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- 2025.04.23
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ベトナム広告法改正案:SNS広告・インフルエンサー規制の要点
ベトナム文化・スポーツ・観光省は、「広告法の一部条項を改正・補充する法律案」(Dự thảo Luật sửa đổi, bổ sung một số điều của Luật Quảng cáo)を国会に提出し、SNS上で広告コンテンツを配信する個人の責任を明確化する動きを進めています。改正案は2024年10~11月の第15期国会第8会期で初めて上程され、2024年11月25日には本会議討議も行われました。今後、意見集約と条文の修正を経て2025年中にも可決・公布される見通しで、公布後はガイドラインとなる政令の策定も予定されています。 この改正案は、2012年に制定された現行の広告法(2013年施行)以来初の大幅な見直しであり、10年以上にわたる運用上の課題を踏まえたものです。 現行法と改正案を比較すると、従来の広告法では主に広告主や広告サービス事業者(代理店)に責任が集中しており、SNS上で活動するインフルエンサー個人については明示的な規定がありませんでした。その結果、著名人による広告トラブルが発生しても法の適用や責任追及が不明確な面が指摘されてきました。今回の改正案では、こうしたギャップを埋めるために、インフルエンサーなど広告配信者に関する定義や責任規定を初めて盛り込んでいることが大きな特徴です 項目 概要 現行位置づけ 2024年10月国会(第8会期)で初審議済み。第9会期(2025年5月下旬予定)で可決見込み。可決後、詳細を定める政令を順次制定予定。 改正理由 インフルエンサーによる虚偽広告(例:健康食品「Kera」事件)や海外プラットフォーム経由の無登録広告が多発し、消費者保護と課税漏れが深刻化。 市場規模 オンライン広告2.3 billion USD(2023)。売上の約70%がFacebook/Google/TikTokなど海外勢。 改正案では、従来あいまいだった「広告コンテンツ配信者」の範囲が明確化されています。新たに定義された「広告媒体伝達者」(người truyền tải sản phẩm quảng cáo)には、SNS上で広告行為を行う個人や組織が含まれることが明記されました。 つまり、フォロワーを抱えるインフルエンサーや芸能人、KOL(Key Opinion Leader)・KOC(Key Opinion Consumer)と呼ばれる人物も、この「広告媒体伝達者」として法の適用対象になるということです。改正案は、影響力の大きなこれら個人を適切に監督する必要性を認識し、彼らに対する具体的な権利・義務規定を初めて設けています。 さらに、企業アカウントや広告代理店など、オンライン上で広告を発信・仲介するあらゆる主体も引き続き規制対象です。広告主(製品・サービスの提供者)、広告サービス提供者(メディア会社・代理店)、広告媒体発行者(媒体オーナー)といったオンライン広告のバリューチェーン上の全ての関係者が網羅されます。 特に今回の改正では国外の主体によるベトナム向け広告配信(いわゆる越境広告)にも焦点が当てられています。外国企業・個人がSNSやインターネットを通じてベトナム国内に広告を届ける場合も、ベトナムの広告法規を遵守する義務があることが明確化されました。 例えば、FacebookやYouTube上で海外在住者が行うベトナム語の広告や、海外企業がベトナム市場向けに出稿するネット広告も規制の射程に入ります。 要するに、国内外を問わず、SNS等でベトナム人消費者にリーチする広告コンテンツを配信するすべての主体が、改正後の広告法によって何らかの義務を負うことになります。これには当然、個人インフルエンサーや芸能人も含まれ、彼らは従来以上に「広告主」や「広告事業者」に準じた責任を負うことになるのです。 3. 明確化される新たな義務と責任 今回の改正案で広告配信者(特にインフルエンサー)に課される新たな義務として注目されるのは、次のようなポイントです。 インフルエンサー本人からプラットフォーム運営者まで、オンライン広告に関わる各主体の責務を具体化・厳格化した点が改正案の肝と言えます。従来は事前の行政許可・検閲(事前審査型)に頼る面がありましたが、改正後は「事後チェック型」へと方針転換し、各主体の自己責任原則を強化した形になります。 インフルエンサー等がSNS上で商品・サービスを宣伝する際には、事前に「これは広告である」ことを消費者に明確に通知・表示する義務があります。いわゆるステマを防止し、広告であることを隠さないよう求める規定です。例えば投稿に「#広告」タグを付けたり、動画で「スポンサー提供による紹介」であると説明するなどの措置が必要になります。 広告法上もともと禁じられている虚偽・誤解招誘表示について、インフルエンサー自身も発信内容の正確性を事前に確認し、担保する責任を負います。特に今回の改正案では、インフルエンサーが化粧品や健康食品などの使用感をSNSに投稿する場合、「実際に自らその商品を使用した者でなければならない」と規定されています。つまり、使ったこともない商品をあたかも愛用しているかのように宣伝する行為は禁止されます。この規定は美容・健康分野で顕著な誇大広告を抑制し、消費者に実体験に基づく情報を提供させる狙いがあります。 たとえば、健康食品の広告には保健省の許可番号を明示する、医薬品的な効能を謳わない、治療効果を暗示しない、といった各種専門法令のルールを広告法にも反映させています。 インフルエンサーが広告主から報酬を得て宣伝を行う場合、広告主との間で正式な書面契約を締結することが求められます。契約には広告の内容や範囲、責任分担などを明記し、後日のトラブル発生時に双方の責任を明らかにできるようにしておく必要があります。 また、インフルエンサーは広告に関するデータや資料(広告した商品のリスト、各商品の売上や収入額など)を一定期間保存し、税務当局などから要求があれば定期的に提出する義務も負います。これにより、誰がどのような広告でどれだけ収入を得たかを行政が把握できる体制を整えます。 広告コンテンツが掲載されるSNSプラットフォームにも新たな義務が課されます。具体的には、プラットフォームは広告であることを識別できる機能を提供し、スポンサー投稿には「広告」「提供」等のラベルを明示表示させることが義務付けられます。 また、違法な広告コンテンツ(虚偽広告や無許可商品の広告など)が存在する場合、権限当局からの要請に応じて24時間以内に当該コンテンツを削除しなければなりません。もしプラットフォーム側が協力しない場合、当局は技術的措置等で強制的に違法広告を排除する権限を持つとされています。この規定は、プラットフォーム事業者にコンテンツ監視の責任を負わせるものではなく、あくまで問題発覚後の迅速な対応協力を求める趣旨です。 4. 違反に対する罰則強化 改正案では、違反行為に対する制裁措置も大幅に強化されています。現在、虚偽・誇大広告を行った場合の行政罰(金銭的な過料)は個人で最大約8,000万ドン、法人でも最大約4億ドンと定められています。しかし当局者によれば、SNSで莫大な利益を上げる一部のインフルエンサーにとってはこの程度の罰金は「痛くない」水準であり、違反抑止力が不十分でした。そこで改正案では「違反者の得た利益に見合うよう過料の上限引き上げを図り、経済的メリットを帳消しにする」方向で見直しが検討されています。具体的な金額は今後政令で定められますが、現行の倍以上の高額罰金や、違反による収益没収(課徴金)といった措置も議論されています。 さらに、追加的な行政処分も導入される見込みです。改正案には、単なる罰金だけでなく、悪質な違反者に対し以下のような処分を科す規定が盛り込まれました。 広告活動の一定期間禁止 虚偽広告を行ったインフルエンサーや芸能人に対し、一定期間(例えば6か月~1年)一切の広告出演・広告投稿を禁止する措置です。違反者を広告業界から締め出すことで再発防止を図ります。 芸能活動の制限(メディア露出の禁止) 特に社会的影響力の大きい著名人が悪質な広告違反を犯した場合、テレビ番組や公的イベントへの出演、自身のSNSアカウントでの発信など広くメディアへの露出を制限する処分も検討されています。いわゆる「出演停止」処分で、違反の社会的影響に見合ったペナルティを与える狙いです。 営業許可の停止・取消 法人や事業者が関与するケースでは、その広告業務に関する許認可(例えば広告代理業のライセンス)を一定期間停止したり、違法商品の販売業者であれば商品の販売許可を取消すなど、業務そのものを止める措置も可能としています。 証拠物品の没収 違法な広告行為に用いられた商品や資料、機材などを没収し、違反の痕跡を断つことも定められています。 これらの厳格な措置は、「罰金を支払って謝罪すれば済む」といった従来の風潮に一石を投じるものです。 以前は、多くの有名人が違反後に「数百万~数千万ドン(数万円~数十万円)の罰金を納め、SNSで謝罪動画を出し、しばらく黙っていた後に活動再開する」というパターンが散見されました。改正法の下では、そのような軽微な負担で再起できなくなる可能性があります。場合によっては刑事責任の追及も現実味を帯びます。実際、前述のKeraキャンディ事件では刑法の詐欺罪や偽造罪が適用されており、インフルエンサーであっても違法行為には刑事罰(最大で数年間の懲役刑)もあり得ることが示されました。 5. 税務対応と越境広告収入の課題 改正案には、オンライン広告収入に対する税務管理の強化策も盛り込まれています。 前述の通り、オンライン広告市場の大半を海外プラットフォームが占め、税金が適切に納められていない問題意識があります。そこで、新法では税務当局への情報提供義務を設け、広告配信者や広告関連事業者が収入状況を報告できる体制を整えます。具体的には、インフルエンサーは自身の広告収入や取引情報を記録し、税務当局から求めがあれば定期的に提出しなければなりません。これにより、個人の広告収入にも課税漏れなく所得税等が課せられるようになります。 また、国外からベトナム市場向けに配信される広告収入についても対策が取られます。 改正案では、海外事業者がベトナムで広告サービスを提供する際は当局への事前通知・登録を義務付け、必要に応じてベトナムでの納税義務を課す方針です。例えば、YouTube上のベトナム人クリエイターに外国企業が支払う広告料も、従来は国外送金扱いで不透明でしたが、プラットフォームと協力してこうしたデータを把握し、源泉徴収やVAT(付加価値税)の徴収を行う仕組みを強化しています。