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- 2026.08.12
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2026年ベトナム「建国記念日(独立記念日・国慶節)」休暇について
2026年のベトナムの建国記念日(国慶節)は2026年9月2日(水)です。本コラムでは建国記念日前後の休暇についてまとめます。 今年は、昨年までと異なり「振替(hoán đổi)」が導入されています。公的機関は8月31日(月)を休みにして5連休とし、その代わりに8月22日(土)が出勤日となります。この振替は民間企業には適用されないため、自社の休暇日程をどう設定するかで対応が分かれます。 なお、2025年は建国80周年としてハノイで大規模な軍事パレードとそのリハーサルが行われましたが、2026年は81周年であり、本コラム作成時点で同種の国家級パレードは公表されていません。あわせて、2026年から法定の有給休日が年間12日に増えています。これらの点を含め、ベトナム現地の日系法律事務所の観点から整理します。 2026年の国慶節は、9月2日(水)です。公務員等の公式な休暇は、8月29日(土)〜9月2日(水)の連続5日間(週休日2日+振替休日1日+国慶節2日)と通知されています。 8/22(土):出勤日(8/31の振替として勤務) 8/28(金):連休前の最終開庁日 8/29(土):週休日 8/30(日):週休日 8/31(月):振替休日(8/22に出勤する代わりの休日) 9/1(火):国慶節に付随する休日(前日) 9/2(水):建国(独立)記念日 当日 9/3(木):業務再開 (上記は「9441/TB-BNV」による公式スケジュールです。) 対象は、行政機関、事業体、政治組織および政治社会組織の幹部・公務員・職員です。土日固定の休日制をとっていない機関は、各機関の業務計画に応じて休暇を配置することとされています。また内務省は、連休中も国民・企業向けの行政サービスが途切れないよう、当直体制を整備するよう求めています。 実務上、注意していただきたい変更点があります。2025年の国慶節休暇は労働傷病兵社会省(Bộ LĐ-TB&XH)の通知6150/TB-BLĐTBXH号によるものでしたが、2025年の省庁再編で同省が内務省(Bộ Nội vụ)に統合されました。 さらに、内務分野の国家管理における権限分配に関する政府令(政令第128/2025/ND-CP号、2025年7月1日施行)第7条2項により、労働法第112条3項に基づく祝日日程の具体的通知は内務大臣が行うこととされました。従来「首相が決定する」と説明されていた部分が変わっていますので、社内規程や年間カレンダーに根拠を記載している企業は、更新をご検討ください。今後は「TB-BNV」の番号で通知を確認することになります。 労働法(法律第45/2019/QH14号、2021年1月1日施行)第112条1項(d)上、国慶節は2日間(9月2日+その前日または翌日のいずれか1日)の有給休暇です。どちらを選ぶかは、前記1.1のとおり、毎年の実情に応じて内務大臣が決定・通知します。 また、週休日が祝日と重なった場合は、翌営業日に振替休日を与える必要があります(労働法第111条3項)。もっとも、2026年は9月1日(火)・2日(水)がいずれも平日ですので、この規定に基づく代休は発生しません。この点は昨年より判断がシンプルです。 企業(民間)は、2026年の国慶節の2日間として A案:9/1(火)+9/2(水)、または B案:9/2(水)+9/3(木) のいずれかを選択できます。実施の少なくとも30日前までに従業員へ通知してください(同通知9441号)。通知9441号も、公務員スケジュールに準拠すること、および労使間でより労働者に有利な休暇案を協議することを推奨しています。 実務上は、学校が公的機関の日程に従うことも踏まえると、A案(9/1+9/2)を採用し、8/31(月)をどう扱うかを別途決めるという整理が現実的です(後記3.)。 30日前通知の期限は既に経過しています A案(9月1日開始)であれば8月2日、B案(9月2日開始)であれば8月3日が30日前にあたります。本コラム公開時点では、いずれの期限も経過しています。まだ社内通知を出していない場合は、直ちに書面またはメールで通知を行い、記録を保存しておくことをお勧めします。 なお、この30日前通知の懈怠それ自体に対する明示的な罰則規定は、現行法令上、必ずしも明確ではありません。もっとも、通知の遅れによって従業員が休暇を取得できなかった場合には、後記4.の祝日休暇に関する制裁の対象となり得ます。形式面の不備を残さないことが安全です。 日付 公的機関 区分(A案) 区分(B案) 8/22(土) 出勤日 週休日 週休日 8/28(金) 最終開庁日 平日(通常勤務) 平日(通常勤務) 8/29(土) 週休日 週休日 週休日 8/30(日) 週休日 週休日 週休日 8/31(月) 振替休日 平日(※後記3.参照) 平日(通常勤務) 9/1(火) 国慶節の付随休日 国慶節の付随休日(推奨) 平日(通常勤務) 9/2(水) 国慶節当日 国慶節当日 国慶節当日 9/3(木) 業務再開 平日 国慶節の付随休日 ※2026年は週休日と祝日が重ならないため、労働法111条3項に基づく代休は発生しません。 ※公的機関の8/22(土)出勤・8/31(月)休日は、民間企業には自動的に適用されません(後記3.)。 「政府が8/22(土)出勤・8/31(月)休みにするなら、当社も同じにすればよい」という発想は、民間企業では法的リスクを伴います。通知9441号の振替措置は、あくまで公的機関等の職員を対象とするものであり、民間企業の労働時間・休日は労働法の一般規定に従うためです。 労働法第111条2項は、使用者が週休日を日曜日または週の他の特定日に配置する権限を有するとしつつ、これを就業規則(Nội quy lao động)に記載しなければならないと定めています。したがって、土曜日の位置づけは各社の就業規則によって異なり、割増率も変わります。 就業規則上、土曜日も週休日とされている場合 → 8/22の労働は200%以上 週休日は日曜のみで、土曜は週40時間制の枠内の非労働日とされている場合 → 所定労働時間を超える部分は150%以上 いずれの場合も、時間外労働には労働者本人の同意が必要です(労働法第107条2項a号)。また、月40時間・年200時間(一部業種は年300時間)という時間外労働の上限規制も適用されます。「振替出勤日だから通常賃金でよい」という運用は、法的根拠を欠くおそれがあります。 8/31(月)は民間企業にとって通常の労働日です。これを休みにして5連休を実現する場合、次の3つの整理が考えられます。 方法 内容と法的根拠 留意点 ① 年次有給休暇の計画付与 使用者は労働者の意見を聴取したうえで年次有給休暇の日程を定め、事前に通知できる(労働法第113条4項) 意見聴取と事前通知のプロセスを記録に残すこと。年休残日数が不足する従業員への配慮が必要 ② 会社付与の有給特別休暇 法定を上回る有利な取扱いとして、賃金を支給したうえで休業とする 最も安全でトラブルが少ない。1日分の人件費が追加コストとなる ③ 8/22出勤との振替 公的機関と同様に土曜出勤と組み合わせる 前記3.1のとおり割増賃金の対象となり得る。就業規則・労働協約との整合確認と労働者の同意取得が不可欠 当事務所の観点からは、コストと法的安定性のバランスを踏まえ、②の会社付与による有給特別休暇、または①の年次有給休暇の計画付与を基本とし、③を採用する場合は事前に就業規則を確認したうえで書面による同意取得と割増賃金の計上を行うことをお勧めします。なお、何の整理もせずに会社都合で休業とした場合、労働法第99条3項の「休業(ngừng việc)」として賃金支払義務が生じる可能性がありますので、「とりあえず休みにする」という運用は避けるべきです。 やむを得ず国慶節に出勤させる場合、最低でも300%(日給制は当日の賃金とは別に300%)の支払いが必要です。週休日は200%、通常日の時間外は150%が最低水準です(労働法第98条、および労働法の一部条項の詳細規定に関する政府令〔政令第145/2020/ND-CP号、2021年2月1日施行〕のガイダンス)。 夜勤加算:夜間労働には30%以上の加算(労働法第98条2項)、夜間の時間外労働にはさらに20%の加算(同条3項) 同意:時間外労働には労働者の同意が必要(労働法第107条2項a号)。一斉の強制はできません 制裁:祝日休暇に関する規定に違反した場合、個人の使用者で1,000万〜2,000万ドン、法人の場合はその2倍の2,000万〜4,000万ドンの過料(労働・社会保険等の分野における行政違反処罰に関する政府令〔政令第12/2022/ND-CP号、2022年1月17日施行〕第18条2項および第6条1項) 見落とされがちですが、労働法第112条2項は、ベトナムで就労する外国人労働者について、同条1項の祝日に加えて自国の伝統的正月1日および自国の建国記念日1日の有給休暇を付与すると定めています。 日本人駐在員の場合、日本の正月(1月1日)と建国記念の日(2月11日)が該当し得ます。ベトナム法人と直接雇用契約を締結している駐在員については、この2日間の取扱いを就業規則や個別契約で明確にしておくことをお勧めします。