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- 2024.10.16
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【ベトナム】新しい個人データ保護法(PDPL)の草案について
2024年9月24日、ベトナム政府は新しい個人データ保護法(PDPL)の初稿を公表しました。この法案は、2023年に施行された個人データ保護政令(政令13号。第13/2023/ND-CP号(PDPD))よりも厳格な規定を含んでおり、その上位法として機能するものとなります。2026年1月1日から施行される予定です。以下に、この法案の主要なポイントを整理します。 この草案は2026年1月1日に発効する予定になっていますが、 草案は現在2024年11月24日までパブリックコメント募集中 であり、利害関係者は意見を述べることができる状況です。そのため、内容は大幅に変わる可能性もあります。 公安省が作成したPDPL草案は、7章68条から構成されます。 PDPL草案は、昨年の個人データ保護に関する政令第13/2023/ND-CP号(PDPD)よりも包括的で、マーケティング・サービス、行動広告、ビッグデータ処理、AI、クラウド・コンピューティング、従業員の監視と採用、金融・信用データ、医療、保険など幅広い分野をカバーしています。 法的枠組みの強化: この法案は、個人データの保護に関する法律の基盤を強化し、国際基準に適合することを目指しています。 公的意見募集: 法案は2024年11月24日まで公的な意見募集が行われており、利害関係者からのフィードバックを受け付けています。 様々な分野について詳細の規定が設けられていますが、主な特徴は以下のとおりです。 適用範囲の拡大: 国内外のすべてのベトナム機関、組織、個人に加え、ベトナムでデータ処理を行う外国企業にも適用されます。 同意の厳格化: 個人データ処理には明示的かつ情報に基づいた同意が必要であり、特に健康情報や生体情報などの敏感なデータについては、黙認や無反応は同意とは見なされません。 新しい概念の導入: 個人データ保護に関する専門機関や専門家など、新たな概念が導入されています。これにより、データ保護活動がより専門的かつ体系的に行われることが期待されています。 特定のデータカテゴリへの規制: 健康データや子供のデータなど、特定のカテゴリの個人データにはより厳しい規制が設けられています。 従業員の個人情報に関する統制: 従業員のデータ処理や監視についても明確な同意が必要とされています。 個人データ影響処理評価 政令13号により求められる個人データの処理影響評価についてもより具体化されています。 PDPL草案では、個人データ処理影響評価の申請書類には、政令第13号で義務付けられている個人情報保護業務を担当する組織または個人の情報だけでなく、個人データ保護組織および個人データ保護専門家の情報を含める必要があります。 また、ベトナム国民の個人情報を海外に移転する際の申請書類にも同様の記載が必要です。 さらに、政令13号と比較すると、PDPLデータ処理影響評価の申請書類に2つの追加書類、すなわち、個人データ保護に関する法的規制の遵守状況の説明と評価、および個人データ保護に関する信用格付け書類を含めることを要求しています。 この新しい法案は、企業にとって新たなコンプライアンス課題をもたらす一方で、個人データ保護への取り組みを強化する機会でもあります。 特に、マーケティングサービスやビッグデータ処理に関する新たな規定が企業活動に影響を与えるでしょう。 マーケティングサービスへの影響: 個人データを利用したターゲティング広告には、新たな同意要件が課されます。 中小企業の免除:零細企業、中小企業、新興企業は、最初の2年間だけデータ保護部門の要件が免除されます。 ただし、個人データ処理活動に直接従事する小規模企業、中小企業、新興企業は免除の対象ではありません。 信用評価機関の設立: データプライバシーに関する信用評価機関が設立される予定であり、企業はその評価を受ける必要があります。 パブリックコメントを経て大幅に変更になる可能性もある規定ではあるため、今回は簡易の整理となりますが、個人データ保護政令においては実務上まだあまり進んでいない規制も、本法の議論とともに実務上さらに徹底される可能性があり、注視が必要です。 なお、別途データ法についても公安省により草案が起草されています。新しい個人データ保護法とデータ法はそれぞれ独立した法律でありながらも、相互に関連し合う重要な役割を果たすことが期待されています。 関連記事: 【ベトナム】個人データ(個人情報)保護に関する政令No.13/2023/ND-CPの注目点(2023年7月1日施行):最新版 【ベトナム】データ法草案の概要(Law on Data)
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- 2024.10.09