実際、Meta社(Facebook)やGoogle社など主要プラットフォームは既にベトナム税務当局に登録を行い、広告売上に対するVAT納付を開始しています。新法はこの流れを後押しし、「稼いだ場所で税を納める」公平な税負担を実現する狙いがあります。 企業広告主の側でも、支払う広告費に対する税務処理への意識が必要です。海外プラットフォームに直接広告出稿する場合、相手が納税していないと将来的に費用損金算入に影響が出る可能性もあります。そこで、安全策として国内の代理店経由で広告出稿し、税務処理を適正化する企業も増えると予想されます。インフルエンサーへの報酬支払いについても、個人事業所得として領収書を受け取り、源泉徴収(個人所得税の天引き)を行うなど、企業側が協力して税務コンプライアンスを図ることが重要です。 さらに、暗号資産や海外送金による報酬支払いなど、新たな手段で税逃れをする動きにも当局は目を光らせています。文化省は「オンライン広告市場の透明化と脱税防止」も改正法の目的に掲げており、必要に応じて金融当局や情報通信省と連携して資金フローの監視を強める方針です。広告主・インフルエンサー双方にとって、適正な申告納税と収入の透明性確保がこれまで以上に求められる時代となるでしょう。 6. 消費者保護の強化策 今回の改正は、消費者保護の観点からも大きな意味を持ちます。2023年に改正・施行されたベトナムの消費者保護法では、新たに「影響力を持つ第三者(インフルエンサー等)が提供する商品情報」に関する規定が盛り込まれました。改正広告法はこの流れに沿う形で、インフルエンサーを「第三者による情報提供者」と位置付け、消費者に誤解を与えないよう義務を課しています。 具体的な消費者保護強化策として、虚偽・誇大な広告表現の取り締まりが一層厳しくなります。改正案では、広告内容について「真実性・正確性・明確性を保証し、商品・サービスの機能・品質・効果について誤解を生じさせてはならない」ことが改めて明文化されました。例えば「飲むだけで確実に減量できる」など科学的根拠に乏しい断定的表現や、「今だけ先着100名に半額」など根拠のない数量限定表示は、消費者を欺くおそれがあるとして厳禁です。また、広告に注意書きや警告文を付す場合は、消費者が容易に認識できる形で明瞭に表示しなければならず、紛らわしい小文字や短時間表示は禁止されます。 さらに、健康食品・化粧品・医療サービス等の「特別な商品・サービス」の広告条件も見直されました。これは消費者の生命・健康に直接関わる分野で誤解を与える広告が横行したことへの対応です。たとえば、健康食品の広告には保健省の許可番号を明示する、医薬品的な効能を謳わない、治療効果を暗示しない、といった各種専門法令のルールを広告法にも反映させています。インフルエンサーがこうした商品の宣伝に関与する場合も、自ら使用経験があることを条件とした前述の規定などを通じて、いい加減な推薦がなされないようにしています。 苦情対応と行政連携: 消費者が虚偽広告に惑わされた場合の救済策も強化されています。消費者保護法では、消費者は関係当局に違法広告に関する調査・処分を請求でき、所管官庁は他の主管官庁と連携して対処する義務があります。例えば、偽薬の広告を消費者が発見して通報した場合、広告分野を所管する文化省だけでなく、医薬品を所管する保健省とも情報共有し、商品の回収や是正措置まで含めた対応が図られる仕組みです。今回の広告法改正も、文化省が単独で動くのではなく、保健省や工業貿易省など関連規制当局と協力しながら消費者被害の未然防止・拡大防止に当たることを想定しています。実際、近頃は保健省が偽健康食品を宣伝した芸能人の処分を文化省に要請し、文化省が調査に乗り出すケースもありました。 さらに、消費者保護の視点で注目されるのは教育啓発の充実です。改正案そのものではありませんが、当局者は「消費者自身が情報を見極めるリテラシーを高めること」も重要だと述べています。法整備と並行して、誇大広告に騙されないための注意喚起キャンペーンや、学校教育での消費者教育など、消費者側の防衛力向上も図られるでしょう。最終的には、規制当局(政府)、プラットフォーム企業、広告発信者、そして消費者がそれぞれ責任ある行動を取ることで、健全で透明性の高いデジタル広告市場を育てることが目標とされています。 まとめ ベトナムのSNS広告を取り巻く環境は、今回の広告法改正によって大きく変わろうとしています。 インフルエンサーや広告主、プラットフォームに至るまで、関係者全員が法的責任を再認識し、透明性と誠実さを持って広告活動に臨むことが求められる時代です。実務家や企業関係者は、この改正動向を他人事と捉えるのではなく、自社のマーケティング戦略やコンプライアンス体制を見直す好機と捉えるべきでしょう。 特に日本企業にとっても、ベトナム市場でSNSプロモーションを展開する場合には本改正への対応が避けて通れません。日本本社の企画でも、現地法人や代理店を通じてインフルエンサーを起用する際には、改正広告法に反しない表現か、契約書や税務処理は適切か、といった点をチェックする必要があります。また、「消費者の信頼を得る広告とは何か」を改めて考える契機と捉え、単に法律遵守に留まらず、企業倫理やCSR(企業の社会的責任)の観点からも健全な広告手法を追求することが望まれます。 本法案はまだ国会通過していないものであり、今後も内容が変わる可能性もあります。実際に公布され、施行されるまで更に注目を集めるでしょうから、弊所でも注視していきたいと思います。 【付録1】新旧重要ポイント対比 項目 現行(2012年法) 改正案(2025年成立予定) 実務インパクト ① 対象主体の定義 「人 = 広告主・代理店・媒体」の3者のみ明示。インフルエンサーはグレー。 「広告伝達者」を新設し、KOL/KOC・芸能人・ライブ配信者を明確に包含。 インフルエンサーも法的義務者に。 ② 広告の開示義務 ステルスマーケティング規制なし。 SNS投稿で「広告」である旨を事前明示必須。形式はハッシュタグ等を政令で指定。 #Ad タグ等の徹底が必要。 ③ 実使用要件 なし。 化粧品・健康食品等は「本人が実際に使用した者のみ感想可」。 PR用貸与品のみでの体験談禁止。 ④ 契約・証跡保管 義務規定なし。 広告主⇔KOL間で書面契約+収入・販売データ保存を義務化。税務当局要請時に提出。 法務・経理が契約雛形を標準化。 ⑤ 罰金上限 個人 8,000万VND/法人 4億VND。 上限大幅引上げ+収益没収を検討。加えて広告出演・配信禁止処分を新設。 違反時の経済ダメージが倍増。 ⑥ プラットフォーム責任 法的協力義務は限定的。 Facebook等は違法広告を24h以内削除・広告ラベル機能提供。不履行なら技術的遮断も。 投稿削除依頼が迅速化。 ⑦ 越境広告・課税 登録・納税義務の実効性弱い。 海外事業者にベトナム税・VAT登録/代表窓口届出を義務付け。 直接出稿でも税務証憑が必要。 ⑧ モデル転換 事前許可中心。 自己管理+事後重罰モデルへ。行政はガイド・監視、主体は企業側。 内部コンプラ体制強化が必須。 【付録2】日系企業対策のポイント整理 リスク領域 取るべき対策(抜粋) ① 契約管理 KOL起用時はベトナム法準拠の広告契約を作成し、違反時の損害賠償・投稿削除義務を明記。 ② 表現審査 美容・健康商材は効能表現を日本語原稿段階で精査し、翻訳時の誇張を防止。 ③ 税務処理 報酬は源泉徴収(PIT 10%目安)+e-invoice取得。海外プラットフォームへの直接出稿はVAT処理可否を要確認。 ④ リスクモニタリング 投稿後も定期サンプリング監視。違反疑義があれば24時間以内に修正/削除要請できる社内フローを整備。 ⑤ 代理店選定 ベトナムで広告サービスライセンスを有し、改正法に合わせたKOLコンプラチェック体制を持つ代理店を選ぶ。
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2025年7月1日、ベトナムにおいて改正労働組合法(法令番号50/2024/QH15)が施行されます。 この新しい労働組合法は、約10年ぶりの大幅な見直しであり、企業の労務管理にさまざまな影響を及ぼします。特に外国人労働者の労働組合加入の解禁や、企業による組合設立支援義務の明確化、組合費(組合拠出金)の減免措置の導入などが重要な改正点です。以下では、主に日系企業として注目すべき改正ポイントをわかりやすく解説します。 改正労働組合法では、ベトナム国内で12ヶ月以上の有期労働契約で働く外国人労働者に対し、勤務先の企業内労働組合への加入と組合活動への参加がはじめて認められました。これは、ベトナムの労働組合制度がよりグローバルな労働慣行に沿ったものへ発展していることを示す改正です。 一方で、労働組合の役職に就任できるのはベトナム国籍の者のみと定められており、外国人労働者は組合員として意見表明や活動参加はできても、組合役員へ立候補したり指名を受けることはできません。企業としては、自社の外国人従業員にも労組加入の権利が生じることを踏まえ、希望者がいれば加入手続を妨げず受け入れる体制を整える必要があります。また、現地採用の日本人駐在員等も条件を満たせば組合に参加し労働条件の改善を求めることが可能になる点に留意しましょう。 改正労働組合法は、使用者(企業)に対し、労働者の労働組合結成・加入・活動を妨げないことや、必要な支援を提供することを明確に義務づけています。具体的には、従業員が正当な手続で労働組合を設立・運営しようとする際、企業はこれを認め、尊重し、必要な条件を整える責務があります。 また第10条では、組合活動に関する禁止行為が詳細に規定されました。例えば、組合結成や加入を理由に従業員の契約更新を拒否したり、解雇・配置転換すること、賃金・労働時間など労働条件で不利益を与えること、性別などによる差別を行うこと等が明確に禁じられています。さらに、組合役員の評判を落とす虚偽の情報を流布する行為や、従業員に組合活動を諦めさせるために物質的・非物質的な利益を提供するといった「不当労組対策(アンチユニオン行為)」も禁止事項として列挙されました。企業は管理職や人事担当者に対し、こうした禁止事項を十分周知し、組合結成や加入への妨害や従業員への圧力が発生しないよう内部ルールを整備することが重要です。 企業が拠出する組合費(労働組合拠出金)について、改正法でも現行と同様に「企業は給与支払総額(強制社会保険の算定基礎額)の2%を組合費として納付する義務」が維持されました。 また、組合員(従業員)が支払う組合費も従来通り、月給の1%(労働組合憲章の定めによる)とされています。したがって、新法施行後も企業負担の組合拠出金2%は継続しますが、今回新たに経営状況に応じた組合費負担の緩和策が明文化されました(第30条)。以下に主な減免・猶予条件をまとめます。 ・組合費の免除: 法律に基づき解散または倒産した企業(および協同組合)について、未納の組合費は免除対象となります。ただし、清算後の資産状況によっては主管当局の判断で組合費を徴収される可能性がある点に注意が必要です。 ・組合費の減額(納付額の引き下げ): 経済的困難に直面している場合や不可抗力(天災や疫病など)の事由によって事業運営が困難となった企業・組織は、所定の手続きを経て組合費納付額の減額措置を受けられる可能性があります。具体的な減額率や認定基準は、本法に基づき今後政府と労働組合側(VGCL)との合意の上で詳細規定が定められる予定です。 ・組合費納付の一時停止(猶予): 経営上の困難により事業を一時停止しており、組合費の支払いが一時的に不可能となった場合、企業は最長12ヶ月間、組合費の納付を一時猶予することが認められます。例えば、自然災害や火災、パンデミック等で休業を余儀なくされたケースが該当します。猶予期間満了後は、翌月末までに猶予していた期間分の組合費をまとめて追加納付する義務があります。追加納付額は猶予期間中に本来納めるはずだった額と同額です。 これらの減免・猶予措置を受けるには、企業側から申請し承認を得る必要があります。具体的な手続きや必要書類、審査機関などの詳細は政令で定められる見込みです。したがって、上記の措置を受けることを検討する場合は、今後公布される政令の内容を確認した上で、早めに所管当局や労働組合と相談して手続きを進めることが推奨されます。また、減免措置を受けない通常の場合でも、組合費2%の納付義務違反(未払い・滞納)は新法で明確に禁止行為とされており 、従来以上に厳格な履行が求められる点に注意してください。 新労働組合法は、企業が労働組合活動を円滑に行えるよう必要な措置を講じる義務を詳細に規定しています。企業に求められる主な支援内容は次のとおりです。 企業は、自社の労働組合の活動に必要な事務所スペースや設備等を整える責任があります。例えば、労働組合の事務所や会議室の無償提供、パソコンや机など備品の貸与といった支援が求められます。これらは労組の基本インフラとなるものであり、企業側の協力義務として明文化されました。 組合役員を務める従業員については、勤務時間の一部を組合活動に充てることが法律で保障されます。具体的には、企業内労組の会長(委員長)や副会長など主要な非常勤組合役員は月24時間まで、その他の執行委員や組合班長クラスの役員は月12時間まで労働組合の業務に使用でき、その間の賃金は企業が通常どおり支払わなければなりません。これらの時間数はあくまで目安で、企業の規模や業種に応じて労組と企業が協議の上で追加の時間枠を設定することも可能です。さらに、上記とは別に、上部団体(上級労組)が招集する大会や会議、研修等に組合役員が出席する場合は、その出席時間中も有給(賃金保障)扱いとすることが定められました。これらの規定により、組合役員は業務と両立しながら組合活動に従事でき、企業はその妨げをしてはならないことになります。実務的には、組合役員の労働時間管理において所定の組合活動時間枠を考慮し、必要に応じて人員配置の調整や業務分担を見直すことが求められます。 改正法は、企業による組合役員への不当な解雇や人事異動を強く制限しています。まず、在任中の組合役員について、その者との労働契約期間が満了した場合でも、組合役員の任期が終わるまでは契約を延長しなければなりません(任期中に契約切れとならないよう保護)。また、企業が組合役員を解雇・懲戒処分したり、他の職務へ一方的に配置転換したりするには、上級労組(直上の主管労組)による事前の同意が必要です。上級労組が不同意の場合、企業は直ちに解雇等を実行することはできず、まずは所管の権限機関へ報告する義務があります。万一、企業が同意なく組合役員を解雇・異動させた場合、労働組合は監督当局に介入を要請したり、組合員の代理人として裁判に訴えることが可能となります。実際に不当解雇が認定されれば、企業には法的責任や原職復帰・補償等のリスクが生じます。以上から、企業は組合役員に対する人事上の扱いに細心の注意を払い, 何らかの処分を検討する際には事前に上級労組と協議するとともに、手続きを厳格に守る必要があります。 近年のベトナムでは、EVFTAやCPTPPなど自由貿易協定の締結を受けて、企業内における従業員による独立した代表組織(内部従業員組織: IEO=Internal Employee Organization)の結成が法的に可能となっていました。改正労働組合法では、これら企業内従業員組織が希望する場合にベトナム全国労働連盟(VGCL)へ加盟(編入)できる手続きが定められています(第6条) 。IEOがVGCLに加入すると企業内労働組合の一種として位置付けられ、統一的な労組組織体系に組み込まれることになります。 IEOがVGCLに加入することで、当該企業内には公式な労働組合組織が発足または再編成されることになります。これにより、その労組はVGCLの指導や支援を受ける立場となり、労組活動や交渉はベトナム労働組合憲章およびVGCLの方針に則って行われます。企業にとっては、従来IEOが存在していた場合は労使協議の相手がVGCL系列の労組へ変わる点が大きな変化です。VGCL加盟労組は上部組織からの研修や情報共有により交渉力や組織運営力が高まる可能性があり、労使交渉がより本格化・制度化することも予想されます。例えば、労働協約の締結や労使対話のプロセスにおいて、VGCLの定めるガイドラインに沿った対応が求められるでしょう。 新労働組合法は、労働組合関連の権利保護を実効性あるものとするため、違反行為に対する罰則と監督体制の強化についても定めています。企業が遵守すべきポイントを以下にまとめます。 本法に違反した企業・組織・個人は、その違反の性質と重大さに応じて懲戒処分、行政処分(罰金など)、または刑事処分の対象となります 。例えば、組合活動への不当干渉や組合費未納といった行為は行政罰(金銭罰)の対象となり得ますし、悪質な妨害や報復があれば刑事訴追も排除されません。現時点で具体的な罰金額等は法律の本文中には規定されていませんが、今後関連政令や通達で細則が公布される見込みです。いずれにせよ、従来以上にコンプライアンスを徹底する必要があります。 改正法では、国家機関の責務として労働組合法や労働法令の履行状況の監督・違反取締りが明記されました。今後は、労働監督官(労働局の監査部門)による定期・不定期の調査において、組合費の適正納付や労組活動保障の状況が重点的にチェックされる可能性が高まります。今後は労働安全衛生や労働時間の監査と同様、労働組合関連の遵法状況も監督当局の重要な査察項目となることを念頭に置いておきましょう。 新法第16条では、労働組合組織自体にも職場における監督活動に関する権限が追加されました。労働組合は、規定された方法で使用者や関係機関に対する監督を行うことができます。 以上のように、新労働組合法の下では国の監督当局と労働組合の双方から労使関係の適正化に向けたチェックが強まることになります。違反を指摘された場合の罰則は厳しいため、企業は違反を指摘されないように努める必要があります。具体的には、社内規程の見直しや管理職研修を通じて労組法の新ルールを周知徹底し、組合費の確実な納付や労組活動保障の履行状況を定期的に自己点検することが有効です。 2025年7月施行の改正ベトナム労働組合法は、労働者の団結権拡大と労使関係の健全化を図るため、企業に対して新たな対応を求めています。特に外国人従業員の組合参加、組合費負担のルール、企業の組合支援義務については実務的な影響が大きいため、日系企業としてもしっかりと内容を把握し準備を進めましょう。 以下、参考までに、日系企業向けの実務対応チェックリストになります。 □ 外国人従業員(12か月以上の契約者)に対して労組加入の権利があることを社内で共有したか □ 組合設立・加入・活動に対して妨害や不利益取扱いが発生しないよう、社内規程・運用を見直したか □ 組合役員への活動時間の付与(12〜24時間/月)および有給扱いの周知と運用ができているか □ 組合費(企業拠出分2%)の納付が適正に行われているか、未納・遅延がないか □ 経営状況に応じて、組合費の減額・免除・猶予の申請が必要かどうかを検討したか □ 内部従業員組織(IEO)の存在と、VGCL(全国労働連盟)への加入の意向を把握しているか □ 組合役員の契約更新・異動・解雇等を検討する際、上部労組の同意手続を確認しているか □ 労働監督や労組からの情報提供要請・対話に対応する体制が整備されているか □ 管理職や人事担当者に対して、改正法の主要ポイントと禁止行為を周知したか □ 労組との協議や対話の場を定期的に持つ体制が構築されているか
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ホーチミン市カンゾーで始動、ビングループの巨大リゾート都市計画
ホーチミン市唯一の沿岸部であるカンゾー区に、埋め立てによる大規模複合都市「VinhomesGreenParadise」の開発が本格始動。計画地は約2,870ヘクタールにも及び、住宅・商業エリアやリゾート施設が一体となった“海上都市”が誕生する予定です。ビングループ(Vingroup)はこのプロジェクトを、環境・社会・ガバナンス(ESG)重視の次世代都市モデルとして位置付けており、観光と不動産開発の両面でベトナム初の試みとなる壮大な計画。以下、計画のポイントを記載します。 2025年4月19日、南部解放50周年(ベトナム統一50年)を記念する時期に合わせて、ビングループはカンゾー地区の沿岸埋め立て都市プロジェクトの起工式を開催しました。この「カンゾー埋め立て都市・観光エリア」計画(プロジェクト名:Vinhomes Green Paradise)は、ホーチミン市当局が長年温めてきたカンゾー開発ビジョンを具体化するものです。ホーチミン市のマスタープラン(2021~2030年、2050年展望)でも、カンゾー区は生態系保全に配慮したエコ都市・観光拠点として位置付けられています。 こうした政府方針の下、ビングループは民間主導の巨大プロジェクトに挑み、カンゾーを「ベトナムに今まで存在しなかった都市の奇跡(kỳ quan đô thị chưa từng có)を創造する」場にしたいと意気込みを示しています 【ポイント】 ・総投資額約217兆VND(約84億USD)、2025年4月19日に起工式を挙行し、ホーチミン統一50周年記念事業の目玉と位置付け。 ・面積2,870 ha/定住人口23万人/年間観光客800–900万人を想定した「世界トップ級ESGメガシティ」構想。 ・「ホーチミン第2のCBDを海上につくる」—金融・MICE・高級観光を一体化し、都市ブランドを一段引き上げる狙い。 ・108階ランドマークタワー:湾岸部を一望する超高層シンボル。 ・7 ha「Blue Wave Theater」(5,000席+屋外5万人広場)—東南アジア最大級の劇場型MICE施設。 ・Paradise Lagoon(人工ラグーン443 ha)+Landmark Harbour(国際クルーズ港)で“水都”を演出。 ・Tiger Woods/RTJ II設計の18H×2ゴルフコース、30,000 m²「Winter Wonderland」スノーパークなど“365日エンタメ”。 ・Vinmec–Cleveland Clinic国際病院やVinschool招致で高付加価値ライフスタイルを供給。 ・洋上風力(沖合10 km)&EV交通網で都市エネルギーを100%再エネ賄い、スマートシティ技術を全面実装。 ・埋め立てフェーズ開始:1,357 haを先行造成、906 haを標高2.9 mで整地中。 ・2025–30年段階開業→50年運営許可の工程で、まず基盤整備+一部商業施設を2027年前後に先行オープン予定。 ・市政府が橋・高速メトロなど周辺インフラを優先整備し、行政手続きも“特別窓口”で加速。 ・距離は海上15 km・フェリー30 分だが、陸路は120 km/3 時間—“アクセス格差”を10 km越え海上大橋で解消予定。 ・カンゾー=「ハイエンド×ESGスマートシティ」:人工白砂ビーチ・金融センター・MICE・クルーズ港で国際富裕層&長期滞在を狙う。 ・ブンタウ=「老舗ビーチタウン」:自然白砂42 km・週末・国内観光が中心。 ・競合より“ハブ&スポーク”モデル—ブンタウが大衆ビーチと港湾・石油産業を担い、カンゾーが高付加価値観光・金融を担当する棲み分けを市・省が推進。 報道によれば長年「ホーチミン市の盲腸」とも揶揄されてきたカンゾー区ということですが、最大不動産会社のビングループによる今後の大規模開発に注目ですね。ホーチミン市に組み入れられる予定のブンタウとの棲み分けもどうなっていくか、楽しみです。
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- 2025.04.15
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ベトナム地方省・直轄市再編の最新情報:決議第60号(60-NQ/TW)
2025年4月12日、ベトナム共産党中央委員会第13期第11回総会において「決議第60号(60-NQ/TW)」が採択されました。この決議は、地方行政区画の大規模な再編を示すもので、全国の省・市(※ベトナムの最上位地方行政単位)の数を現在の63から34へと削減することなどが盛り込まれています。決議原文はベトナム語で発表されており、共産党機関紙などで全文が公開されています。詳細を以下にまとめます。 ※4月15日以降のアップデートを最後に追記しました。 これまでの「省・郡・社」の3層構造から「省・市」と「社」の2層構造に移行します。すなわち、郡(県・区)レベルの行政機関を原則として廃止し、地方政府は省(または中央直轄市)と社(コミューン、市社〔坊〕、町レベル)に再編されます。 これにより、中間行政層を省いて組織の簡素化・効率化を図ります。党中央委は2025年7月1日をもって郡級行政単位の活動を終了させる方針であり、それに先立ち2013年憲法や関連法の改正を行う必要があると指摘されています。 現在63ある省および中央直轄市を34(28省+6市)に再編します。統合後もハノイ市、フエ市、クアンニン省、タインホア省など11の省市は従来通り存続しますが、それ以外の地域は隣接する省同士、あるいは省と直轄市を合併し23の新たな行政単位を設置する計画です(詳細は後述)。 例えば、ホーチミン市はバリア・ブンタウ省およびビンズオン省と合併して拡大し、新「ホーチミン市」となるほか、ダナン市はクアンナム省を吸収して新「ダナン市」となる見込みです。この再編により、地方政府トップの数(党省委員会書記や人民委員会委員長のポスト数)も大幅に削減され、権限が中央政府により集中する可能性があると指摘されています。 郡レベルは上記の通り廃止となり、社(コミューン)レベルでは現行から約60~70%の行政単位を削減する方針です。全国で約1万以上あるコミューン(村落級行政区)を3~4割程度まで絞り込む計算で、下位行政単位も思い切った統合・再編が行われます。これに合わせて、各コミューンには「公共サービスセンター」を設置し、住民が身近な窓口で行政サービスを一括して受けられるようにする構想も示されています。これは行政の末端でサービス低下が起きないようにするための措置です。 政府・党指導部はこの改革の目的を「行政の精簡化(精鋭で簡素で強力かつ効率的・効果的なシステム)」の実現に置いています。トー・ラム書記長は「今回の再編は前例のない戦略的決定であり、国家の迅速・持続的発展と国民生活の向上を図るもの」と強調しました。国内メディアも「少数精鋭で実効性のある新体制」「新たな国興の時代への飛躍」など肯定的に報じています。 一方、識者からは「1986年のドイモイ(刷新)以来最大規模の改革」であり、約10万人規模の公務員削減やサービス供給体制の再構築など多くの課題が伴うと分析されています。特に統合に伴う公務員の配置転換・早期退職、旧行政単位間の調整、住民への周知など実務面で慎重なロードマップが必要と指摘する声もあります。 総じて、この行政刷新は腐敗の温床となりうる冗長な組織を刈り取り、国家発展の原動力を生み出す「痛みを伴う改革」と位置付けられています。 党中央委は関連法制の整備について2025年6月末までに憲法改正および地方行政組織法(改正法)など必要な法改正を完了し、7月1日から新体制を施行するよう求めました。政府も直ちに動き、4月14日には首相が政府の再編実施計画を承認し、各省庁に対し具体策の検討と課題整理を指示しています。 首相は「職務の重複や空白を招かないようにしつつ、適材適所で責任体制を明確にせよ」と述べ、再編準備を迅速かつ円滑に進めるよう強調しました。2025年後半より順次統合作業が進められ、遅くとも2026年の次期国会議員選挙・人民評議会選挙までに新しい行政区画での体制が整う見通しです。なお再編に伴う官公庁施設や資産については、統合後に不要となる庁舎を医療・教育・文化施設など公益用途へ転用する方針も示されています。 決議60号には、再編後の34省・市の名称と新行政中心地の一覧が添付されています。以下に、統合されない11の省・市および統合によって新設(または拡大)される23の省・市の案をまとめます(新名称と行政中心地は基本的に現行のいずれかの名称・都市を継承) ハノイ市、フエ市、ライチャウ省、ディエンビエン省、ソンラ省、ラングソン省、クアンニン省、タインホア省、ゲアン省、ハティン省、カオバン省 新設後の省・市 (種別) 統合される旧行政単位 新省都(行政中心地) トゥエンクアン省(省) トゥエンクアン省 + ハザン省 トゥエンクアン市(現トゥエンクアン省) ラオカイ省(省) ラオカイ省 + イエンバイ省 イエンバイ市(現イエンバイ省) タイグエン省(省) バクカン省 + タイグエン省 タイグエン市(現タイグエン省) フート省(省) ヴィンフック省 + フート省 + ホアビン省 ヴィエットチー市(現フート省) ※注1 バクニン省(省) バクニン省 + バクザン省 バクザン市(現バクザン省) フンイエン省(省) フンイエン省 + タイビン省 フンイエン市(現フンイエン省) ハイフォン市(中央直轄市) ハイズオン省 + ハイフォン市 ハイフォン市(現ハイフォン市) ニンビン省(省) ハナム省 + ニンビン省 + ナムディン省 ニンビン市(現ニンビン省) クアントリ省(省) クアンビン省 + クアントリ省 ドンホイ市(現クアンビン省) ※注2 ダナン市(中央直轄市) クアンナム省 + ダナン市 ダナン市(現ダナン市) クアンガイ省(省) コンツム省 + クアンガイ省 クアンガイ市(現クアンガイ省) ザライ省(省) ザライ省 + ビンディン省 クイニョン市(現ビンディン省) ※注3 カインホア省(省) ニントゥアン省 + カインホア省 ニャチャン市(現カインホア省) ※注4 ラムドン省(省) ラムドン省 + ダクノン省 + ビントゥアン省 ダラット市(現ラムドン省) ダクラク省(省) ダクラク省 + フーイエン省 ブオンマトート市(現ダクラク省) ホーチミン市(中央直轄市) バリア=ブンタウ省 + ビンズオン省 + ホーチミン市 ホーチミン市(現ホーチミン市) ドンナイ省(省) ドンナイ省 + ビンフオック省 ビエンホア市(現ドンナイ省) タイニン省(省) タイニン省 + ロンアン省 タンアン市(現ロンアン省) カントー市(中央直轄市) カントー市 + ソクチャン省 + ハウザン省 カントー市(現カントー市) ヴィンロン省(省) ベンチェ省 + ヴィンロン省 + チャヴィン省 ヴィンロン市(現ヴィンロン省) ドンタップ省(省) ティエンザン省 + ドンタップ省 ミトー市(現ティエンザン省) ※注5 カマウ省(省) バクリエウ省 + カマウ省 カマウ市(現カマウ省) アンザン省(省) アンザン省 + キエンザン省 ラッギア市(現キエンザン省) ※注6 注1:新フート省の省都は現フート省のヴィエットチー市と推定。 注2:新クアントリ省は名称に反し省都を現クアンビン省のドンホイ市に置く計画 。 注3:新ザライ省は省都を現ビンディン省(クイニョン市)に置く)。 注4:新カインホア省は実質的にカインホア省がニントゥアン省を編入(名称・省都ともカインホア)。 注5:新ドンタップ省は省都を現ティエンザン省(ミトー市)に置く。 注6:新アンザン省は省都を現キエンザン省(ラッギア市)に置く。 上記のように、統合後の新名称は基本的に統合前のいずれかの省名・市名を継承し、行政中心地(省都)についても統合前から引き続き使用するケースがほとんどです。例えばハイズオン省はハイフォン市に編入され姿を消しますが、新行政単位は「ハイフォン市」として存続し、省都も引き続きハイフォン市に置かれます。 一方で省都を別の旧省側に置く例もあり(上表の注2, 注3, 注5, 注6など参照)、統合後の名称と中心都市の組み合わせは一部現在の地理感覚と異なるものとなります 。これは統合される各地方のバランスや歴史的経緯を考慮した結果とみられ、今後ベトナム国会の具体的な決議を経て正式決定される予定です。 以上が、2025年4月の党中央委決議第60号に基づく地方省・市の再編計画の概要です。決議60号は、行政効率の向上と統治機構の近代化を目指す大規模改革であり、今後数年をかけて段階的に実施される見通しです。改革の成否は、人員削減に伴う行政サービス維持や新体制への円滑な移行にかかっており、政府は慎重に実行計画を進めるとしています。 ・決議74/NQ-CP(4月7日) 行政単位再編の政府実施計画を正式採択 ・計画40/KH-BCĐ(4月19日) 郡級廃止に伴う 15 本の政府令 起草を各省庁に指示 ・首相指示500/TTg-KSTT(5月4日) 346 件の行政手続 を6月10日までに権限移管指示/不要手続は廃止 法令改正案は5月30日までに政府採択へ ・国会第15期第9会期(5月5日開会) ・2013年憲法を限定改正(約8条) →地方政府を2層制に再定義 →政治社会団体を祖国戦線に統合 ・改正起草委員会(15名)設置/6月30日までに改正決議→7月1日施行 ・会期後半で34 省市統合案を採決、常務委員会がコミューン統合を決議予定 ・現国会・地方議会任期を3 か月短縮し、2026年前倒し選挙へ ・全63省市が統合案を確定、人民評議会でほぼ 100%承認 ・住民意見聴取の賛成率平均96%(中央報告) 例:タイグエン+バックカン=新「タイグエン省」案を満場一致可決 ・郡級政府廃止後の指導部は 中央指名で暫定任命(2025年内限定) ・人員削減:行政定員-18,440、基礎自治体-110,780(推計) ・退職・転籍支援費:4.4 兆ドンを2025年度中央予算に追加提案 期日 主要マイルストーン 2025-06-10 行政手続の権限移管完了 2025-06-30 憲法改正・省統合決議採択 2025-07-01 憲法改正施行/新2層制開始 2025 下半期 省・コミューン統合段階的実施/暫定指導部任命 2026 早春予定 新体制下で国会・地方議会総選挙