実務上は日本本社の年末年始休暇との調整のなかで既に消化されているケースが多いものの、規程上の根拠が整理されていない企業も見受けられます。 年間の労務カレンダーに関わる重要な改正がありましたので、あわせてお伝えします。 第16期国会第1回会期で可決されたベトナム文化発展に関する国会決議(決議第28/2026/QH16号、2026年7月1日施行)により、毎年11月24日が「ベトナム文化の日(Ngày Văn hóa Việt Nam)」と定められ、労働者は有給で休業できることとなりました。 これにより、ベトナムの有給法定休日は従来の11日から12日に増えました。2026年の11月24日は火曜日です。年間の稼働日数、人件費予算、工場の生産計画、納期設定などに影響しますので、下期の計画を確定する前に社内カレンダーを更新しておくことをお勧めします。 休暇方式(A案 or B案)を決定し、未通知であれば直ちに全従業員へ通知(社内掲示・メール・勤怠システム)し、記録を保存。 8/31(月)を休業とする場合、年休の計画付与か会社付与の有給休暇かを明確にする。 8/22(土)出勤を検討する場合、就業規則の週休日の定めを確認し、同意取得と割増賃金の計上を行う。 シフト・生産計画・顧客対応を5連休(A案想定)で設計。取引先の休暇日程がA案・B案でずれる可能性を前提に相互確認する。 祝日出勤の賃金設定(150%・200%・300%の適用)を給与ロジックに反映。 行政機関は8/28(金)が最終開庁日、再開は9/3(木)。投資登録証明書(IRC)・企業登録証明書(ERC)の変更、労働許可証、ビザ・一時滞在許可、各種届出は8/28までに完了させる。 8/22(土)は行政機関が開庁。窓口対応が可能な1日として活用の余地がある。 商業銀行の休業日程は各行の判断による。取引銀行の告知を個別に確認し、給与振込・海外送金・決済を前倒しする。 連休は国内旅行の繁忙期。航空券・ホテルの手配は早めに行う(空港での手続についてはタンソンニャット国際空港のプレアライバル申告制度もご確認ください)。 2026年は建国81周年にあたります。2025年(建国80周年)にハノイ・バディン広場で実施されたような国家級の軍事パレードおよびリハーサルは、本コラム作成時点で公表されていません。ハノイ市では、文化体育局傘下の芸術団体による記念公演が各坊・社で実施される予定とされており、2025年のような大規模かつ広域の交通規制は現時点では想定されていません。 もっとも、9月2日当日は各地で国旗掲揚式や記念行事が行われ、局地的な交通規制や混雑が生じる可能性があります。ハノイ・ホーチミン市を中心に、当日の外出・移動を予定されている場合は、直前に在ベトナム日本国大使館・総領事館および各地方当局の最新情報をご確認ください。急遽の変更が行われる可能性もありますので、時間に余裕をもった行動をお願いします。 なお、建国記念日(独立記念日・国慶節)の制度概要については、用語解説ページもあわせてご参照ください。 情報ソース: 内務省「2026年国慶節休暇に関する通知」(9441/TB-BNV)/ベトナム政府電子情報ポータル(xaydungchinhsach.chinhphu.vn、2026年8月10日・8月11日付記事)/労働法(法律第45/2019/QH14号)/内務分野の国家管理における権限分配に関する政府令(政令第128/2025/ND-CP号)/労働法の一部条項の詳細規定に関する政府令(政令第145/2020/ND-CP号)/労働・社会保険等の分野における行政違反処罰に関する政府令(政令第12/2022/ND-CP号)/ベトナム文化発展に関する国会決議(決議第28/2026/QH16号)/ハノイ市文化体育局公表資料/当事務所独自調査 免責事項: 本記事の内容は2026年8月12日時点の情報に基づいています。制度の詳細は今後変更される可能性があります。個別の案件については専門家にご相談ください。 C CastGlobal Law Vietnam Co., Ltd. ベトナム・ホーチミン市拠点の日系法律事務所。日系企業向けの企業法務、M&A、コンプライアンス、労務、知的財産を中心にリーガルサービスを提供。日本国弁護士と現地ベトナム人弁護士の協働により、現地の実務と日本企業の視点の双方を踏まえたサービスをご提供します。
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- 2026.08.07
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日本アニメ・映画の海賊版サイト運営者を初の刑事立件—「Phim Nè」事件と刑法225条
速報 ハノイ市公安経済警察部は2026年8月1日、日本のアニメ・映画・ドラマ等を無断配信していた海賊版サービス「Phim Nè」について、ウェブサイト運営者1名とアプリ運営者2名の計3名を、刑法225条2項の著作権・著作隣接権侵害罪で刑事立件したことを発表しました。日本コンテンツを侵害する海賊版サイトがベトナムで刑事摘発された初のケースです。制度としての刑事罰が「実際に動く」段階に入ったことの意味を、ベトナム現地の日系法律事務所の観点から整理します。 本稿のポイント 日本コンテンツの海賊版サイトに対するベトナム初の刑事立件。サイト側1名・アプリ側2名の計3名が対象。 適用条文は刑法225条2項(加重類型)。不正利益3億ドン以上・損害5億ドン以上という金額基準が構成要件に組み込まれている。 背景には2026年5月5日付の首相公電38/CĐ-TTgによる全国一斉取締りと、USTRによる「優先外国(PFC)」指定・セクション301調査開始という国内外の圧力がある。 ハノイ市公安経済警察部は2026年8月1日、海賊版サイト「Phim Nè(phimne.live)」の運営者1名と、海賊版アプリ「Phim Nè(phimne.app)」の運営者2名について、著作権・著作隣接権侵害の罪で刑事立件したと発表しました。 一般社団法人コンテンツ海外流通促進機構(CODA)の調査によれば、日本コンテンツを侵害する海賊版サイトについてベトナムで刑事摘発が行われたのは、今回が初めてです。ベトナムではこれまでも海賊版サイト自体を対象とする刑事事件は存在しましたが、日本の権利者が被害者となる事案で刑事手続が動いた点が新しい要素です。 同じ「Phim Nè」の名称ながら、ウェブサイトとアプリはそれぞれ異なる運営者によって運営されており、捜査上も別事件として扱われています。 項目 phimne.live(ウェブサイト) phimne.app(アプリ) 運営者 23歳男性1名(ソフトウェア工学専攻) 29歳男性2名(情報技術専攻) 運営期間 2025年6月〜 2025年初頭〜2026年4月 形態 他サイトから映画データを自動取得する仕組みを構築。管理者情報を隠す技術的措置も実施 Android TV向けアプリ。15分間の無料視聴後に会員料金を課金 規模 登録会員1,090人超/アクセス9万回超 課金件数6,451件 侵害対象 日本・米国・ベトナムの映画作品等(CODA、米国映画協会(MPA)関係作品を含む) 日本コンテンツ等 金額 著作権者が損害額を約30億ベトナムドンと見積もっている作品あり。 不正利益 約4億1,500万ドン/株式会社トムス・エンタテインメントに90億8,000万ドン超の損害 なお、ハノイ市公安が同時期に立件した著作権侵害事件はPhim Nè関連だけではありません。2026年8月3日付のベトナム紙「Đại Đoàn Kết」によれば、Phim Nèの2事件に加え、音楽作品を無断利用したカラオケ機器事業者の事件も立件されており、合計で3事件・4名が被疑者となっています。オンライン上の著作権侵害を行政処分や民事請求にとどめず、刑事事件として処理する運用が具体化していることがうかがえます。 今回適用されたのは、刑法第225条第2項です。同条は、ベトナムで保護される著作権・著作隣接権を、権利者の許諾なく故意に侵害する行為(複製、公衆への複製物の頒布)を処罰する規定です。 重要なのは、同条が金額基準を構成要件そのものに組み込んでいる点です。単に「侵害した」だけでは足りず、商業的規模での実施か、一定額以上の不正利益・損害・侵害物価額が必要となります。 項 要件(概要) 法定刑 1項(基本類型) 商業的規模での実施、または不正利益5,000万〜3億ドン未満、または権利者の損害1億〜5億ドン未満、または侵害物の価額1億〜5億ドン未満 罰金5,000万〜3億ドン、または3年以下の非拘禁矯正 2項(加重類型) ※本件で適用 1項の行為を行い、かつa) 組織的犯行/b) 2回以上の犯行/c) 不正利益3億ドン以上/d) 権利者の損害5億ドン以上/đ) 侵害物の価額5億ドン以上の場合 罰金3億〜10億ドン、または懲役6か月〜3年 3項(付加刑) 1項・2項に加えて科しうる 罰金2,000万〜2億ドン、1〜5年の職務就任禁止・業務従事禁止 4項(法人) 商業法人が本条の罪を犯した場合(2項該当時) 罰金10億〜30億ドン、または6か月〜2年の業務停止(さらに1〜3年の事業禁止等の付加刑あり) アプリ側の事案では、運営者2名の不正利益が約4億1,500万ドンとされており、2項c号の「不正利益3億ドン以上」を上回ります。また、トムス・エンタテインメントに生じたとされる損害90億8,000万ドン超は、2項d号の「損害5億ドン以上」を大幅に超過します。