ベトナムビジネスの飛躍に法務の力を

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私たちは、2013年にベトナムに設立した日本人弁護士とベトナム人弁護士の所属する日系の弁護士事務所です。ハノイ市とホーチミン市に拠点を有しています。
ベトナムでは、大きなトラブルにならないように日常的に法務を意識して経営することが重要ですが、実際には何が問題になりうるのかや日本との違いもわからず、法的な事柄によって日々の業務に集中できないことも多く生じています。

お客様に憂いなくビジネスに集中いただくため、"法務面からベトナムビジネスを伴走する身近なパートナー"として貢献していきます。

CASTの特徴FEATURES

01

ビジネスの現状・ベトナムのスピード感に合わせたスピーディーかつ柔軟な対応

CASTのミッション

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CASTの顧問契約

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ベトナムのM&A、不動産、企業運営に関わる法務、知財戦略などの専門分野の支援実績

CASTの対応分野

活用例

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  • 自社の担当・駐在員が変わっても、過去の経緯から把握してアドバイスしてもらうことが可能。
  • 会社の総務・法務スタッフとも普段からやりとりし、社内のコンプライアンス体制・意識向上にも。

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導入事例CASES

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繊維加工薬剤の製造及び販売

導入事例一覧

ニュースNEWS

コラム
2025.05.09
CastGlobal

首相公電56号~ベトナム行政手続の大幅改革~
2025年5月4日、ファム・ミン・チン首相が行政手続(TTHC)の抜本改革を加速する首相公電第56号(56/CĐ-TTg)を発令しました。本公電(電報)は、政府決議66号(2025年3月)の具体化として、2025~2026年にかけて投資・事業に関する行政手続や参入条件を大幅に簡素化・迅速化することを各省庁・地方政府に指示する内容です。 改革の原動力となったのは、依然として煩雑な行政手続や不透明な許認可制度が、外国企業の参入障壁になっていることです。FDI(外国直接投資)のさらなる拡大には、手続の明確化・迅速化が不可欠と判断され、数値目標と期限を明示した改革が決定されました。   掲げられた目標としては、①投資・事業許認可条件を30%削減すること、②手続処理時間を30%短縮すること、③6月末までに行政手続を100%オンライン化することです。 今回の中心施策は、各省庁が所管する事業条件(許認可や資格要件など)を少なくとも30%削減するというものです。「条件付き業種リスト」に該当しない分野では、不要な手続は原則撤廃される見込みで、地方で慣行的に要求されてきた不必要な許認可も対象になります。業種横断的な不要な重複許可も排除され、実務負担の軽減が期待されます。 改革の象徴的な施策の一つが、外国企業の設立に必須となる投資登録証明書(IRC)および企業登録証明書(ERC)の発給期間の短縮です。現在、IRCは最大15営業日、ERCは3営業日と定められていますが、今後はそれぞれ5営業日・1営業日以内に短縮することが目標とされています。法改正ではなく、運用改善やデジタル化により実現を図るとのことです。 政府は、2025年6月末までに全行政手続を国家公共サービス・ポータルで100%オンライン化することを掲げています。申請、進捗確認、フィードバックまで一貫してオンラインで完結できる体制を整え、行政手続の統一・透明化を図ります。これにより、外国企業にとっての地理的・言語的な障壁が大幅に緩和され、利便性が向上します。   「首相公電」は法令ではなく行政文書であって、法規範ではありません。しかし、行政組織内部では強い拘束力を持ち、各省庁・地方政府は基本的にこれに従う必要があります。とくに今回のように、数値目標と期限を明示した公電は、法令と同等の実効力を持つとされており、各機関には関連法令の改正や通達の整備が求められることになります。 今回の改革は、外資系企業にとって新規参入の法的障壁を大幅に下げる「追い風」となります。また、手続の簡素化・短縮化により、事業立ち上げのスピードが加速します。さらに、オンライン化により、国外にいながらの申請・管理も可能となり、法律事務所・コンサル各社等の支援ビジネスにとっても複数案件の同時処理が可能になるなど業務効率が向上します。   今回の首相公電の全体的なスケジュール感は以下のようになります。 5/8まで: 遅延している8中央省庁・11地方に是正報告を厳命 6/30まで: オンライン化完了・条件削減案の具体化 2025年末: 省境越えオンライン手続『1省1ポータル』を全国展開 2026年末: 不要な投資・事業条件を撤廃   首相公電56号は、ベトナムが「投資しやすい国」へと舵を切った明確なシグナルです。日本企業にとっても、今後の事業戦略や進出判断において、この改革の動向を適切に把握し、制度変更に対応することが重要になりそうです。