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法制度上、ベトナムにおける日系企業は、外資企業として投資登録証明書(IRC)が付与され、投資プロジェクトを実行しているという建付けになっています。このような外資企業は、投資プロジェクトを実行する経済組織として、ベトナムの投資法(法律第61/2020/QH14号。以下「投資法」といいます)に従って、四半期および一年ごとに、投資プロジェクトの状況について報告する必要があります(投資法第72条第2項a号)。 当該報告義務についてはあまり認識されていないにも関わらず、昨今取り締まりが厳しくなってきていると言われています。 所管の投資登録機関及び地域の統計機関に実施する必要があります(投資法第72条第2項a号)。 四半期の報告、すなわち年4回、および年次の報告、すなわち年1回がそれぞれ必要とされているので、計5回の報告を毎年行わなければなりません。 ① 報告内容 通達03/2021/TTBKHDT号のフォームA.III.1を用いて、概略以下の事項を記載する必要があります(政令第31/2021/NĐ-CP号(以下「政令第31号」といいます)第102条第2項)。 実施する投資資本、純利益、輸出入、労働者、租税及び国家予算 への金額及び土地・水面の使用状況 ② 報告時期 報告する四半期の後の最初の月の10日まで ① 報告内容 通達03/2021/TTBKHDT号のフォームA.III.2を用いて、概略以下の事項を記載する必要があります(政令第31号第102条第3項)。 上記の四半期報告の内容 に加え 利益、労働者の収入、各支出及び科学研究及び技術発展への投資、 環境の処理及び保護、使用する技術の起源に関する事項 ② 報告時期 報告年度の翌年 3 月 31 日まで 3)報告方法 国家投資情報システムを通じてオンラインで各報告を行います(政令第31号第104条第1項a号)。 本件報告義務に違反した場合、3000万~5000万VNDの範囲で罰金が課される可能性があります(政令122/2021/ND-CP号第15条第2項)。 また、報告を行うことについて強制されたり、修正報告を求められる可能性があります(同第15条第3項)。
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- 2024.10.02
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【重要】当事務所または当事務所の弁護士の名前を騙った電話にご注意ください
当事務所または当事務所の弁護士の名前を騙って日本の個人の方に電話をかける、詐欺と思われる事案が継続的に発生しているとの情報が寄せられました。当事務所または当事務所の弁護士等は、これらの事案と一切関係がございません。 一例では、弊グループの日本人弁護士名を使って、弁護士業務のような内容で連絡しているケースがあるようです。 当事務所または当事務所の弁護士を名乗る者よりお心当たりのない連絡を受けた場合は、十分に相手の身元を確認し、ご注意ください。また、お近くの警察へのご相談も推奨いたします。
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- 2024.09.24
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現行の民泊規制について 現行のベトナム法における民泊(Airbnbなど)の規制は、住宅法(2014年)第6条11項に基づいており、「集合住宅を非居住目的で使用する行為」が禁止されています。この規定は、2023年の住宅法改正においても引き継がれ、第3条8項c号で「居住目的以外での集合住宅の使用」が引き続き禁止されています。また、新たに第3条7項において、「住宅法やその他の関連法令に反する宿泊賃貸」が禁止されると定められています。 これに関連し、現状の法解釈には以下の2つの異なる見解があります。 1.見解1: 短期賃貸はホテル事業と類似しており、したがって宿泊サービス事業に該当する。このため、短期的な宿泊目的での集合住宅の賃貸は違法とされ、宿泊サービス事業としてのライセンスが必要になるという立場です。 2.見解2: 短期賃貸は「居住目的」に該当し、非居住目的の賃貸には当たらない。したがって、短期賃貸は合法とされ、規制の適用を受けないとする立場です。 この規定に関する明確なガイダンスは、政令や通達の形でまだ発行されておらず、明確な解釈は示されていません。 そのため、2024年の法令改正において、具体的に民泊に関する新しい規定が導入されるかについては現時点で確定しておらず、今後の動向として、2024年以降の法令や政令により、民泊事業に関する詳細な規制がさらに明確化される可能性がありますが、現時点では不明確な部分が多く、今後の指針を注視する必要があります。 曖昧な規定や見解が残るため、民泊事業を行う企業や個人は、慎重に法的リスクを評価し、適切なライセンス取得や税務対応を行うことが重要です。 また、そもそも物件によっては内部規程上民泊そのものを禁止している物件もありますので、各物件での運用もご確認ください。
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- 2024.09.23