さらに2名による共同での開発・運営は、2項a号の「組織的犯行」に該当し得る事情です。加重類型の要件を複数満たす構造になっていたことが分かります。 今回の摘発は、単発の事件ではなく、2026年に入ってからのベトナム政府による知的財産権取締り強化の流れの中に位置づけられます。 2026年5月5日、ホー・クオック・ズン副首相は、知的財産権侵害の防止・摘発・処理に関する首相公電に署名しました。同公電は、公安省・国防省・最高人民検察院・最高人民裁判所に対し、典型的な事件の捜査・起訴・裁判に注力するよう指示しています。今回のPhim Nè事件も、この取締り強化を契機として進展したものです。 ベトナムのオンライン海賊版問題は、通商上の論点にもなっています。 2026年4月30日に米国通商代表部(USTR)が公表した「2026年特別301条報告書」において、ベトナムは「優先外国(Priority Foreign Country:PFC)」に指定されました。同報告書では、ベトナムについて、ステークホルダーから「アジア太平洋地域でオンライン海賊版の発生率が最も高い」と報告されていることが指摘されています。ベトナム政府が2026年に入って知財執行を急速に強化している背景には、こうした通商上の要請も存在します。 今回の事件の意義は、海賊版サイトが1つ閉鎖されたことではありません。日本のコンテンツを侵害する海賊版サービスについて、ベトナムの捜査機関が実際に刑事事件として立件したという点にあります。 従来、刑事罰の規定は2018年1月1日施行の現行刑法に存在していたものの、日本の権利者が関与する事案での運用実績は乏しく、「制度はあるが動かない」という評価が一般的でした。今回、その評価を更新すべき事例が出たことになります。 今後、日本の映画、アニメ、ドラマ、音楽、マンガ等を対象とするベトナム発の海賊版について、刑事手続を含む権利行使が現実的な選択肢となる可能性があります。同時に、選択肢が増えたということは、どの手段を選ぶかという判断が必要になるということでもあります。 現在もPhim Nè事件の刑事手続は継続しており、今後は公訴提起に向けた捜査が進められる見込みです。ベトナムにおける権利行使の実務は、この1〜2年で大きく変わる可能性があります。ベトナムでの知的財産権の保護についてお困りの際は、お問い合わせください。 免責事項: 本記事の内容は2026年8月7日時点の情報に基づいています。刑事手続は継続中であり、被疑者はいずれも有罪判決を受けたものではありません。制度の詳細および運用は今後変更される可能性があります。 C CastGlobal Law Vietnam Co., Ltd. ベトナム・ホーチミン市拠点の日系法律事務所。日本国弁護士と現地ベトナム人弁護士の協働により、日系企業向けの企業法務、M&A、コンプライアンス、労務、知的財産を中心にリーガルサービスを提供。
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- 2026.07.24
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ベトナム人労働者の人身損害と逸失利益―日本の賠償実務で問題となる「基礎収入」をどう考えるか
日本国内で就労するベトナム人労働者(技能実習生・特定技能外国人等)が労災事故や交通事故の被害に遭い、損害賠償請求における逸失利益の算定が争点となる事案が増えています。被害者がすでにベトナムへ帰国している場合、基礎収入はどう考えるべきか。ベトナム現地の日系法律事務所の観点から、ベトナム法における人身損害賠償の考え方と、基礎収入の立証・反証に使い得る公的統計を整理します。 本稿のポイント ベトナム法には、生涯収入ベースで将来利益を一括賠償させる「逸失利益」という損害項目自体が存在しない 日本の賃金センサスのような年齢階級別の賃金統計も公表されていない 基礎収入の立証・反証には、統計局「労働雇用調査」(2026年上半期:平均月収900万ドン≒約5.3万円)が最も客観性の高い資料となる 日本の損害賠償実務では、被害者側が日本の賃金センサス(全年齢平均で年収570万円程度)を基礎収入として逸失利益を請求するのが一般的です。これに対し、被害者がすでにベトナムへ帰国している事案では、帰国後の期間についてまで日本の賃金水準で収入を得られる蓋然性があるのか、という反論が考えられます。 そこで「ベトナムの賃金統計を使えばよいのではないか」という発想になりますが、ここには実務上いくつかの落とし穴があります。以下、順に整理します。 まず前提として、ベトナム法には、日本の実務のように生涯収入をベースに将来の得べかりし利益を一括賠償させる「逸失利益」という損害項目自体が存在しません。 生命侵害の場合の賠償項目は、民法(法律第91/2015/QH13号、2017年1月1日施行。以下「ベトナム民法」といいます)第591条が限定列挙しており、次の4項目に限られます。 死亡までの治療費等(第590条第1項の健康侵害による損害) 合理的な葬儀費用 死者が生前扶養義務を負っていた者への扶養料(定期金方式。未成年の子は18歳に達するまで等の期間制限あり。第593条第2項) 近親者(第一順位相続人等)への精神的損害に対する慰謝料 このうち慰謝料は、当事者間で合意できない場合、国が定める基礎給与の100か月分が上限とされています(ベトナム民法第591条第2項)。基礎給与は2026年7月1日以降、月253万ドンです(政府令第161/2026/NĐ-CP号、2026年7月1日施行)。したがって慰謝料の上限は2億5,300万ドン、日本円で約150万円(1円≒170ドンの概算換算。以下同じ)にとどまります。運用の細則は、最高人民裁判所裁判官評議会決議第02/2022/NQ-HĐTP号(2022年9月6日付)が定めています。 後遺障害の場合も同様で、賠償されるのは事故前の実収入を基準とした現実の収入喪失・減少分であり、収入が不安定で確定できない場合には同種労働の平均収入が基準とされます(ベトナム民法第590条第1項b号)。年齢別の賃金統計を用いて将来収入を一括算定するという手法は採られていません。 このような法定構造のため、ベトナムでは死亡事案であっても賠償総額が日本円で百数十万円から二百万円程度にとどまる例が多いのが実情です。「ベトナムにおける逸失利益(基礎収入)の算定基準」と呼べる公的な資料は存在しない、というのが結論になります。 もっとも、日本の訴訟において帰国後の期間の基礎収入を主張・反証する場面では、ベトナムの賃金水準を示す客観資料が必要になります。実務上利用し得るものとして、以下の3つが挙げられます。 資料 直近の数値 留意点 統計局「労働雇用調査」 2026年上半期:労働者平均月収900万ドン(約5.3万円)、賃金雇用労働者1,000万ドン(約5.9万円) 最も客観性が高い。年齢階級別の区分はなし 家計生活水準調査(VHLSS) 世帯員一人当たり月間所得560万ドン程度(2024年) 非就労者を含む世帯員一人当たり所得。賃金統計ではなく基礎収入の資料には不適切 地域別最低賃金 第1地域531万ドン(約3.1万円)〜第4地域370万ドン(約2.2万円)/月 出身地域に応じた賃金の下限値の参考 ベトナム統計局(Cục Thống kê。組織再編により現在は財政省の傘下)が四半期・年次で公表する公的統計で、就労者の平均月収を示す資料としては最も客観性の高いものです。直近の公表値では、2025年通年の労働者の平均月収は840万ドン(約4.9万円)、2026年上半期は900万ドン、賃金雇用労働者(給与所得者)に限ると1,000万ドンです。年収換算でおおむね60万〜70万円程度となります。性別・都市/農村・地域・産業別の内訳は公表されていますが、日本の賃金センサスのような年齢階級別の区分はありません。 「ベトナムの月間平均所得は3万円超」といった報道の出典は、多くの場合この統計です。ただし、この数値は児童・高齢者等の非就労者を含む「世帯員一人当たり」の所得であり、就労者の賃金統計ではありません。基礎収入の資料としては不適切であり、相手方がこの種の数値を援用してきた場合には、むしろ反論の材料となり得ます。 政府令第293/2025/NĐ-CP号(2026年1月1日施行)により、月額最低賃金は第1地域(ハノイ・ホーチミン等の都市部)531万ドンから第4地域(地方部)370万ドンと定められています。被害者の出身地域に応じた賃金の下限値を示す資料として参考になります。 上記の統計を利用する際には、次の点に注意が必要です。 第一に、ベトナムは賃金格差が非常に大きい国です。都市部のホワイトカラーで月収30万〜40万円という例が珍しくない一方、地方では世帯月収が数万円という地域も多く、全国平均値が個別の被害者の収入実態を適切に反映するとは限りません。 第二に、被害者側からの再反論も想定されます。具体的には、特定技能等の在留資格による再来日の蓋然性や、ベトナムの賃金上昇率を理由とする増額主張です。実際、労働雇用調査でも2026年上半期の平均月収は前年同期比8.7%増となっており、名目賃金の上昇傾向は顕著です。 第三に、これらの統計はベトナム語でのみ公表されており、日本の裁判所に証拠として提出する場合には該当箇所の特定と翻訳が必要となります。 ベトナム人被害者の逸失利益の算定は、日越両国の法制度と労働市場の実態が交錯する論点であり、日本の賃金センサスをそのまま用いることにも、ベトナムの平均賃金をそのまま用いることにも、それぞれ反論の余地が残ります。重要なのは、各統計の性質(就労者の賃金か、世帯員一人当たり所得か)を正確に把握した上で、事案に即した主張・立証を組み立てることです。 当事務所では、ベトナムの法令・公的統計の調査、原典の特定・翻訳を含め、日本の訴訟実務でご利用いただくためのサポートを提供しております。ベトナムの労務・労働法制の概要は当事務所のコラム一覧もあわせてご参照ください。お気軽にお問い合わせください。