首相公電56号~ベトナム行政手続の大幅改革~

コラム
2025.05.06
CastGlobal

ベトナム未成年司法法を解説|2026施行・少年事件の新制度
ベトナムでは2024年11月、未成年者の刑事司法に関する初の包括的な基本法となる「未成年司法法2024(Luật Tư pháp người chưa thành niên 2024)」(法律番号59/2024/QH15)が国会で可決・成立しました。 本法は未成年者(18歳未満)の権利と最善の利益を保護し、その年齢・発達に応じた適切な手続を確保することを目的としています。犯罪を犯した少年に対しては、処罰よりも教育と更生を重視し、社会復帰を支援する人道的・人権尊重の姿勢が貫かれています。 以下では、本法の施行時期、主要な内容、従来の関連法令からの変更点、そして実務および家庭・社会への影響について解説します。 「未成年司法法2024」は2024年11月30日の第15期国会第8会期において96%以上の賛成多数で可決されました。施行日は2026年1月1日と定められており、それまでに関係機関は本法の実施準備を進めることになります。 ただし、本法の一部規定については施行日が段階的に設定されています。 例えば、第139条および第162条第1・2項の規定は2028年1月1日から施行される予定です。一方で、本法公布日に直ちに適用される経過規定も存在します。第179条2項により、未成年者に有利な新しい減免措置(警告、罰金、執行猶予付き刑など、本法第VI章の規定)は公布日(2024年12月2日)から適用できるとされており、現在進行中の事件にも直ちに反映されることとなります。これにより、施行前であっても未成年被告に有利な扱いが先行して実現されています。 本法の対象となる「未成年者」とは18歳未満の者を指します(「未成年」(người chưa thành niên)はベトナム民法等で18歳未満と定義) 。 本法は、未成年者が関与するあらゆる刑事手続の段階(捜査・起訴から裁判、刑の執行、社会復帰まで)を網羅し、また未成年者が被疑者・被告人だけでなく被害者や証人である場合の手続も含めて包括的に規定しています。 さらに、未成年者に関わる司法活動に携わる機関・組織・個人・家庭の任務・責任についても定めており、家庭や地域社会も含めた包括的な枠組みを構築しています。手続全般を通じて、簡潔で親しみやすい言葉遣いで未成年当事者に権利義務や手続内容を説明し、未成年者のプライバシーを保護することが求められるなど、未成年者の心理や発達段階に配慮した手続原則が貫かれています。 例えば、本法第6条では手続が未成年者の年齢・心理にふさわしく簡易で親しみやすいものでなければならないことが明記されており、第7条では少数民族出身者や弱い立場に置かれた未成年者への配慮も規定されています。 本法の目玉となるのが、未成年者に対する「処分の転換(ダイバージョン)制度」の創設です。 ダイバージョンとは、犯罪を犯した少年に対し正式な刑事裁判・処罰を行わずに、更生のための代替措置を講じて早期に社会へ再統合させる手法です。本法は未成年者の更生に「第二の機会」を与える人道的アプローチとしてダイバージョンを位置付けており、第36条に具体的な12種類の転換措置を規定しています。それらは以下の通りです。 1. 訓戒(戒告) – 口頭または書面による厳重注意 2. 被害者への謝罪 – 被害者に対し直接謝罪を行う 3. 損害賠償 – 被害者の被害に対する賠償を行う 4. 地域社会での教育指導 – 居住地のコミューン(村・町)等において一定期間、行動観察下で教育指導を受ける 5. 家庭内での監督(家庭矯正) – 保護者等による監督下で生活させ、矯正する 6. 外出時間の制限 – 夜間など特定の時間帯の外出・行動を制限する 7. 有害な人物との接触禁止 – 再犯を誘発するおそれのある人物との接触を禁じる 8. 有害な場所への立入禁止 – 再犯を誘発するおそれのある場所への出入りを禁じる 9. 教育・職業訓練プログラムへの参加 – 更生のための教育プログラムや職業訓練を受講させる 10. 心理治療・カウンセリングの受講 – 必要に応じカウンセリングや治療プログラムを受けさせる 11. 社会奉仕活動 – 一定時間のボランティア活動や地域奉仕を課す 12. 矯正施設での教育 – 「教育センター」(矯正学校)と呼ばれる未成年者更生施設において必要な教育を行う 以上の措置はいずれも刑罰ではなく教育的・保護的措置であり、未成年者が「犯罪者」としての烙印を押されずに自らの過ちを修復できるよう配慮されたものです。 適用にあたっては違反行為の悪質性や未成年者の年齢・環境に応じて個別に選択され、処遇が過度に甘くなりすぎないよう要件や手続も厳格に定められています。 たとえば、適用対象となるケースは法律上限定されており、16~17歳で犯した比較的軽微または重くない犯罪や、14~15歳で犯した重大だが極めて悪質ではない犯罪(刑法第123条の特定の重罪を除く)など、一定の条件を満たす場合に限られます。 また共犯事件で従属的な役割しか果たしていない少年なども転換措置の対象となり得ます。転換措置を適用する際には、所定の手続機関(司法当局)の判断と承認が必要であり、未成年者が課された義務に違反した場合の責任も規定されるなど、制度の乱用防止と教育的効果の両立が図られています。 ダイバージョン(転換措置)の適用によって フォーマルな刑事手続を回避できない場合、すなわち悪質性が高く教育措置のみでは再犯防止が困難な場合には、通常の刑罰を科すこともあり得ます。もっとも、本法は未成年者に対する刑罰について、成人とは異なる特別の枠組みを設けています。 まず、未成年者に科しうる刑罰の種類は4種類に限定されました。すなわち、①警告(Cảnh cáo)、②罰金、③拘禁しない更生措置(Cải tạo không giam giữ:社会内更生、いわゆる保護観察付きの更生指導)、および④有期懲役刑のみです。 未成年者には終身刑および死刑は科すことができないことが明文化されており、これは従来の刑法の規定を引き継いだものです(ベトナム刑法でも18歳未満への死刑適用は禁止されています)。 本法はさらに、未成年者への刑罰はできる限り軽いものにとどめるべきとする原則を打ち出しています。 裁判所はまず警告や罰金、社会内更生などの軽い措置を優先し、それでは不十分な場合に限って懲役刑を検討することとされています。仮に懲役刑が必要と判断される場合でも、執行猶予付きとすることが優先されるほか、量刑にあたっては同種の犯罪を犯した成人よりも大幅に軽い刑期に抑えなければならないと定められました。このように、本法は未成年者に対する刑罰の適用を最後の手段と位置づけ、教育的措置で十分対応できる限りは刑罰を避ける方針を明確化しています。刑罰を科す場合にも将来の更生に配慮した制限が加えられており、これは未成年者の改善更生を最優先する理念に基づくものです。 本法は、未成年者が被疑者・被告人である場合はもちろん、被害者や証人である場合についても、それぞれ特別の手続保障を設けています。 まず、未成年者が被疑者・被告人として刑事手続に関与する場合には、従来の刑事訴訟法2015年の権利(黙秘権や弁護人依頼権など)に加えて、以下のような追加的権利が明文化されました。 法定代理人等の付添い:親権者や後見人など法定代理人が手続に立ち会い、未成年者の利益を代表する権利。 