2021年施行の投資法・企業法の重要点を教えて下さい。(期間限定公開)
- 2020.11.24
- 投資
- 投資一般・会社設立
目次
■2021年施行 ベトナム新投資法・企業法の重要ポイント
2020年6月17日、投資法(以下「新投資法」といいます。)及び企業法(以下「新企業法」)がベトナム国会で可決され、2021年1月1日から施行されます。新投資法・新企業法は2014年公布・2015年7月1日施行の現行法(以下「2014年投資法」「2014年企業法」といいます。)に代わって施行されるものであり、重要な変更もあるため、主要な変更点について解説します。
第1.投資法
1.規制分野、優遇分野に関する変更
そもそも投資できる分野・業種なのかについて、投資法は根幹の規定となりますが、その点について全体としては若干緩和、明確化される方向となっています。
① 条件付き投資分野リストの調整・減少
新投資法により、債権回収サービス事業は条件付き投資分やから禁止分野リストに変更されました。ベトナムでの条件付き投資分野(投資に関して一定の条件が課される分野)に関して、新投資法は以下、24の事業を廃止し、8の事業を追加しました。このため、これまでは243事業だった条件付き投資分野は、227事業となります。たとえば、フランチャイズ事業や物流事業などが条件付き投資分野から削除されており、外資系企業にも影響が出そうです。
ただし、実際に廃止される分野についての運用は個別法が出ないと変わらない可能性が高いですので、今後の法令の改正を確認していく必要があります。
|
|
|
|
② 投資優遇分野・対象・適用形式の調整
また、2014年投資法と比較して、新投資法は、以下のとおり何らかの投資優遇分野・対象を追加しました。たとえば、障害者雇用のプロジェクト、創造的スタートアップ投資プロジェクト、中小企業の物流チェーン経営投資などについて優遇が追加されています。
優遇の内容としては、従来同様の企業所得税の免税・減税などの税務上の優遇措置、輸入税の免除、土地使用料等の減免のほか、短期の減価償却や控除可能な費用の増加なども挙げられています。
③ 外国投資家に対する市場参入制限分野リストの公表
この①−③に加え、新投資法9条により、政府は、各種法令・条約などに基づき、外国投資家に参入を記載する分野を別途明確に規定することとされました。この規制の対象は、(a)市場参入が認められない分野と、(b)市場参入が条件付きとされる分野が含まれることとなります。これまでは、WTOコミットメントなど各種の個別の文書を参照して規制を確認することが必要でしたがが、明示されることになりそうです。
この点は、外国投資家にとっても、これまで調査しづらかった規制の理解に寄与すると考えられます。
2. 外国投資家の資本比率変更に関する規制
これまで2014年投資法の下では、「外国投資家の出資比率がベトナム国内経済組織の51%以上になる場合」に、M&A承認と呼ばれる外国投資家の出資条件を審査する手続が必要とされていた。一方、新投資法では、この手続について「51%以上」から「50%を超える」場合に変更されました。
また、従前は実務上51%を超える外国投資家比率のある企業については、同じ比率で出資者が変更される場合であってもM&A承認が必要とされていました。しかし、新投資法では、保有比率が従前から増加しない場合にはM&A承認が必要とされないことが明確となりました。
この点は、M&A承認が必要な場面が少なくなったという点において、外国投資家にとっても重要な変更点となっています。一方で、外国投資家が条件付き投資分野に投資する場合には、上記比率にかかわらずM&A承認が必要とされていますが、この点の変更はありません。
第2. 企業法
1. 現物出資の期限の調整
2014年企業法では、企業登録証明書の発行日から90日以内にすべての種類の出資を完了するものとされていました。この点、新企業法では、出資財産を運送、輸入し、又はその財産の所有権移転のための行政手続を実施する時間を含まないと明確化されました。
2. 社印の事前通知義務の削除
2014年企業法では、企業は、社印の使用前に社印の印影を経営登記機関に通知する義務を負っていましたが、新企業法ではこの通知の必要性がなくなりました。これも含め、新規業法では各種手続の電子化が想定されています。現状、ベトナムの各種行政手続の電子化は遅れていますが、新企業法下で電子化やそれに伴う手続の迅速化が加速することが期待されます。
3. 有限責任会社における変更点
ベトナムでは3人(社)以上の株主を必要とする株式会社ではなく、有限責任会社が一般的であり、新企業法でも同様です。2014年企業法において各社の法定代表者は複数定めることができるようになっていたものの、その役職については特に明確に規定されていませんでした。これに関して、新企業法では、一人の法定代表者は、社員総会の会長、社長又は総社長でなければならないとされました。その他、細かい点が多く修正されていますが、紙面の関係上省略します。
4. 株式会社における変更点
① 少数株主保護
株式会社においても、大枠は変わらないものの細かく修正されています。特に少数株主の権利は変更されており、新企業法は、株主総会の招集の請求、監査役会に対し会社の管理運営活動に関わる検査の請求、また株主総会の決議の取消請求の保有比率を「10%」から「5%」に減少しており、かつ、「6ヶ月間以上継続」という保有期間を廃止しています。また、取締役会の決議の停止・取消の訴訟提起に関する「1年間」の保有期間要件(比率は特に制限なし)、会長・社長・取締役へ会社を代表する損害賠償請求を起こす保有期間である「6ヶ月」の保有期間要件(1%の保有比率は同様)はいずれも削除されました。。
② 監査委員会会長の要件の緩和
2014年企業法において会計士又は監査人である必要があるとされていたため、選任が難しい場合もあった監査役会会長について、新企業法では、経済・財務・会計・監査・法律・経営管理又は企業経営に関する専門分野で大卒以上の証明書を付与された者とされており、資格の限定がなくなりました。
■終わりに
以上に記載した以外にも新法として様々な部分に変更のある投資法・企業法ですが、ベトナムでの他の法分野と同様、今後出される下位法令や実務上の運用によって、実際は大きく変わってくる可能性もあります。引き続き、このような情報に注視が必要です。