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- 2025.04.03
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米国、ベトナム製品への関税46%を発表—2025年4月9日施行へ
米国のトランプ大統領は現地4月2日(ベトナム3日早朝)、大規模な「トランプ関税」を発表し、ベトナムからの輸入品に対して 46% もの高関税を課す方針を示しました。4月9日からの施行が予定されています。この新関税措置は、世界各国から米国への輸出品に一律10%の最低関税を課す「全方位関税」戦略の一環であり、各国ごとに「相互的」と称する追加関税率が設定されています。例えば中国34%、EU20%、台湾32%、日本24%、インド26%などが公表されており、ベトナムへの46%はカンボジアの49%に次いで2番目に高い税率です。 これは事実上、ベトナム製品の大半が米国市場でほぼ半額以上の関税負担を強いられることを意味し、サプライチェーンや貿易環境に大きな波紋を呼んでいます。 ベトナムは近年、米中貿易戦争の「漁夫の利」も得て対米輸出を急拡大させてきました。米政府データによれば、2024年に米国がベトナムから輸入した商品は約1,366億ドルに達し、対米貿易赤字(米国側から見た赤字)は1,235億ドル超と過去最大を更新しました。これは中国、EU、メキシコに次ぐ世界第4位の対米黒字であり、米国に輸出する主要貿易相手国の中でベトナムが最も対米輸出依存度の高い国となっています。実際、ベトナムの輸出の29%(金額ベース)が米国向けであり、その額はベトナムGDPの約30%に相当します。これはメキシコ(約27.6%)をも上回り、他の大国(中国は2.5%、日本は3.7%)と比べても突出しています。 トランプ政権はこうした巨額の対米貿易赤字と他国の高関税を問題視し、「相互関税」(Reciprocal Tariffs)と称して各国が米国製品に課しているとされる関税率の約半分を米国側も課す方針を掲げました。ベトナムは関税・非関税障壁が高く通貨政策も米国の不満対象であり、「ホワイトハウスが設定した関税適用基準を満たす国だ」と指摘されています。このため「最大の対米黒字国の一つで、なおかつ米国への安全保障上の脅威を直接は与えない国」であるベトナムがターゲットになったと報道されています。 実際、ファム・ミン・チン首相は新関税発動に先立つ3月、米国からの輸入拡大に向けて国内関税の引き下げを検討しており、3月31日には自動車・LNG(液化天然ガス)・一部農産品の関税引き下げを発表するなど土壇場の歩み寄りを図りました。 しかしそれでも急増する対米黒字への懸念は拭えず、今回ついにベトナム製品の90%以上を対象に46%もの高関税賦課が公式発表された形になります。 46%という異例の高関税は、ベトナムが強みを持つほぼ全ての産業に影響を及ぼします。特に以下の主要セクターが打撃を受ける見込みです。成長目標であるGDP成長率8%の目標達成のさらに難しくなるかもしれません。 ベトナムは米国向け衣料品輸出で中国に次ぐ地位を占めてきました。ナイキやアディダスといった世界的スポーツブランドは近年生産拠点を中国からベトナムへ大きく移転しており、ナイキは2024年度に自社靴の50%、衣料品の28%をベトナムで生産しています。今回の関税でこれら衣料・履物製品の米国向け価格は大幅上昇が避けられず、メーカー各社はコスト増を吸収するか値上げかの苦渋の選択を迫られます。 モーニングスターのアナリストは「関税拡大が現実になれば、ナイキにとって深刻な問題となる」と指摘しており、実際ナイキやルルレモンなど業界各社は在庫処分セールや値引きで対応せざるを得なくなる可能性があります。また、米国のスニーカー平均価格は近年すでに上昇傾向(2019年比+25%)にあり、さらなる値上げは消費者離れを招きかねません。。頻繁に購入する衣料品の値上がりには人々も敏感で、「衣料コスト増には消費者の抵抗が大きい」との見方もあります。 ベトナムはサムスン電子やフォックスコン(鴻海)など海外ハイテク企業の大規模製造拠点となっており、スマートフォンやPC、半導体部品から電気機器まで幅広い電子製品を米国に輸出しています。2024年には米アップルの関連サプライヤーもベトナム生産を拡大しつつありました。こうした電機産業製品にも一律46%の関税が課されれば、米国での販売価格が跳ね上がり需要減少は避けられません。特にスマートフォン・タブレット等は関税転嫁で価格が2~3割以上上昇する恐れが指摘されており、競争力低下は免れないでしょう。 生産企業は他国への生産移転を模索するとみられますが、「カンボジアやインドネシアなど他の東南アジア諸国も同様に関税対象になる可能性があり、生産コストも上昇し始めている」(香港MGFソーシングCEO)とされ、簡単には迂回できません 。結果として、一部高付加価値な製品は米国内生産や近隣国(例:メキシコ)での生産へのシフトも検討されるでしょう。 家具はベトナムが米国市場で近年躍進した分野です。2020年以降、ベトナムは米国向け木製家具の最大供給国となり、市場シェア35~40%を占めています。対中関税の影響で多くの家具メーカーがベトナムに生産を移した結果、2023年の木製品輸出額は約131.8億ドルに達しました。 46%関税の適用により、米国の家具小売業者は価格転嫁を迫られるか、他国調達への切り替えを検討するでしょう。競合のタイやマレーシアからの輸入にも関税(それぞれ36%、24%)が課されますが、それでもベトナム製に比べ負担は軽いため、ベトナム産家具の受注減少は避けられない見通しです。日本企業では、ニトリなどがベトナムに自社工場を構えるなど生産を行っていますが、米国向け輸出には逆風となりそうです。 ベトナム産のコーヒーや胡椒、カシューナッツといった農産物、エビ・魚介類など水産物も米国市場で存在感があります。特にエビはベトナムが世界有数の輸出国であり、米国の食卓にも広く浸透しています。46%の関税が課されれば、ベトナム産エビやパンガシウス(ナマズ)の米国向け価格競争力は大幅に損なわれ、代替調達先(インドやエクアドル等)へのシフトが進むでしょう。実際、米国向け水産物加工工場では冷凍エビ製品が主力ですが、関税コスト増によって現地輸出企業の収益圧迫は避けられません。ベトナム国内の農漁業者にも波及し、水産加工業の雇用や生産にも影響が及ぶ懸念があります。 上記以外にも、ベトナムは履物・カバン、家具以外の木材製品、ゴム製品、機械部品、自転車など多彩な製品を米国に輸出しています。例えば新興の電気自動車メーカーVinFast(ベトナム)は米国市場進出を図っていましたが、46%関税下では価格競争力を確保するのは困難でしょう。 また、自動車部品や電子部品などサプライチェーン中間財の輸出も関税コスト増で減速が予想され、ベトナムを生産拠点とする多国籍企業の輸出戦略全般に見直しが迫られる可能性があります。 企業レベルでは、Nike(履物の25%をベトナムで製造)やDeckers Brands(68のサプライヤーがベトナムに所在)などの企業が株価下落(それぞれ6%以上、9%以上)を経験しました (Nike Impact, Deckers Brands)。WayfairやAmerican Eagleも株価が下落し、製造拠点を他国に移転する可能性を検討しています。消費者は価格上昇(特に履物、家具、玩具)に直面する可能性があります。現状欧米の英語ニュースが多く、ベトナム現地報道が増えるとさらに様々な企業の反応が出てくるでしょう。 ベトナム政府は、関税リスクを軽減するために事前に対策を講じていました。2025年3月31日から、米国製品(自動車、エタノール、LNG)の輸入関税を削減し、SpaceXのStarlinkサービスを承認するなど、貿易バランスを改善しようとしています (Vietnam Tariff Cuts)。また、17のFTAを活用して市場を多様化し、FDI(外国直接投資)の吸引を強化する戦略も進めています。 企業レベルでは、製造業の他国への移転(カンボジア、フィリピン、メキシコなど)や、コストを消費者へ転嫁する動きも見られます(しかし、カンボジアは今回ベトナムより高い関税率)。特に国内の繊維や家具企業は、代替市場を見つけるのが難しく、注文減少やキャッシュフローの悪化が予想されます。 今回のベトナム製品への46%関税発動は、単なる二国間問題に留まらずグローバル供給網への広範な影響を及ぼす重大事です。 日本のビジネス関係者にとっても他人事ではなく、リスク管理と戦略的対応が不可欠です。一方で、ピンチをチャンスに変える発想も重要です。地政学リスクに強い経営体質を構築しつつ、ベトナムや他のASEAN諸国との連携を深め、新たなビジネス機会を模索することが、日本企業にとっての次の一手となるでしょう。
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- 2025.03.27
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ベトナムの2024年4月30日・5月1日の連休について(南部解放(戦勝)記念日と国際メーデー)