専門家の支援を受ける権利:必要に応じて医療・心理・教育・社会福祉の専門家(ソーシャルワーカー等)から支援を受けられる権利。 やさしい言葉による情報提供:手続の進行や権利義務について、簡潔で平易な言葉により速やかに説明を受ける権利。 プライバシーの保護:事件処理の全過程を通じて未成年者の個人情報・プライバシーが保護される権利。報道や記録公開の制限も含まれます。 法律扶助を受ける権利:経済的事情に応じて国選弁護人の選任や無料の法律相談を受けられる権利。 さらに未成年の被疑者・被告人には、ダイバージョンの適用を申請する権利、手続中に社会福祉担当者の支援を受ける権利、そしてダイバージョン措置の決定に不服申立てをする権利も付与されています。これらは本法で新たに追加された権利であり、未成年者が自ら教育的措置への切替えを求めたり、福祉的サポートを活用したりできるようにすることで、手続の中で最大限にその更生の機会を保障するものです。 一方、未成年者が被害者または証人となる場合にも、本法は別個の配慮を定めています。具体的には、被害に遭った未成年者や事件の証人となった未少年が二次被害を受けないよう、プライバシー保護や心理的ケアの提供、優しい言葉での事情聴取、証人保護プログラムの活用などが規定されていると考えられます(※詳細条文は本法該当箇所に規定)。これにより、手続に関与する未成年者のあらゆる立場において、その心身に配慮した司法上の保護が図られています。 また、本法は「未成年者に優しい裁判手続(phiên tòa thân thiện)」の概念を導入しています。たとえば、公判においては裁判官が通常の法服ではなく行政用の平服を着用し、検察官も検察の制服着用を避けた穏やかな服装で臨むこととされています。これは法廷の厳粛さを和らげ、未成年の被告人・証人が萎縮しない雰囲気を作るための配慮です。このほか、法廷内のレイアウトや呼称の工夫、休憩時間や非公開審理の柔軟な実施など、未成年者の心理的負担を軽減しつつ権利保護と真相解明を両立させる工夫が盛り込まれていると考えられます。実際、本法は未成年者の公判は公開法廷ではなく「親しみやすい審理手続」で行うと規定しており(第15条などに規定がある模様)、傍聴人の制限や法廷環境の調整が行われることになります。これも国際的に提唱される「少年に優しい司法(child-friendly justice)」の理念を体現したものです。 本法制定以前、ベトナムにおける未成年者の刑事手続は2015年刑事訴訟法(Bộ luật Tố tụng Hình sự 2015)に一定の特則章が設けられている程度で、包括的な単独法は存在しませんでした。 刑法や刑事訴訟法、刑の執行に関する法律、児童保護法(2016年児童法)などに点在する規定で少年事件への対応がなされていましたが、それらは断片的で実務上の不備も指摘されていました。今回制定された未成年司法法2024は、未成年者の刑事手続全般を網羅する初の統一法規として位置付けられます。本法の成立は、国連子どもの権利条約で求められる「少年司法の確立」に応えるものであり、ベトナム司法の近代化・人道化の一環と言えます。以下に、本法による主な変更点とその法体系上の意義をまとめます。 本法は10章179条からなり、未成年者の捜査・起訴・裁判・矯正・再社会化まで一貫した規定を設けました。 従来は刑事訴訟法や関連法に散在していた少年規定を一元化し、体系的・詳細なルールを整備した点で画期的です。これに伴い、本法附則(第177条)で刑法、刑事訴訟法、刑事判決執行法、法律扶助法、民事執行法、児童法、住居法といった関連法の該当条項が改正・削除されています。つまり本法は**未成年者分野の特別法(ルールの特則)**として、関連法体系を書き換える役割を果たしています。 前述のとおり、教育的措置への転換制度(12種類)が初めて法律上明文化されました。 2015年刑事訴訟法にはこうした正式な転換制度はなく、限られたケースで不起訴処分に付して保護観察を行う程度でした。本法により、一定の要件下で起訴や有罪判決を経ずに更生プログラムへ繋げることが可能となり、非行少年の社会復帰が柔軟に図れるようになります。これは日本の少年法における保護処分に類似する制度であり、未成年者の将来を考慮した寛大かつ機能的な仕組みです。 未成年者に対する逮捕・勾留などの身体拘束や強制処分について、本法は厳格な運用制限を設けました。 具体的には、刑事訴訟法上の身体拘束措置(緊急逮捕、通常逮捕、留置、勾留)や監督措置(電子監視、保護者等による監督、保釈、保証金提出、居住地からの外出禁止、出国禁止)について未成年者へ適用できる場合を絞り込み、原則として身体拘束は最後の手段としています。 代替手段として、電子タグ等による在宅監視や保護者による身元引受を積極的に活用し、勾留期間も必要最小限に抑えるよう規定されています。これにより、従来は成人とほぼ同様に適用されていた未成年者の身柄拘束が、より慎重に運用されることになります。 未成年者事件の処理は迅速に行うべきとする観点から、捜査・起訴・裁判の各段階の期間が原則として成人の場合の半分に短縮されました。 例えば捜査段階の勾留期間や起訴までの準備期間、公判の準備期間などが成人事件の法定期間の2分の1を上限とされています(ただし事件が複雑な場合は例外あり)。従来、未成年者事件でも明確な期間短縮規定はなく手続の長期化が問題となることもありましたが、本法により迅速な手続進行が法的に義務付けられました。これにより、少年の矯正が長引かず適時になされることが期待されます。 本法は、未成年被告人と成人被告人が同一事件にいる場合には、事件を分割し未成年者部分を独立処理することを明示しました(第143条1項)。 従来の実務でも必要に応じ分離公判は行われてきましたが、本法で義務化されたことで、未成年者は成人と切り離した環境で審理を受けられるようになります。また、未成年被疑者・被告人用の手続と未成年被害者・証人用の手続を分けて規定し、それぞれに適した配慮を講じた点も新しい特徴です。 さらに先述の「フレンドリー裁判」の導入や匿名報道の徹底など、少年事件審理の専門化が進みました。これは司法当局内における少年専門部門の強化とも連動し、少年審判を扱う裁判官・検察官・調査官の専門教育の必要性も高まっています。 本法は、刑務所で刑に服することになった未成年受刑者についても特別の処遇規定を設けました。 未成年受刑者は原則として成人受刑者と分離して収容され、①少年専用の刑務所、②一般刑務所内の少年専用区画、③一般刑務所内の少年専用監房のいずれかの形態で隔離して管理されます。そして施設内では教育の継続や職業訓練の機会、医療やカウンセリングの提供、文化・娯楽活動の保証、家族との面会交流など、健全な更生に必要な環境を整えるよう義務付けています。 従来も省令等で少年受刑者の分離収容は行われていましたが、本法で法定化されたことで一層の充実が見込まれます。また、刑の早期執行猶予や仮釈放、前科の消滅(赦免)について未成年者に有利な特則を設けており、これらは前述のとおり一部は既に施行済みです。これらの規定により、刑事司法の最終段階においても未成年者の更生と早期の社会復帰が制度的に支援されることになります。 本法は未成年者の健全育成には家庭や地域社会の連携が不可欠との立場から、家庭・コミュニティの責務を条文上明確にしました。例えば、保護者や家族には日常的に子どもの教育・監督を行い、非行を防止する義務が課され、地域の各種団体(ベトナム祖国戦線や婦人連合会、青年団等)も少年の立ち直り支援や啓発活動に協力する責務が規定されています。