多彩な製品を米国に輸出しています。例えば新興の電気自動車メーカーVinFast(ベトナム)は米国市場進出を図っていましたが、46%関税下では価格競争力を確保するのは困難でしょう。 また、自動車部品や電子部品などサプライチェーン中間財の輸出も関税コスト増で減速が予想され、ベトナムを生産拠点とする多国籍企業の輸出戦略全般に見直しが迫られる可能性があります。   企業レベルでは、Nike(履物の25%をベトナムで製造)やDeckers Brands(68のサプライヤーがベトナムに所在)などの企業が株価下落(それぞれ6%以上、9%以上)を経験しました (Nike Impact, Deckers Brands)。WayfairやAmerican Eagleも株価が下落し、製造拠点を他国に移転する可能性を検討しています。消費者は価格上昇(特に履物、家具、玩具)に直面する可能性があります。現状欧米の英語ニュースが多く、ベトナム現地報道が増えるとさらに様々な企業の反応が出てくるでしょう。   ベトナム政府は、関税リスクを軽減するために事前に対策を講じていました。2025年3月31日から、米国製品(自動車、エタノール、LNG)の輸入関税を削減し、SpaceXのStarlinkサービスを承認するなど、貿易バランスを改善しようとしています (Vietnam Tariff Cuts)。また、17のFTAを活用して市場を多様化し、FDI(外国直接投資)の吸引を強化する戦略も進めています。 企業レベルでは、製造業の他国への移転(カンボジア、フィリピン、メキシコなど)や、コストを消費者へ転嫁する動きも見られます(しかし、カンボジアは今回ベトナムより高い関税率)。特に国内の繊維や家具企業は、代替市場を見つけるのが難しく、注文減少やキャッシュフローの悪化が予想されます。 今回のベトナム製品への46%関税発動は、単なる二国間問題に留まらずグローバル供給網への広範な影響を及ぼす重大事です。 日本のビジネス関係者にとっても他人事ではなく、リスク管理と戦略的対応が不可欠です。一方で、ピンチをチャンスに変える発想も重要です。地政学リスクに強い経営体質を構築しつつ、ベトナムや他のASEAN諸国との連携を深め、新たなビジネス機会を模索することが、日本企業にとっての次の一手となるでしょう。

ベトナムの2024年4月30日・5月1日の連休について(南部解放(戦勝)記念日と国際メーデー)

コラム
2025.03.27
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ベトナムの2024年4月30日・5月1日の連休について(南部解放(戦勝)記念日と国際メーデー)
ベトナム労働法第112 条により、 南部解放(戦勝)記念日(Ngày Chiến thắng):4 月30 日と、国際メーデー(Ngày Quốc tế lao động:):5 月1 日は祝日となっています。 通常であれば、その直後の5月2日(金)は平日となり休みにはなりません。しかしベトナム政府は、官公庁の職員がこの期間に5連休を取得できるよう特別措置を講じることを決定しました。具体的には、2025年5月2日(金)を休日とする代わりに、直前の4月26日(土)を振替出勤日とすることにより、4月30日から5月4日までを連休とする方針です今回は4月26日が業務日となって、代わりに5月2日が休暇となり、土日も合わせれば5月5日までの5連休になる会社が多くなります。 4月30日(水): 南部解放記念日 5月1日(木): メーデー 5月2日(金): 振替休日(4月26日の労働日の振替)   4月26日(土) 4月27日(日) 4月28日(月) 4月29日(火) 4月30日(水) 5月1日(木) 5月2日(金) 5月4日(土) 通常の土曜日 労働日とする提案 通常の日曜日 平日 平日 南部開放記念日 国際メーデー 振替休日 会社により週休日   上記のように、土日と連休との間に5月2日の平日が挟まっているため、5月2日(月)を振替休日とし、5連休とすることが政府方針です(4月26日の分は別途振替出勤日とする)。 しかし、これはあくまで公務員向けのものであり、民間企業は各社の判断になるのが現状です。