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ベトナム公安省は、デジタル政府の推進とデータ保護の強化を目指して、2026年1月1日から施行予定のデータ法案を起草しました。 この法案は、データ管理やデジタルガバナンスの枠組みを提供し、企業や政府機関に対してデータの収集、管理、共有に関する新しい規制を導入します。法案は7章66条で構成され、国家データセンターの設立や国家包括データベースの構築が義務付けられています 。 1. 公開不可データの8つの分類 法案では、国家安全保障や公共の利益を守るために、公開が認められない8つのデータカテゴリが定義されています。 データ主体の同意がない個人情報 国家機密データ 国防・安全保障に関するデータ 国益や国際関係に悪影響を与える可能性があるデータ 社会道徳や公共の健全性を害する可能性があるデータ 生命や財産に危険をもたらす可能性のあるデータ 企業秘密 国家機関の内部会議に関する情報 2. 国家データセンターと国家包括データベース 国家データセンターは、国家機関や私的機関からのデータを統合し、効率的なデータの管理と共有を図るために設立されます。私的機関も一定の条件下でデータにアクセスすることができ、アクセスにはデータ主体の同意や国家データセンターの承認が必要です。また、データへのアクセスには料金が課される可能性があります 。 3. データの越境移転に対する規制 法案では、特に「重要データ」や「核心データ」の越境移転に対して厳しい規制が設けられています。これらのデータは、国家安全保障や経済の安定性に関連するもので、国外移転には政府の承認とセキュリティ評価が必要とされています 。 「重要データ(Critical Data)」: 漏洩や改ざんが国家の安全保障、経済、社会の安定、公衆衛生を脅かす可能性のある分野や領域に関わるデータ。 「核心データ(Core Data)」: 国家安全保障、主要経済部門、必要不可欠な公共サービス、主要な公共利益など、悪用されると政治的安全保障に影響を及ぼす可能性のある重要なデータ。 4. 企業への影響 企業は、国家データセンターへのデータ提供義務やデータの越境移転に対する新しい規制に対応するため、データ保護ポリシーを見直す必要があります。 特定の状況下では、データ開示や共有が求められるため、データの管理体制を強化することが推奨されます 。 なお、これとは別に個人データ保護の上位法令(PDPL)の策定も検討されています。 この法案はまだ草案段階にあり、最終的な規定については今後の議論や修正を経る可能性がありますので注視が必要です。 新しい個人データ保護法(PDPL)の草案について
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- 2024.09.20
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ベトナムのコンドテル形態へのピンクブック(LURC)発行について
コンドテルのピンクブック発行に関する法的背景 政令10/2023/ND-CPにより、ベトナムではコンドテル(商業施設としての長期リース形態)を含む観光宿泊施設にも「ピンクブック(LURC)」(所有権証明書)が発行されることが2023年5月に定められました。この政令は、コンドテルやリゾートヴィラなどの非住宅不動産に対して所有権を証明することで、不動産市場の透明性と観光業界の発展をサポートすることを目的としています。 これまでコンドテル形態で住宅を購入した外国人も多かったですが、こちらについてはピンクブックが発行できないということで通常の住宅としての売買との評価の差も生じていました。 同政令では、商業・サービス用の土地に建てられた観光宿泊施設であるコンドテルが、関連法(土地法、建設法、不動産事業法)の規定を満たしている場合、ピンクブックの発行が認められるとされています。ただし、土地使用権の期間は開発者の土地使用期間に依存し、通常は50年であり、特定のケースでは70年まで延長可能です。 2024年の法改正と現状 しかし、政令10/2023/ND-CPは2024年8月1日に失効し、現在コンドテルのピンクブック発行については、新しい土地法に基づく手続きが求められる状況にあります。 新土地法の第149条では、住宅ではない建物に対する土地使用権および所有権の証明書発行が定められていますが、詳細なガイダンスはまだ明確にされておらず、さらなる法的整理が期待されています。 実際のピンクブック発行事例 2023年には、Khanh Hoa省のLibera Nha Trangプロジェクトにおいて、コンドテルの購入者がピンクブックの発行を受けた事例が報告されています。この事例は、法的条件を満たした場合に、観光宿泊施設にも所有権証書が発行され得ることを示す重要な前例です。 もっともこちらは発行された詳細までは不明であること、旧法下であることなどからあくまでも参考情報にしか過ぎない状況です。 https://nld.com.vn/day-manh-go-vuong-cho-condotel-196240522210027607.htm 不明確な点と今後の展望 現時点では、コンドテルに関する法的枠組みが完全には明確になっていないため、特に商業用と住宅用の境界線や、ピンクブック発行の具体的条件について、今後さらなる政令や通達が求められる状況です。 また、オフィステル(オフィス兼用住宅)の規制についても、詳細なガイダンスが不足しており、今後の法改正を注視する必要があります。