これは従来の法律には明確でなかった点で、少年犯罪の防止と再犯抑止に向けた社会総がかりの取組みを促進するものです。 以上のように、未成年司法法2024は従来の刑事訴訟法2015等を土台としつつ、その上に未成年者特有の手続・処遇規定を大幅に付加した特別法と言えます。 本法第2条の規定により、未成年者の事件処理においては本法の定めが優先適用され、本法に定めのない事項のみ刑事訴訟法や刑法等の一般法規を準用する建付けになっています。これにより、法体系上は一般法と特別法の関係が整理され、実務家は本法をまず参照した上で不足する部分を従来法で補う形で運用することになります。 ベトナムは1990年に国連子どもの権利条約を批准していますが、本法制定はその条約上の義務履行および国内少年司法制度の改革という観点でも大きな前進であり、法体系の整合性と充実度が飛躍的に高まりました。 新法の制定・施行は、ベトナムの刑事司法実務にさまざまな変化をもたらすことが予想されます。また、未成年者を育てる家庭や社会にも一定の影響を及ぼすでしょう。 警察・検察をはじめ捜査機関は、本法に対応して新たな運用手順を整備する必要があります。 まず、未成年者と成人が関与する事件では捜査段階から事件ファイルを分離し、少年専用の手続に乗せることが義務化されたため、事案の分割送致や証拠の共有に関する内部手続の変更が求められます。 さらに、身柄拘束を最小限に抑える運用への転換も実務上重要です。本法では未成年者について逮捕・勾留よりも保護者引受や電子監視などの代替措置を優先するよう定めているため、捜査当局は積極的に保釈や在宅観護を検討し、少年を拘禁しないまま調査を進めるケースが増えるとみられます。 これに伴い、捜査段階から社会福祉担当者(ソーシャルワーカー)や児童心理の専門家と連携し、未成年者の状況を評価・支援する体制構築も求められるでしょう。本法は手続の各場面でソーシャルワーカーの関与を想定しており、警察にとっても福祉機関との協働が不可欠になります。 検察官にも変化が及びます。起訴・不起訴の判断において、本法の転換措置の制度を念頭に置いた処理が必要となります。 すなわち、証拠が揃ったから直ちに起訴という従来の画一的対応ではなく、未成年者の立ち直り可能性や犯罪の性質を勘案して敢えて不起訴とし、適切な更生プログラムへ委ねるといった選択肢も考慮することになります。 これは検察官にとって新たな裁量判断事項となり、各地で運用基準の整備や教育が必要となるでしょう。 また、手続期間の短縮規定に対応して迅速な捜査・起訴処理が求められるため、捜査機関・検察はいわば少年事件を最優先で処理する体制を作る必要があります。実務上、証拠収集や起訴状作成のタイムラインを成人事件以上にタイトに管理しなければならず、組織として効率化策が検討されるでしょう。一方で、未成年事件の処理が迅速化すれば、長期化による証拠散逸や少年の更生遅延を防ぐ効果が期待され、捜査機関にとってもメリットとなり得ます。 裁判所にも本法施行によって運用面での準備が求められます。 まず、未成年者事件は成人事件と別個の審理手続となるため、裁判所は少年事件専門の部門や担当者を明確に指定する必要があります。すでにベトナムでは一部で「家庭・未成年法廷」のモデルが試行されていますが、本法のもとで全国的に少年事件を扱う専任裁判官や調査官の配置が進む可能性があります。裁判官・職員には児童心理や教育、更生プログラムに関する研修が施され、専門知識をもって審理に当たる体制が強化されるでしょう。 公判の進行方法も変化します。本法の理念に従い、裁判所は未成年者に配慮した親しみやすい法廷環境を整える義務を負います。 具体的には、従来フォーマルだった法廷での呼称・服装を柔軟にし、可能な限り非公開やビデオリンク出廷など少年の負担軽減策を講じることが考えられます。証言や被告人質問の際には専門家の助言を得て優しい言葉で語りかける、必要に応じて休憩を入れる、傍聴を制限する、といった運用が増えるでしょう。 判決においても、本法に基づき成人より軽い量刑が義務付けられているため、裁判官は量刑理由で未成年者の将来や更生環境について言及し、執行猶予や保護観察付き判決を積極的に活用すると思われます。これは量刑実務の大きな変化であり、裁判官は再犯防止と更生可能性のバランスをより慎重に判断することになります。 矯正当局(公安省刑執行機関)も、本法施行までに未成年受刑者の処遇改善を進める必要があります。 本法は少年受刑者の分離収容と教育的処遇を義務付けました。そのため、現行の刑務所システム内で未成年者専用の区域や施設を整備し、教育プログラムや職業訓練の実施、人員配置などハード・ソフト両面の準備が求められます。特に学校教育の継続や技能訓練の提供は重要で、教育省など他機関との連携も視野に入るでしょう。 また、家族との面会交流を促進し社会復帰を支える方策も強調されています。これにより、単に刑を執行するだけでなく、出所後を見据えた矯正が行われることになります。未成年受刑者の早期仮釈放や執行猶予付与も拡大する可能性があり(実際、本法の有利規定は既に適用開始)、恩赦制度の運用にも影響するでしょう。 本法は家庭や地域コミュニティにも一定の責任と役割を期待しています。 保護者や家族は少年の第一の教育者と位置付けられ、日頃からのしつけや見守りが再確認されました。仮に子が非行に走った場合でも、保護者は手続きを通じて子の更生に主体的に関与することが求められます。例えば、調べや裁判への付添いは法的義務となり、転換措置として課された家庭内監督や被害者への謝罪にも保護者の協力が欠かせません。 これにより、家庭は自らの責任として少年の更生を支える役割を果たすことになります。家庭環境が問題の一因であれば、当局は必要に応じて家庭訪問や福祉介入を行い、改善を促すでしょう。このように本法の運用を通じて、各家庭でのしつけや教育の重要性が改めて認識され、ひいては家庭環境の改善につながる政策的効果も期待されます。 地域社会や民間団体の関与も強調されています。婦人連合会や青年団などの社会団体は、本法上その構成員(婦人や青年)に対し少年の更生支援や非行防止の啓発を行う責務があります。例えば、地域のボランティア活動への参加やカウンセリング提供、被害者支援など、民間のリソースを活用した支援策が広がる可能性があります。また学校や地域の青少年団体が警察と協力して非行の早期発見・介入を行う仕組みも考えられます。 これはベトナム社会における「全社会で子どもを守り育てる」意識の醸成につながり、長期的には青少年犯罪の予防に寄与するでしょう。 総じて、未成年司法法2024の施行により、ベトナムの少年司法は制度面・運用面で大きく前進することになります。 司法関係者にとっては新たな法律知識と運用対応が求められますが、それによって未成年者の更生可能性が最大限引き出される制度が整う意義は大きいと言えます。家庭や社会も巻き込んだ包括的なアプローチにより、少年事件への向き合い方が改革されるでしょう。本法は日本の少年法制とも共通する理念を持ちつつベトナムの実情に即した独自制度を設けています。 ベトナムの日系企業関係者にとってはあまり身近に感じることは少ない法領域ではあると思いますが、本法の動向はベトナムでのコンプライアンスや社会貢献活動を考える上で参考になる部分もあるかと思います。少年の健全育成と犯罪防止は国境を超えた共通課題であり、ベトナムにおける本法の施行と運用の成果が注目されます。