ベトナム、「一時在留許可カード購入制度」検討とビザ制度見直しの詳細

コラム
2025.03.20
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ベトナム、「一時在留許可カード購入制度」検討とビザ制度見直しの詳細
ベトナム政府は、外国人の長期滞在を促進するためにビザ制度全般の見直しを行い、その一環として「一時在留許可カード(暫定的な居住証)を購入できる制度」の導入を検討しています。2025年3月15日、ファム・ミン・チン首相は関連省庁に対し、この新制度の具体的なメカニズム構築に向けた調査・研究を指示しました。以下では、現時点で公表されている内容と、ビザ緩和・在留制度改革の動きについて整理します。 ベトナム政府は、コロナ後の国際観光・投資回復基調を捉えながら、2025年以降の経済成長目標を維持すべく、外国人の入国・滞在をより円滑にする政策を進めています。従来から掲げる方針は「社会経済の発展に寄与する外国人の積極的な受け入れ」です。今回の取り組みも、この方針の延長線上に位置づけられます。 ファム・ミン・チン首相が「一時在留許可カード購入制度」の研究指示 対象分野:観光客、専門家、富裕層、科学者、芸術家、トップアスリートなど特定グループ別にビザ・在留要件を総点検 ベトナムでは既に投資額に応じて最長10年の在留許可が得られる投資ビザ制度がありますが、今回の「購入制度」はそれを補完・拡張する選択肢となり得ます。政府は、特に富裕層や高度人材を呼び込む「ゴールデンビザ」的な施策にも触れており、さらなる開放策に意欲を示しています。 2025年3月、滞在可能期間が15日から45日に延長されているビザ免除措置について、日本を含む12か国を対象に3年間の延長を行いました。期間は2025年3月15日から2028年3月14日までの3年間有効です。 過去の政府決議(2022年・2023年)で設定された免除要件は2025年3月15日をもって失効しましたが、これまでと同様の内容を延長するものとなっています。 ベトナム政府、ビザ免除措置を更新|2025年〜2028年の新ルールと注意点まとめ eビザの申請から発給までのオンラインプロセスが見直され、処理速度・UIが向上する見込みです。観光客やビジネス渡航者が自国から簡便にビザを取得できるよう、政府がシステムのアップグレードを進めています。 ITやハイテク産業などの優先分野に従事する外国人を対象に、就労許可証の発給要件緩和や一部免除が提案されています。 本制度については首相の研究指示が出たばかりで、具体的な仕組みは今後検討される段階です。法改正や新政令の制定が必要と見込まれており、制度設計には時間を要する可能性があります。 想定される内容としては、資金拠出(投資)によって長期滞在資格を得る、いわゆる「ゴールデンビザ」型の制度になる可能性が高いとされています。既存の投資ビザ制度と併せて、より柔軟に在留権を取得できる選択肢が追加される見込みです。 犯罪歴のチェック、資金の出所確認などの規定は厳格化されると考えられます。安全保障や公共秩序に関わるリスクを回避するため、政府は要件や審査プロセスを慎重に定める見通しです。 今回の制度見直しは、コロナ後の経済回復を後押しし、観光業界や外国投資誘致に一定のプラス効果をもたらすと予測されます。一方で、外国人流入増加に伴う治安・インフラへの負荷、住宅価格上昇などの懸念にも対応が必要です。ここでは、制度が確定していない状況でもあるため、主なポイントのみ記載します。 ビザ免除枠の拡大により、短期渡航が増加する可能性。 「在留許可カード購入制度」によって富裕層や高度人材が長期滞在しやすくなる余地。   日本人のビザなし滞在期間が45日へ延長されていることにより、短期出張の手続きが簡素化。 新たな在留資格取得ルートの整備により、駐在員の派遣や専門家の招聘が柔軟化する可能性。 在留資格を「購入」できる制度には、不正利用や治安面の懸念が付きまとうため、厳格な審査が想定される。 観光ビザや免除措置の拡大に伴い、目的外活動(不法就労など)の取り締まりも強化される公算。 企業・個人ともに、引き続き就労許可や在留資格の範囲内で活動することが求められる。 2025年3月中にも関係省庁が検討結果をまとめるとされており、その後、法改正や政省令の整備が進む見通しです。 観光・サービス業界はビザ緩和策を歓迎する一方、治安・インフラ面の懸念から制度導入にはバランスある運用が求められます。タイ・インドネシアなど周辺国でも同様の長期滞在ビザ(デジタルノマドビザ等)が活発に導入されており、ベトナムも競争力強化の一環として制度設計を加速させる可能性があります。 上記はまだ検討中のものが多く、実際どの程度の制度になるかは不明ですが、日本からの投資家にも影響が大きくなる可能性は高く、今後の動きを注視したいと思います。