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- 2026.07.16
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ベトナムの「一時滞在申告」を再点検 ― 2025年12月施行の新政令282/2025/NĐ-CPで罰則規定が刷新【駐在員・日系企業向け】
2026年7月15日 / CastGlobal Law Vietnamベトナムに滞在する外国人には、宿泊の都度、「一時滞在申告」が必要です。旅行者に限らず、駐在員やその家族、短期出張者も対象です。2025年12月15日には出入国・在留等の行政処罰を定める新政令282/2025/NĐ-CP(2025年12月15日施行。旧政令144/2021/NĐ-CPを代替)が施行され、罰則規定が刷新されました。足元では一部のレジデンス等で運用が厳格化しており、出張・一時帰国が多い方ほど申告が抜け落ちがちです。本稿では、ベトナム現地の日系法律事務所の観点から、制度と罰則を改めて整理します。 本稿のポイント 申告義務の主体は原則として宿泊施設側(到着から12時間以内、僻地・遠隔地では24時間以内) 新政令282/2025/NĐ-CPにより、未申告人数に応じて最大2,000万VND(法人は2倍)の罰金 社宅・会社借り上げ物件を持つ日系企業は、自社が「宿泊施設側」として申告義務を負い得る 宿泊施設の活動を直接管理・運営する者は、外国人が宿泊施設に到着した時から12時間以内(僻地・遠隔地の地域では24時間以内)に、申告用紙に情報を十分に記載し、宿泊施設の所在地の公安又は公安の駐在所・分署に送付する責任を負います。 根拠は、外国人のベトナムにおける入国、出国、通過、居住に関する法律(法律47/2014/QH13、2015年1月1日施行。法律51/2019/QH14(2020年7月1日施行)及び法律23/2023/QH15(2023年8月15日施行)により改正)の第33条です。改正後の同条の和訳(抜粋)は次のとおりです。 <第33条 一時滞在申告(和訳・抜粋)> 1.ベトナムに一時滞在する外国人は、宿泊施設の活動を直接管理・運営する者を通じて、宿泊施設の所在地を管轄する公安又は公安の駐在所・分署に一時滞在申告をしなければならない。宿泊施設は、外国人の一時滞在に同意する前に、一時滞在申告を実施するため、旅券又は国際渡航に有効な書類、ベトナムでの居住に関連する書類を提示するよう外国人に求める責任を負う。 2.外国人の一時滞在申告は、電子申告又は一時滞在申告用紙を通じて実施する。申告用紙により申告する場合、宿泊施設の活動を直接管理・運営する者は、外国人が宿泊施設に到着した時から12時間以内(僻地・遠隔地の地域では24時間以内)に、申告用紙に情報を十分に記載し、宿泊施設の所在地の公安又は公安の駐在所・分署に送付する責任を負う。 3.外国人は、一時滞在場所を変更した場合、または、常住カードに記載された住所以外の場所に一時滞在する場合、又は旅券の情報に変更があった場合、本条第1項の規定に従い一時滞在申告をしなければならない。 このとおり、申告義務の主体は原則として宿泊施設側です(ホテル・サービスアパートは運営者、賃貸物件・個人宅はオーナーや管理者等)。もっとも、外国人本人にも、一時滞在申告の実施のため宿泊施設に旅券等を提示する義務があります(同法第44条2項đ号。法律23/2023/QH15により追加)。 宿泊施設が法定の一時滞在申告を行わない場合、未申告の外国人の人数に応じ、以下の罰金が科され得ます(政令282/2025/NĐ-CP第21条)。 未申告の外国人の人数 罰金額(個人) 根拠条項 1~3名 300万~500万VND 第21条3項e号 4~8名 1,000万~1,500万VND 同条5項c号 9名以上 1,500万~2,000万VND 同条6項đ号 上記は個人の場合の金額で、組織(法人)が違反した場合は2倍となります(同政令第5条2項)。また、外国人本人が申告のための旅券等の提示を怠った場合や、虚偽情報でオンライン申告用アカウントを作成した場合も、300万~500万VNDの罰金対象です(第21条3項e号)。 金額自体は極端に高額ではありませんが、「申告されていない状態」が続くこと自体が、各種行政手続やトラブル対応、公安とのやり取りの場面で不利に働くおそれがあります。 法律23/2023/QH15第2条9項による改正で第45a条が新設され、機関・組織・個人は、外国人がベトナムに合法的に居住している場合に限り、当該外国人の雇用、観光ツアーの催行、一時滞在の受入れができることが明記されました。合法的に居住していない外国人を雇用・滞在させた場合や、出入国・在留に関する違反の兆候を発見しながら当局に通報しない場合、2,000万~2,500万VND(法人は2倍)の罰金があり得ます(政令282/2025/NĐ-CP第21条7項đ号)。 ポイント 社宅や会社借り上げ物件に駐在員を住まわせている日系企業は、自社が「宿泊施設側」の立場に立ち、申告義務を負い得る点に留意が必要です。総務・人事部門において、駐在員・帯同家族・出張者の入居時の申告フローを定めておくことをお勧めします。 ホテルや管理体制の整ったサービスアパートでは運営側が申告済みのことが多いものの、パスポートコピーの提出=申告完了とは限りません。フロントや管理事務所に確認するのが確実です。 個人賃貸・友人知人宅・民泊等は「誰も申告していない」状態が生じやすい典型例です。オーナー・管理者と申告主体を明確にし、未了であればオンライン申告又は管轄公安で速やかに対応してください。 転居時や旅券更新時にも再申告が必要です(第33条3項)。一時帰国後の再入国時も、都度の申告を前提に運用されている点にご注意ください。 申告漏れに気づいた場合、過去日付で取り繕うことは避け、気づいた時点で正直に補完・相談する方が結果的に安全です。 一時滞在申告を含む管理体制の整備についてご不明な点があれば、当事務所までお気軽にご相談ください。 免責事項: 本記事の内容は2026年7月15日時点の情報に基づいています。制度の詳細は今後変更される可能性があります。 C CastGlobal Law Vietnam Co., Ltd. ベトナム・ホーチミン市拠点の日系法律事務所。日系企業向けの企業法務、M&A、コンプライアンス、労務、知的財産を中心にリーガルサービスを提供。日本国弁護士と現地ベトナム人弁護士の協働により、日本語で完結するリーガルサービスをワンストップで提供しています。
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- 2026.07.12
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「ベトナムはまだハラスメント規制が緩い」――こうした認識は危険です。2021年1月施行の現行労働法(No.45/2019/QH14)により、ベトナムのハラスメント規制は高水準となっておいます。また、労働者の権利意識の高まりから、労働者によるハラスメント告発事案が近年大幅に増加しています。 労働法第3条第9項はセクシャルハラスメントを「職場における他者に対する性的な性質を有する行為であって、その他者が望まず又は承認しないもの」と定義し、政令145/2020/ND-CP第84条で身体的・言語的・非言語的セクハラを具体化しています。なお「職場」には出張先、会食、通勤車両などまで幅広く含まれています。 また、使用者には以下の義務が課されます。 セクハラ防止措置の実施(労働法第6条第2項d号) 就業規則へのセクハラ対策規定の整備(労働法第118条第2項d号、政令145号第85条) また、労働法第35条第2項により、ハラスメントや侮辱的言動を受けた労働者は事前通知なく労働契約を即時解約でき、損害賠償請求に発展するリスクもあります。またSNSでの書き込みなど、レピュテーションリスクが発生する場合もあります。 SNSによる告発の増加、若い世代の権利意識の高まり、労働市場の流動化により、現地従業員は「嫌なら辞める」「公にする」という選択を躊躇しません。当事務所にも、駐在員に対する告発、退職者からの法的請求、不正経費の内部告発、SNSへの書き込みなどのご相談が急増しています。 他方、社内通報窓口は「身内に話しにくい」「報復が怖い」という理由で機能しないケースが大半です。 問題が表面化してからの対応は、和解金・訴訟費用・レピュテーション低下という大きな代償を伴います。そのため、予防的対策が重要になります。具体的には、 ハラスメント研修による認識共有 外部通報窓口による安心できる相談ルートの確保 定期ヒアリングによる兆候の早期検知と抑止効果 の3つを組み合わせることで、ハラスメント・内部告発リスクを大幅に低減できます。 当事務所は、ベトナム現地に拠点を構える日系法律事務所として、以下の3サービスを単体およびパッケージにてご提供しています。 ① 外部通報窓口の設置・運用 日本語・ベトナム語の専用メールアドレスで通報を受付。駐在員に関する告発は日本本社へ、ベトナム人従業員に関する告発は現地法人へ報告します。 ② ハラスメント研修 駐在員向け(日本語)・現地従業員向け(ベトナム語)に分けて、ベトナム労働法の規制、NG言動、文化的配慮、ケーススタディを解説。対面・オンライン両対応。 ③ 定期オンラインヒアリング 当事務所担当者が駐在員・現地従業員に1対1のオンラインヒアリングを定期実施。通報を待つのではなく能動的にアプローチし、兆候を早期検知。結果は匿名化レポートとして経営層へご報告します。 料金は貴社の規模・現状の体制等を踏まえてお見積もりいたします。まずはお気軽にお問い合わせください。