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- 2024.09.13
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ベトナムに進出を考える日本企業にとって、事業の運営に必要なライセンスや登録手続きは非常に重要なポイントです。 特に、事業活動を開始するにあたり、ビジネスライン(業務内容)の登録や、それに関連するCPCコード、VSICコード、そして各種ビジネスライセンス(サブライセンス)を理解することが求められます。本記事では、これらの要素を整理し、企業がベトナムで事業を合法的かつ効率的に運営するために知っておくべき基本的な情報を解説します。 1. ビジネスラインとは ベトナムでは、企業が事業を開始する際に、投資計画局やその他の関連当局に「ビジネスライン」と呼ばれる事業内容を登録することが必須です。ビジネスラインの登録は、事業の業種や内容を明確にし、政府に対して事業の合法性を示すために行われます。 ビジネスラインは、VSICコード(Vietnam Standard Industrial Classification Code)と呼ばれる産業分類コードに基づいています。VSICコードは、ベトナム政府が事業活動をカテゴリー別に管理するために使用されるコードで、具体的な事業内容を分類します。これは国際標準産業分類(ISIC)に準拠しており、企業がどの分野で活動するかを政府が管理するための重要な指標です。 例えば、製造業、サービス業、コンサルティング業など、企業が行う業務に応じたVSICコードを選定し、ビジネスラインとして登録する必要があります。これにより、事業活動の合法性が確保され、政府による管理が可能となります。 2. CPCコードとは 一方、CPCコード(Central Product Classification Code)は、国連が定めた中央商品分類コードであり、主に商品やサービスの種類を国際基準に基づいて分類するために使用されます。特に、サービス業や国際的な取引に関連する企業にとって、CPCコードは重要です。 ベトナムでは、サービスを提供する企業が特定の業務を行う際に、CPCコードを使用してその業務内容を登録します。これは国際的な基準に基づいており、特に外資系企業が進出する際に求められることが多いです。 例えば、「管理コンサルティング」業務はCPCコード865に該当し、企業はこのコードに基づいてコンサルティングサービスを登録することができます。CPCコードは国際的な取引や投資においても使用され、企業が行う業務内容を正確に反映させるための手段となります。 3. ビジネスライセンス(サブライセンス)とは ビジネスライセンスとは、特定の事業活動を合法的に行うために必要な許認可を指します。これには、ビジネスラインの登録に加えて、各省庁からの追加の許可が必要な場合があります。これを「サブライセンス」とも呼ぶことがあり、例えば、医療業、教育業、金融業など、特定の規制が厳しい分野で事業を行う際には、別途取得が求められることが一般的です。 ベトナムでは、特定の業種について追加の許認可が必要なケースが多く、企業が進出する際には、各業種に対応するサブライセンスの取得が求められます。例えば、食品や医薬品の製造・販売を行う企業は、保健省からの許可が必要であり、金融業を営む場合には、財務省や中央銀行からの認可が必要です。 このように、サブライセンスは業種によって異なり、ビジネスラインの登録に加えて、企業が法的に事業を運営するためには、これらの追加の許認可を取得することが不可欠です。 4. ビジネスライン、CPCコード、VSICコード、ビジネスライセンスの関係性 ビジネスライン、CPCコード、VSICコード、ビジネスライセンスは、それぞれが関連し合い、企業がベトナムで事業を行う際に必要な要素となります。 ビジネスライン: 企業が事業活動を行うために登録する基本的な業務内容です。これに基づいて、事業の合法性が確認されます。 VSICコード: ビジネスラインに対応する産業分類コードで、ベトナム政府が企業の業種を管理するために使用します。 CPCコード: 特にサービス業において、国際基準に基づいた業務内容の分類を示します。外資系企業やサービス業に多く使用されます。 ビジネスライセンス(サブライセンス): 特定の業種に必要な追加の許認可で、ビジネスラインの登録に加えて必要となる場合がある。 例えば、コンサルティング業を営む外資系企業は、まずVSICコードに基づいたビジネスラインの登録を行い、その際にCPCコード865(管理コンサルティング)を選定します。その後、具体的な業務を行うために、必要に応じてサブライセンスの取得が求められることがあります。 5. まとめ: ベトナム進出時に必要な準備 ベトナムに進出する日本企業にとって、これらのライセンスや登録は必須事項です。特に、企業の業務内容に応じたVSICコードやCPCコードの選定は重要であり、正確な登録がなされていない場合、後に事業の運営に支障をきたす可能性があります。また、特定の業種ではビジネスライセンス(サブライセンス)の取得が必要であるため、進出前に十分な準備と確認が求められます。 ベトナムは、成長著しい経済圏であり、多くの外資系企業が進出していますが、法規制や行政手続きが厳格であるため、正確な手続きを踏むことが成功の鍵となります。進出を検討する企業は、専門家のサポートを受けながら、適切なライセンス取得と事業計画の策定を行うことが推奨されます。