ベトナムにおける民事執行手続の概要と実務上の留意点

コラム
2025.03.19
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ベトナムにおける民事執行手続の概要と実務上の留意点
ベトナムでは、民事裁判の判決や決定を実際に実現するための民事執行制度が整備されています。日本企業を含む外国企業としては、訴訟や仲裁で勝訴判決を得るだけでなく、その後にしっかりと債権回収・履行確保ができるかどうかが最終的なポイントです。本コラムでは、ベトナムの民事執行手続について、金銭債権の強制執行や不動産・動産の引渡し執行を中心に、法的枠組みや実務上の留意点、外国企業に特有の課題・対策などを幅広く解説いたします。 ベトナムの民事執行制度は、民事判決執行法(2008年法律第26号)に基づいて定められています。 執行機関は司法省(日本でいう法務省に相当)の指揮下にあり、全国の省(地方)および郡(県)レベルに“民事判決執行機関”が置かれています。 これらの機関に所属する執行官(Chấp hành viên)が、具体的な執行手続(差押えや競売など)を担当します。 ベトナムでは判決の執行が行政手続と位置づけられており、裁判所は執行に直接は関与しません。もっとも、執行官の行為に不服がある場合には裁判所が審査を行うなど、一部司法的な関与も残されています。 ベトナムの民事判決執行法では、まずは債務者に任意の履行を促すのが基本姿勢(民事判決執行法第9条1項)とされています。 債務者が期限内に支払いや引渡しを行わない場合、執行官が強制執行手続に移行して財産調査や差押えに着手します。   判決が確定し、金銭債権(支払命令)を勝ち取った債権者は、判決確定日から5年以内に執行申立てを行わなければなりません。 執行申立先は、原則として判決を出した裁判所の所在地に対応する民事判決執行機関です。 申立書には当事者情報や執行を求める内容を記載し、執行文付きの判決書など必要書類を添付する必要があります。 執行機関が申立てを受理すると、通常5営業日以内に「判決執行決定」が発出され、債務者に10日前後の任意履行期間が与えられます。 任意履行期限の経過後 任意期限を過ぎても債務者が支払わない場合、執行官は10日以内に強制執行手続へ移行します。 財産調査 執行官は債務者の財産や口座、収入などを調査し、差押えの可否や優先順位を判断します。 差押え・評価・競売 預金口座であれば口座凍結、動産・不動産ならば差押えの上で専門機関の評価や競売を実施します。 売得金の配当・弁済 競売などで得た代金を債権者へ配当し、残金があれば債務者に返還する流れです。 執行官には強制執行を進めるための広範な権限が与えられており、必要に応じて警察(公安)の協力を得ることも可能です。   判決で不動産の明け渡しや動産の返還が命じられた場合も、民事執行機関が手続を担当します。 執行官が現地に赴き、占有者(債務者)に退去を命じます。 債務者が応じない場合は警察の立会いのもと強制的に排除し、不動産を勝訴当事者に引き渡します。 ただし、高齢者・子どもが居住している場合などは社会的配慮が必要となり、実務上は時間がかかることも多いです。 差押え・接収を行い、動産を債権者へ引渡します。 債務者が故意に物を隠したり破損させたりする恐れがあるときは、仮差押えなどの保全措置を活用することが有効です。 すでに物が滅失している場合は、同種の代替物や損害賠償に切り替えることも検討されます。   執行申立ての管轄は、基本的に原審裁判所と同じ地域の執行機関です。 主な必要書類は以下のとおりです。 ・判決書(執行文付き) ・申立書 ・代理権証書(代理人が申立てを行う場合) ・その他関連資料(公証書や和解調書など) 要件を満たさない場合は5営業日以内に却下となる可能性があります。適法に受理されれば執行決定が出され、正式な手続が開始されます。   ベトナム法では、判決で敗訴した債務者に対し財産状況を誠実に申告する義務を課しています。 執行官は債務者の事業所や自宅を検査し、銀行や土地使用権登録所、社会保険機関などにも照会を行い、財産の所在や名義を突き止めます。 債権者側が債務者資産に関する情報を集め、執行官に提供することも可能です。 実務では、こうした情報提供が執行官の調査を補強することで、回収の迅速化に役立ちます。 債務者に財産が見当たらない場合でも、法律上、半年おきに再調査が行われる仕組みがあります。 ただし、まったく資産がなければ回収は困難で、債権者が事実上「泣き寝入り」せざるを得ないケースもあります。   執行官は裁判所とは独立した行政官であり、判決の具体的な実現を担う重要な存在です。 主な権限 ・差押えや競売など各種決定の発出 ・当事者・関係者の呼出しや事情聴取 ・不動産・動産への立ち入りや接収を含む強制措置 ・警察への協力要請や抵抗妨害への対処 ・公正中立な執行義務(違反すれば懲戒・刑事責任の追及もあり)   ベトナムでは毎年執行件数が増加しており、「執行可能」と判断された案件の8割前後が完了しているとの統計もあります。 ただし、金額ベースの回収率は約半数程度にとどまり、大型の不良債権などは執行不能案件として残りやすい実情があります。 ホーチミン市など大都市は複雑な事案が多く、執行官1人あたり400~500件を抱えることもあるため、業務負担が大きく遅延要因となっています。   執行長期化・遅延 差押え・競売手続が長期にわたり、数年後にようやく回収が完了することも珍しくありません。 債務者の抵抗・財産隠し 預金を引き出して親族名義に移す、不動産に居座るなど、悪質な手段で執行を免れようとする事例が後を絶ちません。 手続濫用 債務者が苦情申立てを乱発し、執行を意図的に引き延ばすケースがあります。 執行機関の課題 執行官の過重労働や手続ミス、汚職リスクなど。現在は監察強化による改善が進んでいます。 無資力・夜逃げ 債務者にまったく資産がなく所在不明の場合、実質的に回収不能となります。   外国判決の直接執行は原則不可 ベトナムは日本を含む多くの国と民事判決相互執行条約を締結していないため、日本の裁判所判決などはそのままベトナムで強制執行できません。 1958年ニューヨーク条約に基づく外国仲裁判断ならば、ベトナム裁判所の承認・執行許可を得て国内で執行する道があります。 言語・手続面のハードル ベトナム語への翻訳、公証・認証など事務負担が大きく、コストもかかります。 現地代理人(弁護士)の起用 法律実務や関係当局との調整において、現地弁護士が不可欠です。 契約段階からのリスクヘッジ ・ベトナムで執行可能な裁判・仲裁管轄を定める ・動産担保や保証人の設定 ・前払い条件や厳格な遅延損害金条項 ・これらを活用し、将来の回収リスクを下げることが重要です。   ベトナムでは判決を得ても、実際の強制執行がスムーズに進むとは限りません。執行官のリソース不足や債務者の抵抗などが現実の課題です。 相互執行条約がない国の判決はそのまま執行不可となるため、ベトナム国内の裁判所または国際仲裁を利用できるよう契約段階から工夫が必要です。 競売物件がなかなか売れない、債務者が逃亡するなどのリスクがあります。とくに不動産の強制立ち退きは地域的事情で時間を要する場合が多いです。 債務者が判決前後に財産を隠すリスクを避けるため、訴訟中に仮差押えなどの保全を検討し、または契約段階で抵当権を設定しておくと、強制執行が容易になります。 手続全般がベトナム語で進むうえ、各地方の運用差も大きいため、経験豊富なローカル弁護士との連携が不可欠です。 債務者資産の独自調査や関係機関との折衝など、専門家のネットワークを活かすことで執行成功率を高められます。 債務者が無資力であれば回収は困難です。契約先の信用調査や与信管理を徹底し、早めの債権保全を行うことが重要です。 ベトナムの民事執行制度は整備が進み、執行官が行政官として強い権限をもつという特徴があります。一方で、執行の長期化や債務者の抵抗など、実務的にはスムーズにいかない場面も多々あります。特に外国企業は、判決承認や翻訳・公証手続、言語面のハードルを踏まえ、早い段階から専門家と連携しながら対応を進めることが肝要です。 ベトナムでの債権回収を成功させるには、契約時のリスクヘッジ、執行可能な紛争解決条項の設定、そして実際に執行が必要になった際の迅速な対応と粘り強い追及が不可欠です。最終的には「判決を取って終わり」ではなく、「実際に資金や物を回収・引渡しを得てこそ真の勝利」といえます。ぜひ本稿のポイントを踏まえ、ベトナムビジネスの安定的な取引・リスク管理にお役立てください。