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- 2026.07.09
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ベトナムと日本では労働法の規制が大きく異なり、人事担当者にとって実務上の違いを把握することが重要な課題になっています。弊社弁護士が、ベトナムと日本の労働法の違いを整理した寄稿記事を公開しました(公開日:2026年4月27日)。 ベトナム労働法と日本労働法の違い | リンオペベトナムへの進出にあたっては、現地の労働法制を十分に理解し、日本の労働法との相違点を把握することが重要です。日本とベトナムはいずれもアジア圏に位置していますが、 寄稿の主な論点 日本とベトナムの労働法の違い 雇用契約の締結に関する違い 労働契約の種類と期間 試用期間(試用契約)の取り扱い 労働契約の言語と就業規則の登録 労働条件に関する違い 法定労働時間と休日 時間外労働の上限規制と割増賃金 年次有給休暇と法定祝日 賃金体系と最低賃金制度 社会保険制度と福利厚生 労務管理と契約終了に関する違い 解雇 解雇予告期間と退職時の補償 労働組合の役割 労働紛争の解決 ベトナム法人の人事労務を担当される方 ベトナムの労働法規制を把握したい本社海外事業担当の方
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- 2026.07.02
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ベトナム個人データ保護法 日系企業が押さえるべきポイント【寄稿のお知らせ】
2026年1月からベトナムで個人データ保護法が施行されました。昨年まで施行されていた政令からアップデートがされており、実務対応を把握することが重要な課題になっています。弊社弁護士が、個人データ保護法のポイントを整理した寄稿記事を公開しました(公開日:2026年6月9日)。 ベトナム個人データ保護法 日系企業が押さえるべきポイント | リンオペ2025年6月26日に国会で可決された個人データ保護法(Law No. 寄稿の主な論点 適用範囲 個人データの分類 必須の届け出・義務 行政手続 罰則 ベトナム法人の個人データ保護を担当される方 ベトナムの個人データ規制を把握したい本社海外事業担当の方
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- 2026.05.22
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ベトナム条件付き事業の追加削減提案|投資法2025に続く政府決議草案のポイント
速報 2026年5月26日 / CastGlobal Law Vietnam 2026年5月5日、ベトナム財務省が、投資法(法律第143/2025/QH15号、2026年3月1日施行)の条件付き投資事業分野から58分野を削除する政府決議草案を公表し、意見聴取が始まりました。カジノ・カラオケ等が削除候補に挙がりますが、これは規制の撤廃を意味しません。ベトナム現地の日系法律事務所が、草案の原典と関連法令を踏まえ、その内容と日系企業への実務的な影響を解説します。 本稿のポイント 財務省が、投資法の条件付き事業から58分野の削除・12分野の修正を提案(意見聴取段階の草案)。 核心は「事前審査(tiền kiểm)」から「事後監督(hậu kiểm)」への転換。 リストから外れても、カジノ・カラオケ等の個別業法は存続。規制撤廃ではない。 国会決議第206/2025/QH15号の特別メカニズムにより、法改正でなく政府決議で削減する建て付け。 M&A・進出実務では「ライセンス保有」より「コンプライアンス体制」の比重が上昇。 ベトナムの投資法は、原則として投資・事業活動の自由を認めつつ、国防・国家安全保障・社会秩序・社会道徳・公衆衛生といった理由から特定の分野について「条件付き投資事業分野」(ngành, nghề đầu tư kinh doanh có điều kiện)を定め、各分野ごとに事業条件(ライセンス、資本要件、施設要件等)を課しています。この一覧が、投資法の附録IV(Phụ lục IV)です。 今回の財務省草案は、この附録IVのリストそのものを縮小しようとするものです。除外対象には、日系企業の関心が高い分野が多く含まれています。 カジノ、ベッティング(賭博) カラオケ・ナイトクラブ、宿泊サービス 再保険、保険ブローカー、保険代理店 会計サービス コメ輸出、酒類、自動車の製造・組立・輸入 など 草案は6条構成で、本則のほか、削除分野を列挙した付録1と、修正分野を列挙した付録2が添付されています。各条の概要は次のとおりです。 第1条(適用範囲):投資法附録IVの一部分野を削除・修正する旨と、適用対象(投資家、権限ある国家機関、関係する組織・個人)を規定。 第2条:削減の6原則(下記に整理)。 第3条:58分野を削除(付録1)。 第4条:12分野を修正(付録2)。 第5条:効力と施行責任。 第6条:実施組織。第6条2項(b)は、削除対象分野について2026年7月1日より前に技術基準・規格・職業基準を策定し、事前審査から事後監督へ移行する手続を構築するよう各省庁に求める。 投資法第7条1項の理由(国防・安全保障・社会秩序・社会道徳・公衆衛生)から条件を課す必要がない、または国民・企業の権利を直接保護しない分野 施設・運営品質・学歴経験資格などの要件に紐づき、技術基準・規格・職業基準の策定により「事前審査」から「事後監督」へ転換できる分野 条件が不明確・定性的で、定量化が困難な分野 他分野と類似する、または他の管理によって既に審査されている分野 産出する製品・サービスの品質を市場が決定でき、国防等への危害リスクがない分野 規定以来いまだ事業条件が制定されていない、または既に条件規定がなくなった分野 特に第2原則に「事前審査(tiền kiểm)から事後監督(hậu kiểm)への転換」が明文で掲げられている点は、本草案の思想を端的に表しています。 修正は、削除ではなく規定内容の絞り込みが中心です。 賞金付きゲーム事業(No.30):「電子」「外国人向け」という限定が外れる 食品事業(No.44):専門管轄から商工省が外れ、農業環境省・保健省の管轄へ整理 水産飼料・肥料(No.125、No.142):「事業(kinh doanh)」から「製造(sản xuất)」へ対象概念を限定 数字についての注記 2026年5月初旬の一部報道では「60分野削除・14分野修正」とされていましたが、5月5日に政府ポータルで公開された草案本文は「58分野削除・12分野修正」と明記しています。本稿は草案本文の数値に拠っています。また、削除候補の一部(自発的な薬物依存治療・高齢者ケア等。附録IV No.60)には、保健省と公安省が削減の是非を協議すべき旨の脚注が付されており、最終的な削除分野数は58から変動し得ます。 条件付き事業のリスト(附録IV)は投資法という「法律」で定められた事項であり、本来その変更には国会による法律改正の手続が必要なはずです。それを、なぜ「政府決議」というより簡易な形式で削減できるのでしょうか。 その根拠が、困難・障害処理に関する特別メカニズム決議(国会決議第206/2025/QH15号、2025年6月24日可決。以下「決議206」)です。決議206は、法令の規定が矛盾・重複・不明確であったり、過度なコンプライアンスコストを生じさせて経済・社会の発展を阻害している場合に、これを「困難・障害」と判定し、通常の立法手続によらず処理できる特別メカニズムを定めたものです。決議206第4条1項が認める処理方法は、次の3つです。 (a) 法律の解釈・適用指針 (b) 簡易手続による法令の制定改廃 (c) 法律改正までの間、政府決議または国会常務委員会決議で現行法律の一部規定を一時的に調整すること 今回の財務省草案は、このうち(c)を用いています。投資法附録IVの本格的な改正を待たず、政府決議によって暫定的にリストを縮小する、という建て付けです。 草案冒頭の「Số: 66…/2026/NQ-CP」という一見中途半端な番号は、記入漏れではありません。決議206第4条2項は、この特別メカニズムに基づき発布される政府決議について、「66.1」から始まる専用の連番で付番すると定めています(条文の例:Nghị quyết số: 66.1/2025/NQ-CP)。