ベトナム未成年司法法を解説|2026施行・少年事件の新制度

コラム
2025.05.05
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ベトナム労働法過去記事まとめ
ベトナム労働法に関する過去の記事を項目ごとに整理しまとめ直しました。 【コラム記事】についてはどなたでもご覧いただけますが、【Q&A記事】については会員の方のみ閲覧することができます。 ・2024.03.17 【Q&A記事】ベトナム労働法の重要点整理 ・2021.02.13 【Q&A記事】ベトナム新労働法(2021年)の細目を規定する新政令について(セクハラ、懲戒手続、試用期間)   *今後公開予定 ・2022.08.25 【コラム記事】労働契約の締結権者 ・2022.06.30 【コラム記事】労働変更状況の報告に関わる規定の補充 ・2021.05.17 【Q&A記事】労働契約の締結にあたって労働契約書の締結が必要か、労働契約において規定しなければならないことは何か *今後公開予定 ・2024.08.22 【コラム記事】有期労働契約の期間満了での終了について ・2024.08.22 【Q&A記事】有期労働契約の期間満了での終了の手続・支払うべき手当 ・2021.05.17 【Q&A記事】有期労働契約の法定期間と締結の際の注意点 ・2021.10.25 【Q&A記事】ベトナムでもパートタイム労働者を使用することは可能か ・2021.01.28 【Q&A記事】ベトナムにおけるパートタイム労働者について ・2021.05.14 【Q&A記事】試用期間の終了時にしなければならないこと、労働契約を締結しない場合にどうすべきか ・2021.05.14 【Q&A記事】試用期間中の契約をどうするか ・2021.05.14 【Q&A記事】試用期間まとめ ・2021.02.02 【Q&A記事】試用期間の内容 ・2017.09.11 【Q&A記事】試用期間中の退職手当の取り扱い ・2016.04.25 【Q&A記事】試用期間中の有給休暇 ・2023.05.08 【コラム記事】就業規則の登録手続 ・2021.11.15 【Q&A記事】ベトナムの就業規則について *今後公開予定。 ・2023.02.13 【Q&A記事】シフト制勤務について ・2023.01.04 【コラム記事】2022年の時間外労働時間の上限引き上げ措置終了について ・2022.10.25 【Q&A記事】ベトナム法令上の労働時間について ・2022.05.24 【コラム記事】残業時間の引き上げについて ・2021.06.26 【Q&A記事】労働時間に含む休憩時間の規定 ・2021.05.10 【Q&A記事】時間外労働について ・2023.01.11 【コラム記事】試用期間中の有給休暇について ・2021.05.10 【Q&A記事】慶弔休暇について ・2021.05.10 【Q&A記事】年次有給休暇について ・2021.05.10 【Q&A記事】ベトナムの法定休日について ・2024.07. 03 【コラム記事】2024年7月1日からの最低賃金の変更について ・2023.06.06  【Q&A記事】停電で工場が休業した場合の賃金 ・2023.05.16  【コラム記事】公務員の基礎賃金(最低賃金)の増額を定める2023施行の政令 ・2021.11.08 【Q&A記事】賞与に関する規制 ・2021.11.01 【Q&A記事】給与の天引きが可能か ・2021.11.01 【Q&A記事】労働者が休業する場合の給与 ・2016.08.25 【Q&A記事】最低賃金の基礎となる「賃金」とは ・2021.10.25 【Q&A記事】労働者の異動に法令上の制限があるか (1)自動終了事由 *今後公開予定 (2)労働者による一方的解除 *今後公開予定 (3)使用者による一方的解除 ・2021.11.08 【Q&A記事】無断欠勤する従業員の労働契約の解除 (4)整理解雇 ・2021.10.01 【Q&A記事】ベトナムで経済的理由や組織再編によるリストラ(整理解雇)は可能か (5)懲戒及び損害賠償 ・2023.05.04  【Q&A記事】従業員が会社に与えた損害賠償の手続 ・2021.11.15 【Q&A記事】懲戒処分の具体的な手続き ・2021.11.15 【Q&A記事】懲戒処分について概論 (6)会社側の手続きに関して ・2023.02.02  【コラム記事】労働者が退職時に行うべき会社側の手続き (7)定年 *今後公開予定 ・2025.02.04 【コラム記事】ベトナム社会保険の年金制度:外国人労働者の受給条件と一時給付金 ・2024.06.12 【コラム記事】日本人従業員のベトナム入国から労働契約締結までの法的手続の概要 ・2024.03.29  【Q&A記事】労働許可証(WP)未取得の罰則 ・2023.10.14  【コラム記事】2023年施行の政令の改正内容 ・2022.06.03 【Q&A記事】30日以内、3回以内の出張の場合の労働許可証の扱い ・2022.02.16 【コラム記事】外国人労働者の強制社会保険料の引き上げについて ・2021.11.15 【Q&A記事】外国人労働者の社会保険料の負担 ・2021.11.15 【Q&A記事】ベトナムで就労する外国人労働者の条件 ・2021.09.27 【コラム記事】労働許可証の取得要件 ・2016.10.03 【Q&A記事】現地法人代表者のワークパーミット取得の際、ERC上の代表者は修正済みである必要があるか ・2022.11.03 【Q&A記事】産休についてまとめ ・2022.11.04 【コラム記事】女性労働者・未成年労働者・高齢労働者の特別規定について ・2021.05.20 【Q&A記事】妊娠中、育児中の女性労働者の保護 ・2021.05.20 【Q&A記事】ベトナムの産休・育休制度 ・2022.07.20 【Q&A記事】労働者が2社以上で働く場合の基礎控除・扶養控除・社会保険の取り扱い ・2021.05.24 【Q&A記事】ベトナムにおける傷病手当制度 ・2021.05.24 【Q&A記事】ベトナムにおける労災制度 ・2021.04.09 【Q&A記事】ベトナムの傷病休暇と労働災害の概要 ・2021.11.08 【Q&A記事】健康診断を受けさせる義務について *今後公開予定 ・2025.04.23 【Q&A記事】雇用代行制度の位置づけ、法的問題点   ・2025.04.21 【コラム記事】2025年7月1日施行の新ベトナム労働組合法のポイント ・2021.11.08 【Q&A記事】社内に労働組合なくても労働組合費の支払いが必要か ・2021.01.06 【Q&A記事】ベトナムにおける「使用者」と、労働組合に加入が禁止される労働者 *今後公開予定 *今後公開予定   ・2019.10.01 【Q&A記事】労働関連で企業が作成しなければならない書類 *今後公開予定 *今後公開予定 *今後公開予定 ・2019.09.03 【Q&A記事】本店と支店の労務管理の相違 ・2023.01.31 【Q&A記事】職場での労働安全衛生教育について *今後公開予定 ・2020.12.08 【Q&A記事】ベトナムにおける兵役、兵役中の労働者の取り扱い ・2024.12.14 【Q&A記事】 ベトナムでのインターン受け入れ:労働契約かインターンシップ合意書か *今後公開予定