ベトナム政府、ビザ免除措置を更新|2025年〜2028年の新ルールと注意点まとめ

コラム
2025.03.11
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ベトナム政府、ビザ免除措置を更新|2025年〜2028年の新ルールと注意点まとめ
ベトナム政府は2025年3月7日付で発行した決議第44号/NQ-CPにより、一部の外国人に対するビザ免除措置を延長・改訂しました。 これにより、従来のビザ免除措置(決議第32号/NQ-CPおよび第128号/NQ-CP)に代わる形で、2025年3月15日から2028年3月14日までの3年間、新しい制度が適用されます。本コラムでは、この新たなビザ免除の内容や背景、従来制度との違いなどを整理し、わかりやすく解説します。 今回の決議第44号では、下記の12か国がビザ免除対象となりました(2028年3月14日までの期間)。 ドイツ フランス イタリア スペイン イギリス(英国および北アイルランド) ロシア 日本 韓国(大韓民国) デンマーク スウェーデン ノルウェー フィンランド 従来リストに含まれていたベラルーシが今回外れたため、13か国から12か国に減少した点です。 2023年8月15日に施行された改正出入国管理法に基づき、ビザ無しでの最大滞在期間は15日間から45日間に延長されています。決議第44号でも、この最長45日間の滞在が引き続き適用され、観光や短期出張などの目的であればビザ手続きなしで渡航が可能です。 適用開始日:2025年3月15日 適用終了日:2028年3月14日 この3年間の時限措置として運用されます。旧決議(第32号・第128号)に基づくビザ免除措置は2025年3月14日で失効し、翌日(3月15日)から本決議が有効となります。 パスポートの種類や入国目的を問わず一律でビザ免除 ただし入国時点で有効なパスポートを所持していること 往復航空券(または第三国行きの航空券)の保有 出入国管理上の問題がないこと こうした従来から定められていた基本要件は、新決議でも踏襲されています。45日を超えて滞在したい場合や、就労など別の在留資格が必要な場合には、ビザ延長または在留資格変更手続きを行う必要があります。 ベトナム政府は2022年3月の決議第32号/NQ-CPで主に日本や欧州主要国を対象に一方的ビザ免除措置を実施し、当初は15日間までの滞在を認めていました。適用期限を2025年3月14日までとしていたところ、2023年8月の決議第128号/NQ-CPで滞在可能日数を45日間に延長するなどの修正が行われました。 旧リストには含まれていたベラルーシが、新たな決議44号では除外されています。そのため、対象国数は13→12に変更され、ベラルーシ国籍者はビザ免除を利用できなくなりました。ベトナム政府から公式な理由説明はなく、今後の追加措置については未定です。 今回の決議44号とは別枠で、2025年3月1日から同年末までの限定期間、ポーランド・チェコ・スイス国民に対して観光目的のビザ免除が試行導入されます。旅行社を通じたツアー参加者向けの特例措置とされ、ベトナム政府の観光振興策の一環です。成功すれば、ほかの欧州諸国へ拡大する可能性もあると報じられています。 45日以上の滞在・就労には別途ビザが必要 長期滞在(45日を超える観光・商用・留学など)や就労を伴う場合は、従来通り労働許可証や在留資格(ビザ)の取得が必須です。 パスポート残存有効期間 一般的に、ベトナム入国時にはパスポート残存期間が6か月以上あることが望ましいとされています。具体的な要件は実務上変わる可能性があるため、渡航前に最新情報を確認する必要があります。 電子ビザの活用 ビザ免除対象外の国籍や45日を超える滞在を予定している方は、ベトナム政府が発行する電子ビザ(E-visa)を検討できます。最近の法改正により、電子ビザの有効期間延長(最長90日)や対象国の拡大が進められています。 旧決議との整合性 2025年3月14日までは旧決議(32号・128号)が継続し、3月15日付で新決議44号が発効します。途中期間で制度が切り替わるため、渡航予定日が2025年3月15日前後にかかる方は特に注意が必要です。 ベトナム政府は公式声明で、「経済・観光振興の観点から、ビザ免除の対象国や期間を必要に応じて延長・拡大する可能性がある」旨を示しています。また、欧州連合(EU)諸国からは「EU加盟国すべてへのビザ免除」を求める声が高まっており、ベトナム側でも観光収入増や投資促進の狙いから、さらなる国・地域の追加を検討する余地があるとみられます。 一方で、国際情勢や各国との外交関係によっては、今回のように対象リストが変更されるリスクも否定できません。常にベトナム政府の公式発表や在外公館の情報を確認し、最新の入国要件を把握することが大切です。 決議第44号/NQ-CP(2025年3月7日付)により、従来のビザ免除措置は2025年3月15日に切り替えられ、対象は計12か国、最長45日間の滞在が2028年3月14日まで認められます。ベラルーシが除外された一方、新たにポーランド・チェコ・スイスへ限定的な試行免除が導入されるなど、一部変化が生じています。 45日を超える滞在や就労目的の場合は別途ビザが必要であり、旧制度と同様にパスポート残存有効期間などの基本的要件も維持されています。 ビザ免除措置はベトナム側の「一方的措置」であるため、今後の外交方針や国内事情に応じて変更が加えられる可能性があります。渡航計画を立てる際は、必ず最新の政府公報や大使館・総領事館のウェブサイトを確認することが重要です。 ベトナム、「一時在留許可カード購入制度」検討とビザ制度見直しの詳細