ベトナム労働法第112 条により、 南部解放(戦勝)記念日(Ngày Chiến thắng):4 月30 日と、国際メーデー(Ngày Quốc tế lao động:):5 月1 日は祝日となっています。 通常であれば、その直後の5月2日(金)は平日となり休みにはなりません。しかしベトナム政府は、官公庁の職員がこの期間に5連休を取得できるよう特別措置を講じることを決定しました。具体的には、2025年5月2日(金)を休日とする代わりに、直前の4月26日(土)を振替出勤日とすることにより、4月30日から5月4日までを連休とする方針です。 4月30日(水): 南部解放記念日 5月1日(木): メーデー 5月2日(金): 振替休日(4月26日の労働日の振替) 政府対応のスケジュール 4月26日(土) 4月27日(日) 4月28日(月) 4月29日(火) 4月30日(水) 5月1日(木) 5月2日(金) 5月4日(土) 通常の土曜日 労働日とする提案 通常の日曜日 平日 平日 南部開放記念日 国際メーデー 振替休日 会社により週休日 上記のように、土日と連休との間に5月2日の平日が挟まっているため、5月2日(月)を振替休日とし、5連休とすることが政府方針です(4月26日の分は別途振替出勤日とする)。 しかし、これはあくまで公務員向けのものであり、民間企業は各社の判断になるのが現状です。 民間企業については、以下のいずれかの対応の会社が多いです。 ① 26日土曜日は通常通りの対応(業務日なら業務、週休なら休日)とし、5月2日を有給推奨日とする。 ② 通常26日が週休日の会社において、26日土曜日に業務を行い、5月2日を振替休日とする。
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- 2025.03.20
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ベトナム、「一時在留許可カード購入制度」検討とビザ制度見直しの詳細
ベトナム政府は、外国人の長期滞在を促進するためにビザ制度全般の見直しを行い、その一環として「一時在留許可カード(暫定的な居住証)を購入できる制度」の導入を検討しています。2025年3月15日、ファム・ミン・チン首相は関連省庁に対し、この新制度の具体的なメカニズム構築に向けた調査・研究を指示しました。以下では、現時点で公表されている内容と、ビザ緩和・在留制度改革の動きについて整理します。 ベトナム政府は、コロナ後の国際観光・投資回復基調を捉えながら、2025年以降の経済成長目標を維持すべく、外国人の入国・滞在をより円滑にする政策を進めています。従来から掲げる方針は「社会経済の発展に寄与する外国人の積極的な受け入れ」です。今回の取り組みも、この方針の延長線上に位置づけられます。 ファム・ミン・チン首相が「一時在留許可カード購入制度」の研究指示 対象分野:観光客、専門家、富裕層、科学者、芸術家、トップアスリートなど特定グループ別にビザ・在留要件を総点検 ベトナムでは既に投資額に応じて最長10年の在留許可が得られる投資ビザ制度がありますが、今回の「購入制度」はそれを補完・拡張する選択肢となり得ます。政府は、特に富裕層や高度人材を呼び込む「ゴールデンビザ」的な施策にも触れており、さらなる開放策に意欲を示しています。 2025年3月、滞在可能期間が15日から45日に延長されているビザ免除措置について、日本を含む12か国を対象に3年間の延長を行いました。期間は2025年3月15日から2028年3月14日までの3年間有効です。 過去の政府決議(2022年・2023年)で設定された免除要件は2025年3月15日をもって失効しましたが、これまでと同様の内容を延長するものとなっています。 ベトナム政府、ビザ免除措置を更新|2025年〜2028年の新ルールと注意点まとめ eビザの申請から発給までのオンラインプロセスが見直され、処理速度・UIが向上する見込みです。観光客やビジネス渡航者が自国から簡便にビザを取得できるよう、政府がシステムのアップグレードを進めています。 ITやハイテク産業などの優先分野に従事する外国人を対象に、就労許可証の発給要件緩和や一部免除が提案されています。 本制度については首相の研究指示が出たばかりで、具体的な仕組みは今後検討される段階です。法改正や新政令の制定が必要と見込まれており、制度設計には時間を要する可能性があります。 想定される内容としては、資金拠出(投資)によって長期滞在資格を得る、いわゆる「ゴールデンビザ」型の制度になる可能性が高いとされています。既存の投資ビザ制度と併せて、より柔軟に在留権を取得できる選択肢が追加される見込みです。 犯罪歴のチェック、資金の出所確認などの規定は厳格化されると考えられます。安全保障や公共秩序に関わるリスクを回避するため、政府は要件や審査プロセスを慎重に定める見通しです。 今回の制度見直しは、コロナ後の経済回復を後押しし、観光業界や外国投資誘致に一定のプラス効果をもたらすと予測されます。一方で、外国人流入増加に伴う治安・インフラへの負荷、住宅価格上昇などの懸念にも対応が必要です。ここでは、制度が確定していない状況でもあるため、主なポイントのみ記載します。 ビザ免除枠の拡大により、短期渡航が増加する可能性。 「在留許可カード購入制度」によって富裕層や高度人材が長期滞在しやすくなる余地。 日本人のビザなし滞在期間が45日へ延長されていることにより、短期出張の手続きが簡素化。 新たな在留資格取得ルートの整備により、駐在員の派遣や専門家の招聘が柔軟化する可能性。 在留資格を「購入」できる制度には、不正利用や治安面の懸念が付きまとうため、厳格な審査が想定される。 観光ビザや免除措置の拡大に伴い、目的外活動(不法就労など)の取り締まりも強化される公算。 企業・個人ともに、引き続き就労許可や在留資格の範囲内で活動することが求められる。 2025年3月中にも関係省庁が検討結果をまとめるとされており、その後、法改正や政省令の整備が進む見通しです。 観光・サービス業界はビザ緩和策を歓迎する一方、治安・インフラ面の懸念から制度導入にはバランスある運用が求められます。タイ・インドネシアなど周辺国でも同様の長期滞在ビザ(デジタルノマドビザ等)が活発に導入されており、ベトナムも競争力強化の一環として制度設計を加速させる可能性があります。 上記はまだ検討中のものが多く、実際どの程度の制度になるかは不明ですが、日本からの投資家にも影響が大きくなる可能性は高く、今後の動きを注視したいと思います。
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- 2025.03.19
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ベトナムでは、民事裁判の判決や決定を実際に実現するための民事執行制度が整備されています。日本企業を含む外国企業としては、訴訟や仲裁で勝訴判決を得るだけでなく、その後にしっかりと債権回収・履行確保ができるかどうかが最終的なポイントです。本コラムでは、ベトナムの民事執行手続について、金銭債権の強制執行や不動産・動産の引渡し執行を中心に、法的枠組みや実務上の留意点、外国企業に特有の課題・対策などを幅広く解説いたします。 ベトナムの民事執行制度は、民事判決執行法(64/2014/QH13)に基づいて定められています。 執行機関は司法省(日本でいう法務省に相当)の指揮下にあり、全国の省(地方)および郡(県)レベルに“民事判決執行機関”が置かれています。 これらの機関に所属する執行官(Chấp hành viên)が、具体的な執行手続(差押えや競売など)を担当します。 ベトナムでは判決の執行が行政手続と位置づけられており、裁判所は執行に直接は関与しません。もっとも、執行官の行為に不服がある場合には裁判所が審査を行うなど、一部司法的な関与も残されています。 ベトナムの民事判決執行法では、まずは債務者に任意の履行を促すのが基本姿勢(民事判決執行法第9条1項)とされています。 債務者が期限内に支払いや引渡しを行わない場合、執行官が強制執行手続に移行して財産調査や差押えに着手します。 判決が確定し、金銭債権(支払命令)を勝ち取った債権者は、判決確定日から5年以内に執行申立てを行わなければなりません。 執行申立先は、原則として判決を出した裁判所の所在地に対応する民事判決執行機関です。 申立書には当事者情報や執行を求める内容を記載し、執行文付きの判決書など必要書類を添付する必要があります。 執行機関が申立てを受理すると、通常5営業日以内に「判決執行決定」が発出され、債務者に10日前後の任意履行期間が与えられます。 任意履行期限の経過後 任意期限を過ぎても債務者が支払わない場合、執行官は10日以内に強制執行手続へ移行します。 財産調査 執行官は債務者の財産や口座、収入などを調査し、差押えの可否や優先順位を判断します。 差押え・評価・競売 預金口座であれば口座凍結、動産・不動産ならば差押えの上で専門機関の評価や競売を実施します。 売得金の配当・弁済 競売などで得た代金を債権者へ配当し、残金があれば債務者に返還する流れです。 執行官には強制執行を進めるための広範な権限が与えられており、必要に応じて警察(公安)の協力を得ることも可能です。 判決で不動産の明け渡しや動産の返還が命じられた場合も、民事執行機関が手続を担当します。 執行官が現地に赴き、占有者(債務者)に退去を命じます。 債務者が応じない場合は警察の立会いのもと強制的に排除し、不動産を勝訴当事者に引き渡します。 ただし、高齢者・子どもが居住している場合などは社会的配慮が必要となり、実務上は時間がかかることも多いです。 差押え・接収を行い、動産を債権者へ引渡します。 債務者が故意に物を隠したり破損させたりする恐れがあるときは、仮差押えなどの保全措置を活用することが有効です。 すでに物が滅失している場合は、同種の代替物や損害賠償に切り替えることも検討されます。 執行申立ての管轄は、基本的に原審裁判所と同じ地域の執行機関です。 主な必要書類は以下のとおりです。 ・判決書(執行文付き) ・申立書 ・代理権証書(代理人が申立てを行う場合) ・その他関連資料(公証書や和解調書など) 要件を満たさない場合は5営業日以内に却下となる可能性があります。適法に受理されれば執行決定が出され、正式な手続が開始されます。 ベトナム法では、判決で敗訴した債務者に対し財産状況を誠実に申告する義務を課しています。 執行官は債務者の事業所や自宅を検査し、銀行や土地使用権登録所、社会保険機関などにも照会を行い、財産の所在や名義を突き止めます。 債権者側が債務者資産に関する情報を集め、執行官に提供することも可能です。 実務では、こうした情報提供が執行官の調査を補強することで、回収の迅速化に役立ちます。 