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- 2024.09.05
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ベトナムは気候変動の影響を強く受ける国の一つであり、特に近年の急速な発展に伴い、温室効果ガス排出量が増加、これにより洪水や台風などの自然災害が頻発し、農業やインフラに深刻な影響を与える可能性が増加しています。そこで、進出企業はこれらのリスクに対応し、持続可能なビジネスモデルを構築することが求められています。 今回のコラムでは、現在日本で求められている気候関連開示やベトナムにおける気候変動の状況を簡単にまとめた上で、ベトナムにおける気候関連リスクをいくつか記載します。 気候変動とは、地球全体の気温や降水量、風のパターンなどの気候が長期的に変化する現象を指します。近年、特に人間の活動による温室効果ガスの排出が原因で、地球の気温が急激に上昇しており、この変化は、異常気象や自然災害の激甚化など、地球規模でさまざまな影響をもたらしています。 国連広報センター 気候変動とは https://www.unic.or.jp/activities/economic_social_development/sustainable_development/climate_change_un/what_is_climate_change/ 気候変動に対する世界的な取り組みは、国際的な協力を通じて進められており、2015年国連気候変動枠組み条約締約国会議(COP21)で採択された「パリ協定」では、産業革命以前に比べて気温上昇を2℃未満、できれば1.5℃に抑えるという世界共通の目標が掲げられました。 UNFCCC パリ協定の概要 https://unfccc.int/process-and-meetings/the-paris-agreement/the-paris-agreement 各国はこの目標を達成するために、温室効果ガスの削減目標を設定し再生可能エネルギーの利用促進やエネルギー効率の向上を図っており、ベトナムは2021年にイギリスのグラスゴーで開催されたCOP26において、ファム・ミン・チン首相が、2050年までの温室効果ガス排出量実質ゼロ(カーボンニュートラル)を目指すと発表しました。 JETRO ベトナム首相、2050年までに温室効果ガス排出ゼロ目指す、COP26で表明 https://www.jetro.go.jp/biznews/2021/11/836fe1fec0b77686.html また、日本貿易振興機構(ジェトロ)が実施した2023年度、海外進出日系企業実態調査によると、脱炭素化〔温室効果ガス(GHG)排出削減〕への取り組みについて、「すでに取り組んでいる」と答えた日系企業の割合は、ベトナムでは34.4%。ASEAN平均の39.2%より低いですが、脱炭素化に「今後取り組む予定がある」とした日系企業を合わせると72.7%となり、一定の関心の高さがうかがえます。 JETRO 2023年度 海外進出日系企業実態調査(アジア・オセアニア編) https://www.jetro.go.jp/world/reports/2023/01/a261e38b2e86c8d5.html 日本では2022年4月から、コーポレートガバナンスコードの改定により、プライム市場上場企業を対象に、気候変動に係るリスクおよび収益機会が企業の事業活動や収益等に与える影響について、「気候関連財務情報開示タスクフォース(TCFD:Task Force on Climate-related Financial Disclosures)」またはそれと同等の枠組みに基づく開示の充実が求められることとなりました。 また、2023年1月31日、企業内容等の開示に関する内閣府令等の改正により、有価証券報告書等において、「サステナビリティに関する考え方及び取組」の記載欄が新設されたことで、有価証券報告書提出会社を対象に、気候変動についての記載が義務づけられています。 金融庁 サステナビリティ情報の開示に関する特集ページ https://www.fsa.go.jp/policy/kaiji/sustainability-kaiji.html コーポレートガバナンスコードは「コンプライ・オア・エクスプレイン」の原則により、「遵守する」か「説明する」必要があります。そのため、理由を説明しないでコーポレートガバナンスコードを遵守しない場合、有価証券上場規定に違反する恐れがあり、TCFD提言に従った開示は、実質的に義務化されていることになります。 