ベトナム・ホーチミン市、マンション民泊を禁止―2025年開始の規制内容について

コラム
2025.03.10
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ベトナム・ホーチミン市、マンション民泊を禁止―2025年開始の規制内容について
ホーチミン市において、2025年2月27日に26/2025/QĐ-UBNDが公布され、これまで明確になっていなかったAirbnbなどの民泊を明文で規制し、具体的な条件などが規定されました。不動産所有者にとっては大きい影響があるため、本コラムではこれまでの規制の背景や規制の具体的内容などについての詳細をまとめます。今後はその他の市や省への影響も懸念されます。 ホーチミン市ではここ数年、Airbnbなどの短期宿泊賃貸サービスが拡大し、マンション(集合住宅)での民泊利用が急増してきました。報道によれば、あるマンションでは居住戸数の60%が短期賃貸に転用されていたとの報告もあります。4区の「Masteri Millennium」では1か月の宿泊客が約1300人に達し、その約8割が外国人旅行者だったというデータも示されています。 このように「事実上のホテル」としてマンションを活用する動きは、エレベーターや共有設備の混雑、騒音や治安リスクなど、常住住民との摩擦を生みました。例えば人気マンションではエレベーター待ち時間が3〜5分から10〜15分に延びたケースもあり、住民が生活に支障を来す事態が発生。さらに、薬物使用など違法行為への懸念も高まり、マンション管理組合や地元当局へ「規制強化」を求める声が続出しました。 社会的には住居としてのマンションの安全・秩序維持が重要視され、経済面ではホテル業界との公平性や課税逃れ問題が指摘されてきました。実際に不動産業界団体などからは「民泊を行うなら事業登録と納税を義務付けるべきだ」という声があり、これらが重なった結果、ホーチミン市当局の規制強化に至ったとみられます。2025年3月には同市人民委員会がマンション使用規定を改正し、住宅用マンションでの短期宿泊営業を明確に禁止する旨を公布しました。 ベトナムではもともと2014年住宅法第6条第11項に「集合住宅を居住目的以外に使用する行為」が明確に禁止されており、マンションをオフィスやホテルのように転用することは原則違法とされていました。ただし長らく有名無実化し、民泊に対する明確なガイダンスがなかったため、Airbnbなどは事実上容認されていた状況です。 しかし2023年に国会で可決された新住宅法(法律番号27/2023/QH15)において、2024年8月1日から施行される改正規定でも「居住目的以外での集合住宅の使用」や「関連法令に反する宿泊賃貸」が禁止行為として再確認されました。短期宿泊向けにマンションを転用することは「非居住目的の使用」とみなされる可能性が高く、違法性を問われる余地があります。 もっとも、「民泊」を名指しで禁止する条項は現時点で存在せず、「数日貸し」が即違法と断定できるかは解釈の争いが残っています。住宅法や関連法令に抵触しない範囲での住宅賃貸は認められるとの見方もある一方、「短期貸しは実質的にホテル業」として無許可営業を問題視する意見も強い状況です。 現時点では政令や通達レベルでの公式解釈が未整備で、ベトナム国内でも見解が分かれているのが実情といえます。 ホーチミン市では2025年3月、マンション管理・使用規定を改正し、「住宅用途のマンションで短期宿泊サービス営業を行うこと」を明文で禁止しました。もし宿泊サービスを行う場合は商業用途を含む複合型マンションであること、正式な観光宿泊の認可を受けることなど条件が課されるため、いわゆる一般的な分譲マンションでのAirbnb営業は認められない方針を明確化しています。これは市として独自に強力な取り締まり根拠を得たともいえます。 集合住宅を本来の居住目的以外で使用した場合、2000万~4000万ドン(約11万〜22万円)の罰金が科され、短期賃貸をやめて居住用途に戻すよう命じられます。実際にバリア・ブンタウ省では、2023年住宅法施行後に短期賃貸禁止の通達をもとに1000万~2000万ドンの罰金を課した事例が報告されています。 無許可で宿泊サービスを行えば、観光や営業許可の不備として別途制裁される可能性があります。また、外国人客の一時滞在登録を怠った場合も公安当局より罰金を科されることがあるため、オーナー側には複合的なリスクが生じます。ホーチミン市警察は2023年に5645人の外国人の滞在登録違反を摘発しており、取り締まりが強化される傾向にあります。 ビジネスモデルの転換 これまでマンションをAirbnb用に購入・運用してきた投資家は、短期賃貸禁止によって長期賃貸への切り替えや物件売却を余儀なくされ、投資回収計画に大きな影響が及びます。 収益性の低下 Airbnb運用で順調に稼働していた場合、1部屋あたり月に500万〜600万ドン(約2.9万〜3.5万円)の利益を得ていたとの報告があります。長期賃貸へ切り替えると利回りは一般的に下がるため、ローン返済に影響が出るオーナーも増加するとみられます。 掲載物件の激減 管理組合が「短期賃貸禁止」と明示して警備員が出入りを厳格にチェックする結果、マンション物件のAirbnb掲載数は70〜80%減少との報告があります。 営業エリアの移動 規制の厳しい4区などから、取り締まりの手薄な地区(7区やビンタイン区など)へ移動するホストもおり、市全域で一斉に取り締まりが行われなければ“いたちごっこ”が続く懸念があります。 宿泊オプションの減少 ホテルより安価で複数人利用や自炊が可能な民泊は、中程度の収入層やバックパッカーに人気でした。民泊を失うことで旅行費用が増加すれば、観光需要の減少や他都市・他国への流出が懸念されます。 地域経済の波及効果 民泊利用者が住宅街の飲食店などで消費することで地域経済が潤う側面がありました。ホテル集中により、こうした“地元消費”が失われるとの指摘もあります。 ホテル業界へのプラス効果 一方で、無許可の民泊が減ることで正規ホテルの稼働率や売上が向上し、価格設定やサービスも改善される可能性があります。また、Airbnb物件が長期賃貸市場へ流れれば、地元居住者にとって賃料の選択肢が広がるメリットもあるかもしれません。 常住住民・管理組合の支持 「マンション本来の住環境を取り戻せる」と歓迎する声が強い一方、短期賃貸を続けたいオーナーとの対立も一部で起きています。管理組合によるロビーやエレベーターでの掲示、警備員による出入り監視が強化される傾向です。 投資オーナーの反発 副収入が絶たれる懸念や「所有権の制限だ」という不満も高まっており、SNS等で管理組合と衝突する事例も報告されています。 観光客の戸惑い ホーチミン市マンションでのチェックインを警備員に拒否される事例が相次ぎ、突然の予約キャンセルなど旅行者が混乱する場面が出ています。 治安維持への支持 一般市民からは「違法民泊が犯罪温床になるより良い」「適正な課税が必要」という声もあり、治安維持や公平性の観点では一定の支持があるようです。 住宅法やホーチミン市の独自規定に照らし、自ら保有するマンションが「居住目的以外の利用」にあたるかをまず精査する必要があります。 万一短期賃貸を行う場合は商業用ライセンス取得や複合用途マンションの区画であることなど、要件を満たしているか必ず確認してください。 外国人向け短期賃貸の手続き 外国人に貸す際は、一時滞在登録が義務付けられており、怠ると公安当局から罰金を科されるリスクがあります。 そもそも住宅法上、外国人に貸す場合は貸主・借主双方が法定条件を満たす必要があるため、形式上の契約や手続をきちんと行うことが求められます。 管理規約で独自に短期賃貸を禁止しているマンションが増えています。オーナーであっても管理規約に違反すればペナルティや実質的な営業不能状態に陥る可能性が高いです。 管理組合と事前に十分協議し、物件用途・利用ルールの合意形成を図ることが重要です。 民泊を事業として行う場合、観光業ライセンスの取得や旅客宿泊業としての届出、売上把握に基づく課税が求められる可能性があります。 Airbnb等のプラットフォームを通じた収益を当局に把握される流れが強まることが想定されるため、脱税とみなされないよう適切な会計処理が必要です。 建設省は「居住用住宅を賃貸すること自体は住宅法で認められる」との見解を示しつつ、住宅法第160条・161条等を遵守するよう促しています。ただし、ホーチミン市のような大都市では、独自の管理規定や強い取締りが先行しており、今後さらに詳しい通達や政令が定められる可能性があります。 観光客誘致において民泊は安価で多様なニーズに対応する重要な選択肢です。一方でマンション住民の平穏な居住環境も守らなければなりません。今後は一律禁止を続けるのか、あるいは許認可制・日数制限・課税強化など、海外事例を参考にした折衷案が検討される余地があります。 2023年の住宅法改正に加え、ホーチミン市の姿勢は「強い取り締まり」に傾いています。短期的には罰則強化や管理委員会との連携で違反行為を厳しく抑制する流れが加速するでしょう。抜け道として“親戚訪問”を装うケース等もあるため、さらなる実効性のある仕組みが整備されるか注視が必要です。 ホーチミン市マンションでの観光宿泊賃貸禁止措置は、2014年・2023年住宅法の規定を背景に、さらに2025年3月の市独自規定で強化された形となっています。実質的には「一般的な住宅用マンションを短期賃貸(民泊)に転用する行為が違法」と判断されやすい状態です。違反時には2000万~4000万ドンの罰金や営業停止が科されるなどペナルティも明確化されており、市当局や管理組合が積極的に取り締まりを進めています。 投資家や民泊ホストにとっては大きな経済的打撃となる一方、住民側からは騒音・治安リスクの軽減を歓迎する声が強く、不動産市場や観光業にも賛否両論の影響が広がっています。将来的には観光振興とのバランスを考慮した管理策の整備が課題となりますが、当面はホーチミン市におけるマンション短期賃貸は禁止が基本スタンスであり、違反リスクへの注意が欠かせません。 実務上はまだ民泊が各プラットフォームで公開されており、どの程度厳しく取り締まられるかはわからない状況です。今後の動向を注視しつつ、正規の許認可手続きや長期賃貸の活用など、適法かつ持続可能な運用を図ることが肝要です。