つまり「66番台」という番号自体が、通常の政府決議ではなく、法律事項を一時的に調整するための特別決議であることを示す印になっています。 この授権には、複数の手続的な歯止めが設けられています。 経済社会・国防・安全保障・外交に大きく影響する内容や未規定事項を扱う場合は、事前に党の権限機関の意見を聴くこと(第4条2項b号) 司法省を常設機関とする独立審査評議会が、各省庁の代表を交えて審査すること(第5条) 政府および国会常務委員会は、この権限を再委任・分権できないこと(第6条8号) 効力期間に関する論点 決議206第4条2項d号は、この種の政府決議が効力終了時点を「2027年3月1日より前」に明示すべきと定め、決議206自体の効力も2027年2月28日までとされています。本草案の効力期間(2026年7月1日〜2027年3月1日)はこの枠組みに対応しますが、草案第5条1項の「2027年3月1日まで」(同日を含む趣旨)は「3月1日より前」と1日ずれており、正式発布時に調整される可能性があります。確定版の確認が必要です。 本草案は単発の動きではなく、ベトナムが進める一連の規制緩和の流れの中に位置づけられます。時系列で整理すると、次のとおりです。 2025年12月11日:投資法(法律第143/2025/QH15号)可決。条件付き事業を237分野から199分野へ整理(38分野削除)。2026年3月1日施行(第7条・附録IVの条件付き事業リスト部分は2026年7月1日施行)。 2026年3月31日:投資法施行政府令(政府令第96/2026/NĐ-CP号、2026年3月31日施行)が発布・即日施行。従来の政府令第31/2021/NĐ-CP号を置き換え、市場アクセス条件や事後監督の枠組みを規定。 2026年5月5日:本決議草案の全文公開、意見聴取開始。199分野からさらに58分野削除(実現すれば、条件付き事業はおよそ141分野規模に)。 こうした流れの背景には、民間経済の発展を国家の重要課題と位置づけた党中央の決議(決議第68-NQ/TW号)があります。「禁止される分野以外は自由に事業を行える」という方向性のもと、ベトナムは事前許可によって参入を絞る制度から、自由参入を認めたうえで事後監督によって規律する制度へと、明確に舵を切りつつあります。ベトナムの産業・投資分野の政策動向については、ベトナム半導体政策2026もあわせてご参照ください。 本草案の本質は、削除される分野の一覧そのものよりも、その背後にある制度設計の転換にあります。すなわち、「事前審査(tiền kiểm)」から「事後監督(hậu kiểm)」への移行です。両者の違いを整理すると、次のとおりです。 観点 従来(事前審査 / tiền kiểm) 提案後(事後監督 / hậu kiểm) 手続フロー 企業登録(ERC)→ 投資登録(IRC)→ 各省庁の事業ライセンス取得 → 営業開始 企業登録(ERC)→ 投資登録(IRC)→ 営業開始 行政・参入コスト 高い(三段階の関門) 低い(事前のライセンス取得が不要に) 行政の関与 参入前に審査 営業中に随時、監査・実地検査。違反があれば事後制裁 草案第6条2項(b)は、削除対象分野について技術基準・規格・職業基準を策定し、事前審査から事後監督への移行手続を構築するよう各省庁に求めており、投資法施行政府令(政府令第96/2026/NĐ-CP号)もこの事後監督の枠組みを定めています。この転換には両面があります。事業者にとっては参入時の行政コスト・時間的コストが大きく下がる一方、各国の事例に照らせば、コンプライアンス違反が確認された場合の制裁はむしろ厳格化する傾向があります。参入の容易さと、運営段階での規律の厳しさは、いわば表裏の関係にあるといえます。 最も誤解されやすいポイント ある分野が条件付き事業のリストから外れても、その分野の規制が撤廃されるわけではありません。外れるのは投資法上の総論的な参入規制だけであり、各分野を規律する個別の業法(業種別の法令)は引き続き存続します。 カジノ事業政府令(政府令第03/2017/NĐ-CP号):最低投資額20億米ドル、5つ星ホテルの併設、カジノ面積を施設の3%以下とする制限、投資登録証明書(IRC)の取得義務 マネー・ロンダリング防止法(法律第14/2022/QH15号、2023年3月1日施行):報告義務 ベッティング事業政府令(政府令第06/2017/NĐ-CP号):ベッティング個別ルール 土地法・建築法・消防・救助法(法律第55/2024/QH15号、2025年7月1日施行):個別審査 カラオケ・ナイトクラブ事業政府令(政府令第54/2019/NĐ-CP号):防火・営業時間・治安に関する要件 つまり、本草案が変えるのは「投資法という入口の総論的な参入規制」であって、「各業法に定める実体規制」ではありません。この区別を正確に押さえておくことが、実務上きわめて重要です。 業種ごとに想定される影響を整理したうえで、日系企業に推奨される対応をまとめます。 エンタメ・観光(カジノ、カラオケ・ナイトクラブ、宿泊、電子ゲーム等):参入手続の迅速化が見込まれる。M&AのDDでは「ライセンス保有状況」より「コンプライアンス体制」の比重が上がる。 輸出入・流通(コメ輸出、酒類、自動車、ガス、鉱物、危険物輸送、各種運輸等):新規参入・事業拡張がしやすくなる可能性。一方、無資格に近い事業者の流入で価格競争が激化するリスクも。 金融・保険(再保険、保険ブローカー、保険代理店、免税品販売、非信用機関による外国為替業務等):保険3業態が揃って削除候補に。ただし保険事業法(法律第08/2022/QH15号)等の業法規制は別途存続。ベトナム国家銀行(SBV)・財務省(MOF)の個別ガイダンス要確認。 M&A・コーポレート全般:DD・契約交渉の重心が「ライセンスの有無」から「事後監督リスクの評価」へ移行。表明保証条項やコンプライアンス誓約条項の重要性が一段と上昇。 推奨アクション 自社の事業が、削除・修正の候補分野に含まれるかを附録IVの番号で確認する。 仮に削除されても存続する個別業法(業種別の政府令等)を洗い出し、遵守状況を点検する。 事後監督に備え、社内のコンプライアンス体制・証跡管理・内部監査の仕組みを整備する。 M&A・出資では、表明保証・コンプライアンス誓約条項を厚くするなど、事後監督リスクを織り込んだ契約設計を検討する。 事後監督モデルのもとでは、参入そのものは容易になっても、日々の運営における証跡の管理、内部監査、是正対応こそが事業継続の鍵になります。許認可という「お墨付き」が事業を守る盾になりにくくなるぶん、平時のコンプライアンス体制の巧拙が、そのまま事業リスクに直結する構造です。もともとコンプライアンス意識の高い日系企業は、相対的に有利な立場に立ち得ると考えられます。 本決議は現時点で意見聴取段階の草案であり、削除分野の数・内容、効力期間の終期などは、正式発布までに変動する可能性があります。当事務所では、本決議の今後の動向について、次の観点から続報を順次お届けする予定です。 正式発布の有無と確定内容 業種別の具体的な影響 施行後の事後監督の運用実態 情報ソース: ベトナム政府電子情報ポータル「条件付き投資事業分野の削減に関する政府決議草案」全文(xaydungchinhsach.chinhphu.vn)、投資法(法律第143/2025/QH15号)、投資法施行政府令(政府令第96/2026/NĐ-CP号)、困難・障害処理に関する特別メカニズム決議(国会決議第206/2025/QH15号)。当事務所による草案原典の確認に基づく。 免責事項: 本記事の内容は2026年5月26日時点の情報に基づいています。本決議は意見聴取段階の草案であり、制度の詳細は今後変更される可能性があります。個別の案件については専門家にご相談ください。
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- 2026.05.21
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電子労働契約プラットフォーム本格運用へ ― 2026年5月15日公布の通達の要点と実務対応