有価証券報告書等におけるサステナビリティ情報開示に関する監査上の取扱は、その他の記載内容に該当し、監査人は通読し「財務諸表」または「監査人が監査の過程で得た知識」との間に重要な相違があるかどうかについて検討、「財務諸表」または「監査人が監査の過程で得た知識」に関係のない内容についても、重要な誤りの兆候に注意を払わなければならないとなっています。重要な誤りの修正に同意しない場合、「財務諸表に対して意見不表明とすることが適切なことがある。」とされています。 監査基準報告書720 その他の記載内容に関連する監査人の責任 https://jicpa.or.jp/specialized_field/2-24-720-2-20220616.pdf また、有価証券報告書等におけるサステナビリティ情報開示において他の公表書類が参照された場合には、参照された他の公表書類は「基本的には有価証券報告書等の一部を構成しない」ため、監査上通読の対象とはなりません。しかし、参照された他の公表書類に明らかに重要な虚偽の表示又は誤解を生ずるような表示があることを知りながら参照していた場合等においては、当該書類を参照する旨を記載したこと自体が有価証券報告書等の虚偽記載等となり、被監査会社が責任を負うことがあります。 監査基準報告書720 周知文書第2号 「その他の記載内容」に関する監査人の作業内容及び範囲に係る 周知文書 https://jicpa.or.jp/specialized_field/2-24-720s_2-2-20221013.pdf サステナビリティ情報は社会システムや資本の流れを変革する手段であり、投資情報としての重要性が高まったことで、その開示はビジネスにおける必須条件となっています。 特に気候変動に対する開示の枠組みの発展は目覚ましく、重要性と緊急性の高さがうかがえます。この背景にはSDGs、国連気候変動枠組条約、パリ協定などによる気候変動の脅威に対する世界的対応の強化。また、G20の要請により設立された気候関連財務情報タクスフォース(TCFD)の働きが大きくあり、日本における気候変動開示の対象企業の多くがTCFD提言に従った開示を行っています。 PwC TCFD提言に関する開示状況の分析(2023年3月期有価証券報告書) https://www.pwc.com/jp/ja/knowledge/column/sustainability/tcfd-analysis06.html これにより開示内容は、ガバナンス、戦略、リスク管理、指標と目標、の4つの開示テーマをもとに、財務諸表とのつながりにおける、リスクや機会、移行計画、将来の予測・対応などにまで及び、企業には外部に対して積極的にわかりやすく説明することが求められています。 特に戦略、指標と目標は企業の特色が強く表れるため、ベトナムに進出する企業にとっても、現地での環境影響を評価し、これを適切に開示することが重要となります。 TCFD公式webページ https://www.fsb-tcfd.org/ TCFD提言(日本語) https://assets.bbhub.io/company/sites/60/2020/10/TCFD_Final_Report_Japanese.pdf (2023年10月にTCFDは解散し、IFRS(国際財務報告基準)財団に対し、気候関連財務情報開示の進捗状況の監視を引き継ぐよう要請しました。また、現在サステナビリティ基準委員会が日本版のサステナビリティ基準を作成中です。) IFRS ISSB and TCFD https://www.ifrs.org/sustainability/tcfd/ SSBJ 公式ホームページ https://www.ssb-j.jp/jp/ ベトナムは、気候変動の影響を強く受ける国の一つです。特に、洪水、台風、海面上昇といった自然災害が頻発し、農業や漁業、インフラに大きな影響を与えており、世界銀行は2022年1月、ベトナムの経済の見通しと気候変動による影響をまとめた報告書「No Time to Waste: The Challenges and Opportunities of Cleaner Trade for Vietnam(無駄にする時間はない:ベトナムにおけるよりクリーンなトレードの課題と可能性)」を発行しました。 The world bank No Time to Waste https://documents1.worldbank.org/curated/en/185721641998618600/pdf/No-Time-to-Waste-The-Challenges-and-Opportunities-of-Cleaner-Trade-for-Vietnam.pdf これは、気候変動がベトナムの主要な輸出産業である工業と農業に影響を与えるためです。特に農業は、ベトナムの総輸出の13.2%を占めており、その生産や輸出は気温の上昇や異常気象に対して非常に脆弱です。 フォームの始まりフォームの終わりまた、生産と輸出の大部分は、沿岸部の低地やデルタ(砂や泥が堆積してできた三角形状の地形)で行われており、海面上昇のリスクが高く、高温、塩水の浸入、干ばつ、洪水などを通じて農業生産に脅威を与えています。 