ベトナムの税金未納者に対する出国禁止措置 – 政令49/2025/ND-CPの概要と留意点

コラム
2025.03.03
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ベトナムの税金未納者に対する出国禁止措置 – 政令49/2025/ND-CPの概要と留意点
2025年2月28日に公布・即日施行された政令49/2025/ND-CPにより、一定の税金滞納者に対して出国が一時的に禁止される(出国停止)仕組みが明文化されました。 税務管理法や関連政令で従来から存在していた規定を、具体的な金額要件や滞納期間の設定、出国禁止までの手続を含めて整備した点が大きな特徴ですが、外国人には金額要件が明確化されていません。本稿では、主な対象要件や手続き、企業・個人への影響、他国制度との比較を踏まえたうえで、本制度をどのように理解し運用・対応すべきかを解説します。 以下、政令49/2025/ND-CPの主なポイントを説明します。 政令49/2025/ND-CPでは、税金を滞納している個人や法人代表者に対し、以下のように滞納額や滞納期間に応じて出国禁止措置を行うと定めています。 実際、従来の運用下で少額滞納者への出国禁止が発動された事例が報じられ社会問題化しました。2024年5月には、ホーチミン市税関当局が未納額約99万ドン(わずか4千円相当)の企業社長に対し出国禁止措置を要請し、大きな議論を呼んでいます​。他にも数十万~数百万ドン程度の滞納で経営者が空港で足止めされたケースが複数確認され、「厳しすぎる措置ではないか」との批判が出ました​。 今回はこれを明確化するという趣旨があります。政令49/2025/NĐ-CPでは、税金滞納者に対する出国禁止措置(一時的な出国の延期。ベトナム語:tạm hoãn xuất cảnh)が適用されるケースを明確に4類型定めています​。それぞれの要件は以下のとおりです。 税務当局による強制執行段階にあり 5,000万ドン以上(約2,000米ドル相当)の税金を滞納 法定の納期限を120日超過 税務当局による強制執行段階にあり 5億ドン以上(約2万米ドル相当)の税金を滞納 法定の納期限を120日超過 登記上の所在地で営業実態がなく、納税も滞っている 金額要件の定めはなく、滞納分があるかぎり適用可能 当局の出国禁止通知から30日経過後も未納であれば出国停止が発動 ベトナムを出国する時点で税金の未納がある 納税義務を果たさない限り、一時的に出国が停止される 上記のとおり、一般的には「個人5,000万ドン以上」「法人代表5億ドン以上」「いずれも滞納120日超」という比較的明確な線引きが設けられました。 一方で、外国人、所在不明や国外移住等のケースについては金額要件がなく、滞納状態であれば広く対象となる点が特徴です。引き続き日本人駐在員には不透明な状態が続くとみられます。 出国禁止措置は、税務当局と公安省入国管理当局が連携して以下の流れで実施されます。 税務署が対象者へ電子的に「出国禁止予定」を通知 所在不明の場合はウェブサイト公告などで告知 通知から30日以内に完納すれば出国禁止措置は回避可能 納税がない場合、税務署が入国管理当局に「出国禁止依頼」を送付 対象者情報が出境審査システムへ登録され、空港等で出国が差し止められる 滞納額を完納すると税務署が即時に解除通知を発行 入国管理当局は通知受領後24時間以内に出国禁止を解除 30日間の猶予期間が設けられていること、納付完了後の手続きが24時間以内に迅速処理されることは、納税者の権利を一定程度保護しつつ法執行を担保する仕組みといえます。 では、このような改正が企業や個人にどのような影響をもたらすでしょうか。 大口かつ長期の税金滞納者に対して出国を禁止する措置は、納税を促す強力な圧力となります。専門家の見解によれば、こうした制度により税収確保と公平な税負担が図られ、国家予算にも寄与すると期待されています。 一方で、経営者が海外出張や国際交渉のタイミングで出国停止となった場合、事業活動に支障が出る可能性は否めません。過去には大手企業のCEOが未納税を理由に出国禁止処分を受け、企業再建や資金調達に悪影響が及んだ例もありました。また少額の滞納であっても通知が届かず、出国審査時に突然足止めを受けるケースが報告されているため、定期的な納税状況チェックが大切です。 アメリカでは連邦税の深刻な滞納(概ね5万米ドル超)に対し、国税庁(IRS)が国務省に通報することでパスポート発給や更新が拒否され、実質的に海外渡航ができなくなる制度が運用されています。ただし滞納通知後に分割納付などの合意を結べば制裁回避できるなど、一定の手続保障が組み込まれています。 中国には法執行上の「出境禁止」制度があり、税務・債務問題や公共利益関連の事案でも広範に出国を制限する仕組みがあります。日本や欧州諸国では出国禁止制度そのものは一般的ではなく、財産差押えや訴追など他の手段による滞納処分が主流です。 ベトナムの制度は、比較的少額の滞納(個人5,000万ドン、法人5億ドン)でも出国が直ちに差し止められる可能性がある点が特徴的といえます。 一方、過去には少額滞納者にも厳格適用され、社会的議論を呼んだ経緯があるため、今回の政令で明確な金額基準と猶予期間を示したことは法的安定性の向上につながると評価されています。 今後の在ベトナム企業の留意点としては以下のような点が挙げられます。 本措置は税務管理法(2019年改正)や政令126/2020/NĐ-CPにも根拠があり、政令49/2025/NĐ-CPはその具体的運用を定める位置づけです。電子システムによる当局間連携により、納付完了時の速やかな出国禁止解除が期待されていますが、実際の現場では人的ミスやデータ伝達の遅延が完全に排除されるわけではありません。出国前に納税証明書等を取得しておくなど、納税者側の自己防衛も有効です。 日頃からの税務管理強化 期日内納付と納税履歴の定期チェックを徹底する 通知システムの確認 税務当局からの電子連絡を確実に受け取れる体制を整備する 完納証明書の取得 滞納が解消された場合、税務署に納税証明書(tax clearance)を求め、出国時のトラブルに備える 経営トップの渡航予定把握 経営層に滞納があると海外出張に支障が出る可能性があるため、法人内で早めに対応を検討する 政令49/2025/ND-CPが定める税金未納者の出国禁止措置は、ベトナム政府の税務コンプライアンス強化策の一環として施行されました。 金額要件と滞納期間が具体化されたことで、従来のあいまいな基準による混乱が緩和され、公平かつ予見可能性の高い運用が期待されます。一方で、企業経営や外国人の海外渡航への影響は大きく、通知が届いてから30日以内に納税が完了しない場合には実際に出国できなくなる点に十分注意が必要です。 今後は、税務当局と入国管理局の電子連携が円滑に機能するか、あるいは実務レベルで誤計上や手続き遅延がどの程度抑えられるかが重要な論点になります。いずれにせよ、ベトナムでビジネスや在住を行う企業・個人としては、出国直前に予期せぬ制限を受けることのないよう実務上の動向も引き続き留意が必要です。