2025年12月24日、ベトナム政府は電子労働契約に関する初の包括的な政令である政令第337/2025/NĐ-CP号(以下「政令337」)を公布しました。政令337は、電子労働契約の締結・履行(第II章)に加え、内務省が構築・運営する「電子労働契約プラットフォーム」(第3条第2項)の構築・管理・利活用(第III章)について定めています。施行日は2026年1月1日ですが、プラットフォーム自体は遅くとも2026年7月1日までに本格稼働させることとされ、同日以降に締結される電子労働契約は政令337に従って取り扱われます(同第28条第1項)。 もっとも、政令337はID付与の手順、アカウント運用、eContract事業者の接続手続、データ保存といった技術的・運用的詳細までは規定していません。そこで内務大臣は、2026年5月15日、政令337を詳細化・施行指針化する通達第08/2026/TT-BNV号(以下「通達08」)を公布しました。施行日はプラットフォーム本格稼働に合わせた2026年7月1日です(同第23条第1項)。 電子労働契約がプラットフォームに送信されると、唯一無二のIDが付与されます(同第4条第1項)。このIDは契約の改訂・補足・一時停止・終了があっても変わらず、付録や各種通知も同じIDに紐付けられます(同第4条第2項)。ID構造は「英字1文字+数字12桁」(同第5条)で、英字部分は契約の種類を識別します(A=2026年7月1日以降に政令337第6条準拠のeContractで締結された契約、B=紙契約を電子化したもの、C=2026年7月1日前に締結された電子労働契約)。 ID付与の流れは、eContractサービス提供者(以下「eContract事業者」)が政令337第14条第1項所定のデータとともに契約をプラットフォームに送信し、プラットフォームが受信から24時間以内にIDを自動付与してeContract事業者に返送するというものです(同第6条第2項)。不備があるとIDは付与されず、その旨が通知されます(同第6条第5項)。 労働者・使用者は、原則として国家電子認証システム(VNeID)が発行する電子認証アカウントでログインします(同第7条第1項a号)。法人が法人電子認証アカウントを取得できない場合に限り、内務省が直接アカウントを発行します。アカウントは、①本人申請の場合、②VNeIDアカウント自体のロックの場合、③緊急の情報セキュリティ事象が起こった場合、④管轄機関の決定による場合、⑤その他法令上の事由でロックされ(同第8条第1項)、これらの事由が消滅した場合または管轄機関の決定により解除されます(同第8条第2項)。 eContract事業者は、政令337第6条第3項の条件を満たしたうえで、内務省に接続申請書類を提出し(第9条第1項)、内務省は受理から20営業日以内に書類審査・技術テストを行い、合格した事業者に接続アカウントを発行します(同第9条第2項)。 接続の一時停止事由(同第10条第1項)は、事業者からの申請の場合、登録した技術方案の不遵守の場合、報告義務の不履行の場合、政令337第6条第3項の条件喪失の場合に加え、「直近1か月で累計5%以上の電子労働契約がID付与を拒否された場合」(同項đ号)が定められています。接続終了事由(同第10条第3項)としては、廃業の場合、接続アカウント発行後1年以内に未稼働の場合、書類偽造の場合、電子取引法2023年第6条所定の禁止行為を行った場合、一時停止期間内の不備未是正の場合等があります。原則として3営業日前に内務省からの事前通知がありますが、緊急時は即時停止+24時間以内の事後通知が認められ(通達08第11条第1項)、事業者には弁明・異議申立権が保障されています(同第11条第3項)。なお、すでに適法に締結された電子労働契約の効力には影響しません(同第10条第5項)。 電子労働契約・付録等の保存期間は、労働契約の終了日から10年間とされ、同一の労使間で複数契約が連続する場合は最終契約の終了日が起算点となります(同第18条第3項)。 使用者の労働使用状況報告(政令145/2020/NĐ-CP第4条第2項)はプラットフォーム経由となるため(通達08第19条第2項)、社内業務フローの見直しが必要です。 2026年7月1日以降に締結する電子労働契約は、プラットフォームに送信してIDを取得することが義務付けられます(同第24条第1項)。ただし、政令337第6条第3項の条件を満たしているeContract事業者で同日までに接続未完了の場合でも、同日以降のサービス提供は継続でき、2026年7月20日までに接続を完了すれば足ります。接続前に締結された契約も法的効力を有し、接続完了後に速やかにID付与の対象となります(同第24条第2項)。 これらの政令・通達は、電子労働契約の締結を強制しているわけではございません(政令337第4条第3項)。ただ、「紙の書面による労働契約に代えて電子労働契約を使用することを奨励する」と記載があり、今後は電子労働契約への切り替えを政府が推奨する方向性には間違いありません。少なくとも労働使用状況報告はプラットフォーム経由で行う必要があるため、対応が必要となります。
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- 2026.05.14
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ベトナム暗号資産市場、2026年Q3正式始動へ ― 制度整備・初期適格5社・韓国2案件と外資の現実解
特集 2026年5月13日 / CastGlobal Law Vietnam ベトナム財務副大臣Nguyen Duc Chi氏が、暗号資産市場を2026年第3四半期(Q3)に正式始動する方針を表明しました。デジタル技術産業法(Law 71/2025/QH15)の施行(2026年1月1日)から半年あまりで、ライセンス申請の受付開始、税制ガイダンスの公布、初期適格5社の選定、韓国大手取引所2社との提携公表まで、制度と事業者の準備が同時に進んでいます。本稿では、2025年から2026年5月までの時系列、初期適格5社の最新動向、注目される韓国2案件、そして外資の現実的な参入ルートを日系法律事務所の観点から解説します。 本稿の位置づけ 当事務所では、これまで「ベトナムの暗号資産規制と決済の最新動向【2025年】」で、デジタル技術産業法の成立とIFC構想を中心に、規制整備の「入口」を整理しました。本稿はその続編にあたり、2026年に入って急速に進んだ実装フェーズの動きをまとめます。 ベトナムは、Chainalysisが公表する2025年グローバル暗号資産採用指数で世界3-4位、アジア太平洋では3位という、世界有数の暗号資産普及国です。推計約1,700万人のホルダー、年間取引額は2024年7月から2025年6月にかけて2,200億USD超(前年比+55%)に達し、デジタル経済全体の規模も2026年末までに500億USDに達する見通しです。 これまでベトナムは、暗号資産の保有・取引自体は黙認しつつも、決済への利用は違法、法的な「資産」としての位置づけも不明確という、いわゆるグレーゾーンの状態が続いていました。この状況を抜本的に変えたのが、2025年6月14日に国会で可決され、2026年1月1日に施行されたデジタル技術産業法(Law 71/2025/QH15)です。同法により、ベトナムは世界46か国目の暗号資産合法化国となりました。 ベトナムの暗号資産市場を規律する法令は、上位法から実施規則まで4階層で整理されています。 階層 規範 包括法 デジタル技術産業法(Law 71/2025/QH15、2026年1月1日施行) パイロット枠組み 政府決議05/2025/NQ-CP(2025年9月9日署名、5年間パイロット) ライセンス手続 財務省決定96/QĐ-BTC(2026年1月20日公布) 会計・税制・申告 財務省省令15・32・41/2026/TT-BTC(2026年3-4月公布) 重要なのは、政府決議05/2025/NQ-CPが5年間のパイロットプログラムを規定している点です。完成形の制度ではなく、5年かけて運用データを蓄積し、必要に応じて規制を調整する「制御された実験」として設計されています。日系企業にとっては、現行ルールが今後変更される可能性を前提に、柔軟な対応体制を取ることが求められます。 2025年6月14日、国会はデジタル技術産業法(Law 71/2025/QH15)を可決(賛成441/445)しました。同法第3条で暗号資産を「資産」として法的に承認し、ベトナム法制で初めて包括的な定義を導入しました。 2025年9月9日には、Phó Thủ tướng Hồ Đức Phớc副首相が政府決議05/2025/NQ-CPに署名し、5年間の暗号資産市場パイロットプログラムが承認されました。最低資本金10兆VND、外資比率49%上限、機関株主65%以上といった主要要件は、この決議で初めて明文化されています。 2026年に入り、制度整備と事業者選定が急速に進みました。主要なマイルストーンは以下のとおりです。 日付 主要動向 1月1日 デジタル技術産業法 施行 1月20日 財務省決定96/QĐ-BTC公布 ─ ライセンス申請受付開始 3月2日 SSI Digital(SSID)と韓国BithumbがMOU署名(公表は5月7日) 3月4日 会計基準ガイダンス公布(財務省省令 15/2026/TT-BTC) 3月12日 7社申請のうち5社が初期適格審査を通過(財務省内部文書) 3月27日 税制ガイダンス公布(財務省省令 32/2026/TT-BTC) 4月6日 税務申告ガイダンス公布(財務省省令 41/2026/TT-BTC) 4月9日 首相Lê Minh Hưng、Q3 2026までの仕組み完成を国会報告 4月10日 OKX Ventures・HashKey CapitalがCAEXに戦略出資 5月7日 Bithumb × SSID のMOU公表 2026年3月12日時点で、暗号資産取引所ライセンスを申請していた7社のうち5社が初期適格審査を通過したと、ロイターが財務省内部文書を引用して報じています。5社の構成は、銀行・証券系列が4社、コングロマリットが1社という顔ぶれで、ベトナムの大手金融グループが軒並み参入を表明している構図です。 ベトナム大手民間銀行Techcombank傘下の証券会社TCBSの系列会社。資本金1,010億VND(約384万USD)で設立され、会長はNguyen Xuan Minh氏、CEOはDoan Mai Hanh氏。同社は約6か月にわたり技術インフラ整備とKYCパートナーとの体制構築を進め、2026年1月15日以前にライセンス申請を提出した先行組です。 