実際にホーチミン南西部に広がるメコンデルタ地域は、世界で最も気候変動の影響を受ける三大デルタの一つであり、塩害の影響で農業生産が困難になる事例が増加しています。 国際農研 気候変動への対応は待ったなし―世界銀行のベトナム経済見通し報告書より https://www.jircas.go.jp/ja/program/proc/blog/20220216 これらの要因として、特に近年の急速な経済成長に伴う、GHG排出量の増加等が挙げられ、2021年にベトナムのGHG排出量は世界で第21位、ASEANの中で第2位となっています。 また、ベトナムのCO2排出量は増加し続けており、2020年にはASEANの中で CO2排出量がインドネシア、マレーシア、タイに次ぐ第4位となりました JETRO ベトナムのカーボンニュートラル に向けた取り組み状況 https://www.jetro.go.jp/ext_images/_Reports/01/2cdcfeb62193c5a8/20220002.pdf 移行リスク ・エネルギー供給とコストの変動、規制への対応 気候変動がエネルギー需要を変動させることで、カーボンプライシングによる、コストの増加や電力供給の不安定化が懸念されます。特に、再生可能エネルギーへの転換が進む中で、企業のエネルギー戦略が問われる場面も増えと考えられます。 ベトナム政府は炭素税や排出量取引の検討を進めており、2022年1月7日に「温室効果ガス排出量の削減とオゾン層の保護を規制する法令」を公布し、温室効果ガスの排出削減、 炭素市場の開発等の詳細を規定。2025年までに自主的な炭素クレジット取引のパイロット制度を構築し、2028年以降に 排出量取引制度を本格的に運用開始する予定のため、今後の環境規制の強化や、対応のための追加コスト、運営上の調整が求められる可能性があります。 環境省 諸外国におけるカーボンプライシングの導入状況等 https://www.env.go.jp/content/000209895.pdf ・ブランドイメージと市場適応 気候変動への取り組みが消費者の選好に影響を与える中、環境に配慮したビジネスモデルの構築や持続可能な製品の提供が、企業の競争力に直結することがあります。ベトナムにおいても製造業が生産活動で環境負荷をどれだけ抑えられるかを投資の選定基準とする新たな潮流があり、ESG投資への注目が高まっています。 物理リスク ・生産性と物流のリスク 洪水や台風の激甚化により、工場の稼働停止やサプライチェーンの寸断による物流の遅延が発生する可能性、インフラの損傷が長期的な経済活動に影響を与えるリスクが存在します。特にベトナムは雨季や台風の影響を大きく受けるため、災害による被害額の多くは台風や洪水によるものです。 さらに、北部の紅河や南部のメコン川流域では、氾濫しやすい地形であることに加え、排水設備や高潮を防ぐ防波堤の整備が進んでいないこともあり、全国的に洪水のリスクが高いと指摘されています。 このような風水害により、実際に1m以上の深さで浸水し、設備や製品・原材料、車両が水没するなど、深刻な被害を受けた企業も多く存在します。最悪の場合、従業員や来客に死傷者が出るなどの人的被害や、ライフラインの停止、事業所の損壊、従業員の出勤が困難になることによる営業停止など、広範な影響が懸念されます。 気候変動は、企業にとって新たな挑戦であると同時に、持続可能な成長を追求するための機会でもあります。今後ベトナムでも法令や実際の環境の変化に伴い、日系企業の対応が必要とされてくる可能性もありますので、規制のアップデート状況にもご注意いただければと思います。
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- 2024.09.05
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【ベトナム】2024年ミシュラン・ガイド発表、新たにダナンが追加
2024年6月、2024年版のベトナム版ミシュランガイドが発表されました。ベトナムのミシュランガイドは2023年からスタートしています。 2023年版: 【ニュース】ベトナムで初めてミシュラン・ガイドの掲載レストランが発表 A)星付きレストラン、B)ミシュランセレクト、C)ビブグルマンの3つのセクターに分かれており、また、ミシュラングリーンスターも受賞しています。 星付きレストランは一つ星レストランが7軒選ばれました。 