【ベトナム相続】ベトナム不動産に関して遺言を作成する場合、どのような手続きが考えられますか。

コラム
2025.03.01
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【ベトナム相続】ベトナム不動産に関して遺言を作成する場合、どのような手続きが考えられますか。...
近年、日本人によるベトナム不動産の購入機会が増えています。しかし、購入者が亡くなった際、相続人として「どう相続手続きすればよいかわからない」「名義変更に時間がかかる」といったトラブルも少なくありません。将来、円滑に大切な資産を引き継ぐためには、遺言を作成しておくことを強くおすすめします。 ベトナムの不動産を特定の相続人(例えばお子様など)に相続させたい場合、以下の2つの方法があります。 日本法に基づいて、日本国内の公証役場で遺言を作成する(ベトナム民法681条2項b)。 ベトナム法に基づいて、ベトナムの公証役場で遺言を作成する(ベトナム民法681条2項本文)。 理論上は上記のとおり二つの遺言作成方法がありますが、実務上、日本の公正証書遺言の有効性を認めた事例は確認されていないため、実際に相続が発生した際、円滑に名義変更ができるかは不透明です。 そのため、ベトナム不動産については、②の「ベトナム公証役場での遺言作成」を推奨します。 配偶者がいる場合、遺言作成時に配偶者の共同署名が必要です。 相続開始後は、遺言をもとにベトナム公証役場で「相続宣言手続」(公証法第57条)を行い、その後、土地管理当局(天然資源環境省)でピンクブック(権利証)の名義変更手続きを進める流れになります。 親から子(嫁・婿含む)への不動産相続については、ベトナムでは所得税が免除されます(通達No.111/2013/TT-BCT第3条1項d)。 そのため、ベトナムでの税負担はありません。 ベトナム不動産の相続や贈与に関する手続きは、日本とは異なる点が多く、戸惑うことも少なくありません。 「もしもの時」に備えて、早めに遺言作成や手続き方法について検討を始めることが、家族への安心につながります。特に、ベトナム現地での遺言作成がスムーズな相続へのカギとなりますので、早期の専門家活用をお勧めいたします。  

【ニュース】ベトナムへの越境EC等の小口輸入品についての免税範囲の見直し(財務省提案の段階)