ベトナム労働法過去記事まとめ

コラム
2025.05.05
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ベトナム「データ法」解説|2025 年7月施行と企業対応
ベトナムでは、急速なデジタル化に対応するため、2024年11月に「データ法(Law No. 60/2024/QH15)」が国会で可決されました。本法は2025年7月1日に施行予定であり、デジタルデータに関わる広範な事項について初めて包括的に規律するものです。 本稿では、データ法の制定背景、内容、企業に与える影響、今後の見通しについて整理し、最後に日本企業が取るべき実務対応を提案します。 本法制定の背景には、ベトナム政府の「デジタル経済・社会」構想があります。国家の基本方針として、「データは資源であり、国家はあらゆる資源を動員してデータを資産に発展させる」ことが謳われており、国家の競争力を高めるために、データの収集、管理、利用を国家戦略の一環としました。 また、近年のサイバー脅威増加や個人情報漏洩問題を受け、安全保障・プライバシー保護とデジタル経済推進の両立が強く求められるようになっています。このため、データに関する包括的な法制度の整備が不可欠と判断され、データ法の制定に至りました。 本法は、国内外を問わず、ベトナム領域内でデータ関連活動を行うすべての組織・個人に適用されます。日本に拠点を置く企業であっても、ベトナムに関連するデータを収集・処理する場合は本法の規制を念頭に置く必要があります。 対象となるデジタルデータは、「物体、現象、出来事に関する情報で、デジタル形式で表現されたもの」と広範に定義されています。個人データ、業務データ、IoTデータなどあらゆる形式のデータが含まれます。 また、海外からベトナムへのデータの持ち込み(越境インバウンド)に関しては原則自由になっていますが、ベトナムから海外へのデータ移転等(越境アウトバウンド)に関しては条件が付されています。 なお、個人データの詳細な保護規定は、個人データ保護政令(Decree No. 13/2023/ND-CP)に委ねられており、本法はデータ全般に関する基本的な枠組みを提供するという位置づけになっています。 本法は、データを重要度に応じて次の三つに分類します。 重要データ(Important Data):国家の防衛・安全保障、外交、マクロ経済、社会の安定、国民の健康・安全に影響を及ぼし得るデータであり、首相が定めるリストに掲載されたもの。 コアデータ(Core Data):重要データのうち特にそれらに「直接的な影響を及ぼすデータ」で、同じく首相のリストに掲載されたもの。 その他のデータ:それ以外の一般的なデータ 企業は、自社が保有するデータを上記の3区分に分類し、それぞれに応じた管理措置を講じることが義務付けられます。コアデータおよび重要データについては、アクセス制限、暗号化、バックアップ体制など高度な保護策が求められます。特にコアデータについては最も厳重な管理義務が課せられます。 どのデータがコアデータまたは重要データに該当するかは、今後首相がリスト化し発表する予定であり、企業はこれを踏まえた対応が必要です。 データの越境移転について、本法は次のとおり規制します。 海外からベトナムへのデータ持ち込み(インバウンド移転):原則自由 ベトナムから海外へのデータ持ち出し(アウトバウンド移転):規制対象 特にコアデータや重要データを国外に移転する場合には、国家安全保障や公共利益を害さないことの保証が求められ、場合によっては事前届出・許可が必要になります。 クラウドサーバー等を利用して海外にベトナム関連データを保存している場合は、今後規制対象となるリスクがあり、ローカル保存対応などの検討が必要です。 データ法では、国家データセンター(National Data Center)の整備も規定されています。 国家データセンターは、政府各機関が保有するデータを集約し、安全かつ効率的に管理するための中枢インフラとして、国際基準を満たす設計・運営が求められます。政府は2025年以内(現計画では8月)にセンターを稼働させる計画です。 また、データ取引所(Data Exchange)の設立も本法で規定されています。データ流通市場を形成するためのものですが、運営は基本的に公的機関または国有企業に限定され、民間企業の参入は原則認められていません。 本法のもとでは、公安省(Ministry of Public Security/ Bộ Công an)がデータガバナンスの中心的な監督機関となります。国家全体で統一的にデータ管理を行う責任を負うとともに、企業から報告を受けたり、立入検査をしたり、制裁を実施する権限を担います。 また、情報通信省(Ministry of Information and Communications/Bộ Thông tin và Truyền thông)も、技術標準の策定やインフラ整備に関与します。国防省(Ministry of National Defence/Bộ Quốc phòng)も国防・暗号関連データについて関与します。 本法により、企業は次のような義務を負います。 データを3区分(コア・重要・その他)に分類する 分類に応じた管理措置の策定・運用をする 定期的なデータ処理リスクの評価・低減措置を実施する リスク事象発生の際に是正・報告をする データ主体からの削除請求等へ対応する 緊急時に当局からのデータ提供要請に協力する データ仲介・分析サービス提供時登録する 特に重要データ・コアデータに関しては、公安省へのリスク評価報告義務が課されるなど、厳格な運用が求められます。 データ法第4条では、本法と他の法令の適用関係が定められています。2025年7月1日の本法施行より前に公布された他の法律にデータの構築・管理・利用等に関する規定がある場合、それが本法の原則に反しない限り従前の法律の規定が優先して適用されると明記されています。 また、本法施行後に新たに制定される法律については、本法と異なる規定を設ける場合にどちらを適用除外とするかを明確に定めるよう求められています。この規定により、既存の個人データ保護政令13号や2018年サイバーセキュリティ法等の規定は原則維持され、本法がそれらを直接改廃するものではないことが確認されています。 データ法は個人データに固有の規定こそありませんが、重要データの越境移転規制(第23条)などは個人データ分野にも影響し得るため、将来的に両制度の調整・統合が図られる可能性があります。例えば大量の個人データが「重要データ」に該当すると位置付けられた場合、政令13号に基づく評価・報告義務と本法に基づく許可制等の双方が適用されることになり、企業の負担増も懸念されます。政府は本法と個人データ保護法制との整合性についても十分考慮するとみられますが、企業としては両方の規制動向を注視し、矛盾が生じた場合には専門家の助言を仰ぐことが重要です。 サイバーセキュリティ法制に関しても同様に注意が必要です。サイバーセキュリティ法制はデータ法と異なり、特定のサービス分野・データ種別にフォーカスした規制です。そのため、特定分野の企業についてはサイバーセキュリティ法に基づくデータの国内保管義務をまず遵守しつつ、その保管するデータが「重要データ」に当たる場合にはデータ法に基づく追加義務(リスク評価や移転制限等)も負う、といった多層的な規制となります データ法は基本法的な性格を持つため、多くの詳細規定が政令や通達に委ねられています。 現在、重要データリスト、越境移転手続、リスク報告様式、違反時制裁内容などに関する細則が準備中です。特に越境移転に関する制限や制裁規定については、厳格な内容となる可能性も指摘されています。 施行後も状況は流動的であり、企業としては最新の動向を注視する必要があります。 □自社保有データを「コア・重要・その他」に分類 □重要データ候補の洗い出しと優先管理体制の構築 □情報管理規程・委託契約・データ共有契約の見直し □海外保存データのローカライズ検討(国内保存体制構築) □緊急時対応マニュアル(当局提出対応手順等)の策定 □定期リスクアセスメント実施と公安省への報告体制整備 □データ主体からの削除・消去要求対応窓口の設置 □従業員向けデータ管理・法令遵守トレーニングの実施 □ベトナム政府から発表される重要データリスト等の継続ウォッチ □必要に応じて現地法律事務所・専門家と連携  