Ana Saigon (ホーチミン市) Site https://anansaigon.com/ Map https://t.co/qQOK3VHVtW Hibana by Koki (ハノイ市) Site https://capellahotels.com/en/capella-hanoi/dining/koki Map https://t.co/yVIUvxN6Xn Gia (ハノイ市) Site https://gia-hanoi.com/ Map https://maps.app.goo.gl/AKnG8w9mtPpe9kEd8 Tam Vi (ハノイ市) Site https://www.instagram.com/nhahang.tamvi/ Map https://t.co/Cyrx4hf9Ue Akuna (ホーチミン市) NEW!! Site https://akunarestaurant.com/ Map https://maps.app.goo.gl/dTxGpA8Yg6vQRVN47 The Royal Pavilion (ホーチミン市) NEW!! Site https://www.thereveriesaigon.com/restaurants-bars/long-trieu/ Map https://maps.app.goo.gl/fJXSLJhpD6y3GVa59 La Maison 1888 (ダナン) NEW!! Site https://www.danang.intercontinental.com/dining/la-maison-1888/ Map https://maps.app.goo.gl/SgXqGNXJ8ffZpauN7 ミシュランセレクトは新たに40軒が追加され、合計99軒が選ばれました。 ビブグルマン(良質な料理をコスパがよくいただける店)は、 新たに28軒の追加とミシュランセレクトからの移行が1軒あり、合計で58軒が選ばれました。 ミシュラングリーンスターとは、持続可能な活動において業界の最先端を行くレストランに授与され、今回、ベトナムではじめて「Nén Danang」が受賞しました。 Nén Danang (ダナン) Site http://www.restaurantnen.com/ Map https://maps.app.goo.gl/i9dXB5PowvAVULUVA 各掲載店については以下の公式サイトからも確認できます。 https://guide.michelin.com/jp/ja/selection/vietnam/restaurants
- コラム
- 2024.08.30
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住宅法に関する政令第95/2024/ND-CP号の概要(2024年8月1日施行)
政府は、2024年7月24日に2023 年公布の住宅法(2024年8月1日施行)の条項の一部を詳細に規定する政令 95/2024/ND-CP を発行しました。この政令は 2024 年 8 月 1 日から正式に発効したので、いくつかの主な規定内容について説明したいと思います。 政令 95/2024/ND-CPの第4条によれば、外国の組織・個人が住宅を所有することが許可される地域における住宅建設投資プロジェクトのリストを確定するために、国防省及び公安省は、本政令の発効日(2024年8月1日)から最長 6 か月以内に、国防及び安全を保障すべき区域の具体的な確定を行い、省級人民委員会に通知します。 省級人民委員会が、国防省・公安省の通知及び本政令の第15条6項に定める管轄官庁の投資方針承認書に基づき、外国の組織・個人が住宅を所有することが許可される地域における住宅建設投資プロジェクトのリストを確定し、省級人民委員会の電子情報ポータル上に公表するとともに、省級住宅管理機関の電子情報ポータル上にそのプロジェクトリストを掲載するために省級住宅管理機関に送付します。 複数のアパートが存在する多層階住宅とは、販売、賃借り満期購入、又は販売、賃借り満期購入、賃貸の組み合わせ、又は各々のアパートの賃貸のみを目的として設計され、建設された 2 階以上の住宅です。 複数のアパートが存在する多層階住宅の建設が次のとおり行われます。 賃貸、販売、若しくは販売、賃貸、賃借り満期購入の組み合わせを目的とした複数のアパートが存在する多層階住宅、又は賃貸を目的とした20戸以上のアパートの規模がある物件を建設する場合、当該住宅の建設が、投資に関する法律、住宅に関する法律、建設に関する法律及び関連法律に従って住宅プロジェクト建設投資手続きを行う必要があります。 賃貸を目的として20戸以下の規模の複数のアパートが存在する多層階住宅を建設する場合、当該住宅の建設が、法律の規定に基づく設計、建設設計の審査、建設許可の発行、施工の管理・監督、及び防火・消火に関する要件等を含む個人の個別住宅に関する規定に従う必要があります。 住宅法の第57条1項又は第57条3項に従って住宅を建設し、販売・賃借り満期購入のためにアパートがある場合、住宅の販売・賃借り満期購入が、不動産事業に関する法律の規定に従って行われます。(政令 95/2024/ND-CPの第42条1項) 住宅法の第57条3項に従って住宅を建築し、賃貸のみのためにアパートがある場合、住宅の賃貸が、民事に関する法律及び住宅に関する法律の規定に従って行われます。(政令 95/2024/ND-CPの第42条2項) 売買・賃借・賃借り満期購入のためのアパートの引渡しが次の規定に従って行われます。 第42条 1 項に規定する場合、住宅の引渡しが住宅法の第 37 条4 項及び本政令の第 25 条に従って行われます。 第42条 2項に規定する場合、住宅の引渡しが締結された住宅賃貸借契約に基づき行われます。 【ベトナム】新住宅法及び新不動産事業法の重要な改正点(2024年8月1日施行)