コラム
2025.02.18
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【ニュース】ベトナムへの越境EC等の小口輸入品についての免税範囲の見直し(財務省提案の段階)...
本日2025年2月18日より、100万VND以下の小口輸入品についての輸入税免税規定が廃止されています。 ベトナム決定01/2025/QĐ-TTg:小口輸入免税の廃止と新たな課税ルール 一方で、財務省は以下のとおり免税対象範囲の見直しと、それ以外の義務などを合わせて政令を提案中との報道がなされており、こちらが早急に検討されそうです。 一時混乱はありそうですが、新たな制度が始まる可能性が高いため越境EC業界含め要注目ですね。 下記が現在提案されている政令の要点です。 単品価格200万VND以下の商品にVAT免除 同一購入者における年間累計96百万VNDの上限 食品/化粧品等の消費財に限定(工業用部品は除外) 年4回まで検査免除可能 危険物・文化財等は除外対象 分割購入防止のためIPアドレス追跡システム導入 詳細は以下のとおりです。 財務省の新政令案:免税対象範囲の見直し 財務省は免税規定廃止後の新たなルールとして、越境ECを通じて輸入される小口商品の課税に関する政令案を準備中です​。この案では、小額輸入品に一定の範囲で再び免税枠を設ける一方、悪用防止のため厳格な条件を付与する内容となっています。 免税対象の範囲拡大と上限設定 政令案によれば、オンラインプラットフォーム(ECサイト)経由で購入された1件あたりの商品価値が200万ドン(約1万〜1万2千円)以下の輸入品については、輸入関税および輸入段階のVATを免除することが提案されています​。これは従来の100万ドンから閾値を引き上げるもので、小口輸入品に対する免税枠の拡大と言えます​。 ただし年間の累計購入金額が9600万ドン(約55〜60万円)を上限とし、それを超えると免税措置は適用されません​。。この年額上限は、一人の消費者または一企業が免税制度を利用できる総額に上限を設けることで、免税枠の乱用(大量の小口分割発注による免税適用の繰り返し)を防ぐ狙いがあります​。 なお、1件あたり200万ドンを超える注文や、年間上限を超過した場合には、その注文の商品全価値に対して通常の関税・VATが課される仕組みです​。部分的に超過分のみ課税するのではなく、閾値を超えた場合は全額に課税される点に注意が必要です​。 対象となる品目 この免税措置の対象は「オンライン商取引を通じて購入された商品」とされています​。すなわち、ShopeeやLazada、Alibaba系サイト、TikTok Shopなど越境ECプラットフォームを通じた個人輸入品が主な対象です。現時点で特定の商品カテゴリの除外は明記されていませんが、財務省案では2つの選択肢が示されています​。 一つは(A)関係当局が指定する特定品目以外は免税対象外(通常どおり許認可・検査が必要)とする案、もう一つは(B)上記の金額基準に合致するもののみ一律に免税対象とする案です​。後者の場合でも、たとえば禁制品や輸入に際し特別な許可が必要な医薬品・農薬等は従来通り規制対象となるとみられます(それらは別途の法律で輸入自体に許可が必要です)。 実際、ドラフトでは「輸入許可証や各種証明の取得・専門検査を免除する対象品目のリスト」を策定することも検討されており、このリストに載らない商品はたとえ少額でも通常の検査手続きを経る可能性があります​ 。最終的な対象品目の詳細については、関係省庁間の協議で確定する見通しです。 検査免除の条件と不正対策 新政令案には、通関時の検査(専門検査や許認可手続)の免除条件についても明確な条件が盛り込まれています。具体的には、価額が200万ドン以下の越境EC輸入品であれば、年間最大4回までは輸入の際に各種の許可申請や品質検査等を免除する方針です​。ただし5回目以降の輸入や、上述の年間累計9600万ドンを超える場合には、たとえ1件ごとの金額が少額でも通常の検査手続が必要になります​。 この「年4回までの検査免除」という頻度制限は、同一人物が免税枠を悪用して大量の小口発送に分散することを防ぐ効果を狙ったものです​。財務省によれば、こうした回数制限と金額上限を組み合わせることで、利用者が政策の穴を突いて注文を細切れに分割する行為に歯止めをかける意図があります​。 不正対策としては、購入者や送付先の識別情報を一元管理・追跡する仕組みづくりが欠かせません。 具体的には、個人識別番号(納税者IDや身分証情報)に基づいて年間免税枠の利用状況を管理することが想定されます。さらに、同一人物が複数のアカウントや住所を使って回数制限を逃れようとするケースへの対策として、ECプラットフォーム側でのデータ連携や、場合によってはIPアドレスなど技術的手段での検知も議論されています。 財務省はまた、免税対象となる商品をまとめ買い(「gom hang」)して国内で転売するような行為を禁止する規定も提案しており​、越境ECの個人輸入制度を悪用した業者的行為には厳しい姿勢を示しています。 施行時期と政府・関係機関の見解 上述の免税廃止措置(100万ドン以下の免税枠撤廃)は2025年2月18日付で既に発効しています​。一方、新たな政令案については現在パブリックコメントや関係省庁との協議を経ている段階で、正式な施行時期は未定です。 財務省は2023年からこの問題に取り組み、2023年6月には一度政府に対し同趣旨の政令案を提出していました​。その後、越境EC取引のさらなる拡大を受けて内容を追加修正(年4回の制限規定などを盛り込み)し​、2024年末〜2025年初頭に改めて策定した草案を発表しています​。関係者によれば、司法省の審査を経て最終案が首相に提出・承認され次第、2025年中にも新ルールが施行される見通しです。 政府および関係機関も、この政策変更について明確な見解を示しています。国会では「小口だからといって免税するのは不公正であり、越境ECを利用した事実上の脱税を許すべきではない」との声が上がっていました​。 実際、国内販売される商品には一律10%のVATが課税されますが、これまで海外ECからの直送品だけが免税されていたため、国内業者にとって競争上のハンデとなっていた面があります。財務省も「小口輸入品の免税は国内製造業や通常の輸入品との競争条件を歪め、不公平を生んでいる」と指摘し、現行制度をこのまま放置すれば「輸入EC商品への逆保護(逆差別)」につながりかねないとの懸念を表明しました​。また、免税によって品質検査が省かれることで、低品質・模造品が無検査で大量流入するリスクも問題視されています​。こうした理由から、政府としては免税措置の見直しは避けられないとの判断に至ったわけです。 国際的に見ても、越境ECに係る課税の強化は一つの流れです。例えばタイでは2024年5月1日から、輸入額にかかわらず全ての輸入商品にVATを課す制度を導入しました​。。欧州連合(EU)も既に2021年に22ユーロ以下のVAT免税枠を撤廃し、少額でも確実にVATを徴収する仕組みに移行しています(関税については150ユーロ以下無税の枠が残っています)。 ベトナム財務省は、こうした近隣諸国や世界の動向も踏まえつつ、自国の電子商取引市場に適した制度設計を進めていると述べています​。 日系企業への影響とまとめ 日本の越境EC事業者および日系企業にとっても、ベトナム市場戦略の見直しが必要になるでしょう。ベトナムの消費者向けに少額の商品を直送販売している場合、今後は顧客が税負担を負うことになるため、価格設定やマーケティングに配慮が求められます。 例えば「送料無料・消費税込み」のような形で、税負担込みの総額表示や事前徴収を行うなど、購入者に分かりやすい対応が重要です。 また、年間4回までの免税枠という制限から、リピーター顧客が頻繁に小口購入する業態では、まとめ買い割引や現地在庫の活用といった配送回数を減らす工夫も検討すべきでしょう。逆に高額商品の場合はもともと課税対象であったため、大きな影響はありませんが、通関手続きが厳格化されることで配送リードタイムが伸びる可能性には注意が必要です。 総じて、ベトナム政府の今回の措置は、越境EC市場の健全化と税収確保、国内産業保護を目的としたバランス策と言えます​。免税の恩恵が縮小することで一時的な取引減少も予想されますが、長期的には透明で公正な競争環境の整備に寄与するでしょう​。ベトナムの越境EC市場は東南アジアでトップクラスの成長率(年15〜20%)を示しており、市場規模は2024年時点で250億ドルを超えるとされています​。 日本企業にとっても依然として魅力的な市場であることに変わりはなく、今回の制度変更を正しく理解し適応することが、今後のビジネスチャンスを活かす鍵となるでしょう。