債務者に財産が見当たらない場合でも、法律上、半年おきに再調査が行われる仕組みがあります。 ただし、まったく資産がなければ回収は困難で、債権者が事実上「泣き寝入り」せざるを得ないケースもあります。 執行官は裁判所とは独立した行政官であり、判決の具体的な実現を担う重要な存在です。 主な権限 ・差押えや競売など各種決定の発出 ・当事者・関係者の呼出しや事情聴取 ・不動産・動産への立ち入りや接収を含む強制措置 ・警察への協力要請や抵抗妨害への対処 ・公正中立な執行義務(違反すれば懲戒・刑事責任の追及もあり) ベトナムでは毎年執行件数が増加しており、「執行可能」と判断された案件の8割前後が完了しているとの統計もあります。 ただし、金額ベースの回収率は約半数程度にとどまり、大型の不良債権などは執行不能案件として残りやすい実情があります。 ホーチミン市など大都市は複雑な事案が多く、執行官1人あたり400~500件を抱えることもあるため、業務負担が大きく遅延要因となっています。 執行長期化・遅延 差押え・競売手続が長期にわたり、数年後にようやく回収が完了することも珍しくありません。 債務者の抵抗・財産隠し 預金を引き出して親族名義に移す、不動産に居座るなど、悪質な手段で執行を免れようとする事例が後を絶ちません。 手続濫用 債務者が苦情申立てを乱発し、執行を意図的に引き延ばすケースがあります。 執行機関の課題 執行官の過重労働や手続ミス、汚職リスクなど。現在は監察強化による改善が進んでいます。 無資力・夜逃げ 債務者にまったく資産がなく所在不明の場合、実質的に回収不能となります。 外国判決の直接執行は原則不可 ベトナムは日本を含む多くの国と民事判決相互執行条約を締結していないため、日本の裁判所判決などはそのままベトナムで強制執行できません。 1958年ニューヨーク条約に基づく外国仲裁判断ならば、ベトナム裁判所の承認・執行許可を得て国内で執行する道があります。 言語・手続面のハードル ベトナム語への翻訳、公証・認証など事務負担が大きく、コストもかかります。 現地代理人(弁護士)の起用 法律実務や関係当局との調整において、現地弁護士が不可欠です。 契約段階からのリスクヘッジ ・ベトナムで執行可能な裁判・仲裁管轄を定める ・動産担保や保証人の設定 ・前払い条件や厳格な遅延損害金条項 ・これらを活用し、将来の回収リスクを下げることが重要です。 ベトナムでは判決を得ても、実際の強制執行がスムーズに進むとは限りません。執行官のリソース不足や債務者の抵抗などが現実の課題です。 相互執行条約がない国の判決はそのまま執行不可となるため、ベトナム国内の裁判所または国際仲裁を利用できるよう契約段階から工夫が必要です。 競売物件がなかなか売れない、債務者が逃亡するなどのリスクがあります。とくに不動産の強制立ち退きは地域的事情で時間を要する場合が多いです。 債務者が判決前後に財産を隠すリスクを避けるため、訴訟中に仮差押えなどの保全を検討し、または契約段階で抵当権を設定しておくと、強制執行が容易になります。 手続全般がベトナム語で進むうえ、各地方の運用差も大きいため、経験豊富なローカル弁護士との連携が不可欠です。 債務者資産の独自調査や関係機関との折衝など、専門家のネットワークを活かすことで執行成功率を高められます。 債務者が無資力であれば回収は困難です。契約先の信用調査や与信管理を徹底し、早めの債権保全を行うことが重要です。 ベトナムの民事執行制度は整備が進み、執行官が行政官として強い権限をもつという特徴があります。一方で、執行の長期化や債務者の抵抗など、実務的にはスムーズにいかない場面も多々あります。特に外国企業は、判決承認や翻訳・公証手続、言語面のハードルを踏まえ、早い段階から専門家と連携しながら対応を進めることが肝要です。 ベトナムでの債権回収を成功させるには、契約時のリスクヘッジ、執行可能な紛争解決条項の設定、そして実際に執行が必要になった際の迅速な対応と粘り強い追及が不可欠です。最終的には「判決を取って終わり」ではなく、「実際に資金や物を回収・引渡しを得てこそ真の勝利」といえます。ぜひ本稿のポイントを踏まえ、ベトナムビジネスの安定的な取引・リスク管理にお役立てください。
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- 2025.03.11
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ベトナム政府、ビザ免除措置を更新|2025年〜2028年の新ルールと注意点まとめ
ベトナム政府は2025年3月7日付で発行した決議第44号/NQ-CPにより、一部の外国人に対するビザ免除措置を延長・改訂しました。 これにより、従来のビザ免除措置(決議第32号/NQ-CPおよび第128号/NQ-CP)に代わる形で、2025年3月15日から2028年3月14日までの3年間、新しい制度が適用されます。本コラムでは、この新たなビザ免除の内容や背景、従来制度との違いなどを整理し、わかりやすく解説します。 今回の決議第44号では、下記の12か国がビザ免除対象となりました(2028年3月14日までの期間)。 ドイツ フランス イタリア スペイン イギリス(英国および北アイルランド) ロシア 日本 韓国(大韓民国) デンマーク スウェーデン ノルウェー フィンランド 従来リストに含まれていたベラルーシが今回外れたため、13か国から12か国に減少した点です。 2023年8月15日に施行された改正出入国管理法に基づき、ビザ無しでの最大滞在期間は15日間から45日間に延長されています。決議第44号でも、この最長45日間の滞在が引き続き適用され、観光や短期出張などの目的であればビザ手続きなしで渡航が可能です。 適用開始日:2025年3月15日 適用終了日:2028年3月14日 この3年間の時限措置として運用されます。旧決議(第32号・第128号)に基づくビザ免除措置は2025年3月14日で失効し、翌日(3月15日)から本決議が有効となります。 パスポートの種類や入国目的を問わず一律でビザ免除 ただし入国時点で有効なパスポートを所持していること 往復航空券(または第三国行きの航空券)の保有 出入国管理上の問題がないこと こうした従来から定められていた基本要件は、新決議でも踏襲されています。45日を超えて滞在したい場合や、就労など別の在留資格が必要な場合には、ビザ延長または在留資格変更手続きを行う必要があります。 ベトナム政府は2022年3月の決議第32号/NQ-CPで主に日本や欧州主要国を対象に一方的ビザ免除措置を実施し、当初は15日間までの滞在を認めていました。適用期限を2025年3月14日までとしていたところ、2023年8月の決議第128号/NQ-CPで滞在可能日数を45日間に延長するなどの修正が行われました。 旧リストには含まれていたベラルーシが、新たな決議44号では除外されています。そのため、対象国数は13→12に変更され、ベラルーシ国籍者はビザ免除を利用できなくなりました。ベトナム政府から公式な理由説明はなく、今後の追加措置については未定です。 今回の決議44号とは別枠で、2025年3月1日から同年末までの限定期間、ポーランド・チェコ・スイス国民に対して観光目的のビザ免除が試行導入されます。旅行社を通じたツアー参加者向けの特例措置とされ、ベトナム政府の観光振興策の一環です。成功すれば、ほかの欧州諸国へ拡大する可能性もあると報じられています。 45日以上の滞在・就労には別途ビザが必要 長期滞在(45日を超える観光・商用・留学など)や就労を伴う場合は、従来通り労働許可証や在留資格(ビザ)の取得が必須です。 パスポート残存有効期間 一般的に、ベトナム入国時にはパスポート残存期間が6か月以上あることが望ましいとされています。具体的な要件は実務上変わる可能性があるため、渡航前に最新情報を確認する必要があります。 電子ビザの活用 ビザ免除対象外の国籍や45日を超える滞在を予定している方は、ベトナム政府が発行する電子ビザ(E-visa)を検討できます。最近の法改正により、電子ビザの有効期間延長(最長90日)や対象国の拡大が進められています。 旧決議との整合性 2025年3月14日までは旧決議(32号・128号)が継続し、3月15日付で新決議44号が発効します。途中期間で制度が切り替わるため、渡航予定日が2025年3月15日前後にかかる方は特に注意が必要です。 ベトナム政府は公式声明で、「経済・観光振興の観点から、ビザ免除の対象国や期間を必要に応じて延長・拡大する可能性がある」旨を示しています。また、欧州連合(EU)諸国からは「EU加盟国すべてへのビザ免除」を求める声が高まっており、ベトナム側でも観光収入増や投資促進の狙いから、さらなる国・地域の追加を検討する余地があるとみられます。 一方で、国際情勢や各国との外交関係によっては、今回のように対象リストが変更されるリスクも否定できません。常にベトナム政府の公式発表や在外公館の情報を確認し、最新の入国要件を把握することが大切です。 決議第44号/NQ-CP(2025年3月7日付)により、従来のビザ免除措置は2025年3月15日に切り替えられ、対象は計12か国、最長45日間の滞在が2028年3月14日まで認められます。ベラルーシが除外された一方、新たにポーランド・チェコ・スイスへ限定的な試行免除が導入されるなど、一部変化が生じています。 45日を超える滞在や就労目的の場合は別途ビザが必要であり、旧制度と同様にパスポート残存有効期間などの基本的要件も維持されています。 ビザ免除措置はベトナム側の「一方的措置」であるため、今後の外交方針や国内事情に応じて変更が加えられる可能性があります。渡航計画を立てる際は、必ず最新の政府公報や大使館・総領事館のウェブサイトを確認することが重要です。 ベトナム、「一時在留許可カード購入制度」検討とビザ制度見直しの詳細
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- 2025.03.10
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ベトナム・ホーチミン市、マンション民泊を禁止―2025年開始の規制内容について