ベトナム「データ法」解説|2025 年7月施行と企業対応

コラム
2025.04.28
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ベトナム消防・救助法大改正:2025年7月施行の要点
ベトナム国会は2024年11月29日、第15期国会第8会期において「2024年消防および救助救難法」(法律番号55/2024/QH15)を可決しました​。この新法は、現行の2001年消防法(2001年6月29日付け法律第27/2001/QH10号。2013年改正法40/2013/QH13号および2023年改正法30/2023/QH15号を含む)を全面的に改廃するもので、2025年7月1日から施行される予定です。ただし、新法の一部規定については移行措置が設けられており、例えば消防情報を当局データベースへ自動通報する装置の設置義務等は2027年7月1日までの経過期間が認められています。以下、具体的に解説します。 1.背景 ・立法背景と目的 本法は近年相次いだ大規模火災・事故への対応と、現行法制の不備を是正する目的で制定されました。 従来の消防法(2001年法)は住宅や複合用途建物に対する詳細な防火基準が乏しく、また救助救難(CNCH)活動については政府の下位法令に委ねられ法律上明文化されていない状況でした。2013年憲法では人命救助等で個人の権利を制限する行為は法律の根拠を要すると定められており、救助活動の法制化が急務となっていました。 さらに、2019年11月の国会決議第99号により防火法制とその執行強化が求められ​、その後もカラオケ店火災(2022年ビンズオン省で33名死亡)や違法増改築「ミニ集合住宅」火災(2023年ハノイ市で56名死亡)といった痛ましい事故が社会問題化しました。こうした背景から、本法は防火規制の網羅性と実効性を高めるため、住宅系建物や電気設備の防火要件の明確化、救助活動の法的根拠整備、罰則強化、および行政手続の合理化を図っています​。本法の制定により、国家公安省(公安省)が消防・救助に関する統一的管理責任を負い(従来どおり)、地方自治体や関係各機関との役割分担も明確化されることとなりました。 ・関連法令 今後政府による政令(Nghị định)や公安省による通達(Thông tư)が制定・改正される見込みです。現時点(2025年4月)で、新法に対応した政省令は未施行ですが、既存の政令第136/2020/ND-CP号(旧消防法の細則)に対する改正として政令第50/2024/ND-CP号が2024年5月に公布され​、一部の防火設計審査手続等が修正されています。また、違反時の行政処分についても公安省が新法施行に合わせて大幅な罰金引上げ案を準備中で、例えば電気設備の不備に対する罰金額上限を現行の2~5倍に引き上げ、電気自動車の充電設備に防火策が無い場合に最大5千万ドン(約300万円)の罰金を科す新設規定案などが報じられています(※この罰則強化は草案段階であり、新政令として2025年7月の新法施行時に発効予定。 2.旧法との比較ポイント 2024年消防および救助救難法は全8章・55条からなり、消防(防火・消火)および救助救難に関する基本原則、禁止行為、予防措置、消火活動、救難活動、消防組織・機材、科学技術の活用、責任体制などを包括的に規定しています。以下、主要な改正ポイントと新規定について旧法との比較を中心に解説します。 以下の表に、本法が旧法(2001年消防法)から変更・追加した主なポイントをまとめます。 項目 旧法(2001年消防法) 新法(2024年消防・救助救難法) 適用範囲 火災の予防・消火に関する規定が中心。救助救難活動は法律上明記なし(政令で規定)​ 火災の予防・消火に加え、人命救助・救難活動も対象に追加し法典化(第IV章として明文化)​ 禁止行為 火災の故意的な誘発等を禁止(旧法第13条)。 新たな禁止行為を追加:消防隊員への妨害・侮辱、消防業務の悪用、虚偽の救難通報、消火・救助機材の作動妨害、消防設計審査結果の改ざんなど​ 住宅の防火安全 一般的な防火義務のみで、住宅を商業用途に供する場合の規定は不明確。 住宅および住居兼業用建物の防火要件を明確化: ・住宅は安全な電気設備や消火器具等を備えること等基本条件を規定​。 ・住宅+店舗等の兼用住宅は標識の設置や居住区と営業区画の防火区画措置を追加で義務付け​。 ・特にガスや可燃物を扱う営業を含む場合、火災警報器や換気設備、可燃性ガス漏洩検知器の設置および避難経路と営業区域の防火分離を要求​。 電気設備の安全管理 電気の使用に伴う防火について概括的規定のみ(旧法第24条)​ 具体的な安全義務を明記:個人・世帯が使用する電気設備は技術基準に適合したものであること、配線や機器を定期点検し不良品は速やかに交換すること等を明文化​。 消防・救助組織と権限 国家消防警察の任務や住民の協力義務等を規定。救助活動の指揮命令・資機材動員については詳細規定なし。 救助救難活動に関する詳細規定を新設:消防・救助隊の活動範囲、指揮者の権限、他機関や資機材の動員手続、救助計画の策定・訓練などを法律上に明記​。これにより救助活動の法的根拠と人権保障の両立を図る​。 特殊施設に対する規定 森林、防火地域(経済特区・工業団地等)、石油ガス類、超高層建築、地下街、市場・倉庫、港湾・駅など個別施設ごとに詳細規定が存在。 特殊類型毎の規定を削除:上記特殊施設に関する個別規定を撤廃​し、各分野で既に制定済みの技術基準(QCVN・TCVN等)による直接規制に委ねる​。これにより法律条文上は一般原則のみ定め、詳細要件は技術規範で管理。 科学技術の活用促進 (特段の規定なし) 科学技術・データ活用に関する新政策:消防・救助分野の研究開発や技術導入を奨励する基本方針を定め、当該活動に従事する組織・個人への優遇措置を講ずる旨を規定​。また消防・救助のデータベース構築も推進。 ※上記以外にも、消防設備の設置義務や防火管理体制に関する細部の変更がありますが、主要な改正点に絞って記載しています。また旧法由来の基本原則(例えば「防火・消火・救助は国と団体・世帯・個人の共同責任」等​)は新法でも継承されています。 3.条文の趣旨と重要ポイント 上記の改正点を踏まえ、本法の重要な条文の趣旨をさらに解説します。 ・禁止行為の追加(第14条) 新法第14条では、防火・消防・救助活動における禁止行為を列挙しており、旧法に無かったものとして「消防・救助任務中の公務員への侮辱・妨害」「消防・救助業務の権限乱用」「虚偽の救難要請」「消防・救助用車両や機材の通行・作動を妨げる行為」「消防設計の審査結果や検査結果の偽造」が明示的に禁止されました。違反すれば行政処分や刑事処罰の対象となる可能性があり、特に悪質な場合は刑法での処罰も検討されています(例えば故意に火災を発生させた場合などは従前どおり刑事責任を負います)。こうした禁止行為の明確化は、近年問題となった虚偽通報や検査不正への対処や、消防隊への妨害行為抑止を狙ったものです。 ・住宅および複合用途住宅の防火要件(第20~21条) 新法は住宅に関する防火規定を充実させています。まず一般の住宅について、第20条で「安全な電気設備の設置・使用」「消火設備(消火器など)の備え」「火気の適切な管理」等の基本的条件を定めました。次に、居住兼用で事業に供される建物(複合用途住宅)については、第21条で追加要件を課しています。具体的には「住宅部分と商業・生産部分を防火区画で明確に分離すること」「適切な防火標識(禁止標識・避難案内等)の設置」​に加え、扱う業種によっては「火災報知器・排煙設備・可燃性ガス漏れ検知器の設置」など業態に応じた安全措置を講じることを義務付けています​。 例えばガス器具を用いる飲食店やガソリン等の危険物を扱う店舗を住宅に併設する場合、住居部分との間に防火壁を設け、ガス漏れ警報機を取り付けることが必要となります。このように住宅火災による大量死傷事故(前述の2023年ハノイ市の案件など)への対策として、住宅と営業用途の区画分離と設備安全が法定化されました。 ・電気の安全な使用(第24条) 旧法では抽象的に触れられるに留まっていた電気設備の防火について、新法第24条では利用者の具体的責任が定められました​。居住者や事業者は、使用する配線・機器が国家の電気安全基準を満たすことを確保し、定期的な点検と不良箇所の修理・交換を行う義務があります​。また、トラッキング火災や過負荷による火災を防ぐため、ブレーカーやアースなど適切な保護装置の設置も求められています。新法により、電気が原因の火災(配線の劣化や違法改造コンセント等)防止策が強化され、違反時には前述のとおり高額な罰金が科される仕組みが導入される見通しです。 ・救助・救難活動の法定化(第37~43条等) 本法の大きな特徴の一つが、救助救難(レスキュー)活動に関する規定を章立てで盛り込んだことです。 第4章において、消防救難隊の救助活動の範囲(日常生活で発生する一般的事故・災害までカバー)​、救助活動時の指揮官の権限(現場での人員・物資動員や立入制限など)、他機関・一般人を動員できる条件、定期的な救難訓練の実施義務等が細かく規定されています。これにより、救助活動を行う消防隊員が法の明確な権限に基づき行動できるようになり、救助に協力する市民側も自らの権利義務を把握しやすくなります。 特に人命救助のために個人の権利(例:私有財産への立ち入り等)を一時的に制約する必要がある場合の根拠が法律上整備された意義は大きく、2013年憲法の要請に応える形となっています。なお新法では、能力があるのに救助活動に協力しない個人に対する罰則規定も導入予定(行政処分の草案段階)であり​、今後は「見て見ぬふり」の抑止も図られます。 ・特殊施設の規制手法変更 旧消防法で詳細に規定されていた特定分野(森林火災、ガス・石油の貯蔵取扱、高層建築、防火地域など)に関する条文は、新法では一旦削除されました​。これは、それぞれの分野について既に国家技術規範(Vietnamese Standards/Code – TCVNやQCVN)が整備されており、法律で個別に規定しなくても技術基準による直接規制が可能となったためです。 例えば建築物の防火設備については建設省の基準が、工場や危険物施設については産業安全基準が存在します。新法ではこれら技術基準に適合することを求める包括条項を置くことで、詳細は専門技術基準へ委ねています。そのため、実務上は各業界で適用される最新の基準(例えば消火設備設置基準: TCVN 3890:2023 等​)を遵守することが法律上の義務となります。特殊分野ごとの規定削除は法テキストを簡素化すると同時に、技術変化に柔軟に対応できる運用を可能にする狙いがあります。 ・科学技術の活用促進(第52条) 本法は、防火・救助分野における科学技術の研究開発・導入を積極的に支援する国家方針を掲げました。 第52条で、消防・救難に関する技術革新に取り組む企業や研究者に対する優遇措置(補助金や税制上の優遇など)の根拠を定め、また消防・救助に関するデータベースの構築と情報システム整備についても触れられています​。 これにより、IoT技術を活用した火災検知システムや、防火資材の開発、避難シミュレーションの高度化など、新技術の社会実装が促されることが期待されます。実際、先述の火災通報システムの中央データベース連動(2027年までに設置義務化)もこの一環であり、都市部の住宅密集地など消防車が入りにくい地域での早期探知・出動に役立てる計画です。 4.実務への影響・注意点 新法の施行により、企業や施設管理者に求められる防火・防災対策も強化されます。以下では、業種別に実務上の影響と留意点を解説します。 ・飲食業界への影響 飲食店、とりわけ住宅やテナントビルの一部を店舗として営業する形態(屋台・カフェ・バー・カラオケ店等)は、本法による防火基準強化の直接的な影響を受けます。新法第21条の規定により、店舗が住宅と併設されている場合には防火区画の設置と避難経路の明確化が義務付けられました​。 たとえば、店舗部分が1階、居住スペースが2階以上にあるような場合には、階段や通路を耐火構造で区切り、万一1階で火災が発生しても上階住人が避難できる構造にする必要があります。また店舗内には「禁煙」「火気厳禁」等の標識掲示や非常口誘導灯の設置が求められます。特にガスコンロやボンベを使用する飲食店では、ガス漏れ警報器や換気設備を設置し、ガスボンベ置場を居住スペースから防火壁で仕切ることが必要となります​。これらは従来技術基準レベルでの要求事項でしたが、新法により法律上の義務として明確化されたことで、遵守しない場合の罰則適用も厳格化される見込みです。 さらに、バーやクラブ、カラオケ施設など夜間営業の娯楽施設については、過去の火災事故を踏まえ当局が一層厳しい監督姿勢を示しています。非常口の確保、定員超過の禁止、難燃内装材の使用などは当然ながら、消防当局による抜き打ち検査も増えると予想されます。飲食業界では、従業員への消防訓練(初期消火や避難誘導)も含めた包括的な防火管理体制を再点検する必要があります。特にガス・油を扱う厨房火災への備えとして、適切な消火器やキッチン用消火システムの設置、ブレーカー落としやガス遮断の手順整備などを徹底すべきです。新法の理念でもある「防火は家庭と事業者全ての責任」の下​、飲食店オーナーは自店のみならず周囲への火災波及も防ぐ社会的責任を負うことを自覚することが肝要です。 ・不動産業界(ホテル・商業施設・住宅)への影響 ホテルや商業施設、マンションなど不動産業界に属する建築物にも、新法はさまざまな影響を与えます。 まずホテル・商業施設については、不特定多数が利用する大規模建物であるため従来から厳格な消防基準が適用されていますが、新法により防火設計審査や完工検査がより一貫した法的枠組みで運用されることになります。 例えば、新法施行に伴う政令で防火設計審査手続が簡素化・電子化される見通しがあり​、適法な設計・施工を証明するプロセスが明確化されるでしょう。一方で、竣工後の定期検査・査察はこれまで以上に強化され、スプリンクラーや非常電源の維持管理状況、不燃ごみ置場の防火措置など細部にわたりチェックが入ると考えられます。違反が見つかれば是正命令だけでなく高額な罰金(法人は最大10億ドン=約600万円)​や営業停止処分もあり得るため、施設管理者は法令遵守に万全を期す必要があります。 住宅不動産の分野では、デベロッパーや管理組合に対し居住者の安全確保を徹底する責務が生じます。 高層マンション等では既に法令で非常用設備の設置義務がありますが、新法のもと中央消防データベースへの火災警報自動通報システムの導入が順次進められる可能性があります​。これは、建物の火災感知器やスプリンクラーが作動した際に消防当局へ即時に通報される仕組みで、火災発生から出動までの時間短縮につながるものです。特にホーチミン市やハノイ市など大都市の密集住宅地区で優先的に導入が図られると報じられており​、該当地域のマンション開発業者・オーナーは設備更新計画に織り込む必要があります。 また、新法により各戸の電気設備管理も強調されているため、マンション管理側は居住者に対し定期的な配線点検やエアコン等の適切なメンテナンスを啓発することが望まれます。万一居住者が故意または重大な過失で電気火災を起こした場合でも、管理者として予防策を講じていなければ連帯責任を問われるリスクも考えられます(保険会社からの求償など)。加えて、本法施行後は火災事故に対する損害保険加入の重要性も増すでしょう。法令上は強制保険制度はありませんが、防火基準を満たすことが保険契約上も有利に働くため、デベロッパーは建物の安全投資とリスク移転をセットで検討すべきです。 ・工場・建設業界への影響 製造業の工場および建設プロジェクトにも、新法は直接・間接の影響を及ぼします。 まず工場等の生産拠点は、旧法下でも消防当局による設計審査・検査・許可が必要でしたが、新法で特殊分野の条文が削除されたことにより、今後は最新の消防技術基準に適合することが求められます。例えば2023年改訂の国家標準TCVN 3890(建築物の消火設備配置基準)やTCVN 5738(自動火災報知システム基準)等が順守されていれば、新法にも適合しているとみなされる形です。ただし注意すべきは、技術基準の改定動向に常に目を配る必要がある点です。法律そのものに細目が書かれていない分、基準改定によって要求水準が引き上げられる可能性があります。工場の環境・安全担当者や建設会社の設計者は、消防当局や専門機関から最新情報を収集し、自社設備をアップデートしていく体制を整えましょう。 建設業界にとっては、建築許可・設計段階での消防確認手続に変更が生じる可能性があります。現在でも一定規模以上の建築物は公安省消防局による設計図面の消防審査(「消防設計検査証明書」の取得)が必須ですが、新法対応の政令でこのプロセスが見直される予定です。行政手続の簡素化が謳われており​、建築許可申請と消防同時審査のワンストップ化や電子申請の導入などが検討されています。 同時に、責任の明確化も進むとみられ、設計者・施工者は自身の提出資料に虚偽や重大な欠陥が無いことを誓約させられる仕組みになるかもしれません。仮に消防審査を通さず着工したり不適切な材料を使った場合は、発覚時に厳罰(工事停止や罰金)を招くだけでなく、刑事責任(例えば職務上過失による火災事故として)に発展するリスクもあります。 工場運営においても、新法は事業者の自主防災体制を強調しています。 一定規模以上の工場では自衛消防隊の設置や定期的な避難訓練の実施が求められ(旧法からの継続規定)、有事の際には近隣企業や地元消防隊との連携計画も策定しておく必要があります。新法では、必要に応じて事業者の人員・機材を公的救助活動に動員できる旨も規定されているため、地域社会の一員として協力体制を築いておくことが重要です。例えば大規模災害時に企業の重機や貯水槽を消防当局が利用できるよう協定を結ぶなどの取り組みが推奨されます。 最後に、工場・建設分野で近年注目すべきは電気自動車(EV)やリチウム電池に関わる防火対策です。 新法自体は個別言及していませんが、関連する罰則政令の草案で「屋内のEV充電施設に防火策を講じない行為」に対する罰金が新設されました​。これはEVバスやフォークリフト等を導入する工場や、機械設備にリチウム電池を用いる現場にも当てはまるリスクです。充電エリアの消火設備(自動消火装置や煙感知器の増設など)や、火災時に有毒ガスを排出するための換気計画をあらかじめ講じておく必要があります。建設業者も、駐車場や倉庫におけるEV対応設備の設計を今後は消防基準に織り込むことが求められるでしょう。 まとめ 2024年消防および救助救難法は、ベトナムにおける防火・防災法制の大幅な強化・拡充策として位置付けられます。本法の施行により、住宅から高層ビル、工場まであらゆる建物・活動に統一的な消防・救助ルールが適用され、従来グレーゾーンだった救助活動も明確な法的根拠を得ることになります。業界関係者にとっては、新法の趣旨を正しく理解し、関連する政令・通達など細則の整備状況にも注視することが重要です。 施行日である2025年7月1日まで残りわずかとなっており、それまでに各企業・施設は自主点検や必要な設備投資、社員教育を実施して備える必要があります。特に本法で新たに導入された要件(住宅兼業物件の区画措置や電気設備管理の強化、火災通報システムの導入計画など)は、自社に該当するかを早急に洗い出し、移行期間中に計画的に対応することが求められます​。実務上は下位法令の状況や実務運用次第で大きく変わる可能性もあり、アンテナを張りつつ必要な対応をできるように検討していくことが必要となるでしょう。 なお、移行期間については経過措置が定められていますので、以下の付録をご確認ください。 【付録】移行期間(経過措置)について 区分 内容 根拠 ① 火災自動通報装置の中央DB接続 住宅・高層ビル等に設置を義務付けられた自動通報装置は 2027 年 7 月 1 日まで に整備完了すれば可。 第54条4項 ② 申請中の手続(設計審査・検査等) 施行日前までに受理済みの消防関係手続は、旧消防法(27/2001/QH10)の規定で継続処理。 第55条1項 ③ 設計審査済み・未竣工プロジェクト 既に消防設計審査(thẩm duyệt)証明を取得済みで、竣工検査前の案件は 旧法の基準 で完了可能。 第55条2項 ④ 既発行の消防訓練資格証 施行日前に発行された証は、記載の有効期限まで引続き有効。 第55条3項 ⑤ 機材の検定機関 既存の検定機関は、政府が別途定める期限まで現行業務を継続可。 第55条4項 ⑥ 旧法以前に供用開始し、かつ基準未達の施設(2類型) (a) 既に省人民評議会が是正計画を決議済みの施設は、その決議に従い対策を完了。(b) 技術基準上どうしても是正困難な施設は、  • 省人民委員会がリスト化・公表し是正指針を策定  • 建設主管省+公安省が技術的代替措置をガイドライン化  • 事業者は代替措置を選択・実施、又は用途転換  • 具体的スケジュールは政府政令で別途設定予定 第55条5〜6項 ⑦ 既に停止処分中の施設等 停止・休業措置が施行日前に発令済みの場合、その処分手続は旧法で継続。 第55条7項

ベトナム消防・救助法大改正:2025年7月施行の要点

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