ベトナム大手民間銀行VPBankの系列会社。当初資本金は250億VND(約95万USD)と小規模で設立され、創業株主はVPBank Securities(VPBankS、11%)、LynkiD(50%)、Future Land Investment(39%)という構成です。 注目すべきは、2026年4月10日にOKX VenturesおよびHashKey Capitalが戦略出資を発表したことです。OKXは世界有数の暗号資産取引所、HashKeyは香港拠点のアジア大手暗号資産投資ファンドで、両社の出資により最低資本金要件の10兆VND達成の道筋が見えた格好です。グローバル暗号資産大手のベトナム本格参入の第1弾と位置づけられます。 旧正月直前に資本金を68億VNDから3,600億VND(約1,370万USD)へと50倍以上増資し、市場の注目を集めました。創業株主はDuong Van Quyet氏(40%)、Nguyen Thi Bich Ngoc氏(30%)、Vu Phat Dat氏(30%)で、5社のなかで唯一、銀行・証券系列ではない民間投資家主導の構成です。 証券大手VIX Securities系列のデジタル資産部門。資本金1兆VND(約3,800万USD)で、CEOはNguyen Thanh Que氏。技術インフラ整備でFPT Corp.と提携しており、ベトナム最大手ITグループの技術力を取り込んだ体制を構築しています。 詳細情報は限定的ですが、不動産・観光・インフラを擁する大手コングロマリットSun Group関連と複数のメディアが報じています。金融以外の業界から唯一の通過企業として注目されます。 初期適格5社以外で特に重要なのが、韓国を代表する暗号資産取引所2社が揃ってベトナム市場に進出している点です。 ベトナム最大手証券SSI傘下のSSI Digital(SSID)は、韓国大手取引所Bithumbと2026年3月2日に取引所共同設立のMOUを署名し、5月7日に公表しました。協業範囲は、技術アーキテクチャ、ウォレット・カストディ、コンプライアンス、機関投資家向け業務まで全方位に及び、Bithumbは規制認可後のSSID指定法人への戦略的株式取得の可能性も示唆しています。 SSIDの資本金は当初2,000億VNDでしたが、すでに1兆VNDへの増資を完了しており、最低資本金10兆VND要件達成に向けた追加調達を進めています。 ベトナム軍隊銀行MBは、韓国最大手暗号資産取引所Upbitの運営企業Dunamuと技術提携しています。協業内容は、規制枠組み・運用プロセス・投資家保護メカニズムの共同構築で、韓国Top2の取引所が揃ってベトナム入りした構図となっています。 なぜ韓国系の動きが目立つのか 韓国は2026年2月時点でベトナム最大の対内投資国(累計約952億USD・全FDIの約18%)で、両国経済の連携が強い背景があります。また、韓国は暗号資産取引所の規制・運用ノウハウが世界的にも先行しており、ベトナム側からすれば技術・コンプライアンスの両面で実績ある協業先となります。日系金融機関にとっても、韓国系の動きは参入スキーム設計上の有益なリファレンスとなり得ます。 政府決議05/2025/NQ-CPおよび財務省決定96/QĐ-BTCに基づくライセンス取得要件は、世界的にも極めて厳格な部類に入ります。 要件項目 内容 最低資本金 10兆VND(約3.8億USD) 法人形態 ベトナム法人(LLCまたはJSC)に限定 機関株主 65%以上(うち35%以上は2社以上の金融機関またはテック企業から) 外資比率 最大49% 取引通貨 VND建てのみ(USDTなどステーブルコイン取引不可) 発行可能資産 実物資産バックのみ(法定通貨・有価証券バック不可) 発行先 外国人投資家に限定、発行15日前までに目論見書公表 経営者要件 CEO:金融・経営経験2年以上、CTO:IT/Fintech経験5年以上 専門人員 ITセキュリティ専門家10名以上、証券ライセンス保有者10名以上 セキュリティ 情報セキュリティLevel 4(国家最高水準)、コールドストレージ必須 これらの要件は、参考までにタイ(最低資本金約13.7M USD)やシンガポール(最高ティアでも約50M USD)と比較しても、10倍から28倍程度の水準にあります。ベトナム政府は、初期段階で「資本力と長期的なコミットメントを備えた事業者だけが市場を運営する」という設計思想を取っており、市場の安定性と投資家保護を最優先しています。 財務省省令32/2026/TT-BTC(2026年3月27日公布)では、暗号資産取引に係る主要税目の取扱いが整理されています。 税目 税率 対象 法人税(CIT) 20% ベトナム法人が暗号資産取引で得た所得 付加価値税(VAT) 非課税 暗号資産の譲渡・取引 個人所得税(PIT) 0.1%(案) 取引総額に対する課税 申告手続については、財務省省令41/2026/TT-BTC(2026年4月6日公布)が、税務申告・源泉徴収・納付・確定申告の枠組みを整備しています。 留意点:PIT 0.1%案には議論あり PITについては、取引総額の0.1%という案が「実質的に取引コストを引き下げ、投機を誘発する」との批判が一部で示されています。最終的な税率や課税方式は施行に向けて調整される可能性があり、2026年5月時点では確定していません。実務上は、暫定的に0.1%案を前提に試算しつつ、施行令で確定された段階で再計算する体制を取ることを推奨します。 ライセンス制度の運用と並行して、ベトナム財務省はオフショア取引所(Binance、Bybit、OKX国際版など海外プラットフォーム)を利用するベトナム居住者に対する罰則導入を起草中です。報道ベースでは、以下のような枠組みが議論されています。 最初のライセンス取得業者が運用開始してから6か月後、オフショア取引所の国内居住者向けサービス提供が違法化される見込み 個人利用者:最大1億VNDの行政罰 法人利用者:最大2億VNDの行政罰 既存保有資産は、国内ライセンス取引所への移管期間として6か月の猶予が想定 ベトナムの方針は、韓国が先行して取り組んだオフショア規制を参考にしていますが、ベトナムは個人投資家まで罰則対象に含める点でより厳格な設計です。これは、ベトナム居住者がBinance等で取引している規模が極めて大きく、これを国内のライセンス取引所に誘導しなければ制度の実効性が確保できないという背景があります。 ここまで整理してきたとおり、外国取引所のベトナム直接参入は事実上不可能です。申請主体はベトナム法人に限定され、最低資本金10兆VND(約3.8億USD)、機関株主65%以上、外資比率最大49%という三重の参入障壁が設定されています。 現実的な参入ルートは、ライセンス取得済み(または取得見込み)のベトナム企業との合弁・技術提携です。すでに以下のような提携が成立しています。 CAEX × OKX Ventures / HashKey Capital(2026年4月10日戦略出資) SSI Digital × Bithumb(2026年3月2日MOU、5月7日公表) Military Bank × Dunamu(Upbit運営)(技術提携) VIXEX × FPT Corp.(技術インフラ提携) 5社+SSID+MB+Vimexchangeで枠が固まりつつあるなか、外資にとっては「ライセンスを直接取りに行く」フェーズではなく、「誰と組むか」のフェーズに既に入っています。日系企業・日系金融機関がこの市場に関与する場合も、ベトナム側の事業者との提携設計が出発点となります。提携形態としては、技術ライセンス、JV設立、戦略出資(49%上限内)、業務委託(カストディ、KYC/AMLシステム、コンプライアンス・コンサルティング)などが想定されます。 ベトナム暗号資産市場は、2025年6月のデジタル技術産業法可決から1年弱で、立法・パイロット設計・ライセンス手続整備・税制ガイダンス公布・初期適格5社選定・グローバル大手との提携公表まで、極めて速いペースで実装が進んでいます。2026年Q3の正式始動は、こうした準備の集大成と位置づけられます。 結論 ベトナム暗号資産市場は、2026年Q3に正式始動する見通しです。立法から実装まで1年弱で整備された制度は、最低資本金10兆VND・外資49%上限・機関株主65%以上という高い参入障壁を備え、初期段階の市場は5社の独占体制でスタートする構図となります。外資の現実的な選択肢は、ベトナム企業との合弁・技術提携であり、すでにCAEX×OKX/HashKey、SSID×Bithumb、MB×Dunamu、VIXEX×FPTといった枠組みが先行しています。日系企業がこの市場と関与する際は、提携先選定、業務範囲設定、規制動向のモニタリング体制を早期に整えることが、機会獲得とリスク管理の両面で重要となります。 今後の注目点としては、(1)正式立ち上げのタイミング、(2)5社のうち実際に運用開始する企業の確定と運用実績、(3)オフショア取引所への規制強化措置の具体化、(4)PIT 0.1%案の確定、(5)既存ライセンス取得済み事業者への追加出資・株式取得の動向、などが挙げられます。当事務所では引き続き、これらの動向を継続的にフォローし、随時アップデートをお届けします。 ベトナムの暗号資産規制と決済の最新動向【2025年】(本稿の前提となる前回記事) ベトナム法務コラム一覧 CastGlobal Law Vietnam のサービス案内 ご相談はこちらから