ホーチミン市において、2025年2月27日に26/2025/QĐ-UBNDが公布され、これまで明確になっていなかったAirbnbなどの民泊を明文で規制し、具体的な条件などが規定されました。不動産所有者にとっては大きい影響があるため、本コラムではこれまでの規制の背景や規制の具体的内容などについての詳細をまとめます。今後はその他の市や省への影響も懸念されます。 ※なお、2025年5月時点で、建設省から見直しの低減がされていますので、最後にまとめます。 ホーチミン市ではここ数年、Airbnbなどの短期宿泊賃貸サービスが拡大し、マンション(集合住宅)での民泊利用が急増してきました。報道によれば、あるマンションでは居住戸数の60%が短期賃貸に転用されていたとの報告もあります。4区の「Masteri Millennium」では1か月の宿泊客が約1300人に達し、その約8割が外国人旅行者だったというデータも示されています。 このように「事実上のホテル」としてマンションを活用する動きは、エレベーターや共有設備の混雑、騒音や治安リスクなど、常住住民との摩擦を生みました。例えば人気マンションではエレベーター待ち時間が3〜5分から10〜15分に延びたケースもあり、住民が生活に支障を来す事態が発生。さらに、薬物使用など違法行為への懸念も高まり、マンション管理組合や地元当局へ「規制強化」を求める声が続出しました。 社会的には住居としてのマンションの安全・秩序維持が重要視され、経済面ではホテル業界との公平性や課税逃れ問題が指摘されてきました。実際に不動産業界団体などからは「民泊を行うなら事業登録と納税を義務付けるべきだ」という声があり、これらが重なった結果、ホーチミン市当局の規制強化に至ったとみられます。2025年3月には同市人民委員会がマンション使用規定を改正し、住宅用マンションでの短期宿泊営業を明確に禁止する旨を公布しました。 ベトナムではもともと2014年住宅法第6条第11項に「集合住宅を居住目的以外に使用する行為」が明確に禁止されており、マンションをオフィスやホテルのように転用することは原則違法とされていました。ただし長らく有名無実化し、民泊に対する明確なガイダンスがなかったため、Airbnbなどは事実上容認されていた状況です。 しかし2023年に国会で可決された新住宅法(法律番号27/2023/QH15)において、2024年8月1日から施行される改正規定でも「居住目的以外での集合住宅の使用」や「関連法令に反する宿泊賃貸」が禁止行為として再確認されました。短期宿泊向けにマンションを転用することは「非居住目的の使用」とみなされる可能性が高く、違法性を問われる余地があります。 もっとも、「民泊」を名指しで禁止する条項は現時点で存在せず、「数日貸し」が即違法と断定できるかは解釈の争いが残っています。住宅法や関連法令に抵触しない範囲での住宅賃貸は認められるとの見方もある一方、「短期貸しは実質的にホテル業」として無許可営業を問題視する意見も強い状況です。 現時点では政令や通達レベルでの公式解釈が未整備で、ベトナム国内でも見解が分かれているのが実情といえます。 ホーチミン市では2025年3月、マンション管理・使用規定を改正し、「住宅用途のマンションで短期宿泊サービス営業を行うこと」を明文で禁止しました。もし宿泊サービスを行う場合は商業用途を含む複合型マンションであること、正式な観光宿泊の認可を受けることなど条件が課されるため、いわゆる一般的な分譲マンションでのAirbnb営業は認められない方針を明確化しています。これは市として独自に強力な取り締まり根拠を得たともいえます。 集合住宅を本来の居住目的以外で使用した場合、2000万~4000万ドン(約11万〜22万円)の罰金が科され、短期賃貸をやめて居住用途に戻すよう命じられます。実際にバリア・ブンタウ省では、2023年住宅法施行後に短期賃貸禁止の通達をもとに1000万~2000万ドンの罰金を課した事例が報告されています。 無許可で宿泊サービスを行えば、観光や営業許可の不備として別途制裁される可能性があります。また、外国人客の一時滞在登録を怠った場合も公安当局より罰金を科されることがあるため、オーナー側には複合的なリスクが生じます。ホーチミン市警察は2023年に5645人の外国人の滞在登録違反を摘発しており、取り締まりが強化される傾向にあります。 ビジネスモデルの転換 これまでマンションをAirbnb用に購入・運用してきた投資家は、短期賃貸禁止によって長期賃貸への切り替えや物件売却を余儀なくされ、投資回収計画に大きな影響が及びます。 収益性の低下 Airbnb運用で順調に稼働していた場合、1部屋あたり月に500万〜600万ドン(約2.9万〜3.5万円)の利益を得ていたとの報告があります。長期賃貸へ切り替えると利回りは一般的に下がるため、ローン返済に影響が出るオーナーも増加するとみられます。 掲載物件の激減 管理組合が「短期賃貸禁止」と明示して警備員が出入りを厳格にチェックする結果、マンション物件のAirbnb掲載数は70〜80%減少との報告があります。 営業エリアの移動 規制の厳しい4区などから、取り締まりの手薄な地区(7区やビンタイン区など)へ移動するホストもおり、市全域で一斉に取り締まりが行われなければ“いたちごっこ”が続く懸念があります。 宿泊オプションの減少 ホテルより安価で複数人利用や自炊が可能な民泊は、中程度の収入層やバックパッカーに人気でした。民泊を失うことで旅行費用が増加すれば、観光需要の減少や他都市・他国への流出が懸念されます。 地域経済の波及効果 民泊利用者が住宅街の飲食店などで消費することで地域経済が潤う側面がありました。ホテル集中により、こうした“地元消費”が失われるとの指摘もあります。 ホテル業界へのプラス効果 一方で、無許可の民泊が減ることで正規ホテルの稼働率や売上が向上し、価格設定やサービスも改善される可能性があります。また、Airbnb物件が長期賃貸市場へ流れれば、地元居住者にとって賃料の選択肢が広がるメリットもあるかもしれません。 常住住民・管理組合の支持 「マンション本来の住環境を取り戻せる」と歓迎する声が強い一方、短期賃貸を続けたいオーナーとの対立も一部で起きています。管理組合によるロビーやエレベーターでの掲示、警備員による出入り監視が強化される傾向です。 投資オーナーの反発 副収入が絶たれる懸念や「所有権の制限だ」という不満も高まっており、SNS等で管理組合と衝突する事例も報告されています。 観光客の戸惑い ホーチミン市マンションでのチェックインを警備員に拒否される事例が相次ぎ、突然の予約キャンセルなど旅行者が混乱する場面が出ています。 治安維持への支持 一般市民からは「違法民泊が犯罪温床になるより良い」「適正な課税が必要」という声もあり、治安維持や公平性の観点では一定の支持があるようです。 住宅法やホーチミン市の独自規定に照らし、自ら保有するマンションが「居住目的以外の利用」にあたるかをまず精査する必要があります。 万一短期賃貸を行う場合は商業用ライセンス取得や複合用途マンションの区画であることなど、要件を満たしているか必ず確認してください。 外国人向け短期賃貸の手続き 外国人に貸す際は、一時滞在登録が義務付けられており、怠ると公安当局から罰金を科されるリスクがあります。 そもそも住宅法上、外国人に貸す場合は貸主・借主双方が法定条件を満たす必要があるため、形式上の契約や手続をきちんと行うことが求められます。 管理規約で独自に短期賃貸を禁止しているマンションが増えています。オーナーであっても管理規約に違反すればペナルティや実質的な営業不能状態に陥る可能性が高いです。 管理組合と事前に十分協議し、物件用途・利用ルールの合意形成を図ることが重要です。 民泊を事業として行う場合、観光業ライセンスの取得や旅客宿泊業としての届出、売上把握に基づく課税が求められる可能性があります。 Airbnb等のプラットフォームを通じた収益を当局に把握される流れが強まることが想定されるため、脱税とみなされないよう適切な会計処理が必要です。 建設省は「居住用住宅を賃貸すること自体は住宅法で認められる」との見解を示しつつ、住宅法第160条・161条等を遵守するよう促しています。ただし、ホーチミン市のような大都市では、独自の管理規定や強い取締りが先行しており、今後さらに詳しい通達や政令が定められる可能性があります。 観光客誘致において民泊は安価で多様なニーズに対応する重要な選択肢です。一方でマンション住民の平穏な居住環境も守らなければなりません。今後は一律禁止を続けるのか、あるいは許認可制・日数制限・課税強化など、海外事例を参考にした折衷案が検討される余地があります。 2023年の住宅法改正に加え、ホーチミン市の姿勢は「強い取り締まり」に傾いています。短期的には罰則強化や管理委員会との連携で違反行為を厳しく抑制する流れが加速するでしょう。抜け道として“親戚訪問”を装うケース等もあるため、さらなる実効性のある仕組みが整備されるか注視が必要です。 ホーチミン市マンションでの観光宿泊賃貸禁止措置は、2014年・2023年住宅法の規定を背景に、さらに2025年3月の市独自規定で強化された形となっています。実質的には「一般的な住宅用マンションを短期賃貸(民泊)に転用する行為が違法」と判断されやすい状態です。違反時には2000万~4000万ドンの罰金や営業停止が科されるなどペナルティも明確化されており、市当局や管理組合が積極的に取り締まりを進めています。 投資家や民泊ホストにとっては大きな経済的打撃となる一方、住民側からは騒音・治安リスクの軽減を歓迎する声が強く、不動産市場や観光業にも賛否両論の影響が広がっています。将来的には観光振興とのバランスを考慮した管理策の整備が課題となりますが、当面はホーチミン市におけるマンション短期賃貸は禁止が基本スタンスであり、違反リスクへの注意が欠かせません。 実務上はまだ民泊が各プラットフォームで公開されており、どの程度厳しく取り締まられるかはわからない状況です。今後の動向を注視しつつ、正規の許認可手続きや長期賃貸の活用など、適法かつ持続可能な運用を図ることが肝要です。 2025年5月18日時点で、建設省がこの決定を見直す検討を発表しています(VnExpress)。 これを受けて、近いうちにホーチミン市の決定も変更される可能性があるため、注意が必要です。 建設省が見直しを開始3月にホーチミン市が打ち出したマンション短期賃貸(Airbnb 型)全面禁止について、建設省は「関連法との整合性に疑義がある」として内容を再検討すると表明しました。 問題を指摘したのは司法省のメモ司法省は「住宅法では短期賃貸を明示的に禁止しておらず、『短期』の定義も欠ける。長期賃貸が許されるのに短期だけを禁じるのは民法上の所有権(賃貸権)と矛盾する」と指摘。禁止より登録制・安全基準の順守などで管理すべきだと提案しました。l 業界団体も全面禁止に反対ホーチミン市不動産協会(HoREA)のレ・ホアン・チャウ会長は「適切に管理すれば観光振興と税収に資する」とし、一律禁止ではなく運営ルール整備を求めています。 経済規模の試算VnExpress 調査によると、市内では約1万戸が短期賃貸に使われ、オーナー収入は月 1,500万~6,000万ドン(約9万~36万円)。全面禁止は投資家・観光業への影響が大きいとみられます。